●研究とは ――フェイトを得るための研究。 覚醒してフェイトを得られない者の末路を知った人なら、誰もがこの理不尽をどうにかしようと苦悶しただろう。 ノーフェイスとして逃亡しながら、偶然フェイトを得るものもいる。だが全ての人間が同じ方法で等しく運命に愛されるわけではない。そもそも運命というモノの正体すら、誰も知りえない。 しかし、研究者は研究をやめない。その研究で誰かが救われるのなら、例え雲を掴むような話でも諦めるわけにはいかなかった。 しかし現実は非常である。理論の成立が難しい以前に、この研究には大きな壁があった。 そもそもノーフェイスは元々人間なのだ。倫理や良心がノーフェイス達を実験動物同様に扱うことを拒絶する人も多い。 仮にそれを気にしない者がいたとしても、ノーフェイスは普通の人からすれば充分に危険な存在である。フェーズが進めばリベリスタ数人でも押さえられない個体もいる。そんな対象相手に悠長に実験などできるはずもない。 そしてこれが一番重要なのだが、研究対象であるノーフェイス自体の確保である。理論の確保には多くの『サンプル』が必要になる。簡単な実験でも50は超えるノーフェイスを、どうやって確保し管理するのか。 きびしすぎる壁に諦念の言葉をはき、研究者は膝を折る。 しかし、だが。 その壁を乗り越える方法を思いついたなら? ●アーク 「イチハチマルマル。ブリーフィングを開始します」 録音機にスイッチを入れて、資料を開く。 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちの顔を見ながらこれから起こるであろう神秘の説明を始めた。 「これから皆さんにはとある研究所を急襲して貰います」 は? エリューションなどの説明がまるっきり存在しない説明に、集まったリベリスタは首をひねった。 「殲滅対象はE・アンデッドが二体。アンデッドのフェーズは共に2。配下として複数のE・アンデッドを従えています」 「……研究所にアンデッド?」 「順を追って説明します。この研究所では『ノーフェイスにフェイトを与える実験』を行っていました」 ざわめくリベリスタ。その研究が叶えば、今以上に救える人が増える。 しかしそんな希望を砕くように和泉は首を振り、言葉を続ける。 「しかしその研究は遅々として進みませんでした。実験に必要なノーフェイスの確保ができなかったためです。 しかしそこの所長はこう考えたようです。『ノーフェイスが足りないのなら、ノーフェイスを作ればいいじゃないか』と」 「ちょっとまて。ノーフェイスなんか簡単に作れるものなのか?」 「まさか。 ですがその所長はそれが可能と思ったのでしょう。一般人をさらい、増殖性革醒現象を利用してノーフェイスを作る。覚醒しなければ次の一般人を。覚醒すればそれを研究に使用する。そうやって五十を超える罪なき一般人がそこで殺されたようです」 「……まさか『複数のE・アンデッド』って言うのは……?」 「はい。そこで殺された一般人の肉体です。 そして研究所長は命を失い、アンデッドになってもなお実験を続けています」 モニターに映し出される研究所の地図。『ARK』とマークされた赤い矢印が二本と、アンデッドと書かれた青い矢印が二本。 「皆さんは研究所に潜入し、研究所長のアンデッドを倒してもらいます。 陽動部隊がE・アンデッドを抑えている間に侵入し、本丸を討つ。そういう作戦です」 「侵入のルートは?」 「地図は用意できました。セキュリティなどは存在しませんので、陽動が効いている間は問題なく開いての場所にたどり着けるでしょう。ですが……」 「何か不安があるのか?」 「……研究所長の護衛に数体のE・アンデッドがいます。そして彼らは元ノーフェイスで『フェイトを得た覚醒者』をひどく恨んでいます。 運命に選ばれなかったがゆえの苦悩。運命に選ばれなかったがゆえの苦しみ。それが彼らのエネルギーです。それはまっすぐにあなたたちに叩きつけられるでしょう」 それは理不尽な怒りだ。八つ当たりといってもいい。そもそも彼らを殺したのは研究所長なのだ。 しかし怨嗟とは理屈ではない。人は怒りをぶつける対象とそれなりの理由があれば感情をぶつけてしまうものである。万人が不幸に耐えて笑顔でいられるわけではない。 「研究所長を倒せば、彼の配下であるアンデッドは制御を失い烏合の衆になるでしょう。そうなれば表で交戦しているアンデッドも事実上無力化します。 辛い戦いになると思います。ですが、皆さんなら成し遂げられると信じています」 和泉はそう激励して、リベリスタを送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月16日(火)23:49 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●十八の戦士 十八人のリベリスタは無言で破壊器を付き合わせ、作戦の成功を誓う。 正義の為、怒りのため、名誉の為、私欲のため。集うものの意図は様々だが、今ここで破壊器を重ねたように、勝利への誓いは変わらない。 さぁ、行こう。終わらせる為に。 ●潜入 研究施設の廊下は非常用の電灯がともっている程度の明るさだが、移動には何の不都合はなかった。 五十体を超えるアンデッドは、その殆どが門のところに集中しているのだろう。何の気配も障害もなく、彼らは廊下を進んでいた。 窓の外を見やればスキルの応酬による戦闘音と閃光が目に映る。彼らのためにも手早く戦闘を終わらせなければならない。 そして彼らは研究施設の最奥に到達する。九体のエリューションアンデッド。そのうち八体はノーフェイスの成れの果て。そして一番奥で実験をしているアンデッドは。 「リベリスタか」 山崎正也。かつてノーフェイスを救おうとした一科学者。その成れの果て。 「何用か? ここはノーフェイスにフェイトを与える為に作られた研究所。 ノーフェイスを救いたい。リベリスタなら誰もが理解できる感情のはずだ」 それは理解できる。誰だって理不尽に覚醒させられて殺されるなんて、真っ平だ。そして殺すのもまた真っ平だ。 それが成し遂げられたのなら、どれだけ誇れることだろう。あの泣き顔を。あの諦念を。あの絶望を。……命を奪うあの感触を。感じずにすむのならそれはすばらしいことなのだ。 ノーフェイスを救うことができるのなら、どれだけすばらしいことか。そんなことは言葉にするまでもない。 だからこそ。 「気に入らねぇ」 がん! 壁を叩いて『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)は叫ぶ。短く。しかしきっぱりと拒絶を乗せて。 他のリベリスタたちも同様に拒絶の意を示している。納得でくる理想だからこそ。だからこそ。 「邪魔立てするなら排斥する」 その怒りを受け流すように正也は手を掲げる。元ノーフェイスのゾンビたちが動き出した。 ●狂科学者 先ずはアンデッドの強化を。そう思っていた正也の横っ面を『Trompe-l'œil』 歪 ぐるぐ(BNE000001)の放った予告状がかする。出血こそしないものの、行動を削ぐことはできた。 『研究成果を頂きマス』……それを読み取り、正也はぐるぐを見る。眼帯をつけた怪盗ルック。予告状にかかれてあるとおり、彼女は正也の研究成果を全て頂くつもりであった。 「ノーフェイスを救いたい。その気持ちが共通のものであるのなら」 ぐるぐとてその気持ちは理解できる。正也を一方的に『悪』と断ずる気はない。文字通り命を削った彼の研究成果は、盗むに値すると評価していた。 「常識に縛られない、貴方にしか見えなかった研究成果を共有して頂きたいのですよ」 「では見せてやろう。倫理に縛れず、際限なく進む研究を。だがそのためにはノーフェイスが足りない。フェイトを持った人間が足りない」 「研究自体は確かに善行だと思いますです。しかしそれで人を殺すようでは本末転倒だと思いませんか?」 「本末転倒? この研究を為さねばどの道ノーフェイスが殺される。ならば彼らの犠牲は尊い犠牲だ」 「尊い犠牲、っつー大義名分は良く聞かされるよ。決まってクソな奴からな!」 戦闘開始から突撃し、アンデッドの相手をしながら『不退転火薬庫』宮部乃宮 火車(BNE001845)が叫ぶ。流れる水のように穏やかな心を維持しながら、、その拳は赤く熱い。『鬼』と『爆』と書かれたガントレットをアンデッドに叩きつけ、正也を指差し、 「ノーフェイスを救いたい? 結構な事だ。その為に出なくて良かった犠牲まで出してりゃ世話ねーぜ!」 「だがその犠牲があるからこそ研究は進む。幾万の命の犠牲あるからこそ、一つの病は克服できるのだ」 医学の発展は、幾多の実験の上で成り立つものだ。その実験には犠牲が伴う。科学の発展が犠牲なく進んだ、なんて都合のいい奇跡を信じるほど子供じゃない。 「先輩は頭が良いからなぁ? 個人の勝手な我侭をリベリスタ全体の問題に摩り替えた って訳だ」 「なんだと?」 「はっ! どう言い訳しようがテメーのやったことは誘拐と人殺しだ! それもテメーの欲望から生まれたな!」 「ノーフェイスを救いたい。それを忌むべき欲望と蔑むか」 「人を救うという行為が必ずしも美徳に溢れたものでない好例ですね」 後方から九七式自動砲で戦場全体を掃射しながら火車のセリフの後を継ぐ『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)。 「時として殺すよりも罪深く凄惨にして残酷。戦場より病院の方が死人の数は圧倒的に多いという事です」 「当然だ。命を扱うということは命を奪う覚悟が必要だ。何処まで奇麗事を並べたところで、犠牲なくして発展はありえない」 他人を蹴落とすほどの競争心が文化を生み出し、文明は数多の破壊を生み出す戦争と共に発展する。現にモニカの銃も戦争がなければ生まれなかったものだ。 「月並な意見ですが、そんな苦難に耐えてこそ真の慈悲というやつじゃないですかね。狂気に走った時点でそれは他者の為ではなく自身への甘え」 甘さで人は救えません。と言葉を添えて左手でスカートのすそをつまんで慇懃に一礼した。 「私が弱かったということか?」 「最初は崇高な理念の下に研究してたのかも知れねぇ。犠牲者を出すのは本意じゃねぇのかもしれねぇ」 ラキ・レヴィナス(BNE000216)はグリモワールを構える。荒ぶる覇気が場を支配し、濁流のようにアンデッドたちに襲い掛かる。その所業はまさに蛇の如く。静かに鎌首をもたげていたかと思うと、次の瞬間にはアンデッドたちに襲い掛かっていた。 「だけどな、今じゃお前は自分を正当化するのに必死じゃねぇか!」 覇気をそのままにラキは言葉を放つ。どんな理想を抱いていたにせよ、こんな実験は間違っている。それだけは間違いないのだ。 「正当化、なのではない。真に正しいのだ。犠牲の果てにこそ救われる命がある」 「どう言おうとも、こいつ等を殺したのはお前の自分勝手な夢だ。それを研究の為とか逃げてるんじゃねぇよ!」 「命を救うために命を犠牲にする。この事実から目をそむけることこそが逃げだ」 正也は懐からアンプルと呼ばれる小瓶を取り出し、親指で蓋の部分を割る。気化した物体がアンデッドたちに届き、その活力が膨れ上がる。 「おおおおお、フェイトを、フェイトをよこせリベリスタぁ!」 「俺たちもぉ、世界い愛されたかったぁ!」 フェイトを持つものに対する理不尽な怒り。この恨みこそが彼らの活動源。叫び声をあげて襲いかかるアンデッドを、リベリスタたちは迎撃する。 ●呪う死者 「フェイトに愛されなかったのは不幸じゃったかも知れんが、その恨みつらみをわらわ達に向けられるのは心外じゃわい」 『エア肉食系』レイライン・エレアニック(BNE002137)はアンデッドたちの攻撃を避けながら、猫の爪を模した武器をふるう。いや、それどう見てもバールだよね? 確かに先端二股だけど。ネコの様にしなやかに身体を丸めると、研究所の天井や壁を蹴って多角的にアンデッドを殴打する。 あの時フェイトと若い身体を得て、レイラインはリベリスタになった。その偶然がなければ、あるいは彼らと同じくフェイトを得れない不幸を嘆いていたのだろうか? 恨むことでしか己を保てない存在になっていたのだろうか? だがそんなことを想像することに意味はない。現実として彼女はフェイトを得て、ここにいる。その事実が大事なのだ。、 「フェイトがあれば苦しくない? フェイトがあっても辛いことは沢山よね」 魔力の雷をその手に溜めながら、『ぐーたらダメ教師』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)は言う。放たれた雷光は研究施設を駆けて荒れ狂い、アンデッドとその後ろの正也を貫いていく。 「ふざけるなぁ! フェイトを持ってなにがつらいんだぁ!」 「主にこんな理不尽でやり切れないお仕事とか」 叫ぶアンデッドに言い放つソラ。世界に愛され、特殊な力を持つリベリスタにしかできない仕事。それはけして華々しいものばかりではない。英雄なんて程遠く、陰惨な殺し合いであることもある。今回のように、誰かの不祥事の後始末であることもある。 「生きるということは辛いことよ。フェイトの有無に関わらず」 「だまれぇぇ!」 叫ぶアンデッドの牙を受け止めたのは、夏栖斗。炎の紋様が入ったトンファーが、がっちりとその牙を受け止める。 「恨んでもいい」 アンデッドたちの恨みをひきつけるように夏栖斗はいう。 「ノーフェイスを倒すのはリベリスタの責任だ。アンデッドになってたってお前らを人間として命を奪う」 リベリスタとしての責務。御厨夏栖斗一個人の感情。それら全てを乗せて言葉をつむぐ。彼らの命を背負うことは重荷だ。正也のように『研究の為』と割り切ってしまえば間違いなく楽なのに。 「一生僕のココで背負ってやる。背負うものが重すぎるくらいで丁度なんだ」 なのにけして忘れぬと誓いを立てて、胸に手を当てて夏栖斗は叫ぶ。 アンデッドの肉体に手を添えた。気を伝達させ、内部からアンデッドを破壊する。崩れ落ちるアンデッドの唇が、感謝の言葉を吐いたように見えたのは気のせいか。 ヒーロー。彼が夢見るその存在に、一歩近づけただろうか? 「かわいそーだけど、なったものは戻らないし。俺生きてる人間にしか興味ないからさぁー、悪いね!」 『七色蝙蝠』霧野 楓理(BNE001827)は優しい歌を奏で、リベリスタたちを癒していく。旋律は身体に染み渡り、心の緊張を適度に解いていく。痛みが引けば、武器を握る手にも力が篭っていく。 「運命に平等なんかねーんだけどな」 楓理は思う。常にこの世は不平等だ。生まれた場所により不幸になることもあれば、幸運になることもある。戦場医として戦場を駆け巡り、結果フェイトを得た彼にとって山崎の研究自体に意味を見出せない。 (優し過ぎるあんたに研究者なんて向かなかったって事さ) 後ろに控える正也を見ながらにやりと笑う。事実、彼は命を失いそれでもなお狂気に捕われている。ノーフェイスを救いたいという想いを諦めることができれば、あるいはまっとうなリベリスタだったとして世界を救っていたのかもしれない。 「まぁ、どーでもいいや。ささっとお仕事しようぜー」 気だるく言い放ち、アンデッドの群れを見る。早くここを終わらせないと、表のリベリスタたちにも影響がでる。討伐は早いに越したことはないのだ。 妥協することはありえない。共に譲れぬ道を進んでいるのだ。 ●攻勢 リベリスタの前衛は四人。アンデッド全てを止められるはずもなく、何体かは後衛に殺到する勢いがあった。 だが、それを止めたのは火車の一言だった。 「オレには特殊なフェイトがあってよ? オレ殺ればフェイトを得れるぜ!」 「なんだってぇぇぇ!」 「おおおおおお! オレのものだぁ!」 「なに……!?」 驚いたのは正也。無論火車の言動が嘘だとわかっているが、それをアンデッドたちに納得させる言葉が思いつかない。 フェイトを求めるアンデッドたちにとって、その目的であるフェイトを得られると聞かされれば殺到しない理由はない。結果、七体のアンデッドが火車に集まりその血肉を食らおうとする。防御に身を固めるも、その気迫に押されるように体力全てを削り取られる。 「いてぇなぁ。だがまだオレは生きてるぜぇ!」 運命を燃やして起き上がる火車。ラキに視線を向けて、大声で叫ぶ。 「ここで一発かましてやれよ!」 ラキは火車の視線と言葉から意図を読み取る。荒覇吐。高火力の範囲殲滅スキル。アンデッドが一箇所に集中しているいまこそチャンスだが、今使えば火車を巻き込むかもしれない―― 躊躇はしなかった。火車の覚悟を受けて、ラキは覇気をうねらせる。まさに蛇神のように螺旋を描き、濁流のように激しく気は叩きつけられる。質量を持って叩きつけられた気の波は、アンデッドの殆どと火車を戦闘不能に追い込んだ。 「……火車!」 「いい一撃だ……!」 親指立てて火車は力尽きる。リベリスタたちは犠牲の上でできた活路を進み、正也に肉薄する。 「もう終わった場所だけど、徹底的に終わらせてやる」 トンファーを回転させながら夏栖斗が正也に迫る。真正面から相手をひきつけてたてになると同時に、その挙動に注意するために。 「終わり? 研究は終わらない。人としての倫理もして、寿命からも解放された。いつかたどり着く真理に向けて、私は進み続ける」 「やってることは確かにリベリスタが成し遂げたいことだ。だけど、そのためにノーフェイスを作るなんて本末転倒だ!」 「『ノーフェイスを救いたい』……これだけなら理解してあげる。でも『ノーフェイス化するまえに救う』……これが重要よね」 だから、ココで行われた実験は許せない。その思いを込めてソラは毒の魔弾を撃ち放ち、正也を捕らえる。死者すら蝕む魔なる毒。それがじわじわと正也の生命力を削っていく。 「理想を語るには力が要る。現実に打ち勝つ力が。 貴様等に見せてやろう。圧倒的な力を」 正也の手のひらに展開する魔方陣。それが『何か』を形成している。 怪盗の洞察力でぐるぐはそれが何かを解析する。魔により特定の空気中の元素を集め、物理法則では形成できない物質を生み出しているのだ。 「くるぞ!」 マテリアル697。回復も復活も許さない対エリューション用の化学兵器。肌から侵入し、肉体を破壊する科学と神秘の結合物質。不安定な物質はすぐに崩壊し、空気中にはじけ飛ぶ。 しかし正也は忘れていた。正確にはその可能性を排除していた。 「あなたたちの前では憚れる行為です。つくづく世界は不公平だと思いますよ」 震える足で立ちながらモニカが正也に言う。その一言で正也は理解した。 「フェイトを削って復活した……だと……!?」 運命を燃やし戦闘不能から起き上がる。エリューションにはできず、リベリスタにできる戦い方。自ら得たフェイトを削るなど、フェイトの重要性を頭に置き研究する正也にとって考慮の外。 疲弊した前衛はもちろん、後衛すらも致死一歩手前のダメージを受けていた。唯一ノーダメージなのはモニカに庇われたぐるぐのみ。そしてそのぐるぐは。 「これは……無理みたいね」 正也と同じように魔方陣の展開はできる。が、肝心要の効果は期待できない。人とエリューションでは理が違うのか。魔方陣は何の効果も為さず消えていく。 「だがもう一発は耐えれまい。私の研究材料となるがいい」 正也は再度マテリアルを放とうとして、 「お前の研究はもう終わってるんだよ!」 夏栖斗のトンファーが迫る。突き出されたトンファーは正也の心臓があった場所を貫く。気がトンファーを通じて伝わり、正也の内部で爆ぜた。 「ノーフェイスを仕方ないで済ませたりはしない。理不尽で辛い世界かもしれない。 だからこそ自分の正義を貫くんだ」 トンファーを抜いて軽く振るう。悲鳴なく狂科学者は崩れ落ちた。 狂気に満ちたその命と研究は、今終わったのだ。 ●死者よ、安らかに眠れ 楓理は怪我人を癒した後で、研究施設を弄る。医者として研究者が重要なファイルを仕舞いそうな場所を特定し、それを集める。 電子化されているものも含めてかなりの資料が集まったが、最も重要なものがどれかを調べる時間はない。研究成果は全てアークに預けよう、という結論に陥った。 「さて、陽動組はどうなっておるじゃろうな?」 アクセス・ファンタズムで外で戦っているリベリスタたちと連絡を取るレイライン。向こうの方も、一段落ついたようだ。 「無事か。それは良かった。戦いが続いててたら援護してやろうと思ってたがの、残念じゃ」 本当にそんな状況だったとして、こちらに助けに行く余力はなかった。だが余力がなくとも仲間の為なら彼らは躊躇なく行く。言わずともそれは通じていた。 「かもーん! よーじょの罵りかもーん」 「全く節操ないロリ老人ですね。欲を出しても棺おけ代にしかならないと思いますよ」 その向こうではモニカのスキルをラーニングしちゃえ、と息巻いているぐるぐがモニカの罵りを受けているところであった。……容赦なく罵っていますが、そういうスキルなのであしからず。そして、 「……無理っぽい?」 「七夕に気まぐれな神様からもらったものですから、模倣品扱いなのでしょう」 はうぅ。と膝をつくぐるぐ。その様子に緊張していた空気が解けて、リベリスタに笑みの表情が浮かぶ。 痛む身体を押さえつつ、研究所の外にでる。外には陽動のため戦っていたリベリスタたちが待っていた。向こうも無事のようだ。重傷者もいるようだが、死者はいないようだ。 そしてリベリスタはアークに戻っていく。いつもの日常へと。 狂気の果てに生まれた研究は、ここに全て沈黙する。 彼よ。安らかに眠れ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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