●究極(のカレー)望まば 天下に春風ふく。 空は、真っ青につきぬけて蒼穹を描いている。 雲も、雲の滲みもひとつも無い、富士山のふもとのキャンプ場である。 「賢者の石カレーです!」 三尋木派フィクサード、『地獄カレー』横須賀 麗華がカレーをぐつぐつ煮る。 『華麗なるみっひろきぃ』と可愛らしく書かれたエプロン姿で、脇には銀色トレーに乗っかった物体Xこと、賢者の石が鎮座している。 「食えば良いってものでもないでしょうに……」 パンツスーツ姿の女が頭痛が痛いと額に手をやる。三尋木派カレー食べたい会のリーダーである。 「美味しいなら何でも良い」 同会員メンバーの、ナイトクリークを生業とする女が、地べたに体育座りで飯盒をじっと眺めている。 「あ、ちょっと依頼人に電話するわ」 カレー好きリーダーがここで電話にする。 「ナナイよ。行った瞬間に賢者の石が目の前に現れたんだけど、何? 凄腕のフォーチュナでも居るわけ? え? 今すぐ離れろ? どうし――」 たんぽぽの綿が飛ぶ長閑の中を、突如ガチャガチャ、ガチャガチャと向こう側から甲冑の集団が走ってくる。 異変を察知したリーダーが、すぐに携帯電話を切って、オートマチックピストルを抜き発砲する。弾丸は虚しい音を立てて甲冑に弾かれる。 飯盒体育座女も、両手にナイフを握る。 カレー職人はカレーの付着したお玉を構える。茶色い液が草に散る。もったいない。 「何者ですか。さては私の賢者の石カレーを奪いに来たのですか」 「麗華! 京子! 賢者の石を回収して逃げるわよ! あれ、相当ヤバイ」 たちまち銀のトレイ向かって、大きな鴉が飛翔する。 三尋木派が放ったものではない。甲冑達の後方から放たれたものが、真っ直ぐに賢者の石へと向かう。 「させん」 飯盒体育座女が、ナイフを投擲する。賢者の石が跳ね上がり、麗華がこれをお玉でキャッチする。賢者の石がカレーまみれになる。 「私はこれで究極のカレーを作るんです。究極望まば。絶対渡しませんよ」 三尋木の三人は整理されていない木々の間へと走って行った。 三人の後ろ姿を見送る様に、古風なセーラー服姿の少女が一人。 「23、24、25。エリューションだけでなくて、対人もやっておきたいものですね」 ひたぶるに目を瞑りながら呟くと、その肩に大きな鴉が戻ってくる。鴉は符へと回帰する。 片目を開く。眼球の無い、黒い眼窩で向こう側を見る。顔立ちは日本人ながらも、真っ白い肌と髪。左腕と左脚が球体関節と、一種異様であった。 「セバスティアン、脚狙うだけでいいですよ」 少女の声に、傍らに在った矢傷だらけの甲冑が頷く。 甲冑は、自らに刺さった矢の一本を引き抜き、得物の弓に番える。たちまち、矢は風を斬る音と共にその場から見えなくなる。 「直接戦いますから」 矢に続いて、少女と他の甲冑達も森の中へと踏み入って行く。 ●賢者の石カレー 「ペリーシュ・ナイトを撃退する」 アークのブリーフィングルーム。『参考人』粋狂堂 デス子(nBNE000240)は、端末を操作した後に資料を配った。 ペリーシュ・ナイトという存在は、バロックナイツ第一位『黒い太陽』が放った、自立型アーティファクトである。 「既に知っているもしれんが、現在ペリーシュ・ナイトによる賢者の石を始めとした、マジックブースター狩り事件が頻発している」 日本において再び賢者の石が発見され始めている事も、彼らが集まる材料となっているのか、デス子が差し出した資料には静岡県の地図が描かれていた。 「場所は、静岡県北部。三尋木派フィクサードが賢者の石を回収した所を、ペリーシュナイトが襲いかかる予測となっている」 三高平市から車で一時間もあれば到着する程度の距離であった。 デス子の端末操作で、スクリーンに少女の顔が浮かぶ。 「ペリーシュ・ナイトを率いているフィクサードは、『千の呪詛』斑雲 つづら。インヤンマスターの初級の技を使う。ペリーシュから依頼を請け負った者は、別に居ると予想される」 その根拠は想像に難くない。 世界最強の付与魔術師が、東の果ての木っ端フィクサードに依頼するかどうかを考えれば明白である。 「このフィクサードは前にも事件を起こしていたのか?」 「千葉で一度交戦しているな。アークに強い憎悪を抱いている」 釈然としない面持ちでいると、デス子はため息をついて、自らの端末のデスクトップを映す。 マウスクリックをカチカチと階層を下る。【黄泉ヶ辻・Wシリーズ】というレポートが開かれる。 「数年前に解決した事件だが、元々は黄泉ヶ辻に強制的に改造された革醒者だった。定期的に投薬されないと死んでしまう、使い捨て兵器というかな。治療方法もアークにあるが、こいつは別手段で生きながらえている様だ」 カチカチとクリックの音だけが静かに鳴る。 「解決に至るまで、彼女の仲間を我々(アーク)が倒してきた事や、元凶をが倒した事、等等を酷く恨んでいるという話だ」 「八つ当たりとかの類じゃないか」 「若いんだろうな」 デス子が再び端末を操作する。 スクリーンには、三尋木派フィクサードの三人の顔が愉快に連なる。 「某大手穏健派フィクサード組織の三人組だ。高級な豚を窃盗しようとして、エリューション化した高級豚にボコられそうになったり。まあ、こいつの作るカレーは美味いが」 三高平にもカレーを作りに来た事があったりもするとの事だ。 要は小物という話である。 「ペリーシュ・ナイト達の大半は、全力で移動した後にも攻撃してくる。相手を諦めさせない限り、振り切る事は難しいと考えられる」 果たして、命を惜しまない騎士達が諦めるだろうか。 「――撤退を考え、指示を出せる者がいる事が幸いといえば幸いだな」 斑雲 つづらの顔がスクリーンに戻ってくる。 「可能なら、石を回収したいが、最悪でもペリーシュに渡らなければ良い。賢者の石カレーでもな」 どうするかは任せる――とデス子が最後に付け加えた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月28日(水)22:53 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●石を巡りて 「麗華!?」 リーダーが足を止めて、麗華へと駆け寄ると、茂みの向こうから女騎士が飛び出す。 「うそ! 早過ぎる」 女騎士の横面に、拳が突き刺さる。 拳を一旦引いて、『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)が、護るような位置で構えを作る。 「アーク!?」 「僕は君達がカレーを作り終えるまで君達を守る。代わりに作り終わったら使用済みの賢者の石を頂戴」 「は?」「え?」「ん?」 ぽかんと愉快な顔を浮かべながら、三尋木三人が固まる。 向こう側で、『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)が、騎士の突進を真っ向から止めている。 「麗華ねーさん、お久しぶり。今日も助けにきたよ――おっと」 騎士の横薙ぎを腰を落として避ける。 屈めた片膝をバネに、騎士の胴へ一撃をねじ込めば、凄まじい炎が発生する。 「あ、どうも。お久しぶり……です?」 「賢者の石は置いていって欲しいけど、そうもいかない? それ、持ってるとあいつらに狙われるんだ」 夏栖斗は、油断なく拳を構えて騎士を見据えながら、後方へと説明する。 「え、え、やっぱり!?」 「今回は貸し一つってことで。嫌なら、手伝ってよ。あ、でも無理はしないでね。ねーさんのカレーはまた食べたいし」 麗華は、賢者の石を両手で包む様にじっと眺めるのみである。 『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)は、北斗七星を暗示する銃をくるりと幻想纏いから引き抜く。 麗華とリーダーの横から、騎士と女騎士へ発砲する。 「はてさて、横暴な振る舞いは其処までじゃよ。W・Pの手の者よ」 フィアキィが騎士達の眼前をひらりと横切る。途端に、着弾部分が一斉に炸裂する。騎士は向こう側へ飛ぶ。 「連中はW・Pの手の者じゃ。由々しき事態じゃのぅ」 瑠琵の言葉に、リーダーのみが驚愕を浮かべる。 「連中の目的はお主等が回収を命じられた賢者の石。持ち帰っても再び襲撃を受けるだけじゃろう」 次にリーダーの顔はたちまちに青くなる。 「そんな訳でそれ、わらわ達に譲ってくれんかぇ? 依頼人と相談するが良い――無論、この場から逃げ切ってからのぅ?」 「ふおおお! ゲオルギィ! 次も勝てるかなー勝てるといいなー☆」 『骸』黄桜 魅零(BNE003845)が、白鋼色を携えて元気よく鬱蒼を走り抜ける。 先の瑠琵のフィアキィの力により、向こう側へ押し返した騎士へと肉薄する。たちまち鍔迫り合いへと至る。 「感じさせてね☆エクスタシー! あ、三尋木はいいです、逃げといて」 後押しするように、『足らずの』晦 烏(BNE002858)が、射線を探しながら付け加える。 「という訳さな。スポンサーと相談してどうするか決めといてくれ」 エネミースキャンで敵を観察する。一番肝心な者の姿が見当たらない。 「後、おじさん個人としてはだ。石なんか使わず普通にカレーを極めて欲しいもんだよ」 あと先日の味勝負はどうもと、軽く頭を傾けておく。 『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)も射線を決して、膝立ちの姿勢で火縄銃の火蓋を切る。 「究極のものを求める心持は、理解せんでもないが。それに至る方法は……碌でもないものとなりそうだな」 鬱蒼としているも、許容範囲。木々が風を遮り、弾道の角度調整も不要。問題はない。 放った弾丸が、騎士甲冑へと吸い込まれる様に突き刺さる。 「れーかさんが新しいカレーを作ってるようなヤカンを感じて来てみれば……大ピンチじゃないですかー!」 『本気なんか出すもんじゃない』春津見・小梢(BNE000805)が、カレー皿を片手にのしっと立つ。 「ペリーシュだかなんだか知らないけど、カレーを脅かす魔の手は――」 絶 対 に 許 さ な い! 小梢が確固たる意思表示と共に、聖なる破邪のカレー光を放ち、凶災を払う。 「お、お世話になっています。小梢さん」 麗華がよろよろと立ち上がる。普段のだらだらだらーんな小梢ではないのである。 「貴女方はまあ、ご自由に。恩を着せる気はありませんしね」 『カインドオブマジック』鳳 黎子(BNE003921)が、二体目の女騎士へ駆ける。 無論、好きで渡す訳では無い。くれるなら貰う心算だったが。 「怪盗の真似事をするにも予告状くらい出してからでないと格好付きませんからね」 夏栖斗が抑えている騎士と同型が走ってくる。最も厄介な弓騎士の姿は見えないが―― 『――成程。貴方が癒し手ですか』 ここで黎子は、非常に良く知っている鬼魅の悪い空気を感じ取った。 手の感触を確かめる。運は逃げていないようだけれど。 「上だ」 龍治も、この場の誰のものでもない声を耳に入れる。 ばさばさと赤い目をした鴉が一匹、小梢へと急降下する。 白い少女が、枝をばきりばきりと砕いて降りてくる。騎士を挟んで魅零や黎子の前にスッと立つ。 黎子は見覚えがある顔に対して、女騎士と切り結びながらも、しっとりと笑う。 「お久しぶりですねえ、つづらさん。覚えてますか? 嫌がらせをしに来た……と言ったらどうします」 「ぶち泣かすに決まってるじゃないですか。鳳 黎子さん」 ●ギミックブレイク 悠里が女騎士の進路を遮る。 遮りながらも、最も損傷の多い騎士を遠間合いより蹴りで斬り、女騎士の鉄槌を手甲で受け止める。 「どんな理由があったとしても、自分の仲間が殺されたら恨むのは当然だ」 悠里の言葉に白子が顔を向ける。 「僕は、君を悪と言い切る事は出来ない。けれど君の怒りの為に、僕達の贖罪の為に、誰かを犠牲にしちゃいけないんだ」 「弱い事が全て悪いってアークが証明している事でしょう?」 つづらが首を正し、長い髪をかきあげる。少し腰を落とし、前のめりの姿勢で得物を握り直す。 「つーづーらーちゃーん! シルベスター・カストアは本日不在??」 魅零は騎士と切り結びながら、騎士の右肩越しに問いかけると、敵はしばしの空白の後に構えを解く。 「今頃、隠蔽魔術で万華鏡を欺きながら、石集めじゃないですかね」 ある呪本を巡る戦いにおいて、直接顔こそ合せていないが双方に『事』を十分に理解した上での言葉である。 「ヤーダー、あの人に会いに来たのに。ぶっちゃけつづらちゃんには興味ナッシーン! だぁってつづらちゃんよりシルベスターの方が強そうだし?」 「ま、強いんじゃないんですか?」 夏栖斗が、騎士へと再接敵する。魅零と並んで同じ様に騎士の左肩越しで見る。 「この前はどーも。声も可愛かったけど本人も可愛いじゃん」 「前の話、考えてくれましたか?」 「今回も『権利者』は譲らないよ。ま、権利は僕らにあるわけじゃないけどね」 「そうですか。ああ、そうだ」 ん? と応答すると、つづらがスッと半身を退く。守護聖人の名を冠した第三の騎士の矢が飛来する。 「うわっち」 「――星儀」 夏栖斗の脇腹に矢が刺さり、星占いが下る。 多数の異常により、上体を倒しかけた夏栖斗の上を、銃弾が通りすぎて騎士へと刺さる。 龍治の火縄銃から硝煙が上がっている。続いて次弾、弾丸を込める間に三尋木を睨みつける。 「万一此処を抜かれたら、間違いなくお前達を喰らうだろう」 「く、喰う!?」 更なる驚愕の次に、龍治は粛々と銃を膝立ちで構える。 「文字通りに、跡形もなくなるだろう。そうならん自信があるのなら、持っていくと良い」 龍治のひと睨みに怯える様に三尋木三人が悪路をゆく。賢者の石は――握られている。 「前回はモーニンググローリーだがグローリースターか」 龍治と少し隔たりを置いた所で、烏が呟く。 「W00から、ある人物に貸し出されたW4人がいたらしい。W72、W88、W98――は、もう死んでる」 烏の独り言めいた呟きを、龍治は集音装置で拾う。 「……」 「因果さな」 烏は、三尋木が後退していく様子を見た次に、神秘の閃光玉を騎士に投擲する。 視覚が無かろうとも浸透する光は、夏栖斗や魅零を巻き込まない絶妙な位置――騎士の背後で――炸裂する。 「どうも、斑雲君。如月大先生もイギリスで喰われ亡くなったらしい。喰った本人が言ってた」 「向こうで作ったキマイラかなにかでしょうかね」 「ご名答だな」 白子が手をかざす。最後の騎士が走り抜けてくる。 合わせる様に、瑠琵が銃を持たない側の手を横に切る。 切った軌道をなぞる様にフィアキィが横切る。小梢や三尋木三人の周囲を飛び回り、緑の光を放つ。 「つか、その球体関節――身体をキマイラ化して“枷”を外したのかぇ?」 倫敦事変の後始末として、球体関節のキマイラと相対したばかりである。烏もその通り。 つづらの関節も、これと全く同じである。 「『あまりもの』です。少し高性能な義手義足に過ぎませんよ」 小梢と騎士がぶつかる。瑠琵の癒やしの力で、怒りは振り切れたのである。後は守るのみ。 「れーかさん。いまのうちに逃げて!」 ぶつかると同時に、聖なる闘衣を纏う。 「ああ、究極のカレーが遠ざかっていく……私にも食べさせてほしいのに……」 カレーが遠ざかるも、騎士の侵攻全てをブロックした形と相成る。 「では、ぶち泣かされるのは、どちらですかねぇ」 女騎士の鉄槌をひらりと避けた黎子が、再び接触するように、大鎌を振るう。 「みれー!」 夏栖斗の豪炎竜顎、極葬細雪。覇界闘士最高峰の力が立て続けに、騎士に刺さる。 魅零が崩れかけた騎士の背を踏んで飛び出す。 「セバスちゃーん!」 向こうから来る矢を、刀で切り払って真っ直ぐに弓騎士へと肉薄する。 敵は、弓を盾のように斬撃を止めんとするも、ふらりと軌道を変えて鎧の表面を削る。――削るだけで十分なのだ。 「おっしまい☆」 削った傷が黒くなる。黒くなった箇所から濁流のように闇が溢れて、弓手を包む。 それは、永遠の石像となって動きを止めた。 ●カウンター・カウンター・ギミックブレイク 君たちはWシリーズの中でも栄光ある一桁ナンバーだ。その働きに期待するよ ――――Wの創造主『W00』 程なくして一体の騎士が斃る。 最速で、弓騎士を止めた事が、火力維持に繋がる。 「唸れ私のかれーぱぅわー」 小梢が、異常を祓い去る事で、二人目の回復手である瑠琵の手が空く。 手が空けば瑠琵は相手を押し込む役割を得る。かく追う者と迎え撃つ者の立場が変わりつつあった。 「もう一体もですよう」 足場の悪さを物ともせず木々の影を転々と、騎士の背後を取る。 一撃、二撃、三撃、死の紋様が刻みこむ。紋様が発光するや、たちまちに鎧の隙間から、真鍮色の歯車が飛び散らかる。 「流れが悪いですね」 つづらが首をひねる。 ここで瑠琵は、アークの敵意を煽り、追撃を阻む策の打ちどころだと決する。 「二手目で陰陽・星儀。少しばかり早まったらしいのぅ。未熟千万じゃな」 「そうですね。エリューションやアザーバイドとばかり戦っていたので」 挑発はしかし暖簾の様な手応えを覚える。つづらがトントンとつま先を改める。 「突破か」 龍治が距離を詰める。地に掌を置き、気糸の罠を起動させる。つづらの足元から網が生じて、その身を捕らえる。 捕らえたかに見えた。 敵は網をするりと抜けて、空気を足場のように木々の隙間をジグザグに翔け抜ける。 「っ!」 瑠琵の眼前に、おしろいを塗った様な顔が生じる。 白子の上腕が喉にぶつかる。ぶつかったまま木へ押し付けられる。 そこで空気が爆音と共に爆ぜた。瑠琵は木ごと弾き飛ばされる。 「ケホッ……」 瑠琵は、首に手をやって感触を確かめる。被害少ないが、今の攻撃で回復範囲から出てしまった。加え、凶兆が身を包んでいる。 一方、龍治は後ろの木を利用して、そこで止まる。 「お前の様な者が残っていたのか」 記憶が正しければ、一桁番台との交戦の際にも外したことは無い。 同等か、それ以上と怪しまれる。 「次は外さん」 「剣遁行とは違うな」 烏が、数十尺程度の横に現れたつづらから飛び退く様に動き、銃を構える。 違うなら何を以って未解明スキルを強化したのか。その答えは直ぐに降りてくる。 「『前の相対者(じぶんたち)』だろうな」 烏が『よく知る弱点』は見当たらない。関節を狙い撃ち、また騎士へと弾痕を刻む。 「だが、不味いかもしれないな」 球体関節を穿ったことにより、つづらは膝をつく。しかし首から上は、もっと奥の奥へと向く。 「魅零、夏栖斗! 抜かれた!」 悠里は女騎士の戦鎚を受け止めるも、手が痺れていく。 物理攻撃に耐性をもつ女騎士へ、有効な神秘攻撃を担う龍治と瑠琵に刺さった形である。 「だいじょぶ!」 力強く応えた夏栖斗がつづらの方を向く。遠間合いから気でもってつづらを投げ飛ばす。 夏栖斗の背中を庇うように、魅零が入る。 「回復しないなら叩きこんでおけば、いいよね☆」 大業物を握る両腕を大きく引いて、真っ直ぐに貫くや、冥き牢獄が生じる。 「もう一回☆ スケフィントン!」 二連続で放たれた牢獄は、膨大な呪いそのものである。たちまち女騎士の一体を飲み込み、小さく小さくなっていく。 牢獄は米ほどの大きさになり、そのまま跡形もなく消え去った。 後退した黎子がひゅるりとつづらの背中を斬る。残るは、女騎士とつづらのみである。 「っぐ……。成程……、ばら撒く方と一点集中。一長一短でしたね」 「その戦鎚。他者の命を奪わないと自分に危険が及ぶ……といった所ですか?」 一撃。更に一撃。呪詛そのものである血液がかからないように、右、上、下、左と切り刻む。 黎子にとっては天敵とも言える能力と高い回避と防御性能であるが、まだ格下だと手応えを覚える。 「……戦鎚……不運が身に注がれるだけですよ。不運凶兆を捻……伏せて、ここまで来たんです」 黎子が首を傾げる。 「不運、凶兆。あなたにはぴったりですねえ」 スーパーインド人たる小梢が走る。 「とにかくカレーは絶対に渡さない。フェイトをカレーにくべることも辞さず! 敢然にして不滅なる無敵要塞が立ちはだかるしかない!」 その全身から光を放ち、鬼魅の悪い空気を祓う。 この、最遅から放たれる破邪の光に、先手の取り合いが生ずる。 先を取られれば、突破される。突破を止められる者が先を取らねば意味が無い―― 「これで詰みじゃ。W99――斑雲 つづら」 7つの輝きを持つ銃のシリンダーを一回転。放つはバーストブレイク。 盛大な爆発に、白子は宙へと放られる。 「二度は外さん」 龍治の気糸の網が絡めとり、三尋木の離脱はその次である。 ●Waltz,Woman,Waste,Waepon and W・P 「力及ばず、ですか。――撤退。これ以上は損耗するだけです」 女騎士はビデオテープの巻き戻しの様に後退を始めた。 「私の負けです。どうぞ、殺せばいい」 夏栖斗は首を横にふる。 「絶対嫌だ」 「死にたくないと願った者を殺して、殺せといった私を生かす? 訳が分かりませんね」 役割を終えた悠里が静かに歩み寄り、足を止める。 「殺さないよ。君の恨みが晴れるまで何度でもおいで」 しばしの空白の後。白子は、怒りの表情へと変わる。 「そういう余裕や正義感から来る講釈に、どれだけ自分の弱さを憎んで惨めに思うか分かりますか!」 気糸が引き千切られ、悠里の腹部に手が当てられる、鬼魅の悪い空気の爆発が生じて、夏栖斗と魅零を巻き込む。 「正義の味方め。かかってこい。一人でも相手になってやるから!」 「遊ぼう遊ぼう! 賢者の石なんか探してないで、もっと楽しいこと探そうよ!」 魅零の奈落剣が振り下ろされる刹那に、つづらの再動。球体関節の掌から星占いが起こる。 魅零は、得体の知れぬ空気に激しい吐き気を覚えて手元が狂う。奈落の剣が掠るだけに留まる。 瑠琵が、たちまちに凶兆を祓う。 「もう手は無かろうに。諦めて逃げ帰ったらどうじゃ?」 「嫌だ!」 「……若いのぅ」 龍治が再び、気糸の網にて捕らえる。 「任務は完了か」 龍治が三尋木の撤退完了を確認して踵を返す。 振り返る事も歩みをとめることもない。 「一番憎いのは自分――とか、そういう話はもう良いですよぅ。結局、泣かされたのはつづらさんでしたねぇ」 黎子が白子を一瞥する。 「貴女に……何が!」 次に黎子は、嘲るような――自嘲ともつかない笑みを浮かべて木々の間へ消える。 魅零は、もう終わり? と退屈そうにぶーたれていたが。 「そうだ! 次はカストアぷりーず☆ 約束! 破ったら黄桜殺しちゃうぞ」 かく、この場で済ますより、メッセンジャーにした方が、かの人形遣いと戦う機会に結びつくと怪しまれる。 「余裕や正義感――余裕なんてないよ。正しいと思う事。守りたいもの。手を伸ばしても掴めない事ばかり」 悠里が、自身の口角を拭う。 「うちの剣龍帝がナンパしてこいって。アークに来るつもりはない?」 夏栖斗も、飄然と問いかけるも。 「私にとってW00も貴方達も一緒です。……次に呪本が開かれる時は、後悔させてやる!」 「前にも言ったと思うが元に戻れる手段はある」 烏がここでタバコに火をつけて、紫煙を吐く。 「今ここで、素直に『はい』なんて言わないと思うがな。手遅れになる前に頼ってくれ。死ぬよりはましだからな、一応覚えといてくれ」 小梢が小さく首を傾げている。 三尋木が完全離脱した事による脱力でぼーっとぼーっとしている。 「唸れ私のかれーぱぅわー!」 「……!?」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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