●伝説 中世ヨーロッパにおいてキリストの化身とも、神の使いとも言われていた幻の鳥――。 そのアザーバイド、名をカラドリウスという。 徳の高い者はただ、カラドリウスに見つめられただけで病が直った。堅く小さな嘴で額をコツコツとついばまれれば、不幸や不運が吸い取られた。 世には知られていないことだが、カラドリウスはごくまれに改心の見込みがない極悪人のところにも表れた。 極悪人はただ、カラドリウスに見つめられただけで病にかかった。堅く小さな嘴で額をコツコツとついばまれれば、知恵と幸運を根こそぎ吸い取られた。 カラドリウスは首からアヌビスの書かれた黒い袋を提げており、それに吸い取った病や不幸を貯めるらしい。 そして黒い袋がいっぱいになると、16の部屋からなる神の家で4の部屋から4つの卵を4つある産室の4つの台座の上に産み落とすという。 冒険者は幻の鳥を見つけた褒美に、卵を1つだけ持ち帰ることが許される。 ただし、チャンスは一度だけ。 満月が天頂に達するほんの一瞬。瞬きひとつ分、鼓動ひとつ分の間に生きた血肉と骨の 台座からすばやく卵を取らなくてはならない。 ぐずぐずしていれば、貴方は台座の材料にされてしまう。あるいは雛に与えるはずの餌、蠍に刺されて死んでしまうだろう。 ・卵の中身 卵の1つ、中身は絶望の石 卵の1つ、中身は空っぽ 卵の1つ、中身はカラドリウスの雛 卵の1つ、中身は賢者の石 ・産室の扉 地でできた2の扉が1つ 炎でできた扉が1つ 地でできた8の扉が1つ 水でできた扉が1つ 男の部屋には災いなる絶望の石が入った卵が置かれている。 女の部屋には幸せなる賢者の石が入った卵が置かれている。 貴方が望むものは扉の向こうにある。 さあ、冒険者よ。 選ぶがよい。 ●ペリーシュ・ナイト 長い沈黙のあと、機械仕掛けのフクロウが鈍色の目蓋を開いた。赤い宝石でできた目が禍々しい光を放つ。 機械仕掛けのフクロウはくるりと首を回すと、肩を貸す男にだけ分かる言葉で答えを告げた。 長いながい沈黙のあと、ペスト医者のマスクで顔を隠した男は『黒い太陽』の狂信者たちへ指示を出した。 地でできた2の扉へは3人の狂信者たちを進ませた。 炎でできた扉は無視した。 地でできた8の扉も無視した。 水でできた扉へは4人の狂信者たちを進ませた。 狂信者たちがそれぞれ扉の向こうへ消えたあと、再び機械仕掛けのフクロウが首をくるりと回した。ギギギガチャガチャ音が鳴る。 「……ふむ。汝の主はそれをご希望か。では、カラドリウスと言う名の混沌に会いに行こう」 機械仕掛けのフクロウが、不思議な色を放つ金属片の左翼を広げた。 ペスト医者のマスクで顔を隠した男の背景がぐにゃり歪んだかと思うと、そこにもう人影はなかった。 ●アークと白バラの祈り 「えっ? 陽動?」 アークはチェコのリベリスタ組織『白バラの祈り』から合同調査の申し込みを受けて、8名のリベリスタをドイツ国境に近いボヘミア西部の深い森に囲まれた欧州屈指の温泉保養地カルロヴィ・ヴァリに送り込んでいた。 無論、リベリスタたちは温泉の質を調査しに来ていたわけではない。 ボヘミアの森に突如不気味な塔が現れ、近隣地域に住まうチェコとドイツの覚醒者たち――フィクサード、リベリスタ問わず――が次々と行方不明になっている件を調査するためだ。 前日、『白バラの祈り』ヴィエラ・ストルニスコバーとあちらのフォーチュナであるイグナーツ・ベラーネクを含む9名とカルロヴィ・ヴァリで合流。明けて本日、総勢18名からなる調査隊で森へ向かうことになっていたのだが……。 近くの町で機械が人を襲っているという一報が、『白バラの祈り』本部から入った。 現場に一番近いところにいるヴィエラたちに討伐命令が下ったのだ。 嫌な予感がするというフォーチュナの言葉を笑って、客人たちの手を借りるほどではないだろうと『白バラの祈り』たちだけで出かけて行ったのが今朝の事だ。 帰ってきたのはヴィエラ・ストルニスコバーとイグナーツ・ベラーネクの二人だけだった。 「やられました。森の塔へ我々を近づけないために……アーティファクトを仕込んで事件を起こしたみたいです。これを見てください」 ヴィエラがリベリスタたちに差し出した手には金属の破片が載せられていた。ホテルの暗い照明の下でもその金属に刻まれた刻印がはっきりと見られた。 W.P 「わたしの予知が確かなら、最悪の相手に先手を取られたことになる。ペリーシュ・ナイトの配下の者たちに」 訛りの強い英語でそう言ったのはイグナーツだ。 「破片に触れたとたん、金属でできたフクロウを肩に止まらせた男が白黒の鳥に会うシーンと、“卵”を手に取るシーンが見えたんだ。どちらのシーンでも金属でできたフクロウは動いていた。……恐らくペリーシュ・ナイトだろうと思う」 このまま彼らを追って未知の建物の中へ突っ込めば全滅も考えられる。だがここには万華鏡はない。 イグナーツが必死に未来を手繰り寄せた結果、以下のことがわかった。 地でできた2の扉へ進んだのは、 ジーニアス/ソードミラージュ フライエンジェ/インヤンマスター メタルフレーム/クリミナルスタア 水でできた扉へ進んだのは、 ジーニアス/ソードミラージュ ビーストハーフ/デュランダル ジーニアス/プロアデプト フライエンジェ/マグメイガス 「いずれも相当な手練れだと予想する。ペリーシュ・ナイトとあと1人、ジーニアスのデュランダルらしきものがいることが分かってるが……」 チェコのフォーチュナは頭を垂れるとゆっくり首を振った。 「建物のどこにいるか分からないんだ。彼らに関する未来視は、鳥と会うところと卵を手にするところだけ。鳥は塔の残り12の部屋のどこかにいると思う。どこかは分からない」 おまけに何の卵が取られるのかもわからないと言った。 情報は極端に少ない。それでも最善の手で最善の努力を尽くして“卵”があの悪名高きアーティファクターの手に渡ることを阻止しなくてはならない。 「あとひとつ。建物はどうやら生きているようだ。あまり長く中にいては危険。猶予はせいぜい数分だと思って欲しい。ダメだと思ったらすぐに逃げろ」 同行させるには危険すぎると判断してフォーチュナをホテルに残し、ヴィエラとリベリスタたちは真夜中の森へ向かった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月20日(火)22:40 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●森の塔 細い道の脇に生えている松の幹はまだ見えるものの、森はすでに夜のとばりに包まれていた。 驚くほど澄んだ夜空に少しだけ赤みがかった月が浮かんでいる。森の上に落ちる月光が禍々しい。 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は不吉な予感に目蓋を閉じると、すばやく首を振った。 「どうしました?」 横を並んで走る離宮院 三郎太(BNE003381)の気遣う声に、「何でもない」と返す。 戦いの前に士気を下げることは言いたくなかった。 「連中を阻止して、白バラの祈りの敵討ちといきたいが」 謎解きは頭の痛い、と『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)が前を見ながらこぼした。 それを聞いた奥州 一悟(BNE004854)がカラカラと笑う。 「邪魔するついでにぶっとばそうぜ」 松の木の上に黒くとがるシルエットが見え隠れする。カラドリウスの仮の住まいはもうすぐそこだ。 「ヴィエラさんはこの前ぶりだね。元気だった? 僕元気!」 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)が、空を飛ぶヴィエラに下から笑いかけた。 硬い顔が夏栖斗の声の明るさにつられて小さくほころんだ。覚えたての日本語でたどたどしく返事をする。 「わたし元気。夏栖斗、元気よかった。ごめんなさい。こんなことになる、思わなかった」 「神秘にかかわることだもん。リスク上等。何が起こっても不思議じゃないし、そのへんはボクたちも最初から覚悟してた。な、影継?」 友の背に問いかけたとたん、顔に落ちる翼の影にもう1つ影が重なって濃くなった。 「うみは謎が知りたい。うみは夜空を飛ぶのが好き。渡り鴉は星を追うよ」 羽海の言葉を三郎太が受ける。 「皆さんの推理に従ってボクも行動をします。ですが何よりも卵の持ち去りを防ぐ事が最大の課題。いかに迅速勝つ正確に行動を行えるか、ですっ」 開けた視界の先に赤い月あかりを浴びてカラドリウスの塔があった。 ●1階 まるで待っていたかのようにぽっかり開く入口をひと塊になって進んだ先は大広間で、すぐに太い木をまるごと加工して作ったような螺旋階段が目に入った。大広間を4つの扉が囲んでいる。黒い太陽の狂信者たちの姿はなかった。 「幻の鳥ですか、浪漫ですなー」 塔の壁は脈打つ蔦や根の間を石や木が粘りつくもので固め作られていた。 『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)は造形の異なる扉のデザインを丹念に見て回る。 「こういう物騒な状況でなければ、私も見てみたかったものですけど。またの楽しみにしておきましょう」 『滅尽の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862) は形のいい顎に指をあて考え込んでいた。 (解せんな) シェリーはフィクサードの行動に疑問を感じていた。狂信者たちのうち誰かをカラドリウスに会いに行かせれば、無駄な時間を作らず済むというのに。 「ふむ。私の予想は外れですな。ここの扉には金牛宮のサインがあります。ひとつ前の扉はサインなし。それでこちらの扉には天蠍宮と双魚宮ふたつのサインが刻まれています」 「こっち白羊宮と獅子宮のサイン」とヴィエラ。 「うみの推理が当たった?」 まだ早い、と影継は顔をほころばせる羽海に釘をさしつつも、部屋の割りふりを黄道十二宮説にしたがって決めた。 「私は三郎太さんと羽海さん、ヴィエラさんと一緒に地の2の部屋ですな」 「妾はユーヌと一緒に水か。ならば影人が出揃うまで他の部屋を調べることにしよう」 カラドリウス探索を割り振られた夏栖斗と一悟が、揃って羽海へ質問を投げる。 「きっと4室の巨蟹宮。3階の部屋だよ。母親を司るハウスで支配星は月」 羽海は微笑みながら天井を仰いだ。 夏栖斗が歯を見せて笑う。 「僕の答えと同じ。もっとも僕はタロットを使って謎ときしたんだけどね」 地の2の扉の前に立ち、三郎太が顔に不安を浮かべて振り返った。 「狂信者たちも同じ答えを得たのでしょうか?」 「たぶんな。相手はペリーシュ・ナイトだ。夏栖斗、奥州、無理はするなよ」 「まったく伝承通り知恵を丸ごと奪い去れば楽なものを」 ユーヌが作り出した影人の横で姿なきカラドリウスに悪態をつく。 九十九は扉に耳を押し当てて部屋の中に人の気配を探っていたが、そっと体を離すして微かに首を振った。何も聞こえなかったらしい。 「しかし、これが正解とは限りませんの」 「私も心配だ」 胸に拳を押しつけてユーヌが不安をこぼす。 じゃあ、と手を上げかけた羽海とヴィエラを一悟の声が制した。 「オレ、最上階に行ってもいい? カンだけど、カラドリウスは塔の一番上にいるような気がするぜ」 「おぬし1人なら……のう、影継?」 「夏栖斗がそれでいいというなら」 「いいよ。僕は鳥が3階にいなければ2階に降りて探す」 各自の行動が決まり、リベリスタたちは一斉に動き出した。 ●地の8と炎 影人を増産するユーヌを残し、影継とシェリーはそれぞれ部屋の扉を開いた。 木切れや泥、石の間に巨大な根が張り巡らされた部屋の奥に、太い蔦でできた台柱があった。先端部分が丸みを帯びており、蔦の合間に柔らかく光を放つ白が見える。予想通り、どちらの部屋にも敵の姿はなかった。 シェリーは中を一巡すると影継へ報告を入れた。 「敵も蠍もおらぬ。そっちはどうじゃ? ふむ、そうか。いや、攻撃は妾が行くまで待て。白バラのフォーチュナが『生きているようだ』と言っておったし――」 つま先で根に絡みついた細い蔦を軽くつつく。すると反応があった。するすると蔦が巻きつきをほどいて根の奥へ消えたのだ。 「妾もそう思う」 シェリーは地の8の部屋を出て、炎の部屋に向かった。 「来たか。では、やるぞ」 影継は命を糧にして、練り上げた黒い瘴気で卵を守る蔦を撃った。 卵を頂く柱が大きくしなる。 粘つく緑色の液を吹きあげて蔦が何本か千切れはしたが、卵は割れなかった。前後に揺れながら戻る台座。残った蔦がしっかりと卵を抱き留めている。 「ちっ、もう1回」 「影継!」 シェリーは影継を斜め後ろから体ごと当たって突き飛ばした。次の瞬間、ひっと息を飲む。根の先がシェリーの横腹に突き刺さっていた。 状況を悟った影継は時間を無駄にしなかった。起き上がりざまに大剣斧を振るい、シェリーを貫く木の根を断ち切った。 床を覆う木の根の間から蔦が沸き出し、影継の足に絡みついた。驚くべき速さで全身を飲み込もうとしている。 「くそっ!」 シェリーの放った炎が影継ごと包み込み、絡みついた蔦を焼き払う。 間髪入れず、左右の壁から無数の木端と石粒がふたりに向けて猛烈な勢いで吹き出された。 「出よう!」 ●地の2 部屋に入って互いに打ち合ったあと、九十九はフィクサードたちに卵を守る気がまるでないことに気がついた。 いまリベリスタたちは卵の台座を背にして部屋の奥に、フィクサードたちは扉を背にしている。 「どういうことですかな。卵はいらない?」 「我々は鳥と会っていない。お前たちもな。そう、我々の役目は卵を取ることではない」 羽海は敵ソードミラージュが振り下ろした剣を盾で受け止めた。そのまま一機に扉近くまで押し戻す。 羽海へ向けられた銃を三郎太の気糸が弾き飛ばした。ヴィエラが空中で、同じく翼を広げた敵を牽制する。 「……ということはですな」 九十九は敵へ弾をまき散らしながら、ちらりと三郎太へ視線を飛ばした。 「プロメースさん! 影人を1体、こちらにお願いします!」 三郎太がAFに叫ぶ。AFからは他の部屋で起こっている戦闘の音がひっきりなしに聞こえていたが、今の声はユーヌに届いているはずだ。 「ほう、影人を探索に向かわせていたか」 「卵は羽海たちが貰うよ。だから扉の前を空けてくれる?」 「ガキが生意気な口をきく! むざむざ通すと――」 羽海はいきり立つ敵をふふん、と鼻で笑った。直後、アクセルバスターで吹っ飛ばす。 「これがアークリベリオンの力だ。舐めンな!」 「それはこちらの台詞!」 散弾の雨嵐が羽海の小さな体を撃つ。 ヴィエラの攻撃をかわしたインヤンマスターが結界を張った。 印が結ばれるよりも僅かに早く、三郎太が清らかにして神聖なる風を吹かせる。 扉が開き、影人が走り込んできた。 ソードミラージュが台座に向かう影の足を刈り取ろうと剣を下から振るいあげる。 羽海が雄叫びを上げて部屋を駆け抜け、剣ごと敵を吹き飛ばす。 軌道をそらされた見えない刃は影人ではなく天井を切り裂いた。 「月光が!」 三郎太が声をあげた。 部屋の奥の天井が一部開き、卵を包んでいた蔦を照らした。するりと蔦がほどけていく。 影人が卵を台座から取り上げ、敵クリミナルスタアが影の背を撃った。 錐揉みしながら倒れる影人。その手から卵が落ちていく。 「ふぃ~。危なかった」 卵が床を這う木の根に当たる寸前、九十九が頭から飛び込んでいた。そろえた両の掌の上に虹色に輝く卵を見て、うつぶせたまま安堵の息をつく。 「時間がありません! とにかくここから脱出です」 三郎太は撤退を宣言すると、扉の前に降り立ったインヤンマスターを気糸で撃ちぬいて排除した。 ●水 「大丈夫か?」 ユーヌは扉から転がり出てきた2人の姿を見るなり駆け寄った。 「無事とはいいがたいが……大丈夫だ」 「どっちだった?」 割れなかった、と答えたのはシェリーだ。 「妾と影継はもうこの部屋には入れぬ。妾が最初に入った部屋にはフィクサードも蠍もいなかった。だか――」 それは炎の扉の奥も同じこと。 「この扉の奥にあるのは絶望の石だと俺も思うが、決定的な証拠がない」 言いながら影継はユーヌの後ろに立つ影人を数えた。 最初に作られた影人は夏栖斗と一悟がそれぞれ1体ずつ従えて階段を上がった。いま、ユーヌの後ろには3体の影人がいる。 「2体ずつ作れればよかったのだが……」 「上出来だ。念のため影人を一体、地の2へ向かわせて俺たちは水の扉の部屋に入ろう」 「夏栖斗たちを待たないのか?」 「時間がない。妾たちは先に入ろう」 影継のAFに夏栖斗から連絡が入った。 「そうか。そっちもダメだったら水の部屋に来てくれ」 「羽海の推理は外れたか? これでますます卵の中身が分からなくなったの」 ともかくここで考えていても仕方がない。行くぞ、といってシェリーは水の扉を開いた。 最初に部屋に足を踏み入れた影人は敵に集中攻撃されて四散した。 「ずいぶん退屈していたみたいだが、そのまま卵の前で間抜け面をさらし続けているがいい」 ユーヌが印を切り結ぶ。部屋の床全体に極縛陣の図が浮かんだ。続けて銃で卵に一番近い敵を撃つ。 「邪魔だ、どけ!」 剣を抜きかけていた敵が後ろへ吹き飛ぶ。 影人がユーヌの後ろを飛び出し、台座に向かって走った。 影人への攻撃を、影継とシェリーがそれぞれブロックして防ぐ。 マグメイガスが翼をはためかせて死神の鎌を1度、2度、ユーヌへ振り下ろした。 ≪プロメースさん! 影人を1体、こちらにお願いします!≫ 腕を手で押さえてよろめいたところに、AFから三郎太の声があがった。 「地の8にいる影人を向かわせろ!」 影継は熱気をはらんで膨張した体に漲る力を解放した。 虎の目が大きく見開かれる。突き刺した大剣を中心に、デュランダルの肉体が波打ち、背から骨が弾け飛んだ。 後ろへ倒れるデュランダルの向こうで、シェリーが杖の先より破滅の銀魔弾をマグメイガスに放つ。 台座にたどり着いて時を待つ影人にプロアデプトが銃口を向け―― 一閃。 圧縮された力の一撃が直線状にいた敵を貫いて血の花びらを木の根の上にまく。 「夏栖斗!」 「手ぶらでごめん! 加勢するよ」 ユーヌは夏栖斗に腕を支えられながら、立ち上がったソードミラージュを再び撃った。 「ハズレだったか」とシェリー。 「羽海の推理は当たってたよ。カラドリウスが卵を産んだのは3階の巨蟹宮」 「なら!?」 問いかけた影継をプロアデプトの不意打ちが襲った。脇腹を撃たれて膝をつく。 「産んだ後だった。抜けた羽がたくさん落ちてた。移動してたんだ。2階も調べたけど、こっちは完全にハズレ」 夏栖斗はユーヌの腕から手を離し、影継に追撃を仕掛けようとしているプロアデプトへ突進した。 ユーヌも台座へ向かう。 「足元に気をつけよ! 蠍じゃ!」 シェリーが飛び下がりながら強大な魔力球を、マグメイガスと頭を抱えてふらふらしているソードミラージュに向けてはなった。 床を這い覆う木の根が割れて、中から2体の蠍が這い出て来た。 「うげ!? でかい。これ、予知できなかったの?」 蠍といってもこの世界の蠍ではない。体長1メートルはあろうかという巨大蠍だ。 夏栖斗はホテルで留守番をしている白バラの祈りのフォーチュナをののしった。 「万華鏡の力が及ばぬとはいえ。辛いな」 瀕死の敵プロアデプトが蠍の毒針に貫かれて絶命した。同時に台座に一番高いところにいた影人もまた別の蠍の餌食となった。 天井の一部が開き、卵を頂く台座を月光が照らす。 「蔦が!」 「ユーヌ、卵を!」 台座に近づこうとしたユーヌを、マグメイガスが魔弾を放って牽制する。最後の力を振り絞って剣を振るおうとするソードミラージュを影継が切り倒した。 「ああ!」 卵にひびが入っていた。殻の欠片がぽろりと落ちる。中から2羽のひなが顔を出した。 雛の濡れた体は瞬時に乾いた。次の瞬間にはもうぱっちりと目を開き、親鳥かと思うほど立派な白と黒の羽をばたつかせた。嘴を開いて甲高い声でひと鳴きする。 雛たちはそれぞれ蠍の背に降り立ち、背をつつき始めた。 恐怖に駆られた蠍がめちゃくちゃに暴れ出す。 マグメイガスが、偶然、蠍の振り回す尾の先に当たって床に落ちた。床からわき出てきて蔦が、絶叫するマグメイガスの体を飲み込んでいく。 「やばい!」 影継の肩を担ぐと、夏栖斗は扉めざして駆けだした。 「雛は!?」 「助けている暇はない! 逃げろ」 ユーヌが向かってきた蠍を撃って部屋の端へ弾き飛ばした。脇を夏栖斗、影継、シェリーが駆け抜けていく。 最後にユーヌが部屋を出た。 ●最上階から絶望の石が鎮座する部屋へ 「来たか。そうでなくては面白くない」 肩に機械仕掛けのフクロウをとまらせた男が、背負った剣を抜きながらゆっくりと振り返った。 フクロウ――ペリーシュ・ナイトは鈍色の翼を広げて始めている。 闇で織ったかのごとき黒マントがふありと広がり、その後ろに白い台柱の上で月光をあびるボロボロの鳥の姿が見えた。 「ここが4の部屋か!」 一悟は迷わず部屋の中央へ向かって走りだした。 男が大剣を背から繰り出す。と、次の瞬間には一悟の横を並んで走っていた影人が真っ二つに切り裂かれ、扉が壁ごとぶち抜かれていた。 「分かってここまで来たのではないのか……」 「当たっていりゃ、別になんだっていいだろ!」 一悟は男に飛びかかった。男の両腕を己の腕で縛るようにして抱きつく。 「生憎、男に抱きつかれて喜ぶ趣味は持ち合わせておらぬ」 男は両腕を開いてあっさりと一悟の抱擁をといた。右足をあげ、後ろへよろける一悟の胸を一蹴――と、そこで空間がぐにゃりと歪む。 後に残されたのはカラドリウス一羽。 最上階は産卵で力を失ったカラドリウスが、崩壊する塔から逃れられる唯一の場所だった。 夏栖斗が植物共感なりサイレントメモリーなりを持っていれば、男が4の部屋を一度訪れていたことが分かっただろう。 一悟はペリーシュ・ナイトたちともどもワープしてくるなり扉まで蹴り飛ばされた。 砂埃と青臭さが漂う中で一悟は即座に跳ね起き、卵を掴み取ろうとしているフクロウへ向けて蹴りを放った。 男がフクロウの庇いに入る。 一悟の攻撃は男に当たり、フクロウはゆうゆうと鉤爪で卵を掴みあげた。 「どうやら貴様の仲間が卵を割ろうとしていたようだな。誰もいないところを見ると部屋に飲み込まれたか、逃げ出したか?」 貴様もその扉から逃げた方がいいぞ、と嘲りを含んだ声とともに男が黒光りする大剣の先を一悟へ向けた。 「るせっ! 大きなお世話だぜ」 やつらだけ行かせてなるものか。一悟は男に向かってダッシュする。 「またそれか」 一悟の胸を黒い刃が貫くと同時に剣全体から破滅の闘気が迸り、体を後ろへ吹き飛ばした。部屋の扉に背を打ちつけられたが勢いは止まらず、そのまま突き破って大広間へ。 「がぁ!」 大きく見開いた一悟の目に、己の胸から吹き出す鮮血と男の肩の上で翼を広げたフクロウの姿が映る。 まわりの風景をゆがませて消える寸前、ペスト医者のマスクをつけた男の手には黒く光る卵があった。 (ちく……しょ…う) 「奥州さん!」 地の2から出てくるなり三郎太は一悟の傷を癒した。 九十九は卵――賢者の石を羽海に手渡すと、ぐったりしている一悟を肩に担ぎ上げた。 「逃げますぞ!」 リベリスタたち脱出後、瞬きひとつの間をあけて塔が崩壊した。 塔のあった場所に1本の白い台柱が立っていた。体力を取り戻したカラドリウスが翼を広げている。 「見てください!」 三郎太の指し示すところからのそりと蠍が這い出て来た。 「雛は無事であったか」 シェリーの唇がわずかに綻ぶ。 蠍の背を割って雛が出て来た。雛というよりも見た姿はもう立派な若鳥だ。 リベリスタたちが見送る中、3羽のアザーバイドは息を吹き返した一悟の顔に影を落として飛び去って行った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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