●受信 最初はそれが耳鳴りだとおもっていた。 ケータイやテレビやラジオ。電子機器から流れてくるノイズ。 だがそれが一定のリズムを刻んでいることに気付いた。 そしてそれが、『何かを伝える為に音を出している』ことに気付いた。 興味を持てば少しでも詳しく聞きたくなる。最高の機器を用意して、音がよく聞こえる午前二時に耳を澄ます。 そしてそれが聞こえてくる―― ●アーク 「アザーバイドの召喚をとめてきて」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったリベリスタたちに向けて淡々と説明を開始する。 「場所は石川県。海沿いの街に召喚される」 「どこかのフィクサードが変なアーティファクトでも手にいれて、実験でもしてるのか?」 リベリスタの言葉にイヴは首を横に振る。 「召喚しているのは一般人。それまで神秘に触れたことのない普通の人」 は? リベリスタはイヴの言葉を反芻する。いっぱんじん? 「しばらく前まで欧州で発生していたアザーバイド事件群。あれが日本にもやってきた」 「確か……『ラトニャ・ル・テップ』とかいったか。なんでもバロックナイトの一員で……『フェイトを持つミラーミス』」 「……歪夜十三使徒第四位『The Terror』。オルクス・パラストの追加調査ではその可能性が高いという結果も出た」 イヴが説明する事件は、先の欧州で起きた事件のことである。『ラトニャ・ル・テップ』を名乗る少女(のような存在)が引き起こした事件。 「つまり『The Terror』が日本に目を向けた、と」 「問題は三つ。一つは彼女がアークに興味を持っていること。おそらくこのアザーバイドは彼女のチャンネルからの来訪者。アークに対する何らかのアプローチ。 二つ目は侵攻が急すぎて『万華鏡』の感知が間に合わないこと。何らかの悲劇は覚悟をして欲しい」 イヴはモニターを現場のほうに戻す。大量の音響機器と巨大なパラボラアンテナ。宇宙から何かを受け止め、スピーカーから音が流れる。……傍目には音響施設で奇妙な音を鳴らしているだけの存在だ。 「まさか、これがアザーバイドの召喚?」 首肯したイヴは説明を続ける。 「『ハミング』……名称は聞こえてくる音のイメージからとった。 三つ目の問題は、音が私達の行動を制限すること。一種の攻撃だと思っていい」 「どういう攻撃なんだ?」 問いかけるリベリスタに、イヴは首を横に振った。 「……分からない。『万華鏡』は『高次元の存在から放たれる波長による攻撃』と結果を出した」 「なにそれ?」 「ともあれ注意して欲しい。『ハミング』のスペックも消して弱くはない。召喚を行っている一般人は、残念だけど正気に戻す手立てがない」 「確かにこれはな」 リベリスタは電子機器の真ん中で踊るように鼻歌を歌っている男を見た。全身を大きく振り回し、奇妙なリズムで体を動かしている。時折回転したり、ブリッジしたりと動きも奇天烈だ。最初は電波を媒介して『ハミング』を聞いていたのだろうが、今は何の手助けなしで『ハミング』の音を聞いている。人には聞こえない電波を受け取っているようだ。 「繰り返すけど。最優先目的はアザーバイドの召喚停止」 「『ハミング』が完全に召喚される前に倒せってことだな。了解だ」 イヴに見守られ、リベリスタは急ぎブリーフィングルームを出た。 ●送信 「フフフ、フフフフフー! フンフンフンフフフー! フッ、フフフフ! フガッツフフフフー! フフフフー! ウフフフフー! フフフフー! フッフッフー! フフフフフフフフフフー!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月23日(金)23:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「何て嫌な相手……!」 聞こえてくる異世界の音に狐の耳を塞ぎながら『局地戦支援用狐巫女型ドジっ娘』神谷 小夜(BNE001462)が眉を顰める。耳を塞いだところで不快感が消えるわけではない。長時間これを聞けば精神が狂うだろう。 「残念ながら、音の感性の違いでバンドは解散。ってなもんで」 無表情で音を聞き流しているのは『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)だ。だが音による侵食は確かに影響している。言葉通り、音が性に合わないのでお帰り願いたいものだ。今ならまだ、間に合う。 「何この地味な嫌がらせ」 『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)は『高次元の存在から放たれる波長による攻撃』に眉を顰めた。相手は召喚途中のアザーバイドとその影響で狂った人間。数の上では有利なのに、避けようのない嫌がらせが脳を揺さぶった。 (しゃべったらダメだなんて、変な敵だね!) 口を押さえながら『アクスミラージュ』中山 真咲(BNE004687)が戦場を見渡す。アザーバイドの姿は見えないが、確かに気配は感じる。音のアザーバイド。見えざる敵の攻撃に『ヘルハウンド』を握る手に力が篭る。 (この世界は貴様のオモチャではないぞ、TERROR!) 頭痛をこらえるように歯をかみ締め、『不滅の剣』楠神 風斗(BNE001434)が怒りの表情を向ける。鍛え上げた体力はこの程度では怯まない。剣を握り締め、狂ったように歌う人間を見る。ハミングの電波を受信した不幸な一般人。彼もまた、『The Terror』の犠牲者。 「コズミックホラーか」 『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680) は吐き気をこらえるように苦々しく告げる。宇宙から見れば自分たちは微々たる存在。この音がどう影響して自分達の肉体に影響するか。理解はできないが、理不尽を受けて戦うことはいつものことだ。 「ご機嫌な相手だけど、さっさとかえってもらわないとね」 胸元を押さえながら『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)が破界器を構える。無理やりに笑みを作って、音による衝撃に体を震わせていた。音を奏でるアザーバイド。だがラトニャの世界から来たのならお断りだとばかりにトンファーを握る。 「……っあ! きついっす……!」 ハミングの波長で一番被害を蒙ったのは『ジルファウスト』逢川・アイカ(BNE004941)だ。呼吸を整えながら、足を踏ん張る。時間は一秒だって無駄にはできない。気合を入れて足を踏ん張り、突撃のために前傾気味に構える。 ハミング。アークが称した音のアザーバイド。そのリズムは確かに鼻歌のように聞こえる。だが興味を持ったものの末路が、部屋の奥で踊っている坂田なのだ。革醒しているとはいえ、長時間聞いていればどんな影響が出るか分かったものではない。 様々な機器が奏でる異界の音楽。その音楽をBGMにして、リベリスタたちは戦いに躍り出た。 ● 「こちらが敵対せねば動かぬ相手だ。配置につくまで移動するか?」 「……いや。相手が攻撃してこなくても時間は流れる!」 「最速で動いていきます!」 ウラジミールが提案するが、風斗とアイカは首を振って走り出す。仕方ない、とウラジミールは軍帽を被りなおし、時計を合わせる。 「この一件の敵はやたらと変な事をしてきますね……!」 アイカは全力で音響室を駆ける。目線は真っ直ぐに坂田の後ろにあるパラボラアンテナに。少しでもバランスを崩せば倒れるとばかりに前のめりに駆け出し、一歩一歩を全力で蹴りだすように床を踏みしめた。 パラボラアンテナの脆い部分は見れば判る。そこに向かって拳を突き出した。鍛え上げられた肉体と、十分な助走による一撃。これが既製品なら粉々に砕け散っただろう。だが見えざる波がショックを拡散させる。 「音による壁!?」 「まぁ、簡単にはいかないと思ってたよ」 綺沙羅がキーボードを叩いて術を展開する。キーボードを叩く軽快な音が、音響室に流れる音に負けじと響き渡る。一定のリズムと音階が組み立てる術というプログラム。渦巻く熱波が炎の鳥となる。 炎の舌が音響室を舐める。高温の風が広がり、炎が機器をそして坂田を包み込む。炎は消えることなく纏わりつき、その身を焼き続ける。綺沙羅は部屋の中央にいると思われるアザーバイドに無愛想に告げる。 「異界の神だか何だか知らないけど、思い通りにはさせないよ」 「思い通りというか、ただやかましいだけですが」 半円状の破界器を構え、うさぎが疾駆する。移動しながら一撃を加え、さらにアンテナに迫っての一撃。一秒でも時間が惜しい。異界の存在の召喚を止める為に、音の震えに耐えながら足を運ばせる。 うさぎの動きは相手の意識の外から迫る暗殺者の動き。音もなく滑るように入りこむ動きは蛇の如く。ひとたび懐に入り込めばその牙が鋭い一撃を食らわせる。うさぎは無表情のまま、仲間達に告げる。 「じゃあ、耳の尖ったDTさん、ロシアヒゲさん、パンダモドキ、神谷さん、ケー二さん、中山さん、アイアイさんとお呼びします」 「DTちゃうわ! うそですごめんなさい」 礼儀として言ってみて、すぐ謝罪する夏栖斗。他の仲間の攻撃から、アンテナの硬さを理解して拳の構えを変える。烈火のごとく激しい動きをするのではなく、大地をしっかりと踏みしめる構え。 パラボラアンテナを包むようにある音の壁。目に見えないそれをイメージする。そこに手を当て、力を篭めた。力を叩きつけるのではなく、力を細くして貫くように。鋭く突き刺す衝撃が、パラボラアンテナを揺らす。 「みえない敵とか壁とかマジ厄介にも程があるぜ!」 「冷静に対処すれば問題ない。訓練を信じろ」 ウラジミールは静かにコンバットナイフとハンドグローブを構える。行く年も積み重ねた戦いの構え。どの角度から攻められても対応できる体制をとり、間を置かずに攻める。相手の特性が音であり波だと知っているのなら、対策も取れる。 音の範囲を探るようにナイフで切りかかり、ハンドグローブで押さえ込む。線と面。物理的な壁ではなく波による阻害なら、その波を遮ればいい。理論と腕力と。経験によって積み重ねた攻撃が、静かに音波を砕いていく。 「力を合わせれば短時間で終わる」 「んー、喋ってよかったんだね! 勘違いしてた!」 勘違いを解いた真咲が、巨大な斧を振りかぶる。バルディッシュと呼ばれる黒い三日月斧を、抱えるように構える。自分の身長より長い得物を梃子の原理を利用して担ぎ、黒のオーラを射出する。 自らの破界器を振るった勢いを殺すことなく全身のエネルギーにして加速する真咲。切っ先をアンテナのほうに向けて、音響室の床を蹴って跳躍した。回転する斧の軌跡に光が走る。高速で繰り出された斧の一撃が、音の壁を削っていく。 「音を刻むとか変な感覚!」 「皆さん、怪我をしたら言って下さいね」 入り口から少し進んだところでこまめに立ち位置を変えながら、小夜が皆に告げる。自分の役割は仲間の継戦能力の維持。体力の回復を行いながら、自分自身も倒れないようにすることだ。呼吸を整え、自らに言い聞かせる。 呼吸を整え、背筋を伸ばす。狐の尻尾をふわっと立たせ、言霊を紡ぐ。言霊に乗るのは癒しの神秘。それが仲間の傷を癒していく。戦いが嫌いな小夜は、できるならアザーバイドの狂気に晒された坂田も救いたい。そう願っていた。 「命を救う事が、幸せとは限りませんが……」 「それでも駄目かもしれないが……望みは捨てたくない」 愛剣を手に、風斗が坂田に迫る。苦難の末に一度砕け、そして得た剣。圧倒的な破壊力を持ちながら持ち主の意図を汲むように殺さない一撃。相手の痛みと同調するガゆえに自らの体も削るが、それでも風斗は手を伸ばしたい。 彼方からの音に精神を狂わせながら、音により強化された肉体で坂田は風斗の動きに対応する。ギリギリまで剣をひきつけ、大きく飛び下がる。生物に例えるなら、海老のように。避け切れなかったのか、着地の際に体をがくりと震わせた。 「浅い……拙いか」 風斗は坂田の動きに苦悶の表情を浮かべる。倒すのに時間がかかれば、アザーバイドが召喚されてしまう。慢心したつもりはないが、アザーバイドの肉体強化を甘く見ていたかもしれない。 「じゃあ殺しますか、パンダモドキさん」 うさぎが静かに問いかける。言外に『貴方の態度はその程度か?』と問いかけていた。 「いいや、殺さない。この剣にかけて。あと誰がパンダモドキか」 白黒髪の風斗は若干怒りのボルテージを上げながら、うさぎに答えた。 音響室に異界の音が響く。コンサートはまだ終わらない。 ● この戦場において敵は坂田と『ハミング』の二体のみ。『ハミング』自体は実体がないため攻撃を加えることができないが、坂田は確かに身体能力が向上しているとはいえ火力を集中して責めれば倒せない相手ではない。 故に即効で坂田を倒せば、被害は間違いなくリベリスタの被害は軽減されただろう。だがリベリスタはその選択を選ばなかった。 「音の反射が激しい……位置を捉えるのは難しいか」 風斗は坂田に剣を向けながら、アザーバイドの位置を探ろうとしていた。中央にいるだろうことは分かるが、背中越しではその程度だ。ましてや部屋の構造上、音がよく響く。諦めて剣を構えなおした。 「まだまだまけません!」 「けほ……っ!」 アイカと小夜が『ハミング』の音波で意識を失いそうになる。運命を削って、膝を突くことをこらえた。 「風斗、変わるか!?」 「まだ、大丈夫……!」 坂田の攻撃で風斗も運命を燃やす。心配するような夏栖斗の言葉を、足を踏ん張るように立ちながら拒否し、剣を構えなおした。思ってた以上に、坂田が強い。『万華鏡』が歴戦を求めた理由の一端を、リベリスタは感じていた。 しかしアンテナ集中砲火の効果は確かにあった。 「んー、機械だから血が出ないのは残念」 真咲が横なぎに斧を振るう。轟、と振るわれる高重量にして高速の一撃。それが音の壁を砕き、パラボラアンテナを粉々に砕いた。 「ここはお前の居場所じゃ無い。帰れ」 綺沙羅がキーボードを叩き、室内に雨を降らせる。低温の水が機器を冷やし、そしてまた鳳凰を呼び出し炎で攻める。攻撃を行いながら音を解析しようと耳を傾けるが、 (今の状態では、無理) 『ハミング』が何かを伝えようとしていることは分かるが、その程度だ。異界の言葉を聞く準備をしていればあるいは分かったかもしれないが。 「あいたぁ!」 「やれやれ、楽ではありませんね」 「音痴は黙れ」 真咲とうさぎと綺沙羅が、音の塊を受けて運命を燃やす。 「回復が間に合わない……術をかけ直す暇が……!」 息絶え絶えに小夜が回復の神秘を行使する。最初にかけてあったマナ循環の術は既に効果を失っている。術を再度かければ、その分回復が途切れてしまう。そうなれば一気に攻められてしまうだろう。危ういバランス。それを肌で感じていた。 「くそっ! 目とかあるのか分からないんだよな、このご機嫌さんは!」 夏栖斗は自分を壁にして『ハミング』の視界を塞ごうとするが……そもそも形すら見えない相手なのだ。聞こえてくる鼻歌のようなリズムを聞きながら、スピーカーの破壊に走る。残された時間は―― 「時間なら問題ない。焦るな」 時間を計っていたウラジミールが焦る仲間を落ち着かせるために、いつもと変わらない口調で告げる。確かにペースとしては問題ない。だが何が起きるかわからない戦場において『絶対』はないことを、ロシヤーネは理解している。 「ここからが本番だ」 「嫌んなるほどご機嫌だな! さっさと帰れよ」 度重なる音波の攻撃に、ウラジミールと夏栖斗も運命を削り、戦場に留まった。 「まだ間に合うなら、一気に行きます!」 アイカがフットワークの軽さを生かして、スピーカーを破壊していく。全力で走ってもバランスを崩さずに一撃を加えることができるアークリベリオン。機動力と突破力が必要なこの状況は、十全に動きが発揮される。 「くそ……!」 坂田と『ハミング』の二体の攻撃を受けていた風斗が力尽きる。だが風斗の行動は無駄ではない。フラフラ揺れる坂田の動きは、倒れる寸前を示している。彼を倒せば、アザーバイド召喚は止められる。だが、力の加減を誤れば殺すかもしれない。 「時間は、まだあります」 うさぎがスピーカー破壊を止めて、坂田に糸を放つ。時間があるとはいったが、狙いを定める余裕はない。放たれた糸が絡み付けば、よし。だが肉体強化されている坂田は腕に絡まる糸を振り払う。 「ここまでですね……」 「……あう」 「後は任せます……!」 音がリベリスタを揺さぶる。波が精神と肉体を蝕んでいく。小夜と真咲とアイカが、意識を失い床に転がった。 「どーもご機嫌麗しゅう」 音波の一撃に耐えた夏栖斗が坂田に迫る。全力で拳を振るえば、確実に止められる。だがあえて脱力して拳を握った。今は狂っている坂田だが、生きていれば回復する可能性はゼロではない。 「ここで決めさせてもらうよ!」 突き出す拳と、その威力を高める為に引かれる拳。中段に突き出された拳が、坂田の意識をかりとった。 ● パラボラアンテナとスピーカー二つ。そして坂田が倒れたことにより、音響室の音はぶつ切りに消える。受信する物がなければ、効果を表さないようだ。 リベリスタたちは互いの傷の具合を確認する。気を失っていた者も、ふらつきながら何とか立ち上がる。 「……くそ、一発殴りたかったです」 アイカは既にいなくなったアザーバイドのことを想い、手の平で拳を叩く。殴っても効果がないことは知っているが、それでも怒りをぶつけたかった。 「ゴチソウサマでした! あー、耳がキンキンだー」 真咲は耳を押さえながら、破界器を幻想纏い内に収める。響いていたハミングが耳に残る。しばらく音楽は聴きたくない。 「だめですね。癒しの神秘では戻らないようです」 小夜はホーリーメイガスの神秘を行使し、坂田が戻らないか試していた。肉体的な傷や障害は確かに癒えるが、アザーバイドの影響が取り除けた様子はない。 「しかし難儀でしたねパンダモドキさん。パンダさんってばー? 所でおしおきは未だかなパンダモドキさん」 「うっさい!」 うさぎがパンダモドキを連呼しながら風斗に付き纏っていた。風斗は相手したら負けな気がするとばかりに、つき返す。 「……う、まん……な」 そんな中、坂田の口が開く。瞳の焦点は合わず、攻撃の衝撃で乱れた呼吸を整えながらだが、確かに口を開き、声を出す。 「傲慢、だな。……ああ、この男の知識を借りての発言、だ。私は、貴方達が『ハミング』と呼んでいる存在、だ」 リベリスタたちは『ハミング』からのメッセージに構えを取る。 「構えなくても、いい。もう私は、何もできない。ただ思ったことを、告げたいだけ、だ」 「傲慢って言ったな。坂田さんの命を助けたことか?」 夏栖斗の質問に、否定の言葉が返ってきた。 「ノー。彼の知識を借りるなら、その行為は常識、ということらしい。 私が傲慢、と言ったのは、彼の状態を『狂う』と断じ、癒そうとする事、だ。それは彼の持つ才能の、否定に相違ない。新たな世界の、扉足りえるの、に」 『ハミング』は坂田の状態を『狂う』といわず、一種の才能と言った。リベリスタが運命に愛されたように、坂田は別の何かに愛され、才能を得た―― 「うるさいよ。狂わせた本人がいうことじゃない」 「では問う。貴方達は、狂っていないの、か?」 綺沙羅の言葉に、『ハミング』が質問を重ねる。その問いかけに、明確な否定を返すことは誰にもできなかった。そんなことあるかという思いと、そうかもしれないという思い。狂気じみた事件が続けば、誰もが疑問に思う。 そんな沈黙の中。 「戯言だ」 『ハミング』の生み出した空気を払うように、ウラジミールが手を叩く。パァン、と音が響いてリベリスタは気持ちを切り替えるきっかけを得た。そして坂田もその音に体を震わせて、口を閉じる。 ウラジミールの否定は正しい。あれは今の日常を壊す『何か』だ。例え正しくても、否定しなくてはいけない存在なのだ。 坂田の手足を拘束し、口を塞いでアークに連行するリベリスタ。 治療法はまるで分からない状態だが、それでも命はある。ならば可能性は存在する。 だが、もう一つの可能性も考慮しなければいけなかった。 「フフ、フフフフフー! フンフンフンフフフー!」 隔離病棟の一室から聞こえてくるハミング。口を塞いでも呼吸する限り鼻から音は出せる。 坂田がまた召喚の音源になる可能性も。 「フフフー! フフフフー! フッフッフー!」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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