● 先日の事だ。オルクス・パラスト首魁シトリィンの要請を受けて欧州異変の調査に赴いたリベリスタたちは、異世界より来たという自称『神』、『フェイトを有するミラーミス』ラトニャ・ル・テップと名乗る少女と出会った。 少女の正体はバロックナイツの一員、使徒第四位『The Terror』―― 長い眠りから目覚めたきっかけは、皮肉なことに数か月前のアークの活躍にあった。彼女が暇つぶしのネタにばら撒いていた『混沌の種子』の1つ、『渇望の書』が使徒第八位『鉄十字猟犬』リヒャルト・ユルゲン・アウフシュナイターらとともに日本で沈黙。これが彼女の興味をアークに引きつける直接の原因となったのだ。 そしていま……。 世界的に広がっていた恐怖事件が彼女の興味のままに日本に集中していく。日本の運命はアークのリベリスタ達の双肩にかかっていた。 ● 「みなさん、急いで関空へ向かってください!」 万華鏡の感知タイミングが遅れたため、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はいつになく慌てていた。 理由は事の起こりが余りにも唐突だったからだ。 それも一か所だけのことではなかった。全国で同時発生するなぞの恐怖事件の予知にフォーチュナたちが忙殺されていた。 そのためか、パタパタと廊下をかける足音が途切れることがない。 和泉は集まったリベリスタたちに航空券を配りながら、依頼内容を手短に話した。 「アメリカで発生した『赤い蝶』の乗った7両編成の列車が関西空港駅を出発。6分後に対岸のりんくうタウン駅に到着します」 『赤い蝶』は人間の頭部の骨、蝶形骨が恐怖によって依代化し、アザーバイドになったものだ。アザーバイドたちは羽音や鱗粉、見た目で人の恐怖をあおり、次々に仲間を増やしていく。 りんくうタウン駅に着くまでに、車内にいる『赤い蝶』および、『潜在的赤い蝶』をすべて倒さなくてはなせない。一匹でも逃がせば、瞬く間に繁殖し、日本中に広がっていくだろう。 「関空に入り込める最後の一機をアークで抑えました。別班とともに空路で関空入りしていただきます。みなさんの到着と同時に謎の霧が発生し、関空島はほどなく隔離されるでしょう。霧の発生中は島から出ることができません」 リベリスタのひとりから質問が出された。 霧に囲まれて出られないというのに、問題の列車はどうやって島を離れられたのか? 「列車は霧に囲まれる直前に出発します。空港に到着したら急いで鉄道駅へ。全力で走ってぎりぎり間に合う時間です。列車は出発してしまえば、次の駅に着くまで窓も扉も開きません」 幸い、乗客の数はすくなく全車両合わせて50人ほど。運転席は仕切られているので、運転手を気遣う必要はない、と和泉は情報をつけたした。 「赤い蝶はさほど強くありません。また、先の事件で『赤い蝶』に恐怖し、頭部が肥大化してしまった人をブレイクイービルなどを使って治療可能なことが分かっています」 広げた資料を閉じると、フォーチュナは顔を上げてリベリスタたちを見回した。 「列車に入り込み、橋を渡りきる前に『赤い蝶』と蝶化する前の人を倒すまたは治療してください。お願いします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月25日(日)22:51 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「なんだ。アークの貸切りかよ?」 奥州 一悟(BNE004854)は通路を進みながら、座席を見知った顔が埋めていることに気づいた。見れば乗務員以外はすべてアークのリベリスタだ。 前を歩く『御峯山』国包 畝傍(BNE004948)が立ち止まった。座席番号を確認して荷物を降ろす。 「ほかの方は主に国際線側、空港島全体を対処するチームのようですね」 畝傍は窓側の席に座った。一悟もその隣に腰を下ろす。 「へぇ。でも、よく押さえられたな」 「さすがアークというか、時村やね。有事に強いコネと金もってはるわ。あ、うちの席、ここや」 ひょうひょうとした口調で言ったのは、ギターケースを肩に担いだ『ビートキャスター』桜咲・珠緒(BNE002928)だ。 この時点ではまだ異変は発生していない。日本は平和そのものだ。飛行機の小さな窓から見える晴れ空の色はいつもと変わらず、これから各地で常識外の恐ろしい出来事が起きるなど微塵も感じさせない。 滑走路を滑り出したジャンボ機はぐんぐんと速度をあげ、ほどなく機首を持ち上げた。急角度で上昇していく。 「しかし、フライエンジェが多いね。え、ほとんどホーリーメイガス? ふーん。エンジンぶっ壊れても飛べそう。そのまんま天国行かもしれが」 『天仰ぐ道化』クラース・K・ケーニッヒ(BNE004953)の軽口に、これまた軽い調子で珠緒が噛みつく。 「縁起でもないこといわんといて。カソック着た人がいうたらシャレにならんわ」 通路を挟んだ隣の席では、『白銀の防壁』リリウム ヘリックス(BNE004137)が持ち出してきた資料に再度目を通していた。 機が水平飛行に移るとリリウムはシートベルトを外し、薄くない資料を閉じた。隣の席に座ったフュリエに顔を向ける。 「恐怖神話……異界の神ですか。アザーバイドであり、何よりバロックナイツの一人でもある彼女の跳梁を許すわけには参りませんね」 「ええ。赤き野蛮なるモノの影響を受け、平和に暮らしている人々を恐怖に落とし入れるのはラ・ル・カーナでのあの日々を思い出しますわ。恐怖に怯えるお気持ちは誰よりもわかるつもりです」 『コリーナヴェルデ』リイフィア・ヴェール(BNE004409)の目は強い輝きを放っていた。彼女のフィアキィもまた、リイフィアの意思を受けてその小さな体を輝かせている。 知っているからこそ私は立ち上がった。そう言ったリイフィアの右手の上にリリウムは両手をそっと重ねた。 「必ず阻止いたしましょう」 珠緒が立ち上がった。 「目が飛び出て骨が蝶になる……? んな惨いの、見過ごせるかいな! 全撃破の全員救助! やったるわ!」 珠緒の誓いに呼応して次々と拳を固めた腕が上がる。機内にリベリスタたちの雄叫びが響いた。 ● 薄く張り出した霧の壁を見透かしてガラス窓の向こうに夕日を弾く海が見える。 管制塔から着陸拒否を受ける前にジャンボ機は効果体制に入っていた。黄色いサイレンをつけた車がいくつも滑走路を横切る異常事態の最中、半ば強引に関空に降り立った。乗務員たちにドアを閉めて管制塔から合図があるまで飛行機の中で待機しているように言い含めると、リベリスタたちは次々と機を降りてゲートをくぐった。 「あぁ、この空気には覚えがある」 2階国内線の到着口を駆け抜けながら、『Spiranthes』一條 律(BNE004968)は呟いた。 到着口を抜けてまっすぐ抜けると鉄道駅にたどりつく。距離も短く、迷うことはない。だが、律たちは逃げ惑う人々の流れに翻弄されて思うように前へ進めなかった。 (私を嘘吐き呼ばわりした皆は『此処』から帰る事ができなかった。狂乱の中生き延びたのは神秘を受容れた私だけ) 別班たちのほとんどは4階へ駆け上がって行った。赤い蝶を乗せて到着したアメリカ機は空港の北端、8番ゲートにつけている。被害とパニックの度合いが大きいのは北ウィング側で、第一ターミナルビルの騒ぎはまだ序の口だ。律たちと一緒に2階フロアにとどまったのは僅か2班16名だけである。 (だから、この人たちにも私達という神秘を受容れてもらう) 律は恐怖に戸惑う人々に向けて堂々たる声を発した。 「蝶は倒せる! 私達には鱗粉が齎す毒を治療する術もある! 解ったら巻き込まれないよう身を伏せていなさい!」 人々の動きが緩慢になり、数人が足を止めて床に腰を下ろした。 律は後ろを振り返り「任せたわよ」と別班たちに告げると、仲間たちとともに赤い蝶を乗せたまま霧をついて空港島を離れようとしている列車へ向かった。 外貨両替の横を過ぎ、赤いラインの看板の下にある改札ゲートを飛び越して駅構内に入った。わき目もふらず階段へ向かう。 階段もエスカレーターも、悲鳴を上げながら駆け上がってくる人でいっぱいだった。霧に閉じ込められて身動きが取れなくなってしまう前に、電車で逃げ出そうとしていた人々だ。我先にと、押し合いへし合いしている。階段の下には積み重なったまま動かない人の姿も見えた。 惨状にリリウムが息を飲む。 『ノットサポーター』テテロ ミスト(BNE004973)は階段のちょうど反対側にあるエレベータが上がってくることに気付いた。身構えて扉が開くのを待つ。 エレベータの中には誰も乗っていなかった。その代わりに赤い蝶が一匹――開いた扉からひらひらと舞い出て来た。 「よし、やるぞ! まずは一匹目!」 心に滾る熱い思いを力に変えて身にまとう。空気のわずかな揺れに動きを変える蝶だったが、ミストの拳は蝶が避けるよりも早くその羽を捕えた。ぴしりと小気味よい音をたてて、エレベータの壁に赤いしみを作る。 「みなさん、こっちです! これに乗って下へ!」 発車のアナウンスが機械的に構内に流れた。 あわてて駆け込み、ホームへ降りた。 扉の前に顎から上が吹き飛んだ遺体があった。リベリスタたちは血だまりを飛び越えて今まさにドアが閉まろうする青い列車に飛び込んだ。和泉が予言したとおり3両目だ。 クラースの後ろでドアが閉じる。 列車がゆっくりと動き出し、大きな丸い窓の外をホームの景色が流れていった。 「落ちついてください。症状はあくまでも一時的なもので、動かず、安静にしていれば症状は治まります。席についたままゆっくりと深呼吸を」 畝傍は靴で窓を叩き割ろうとしていたサラリーマンの腕をとった。気が動転しているのだろう。靴底ならまだしも、つま先側ではどう考えても窓を叩き割れるとは思えない。 サラリーマンの視線は畝傍の顔を通り過ぎて、天井をうろうろとさまよった。意図を察してやさしく微笑みかける。 「赤い蝶は私たちが退治します。貴方は落ち着いて彼女の治療を受けてください」 ひぃと情けない悲鳴をあげて顔を左右から挟み込んだサラリーマンをリリウムに託すと、畝傍は通路の先を急いだ。 列車がターミナルビルの下を抜け出して外へ出たとたん、窓の外が綿菓子のようなもので白く塗りつぶされた。霧だ。だがこれがただの霧ではないことを、畝傍たちは知っていた。 「立ち往生か? 窓を開けないでじっとしててくれるといいけどな」 席列の椅子を力任せにはぎ取って空間を作っていた一悟が、顔をあげて窓の外を見るなり言った。 畝傍も改めて窓に顔を向ける。 白くかすむ中、反対側の線路に止まる快速列車のボディが確認できた。JRの車両だろう。 陸と人工島を繋ぐのは8キロを超える長い連絡橋1本。一般道と線路の二つを有する橋は風雨による速度制限、閉鎖のリスクという弱点を抱えていた。風対策として連絡橋には防風柵が設置されているが、濃霧による交通遮断は恐らく初めてだろう。いまは線路を挟み込むように走っている自動車道もアークの手回しで通行止めになっているはずだ。 「頭痛がある人は名乗り出て!」 律の声に2人ははっと我に返った。 一悟が作った空間に先のサラリーマンを含めて治療が必要な人々が集められてくる。 まとまったところでリリウムが全身から邪気を退ける神々しい光を放った。 「おおっと、見とれている場合じゃねぇ。――蝶が2匹、お出ましだぜ」 一悟は、そっちは任せた、と言いざま蹴りを繰り出した。刃のごとき風が異界の蝶の禍々しい羽を切り落とす。駆け寄って通路をのたうつ本体を踏み潰した。 「一悟くん、窓を割らないように気をつけて。そちらも! くれぐれも窓を割って蝶を逃がさないように!」 解ってる、と反対側の通路からミストが返事をした。 そのミストの声に被るようにして、珠緒のギターが鳴らされた。美しい歌声とともに柔らかい風が車両後ろ半分にまで届く。 「神父さまぁ、お助けください」とタバコでかすれた女の低い声。それに、「大丈夫、大丈夫やから! おばちゃん、抱きつかんといてくれ。あ、こら、どさくさに紛れてどこ触って……うひゃぁ!」というクラース焦り声も加わって、あちらはなかなか賑やかだ。 畝傍は不謹慎だと思いつつも口元をゆるませ、向かい合わせた掌の間に破壊のエネルギで揺らぐ球体を作り上げた。 伏せた死体の隙間から這い出て飛び立った蝶とそのすぐそばを飛んでいた蝶の間に、はじけて衝撃波を拡散させる球体を投げ出す。 ぱん、とはじけた音を耳のすぐそばで聞いて首をすくめた。肩頬と首筋になにやら生暖かいものが降りかかった。手で拭い取る。顔の前にもってくると、指先が赤黒く汚れていた。 「念のため。隣の車両に移る前にリリウムから治療を受けた方がいいわ」 すぐ後ろに律が立っていた。 律は座席にかかる白い布を取ると、血で穢れた拳を拭った。 車中に響く振動音がごぅと大きくうなるような音に変わった。ややあってから霧の色が少し暗くなり、風の音が加わった。どうやら海の上に出たらしい。 「あとからリリウムと来て。時間がない。私は一悟と先を急ぐ」 海を渡るのに2分とかからない。渡り切ってしまえば駅まで1分弱だ。 「ちっ! ちょっと時間をかけすぎたな。飛ばしていくぜ!」 一悟が横になって畝傍の傍をすり抜けていく。律が後に続いた。 反対側ではリイフィアが次の車両へ移るべく扉を開いていた。 ● 「後ろの車両に助かった皆様がいらっしゃいますから、ひとつに固まりますと心強いと思いますわよ」 治療を施したあと、リイフィアは老婆の手を取って励ますように叩いた。立ち上がるのを手伝い、足をやや引きずって歩く曲がった背に、「慌てないで、ゆっくり」と声をかけた。 「よっしゃ。なんとか駅に着く前に終わりそうだな」 赤い蝶を弾き飛ばしてクラースが言った。ミストが掌に拳を打ちつける。 「残すは先頭車両のみ。はやく行きましょう!」 「はいはい。男ふたりは先に行っといて。うちはもうワンフレーズ、歌っていくから」 リイフィアはバックパックを抱えて座る青い目の青年の治療に取り掛かった。言葉が通じない分は、不安を取り除く笑顔で語りかける。青年は耳になじみのない響きの言語で短く礼をいうと、バックパックを背負って後ろの車両へ移って行った。 「ん? リイフィアっち、どないしたん? なんか顔色が冴えへんな。うちの歌を聞いて元気出し」 「え、あ、ううん。蝶の毒にやられたわけじゃありませんわ。ちょっと……」 「ちょっと、なに?」 発車寸前の列車に飛び乗ったあとで、リイフィアの頭の中にちょっとした疑問が芽生えた。それは蝶を倒し、人々を癒して車両を移るたびに大きくなっていった。 珠緒を前にして、微かなため息とともに胸にあった不安の塊を吐き出す。 「何かおかしいと思いませんか?」 なぜこの電車は止まらない。それを言うならなぜ定刻通りに出発したのだ? 「それはあれちゃう。人の頭が爆発するわ、気持ちの悪い蝶は飛び出してくるわで怖なったんちゃうの? 運転手さんやなくても逃げ出したくなるで」 「それなら乗車ベルを無視して電車を出せばいいと思いませんか?」 反論しようとしたが、珠緒は乗車前のあわただしい瞬間を思い出して口を閉じた。 ホームの端に車掌が立っていた。ゆっくり指さし点検をしたあと一度車内に引っ込んだが、再び駆けこみ乗車に備えて半身を電車の外へ出したのを何気なく目にしていた。 見慣れた光景。でもそれは―― 珠緒が目を見開くと同時に列車のスピードが上がった。 「あかん! リイフィアっち、急ぐで!」 珠緒がリイフィアの手を取って駆けだす。扉の向こうからクラースとミストの怒声が聞こえて来た。 「ここを開けろ!!」 ● リリウムが立ち上がった直後、急に列車のスピードが上がった。がくん、と体が後ろへ引っ張られ、シートヘッドにつかまる。 小さな悲鳴が座席のあちらこちらから上がった。母親に抱かれた赤ん坊が顔を真っ赤にして泣き出す。 「何? 何が起こっているの?!」 リリウムはなんとか笑顔を繕うと、何でもありませんよ、と言って腕に縋りつく若い母親の手を振りほどいた。 「坊やと一緒にここに座っていてください。国際線ロビーにいるご主人も私たちの仲間がきっと助けていますわ。また会えますから……必ず」 精一杯の慰めると、翼を広げて散乱した荷物と血で滑る通路の上を飛んだ。息を飲む音が聞こえたが、神秘秘匿を気にしている場合ではない、と直感が告げている。急いで最後尾の車両に向かわなくては。 降車口に毛布で隠された死体が固められていた。リリウムはデッキに立ち、最後の取っ手を握った。途端、激しい振動で扉がたわむ。ドアを無理やりスライドさせて開くと、頭をこちらにして一悟が倒れていた。 「リリウム、支援して!! ここは蝶が多すぎる」 叫ぶ律の先、割れた頭の向こうに車掌服で身を包んだ金髪の男がいた。金髪? 律がフェイントをかけたあと、畝傍が金髪の、ひどく目が離れた男へ向かって突っ込んで行く。 畝傍の拳が腫れ上がった頭に届く寸前に、男は両腕を怪しく回した。 とたん、畝傍が座席の上を飛んでリリウムのすぐそばの壁に叩きつけられた。一悟もあれにやられたのだろう。 リリウムは飛んできた蝶を真横へ叩き飛ばすと、倒れている一悟と畝傍を見下ろした。回復といってもできるのはせいぜいがバッドステイタスの軽減だ。それでもリリウムは倒れた2人を順にデッキへ引きずり戻し、ブレイクフィアーをかけた。 一悟たちはそれぞれ壁に手をついてよたよたと立ち上がった。 「ふたりともここにいて。狭い車内じゃ4人一緒に戦えないわ。でももし間に合うなら――」 畝傍が首に手をあてたまま、わずかに顔をしかめて頷いた。 「ちょっと前にミストくんからAFに連絡が入りました。運転手もやはりアザーバイド……あちらへは私が行きましょう。では、駅で」 リリウムは一悟を後ろへ従えると、律を支援すべく扉を開いた。ジャスティスキャノンで律の頭上を舞う蝶を撃ち落すと、すっと座席へ体を移す。 「律! 頭下げろ!」 一悟がアザーバイドの首を切り落とさんと蹴りを放った。敵が両腕で首をカバーする。その機を見逃さず、律は気合とともにアザーバイドに向かって突進した。 ● 畝傍が先頭車両に向かって駆けているころ、ミストとクラースのふたりは運転席の壁を懸命に壊していた。壁と一緒に吹き飛べとばかり、アークリベリオンの力をフルに使って攻撃を続ける。 ミストの拳が割れて血が噴き出す。嫌な音とともにクラースの足が折れる。 「痛たっ!! あー、くそッたれが!」 「いい加減しぶといですよ! さっさと死んでください!」 「ちょ、ふたりとも物騒な物言いになっとるで。うちらはリベリスタやさかい、もうちょっとお上品に!」 珠緒が癒しのリズムに乗せて歌うそばで、リイフィアが癒しの風を吹かせる。手厚い回復支援のおかげで、傷はすぐに癒えた。 対して運転席に座るアザーバイドは攻撃を受けた分だけボロボロだ。なのに列車は止まらない。 「もう死んでいるのではありませんか?」 リイフィアの疑問にアザーバイドは狂った笑いで答えた。 「ひっ!」 全員、耳を手で抑えてしゃがみ込む。耳から錐を突っ込まれ、そのままかき回されるような痛みが走った。 クラースが立ち上がった。耳朶から流れ出る赤い血を黒いカソックに染み込ませつつ拳を固める。 「絶対に逃がさん!」 怒りを込めた強烈な踏み込みに衝撃波が生じた。拳とともに撃ち込まれた波動はアザーバイドの体半分を吹き飛ばす。が―― 「あかん、止まらん……もう駅についてしまう」 ――諦めるな! 雄叫びとともに畝傍が一筋の光となって運転席に突っ込んで行く。 特徴のある特急列車の青い顔が吹き飛ぶと同時に、列車は駅ホームの半ばで止まった。 「それでは、みなさん。頑張って後始末を始めましょうか」 フィアキーを肩にとまらせたリイフィアの顔は疲れ切っていたが、達成感に輝いていた。 ● 空港島の北端にあるポートターミナルに白いカンカン帽をかぶった老人が1人。ゆうゆうとした足取りで高速船ベイシャトルへ乗り込んでいく。 老人の顔を見る者がいたなら息を飲み込んでいただろう。目が離れているという次元ではない。ほとんど真横についている。 「ふぉ、ふぉ、ふぉ。ご苦労、リベリスタの諸君。せいぜい頑張りたまえ――」 老人を乗せた高速船はゆっくりと岸壁を離れ、一路海上を神戸港へ向けて走り出す。普段なら空港の監視システムに引っ掛かり、密航などとてもできないのだが、このパニックで麻痺した警備網と霧が船を逃がした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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