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意識と自我の儚い形状

●発生
 背筋に悪寒が走る。そういった感覚には何度も覚えがあったが、今回のそれはもっと重大で、決定的で。言ってしまえば『致命的』なものだというのは直感で分かった。
「おい、浩介!? それ……!」
 後頭部から首筋を伝うそれは、あっという間に背中を、肩を冒し、そして肺へと染み渡っていく。
 返事の代わりに咳が出た。
 こほん、と軽く一回。それだけで、目の前の仲間の顔が緑に染まった。

●緑色の海
「某市の森林地帯にてエリューションの発生を確認しました」
 オペレーターらしく飽くまで事務的に、天原和泉(nBNE000024)が配布された資料を指し示す。書かれている場所は、日本でも有数の高さを持つ山の麓に当たる。森林地帯というよりは樹海といった方が近い所だ。
「カレイドスコープから得られた情報から総合して、対象は苔か黴、またはそれに類するものがエリューション化し、寄生能力をもったものであると考えられます」
 現場には野生の動物が、そして登山のために訪れていた人間がエリューションに寄生され、倒れているという。速やかに現場に向かう必要があるが、どうにも場所が悪い。
「樹海付近までは移送できますが、その後はあなた方の足で直接踏み込んでもらわなくてはなりません」
 場所が分かっているとはいえ、辿りつくのには相当時間を費やす覚悟が居るだろう。そして、時間がかかれば……
「対象のフェーズ2への移行も十分にあり得るでしょう。細心の注意を以って望んでください」

●紫色の自意識
 茫洋とした意識の中で、漏れたため息の跡を目で追いかける。その先では剥き出しだった岩肌が、一瞬で緑の苔に包まれた。先程の登山仲間と同じように、だ。
 介抱しても、泣いて謝っても、彼はより濃い緑に染まっただけだった。何故と問うても答えてくれるものは誰も居ない。何故こうなったのかは分からない。分からないが、自分の吐息に原因があるのはその内理解できた。
 ならば、このままここで朽ちていこうと思った。誰にも迷惑のかからない、ここで。
「!」
 人の気配がしたのは、そう考えた矢先だった。咄嗟に先程の登山仲間の顔を思い出す。あれを、また繰り返してはいけない。
 不自由になりつつある体を必死で動かし、胸ポケットのタバコを咥え、火をつけた。
 燻らされた紫煙とともに、吐息に薄く色が付く。
 何とかしなくてはいけない。何とかしなくては。

●現場で分かる事
・エリューション
 苔が革醒し、寄生植物ないしは冬虫夏草のような特性を得たもの。行動原理は至って単純であり、自らの種を増やし、存続し繁栄するためだけに動いています。宿主からの養分吸収も合わせ、種子から成体まで一瞬で成長します。動物への寄生に特化しており、表面を覆うことで宿主から体の支配権を奪い取る事も可能なようです。

 フェーズ1では上の性能+革醒に至らない『寄生する苔』の胞子を撒き散らす能力。
 フェーズ2になっても主な性能に変化はありませんが、それまで増やしてきた苔、そして胞子から生える苔が全てフェーズ1に繰り上がり、寄生された動物が苔のために動くようになります。

・胞子
 視認できるサイズではありません。宿主の体内で作られているようで、吐息等に混じって外に出ます。リベリスタなら浩介や一般人被害者のような状況にまではなりませんが、体を苔に覆われると、その箇所の自由が利かなくなっていく、と考えてください。
 成長の過程で生命力を吸収します。が、そのため小動物などを宿主とする場合、枯死させてしまい自滅する場合も。

・柴・浩介
 不幸にも革醒直後の苔に寄生された青年です。体の後ろ半分が苔に覆われているように見えますが、実際は体内まで汚染が進んでいます。慎重に生かされているらしく、体の自由も意識もかろうじて残されています。
 残り少ないタバコで吐息に色をつけ、警戒を促していますが……

・敵
 目標地点に柴・浩介が居り、彼の周りと道中に、浩介から広がった苔と被害者が転がっています。浩介のエリューションがフェーズ2に上がると同時に、被害者達は苔に操られて立ち上がります。
 今は人間2と野犬2といったところですが、数と種類は時間と共に増えていくでしょう。鳥とか鹿とか熊とか。
 攻撃方法は基本的に宿主に準拠。体内の胞子も武器代わりに使ってくるかも知れません。生命力は寄生の元より高くなっています。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ハニィ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年08月17日(水)22:31
 副流煙まじうざい。

 とかそういう話ではございませんよ。
 今回は森林散策してエリューションを殲滅、という流れです。目標地点は分かっているので道中迷わなければ……ですかね。
 成功条件はOPでフェーズ1、フェーズ2と扱われている『生きた』寄生苔の殲滅です。生命力特化で、戦闘能力方向には進化していないので『強敵』とはならないと思います。多分。生物に寄生しないと増えないようなので、それ以外は放っておいても勝手に枯れるでしょう。
 件の柴君とは一応話が通じます。ですが彼が喋ると胞子が飛びます。フェーズ2の苔に生かされているためそう簡単には死にませんが……
 彼の扱いは皆さんに一任します。

 それでは、ご参加お待ちしています。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
来栖・小夜香(BNE000038)

雪白 万葉(BNE000195)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
マグメイガス
イーゼリット・イシュター(BNE001996)
ソードミラージュ
山田・珍粘(BNE002078)
ソードミラージュ
ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)
ソードミラージュ
神嗚・九狼(BNE002667)
ナイトクリーク
鬼哭・真心(BNE002696)

●緑の海へ
 菌類で言うなら冬虫夏草やセミタケ等、別の生き物に寄生するものは確かに存在する。それらは土中で過ごす虫に根付き、養分を吸ってその身を成長させていくのだ。
 虫の意識など想像する事も難しいが、動けぬまま、足掻けぬままにその身を糧とされるのはいったいどのような心持ちだろうか。土中で成長を待つ虫は、ただ眠っているだけかもしれない。だが目覚めていれば、何か感じるのでは? それは恐怖か、苦痛か、諦観か。
 リベリスタ達が最初に見つけた被害者は、虫の中では少々大きめな甲虫の一種だった。木々の合間を縫って飛んできたそれは、彼らの前で力尽き、地面に落ちる。甲虫の一種としか称せない理由は一目瞭然、その身は緑の苔で完全に覆われており、もはや判別不可能な状態にあったためだ。
「哀れね」
 力無く横たわったそれを見下ろし、『敬虔なる学徒』イーゼリット・イシュター(BNE001996)が誰にとも呟き、付近の木に目印を残す。。所詮は虫けら、と言ってしまえばその通りだが……その向こう、これから向かう先には寄生された動物が、そして人間が居る。それらが同じ末路を辿る絵を想像すれば、そう。「言葉も無い」といったところか。
「食べられちゃったみたいだね」
 濃い緑の塊を興味深げに見遣り、『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)がそう評する。養分から命までを吸い尽くし、その緑は繁っているのだ。
「フン……」
 不機嫌そうに鼻を鳴らし、『機鋼剣士』神嗚・九狼(BNE002667)が苔に覆われた死体を二つに割る。この先が思い遣られるが、こんなものに遭遇するという事は、方角は間違っていないのだろう。
 雪白 万葉(BNE000195)が前方に走り、上空を先行していた来栖・小夜香(BNE000038)、『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の二人にその旨を伝える。
「間に合うといいけど……」
 再度木々の上へと飛び上がり、小夜香が磁石を元に目的の方角に目を向ける。目標地点が定まれば、少しだけ上からの見え方も変わる。
 目指す場所の緑が、小夜香とユーヌには一層際立って見えた。

●深海
 緑の絨毯という言葉があるが、領域に踏み入ったその一歩は、普通の地面とはまた違う感触を残す。
「……おやおや」
 足元の苔の塊が石ではなく、逃げ遅れた野犬のうずくまったものだと悟り、『残念な』山田・珍粘(BNE002078)が持参したカーナビから目を離す。ここまでの道行きで役立ってくれたそれを仕舞い、代わりに取り出したのはナイフだった。
「お待ちください、やま……いえ、那由他様」
 おもむろに振り下ろされそうになったそれを、『鬼泣かせ』鬼哭・真心(BNE002696)が一旦留める。
「血の臭いで寄ってくる獣もいるのでは?」
「ああ、そうかも知れませんねぇ……でも、起き上がって邪魔に入られたら困ってしまいますし」
 浅い呼吸に上下する野犬の背を見下ろしつつ、二人は互いに言葉を交わす。これから始まる状況に、紛れ込む異分子を排除したいのは二人とも同様なのだが。
「おい、お前達」
 そんなやり取りを遮り、九狼が視線を奥へと促す。
 目に飛び込んできたそれは予測された光景。しかし狂ったように重ね塗りされた緑と、その中に沈む人間の姿は酷く現実離れしている。
 そして、その異常事態の只中に、生存者が一人。煙草を咥えた彼は、リベリスタ達に視線を合わせ――
「……来ないでくれ」
 力無く、首を横に振った。

 近付かないようにと警句を飛ばした後、生存者の男がゆっくりと煙草の煙を吐き出す。そして「何故か」と問われる前に、彼はその煙を指差した。ゆらゆらと拡散していく紫煙は、一帯の緑に少しだけ別の色を加えた……ように見えたが、しかし。煙の先に見えていた岩肌が、それに触れると同時に緑に染まる。
「その苔を処理しに来ました」
 那由他が目的を簡潔に告げ、倒れ伏した別の人間に歩み寄る。苔塗れという悲惨な状態だが、息はしている。
「いつからだ? それと原因に心当たりはないか?」
 距離を保ったまま九狼が尋ねるが、男は首を横に振るばかり。汚染源、そして汚染範囲は後で自分で調べるしかないようだ。
「放っといて」
「そうはいかない」
 言葉少なな男の頼みをユーヌが遮る。ここならば他の人間に迷惑はかからないと、男はそう言いたいのだろう。しかしエリューションを放置すれば成長し、増殖し、待っているのはフォールダウンだ。その仕組みを知るリベリスタとしては見過ごせない。
 それでもなお、彼は首を横に振る。ごほりと一つ鳴った喉に、男は忌々しそうに表情を歪めた。
 吐き出された煙はゆらゆらと漂い、曖昧な境界線を形作る。それを、真心はあっさりと踏み越えた。
「これでわたくし達運命共同体ですわね」
「どうして……!」
 男の呻きに、少し離れた位置でユーヌが言う。
「生きようが死のうがどうでも良いが、救えるのなら吝かでもない」
「……ルカは、最近はどうでもいいとは思わなくなったよ」
 そして続くルカルカは、ユーヌの横を抜けて薄煙の中へと踏み入った。
「ね、あなた、助かりたいよね? 助かりたいなら、ルカ、たすけてあげる」
 少し前の彼女なら、そんな言葉は出なかったろう。それは周りの影響と、彼女に生じた小さな変化といえるだろう。
「死ぬ程の罪を犯したのですか? それは御自分の意志で?
 貴方だって巻き込まれただけでしょう。わたくしが許します。素直に足掻きなさい」
 重ねて告げる真心の言葉は、事の理不尽さを噛み締め、諦めかけていた男の心に一筋の光をもたらした。
 だが助かるための、その方法は……。
「これから宿主である貴方の身体を痛めつけ、苔を別の宿主に移します」

●凄惨なる救出劇
「ひょっとしたら助かるかもしれませんよ、気をしっかり持ってください」
 未だ言葉の意味が呑み込めていない男を尻目に、那由他と九狼は他の被害者にロープをかけていく。苔塗れで意識を失った人間をロープで縛ろうとする彼等は、普通の人間から見れば奇異以外の何者でもなかったろう。
 だが結果的に彼らの見立ては正しかった。縛られたままに、意識の無いはずの人間がびくりと跳ねる。苔の表面が蠢き、大きく口を『開けさせられた』人間が肺の中の空気を思い切り吐き出した。
「くっ!?」
 呼気と共に広がる胞子の塊から、九狼は両手で自らを庇う。太い腕が一気に苔に蝕まれ、根付いたそれが自由を奪う。
「伸二……」
 男は、胞子を吐き出し地面をのたうつ友人を見て呆然と呟く。『フェーズの移行』などと言った所で彼には理解できないだろうが、状況の悪化だけは否が応でも伝わる。
 ユーヌが結界を張り、小夜香とイーゼリットが身体に魔力を巡らせる。各々が戦闘準備に入る中で、真心が問う。
「時間がありません。良いですか?」
 それに対し、男は悲壮な表情で頷いてみせた。
 最初の一撃は、驚異的な速度で迫ったルカルカのナイフだった。「助けてあげる」とまで言ったのだ、殺さない手加減は当然必要。その上でぎりぎりまで痛めつけるという見極めをしなくてはならない。
「あ、が、ぁ……っ!?」
 だが死なないにしても、普通人間はナイフで切り刻まれる経験など、ない。男が言葉にならない悲鳴を漏らす。痛みから飛び退くように動いたのは、本人の意思か、それとも苔の生存本能だろうか。続いて那由他が体表をなぞる様に刃を滑らせるが、今度は緑の断面が覗くのみ。
「ごめんなさい、少し痛いかもしれません」
 物理的に切り離すのは難しいと見て取った小夜香が神気閃光を放ち、一帯を眩い光が走りぬける。
 上がった悲鳴は、深く根付いた苔と共に体表を灼かれた男のもの。そして、他の苔に操られる被害者達も、苦痛らしきものに身体を震わせていた。
「ぐあ、あ、ああ……」
 苦痛に苛まれながら、男はそれでも取り落とした煙草を咥えなおす。煙が傷口に吹きかけられ、生じた緑が赤を覆った。彼の意識と、エリューションの本能、それは丁度彼の中で拮抗しているようだ。

 万葉の一撃に続いてイーゼリットが四属性の魔光を放ち、男を操る苔を焼く。エリューションに操られているとは言え、そこに居るのは被害者である一般人。抵抗する者を攻撃するのは自然だが、そこに手加減を交えなくてはならない。
 事のちぐはぐさは攻撃する者をも苛んでいた。そもそもイーゼリットには、こうなってしまった人間を生きたまま救えるとはどうしても思えず……
「凄惨なもんだな」
 意識すらない別の人間を相手取っていた九狼の言葉に、イーゼリットは極自然に頷いていた。数度目になる血飛沫を、斬られている当の本人が怯えた目で見つめている。普通なら叫びまわって逃げ出していてもおかしくないが、彼がそれをしないのは感覚が鈍っているか、身体的に普通ではなくなっているかのどちらかだろう。
 そのどちらだとしても、それは寄生したエリュ-ションによるものではないだろうか。
「でも、みんなは希望を持っているから」
「そうか」
 目を背けるようにして向き直った先では、両手両足を縛られて芋虫のように蠢く苔人間と、野犬だったものが合流していた。
「犬? ……そっちは処理できてなかったか」
 イーゼリットのフレアバーストが一団を包むのを確認し、九狼と万葉はそちらの相手に向かった。

「彼の者より苦痛を取り除き給え」
 小夜香の天使の息が癒すのは、リベリスタではなくエリューションの宿主となっている男の方だ。深すぎる傷と苦痛を和らげ、一時の安息を彼に与える。言い方を変えれば『生かさず殺さず』。だがそれもこれも、ひいては彼のためなのだ。
 涙と唾液、そして自らの血と苔の断片で汚れた顔からは、表情は上手く読み取れない。半ば極限状態に陥った彼はついに煙草を取り落とし、迫っていたルカルカに肺から息を搾り出す。
「あらあら」
 一気に苔むした彼女の上着を方向転換した那由他が両断し、ルカルカがそれを脱ぎ捨てる。
「ごほっ……っ、ごほっがはっ」
 男はさらに深く咳き込み、多量の胞子を撒き散らす。
「これで動きが止まるか?」
 近くの全てを緑色に染めていく男に、ユーヌの刻んだ呪印が絡んだ。苔によって振るわれていた腕が縛り付けられるように止まる。
「助けるって約束」
 これを好機と見たルカルカは、苔に纏わりつかれながらも近接し、ナイフではなく拳を男の鳩尾へと叩き込んだ。
 そして隠れた何か、溜め込まれた何かが唯一の出口である口から出る直前に、真心が唇でそれを塞いだ。

 雰囲気も何もあったものではない、そんな口付け。

●零
 「おいで」と誘った真心に応えるように、何かが彼女の口へと流れ込む。それは新たな宿主の身体に速やかに根を張り、驚異的な早さで成長していく。味覚、嗅覚、触覚に訴えかける爆発的な情報量に、眩暈を覚えて彼女がよろめく。それでも口を開けなかったのは彼女の意地という奴だろう。
 一方、「信じられない」という表情を浮かべていた男は、呪印の戒めから解かれてその場に膝を付いた。膝では足りず両腕も付き、何とか上体を支えて真心を見上げる。
 何が起きたのかを理解したのだろう、無茶をした人間を咎め、心配するように彼は表情を歪める。
「――」
 だが言うべき礼の言葉ではなく、喉を付いて出たのは「ごふ」という意味を持たない音。
 吐息の落ちた地面に、水溜りのように緑が広がる。
「……そんな」
 誰ともなく呟きが漏れる。手で口を塞いだままの真心の反応からして、苔が彼女の中に居るのは明らかだ。
 沈む船からネズミが逃げ出すように、エリューションも危機を感じて逃げようとするはず。だが、ネズミならぬ苔に足は無い。ただできる事として多量の、そして濃厚な胞子を放っただけだった。
 希望を見出し、覚悟を決め、身体と命を張った救出行。だがここにあるのは『株分け』にすら届かなかったという非情な現実のみ。

 沈黙は、長くは続かなかった。
「……ごめんなさい。あなたを、殺します」
 膝を突いたままの男に、小夜香が重い口を開く。苦しむ真心をルカルカと那由他が支えて下がった今、二人の……もとい、リベリスタと男の間の距離は数メートルに広がっていた。煙草の煙はなくなったが、境界線はそこにある。
「……!」
 男は口を僅かに動かしていたが、それが形になる前に、状況を悟って空を仰ぐ。上には鬱蒼とした緑の葉と、その合間から覗く青い空がある。だが男は、そんなもの一つも見えてはいなかった。そこにあるのは苦痛と、苦痛と、苦痛と、苦痛。そしてそれを越えた果ての絶望のみ。
「言い残した事、誰かに伝えたい事はありますか?」
 力無い笑み以外に、彼からの返答はない。意識は既に手放したのか、彼の身体が操られた人形のように起き上がる。
 残りの『敵』を仕留め、戻ってきた万葉が小夜香の肩に手を置く。首を横に振る九狼と、イーゼリットが彼の後ろから合流し、各々に武器を握りなおす。
「早く、楽にしてあげましょう」
「怨め、私を盛大に怨んで逝け」
 殺す理由を並べる暇も、もうないだろう。ユーヌは最後にそう告げて、今度は仕留めるために彼の身体を拘束する。
「なぁ」
 迫りくる刃と魔力を前に、男は最後の意志でルカルカと目を合わせる。理不尽、不条理。彼女の好むそんな言葉が、今は口から出なかった。
「どうして、『助ける』なんて――」

 ほんの一瞬、もう何者にも悩まされない『最後の一服』を吐き出し、彼の意識は胴体とともに吹き飛んだ。

「さて、後は真心さんだけですね」
 苔の拡散が止まった事を確認し、那由他がおもむろに視線を送る。刀身についた苔と、それを包む血を払った九狼も、うずくまった真心の元へと近付いた。
「覚悟はできているな?」
 気糸を操作し、攻撃するのは多数のリベリスタが可能だろう。だが『自分の体内』に向かってそんな真似をした者は果たして何人居るだろうか。苔達が広がるのを極力防ぎつつ、真心は仲間達に頷いて見せた。
「掻っ捌いた所を焼きます。まぁ、彼等と違って死にはしないでしょう」
 フェーズ2およびフェース1、そうなったエリューションの討伐と、命懸けで行った賭博。その二つはここで終わる。
 ああ、と皮肉気に笑う真心の前で、血飛沫が舞った。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 神様は居るかもしれない。でもそれは、きっと誰の味方でもないのでしょう。
 もがきも足掻きも大好きですが、報われるかはまた別の話です。

 それはそれとして、大変お待たせいたしました。