●KABOOOOOOOOOM! メラメラ、ごうごう、世界が燃えていた。 廃工場。燃えている。大炎上。というのは、かのにっくきフィクサードがここにトビキリ放火したからだ。 「アンタが『大放火魔人』ドンヴァーチ・バーンナッパーかい」 有無を言わさぬ物言いだった。『ザミエルの弾丸』坂本 瀬恋(BNE002749)が中指を突きつける様な眼差しを向ける先には、イカしたスカジャンを着たフィクサード=人間。否、人間であって人間でない事を、ここにいる6人のリベリスタは知っている。 「ひいふうみい。あとはしらん。燃料様6名ごあんなーい」 「これはこれはトンだヘンタイもいるもんだ」 フィクサードが喋った。それの着るスカジャンも喋った。フィクサードの名はドンヴァーチ・バーンナッパー、スカジャンの名は愉快痛快大炎上。 愉快痛快大炎上は外部チャンネルの器物である。即ちアザーバイドであり、アーティファクト。それを着、精神も肉体も同調し一体化した事でフィクサードもまた人外<アザーバイド>と成り果てている。 そしてまた、その精神も最高にイカれ狂っていた。一言で言うならば、奴等は弩級のくされ放火魔。火や爆発が大好物。イカレ同士惹かれあったのか、そいつらが『コンビ』になった理由は今となっては分からない。理由なんて無いのかもしれない。 「……ま、何だろうが関係ないわ。敵は消す。それだけよ」 冷たい侮蔑の篭った吐息と共に『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)が言った通りだ。今、リベリスタにとって重要なのは、この廃工場でフィクサードがトッテオキの大爆発を起こそうとしている事。周囲一切を焼き滅ぼさんとしている事。 「それも巻き込み上等だなんて……命は粗末にしちゃいけませんよう。命って尊いらしいですよ?」 「つーか死にたいなら一人で死ねや 常識的に考えて迷惑千万だわ」 言ったところで通じないだろうけど、と黒髪を掻き上げた『カインドオブマジック』鳳 黎子(BNE003921)、盛大な溜息と共に首をゴキンと鳴らす『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)。二人の言う通り。フォーチュナの未来予知によれば、あと2分だかそこいらであのアーティファクト/アザーバイドが爆発を起こす。広範囲が火の海になる。それをドンヴァーチは望んでいる。自分もまた、焼かれる事になろうとも。寧ろ喜んでいるのだ。多分きっとそういう性癖、性質、生き方なのだろう。変態だ。常人ではない。異常である。随分と。分かり合えない。永遠に。 だからリベリスタは、こいつらを性急に片付けねばならない。『愉快痛快大炎上』が愉快に痛快に大炎上してしまう前に。 「……良し。頑張らないとね。すごい熱いけど……」 仲間達が武器を構えてゆくのを視界の隅で確認しながら、『腐敗の王』羽柴 壱也(BNE002639)は見るからに凶悪な巨大太刀『羽柴ギガント』をその手に構えた。視界一杯に満ちる炎。廃工場中を嘗め尽くす赤炎。赤々と照らされるリベリスタ達。熱の所為で浮かぶ汗。バリン、と天井の照明が割れて落ちる音がした。工場が緩やかに崩れ始めている証である。 「ふほほ。止めたいんだ。止められるかな?」 リベリスタを一人ひとり見やったドンヴァーチが、一同に正対する。出した舌もまた赤い。 めらっ、とイカしたスカジャンが燃え上がった。一際赤く、赤く。その背部に描かれた妖怪火の車もまた、笑っていた。燃料の気配に。 「いいかなドンヴァーチ君」 「なにかな愉快君」 「私は燃やしたいからここに来たんだ。燃やす為に私はいるんだ。そういう風になっているからね。分かるかな、ドンヴァーチ君」 「うんうん」 「いい子だ。で、燃やす為にそうなっているんだから、燃やせないととても困るね? だからこの、燃やせないようにしようとしている、アタマのイカレきった燃えないゴミどもをちゃんと分別処分して燃えないゴミにしないといけないという論理なんだよ。そうだね、ドンヴァーチ君」 「んん、まわりくどい。妹の淹れた紅茶よりまわりくどい。あっ、妹いないんだった。そうだった。今気づいた」 「で」 「うん。燃やそうかい愉快痛快大炎上君や」 口調とは裏腹にぐぐーーっと伸びをするドンヴァーチ。炎の中だからリラックスしているのだ。自室の布団の中よりも。そのままフィクサードがぴしっとリベリスタに人差し指を突きつける。 「君達……炎は好きかな? 燃えるのは? 火を見た時にドキドキする? 子供の頃マッチ棒でカエルをあぶった時どんな気分になった? 火の点いたガスバーナーを初めてぺろぺろしゃぶったのは中二の春だったよ。 皆が寝てる部屋に小麦粉を撒き散らして火を点けた事はある? 笑うよねー……生卵を電子レンジでチンするのは基本中の基本だと思う。皆もそうでしょう? あとさ、冬の草むらにガソリンまいて火をつけるのって夏休み初日ぐらい興奮するよねぇーーー……うん」 燃やそうかい。ドンヴァーチは燃料を見る様な目でリベリスタを見ていた。 御託終了。戦いが始まる。 「それじゃ――勝負だ、ドンヴァーチ!」 玄武岩を名づけたトンファーを構え、『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)が声を張る。 さぁ、炎を宿すマグマの様な激しさで。 地面を蹴った。 炎上までのカウントスタート。 ――残り130秒。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:HARD | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月12日(月)22:45 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●既に火蓋は焼け落ちた 「オープンファイアーーーッ!」 それは文字通りの開幕ぶっぱであった。ドンヴァーチが両の腕を広げれば、立て続けにおきる火柱三連発。 うわ、と『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)は熱と痛みが伴う不快感に顔を顰めた。肌を嘗め回す赤い炎といい、敵のあの趣味悪い格好といい。あれで町を歩かれるのはご免だわ……いやいや。 「御機嫌よう。この馬鹿みたいな暑さは、冬の寒い時に有効利用したいものね」 広げるのは黒い翼。あまり悠長にやってる時間は無い。羽ばたいた。魔力の風。渦を巻いて炎を退かし、防御に構えられたドンヴァーチの腕を裂く。二本の腕。その垣間から覗くのはフィクサードの目。シュスタイナを見る。 が、それを阻む様に前に出たのは『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)だった。火への耐性を持つ彼の身体に火が燃え移る事はない。 「お姫様に無遠慮に近づくのはマナー違反だっつーの! ジロジロ見るのもね!」 お姫様他にもいたけど、怖いお姫様ばっかりだからいいか。それは心の中の声だけにして。周囲もろとも大爆発自殺とかマジ勘弁。類は友を呼ぶとはいうけど、ほんとに大迷惑な類友じゃん。 「僕らサイッコーに食中りするネンリョーだぜ? 喰えるもんなら喰ってみやがれ!」 故に言下の弐式鉄山。繰り出された武の一撃。その気配を頬の傍らで感じながら、羽柴ギガントを掲げる『腐敗の王』羽柴 壱也(BNE002639)は火の中を駆けていた。一歩の毎に灼熱。文字通りの焼け付く痛み。だが次々に生まれる火傷は、次々に治り続けてゆくイタチゴッコ。エンドレス。 「爆発だなんて派手だねー、そーゆーの好きだよ。だけど、人に迷惑かけるのは許さないっ」 派手なのは嫌いじゃない、けれどそれには限度がある。爆発炎上? 付き合ってられない。絶対に止めてみせるんだから! 「派手にやろうじゃない! そーゆーのが好きでしょ? ――いくよ!」 出し惜しみの無い全力。限界を超えた肉体がビキビキと軋む音。蒸気すら発するその腕で、一閃。 「まずは挨拶がわりに食らっとけや!」 更に続いて、一徹。ドンヴァーチへと踏み込んだ『ザミエルの弾丸』坂本 瀬恋(BNE002749)が痛快なまでに真っ直ぐ突き出した右ストレート。 吹っ飛ばされたフィクサードが「おえっ」と呻きながら炎の中に倒れこむ。仰向けだった。が、平然としている。悠々と脚を組み腕を後頭部に回してすらる。成程、事前情報の通り人外だ。そこいらのペラペラなフィクサードなら今の攻撃で既に致命傷なのだろうから。 「夏の心地。宿題を燃やされると小学生は泣き喚くのさ。やった事は?」 「全然何言ってるかわかんねーし、んなことしたこたねーよ」 吐き捨てる様な瀬恋の物言いだった。瀬恋もまた火も爆発も派手で嫌いではないが、カタギを巻き込むのは頂けない。今の感情は弾丸を込められた銃の気分に良く似ている。Terrible Disaster、最悪な災厄で武装した黒金の拳が炎の中で鈍く光った。 「ゴキゲンだな、ド炎上グルマ。ここらは今日は燃えねえゴミの日じゃねえんだよ。つーわけでいっちょ死んでけよ燃えるゴミ野郎」 「あたしの生きる日が燃えるゴミの日なのさ。燃えないものはこの世に無ァい!」 飛び起きるフィクサードの声、然り然り然もありなんと合いの手を入れる愉快痛快大炎上。 火、か。『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)は火が好きだ。炎の中は心地が良い。少なくとも自分はそうだし、それだけの理由もある。始まりはどれも小さな火で良い、デカさだけを求めるなんてそれこそガキ時分の虚栄心――しょーもない心写し。 「お前は火が好きなんだよな? 火に愛されてるかぁ? でかい火じゃねぇと満足できねぇのか? くっくっく爆笑!」 「君だっておっぱい大きい子が好きでしょ~?」 「あー? 小さかろうと大きかろうとどれも最初は小さな火だぜぇ?」 勿論おっぱいだって。どんなボインもガキの頃はまな板だった筈だ。それは兎角。まぁなんだ、アレだ。一々言葉で懇切丁寧に言う暇も無いし火車は国語の先生でもないし、そういう訳なので鬼暴で武装した拳に火を灯す。 「火は遊んでやってなんぼなんだよ!」 「それじゃ火遊びしちゃおうか!」 ドンヴァーチも拳に火を点けた。あーだこーだうだうだするなら殴れば良い。クロスファイア。益々火力は上がってゆく。ガラガラガラ、と工場が崩れてゆきながら。 熱、火炎、不快な煙で肺が痛い。流れる汗が火で蒸発。 「全く、そこら中を火の海になど、実に嫌なことや嫌なやつばかり思い出します」 不条理のルーレットを傍らに召喚した『カインドオブマジック』鳳 黎子(BNE003921)は皮肉じみた苦笑で独り言ちた。 (……いや? こちらが私の日常を奪った本人の可能性だって……ありますよねえ) そうですねえ。とりあえず親の仇とでも思って。踏み出した。赤い火の中で靡かせる黒い髪。 「やらせてもらいます」 火の幕を突っ切り、寄せた距離。限りなく零距離。黎子の手には既に魔のカードが組まれていた。それが嵐の如く周囲を舞う。不吉なカードが1回、2回。 「敵は一人だけ、やりやすくていいですねえ!」 「ひー、リンチはんた~い」 そんな言葉を嘯くけれど、フィクサードがリベリスタに振るう暴力とて悍ましい。再び、ドンヴァーチの手に炎が灯る。 一発目、アックスボンバー・ヘルドライブ――凶悪なラリアットが壱也を捉え、大爆発と共に少女の華奢な体を勢い良く吹き飛ばす。そのまま燃えている何かの資材にぶつかれば、ドンガラと派手な音を立てて崩れる瓦礫に壱也の体が飲み込まれた。爆ぜる火の粉、それと炎で、壱也がどうなったのかは確認できない。正しく言うならば確認している暇はなかった。 二発目、鬼業紅蓮。薙ぎ払われた凄まじい炎が火焔地獄となってドンヴァーチ周囲にいた前衛の者達に襲い掛かる。 三発目、ゲヘナの火。呼び出された地獄の炎が巨大な火柱となって爆音と共に赤の中に赤を彩った。 四発目、これは愉快痛快大炎上が吐き出した炎。車輪状になったそれが、複数のリベリスタにぶちあたる。炎の刃が肌を切り裂く、火傷を刻む。 たった一度。たった一度動くだけで、これだけの火力。更に周囲を満たした炎が皆の体力をじわじわと削り続けるのだ。ドンヴァーチによって着火された体の炎によるダメージも無視できない。文字通り、やられる前にやらねばやられる。 「うっわ、暑苦し……。夏にはまだ早いわよ?」 眩む様な暑さの中でシュスタイナが言う。直後に彼女の傍らにガッシャーンと落ちたのは、これは何だ。天井の何かだ。真っ赤に燃えていて良く見えない。熱中症ってレベルじゃない。暑くて熱くてクラクラする。でも、真夏じゃなくてよかった。真夏だったらウンザリ100割り増しだ。この季節でまだマシなのだろう。そう思おう。そうでもしないとやってられない、早く帰りたい。 「はぁ。片付けたらシャワー浴びたいわ……なんて軽口叩いてる場合じゃないわよね。頑張りましょう」 今は文句よりも呪文を吐かねばならない時だ。火の所為で水分を奪われた唇で、何かが燃える異臭に咽そうになりながら、シュスタイナが紡いだのは天使の歌。戦場に響く福音。少しでも負傷を軽減できたのであれば御の字だ。 「うっし、ありがとシュスカ!」 傷の癒える感覚、僅かでも痛みが消える感覚に夏栖斗は礼を述べると、ドンヴァーチへと一気に距離をつめた。吹っ飛ばされた壱也が確認できない以上、開いた前衛の穴は速やかに埋めねばならぬ。 「OK、後ろから殴るのって性にあわないんだよ! ドンヴァーチ! そっちこそそろそろ灰になりかけてんじゃね? さっきより炎の勢い落ちてんぜ? 疲れてんの? まだロウソクのほうがよく燃えるっつーの!!」 「これで火力落ちてるっていえるんならアンタ、お目目んタマタマ腐ってるわよ!」 からかう様に笑う、ドンヴァーチへ。夏栖斗は紅と黒の二つのトンファー紅桜花と玄武岩に炎を宿す。それは全てを喰らう、逃れ得ぬ恐るべき竜のアギト。灼熱のマグマの如く。絢爛な桜花の如く。目には目を。炎に対して炎で焼き返す方が粋ってもんだ。 その直後、炎から飛び出す人影があった。壱也である。吹き飛ばされて燃やされたが――それを逆手に取り、体の火をカモフラージュに炎に紛れ、瓦礫の合間を縫い。とったのはドンヴァーチの背後。そう何度も燃やされてあげない。服とかこげたら大変じゃない、女の子ですし。 「羽柴ギガントふぁいあああああああああ!!」 何かの燃料が偶然付着したのか、その刃には真っ赤な炎が点いていた。攻撃も派手でなくては。狙うのはイカしたスカジャン。120%、圧倒的な剛の一閃。斬るというより粉砕するという表現の方が正しい。 「ぬぅん! チョコより甘いわッ!」 が、それは愉快痛快大炎上――描かれた妖怪火の車が羽柴ギガントの刃を噛んで寸での所で受け止める。ギリギリギリっと力の拮抗。 「ぐ、くっ! こしゃくな!」 「小娘如きに負けぬ!」 「わたしだってスカジャンなんかに負けないんだから! それにスカジャンは好みじゃないんだよね! 女の子に、もてない……よっ!!」 言下と共に壱也がいっそうの力を込めて剣を振りぬいた。切り裂いた。口を切られて「ぶぅあーっ」と悲鳴を上げるスカジャン。喋るスカジャン。それに壱也がちょっと興味があるのはここだけの話である。 「猛烈ぅ!」 後ろから力を叩き付けられたドンヴァーチが前方へ海老反りでぶっ飛ぶ。その腹へ、容赦なくパンチをぶち込んだのは瀬恋である。 「ヨォ、燃えてるかクソ野郎」 ボコスコ調子くれて殴りやがって――反吐と共に咽返るフィクサードを見下ろした。アタマ来るぜ。そんな瀬恋の気持ちを煽る様に、ムックリ起き上がったドンヴァーチが筆舌尽くしがたいほど苛立つポーズをキメてきた。 「うっふんあっはん燃え燃えよ!」 「へーアタシは全然だぜ。もっと気合入れろよ、ヌルィんだよ!!」 細かい事をうだうだ考えている暇はない。真正面から、真っ直ぐ往ってぶっ飛ばす。 作戦なんてあってないようなものだ。思考の代わりに暴力を。撤退? そんな二文字、ここには無い。 故に、黎子は己を庇った火車の肩に、ポンと手を乗せた。 「ご安心を宮部乃宮さん。私は普段以上に完璧です」 「あ? うるせぇ殺すぞ」 視線の無い、背中だけの一言。黎子はくすりと笑った。前に出る。カードを舞わせる。ひたすら攻撃を。息をする様に攻撃を。黎子に襲い掛かる炎は、受け継いだ『記憶』が焼き尽くす。黎子の体さえも。構わない。逃がさない。敵に1歩分の自由もやらない。 この刃も、技も、記憶も、己の全ては、あの火を消すため―― (――いや。違う!) 嗚呼、また忘れるところだった。既に己の目的は復讐ではない。己は復讐鬼ではなく、笑いながらどんな相手でも倒してしまう瀟洒で華麗な魔法使い! 「ええ、いつも通り。悪者のフィクサードは不思議な魔法で酷い目に遭わせるのです。その温い炎で私を燃やせるか――試してみてくださいよ!」 どんな苦境も朝飯前。誰かを守る、その為に。 やれやれ、と。火車は息を吐いた。視線は黎子から、ドンヴァーチへと。 「お前さぁ こんなデカイ火ぃ熾してなんのつもりなん?」 「ハピネスのつもり」 「はぁ~わかんねぇだろうなぁ……」 大きい火はそれなりに魅力的だ。それは認める。火車も嫌いではないし大爆発には感動すら覚える。が、それは、一般的に悲劇が起きない範囲での話だ。 な~んて、ペラペラ喋る暇も無い上に言ってもどうせ通じないだろうから、この一言を。陽炎の立ち上る足で地面を踏みしめ、業炎撃を繰り出しながら。 「モラルハザードは大不歓迎なんだわ常識的に考えて」 「そーそー! 人様にメーワクかけんなってママに教わんなかったのかよ!」 同じく炎の技で夏栖斗が続いた。最後の一撃まで攻撃を止めない。ここまで来たら意地の張り合い。絶対に爆発炎上などさせはしない。思いっきりぶん殴って勝つだけだ! 「ハッハー! イイ塩梅! スゴクイイッ!」 ブバッと血を吹きながら、ドンヴァーチは尚も立っている。そして火力。火の力×3&スカジャンの分+1。 火、火、火! もう我慢はできない。殴り尽くしてやる。起死回生の死中活。火車は誰にも止められない。 「ヘイヘイヘイちん無し! まあこんななよなよした芯の通ってねぇ事すんのはしょせん女だろ! 文字通り芯がねぇしな!」 「やだぁせくはら! なんなら見てみる? 爆発も見る?」 「そんな事すんならオレに任せろよアホンダラ! 世界一! 火に愛情注いだオレがてめぇに! 火って奴を! 叩き込んでやるよ! なあ!!! オレは男だし! 炎の大して最大級のリスペクトがあるし! 何より炎はオレの嫁だ!!!」 言い返される前の左ストレート。顔面にシュート。ゴキッと何かが折れる音が火車の拳に伝わった。その直後に飛来する魔力の風が、火の粉を巻き上げドンヴァーチを押しやった。 「どうせ羽ばたくなら涼風を起こしたいわね。こんな現場だと。ほんと……暑苦しいのはタイプじゃないの!」 珍しく張り気味の声で、シュスタイナ。終局の気配が近づくと共に誰も彼も体力が削れている。だが炎の中に倒れるのは流石に勘弁だとシュスタイナはそのフェイトで踏み止まった。なので、今ぐらい、悪態を吐くぐらい許して欲しいものだ。 そう、数えてはいないがそろそろな予感。それ以前に体力的にも厳しい状況。しかし倒れるわけにはいかない。炎上したとて止める訳ない。 「いいわ、ぶっ倒れるまでやろうじゃない! ちゃんと消火しないとだめだからね、逃がしはしないから!」 何度でも。壱也は幾度目かの全力を超えた一撃を振りぬいた。スカジャンごと切り裂かれたドンヴァーチが大きくタタラを踏む。ウヒッと笑った。そして返す、幾度目かの連火。一発、二発、そして三発目は――黎子には分かっていた。おそらくアックスボンバー・ヘルドライブだ。となれば。誘うように前に出た。これに賭ける。首を全力で『ノーガード』。 「やってみなさい、その貧相な技で!」 「お望み通りぃいいー!」 迫る腕。まともに決まるラリアット。爆発音。意識すらふっ飛ばす爆発。が、その中で。黎子は意識をフェイトで留める。伸ばした手で、ドンヴァーチを羽交い絞める。 「私ごと、やれ!」 「なにぃ! 正気か貴様!」 「ふふ、言ってみたかったんですよねえ!」 そして視線の先。拳をゴキンと鳴らした瀬恋。 「さーてがら空きだなぁ。こちとら覚悟が決まってるヤツしかいねえんだよ。ま、覚悟決まってねえボケがいたってんな奴に気を使うつもりはさらさらねぇけどな」 燃える火。拳すらも焼いている火。好都合だ。 「満足したか? してなくても知らねえもう遅え!! テメェの炎ごと消し飛ばす!! くたばれぁぁぁぁぁ!!!」 ボケがぁ、と一喝。噴出すオーラはまるで凶悪、神代の怪物。正しく『猛威』。 「ば、ばかなぁーーーーーーーーっ!!!」 哀れな敵対者は、敵対者となった事を後悔しながら磨り潰されるのみである。 ●燃え燃えきゅん 「……ねぇ。なんか、変な音しない?」 戦闘後の直後。辺りを見渡しながらシュスタイナのちょっと不安げな声。そういえば、と皆も異変に気が付く。ズズズズズ。揺れている様な。これは。まさか。 工場が崩落する! 「私の所為ですか? 私がファンブったからですか!? 欝だ死のう!!」 「知らねぇよボケ! 走れ走れ走れ!」 重傷を負ってフラつきながら精神的にファンブってパニックになる黎子、彼女を引っ掴んで走り出す火車。 「圧死なんて冗談じゃねぇ……!」 「わー!? もうなんか色々ガラガラ落ちてきてるぅううーー!」 舌打ちと共に瀬恋が駆け、剣をヘルメット代わりにしながら壱也が続く。 「皆は先行って!」 最中に夏栖斗はドンヴァーチに駆け寄り、素早くスカジャンを引っぺがすと『人外から人に戻した』フィクサードを担ぎ上げた。夏栖斗が憧れているのはヒーローだ。たとえ「甘い」等と罵られようと、救える命を救うのが夏栖斗なりの矜持である。 「おい! おいてくなーー!」 喚き散らすアザーバイドは悪いが無視だ。ごめんだってアザーバイドだもん。夏栖斗は火の中にスカジャンを投げ捨てる。 さぁ、崩れる、崩れる、もう時間は無い。 走った。走った。燃え盛り、崩れ落ちる工場を。 遂に天井が大きく崩れる――間に合うか。決死のダイビング。その背後で、ズドガァアアーーーーーン。大崩落。映画みたいだ。チープなB級アクションのそれ。うわああああああ。衝撃とか色々でぶっ飛ばされる。皆の悲鳴が総ミックス。地面にごろごろ。もくもく煙。やったか!? ――そんなフラグ。当然、死者はいない。取り敢えず皆無事なようで。 愉快痛快大炎上は工場の崩落に巻き込まれ消滅。 ドンヴァーチは逮捕。 崩落した工場については時村の方で『偶然の事故』と片付けられて。 これにて、一件落着。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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