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亡き友への鎮魂歌-Requiem-


 ”彼女”は、私の大切な友達――だった。
 初めて彼女と出逢ったのは、一年と少し、前のことになるだろうか。
 当時、私は所謂反抗期の真っ只中で、家業を継がせようとする両親と、それを拒む私はひどく折り合いが悪かったのを覚えている。
 私は、私を育ててくれた両親にはもちろん感謝はしていたけれど。
 たった一度しかない私の人生のレールを他の誰かに敷かれる事が堪らなく苦痛だったのだ。
 あの日、彼女と出逢った日もそうして私は喧嘩ばかりして家を飛び出して――
 そうして、出逢ったのだ。
 キラキラと煌めく黄金色の楽器を携えた異国の少女。
 歪な、けれど何処か寂しい音色を奏でていた彼女と。
 彼女の名は、エリスタ・ハウゼン。
 短い人生のなか、私――相葉 由希奈(あいば ゆきな)が初めて出逢った革醒者。

 彼女と出逢ってから、言葉を交わした回数は決して多くは無かったけれど。
 それでも、彼女――エリスタは、私の友達であり、同時に恩人でもあるのだ。
 あの、凄惨な事件があった夜。
 あの夜、確かに私は解放されたのだ。
 あの夜、確かに私は自由を得たのだ。
 例え、それが人に褒められるような方法ではなかったとしても――。
 私が、エリスタを赦すから。


「――だから、待ってて」
 一年。
 一年、掛った。
 方舟を騙る者達に殺された友人の仇を取る。
 少女は、由希奈は、ただずっと、ひたすらにその事だけを考えて今日まで生きて来た。
 由希奈は、友人であるエリスタがどの様な結末を迎えたのか、その詳細までは知らなかったが――。
 それは、方舟――アークと呼ばれるこの国の守護者達から聞き出せば良いと考えていた。
「貴方を、私の友達を殺した奴等は――私が、きっと殺してみせるから」
 両の掌を重ねあわせ、祈りを、願いを捧ぐ様に――。
 友人を殺された少女の想いは、純粋で、酷く歪んでいた。


「誰かにとっての正義って、他の誰かにとってはそうじゃない時もあるんだって」
 陰りを帯びた表情でそんな事を鈴ヶ森・優衣 (nBNE00026)は呟いた。
 世界は、何時だって矛盾だらけ。
 良かれと思ってした事が、害をなしてしまったり。
 正しい筈の出来事が、新たな過ちをもたらしてしまうなんてよくある事なのだと。
 フォーチュナである優衣と――彼ら、アークに集う者達は知っている筈なのだ。
 けれど、知っているからと言って簡単に割り切れる者がいったいどれだけ居るのだろうか。
「彼女――相葉さんは、私達を恨んでる。友達の命を奪ったから」
 優衣も、昔大切な友人を失った。
 アークに来るほんのすこし前の出来事だ。
 もしかすると、自分も彼女の様になっていたかも知れないと思うと、放っておけなくなったのだ。
「方法は、皆に任せるよ」
 俯いた顔を上げ、リベリスタ達の方へ向き直る。
 フォーチュナに出来る事は、未来を視て起こり得る事件を回避する事。
 そして、リベリスタ達に自分の想いを託す事。

「相葉さんを、とめて」
 静かに、けれどしっかりと意思を伝える様に、優衣はそうリベリスタ達に告げた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ゆうきひろ  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年05月14日(水)22:51
おひさしぶりです。
あるいは初めましてでしょうか、ゆうきひろと申します。
以前もこんな文句から始まりました。
ずいぶんと本当に、時間があいていますが久々の依頼で御座います。
友を殺され、復讐を誓った少女と貴方はどう向き合うのでしょう?

●成功条件
フィクサード『相葉 由希奈』の撃退(生死問わず)

●戦場
三高平周辺の森林地帯。
時刻は夜で、障害物はそれなり、足場も余り良いとは言えません。

●相葉 由希奈(あいば ゆきな)
兵庫県淡路島出身。17歳。
一年と少し前に、両親をエリスタ・ハウゼンという嘗て『楽団』に所属していたフィクサードに殺されており
その後、神戸の親戚の家に引き取られ近くの私立高校に通っています。
もし両親が存命していた場合は、実家の商店を継ぐ事になっていたようです。

二週間ほど前から、学校や家に姿を出さなくなっており捜索願も出されていましたが今回、フォーチュナの予知で『単身、三高平のアークの本部を目指す』という行動が感知されました。

ジョブはジーニアス×ナイトクリークでRank2まで習得済み。
その他、『麻痺無効』を所持しています。

●エリスタ・ハウゼン
拙作『<混沌組曲・序>聖堂レクイエム』『<混沌組曲・破>橋上の鎮魂歌<近畿>』及び『<混沌組曲・追>-Requiem-汝、罪深き者よ』に登場したNPC。
『楽団』に所属していたフィクサードでしたが、何れかの事件の直前に由希奈と接触、その両親を殺害していた模様。
すでに本人はアークの手で討たれており、死亡しています。


情報は以上となります。
それでは、皆様のご参加心よりお待ちしております。


参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトバロン覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ジーニアスナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
ハイジーニアスソードミラージュ
須賀 義衛郎(BNE000465)
ハイジーニアスクリミナルスタア
曳馬野・涼子(BNE003471)
フライダークホーリーメイガス
メイ・リィ・ルゥ(BNE003539)
ギガントフレームデュランダル
水無瀬・佳恋(BNE003740)
フュリエクリミナルスタア
ケイティー・アルバーディーナ(BNE004388)
ジーニアスアークリベリオン
二十六木 華(BNE004943)


 弓を張った半月の輝きが、林を埋め尽くす木々の隙間を縫う様に、地上へと差し込んでいる。
 くしゃり。
 しん、と静まり返っていた林の中に響いたのは、雨風に曝され舞い散った枯れ木や葉を含んだ土を踏みしめる、柔らかな靴音だ。
 林は、それ自体が元来闇を作り出す力を持つ。夜ともあれば、尚の事深く、深く闇が静寂を支配するのだ。
 故に、本来であれば靴音の主を特定する事は難しいかも知れない。
 が、こと今日に限っては地面に降り注いだ月光が二手に分かれ対峙する靴音の主達と、その影を時折、雲と風に揺れる木々に遮られながらもゆらゆらと照らしだしていた。

「どーもご機嫌麗しゅう、アークの御厨夏栖斗だよ」
 林の中で、待ち受けていた待ち人――相葉由希奈(あいば ゆきな)にそう声を掛けたのは、『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)だ。
 彼の傍には、同じく彼女……由希奈をこの場所で待っていた仲間が七人。
「アーク……方舟を騙る正義の味方気取りの連中。私を殺すつもり? 私の友達と同じ様に」
 両手を上げ、交戦の意思が無い事を示す夏栖斗に向けられたのは、由希奈の明らかな敵意を含んだ視線と、そして言葉。
 まるで黒で塗りつぶされた様な漆黒に満ちた双眸。
 その眼、その意味を、夏栖斗はきっと知っている、だから――。
「違う。由希奈ちゃん、僕たちは君を止めに来ただけだよ。まずはさ、少し話をしてみない?」
 武器は納めたまま。
 一度だけ首を横に振り、相手を刺激せぬ様落ち着いた口調で、視線は逸らさずに夏栖斗が言葉を紡ぐ。
(穏便に――このまま、話を聞いてもらえれば良いけれど)
 そうは、都合良くは行かないだろうと考えるのは『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)だ。
 彼女にとって、自分達は友人を殺した憎むべき悪にすぎない。
 例え、自分達にとってその友人が、人々を害する排除すべき存在だったとしても、だ。
 お互いの間に埋めようのない隔たりが存在する限り、こちら側の――アークの言葉に彼女は果たして耳を貸すだろうか。
 耳を傾けてくれたとして、そのまま解ったと頷いてくれるのだろうか。
(絶対的な正義なんて存在しない。人の数だけ正義はある)
 誰が言った言葉だっただろうか。
 それとは違えど、けれどそこだけを抜き出して考えれば友達を殺された、その相手は悪になるのだろうと。
 夏栖斗の説得の邪魔をしないように言葉には出さず、そっと『NonStarter』メイ・リィ・ルゥ(BNE003539)はそんな事を考える。
 けれども同時に、その悪と対峙する事を考える由希奈に疑問も浮かぶ。
 由希奈は正直な所、見た限りではさほど強そうではない。
 きっと自分でも解っている筈だ。
 復讐はおろか、一矢報いる事すら難しいかもしれない。
 自分のようなヘッポコでも思いつくのだから、彼女が思いつかない筈がないとメイは思う。
 だとすれば、彼女は――。
「復讐、か」
 正義も悪も表裏一体。
 見る位置も変われば揺らぎ、入れ替わっていく。
(友人が何者であろうと失った、事に代わりはない、し説得は難しいかも、しれないね)
 同様にメイの隣で、由希奈に話しかける仲間達を見守りながら『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)は思う。
(――「騙る」っていうのは、そうかもね)
 言葉の上にしかないものを騙ることは簡単だ。
 が、成る事とあれば話は別だ。こちらは難しい。
「わたし達は、アンタの友達……エリスタと戦った当事者じゃない。だから限界はあるが、報告書にある範囲の話なら伝えられる。聞きたくは、ないか?」
 由希奈の言う方舟を騙るという言葉に、少しだけ胸が傷んだ気がしながら『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)が言う。
「嫌だって言っても、聞き出すに決まってるじゃない。その為に、来たんだから」
 由希奈が、その腰に携えた小太刀をゆっくりと抜き、その意思を示す。
 上弦の月が照らし出す白刃の煌きは、彼女の敵意の様に鋭くリベリスタ達を射抜く様だ。
「話して、全部。貴方達が知っている事を」
 由希奈の言葉に、ゆっくりと涼子が首を縦にふり頷いた。
 

 義衛郎を始めとしたリベリスタ達のまとめた資料に基づいて、夏栖斗や涼子が楽団やエリスタの顛末について由希奈へと説明していく。
 彼女が、自分達アークを始めとした世界の敵であるバロックナイツに所属していた事。 
「字面でしか分からないけど、わたしの見てきた中じゃ、エリスタはわりと満足そうに死んだみたいね」
 涼子の言葉は、嘘偽りのない本心。
 エリスタ・ハウゼンという少女は、戦いの中で罰を――赦しを求め、最期の瞬間……息を引取る寸前にその場に居合わせたリベリスタの手の中でそれを得た。
 志半ばで死ぬ者、想いを遂げる事なく死んでいく者などこの不条理と矛盾に満ちた世界では、日常茶飯事の事だ。
 その中で自らの求めた答えを手にする事が出来た彼女は、満足な終わりを得たといえるだろう。
「……傲慢を覚悟で言いましょう。エリスタ・ハウゼンだけでなく、多くの優秀なフィクサードを抱えていた楽団を討ち果たしたアークに相葉さんが単騎で復讐を果たせると、エリスタ・ハウゼンは考えていると思いますか? 或いは返り討ちに遭い、自分の元に相葉さんが来ることを、エリスタ・ハウゼンは望んでいますか?」
 そう、由希奈に問うたのは水無瀬・佳恋(BNE003740)だ。
「私には判りません。エリスタ・ハウゼンを知らないのですから……でも相葉さん、貴方なら判るのではないですか?」
 踏みとどまって貰いたい。
 可能であれば、剣を交える事なくこの場を収めたいと……和解出来れば、と佳恋は思う。
 世界に『絶対に和解出来ない存在』なんて、佳恋は本気で考えているから。
 けれども、和解を目指す事はただ武器を捨て、無防備に言葉を交わすだけではない事も佳恋は知っている。
 費やされるコストは、時として人の命であり、崩界であり……その時、例え矛盾を孕んでいようとも、和解する為の戦いをする剣こそがリベリスタなのだ。
「相葉さん。私には、貴方を肯定することも、否定することも出来ません。けれど……立ち止まって貰えないなら、私はアークのりベリスタとして貴方を止めなければなりません」
「――俺も復讐の為に生きているから気持ちはわからない事は無い」
 佳恋に続く様に、口を開いたのは『咢』二十六木 華(BNE004943)。
「だが、敵に回した組織はひとりで如何にかなる程甘くない場所だ。それは知らないとは言わせねェ」
 無茶で無謀な事をするのがお前の復讐なのかと。
 笑わせるな、と華は言う。
「無茶で、無謀だなんて解ってるわ……。だけど」
 自分が、自分だけがエリスタを、友達の仇を討てるのだと由希奈は思っていた。
 エリスタ・ハウゼンという少女は彼らアークにとって、否、アークだけではない。
 彼女が所属していた楽団という組織が害した者達にとっては、憎むべき敵でしかないのだと。
 事実、由希奈が暮らしていた淡路島という場所は楽団による被害や恐怖が色濃く残っていた場所の一つだったから、それは嫌というほど骨身に染みていた。
「認めない。アークが、貴方達が彼女を赦していて……私にはもうそれが出来ない。叶わないなんて、認めない!」
 ならば、自分は何のために此処まで来たというのかと。
 まるでそう訴えるように、由希奈が激昂する。
「赦された、満足に逝ったというのが気に食わないなら言い方を変えるぞ。お前の友人は、因果応報に神罰を受けたんだ。お前も、同じように罰を受けに来たのか?」
 ともすれば、由希奈を刺激しかねない言葉は華なりの不器用なあり方かも知れない。
 まるで、彼女の正義を壊さぬように、彼女の悪であるかのような。
「あの糞みたいな状況を生み出したネクロマンサー共は、この国中の悪い奴らも頭に来る位まじムカつくフィクサードっす。嫌われるだけの屑共っす」
 楽団は、この島国で暗躍を続けていた主流七派ですらも、敵に回した程のフィクサード集団であったと『忘却仕様オーバーホール』ケイティー・アルバーディーナ(BNE004388)は言う。
「そんな一味のエリ何とかを友達というあんた、まじイカれてるっす」
「イカれてなんてない! 彼女は、私の友達だったのよ? 他の誰が彼女のことを悪く言ったって、私にとっては――」
「友達だったなら! だったらこそ、あんたが死ねば、死体使いがたまたま救世主になったって事実は綺麗に忘れられるしその美談も消えちまうっす」
 言い返そうとする由希奈の言葉を遮るようにケイティーが話を続ける。
「あんたは不幸で、そんでたまたま幸せを手に入れたじゃねぇっすか。好きに生きてキレて食って遊べる機会手に入れてんじゃねぇっすか」
 それをフイにするような事をすんのがマジ勿体ねぇ、とケイティーが吐き捨てる様に言う。
「復讐に燃える気持ちはオレにも解る。解るようになってしまった」
 リベリスタ達の言葉に呆然と立ち尽くす由希奈に、そう呟くのは義衛郎。
 義衛郎には、義衛郎の大事な人を奪った存在が、未だに生きながらえている事が心底気に食わない。
「だから殺す。矮小な満足の為に、俺は復讐を成し遂げずにはいられない。相葉由希奈……お前の誓った復讐は本当に、間違い無く『友の為』か?」
 もし、そうであるのならやはり義衛郎には彼女に言う事は、他に何も無いだろう。
 復讐を果たそうとする者と、それを止める者でしかない。 
「――そうに、決まってるじゃ、ない」
 一言一言を、噛み締める様に由希奈が言葉を絞り出す。
 心なしか小太刀を握る腕が震えているのは、これまでの彼らの話に少なからず動揺を覚えているからだろうか。
「震えてるけど? 矛を収める気は、無い?」
 これまで話を見守る事に徹していた天乃が口を挟む。
 矛を収める気がないかどうか、それは此処で止まらなければ実力行使を行うという天乃なりの宣戦布告――最後通牒。
「私、は……例え意味が無くたって、無駄だからって、止めない。止まらない。復讐するって、誓ったんだから!」
 まるで、自分に言い聞かせている様に由希奈が吼えた。


「……まるで八つ当たりだな、憂さ晴らしですらない」
 震えながら、激昂する由希奈にため息をつきながら涼子が言う。
「由希奈ちゃん、死ぬつもり? 情け掛けられたりするより、敵を憎んだまま殺される方がある意味楽だよね」
「やはり、そうなのか……? お前も友人と、同じレールを辿りに来たのか? それなら無茶にも、箱舟相手に単身乗り込んで来た説明がつく」
 メイと華の頭によぎっていた出来ればそうであって欲しくはない答え。
 違う、と否定する由希奈の言葉は二人の意思に反して、返っては来なかった。
「そうなのですか……? 相葉さん、それが貴方の答えなのですか? 貴方の友人は、エリスタ・ハウゼンはそれを望んでいると思いますか?」
 先ほど投げかけた言葉を、もう一度佳恋が由希奈へぶつける。
「だったら何!? 何だって言うの!」
「勿体ねぇ……マジで、そんなの勿体ねぇよ。復讐心を満たす為にうちらを騒がせて、それで自分は気が済んだらはいさよならとか、そんなの都合良すぎるっす」
 命を粗末にするなっす、と呆れた様子でケイティーが言う。
 無性に腹立たしいのは、目の前の恵まれている事に気付かない、気付いても止まれない由希奈に苛立っているからだろうか。
「多くの、人が……私達も仲間が、死んだ、よ。死者、の安寧も許されず、操り人形として冒涜、までされた。だから、私達としても……貴方の友人、を殺した事、は後悔しない。それは、正義のぶつかり合い、をした彼女に失礼」
 どうして彼女は死んだと思う? 
 と、天乃が由希奈へと尋ねる。
「それは、貴方達の敵だったからでしょう……?」
「違う。力が、足りなかったから、だよ。助けようとしたもの、がなす術無く目の前で殺された経験、はある? 生きて帰ろう、と約束した仲間が、数秒後には隣でミンチにされた経験、は? 弱ければ、正しかろうと、死ぬ」
 私達も、彼女も、そういう世界でやり取りをしてきたと天乃が言う。
「弱ければ何も出来ない。果たせない。そして……逆も同じなんだよ、由希奈ちゃん」
「どういう、事?」
 続く様に、夏栖斗が言葉を紡ぐ。
 昔話、大切な人――こいびとを奪われた男は修羅となって、復讐を果たした事。
 けれども、復讐を果たした筈の男の……夏栖斗の心には、何も残らなかった事。
「彼女は戻って来なかった。由希奈ちゃん、復讐をやめろなんて綺麗事は僕には言えない。だけど」
 復讐をなしたら、一生心に刺が残るんだと。
 その重さを君は背負い続ける覚悟はあるのかと言う夏栖斗は、まるで駄々をこねる子供を諭す様。
 復讐が終わっても、人生は続く。
 重い重い十字架を背負ったままの、人生が。
 そこにはきっと自由はないのだろう、まるで血を吐きながら続ける終わりのないマラソンだ。
「ねぇ、由希奈ちゃん。君は本当にメイ達が言う様に……僕たちに殺されるために此処へ来たの? 本当は「何」がしたかったの?」
「私は、私は……」
 由希奈の、じっと震えた手で握りしめていた小太刀が静かに音を立て、地面へ落ちる。
 同時に、今まで堪えていたのかボロボロとだらしなく溢れだした由希奈の涙が、答えを物語っていた。


 その少女――エリスタは、両親に愛される喜びを知らなかった。
 その少女――由希奈は、両親に注がれる愛情を疎ましく感じていた。
 エリスタには、偶然出逢った由希奈という少女が酷く羨ましかった。
 少女は、自らの幸運を知らない。
 親の愛を受けられる事が、どれほどの幸運なのか。
 だというのに、目の前の少女はそれが不要だと言うのだ。
 エリスタには、解らなかった。
 だから、自分の出来る形でほんの少しの呪いと、希望を与えてみたくなった。

 由希奈には、偶然出逢ったエリスタという少女が酷く羨ましかった。
 少女は、自由だった。
 両親に縛られる自分とは違う。
 羨ましかった、憧れてしまった。
 自分も同じ様になれればと思った。
 けれど、エリスタが両親を殺し得た筈の――自由は、由希奈に何も与えなかった。
 残ったものは、ぽっかりと空いた穴のようなものだった。
 穴の空いた日常は、やがてゆっくりと彼女を蝕んでいた。
 そうして、全身を蝕まれた由希奈は何もかも投げ出す為に、逃げ出すかの様に――。
 それが、事のはじまりだったのだ。
 
「すまねェな、世界の為とはいえお前の友人を殺してしまって」
 子供の様に、その場で崩れ落ちて泣きじゃくる由希奈をあやすように華が言う。
(寂しかったんだな、お前は)
 きっと、ただそれだけの事だった。
 言葉に出せば、きっと彼女を更に泣かせてしまうだろうとそっと自分の中で気づいたものは心の隅に締まっておいた。
「……ま、八つ当たりには個人的に付き合うのはかまわない。もう少し、やりたいことを整理してきなよ」
「帰ろう? ちゃんと由希奈ちゃんのことを大事に思ってる人が、すごく心配してるみたいだしさ」
「もう、こういう世界に、首を突っ込むべきじゃ、ない。貴方は。解った?」
 優しく自分に声をかけるリベリスタ達の言葉に、静かに由希奈が頷く。
 頷いたその後も、由希奈は暫くその場で泣き続けていたが、誰もそれを咎める事はしなかった。
 
 今宵、月はただ何も言わず優しく彼らを見つめ続ける。
 新たな明けの明星が、少女のこれからを照らし出すその瞬間まで――。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様で御座います。
有無をいわさず、無力化するか。
それとも言葉で説得を試みるか。
皆さんの言葉が届いた結果、無用な血は流れませんでした。
それでは、改めて皆様お疲れ様でした。