● オルクス・パラスト首魁シトリィンの要請を受けて欧州異変の調査に赴いたアークのリベリスタ達は、そこで出会ってはいけないものに出会ってしまった。あどけなく可憐な少女の姿を取った怪物の名は『ラトニャ・ル・テップ』。その名前が何を意味するかは本当の意味で定かでは無いが、連想するのは簡単である。異世界より来たという自称『神』はバロックナイツの一員。驚くべきか『フェイトを有するミラーミス』であった。 『混沌の種子』と呼ばれるアーティファクトに似た我が子を人間社会に撒く事で長い時間の暇潰しを行ってきた彼女は、その内の一つである『渇望の書』の沈黙でアークに興味を持ったのだ。 世界的に広がっていた恐怖事件が彼女の興味のままに日本に集中していく。日本の運命はアークのリベリスタ達の双肩にかかっていた。 ● ごぽり 潮の匂いを乗せた風が街に流れ込んでくる。 初夏とは言うがまだ夜の風は厳しい。人々は気まぐれな風に一喜一憂しながら、今日という日を終えようとしていた。 ある者は家での家族との団欒を楽しみに。 ある者は家に帰ってやりかけのゲームをクリアしようと。 ある者はこれから仕事が始まる所だ。 その誰もが疑っていない。昨日と同じように今日も終わり、そして明日がやって来るのだと。 ごぽり 海の中からそれらは現れた。 全身を甲皮に包んだその生き物は、蝙蝠のような翼を広げ、不気味に付属肢を蠢かす。 その向かう先は……。 ごぽり 「おい、何だありゃ?」 「えっと……虫? ちょっと待った! こっちに飛んでくるぞ!?」 港町は瞬く間に阿鼻叫喚の地獄と化した。 翼を生やしたザリガニに似た生き物が街へと飛来してきたからだ。昆虫サイズであってもおぞましいその怪物は、あろうことか人間並みのサイズで人々を蹂躙していく。 また、一部のものは暴れる人を抱えて、いずこかへ飛び去って行った。 そう、人々は知らなかった。 世界というのは常に壊れ続けているものなのだと。 人々が知っている「今日」と言う日は、「彼ら」のえげつない悪意でいともたやすく破壊されてしまうものなのだと……。 ● 次第に暑い日が増えてきた5月のある日。リベリスタ達はアークのブリーフィングルームに集められる。だが、部屋の空気は決して明るいものではない。そして、リベリスタ達に対して、『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は事件の説明を始める。元々、身体が弱い彼だが、普段以上にその表情は蒼白だった。 「これで全員だな、説明を始めるぜ。あんたらにお願いしたいのは、アザーバイドの討伐……そう、相手は最近姿を見せているあの連中だ」 現在、日本全国を舞台に同時多発的に大規模な事件が起きようとしている。欧州を震源地に昨今頻発している極めて無残なアザーバイド事件群が日本をターゲットに定めたようだ。既に通常のフィクサード事件やエリューション事件とは桁外れの危険性・被害規模が推測されている。アークはこの対応に全力を挙げる事になるだろう。 「みんなに向かってもらうのは神戸港だ。そいつが本格的に動き出す前に倒して欲しい」 守生が端末の操作を行うと、スクリーンには蝙蝠の翼を持つ甲殻類が表示される。 「識別名『ミ=ゴ』。こいつが大量に発生して、神戸港の人々を殺して回ろうとしている。中には連れ去られるものみいるようだ。何としてでも止めてくれ」 今回は『万華鏡』の感知タイミングが遅れ、精密に彼らの移動ルートを絞り込むことが出来なかった。となれば、リベリスタ達が自身の感覚で探し出すしかない。効率の良い移動手段・能力があれば、素早い対応も出来るだろう。 相手は飛行能力もあるために、それについても対応できれば御の字と言った所か。 「こいつらの戦闘力がそれ程高くないのは救いだな。俺としてはある程度のチームに分かれて行動することを勧めておくぜ。連中もまとまった行動をするつもりはないようだしな」 『ミ=ゴ』達は1体ずつで行動しているし、仲間の危機に増援に駆け付けるような真似はしない。 個々の戦闘力を見るに相性を抜きにすれば、2対1であれば十分勝てるだろうし、実力者なら1人でもどうにかなるだろう。駆け出しのリベリスタでも3人集まればどうにかなるはずだ。 「こいつらの目的は不明なままだ。ただ一応、こいつらに関しては多少見えてきた情報もある」 この事件を関わりがあると推測される情報としては、先のオルクス・パラストからの調査依頼で遭遇した敵は異世界の神を名乗った存在――『ラトニャ・ル・テップ』という少女が挙げられる。この世界の『恐怖神話』にも語られる存在は『ニャルラトテップ(それそのもの)』ではないが、物語が真実を口伝のように伝えている可能性は否めない。部分的にそれに近しい存在なのかも知れない。 実際の所の正体が完全に判明した訳ではないが、シトリィンの追加調査によれば現在のラトニャは同時にバロックナイツの一員、厳かなる歪夜十三使徒第四位『The Terror』であると考えて間違いないらしい。彼女自身もラトニャに遭遇した事があり、『暗黒の森の大消失』と呼ばれる事件では当時のリベリスタ組織『クラウン・アクト』が壊滅する大敗を喫した事があるとの事。 今回の事件には彼女の影響が強く疑われている。 彼女が本当にミラーミスだとするならば、同じ世界のアザーバイドが『侵略』の動きをしてもおかしくないからだ。ラトニャの目的は不明だが、調査隊の受けた感触からして彼女がアークに強い関心を持っているのは間違いない。 余りにも唐突だったため、何の前触れも無く生じたこの異変について、被害を完全に防ぐ事は難しいだろう。非常な危険が予測される任務ではある。それでも、捨て置けば日本が崩界の震源地になるのは間違いない以上、戦うしかない。 「説明はこんな所だ」 説明を終えた少年は、その鋭い瞳で睨むように、リベリスタ達に送り出しの声をかける。 「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月23日(金)23:17 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ほんのひと時前まで平和だった街は、恐慌状態に陥っていた。誰一人として、何が起きているのか理解できない。ただ分かるのは、不気味な怪物が人々を連れて何処かへ飛び去っていることだけだ。 怪物にしてみれば難しいことなど何もない。 怯え惑い、恐怖する人々をそっとつまみ上げるだけの話。 多少抵抗するものがいても、黙らせることなど難しくは無いのだ。ちょいと毒の爪で引っ掻けば大人しくなるし、そもそも彼らの抵抗などどれ程のものだというのだ。 だから、その怪物も周りと同じように適当なものを選ぼうとしていた。 その時だった。 「人様ん庭で何しでかしてくれんだぁ? 遊びましょとかお邪魔しますとか、挨拶の一つもありゃしねぇ」 バイクが唸りを上げて、怪物の前に立つ。乗っている男は剣呑な気配を漂わせ、怪物を睨んでいる。放っておいても良かったのだが、怪物は新たに現れた男を捕えに向かった。活きが良いのに越したことはない。 その時、男――『消せない炎』宮部乃宮・火車(BNE001845)の手甲に『火』の文字が浮かび上がる。 「そんな奴らぁ門前払い。天下泰平、世は事もなし」 怪物に火車の燃える拳が突き刺さる。 その時初めて、火車は凄惨な笑みを浮かべる。 「今日もこの世はいつも通り、明日もオレは愉快なTVを見るんだよ」 「海からの来訪者と言われても早々面白くはありません。美しいものならさて置いて、おぞましい生物等……」 怪異から逃げ出す人々は、奇妙なものを目にする。 おぞましい怪物どもに一歩も退くことなく、むしろ進んでいくメイドの姿だ。怪物の姿もフィクションでしか出会えないものであるが、彼女の姿も同様だ。 しかし当の本人、『月虚』東海道・葵(BNE004950)は気にもしない。空に浮かぶ怪物を殺すに当たっては、そんなことは些細な問題だ。 「羽付で飛ぶザリガニとか、なかなか珍妙な絵面だよね。っても、知恵も力もあるとか、面倒なことになっているよ」 その後ろで『息抜きの合間に人生を』文珠四郎・寿々貴(BNE003936)はのん気な声を上げる。状況に危機感が無い訳ではない。しかし、獅子の誇りを心に持つ戦闘官僚にしてみれば、そんなことは計算のうち。それにこう見えても、感覚は十二分に研ぎ澄まされている。あんな下等生物の不意打ちを討たれる道理は無い。 寿々貴の呼んだ小さな翼が天に舞う。悪意持つ混沌を捕える道を為す階段だ。 「さて、躾の時間です。虫にわたくしの躾を理解する脳はありますか?」 葵が構えると、何かがわずかに音を立てる。彼女の持つ、不可視の刃だ。 今宵、鋼の刃は鮮血の薔薇を咲かせるのだろう。 ● 「やれやれ、ラトニャとかいう暇神(ひまじん)め。傍迷惑なちょっかいかけて来おって」 神戸港に到着した『陰陽狂』宵咲・瑠琵(BNE000129)は、空に浮かぶ異形の影に嘆息をつく。 彼女が戦うのは、崩界を防ぐ為でも人々を護る為でもなく、あくまで自分自身が楽しい日々を過ごすため。弄ばれるのは趣味ではない。 「自称『神』が何を企んでいるにせよ、売られた喧嘩は高く買うとしようかぇ?」 瑠琵はうっすら笑みを浮かべると、漆黒の輪胴式大型拳銃を構える。その横では彼女の式神となったフィアキィが、主の指示を待ちながら躍っていた。 「何かあったら、アクセス・ファンタズムで連絡だ。何かあれば対応する」 車の中から簡単に作戦の確認を行う『侠気の盾』祭・義弘(BNE000763)。 そう、この事件はただのアザーバイド大量発生事件ではない。バロックナイツの上位が関わる、危険な陰謀だ。何が待ち受けていてもおかしくは無い。 それに事件が起きているのはこの場所だけではない。 全国津々浦々で同様にアザーバイドが出現している。今また、箱舟に試練の時が訪れているのだ。 「全国で事件が多発している。手が足りないのは分かっているが、今俺が出来る限りのことをやろう」 「それにしてもザリガニもどきが今度は団体でお出ましか。出来ればもう会いたくなかったが、日本まで来られちゃそうも言ってられねぇか。」 バイクの上で『(自称)愛と自由の探求者』佐倉・吹雪(BNE003319)は肩を竦める。 彼はつい先日、アメリカで同じタイプのアザーバイドと遭遇したばかりだ。不意の遭遇戦を制しはしたものの、あの存在には空恐ろしいものを感じた。詮索するつもりも無かったし、二度と出会いたくないというのは紛れもない本音だ。 しかし、連中がアークに対して敵意を持っているのも間違いのない事実。 そのために日本が戦場になるというのなら、迫る火の粉を払うのにしくは無い。 「小説なら探索者ももれなく破滅コースなんだろうが。……矢張り似ているのは風貌だけ、所詮な何時もと同じ、ただの世界の敵か」 巨大な散弾銃の調子を確認しながら、吹雪のバイクの後ろに乗る『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)は片の眼で街を見据える。かの神話群の知識を持っている彼が、探索者達の結末を連想するのは致し方ない所だろう。その多くは破滅の結末を迎えているのだから。 しかし、喜平は彼らの存在を恐れはしない。 「やれるからやる」、ただそれだけの簡単な話だ。 「まあ、オレ達のシマに殴りこんできたからには覚悟は出来ているんだろう」 吹雪と同様、アメリカで連中と遭遇した『ラック・アンラック』禍原・福松(BNE003517)もやる気は十分。恐怖心が無いとは言わない。それでも十分「戦える」相手だ。手の届く範囲で倒せる相手なら、暗黒街の盟主(キング・オブ・イリーガル)の名に懸けて負けるわけにはいかない。 「害虫駆除と行こうじゃないか」 福松の言葉に頷くと、リベリスタ達はそれぞれの戦場へと向かっていった。 悪意を秘めた狩人達を狩るために。 ● リベリスタ達は分散すると、それぞれに行動を開始した。 アザーバイド達は街の中に拡散している。一塊で進むには効率が悪いし、全員が分散してしまうのはリスクが勝つ。だから、4つのチームに分かれて担当区画に現れるアザーバイドに対応することとなった。 「甲羅位、軽く粉砕してやる!」 義弘の握る鉄塊が鮮烈に輝く。如何なる悪鬼の存在も許さない破邪の光だ。 そして、神気を帯びた得物を力任せに振り下ろす。すると、その言に違う事無くアザーバイドの殻を砕き、嫌な色の液体を噴出させた。 「これで2匹目ですね」 「スズキの姉さん、次はどうだ?」 「ちょっと待っててねー」 淡々と葵がアザーバイドの死を確認している横で、寿々貴はキーボードを操作している。街中に置いてある防犯カメラにアクセスしているのだ。そう、彼女は電子の妖精。この程度のことはたやすいものだ。幸い、街にはそこそこの数、防犯カメラが設置されている。本来の目的を考えれば、十分に役割を果たしていると言えるはずだ。 (しかし、小型があちこちとかの状況は、すずきさんみたいな便利系は腕の見せ所よね。大型と殴り合いとか、黙々と回復するばっかりだし) こんな時に心が無意味に踊ってしまうのも不謹慎かもしれないが、寿々貴は明らかにこの状況を楽しんでいた。一点特化の強さを自分が持たないことは理解している。しかし、小技を使いこなすことなら、誰にも負ける気はしない。 「敵はっけーん。それじゃ、色々やってみよー」 葵と義弘を車に乗せて、寿々貴は弾む声気力回復に努める。今回は連戦にならざるを得ない。可能な限り、回復は行っておきたい所だ。回復を受けながら、葵は深呼吸を行う。燃費の良さに自信を持ってはいるが、こういうのは嫌いじゃない。 そして、葵は夜空を眺めて呟いた。 「さて、『本日』は晴天なり。美しき世界を護るべく……狩るのはどちらでしょうね?」 アザーバイドも次第に異常に気付き始めていた。 着実に自分達の数が減っていると。しかし、それ程しっかりした連絡の手段の持ち合わせは無かった。そこを突いて、リベリスタ達は人々を救っていく。アザーバイド達が手を打つまでの時間が長ければ長い程、リベリスタ達にとってことは有利に運ぶのだから。 それは引いては世界を守ることでもある。 「これ以上犠牲者を出すわけにはいかねぇんだよ!」 ビルの壁を足場とし、吹雪はアザーバイドへと多角的な攻撃を仕掛ける。元々、アザーバイド達は強い光が苦手だったのだろう。喜平の先制攻撃が功を奏し、相手は悶え苦しんでいる。 吹雪としては、彼らに恐怖を覚えていないと言えば嘘になる。だが、それはそれ、これはこれだ。何よりも、難しいことを考えるのは苦手。こいつらを退けてどうなる等と考えても意味は無い。そんなことは動いてから考えれば良いのである。 そして、狙い澄ました刃の一撃がアザーバイドを捉える。 アザーバイドは既に攻撃に対応し切れていなかった。とにかくやたらと爪を振り回してみるが、吹雪も喜平もまともに回避しようとすらしない。 そして、恐怖の余りかアザーバイドも逃走しようとするが、ふらふらと方向も定まらない始末だ。 「如何した? そんなに急いで」 いつの間にやら、跳躍した喜平がアザーバイドの背後を取っていた。 狙い定めるはアザーバイドの頭部。手に握る巨銃が十重二十重に呪いを帯びて行く。 「……さぁ、続きを。夜はこれからだ」 その言葉をアザーバイドが理解したかは定かではない。何故なら、その言葉が彼に聞こえるより早く、この世のすべての呪いが襲い掛かったからだ。 単独で行動するのはリスクが高い。 先ほどはそのように評したが、ただ1人例外があった。 宮部乃宮火車。 この消せない炎そのもののような男にとっては、例外と言わざるを得まい。 「聞き分け悪ぃ奴から退場する……ってモンだよな? お?」 「ひっ、ひぃっ!?」 火車が壁に拳を叩きつけると、状況を説明してくれと詰め寄っていた男は全力で逃げ出す。 腹に一撃入れて気絶させた方が楽だったかもしれない。物陰に放っておけばかえって安全と言える。そんなことを火車が考えていると、その後ろではバイクで轢いたアザーバイドが動き出していた。 「TV見んだよ、さっさと散れ」 あの程度で動かなくなる相手とも思っていなかったが、その方が楽だったのは事実だ。 何匹潰したかは覚えていないが、火車にも少なからぬ傷が刻まれている。もっとも、この程度の傷で足を止めるような男ではない。この男の炎を消すには、一般人を襲うこのアザーバイド達では物足りない。むしろ、身体が温まってきたと言うものだ そんなことを知らないアザーバイドは火車に爪を振り下ろす。 「暗いニュースな、見てもつまんねんだわ」 それより早く火車が腕を振り上げると、そこに地獄の炎が現出した。彼自身の運命すら燃やしかねない火炎地獄だ。 さしものアザーバイドも、そんなものには耐えられない。 火車は敵の死を確認もせず、唾を吐きかける。そしてそのまま、次なる戦場に向かうのだった。 アザーバイド達の動きは明らかに変わっていた。どうやら、ようやく彼らも気付いたようだ。狩る者と狩られる者、その立場が逆転していることに。 「ここは危険だ。死にたくなければ逃げるんだな」 「その辺の敵は殲滅済みじゃからのぅ。這ってでも逃げるが良い」 瑠琵の言葉に救出された女は必死に駆け出した。福松が落ち着かせた甲斐もあった、という所か。 「思いの外に人死にを出さなかったのう。尻尾巻いて逃げ出すなら見逃してやっても良いぞ?」 そして、瑠琵は残ったアザーバイドへ向かって皮肉げに笑みを浮かべる。怪物は殴りつけられ、精神力を奪われ、傍目にも弱っていた。 敵の目的が人間の拉致にあったのも間違い無かろうが、リベリスタ達の活躍によって犠牲を最小限に抑えられたのも間違いない。そこを突かれたアザーバイドは怒りのためにか、奇妙な唸り声を上げると、爪を振り上げて襲い掛かってくる。 「別に逃げるなら、これ以上深追いする気も無かったんだがな」 「手間取ればそれだけ人が死ぬ、殲滅で良さそうじゃのう」 毒の爪をいなしながら、福松は悪態をつく。しかし、アザーバイドは聞く耳を持たない。せめて、目の前の人間だけでもと思っているのか必死だ。 であれば、福松も殴られて黙っている程お人好しではない。 そもそも、時間のことも考えれば速攻で終わらせると決めているのだ。 「気色悪い甲殻類め。その殻の硬さを確かめてやるよ!」 福松は拳を握り締めると、真っ直ぐに突き出す。 それはこの上なく分かり易く断固として真っ直ぐな拳。 殴りつけられたアザーバイドは、派手に体液を撒き散らして吹き飛ばされるのだった。 「おっと、やらせはしねぇよ!」 アザーバイドの爪が逃げようとする人々に届くより早く、義弘の放つ十字の光がその身を焼いた。 人々を護るためなら、最後まで戦う気概で乗り込んでいるのだ。こんな所でやらせるわけにはいかない。その時、葵が仲間からの通信を受け取った。 「18匹目を倒したそうです」 「これで残っているのはこいつだけだねー」 寿々貴の確認出来る限り、アザーバイドはほぼ撤退を決め込んでいる。おそらく、残っているのは目の前にいるこいつだけだ。多くのアザーバイドが逃げていく中で、コイツだけは隠れ潜んで残っていた。せめて逃げ出す前に1人でも多く、等と考えていたのだろう。 しかし、寿々貴にしてみればそんな考えはお見通しだ。灯台下暗しと片手落ちを笑われるような隙を作ってやる程、彼女も甘くは無い。 不意打ちが見切られたアザーバイドは破れかぶれの攻撃を繰り出す。そんなものは義弘に通じはしない。寿々貴が支援役として十全の備えを発揮しているのだ。 そして、義弘が盾でアザーバイドの攻撃を受け流した時、怪物は大きく体勢を揺るがす。 その隙を葵は見逃さない。 「虫けらめが。煩わしい羽音を立て回って……美しい港が台無しではありませんか」 葵が手を開くとそこには薔薇の花が咲く。 実体すら得て敵を翻弄する、幻惑の武技だ。 いつのまにやらアザーバイドには薔薇の蔦――目に見えぬほどの極細の鋼の刃が絡みついていた。 「一般人を護る事も使命でございましょう……わたくしは主人が為に任務を失敗する訳にはなりません。主人の平穏を護るべく、わたくしはこの世界を護る使命がございます故」 最後に葵が刃にわずかな振動を与えると、そのままアザーバイドの身はバラバラに寸断されるのだった。 ● こうして神戸港の戦いは終わった。 今宵のゲームはリベリスタの勝利だ。しかし、『The Terror』はそれすらも楽しむのだろう。 恐怖神話は終わらない。それゆえ、『The Terror』はゲームの勝者足りえるのだから。 そして同じように、リベリスタ達は戦い続ける。恐怖神話に終止符を打つ、その日まで……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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