●その日、アークは壊滅的な戦力ダウンを受けたという 「……なんだぁ?」 『菊に杯』九条・徹(nBNE000200)は目の前の光景に愕然とし、まだ酒が残っているのではないかと錯覚した。 こりゃいけねェ、と飲みなおそうとして振り返ったところで足をつかまれて動きが止まる。足を掴んだものを見た。やっぱり錯覚ではなかった。 子供。 子供。子供。 子供。子供。子供。 それは見知った人間によく似ていた。だがあいつ子供いたっけ? あの子にいたってはまだ子供生める年齢じゃなかったはず。 これは例えば、あるアーティファクトの影響で、その瞬間アークにいた人間全てが六歳児になったような……。 「『CHILDREN DREAM』……広域にいた人間全てを肉体的、精神的に六歳児にします。これか」 徹が手にしたのは子供をあやすガラガラと呼ばれる玩具である。見た目は筒状の玩具だが、これがこの異変を起こしたアーティファクトであることは明白だ。誰かが誤って操作したんだろうな、これは。謎は全て解けた、と納得する。 「効果は半日。……面倒だなぁ」 近くにあったアーティファクトの説明書を見て徹はため息をつく。群がる子供達を見て、とりあえず半日がんばるかと気合を入れるのであった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月19日(月)23:04 |
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■メイン参加者 20人■ | |||||
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● さて。 アーティファクトを不用意に扱い、この騒動を起こした人間は誰だろうか? 「おーうーちーかーえーるー!」 それはこの効果をまともに受けたかのように精神も肉体も六歳児に戻り、ガン泣きしている菫ではなかろうか。疑わしきは罰ぜず、の精神で徹は目をつぶる事にした。 「おとんは? おかんは? どこいっとん? おらのおうちどこ!?」 どこの訛りか分からない口調でわんわん泣く菫。見るに見かねた徹がガラガラ(普通の)を振ってあやしてやる。すぐに泣き止むのだが。 「ほーむらん!」 飛んできたボールが頭にぶつかり、また泣き出す菫。そんな託児所で、徹は延々と子供の世話をしていた。 「やーい、ハーゲ、ハーゲ!」 「まんげつー! まんげつー!」 徹は子供のいい玩具になっていた。子供のやることに怒る気もせず、されるがままに―― 「カエルだ!」 五月女が徹の頭に巨大なヒキガエルを乗せた時は、さすがに怒って頬を引っ張った。 「どこで見つけてきたんだ、このカエル」 「いひゃいいひゃい……うえひのそひゅにいひゃおらあ」 五月女は『痛い痛い、植木の側にいいたんだが』と言っているのだが頬を引っ張られてまともに喋れずにいた。 「ひゃへふはもほふほしあいひゃれれもいいはふゅらんらら、ならならおんひゃのおにうえああうい。らろれれらうらららんひだろう、ろうれんらな!」 「『カエルはもうちょっと愛されても良い筈なんだが、中々女の子には受けが悪い。ならば狙うは男だろう、当然だな!』……じゃねえ」 大人に戻ったら覚えてろ、と徹は五月女の頬を離す。痛む頬を押さえる五月女。 「徹」 一息つく間もなく、作務衣が引っ張られる。見れば虎耳の少年がこちらを睨んでいた。虎鐵だ。こちらを見上げるように睨むさまは、大人に負けじと意地を張っているように見える。というか事実そうなのだろう。 「虎の字……お前もか……!」 笑いをこらえていると、容赦なく拳を叩きこんでくる。猫がそうするように、尻尾を逆立てて威嚇する。 「徹、ハラヘッタ。メシ、それかさけ」 「ほれ、飴ちゃんやるからおとなしくしてろ」 仏頂面のまま飴を受け取り、それを口に含む虎鐵。その表情のまま、口の中でコロコロと飴を転がしている。 「徹も毎回大変そうだなー。そうだ、今度お礼のかわりになるかわからないけど覚えてたら一戦交えさせてやろう」 「へいへい。とっとと戻って欲しいもんだぜ」 えへんと胸を張る虎鐵にため息交じりで答える徹。 「いや、なんと言うか……こう、皆子供になるって言うんは凄い光景やな」 そんな様子を見ていたのは椿。アーク所内を一回りしてきたようだ。見知った人たちが幼児化しているのを見て、言葉もないようだ。 「十三代目か。どうやらそんなに影響を受けていないようだな」 徹は普段と変わらぬ椿の様子に安堵する。幼児化の影響は人それぞれだ。肉体は縮んでも精神はそのままの者もいる。この状況で大人が一人増えるのはありがたい。 「影響? あるある。ほら、背が普段より十センチくらい伸びて百三十センチにやね……」 「背が……伸びた?」 「……うん、伸びてん。普段よりも大きくなってん」 依代 椿。23歳(2014年5月時点)。元の身長は六歳児より低かった。確かにあまり変わらないなぁ、と徹は思っていたが。言い知れぬ沈黙が落ちる。 「あ、そうや。徹さん肩車! せっかく子供なんやから、肩車してくれてもえぇと思うんや!」 「結局かわらねぇのかよ!」 徹は叫びながら、それでも椿を肩車するのであった。 ● 「俺捕手なー! お前バッターだ!」 遠くから快の声が聞こえてくる。ボールを叩く音と、走り回る子供の足音。 そんな中、糾華とリンシードは手を取り合い、いつもより高く見えるアークの天井を見上げていた。 「あれぇ? 縮んだ視界って凄く低い。変なの!」 「おぉ……小さい……周りの物が大きく見えます」 糾華は若干精神年齢が退化し、リンシードは元の精神年齢を維持していた。普段は糾華がリンシードをリードする形だったが、今は逆転している。 「ねーさま、リンシードと同じ大きさになっちゃった」 「ねーさまは……小さい……可愛い……すみません、なでなでしまくっていいですか……?」 「うん、いいよっ」 子供のような純粋な笑みを浮かべる糾華。いや事実子供なんだけど。その笑顔にリンシードの心は震える。 「この姉様は私が育てたいです。私達の子供が出来たらこんな感じになるんですかね……? このままお持ち帰りしたいです」 落ち着け。 「今日はリンシードといっぱい遊ぶの。これは決まりだからね」 リンシードの服の袖をぎゅっと握って、微笑む糾華。その笑顔に心が溶かされるリンシード。 「じゃあ、滑り台なんかどうでしょうか……」 「わーい。滑り台! すごくすごく大きな滑り台を一緒にすべるの! ね、行こ!」 糾華とリンシードは手を取り合い、滑り台に向かう。その姿は年齢相応の子供に見えた。 「うふふ~、らぶらぶね! わたしたち!」 「そうですね……ラブラブですね……らぶらぶ……」 そして本質はいつもどおりの二人であった。 「おままごとだ! ワタシは二人の夫婦のあいだにはいりこむ酒屋をしよう!」 小さくなった明奈は元気よく手を上げて、夢乃と美月を巻き込んだ。精神的には子供になる前とあまり代わらなかった。 「ふむふむ? じゃああたしはおかあさんですー」 何故酒屋さん、と疑問に思いながら夢乃が母親役に立候補する。 「ゲーム……ないのか……」 しょんぼりする美月。自動的にお父さん役を当てはめられる。 「ほらほら、おきてください。あさごはんはもうできてますよ」 「ん……」 夢乃が寝ている美月を起こし、朝ごはんを作る。それを食べおえて、美月はネクタイを締め……。 「ネクタイの締め方……わかりません」 「こんな感じ?」 美月は適当にハンカチを首に巻く。そしてゴミを持ち、家を出る。 「それじゃあいってきます」 「いってきますのチューはしないんですか?」 「ちゅう!? し、しないよぅ」 「そうですか……」 キスを拒否する美月を見て、しょんぼりする夢乃。そして出て行ったおとうさん(美月)と入れ替わるように明奈がやってくる。 「おくさん、酒屋です! うへへへ」 この酒屋、欲望丸出しである。まぁ、子供だし仕方ないよね。 「奥さんいいボディラインしてますねえ。するっとしてまっすぐで」 「きゃー、いけませんあたしにはおっとが!」 ベタベタ夢乃の体を触る明奈。ノリノリで答える夢乃。 「そりゃするっとしてるのは六歳児だもんね。ていうか子供の頃からゆめのん変わってねえな!」 「か、かわってますよ、きっと! しんちょうのびてめりはりぼんきゅっぼんでドラム缶じゃなくなってますよ……夢を見させてください……」 明奈の心無い一言に、夢乃は本気で落ち込んだ。 「……なにこれ」 そして美月は妻が酒屋に浮気なんだかネトラレなんだか苛めなんだかよくわからない現状を見て、呆然と立ち尽くすのであった。 そんな三人の様子を見て、美月の式神は肩をすくめるのであった。 『……精神年齢が下がってもいつもと変わらない。つまり、子供のころから精神的に成長していないということか……』 おままごとはまだまだ続く。あまり普段と変わらないノリで。 ● 「おれキャッチャーね!」 「バッターびびってるびびってるー」 エントランスで野球をする快の声を聞きながら、リシェナは子供と追いかけっこをしていた。 「こら、外でちゃだめでござる!」 外に出たりアーク所内に入ろうとしたりする子供たちの対応にてんやわんやである。 そんなリシェナの様子をじっと見ている子供たちがいた。 「リシェナちゃん、にんじゃなの? ちょーかっこいい! まいちゃんも、にんじゃになる! ……でござる!」 瞳をキラキラさせてリシェナを見上げる舞姫。 「みんなと、にんじゃごっこっ!」 ぴょんと跳ねてポーズを決めるミーノ。 「ほんもののにんにん……かっこいいなあ」 女子の輪に入れず、遠くから見ている伊吹。 「ミーノちゃんも、まいちゃんも、くのいちよ。ぶっきーはおとこのこだから、わるものね」 「わ、わるものじゃないやい! ふーんだ、あそんでくれなくてもいいよっ!」 「もー、喧嘩しないで仲良くするでござる」 舞姫と伊吹の喧嘩を仲裁するリシェナ。さすがに本物の手裏剣は危ないので、折り紙で手裏剣を作って与える。 「ぎんいろの、まいちゃんがもーらったー! ミーノちゃんには、ぴんくのあげるー」 「みーののしゅりけんは。これっ! くっきーしゅりけん!」 ミーノはクッキーを食べていた。手裏剣の形になるように食べて、その後で全部食べる。 「ぶっきー、リシェナちゃんのおっぱいばっかみてるー! えっちー! すけべー!」 「み、みてないよー。おっぱいなんかきょうみないよー」 じっとリシェナを見る伊吹を指差し、舞姫がはやし立てる。必死になって否定する伊吹にほほを膨らませる舞姫。 「まいちゃんだって、おとなになったらおっきくなるしー」 「せくしーな! ミーノが! こんな! こどもにっ!」 「……ミーノ殿はいつもと変わらないでござるなぁ」 「ぼくはくーるですといっくなおとなになるんだっ。女のこなんかきょうみないもん!」 そんなわいわいと騒ぐ子供たちを見ている影があった。 「うふふ……なにこの、天国? 折角だしいろいろと楽しみましょうか」 ティアリアである。小さな子供たちの挙動を見て笑みを浮かべていた。惜しむべくは自分も子供であるということだ。この状態で自分が大人なら……BNEは全年齢! 「やっぱり、子供のするべきことは……大人を困らせることよね」 言ってティアリアはリシェナが他の子供に目を向けている隙に、エレベーターのボタンを押す。エレベーターに気をとられている隙に別ルートでアーク所内に向かうつもりだ。だが、 「もー。ティアリア殿もおとなしくするでござる」 「リシェナ、中々手強いわね……!」 あっさりばれて、エントランスに連れ戻されるティアリア。 「忙しそうだな、手を貸そうか?」 そんな様子を見ていた拓馬がリシェナに申し出る。真面目でストイックな拓馬を知っているリシェナは、疑うことなくその申し出を受けることにした。 「ありがとうでござるよ。じゃあ、エレベーターを見張ってて欲しいでござる」 一人見張り立っているだけで、そちらに向かう人はかなり減る。だが拓馬はリシェナが安堵してこちらを見ないようになってから、笑みを浮かべる。悪戯を思いついた子供の笑み。 「よし今だ。お前達こっちに来い。今ならアーク内に入れるぞ」 エレベーター前でまごまごしていたリベリスタたちを中に誘導した。まさかの裏切りにリシェナの対応が遅れる。走ってくるリシェナを足止めする拓馬。 「フッ、此処は通さんぞ!」 拓馬の機転と足止めにより、何人かのリベリスタの侵入を許してしまう。 その何人かであるコヨーテと真澄はアーク所内を走っていた。 「ここのご飯は美味しいんだよ!」 精神的にも六歳に戻った真澄が、コヨーテを引き連れてアークの中を走っていた。しかし記憶まで六歳に戻っているのか。 「……あれ、でも道どっちだっけ?」 あっさり迷子になった。 「あれ、ココさっきも来なかったっけ? 大丈夫かァ?」 「大丈夫だよ!」 意地を張って答える真澄だが、何度進んでも同じ場所に戻ってきてしまう。泣きそうになる真澄だが、コヨーテが自分の胸を叩いて自信ありげに告げる。 「このオレに任せなッ! オレには野生のカンがあッからな!」 「やせいのかん?」 その自信ありげな態度に真澄は道案内を譲り、コヨーテを扇動して道を進む。 そして二人はようやく食堂にたどり着いた。ただの偶然なのだが、それはさておき。 「すごーい! わたし大きくなったらコヨーテくんとけっこんする! だいすきー」 キラキラした瞳でコヨーテを見る真澄。 「結婚? やめとけよォ。オレは戦士だッ! 一緒にいても、フツーの幸せなお嫁さんにゃなれねェぞォ」 「えー、フツーでなくていいもん!」 男ぶるコヨーテを指をくわえて見る真澄。 「それよりさ! メシ食おうぜ! 腹減ったッ!」 「そうだね。ごはんたべよー!」 「そうはいかないでござるっ!」 食堂に入ろうとした二人はリシェナに捕まり、エントランスまで戻された。 「あー、もう。大変でござる」 「りしぇなおねーちゃーん!」 リシェナが一息ついた所に夏栖斗がやってくる。ぐるぐると自分の周りを走り回る少年を見ながら、リシェナは和んでいた。あのヘタレDTだんしちゅうがくせいも、小さい時はやっぱりかわいいんだなぁ。 「すきありー!」 「にゃー!」 ――と、油断していたら忍者服の腰の裾を捲られた。カエルのバックプリントが夏栖斗の瞳に映る。 「子供になってもその辺りは同じかー!」 「リシェナねーちゃんのでか乳やわらけー」 「ひゃああん」 隙を見計らっていたのか、小雷がリシェナの胸に飛び込んでくる。 子供の軽い体重と、十分な助走距離で一気にダイブする。ダイブを受け止め、バランスをとろうと手を振り回すリシェナ。その間に小雷は顔を胸にうずめて、両手でおっぱいを掴む。手の平に伝わる柔らかな感触と温もり。押せば帰ってくる弾力と、心音のリズムが小雷の心を満たす。 「隙ありー」 小雷はリシェナの眼帯を奪おうと手を伸ばす。それを止めようとするリシェナの腕。しかしその隙を掻い潜って小雷の手は素早く動いた。 「やっぱりおっぱいやわらけー」 「この巨乳すきがー!」 再びリシェナの胸に手を伸ばす小雷。その柔らかさをしばたく堪能していると、 「火けしの風、ゴッドウィンド、ただいまさんじょう!」 小雷の頭をゴツン、と叩いてやめさせるゴッドウィンド。正確には精神も子供になってヒーローにあこがれる少年になった風斗である。 「はなせよー」 「えっちなカズト! おまえはゆるさない!」 見れば、さっきパンツ見て逃げた夏栖斗が捕まっていた。頭を押さえて痛がっているところをみると、『ごっとうぃんどぱんち』を受けたようだ。 「おまえたちのようなわるいこは、こころをきたえなおさないといけないな。よし、みんなでやきゅうをしてあせをながそう!」 「今ならピッチャーあまってるぞ!」 腕をくんで『悪人』の前で仁王立ちする風斗。ボールを手に勧誘する快。 「わーい、野球しようぜー」 「イエーイ」 ダイアモンドに向かって走っていく子供達。 時刻はまだ十二時。子供達はまだまだ遊び足りない。 ● アーティファクトの効果が切れ、リベリスタは元の年齢に戻る。 楽しかったと笑う者、今日の行為を反省する者、何があったか忘れる者、反応は様々だ。 今回一番の被害者だった徹とリシェナは、異口同音に告げる。 『エリューション相手のほうが楽だった』……と。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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