● 『メ゛ェェェェェェ!』 森の中を羊が走る。 後ろは決して振り返らず、ただ前だけを見据えて。 少しでも気を抜けば、後ろから自身を追う多くの殺気の波に飲まれてしまうからだ。 だが、この羊は気付いてはいない。 進む先にも、自身を食べようと考える輩がいる事を。 「ししょー、お腹すいたー!」 「……そうだな。もう3日食ってないからな」 草木生い茂る森の中、師匠と呼んだ男性の抑揚のない言葉に、声の主である少女は不満げにその場をごろごろと転がる。 服に泥がつこうが、そんな事はあまり気にもしない。 剣術修行のためと半ば強引に男性の旅路についていった結果、こんなサバイバル生活を続けていれば当然か。 「今日こそ猪でも魚でも取らないと、私もう餓死しちゃうね!」 そんな事を言って頬を膨らませる少女は、旅に出る前はただの活発な少女だったはず、なのだ。 それが今はどうだろう。 時折、狼を真似て遠吠えをしてみる。食べる食べられないを考えずに、とりあえず口にいれる(そして毎度自分が止める)。 等といった傾向から、どこかしらこう、野生化してきている雰囲気がありありなのである。 これはもう、1度人里に下りて人の文化に触れさせなければ、この子は野生児になってしまう! 「……ふぅ」 深い深いため息が、口から思わず零れ落ちた、その時。 『メ゛ェェェェェ!』 聞こえてきたのは、逃げる羊の声。 「ご飯の予感!?」 傍らにいる弟子の少女がガバっと起き上がり、ありもしない獣耳に尻尾をパタパタと動かすような仕草を見せたのは置いておいて、 「追われているようだな」 逃げる声の後ろから感じる殺気は、1つ2つと数えるのも面倒くさい。 追う羊で満足しなかったなら、次に狙われるのは自分達か? 「サニア、お前は羊を追え」 「師匠は!?」 「追っている連中を狩る」 如何に弟子――サニアと呼ばれた少女が力をつけていたとしても、数えるのも面倒なほどの敵を相手にするのは危険だ。 ならば。 追う連中を多少なり足止めした上で、羊を追う傍ら逃げ道を作ってやるのも師匠の務めであるだろう。 「合点承知! がおおおおお!」 裏の事情など考えずにさっさと走っていく少女は、人付き合いを苦手とするこの男であっても、御しやすい部類の存在だったのが救いではあった。 「――さて?」 どれほどの数か、どれほどの強さか。 手にした剣は名刀というには程遠い無銘のものではあるものの、立ち回り次第で時間稼ぎくらいはできよう。 この男、名を高原・征士郎。 フィクサードを狩るフィクサードではあったが、今は修行の傍らにエリューションを狩るリベリスタだ。 だが追う者を抑えるべく動いた彼も、別の追っ手がさらに羊を追っている事には気付いてはいなかった。 「待て、晩御飯っ!」 牧羊犬よろしく羊を追うサニアは、当の羊がアザーバイドである事など気付いてはいない。 おひつじ座の名を冠し、ちょうど1年前にもこの世界に訪れた事のあるアザーバイド。名をハマル。 『メェッ、メェェェッ!』 彼はこの世界に来た事を不幸だと感じているかもしれない。 1年前も生贄の如く追い回され、アークのリベリスタ達に救われなければE・ビーストに食われていた事だろう。 それがおひつじ座の運命ではあるのだろうが、2年連続では流石に『メ゛ェーーー!』と泣きたくなる気持ちもわからなくはない。 ふわもこの毛並みに蓄えた静電気というにはおこがましい、いうなれば雷とも言うべきソレを放てば、追う少女の気勢は削ぐ事が出来るだろう。 しかし、下手をすれば周囲の木々に火をつけかねない現実が、ハマルに雷撃を放たせないでいる。 とりあえず、少女が諦めるまで走る、走る、走る。 ただソレだけを考え、ハマルは森の中を駆けていく。 追う少女、名をサニア・アスライト。 アスライトの名が示すとおり、彼女は――。 ● 「……」 もう、そのため息は腹の底から出ていた。 首を左右に振る『白銀の魔術師』ルーナ・アスライト (nBNE000259)は、もう見ただけでお腹一杯とでも言いたげである。 しばらく見なかった姉のサニア・アスライトが野生児になっていようとは、流石に思いも寄らなかった事だろう。 「……それで、今回はハマルをエリューションとサニアから守ればいいのかな? 「そうね。サニアがかじりつく前に、ハマルを救出してもらう事が1つ。と同時にエリューションの撃破ね」 今回のミッションに求められるものは、ルーナに答えた桜花 美咲 (nBNE000239)の言葉の通り。 とはいえハマルを追っているのは現状サニアのみならず、本能的に狩りをこなすエリューションの別働隊も動いているのだから注意は必要だ。 逃げている状況であってもハマルはとかく冷静である点は、リベリスタにとって救いか。 過去に迷い込んだ際にトラブルから救出した事もあり、アークとの関係はおおむね良好。 アークだと名乗るなり、バッジを見せるなりすればおとなしく言う事は聞いてくれる。 「サニアと高原さんについては……」 「そこはボクが面識あるから大丈夫。リベリスタでもあるし、アークだとわかればそれでも済むんじゃないかな?」 よしんばルーナがいなくとも、アークであるとわかればそれで済む話ではあるというのはルーナの言。 まぁ妹がいるのだから大丈夫よねと、美咲はそこについては深く言及はしなかった。 「あぁでも、3日もご飯食べてないみたいだから、2人の保護の必要はあるかしら?」 下手をすると遭難してそのまま――となる可能性がある以上、『保護』という行動だけは取ってもらう必要はあるが。 高原が足を止めるエリューション、E・ビーストは15体。 パワータイプの熊型が5体と、スピードタイプの狼型が10体の構成だ。 そしてハマルを追う別働隊には狼が10体と速度を重視した行軍をし、ハマルの頭を抑えるべく動いている。 速度のある部隊で頭を抑え、前後からの挟撃を行うのは統率が取れている証拠と言えよう。 加えて戦場は森の中。 動物的なカンが働くE・ビースト達にとって、生い茂る木々は障害物足り得ない。 「皆は二手に分かれて両方の対処に行っても良いし、片方を殲滅してからもう片方を……っていう形で行っても良いと思うわ」 要は、結果的にハマル、そしてサニアと高原を無傷で保護すれば良いだけの話。 動き方は自由。 故に彼女はこう言った。 「あなた達に、彼等の未来を託すわね」 ――と。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月26日(月)22:59 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●嘆きのハマル 『メ゛ェェェェェェ!』 森の中に響くは、嘆きのようなハマルの声。 「ご飯、待てぇっ!」 追いかける少女サニアは、追われる側から見てもかなり飢えている事は良くわかる。 もしかしたら、食べられるなら何でも良いのかもしれない。そんな考えすら頭を過ぎるが、捕まる=食べられると結果が見えているならば、捕まるわけにはいかない。 周囲の木々を火に包む可能性もあるため、雷撃を放つ決心がつかないハマルに出来る事は逃げる事のみ。 「なんというか二度目も散々な目にあってるみたいね」 「……災難だね、ホント。それだけ食べ物に飢えていたサニア達も災難だけど、それで追われる羽目になったアザーバイドはもっと災難だ」 この世界で良い思い出が少ないハマルの不運を不憫に感じる『ANZUD』来栖・小夜香(BNE000038)の視線がハマルを追う中、『赫刃の道化師』春日部・宗二郎(BNE004462)の口から零れるのは乾いた笑み。 両者は確かに『生贄』『空腹』と理由は分かれるが災難の真っ只中。 2つの災難を払えるのは彼等アークだけであり、宗二郎の笑みは乾いていながらも払えるだけの自信が表れている証拠だ。 「まずはサニアを抑えよう」 最初に成すべきことは『白銀の魔術師』ルーナ・アスライト (nBNE000259)の提案が正しい。先にサニアを抑えなければ、両者はどこまでも走り続けていく。 即ちそれは高原の側との大幅な距離を作り上げる事になり、片方を撃破した後の合流までを作戦にいれているなら、戦闘時間の増加に繋がる。 「準備が整い次第分かれましょう。早ければ早いほど、戦況はこちらの有利となるはずです」 己が防御動作を『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773)が仲間と共有し、 「そうね。まずはこれくらいかしら?」 小夜香が仲間の背に施した小さな翼が飛ぶ力を与えた事で、その準備は整ったといえよう。 ふわりと体が浮く限り、足場のそうよろしくはない森の中という戦場のペナルティは無視する事が可能だ。 「では私は高原さんの援護に最善を尽くしましょう。ハマルさんの方は……まあ、あの物騒なメイドに任せておけば大丈夫かしら?」 「物騒は余計です、お嬢様。面制圧が得意なただのメイドですよ」 別れ際に『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)と『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)はそんな言葉を交わし、 「ルーナさんも、お姉さんがこんな状況では心配ですよね?」 「……元気そうだなぁとは思ったよ」 「それはそうと、抱き締めても……そういうのは後ですか、そうですか」 「答える前に答が出たね……」 一方で『グラファイトの黒』山田・珍粘(BNE002078)の心配に、ルーナは久々に見る姉が元気そうだと漏らして。さらには抱きしめようとする手を空ぶる那由他の仕草に、やれやれと少女がため息をつく。 「去年に続いて今年も襲われるなんて災難だね。でも今年もボク達が絶対助けて見せるよ。待っててね!」 1年ぶりに訪れた別世界の友を救わんとする『愛情のフェアリー・ローズ』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)は、その中でも並々ならぬ決意を持っていた――。 ●追う者、護る者 追う物、即ちサニアは多少なり野生児化していたせいだろうか。 「くんくん……」 犬ほどに嗅覚が優れているわけではないが、ハマルと自身以外に周辺に気配を感じたのか、匂いを嗅ぐような仕草を取る。 森の中であるが故にハマルの足は遅いものの、狩りの時は不用意に近づいてはならない事を彼女は知っていた。知っていたが故に追う足取りも遅く、リベリスタが全力で動けば前を抑えられる程度の速度でもあった。 (落ち着いて、ハマル。助けに来たわ) その最中に飛んできたのは、テレパスを通じた小夜香の声。 しかし逃げている中、『食わないから止まれ』といわれて即座に足を止める者はいない。『待てといわれて待つ馬鹿が……』という例のあれだ。 「がおっ!?」 「アークだ。敵が近寄ってきているので加勢する! ハマルは食べてはいけない!」 必要とされるのはサニアの足を止める事であり、『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)の言葉にその足が止ま――らずに、近くの小枝を強引に掴んで速度を殺すサニア。 追いかけていたサニアの鳴り響くお腹の音は激しいが、 「後で好きなだけ肉食わせてあげますから、大人しくしてて下さい。だいたい今の季節の羊肉はたいして美味しくありませんよ?」 「え、そうなの?」 「あれの旬は主に冬季です。どうせなら美味い肉の方が良いでしょう?」 捕まえるより確実にご飯にありつけるとモニカに言われれば、サニアの方に追う理由はなくなったも同然だ。 「食べて美味しいかもわからない、しかも危険かもしれないアザーバイドより、私達のお手伝いをしてくれたらなんでも奢ってあげちゃうわよ?」 むしろ小夜香の追撃の言葉で、涎がだら……っと垂れていたりする。 『メェ?』 幸運にもそんなやり取りの声が聞こえていた上にサニアの足が止まった事で、ハマルも少し離れた位置でリベリスタ達の様子を伺っていた。 「……久しぶりだね、サニア」 「あ、ルーナだ!」 迅速に準備を整え追いついた事で、久しぶりに出会った姉妹が少しでも声をかけあう時間的余裕すらも出来ている。 後は、追いついてくるであろうE・ビーストをサニアを交えた5人で迎え撃てば良いだけだ。 「まとまって覚醒したのだろうか。大群だろうと蹴散らす、変身!」 そして敵の姿が現れたと同時に、『強化外骨格参式[神威]』を身に纏い森の中を低く飛ぶ疾風。 どういった経緯でこれほどのE・ビーストが群れを作ったかは定かではない。理由を得るための情報も少ない中では、考えても仕方がない。 「まずは一撃、出鼻を挫く!」 「援護しますよ。ハマルさんに広域攻撃の手本でもお見せしましょう」 交錯しつつ疾風のアームブレードと狼の牙が衝突し、続けてモニカが構えた巨大なガトリングから勢いよく弾丸が放たれていく。 襲い来る狼は10匹。 (あなたを守らせて? だから、おとなしくしててくれると助かるわ) ハマルを刺激しないようにテレパスを送りながら接近した小夜香は壁となり、 「……サニアも突撃」 「がおー!」 負けてはいられないとアスライト姉妹も戦いに身を投じる中、 『ウォォォォ……ン!』 不気味なチェイサーウルフの咆哮が、森の中を木霊する――。 一方で高原の戦うE・ビースト本隊側も、合流から共闘までの流れはスムーズに進んでいた。 むしろサニアよりも早かったか。 「援軍か」 「うん。ボク達はアークだよ」 時には木を背に囲まれる事を避け、時には距離を置いてと、注意を引くように剣を振るう高原の傷は思った以上に少ない。 ただの1人が相手だと思っていた狩人達にとって、樹上から獲物の周囲を囲んでいた同胞を切り刻んだアンジェリカの登場は、無作為に飛び込む勢いを殺ぐに十分なものがあった。 「予知を受け、貴方達の救出に参りました。よろしければ、共闘と行きたいのですけど。如何ですか?」 「断る理由はない」 那由他に対してもその一言だけで、高原はそれ以上何も聞こうとはしない。『アークである』ならば、彼にとってはそれが敵ではないと判断する材料足るからだ。 『グル?』 『ガウガウ! ガウ!』 逆にE・ビースト側は予期せぬ存在の登場に浮き足立ったのだろうか? 簡単な狩りに突如立ち込めた暗雲に、唸り声を上げながらも周囲をうろつき、出方を伺っているようである。 「話は終わったか?」 「そのようですね。後は迅速に殲滅するだけですか」 だがどれほどに警戒しようとも、既にリベリスタ達は作戦行動の真っ只中。 高原との共闘の話がついたと判断した宗二郎にとっては、E・ビーストがどう動こうとも倒すだけの存在であり、その身から光を放つ彩花はその注意を自身に向かうように仕向けている。 「では、狩りを始めようか。もっとも、狩られるのは……あいつらになるがな」 手近にいた狼に詰め寄った宗二郎は、身に走らせた爆砕戦気の上からさらに大鎌を漆黒のオーラに染め、可能な限り巻き込むように狼達を薙ぐ。 「君達と長々と遊んでる暇はないからね。一気に行かせてもらうよ」 アンジェリカは木々すらも足場にして張り付きながら動き、決して注意を地上だけに向けさせない。 加えてただ動くだけの存在ではなく、頭上から刃を振るう狩人でもあるのだ。 『グルルル……ギャインッ!』 前に出ていたストーカーウルフの1匹が、2人の攻撃を続けざまに受けてもんどりうつ。 狩る側は、狩られる側へ。 狩られる側は、狩る側へ。 ――もしも戦場がこの1箇所だけだったなら、それだけで済んだ話だった。 「狩りは得意でも、戦はどうでしょうか」 口を開いた壱和の言葉を借りれば、リベリスタにとってこれは勝つか負けるかの戦である。 例えどのような状況であったとしても、全力で敵を討つ。彼女の投げた閃光弾は確実に数匹の狼の足を止め、その隙を仲間達は逃さない。 『フモッファー!』 しかしE・ビーストにとっては強さを感じさせる眼前のリベリスタは、必ずしも倒さなければならない存在ではないのだ。 「鳴き声は意外と可愛い? いえ、そんな事を言ってる場合でもないですし、別にだからどうとも思いませんが」 見た目に反した声で突っ込んでくるファイターベアの直線的な体当たりを避けた那由他は、返す刃で冷静に呪いを帯びた魔力槍を振るう。 刻み付けた十字の傷は深く、フェーズ2ではあっても決して楽観できる傷ではないだろう。 「突っ込んでくるだけ、ですか?」 挑発する言葉を言えるほどに彼女には余裕もあり、囲まれたりしない限りは優勢を保てるはずだ。 「当たらなければ、というやつだな。当たると痛いが」 それは避けることに長けた那由他ならではの戦い方であるだけで、『当たると痛い』と口にし重装甲で守りを固める宗二郎にとっては、避けにくい攻撃ではあったが。 「気をつけてください。何か狙いがあるかもしれません」 「狙い、ですか?」 そんな折、相手の動きに奇妙なものを感じた壱和が警戒を促す。これは妙だ……と。 問う彩花に明確にこうだという答を出せはしないものの、E・ビーストの動きは目の前の敵を殲滅しようとするものではないと感じたのも事実。 注意を引こうと挑発すら仕掛ける彩花ではあったが、怒りに震えた熊の動きはそれすらも承知の上と見えもする。 「何かするつもりなのかな……」 傷ついたストーカーウルフを沈黙させたアンジェリカもそれに気付いたらしく、間髪いれずに振るわれたファイターベアの爪が張り付いている木を強引に倒す中、素早く飛んで距離をあける。 出撃前、ブリーフィングでそういえば美咲がこんな事を情報に入れていた。 『チェイサーウルフは突飛もない行動に出る可能性がある』 これはその突飛もない行動の前触れなのか? 「余計な事をする余裕があるのか? 狩猟者たる輝きを見せてみろ。もっとも、その輝きすらも多い尽くす深い闇がお前達を待っているがな」 ならば下手な動きをされる前に止めてしまえば良いと、宗二郎が最も近くにいたチェイサーウルフを爆裂する一撃をもって仕留める。 その時だ。 『ウォォォォ……ン!』 響いてきたのは遠くからの遠吠え。 聞きつけた4匹のチェイサーウルフは目の前の敵、リベリスタを放置し――ハマルやサニアのいる方角へと走り始めたのだ。 「狙いは向こうか」 「らしいですね。熊が突っ込んできたのはそういうことですか」 言葉を交わす高原と壱和の眼前には1匹の熊。 リベリスタ達が相手の動きをブロックで阻害するように、E・ビースト側も熊が文字通りの『壁』として追撃を阻む。 「残りで俺達を、か? それで仕留められなければ唯の無謀でしかない。身をもって思い知れ」 果たして残った獣達は壁としての役目を果たしきれるのか? 答はNoと答が出るだろう。 飛び掛ってきた狼の牙を受け止めつつ、守る刃を攻めに切り替えた宗二郎が敵を穿つ。 「こういうモフモフした動物は好きな人には堪らないらしいですけど。ごめんなさい、少女の方が好きなんです」 本来ならば毛並みのふさふさした動物に乗ったり圧し掛かられたりする事は、(戦いの中でなければ)嬉しい事ではあるが、那由他にとってはそうではない。 壁となった熊を斬り、巨大な体躯を蹴り倒した彼女が好きなのは――。 「増援……?」 「問題はないですよ。多ければ多いほど、私の得意とする戦場ですから」 しばらくの後、本隊を離れたチェイサーウルフの襲来に怪訝そうな顔を浮かべるルーナに対し、モニカは全力が出せると言わんばかりに弾を撃ち続けていた。 「数は増えるけど、それは逆に言うと……」 「皆も追っているって事だよな」 だが高原の側へ行った仲間達が、突破されたまま何もせずに済ませるだろうか? 違うはずだ。 確信めいた言葉で小夜香と疾風は言う。どちらにしろ向こうを片せば合流する算段でもあるのだから、追撃をかけていると。 既に10匹いたE・ビーストも大半が討ち取られている。 「おかわりと言う事か?」 残る数匹も、今、サニアの眼前で疾風が倒した事でさらに数が減っていた。 近くにいる敵は手にしたアームブレードですれ違いざまに斬り、遠くの敵は虚ロ仇花を叩き込む疾風の動きは、まさしく縦横無尽。 『メェ』 「あなたはそのままで。敵も味方もお構いなしでは、無差別の広域攻撃と同じで全体攻撃の意味がありませんよ」 手助けを考えるハマルを制するモニカと共に、この戦場を制圧するだけの力を持っている。 『ガァァッ!』 『メェェッ!?』 思わず前に出てしまったハマルではあるが、E・ビーストの狙いがそのハマルでもあった。 故に、 「気をつけてくれよ? 奴等の狙いはお前なんだ」 「傷ついても私が癒すから良いのだけど……気をつけてね? 癒しよ、あれ」 注意を促す疾風が素早く下がってハマルに肉薄した狼を斬り、傷ついたハマルは小夜香が癒す。 強引にハマルを狙う狩りは、終わりに近づけば失敗だったといえるだろう。 「そちらもほとんど終わっていますね」 「問題ないわ。さっさと全部倒してしまいましょう?」 高原側に残った熊と狼を打ち倒し、合流してきた彩花にそう告げる小夜香。 狩猟と戦の違い。先んじて壱和の言った言葉を理解できぬまま、本能に従った狩りの失敗を嘆くE・ビーストの声が木霊する――。 ● 「勝利! がおー♪」 「……えーと、うん、天真爛漫で可愛らしい方ですね」 勝利の喜びに酔うサニアの姿に、那由他はルーナとの違いを感じずにはいられない。姉妹としても、ここまで違うものか。 「一度、三高平市に寄りませんか。野生児化しかけてるじゃないですか」 ふと疾風が高原にそんな提案をする。 どことなく狼(?)か犬(?)を連想させる程に『がおーがおー』と言ってみたり、お腹が空いたからと獲物に噛り付くようなサニアは、やはり野生児化しかけているとしか考えられない。 「そうさせてもらおうか……予想外すぎた」 たった1年でこうなってしまうとは流石に思っていなかったらしく、高原の側としても、その提案は呑んでおきたい提案だったといえよう。 ――さておき。 「無事でよかった! ボクの事覚えてる?」 『メェー♪』 最大の救出対象であるハマルは無事に戦いを切り抜け、抱きつくアンジェリカに『覚えてる』と答えていた。 「一年ぶりですね。また会えて嬉しいです。もふもふしたい毛並みは、去年よりももふっとしてます」 手で押せば軽く沈み込みそうなほどの羊毛を楽しむ壱和には、『乗っても構わない』と言わんばかりに、その場に座り込んで見せている。 まぁすでに、 「……すごいね」 ルーナは上に乗ってその羊毛の感触を存分に楽しんでいたが。 この世界でトラブルに襲われたことは、確かにハマルにとっては泣きたくなる事に他ならないだろう。 しかしアンジェリカと壱和との出会いを忘れたわけではない。リベリスタに救われた事を忘れたわけではない。 『メェ、メェ』 「良いの、ハマル?」 「では遠慮なく」 せめてものお礼と考えているのか、ルーナのみならず2人の旧知の友を背に乗せゆっくりと歩くハマルは、泣く事ばかりでもないか――と感じているようだった。 そしてしばらくのんびりと過ごした後、ハマルは通ってきた次元の穴を通って元の世界へと帰ってゆく。 (シルバーウィザードについて、知らないかしら?) といった小夜香の問いに対しては、 『メェ?』 ルーナの方を見、『そこにいるじゃないか』とだけ答えて。 次に訪れる時はおだやかな状況での出会いである事を、リベリスタ達は願いながらその姿を見送った。 「さて、仕事終わりましたよね?」 「……まぁ、うん。言ってたしね」 こっそりとルーナを那由他が抱きしめたのは、誰も見ていないはずだ。 「さって、お肉お肉ー♪」 最後に忘れてはならないのは、ハマルを食わせないためにモニカが交わした約束か。 「焼肉の代金はモニカの給料から天引きしておきます」 「お、お嬢様!?」 社長令嬢である彩花はその約束に対しても、立場を崩さない姿勢を見せた。……が。 「アークに経費として申請しておくわ」 どうやら小夜香のおかげで天引きは免れそうである――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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