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<恐山>欠け掛かった二翼

●欠けた翼
『ターゲット確認、いつでもどうぞ』
 それは薄暗い山中から届いたメッセージ。
 ギリースーツと呼ばれる枯れ草を掻き集めた様な偽装服を纏った狙撃手のレンズに捕らえているのは、ティルトローター機である。
 直ぐ傍の崖下には死者の行進、腐臭漂う中でも男は繭一つ動かすことなく、機械の如く狙いを定めていた。

「そろそろ降下時間だ、作戦を確認する」
 リベリスタ達と戦地に赴いた『SW01・Eagle Eye』紳護・S・アテニャン(nBNE000246)は、一同に最後の打ち合わせを始めた。
 事の発端は今から数時間前のブリーフィングルームでの事である。
 何時もの様に元気いっぱいの『なちゅらる・ぷろふぇっと』ノエル・S・アテニャン(nBNE000223)の予知を描いたスケッチブックには真っ黒な人影が無数に描かれ、傍には沢山の人が眠ったように描かれている。
 きっと本来の意味を知ってしまったら、幼心に深い傷を受ける事だろう。
 それを避ければどうしても分かりづらくなってしまう。
 紳護はそれを読み解き、こう彼らに伝えた。
 数時間後、アーティファクトで作り出された無数のゾンビが山間のキャンプ地を襲うと。
 時間に猶予は無く、すぐさま準備されたティルトローター機に乗り込み、現地へと向かい――今に至る。
「到着と同時に二人一組で各テントや建物を周り、民間人をこの機へ非難させてもらう。途中でエリューションと遭遇した場合はなるべく秘匿する様にしつつ対応、殲滅はしなくていい。撤退を優先してもらいたい、それと不死のロザリオを見つけたら回収してほしい」
 不死のロザリオ、それが今回のゾンビ騒動を呼び起こした元凶だ。
 ロザリオのある場所の傍にエリューション・アンデッドを生み出してしまうはた迷惑な品物である。
 ロザリオだけ持ち去ればいいとも考えられるのだが、生まれたゾンビ達は傍に存在する人間を優先的に襲っていく。
 ならば狙う人間とロザリオごと空から運び出してしまい、地面へ効力が呼ばない様にしてしまえばいい。
 離れすぎればゾンビ達は体を維持できなくなり、消滅するという特徴もあり、まさに一石二鳥というところか。
 紳護はブリーフィング用のタブレット端末を取り出し、そこへ現場の地図を表示させる。そこから進行ルートを示すように赤いラインが走り、全ての施設を手分けして回る計画が描かれていく。
 手早く行けば直ぐに終わる。
 否、そうでなければいけない。
 そうでなければ、こちらが圧倒的に不利なのだから。
 そのブリーフィングの最中、突然、機体は跳ね上がるように振動した。

 原因、それは先ほどの狙撃手がトリガーを引き、一瞬のうちに航空機の左翼エンジンを貫いた所為だ。
『……やはり、まだ動くか』
 このティルトローター機が厄介なのは、その息のしぶとさにある。
 ヘリコプターならローターを一つ破壊されるだけで簡単に墜ちるが、この機体は二つのエンジンで二つのプロペラを回す。
 片方が破壊されても、もう片方のエンジンが出力を補い、プロペラを回し続けることができるのだ。
 コッキングレバーを引く男の目には、煙を吐きながらも懸命に耐える健気な鋼鉄の鳥が映っていた。

「OwlE、何事だ!?」
「にゃろう、下から狙撃してきやがったぜぇ」
 暴れる操縦桿を押さえ込むのは、紳護が隊長を務める偵察部隊の古株、OwlEだ。
 浅黒く大きな両手で握っていても、それを振り払わん勢いである。
「持つのか?」
「馬鹿野郎! 持たなきゃ俺たちゃゾンビの中に放り出されるぞぉっ! おい、お客さん方! しっかりつかまってろよっ!」
 どんな叫びが出たか、どんな悲鳴があがったかは分からない。
 2発目がエンジンを貫いたら終わりだ。
 以前、ドライバーを勤めて病院送りにされた苦い思い出が蘇る。
 今度こそどうにか届けて見せると、強引な急降下をはじめ、2発目の弾丸が装甲を掠めていく。
 無理矢理な舵取りをしながら、リベリスタを乗せた鉄の箱舟はみるみる降下していくのであった。

●再び空へ
 墜落に見せかけた胴体着陸は派手に人目を引き、誘導することなく行楽客達がティルトローター機へと寄ってきていた。
 それらしい嘘を並べ、彼等を機体の中へと収容すると紳護とOwlEは破壊されたエンジンと向き合っている。
 なにやら相談を終えた紳護が機体の上から飛び降り、リベリスタ達へと歩み寄っていく。
「どうにか飛べるらしいが、色々調整しないといけないらしい。そこで作戦は変更だ」
 先ほどと同じくタブレット端末を取り出すが、液晶が割れていた。
 ため息をつくとAFの中へとしまい込み、代わりに何時もの小型のホワイトボードとペンを取り出す。
 東西南北の四方向を固める布陣がホワイトボードに描かれていく。
「俺は機体の上からエリューションの動きを探る、皆は機を取り囲む様に陣取ってもらいたい。360度、どこから来られても対応し、全て迎撃しなければならない」
 ロザリオも回収済みだが、肝心のティルトローター機が直るまでこの危険な場所で足止めを食ってしまった。
 ロザリオがある以上、ゾンビは倒せども追加されてしまう。
 しかも、これを壊そうとすればより対処不能な程に大量のゾンビが一斉に湧き出し、それを阻止しようとする嫌な副次要素まで付いてきている為、持ち去る作戦となった経緯がある。
 四方八方から迫るゾンビ達をどう対処するか、なぎ倒すにしては数が多すぎるのだ。
 思案顔のリベリスタ達へ、紳護は大型のジュラルミンケースをAFから取り出すと、それを開く。
 その中には有刺鉄線のロール、地面に突き刺して固定する小型バリケード、折りたたみ式の万能シャベルが収められている
「迫るまでに足止めできる仕掛けを設置すれば少しは楽になるかもしれない……好きに使ってくれ」
 ノエルの予知ではここにゾンビが到達するまでは後10分、どれだけ足止めの仕掛けを作れるだろうか。
 そしてどれだけの相談が出来るだろうか。
(「……だが」)
 ずっと偵察要因として彼等を見てきた紳護に、強い不安は無い。
 OwlEが死に掛かったときも、リベリスタは誰一人欠けさせる事なく任務を全うした。
「すまないが、よろしく頼む」
 任せろと心強い声を耳に、紳護は機体の上へ登っていく。

『えぇ、堕ちました。これで以前の仕事の失態はチャラということで』
『流石ですね、やはりリアルに軍事業を営まれた方達というところでしょうか』
 無線の向こうにいた雇い主……恐山の男の声に、狙撃手は自嘲気味に笑った。
『我々は本来のPMC達には嫌われてますよ、節操なしとね』
 民間人を盾に、化け物を利用して敵を殺しに掛かる。
 淡々と依頼してきた時の、恐山の男の怜悧な顔立ちを思い出せば少しばかり悪寒すら覚えた。
 民間人と一緒に死んでくれればいい、安いコストで良心を捨てた策がリベリスタたちに牙を向く。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:常陸岐路  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年05月18日(日)22:54
【ご挨拶】
 初めましての方はお初にお目にかかります、再びの方にはご愛好有難う御座います。
 ストーリーテラーの常陸岐路(ひたちキロ)で御座います。
 今回の戦いは防衛です、上手く倒しきっていくか、時間をかせいで凌ぐか。
 状況は作戦次第というところになるでしょう。
 ティルトローター機の名前なのですが、雲雀(Skylark)という鳥の名称です、どこぞの洋食店ではないのでご注意を。


【作戦目標】
・修理が完了する一定時間までティルトローター機『S・ラーク』(以後S・ラークで表記)を護衛する。


【追加失敗条件】
・ S・ラークの大破。
・ S・ラークが飛び立てない状況に陥る。
・一般人の死傷者数が5割以上。


【追加ルール】
・基本的にゾンビは目に映るリベリスタを狙います。

・リベリスタにゾンビが数体まとわり付いていると、その直ぐ傍にいるリベ
リスタを狙います。しかしそのリベリスタも前述と同じ条件が発生している場合、更に別の対象を探します。

・傍に対象になるリベリスタがいないとS・ラークを狙います。

・後部の搭乗口がある程度の攻撃を受けると破壊され、内部に侵入を許してしまいます。勿論中には一般人が詰まっています。

・OwlEはS・ラークの上部で修理作業を行っています。S・ラークの損傷が増えると追加で修理が必要になり、時間が延びますのでご注意を。


【戦場情報】
キャンプ地の外れ:キャンプ地の近くにある空き地です。周りを草むらに囲まれ、奥側は木々が生い茂り見通しが悪いです。
南側がキャンプ地へと繋がる大きな道があり、そこだけは開けています。西側に木材が纏めて置かれています。

S・ラーク:全長15m程、四角で囲むと15m×15mというイメージになります。キャンプ地の外れ、中央に着陸しています。


【敵情報】
・E・アンデッド × 無数

〔詳細〕
 至る所から湧き出るゾンビです。体も脆いですが、動きが早く物理攻撃力が高いです。無数にわらわら沸き続けるので数で圧倒されないように注意です。
 攻撃手段は噛み付いたり、引っかいたりと原始的な近接攻撃がメイン。たまに手持ちのモノを投げつけて遠距離攻撃をしてくる事もあります。


【紳護のジュラルミンケースについて】
 下記のバリケード作成アイテムが入っています。上手く使えば状況を有利に出来るでしょう。

・有刺鉄線ロール:有刺鉄線を束ねたものです、最大15m程の長さがあり、ゾンビ数体程度なら引っかかって暴れても壊れません。張り巡らせるのに使う支柱2本付き。

・小型バリケード:横幅1.5m程の設置型バリケードです。鉄製で丈夫、バリケードの下部にある鉄製スパイクを地面に突き刺して固定します。計3つ。

・万能シャベル:小型のシャベルですが、右に鉈状の刃、左にノコギリ状の刃が付いています。取っ手の部分を外すと中から釘が出てきます、金槌はシャベルの平らな部分で叩けということかと。


【紳護に関して】
 S・ラークの上から敵がどの方角からどれぐらい来るか、偵察をしてくれます。
 攻撃をお願いすれば攻撃する事も可能ですが、お願いするとそのターンに偵察を行わなくなる為、次のターンに襲い掛かる敵の情報が分からなくなってしまいます。
参加NPC
紳護・S・アテニャン (nBNE000246)
 


■メイン参加者 8人■
ハイジーニアスクロスイージス
アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)
ハイジーニアスマグメイガス
高原 恵梨香(BNE000234)
サイバーアダムクロスイージス
新田・快(BNE000439)
ハイジーニアススターサジタリー
百舌鳥 九十九(BNE001407)
ハイジーニアスソードミラージュ
リンシード・フラックス(BNE002684)
ビーストハーフスターサジタリー
ブレス・ダブルクロス(BNE003169)
ハイジーニアスソードミラージュ
鷲峰 クロト(BNE004319)
ジーニアスソードミラージュ
ベオウルフ・ハイウインド(BNE004938)

●私と踊って貰います
「野犬の群れがこちらに向かっているようなんです。追い払いますが、安全のためここは閉めておきますね」
 『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)は努めてにこやかな表情で要救助者へ告げた。
 本当は腐った者共が血肉を求めてここに迫っているなんて言えるはずもない。
 紳護の作戦説明が終わるや否や、それぞれが持ち場の準備に取り掛かっていた。
「ったく、変な横槍入れてきやがって。どこのどいつだってんだ」
 悪態つきつつも『さすらいの遊び人』ブレス・ダブルクロス(BNE003169)はAFからワイヤーを取り出すと仲間へ振って見せる。
 仕掛けてくると合図を出すと森の中へ、10分の猶予でどれだけの罠が仕掛けられる事か。
 勿論、その考えは彼だけではない。
 同じく北側を守る『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)も、視野を遮る草を祈りの剣を振るって切り払う。
 ザンと草が弾けとび、宙に舞っては沈む。そのたびに森への視界が確保されていく。
「うん、これで良く見えるよ」
 『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)の瞳にも森の向こうが見えるようになった。
 S・ラークの上に陣取り、紳護と『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)の3人で索敵と、状況に応じての援護射撃という役を担っており、感知できる範囲はなるべく広いほうがいい。
 周りのメンバーが準備に取り掛かる間も、不意の敵襲がないか目を光らせる。
(「あーほんとやばかった、墜落は流石に洒落になんねーよな」)
 鷲峰 クロト(BNE004319)の脳裏に、墜落しかかった先程の出来事が蘇る。
 誰にでも分かる危険なブザー音、ランプの点滅、そして機体の揺れ。
 楽団の亡者を思い出すなんて口にしようとした矢先の事だった。
(「けど、状況はまだ好転ってやつにはなってねーか」)
 4WD車をバリケード代わりに並べていく。
 一緒に並べたバイクも自慢の速度が今は役に立たない。戦闘用に作られた堅牢製を期待するしかない。
「切ったのはここにおいて置くぞ」
 ベオウルフ・ハイウインド(BNE004938)が居合いぬきで寸断した木材を、九十九の元へと運ぶ。
「ありがとうございます、助かりますぞ」
 地面に突き刺した木材にロープを釘で打ち込み、更に木材に絡めて縛ってと簡易的なバリケードを形成していく。
 余った釘はロープに食い込ませておけば棘となってゾンビを絡めとってくれるはずだ。
 同じく南側では『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)と快がバリケードに有刺鉄線の罠を南側に構築し、更に木材を×の字に組んで地面に突き刺していく。
「これだけあれば……」
 追い討ちの如く、カーチェイスに銃撃戦も耐える新田酒店の軽トラが横倒しに壁となる。
 狙われるだろう南側を多重の仕掛けで守りを固めた。
「そろそろくるわよ」
 恵理香の耳に死者の呻きが聞こえる。
 彼女の呼びかけに、四方に散ったリベリスタ達はS・ラークへ集合し、迎撃準備に入った。
(「たくさんのゾンビ……『楽団』を思い出しますね、集団に圧倒されてとても苦戦しました」)
 死傷者も出た凄まじい戦いの記憶が蘇る。
 しかし、今は違う。
 自分たちはそれを乗り越えたのだ。
「紳護さん、偵察……よろしくお願いします」
 機体の上でライフルを構える紳護へかかる言葉、任せろと頷く彼にリンシードは薄らと笑う。
 腐臭と草を踏みしめる音、ゆらりゆらりと崩れそうな肉体が彼女の後ろから近づく。
「ここから先へは通しません……私と踊って貰います」
 
●映画の様にやられてもらおう
 常人にはリンシードがゾンビの前で刃を一振りした程度にしか見えないだろう。
 少女の放った攻撃は一瞬の内に通り過ぎ、遅れてやってきた刃は氷となって吹き荒ぶ。
 ゾンビ達の不規則な動きは攻撃の核たる刃から逃れる結果となり、大きなダメージに繋がらない。
「群がり襲い来る死者と生きるために迎え撃つ生者。うむ、映像作品めいた状況ですね」
 アラストールの客観的な言葉に、ブレスが楽しげに笑う。
「まったくだ、でもな」
 車両の上でクリムゾンロアを構える、ターゲットは複数。
「ホラー映画は見るから楽しめるもんだろ、リアルで来んじゃねーよ」
 トリガーを引けば、轟音と共に連続発射される弾丸がゾンビたちに吸い込まれる。
 ワイヤーでもがくゾンビ達を容赦なく蜂の巣にすれば、残った1体をアラストールの一閃が断つ。
「まぁ、迎え撃つ側が普通ではありませんが」
 腐ってるとは言えど、肉体を寸断できる辺り言葉通りといったところか。

 東側もバリケードの狙い通り、一箇所から流れ込んできたゾンビ2体をクロトとベオウルフが挟み撃つ。
 冷気を帯びたナイフと、高速の居合いぬきがゾンビ達を迎撃するが1体はダメージを絶え凌いでしまう。
 しかし二人掛かりなら一人を足止めする事は容易い。
 ここまでは順調だ。
 
 S・ラークが墜落しそうになった時、快の頭に浮かんだのは以前みた映画の光景だ。
 ゲリラに撃ち落とされ、黒煙を吐きながら回りながら落ちていく黒鳥。
 輸送艦の名前にされる事だけは御免こうむると気合を入れた彼にも焦りは生まれただろう。
「いつからここはモガディシュになったんだ……」
 有刺鉄線の向こうからは死者共の行進が広がっていた。
 数の暴力に絡まるトラップは健在だが、こんな数では何時壊れてもおかしくはない。
「お話と違うのは、アタシ達は死んで勲章を貰うのではなく、全員生きて帰ることよ」
 その映画を知る恵理香が、映画の続きを断ち切る。
 あれとは違う物語なのだから。
 トラップに絡まり、まとまったゾンビたちへ九十九の連続発射が襲い掛かる。
 魔力を帯びた弾丸がトラップを壊さぬ様にゾンビ達を次々に打ち抜き、流れる様な動きで空マガジンを滑らせ、狙いを外さぬまま再装填を行う。
 数は減るも、まだまだ多い。
「とにかく、撃って撃って撃ちまくるしかないって感じですなー」
 重なりすぎて分からなくなるほどのゾンビの足音は、九十九にとってはもやはノイズでしかないだろう。
  
 更にゾンビは押し寄せ、南側は大変な状況に陥ってきた。
 道を横断する有刺鉄線がキシキシと悲鳴を上げ、今にも支柱が倒れてしまいそうだ。
「もう少し引きつけて、あと4体引き付ければ次の数が減るわ」
 永遠と続くワケではなかったのがせめてもの救いだろう
 だが、あと数十秒もすれば、有刺鉄線の壁が崩壊し、木材のバリケードをなぎ倒しながら突破してくる。
 その先にはトラックという鉄の壁が待っているわけだが、ここにひとつの計算違いがあった。
「トラックをしまったほうがよさそうですな、群れが突っ込んできたら左右に散ってしまいますぞ」
 壁の一面が埋まる間はゾンビを受け止めてくれるが、面が埋まると押し合いへし合い、脇にそれたゾンビ再び進行を開始してしまう。
 おまけに敵は散らばり、リベリスタ達が囲まれる可能性すらあった。
 上から見なければ分からなかった盲点である。
「……南側にいかないと……っ」
 足の速いリンシードとしては直ぐにでも駆けつけたいところだが、こちらもゾンビが多く、引き付けるので精一杯だ。
「俺が行く! ここは任せるぜ、ベオウルフ!」
「任された、頼んだぞ」
 東側もゾンビの群れが流れ込んできているが、他のバリケードにはない一つの仕掛けが功を奏する。
 逆ハの字に形成されたバリケードは最終的にはゾンビが入り込んでくることになるが、代わりに進入する数が少ないのだ。
 ゾンビ達はこのバリケードに突き進むと互いを押し合って密着し、身動きもとりづらくなる。
 左右の壁は重量のある車両二つ、ベオウルフはバリケードから零れた敵だけを処理すれば、暫くは東側を維持できるのだ。
 バリケードの間を抜けたゾンビがよろける様に彼に駆け寄ると、骨の飛び出た掌を振り下ろす。
「……っ!」
 ザリッと皮膚が引き裂ける音と共に鋭い痛みが肩に走る。
 その攻撃に何もしなかったのは、こうして間合いに入れるためだ。
 続けて、ゾンビは反対の手を振り上げるが。
 刹那の間、金属の擦れる音が響くと共に、ゾンビの腕と首が後ろへと転がった。
 血油の掛かった刀を手首の返しで払うと、再び刃を収める。
「映画の様にやられてもらおう、本物の命が掛かっているからな」
 群れを押さえ込むバリケードを睨みながら、次の迎撃対象に備え、居合い抜きの構えを取るのであった。

●血と硝煙の匂い香る地獄
 とうとう新たなゾンビの一団の合流に、鉄条網は崩壊した。
 なだれ込むゾンビたちの数に、木のバリケードも一瞬の足止めしか出来ないほどだ。
「ここは通せんぼ、1体たりとも近寄らせたしないさ!」
 その一瞬にクロトが神秘の閃光弾を放りこむ。
 眩い光がゾンビ達を包み、五感を狂わせ、ゾンビたちの一部が動きを止めていく。
 それでも突破するゾンビ達は多い。
「こっちだ! こっちにくるんだっ!」
 快は言霊を乗せた声を張り上げ、ゾンビたちの前へ飛び出した。
 ナイフを持った手を振り、より強くアピールする彼に神秘の力が働いているとは理解もせず、足早にゾンビ達が快を目指して突撃していく。
「俺ごとで構わん! 全弾ここに落としてくれ!」
 身体をつかまれ、爪で引き裂かれ、左腕にかみつかれる。
 更には投石のおまけ付き、常人なら3分もせずに肉塊になれるであろう猛攻だ。
「仕方ないですのぉ」
「まったく、死者がこの世に彷徨い出てくるんじゃないわよ……あの世に還りなさい」
 九十九の銃口と恵理香の雷がゾンビの群れを狙う。
 連続して響く銃声は、的確にゾンビの頭部や首を撃ちぬき、瞬く間に元の死体へと戻していく。
 放たれた電流も、幾重に分かれた雷槍となって腐肉を焼き焦がし、固まった黒の死体が地面に崩れ落ちる。
 しかし、これだけの攻撃の嵐の中でも、快には一つの被弾もなかった。
「いや全く、血と硝煙の匂い香る地獄みたいな戦場ですのう。くっくっく」
 不気味な仮面に顔を隠し、楽しげに笑う声がより一層怪しい。
「言ったでしょう、全員生きて帰る事って」
 必要な同士討ちになるとはいえ、その必要を振り払う腕前を発揮してみせる。
 だが、安心するにはまだ早い。次のゾンビ達も倒れたバリケードを踏みつけながら走っていた。

 その頃、西側で奮闘中のリンシードも苦戦していた。
 数は南側と比べれば優しいものなのだが、先程から数を減らせずにいた。
「……どうして、こう」
 火力も腕前も申し分ない彼女が苦戦する理由は、タイミングの悪さというものか。
 放った刃が不規則な動きで外れることもあれば、回避の瞬間に湿った草に跳躍力を奪われて被弾したりと、悪い運が降り注ぐ。
 倒す数より、やってくる数のほうが多く、じわじわとリンシードへの負荷が高まる。
「西側もヤバイみてぇだな……」
 紳護と恵理香の伝達を耳にしつつ、トリガーを引くブレスに状況が届く。
「ブレス殿、ここは私一人でどうにかします。リンシード殿の方を!」
 ワイヤートラップからあふれたゾンビを切り伏せ、アラストールが叫んだ。
 まだまだゾンビはくるが、少しの間なら一人で抑えられるだろうと二人の考えは一致し、ブレスは車両から飛び降りる。
「終わったら直ぐ戻るぜ!」
 背中で見送るアラストールは、その間もじわりじわりと溢れるゾンビを斬り捨てる。
 見た目よりも異常なほどに重たい刃は、突きを繰り出すと空気を巻き込む音がまるで突風を思わせる程。
 ワイヤートラップに絡まったゾンビを貫き、数を減らす事で罠の持続力を延長させていく。
 溢れたゾンビを刈るだけでは、ブレスが戻るまでこの罠が持つかも分からないからだろう。

「……こっちです、こっちへ」
 リンシードはエストックの刃を振るい、風鳴りを響かせ、ゾンビ達をひきつける。
 倒しきるのが難しいと判断し、一旦引きつけて機体へ流れ込まないように時間稼ぎをはじめた。
 しかし、快の様な防御力を持たない彼女が攻撃をたて続けに受ければ、あっという間に血溜りに沈むことだろう。
 抱きつく様に伸びた両手を柄で打ち落とし、横から捕まえようと伸びる手をサイドステップで回避すると、そこに目掛けて石と斧が投げ込まれる。
 着地で直ぐに動けないリンシードは石を強引に身体を傾けて避け、飛来する斧を手首を返して、刃で円を描く。
 プリズム・ミスディレクションの切っ先に絡めとった斧を払いのけ、全てを避けたが次もこう行くかはわからない。
「援護に来たぜ!」
 そこへ北側から駆けつけたブレスが現れる。
 ゾンビの群れを前にしたリンシードの薄い表情に浮かぶ険しさが微量のモノへと変わっていく。
「ブレスさん、惹きつけてるので……このまま」
 撃ち抜いてくれと合図を出す。
 分かったと頷いたブレスがクリムゾンロアを構え、引き金を絞る。
 神秘を帯びた弾丸が連続して吐き出され、発射音が繋がっていく。
 音と弾が届くより早く、退路を塞いでいたゾンビの股をスライディングで抜けたリンシードは、減速しながら振り返り、その光景を見やった。
 薙ぎ払うかの如く、弾丸は右から左へと流され続け、数発ずつ被弾するゾンビ達も解かされるかのように倒れる。
 同じく流暢な手付きでリロードを挟み、ほんの一瞬しか弾は途切れなかった。
 リンシードの攻撃が蓄積し弱っていた事もあり、彼のフルオート発射でたまっていたゾンビ達の駆逐は完了である。
「大丈夫だったか?」
「はい……助かりました」
 ブレスの問いに、大事無いとドレスに付いた泥を払いつつ頷くリンシード。
 その様子に彼も一安心する。

●Return To Base
「キリがないな」
 快は雷光を想わせる神秘の力を宿した刃を横に払う、スライドするようにずれて行く上半身ごと追撃に縦一閃を放ち、閃光の十字斬りがゾンビを絶命させる。
「なーに、楽団のときと同じく片っ端から蹴散らしてやるさ」
 快を巻き込まぬポイントに入り、まとまっていたゾンビ達へ吶喊した。
 右は順手、左手は逆手にナイフを握り、地面を滑るような低姿勢で突っ込むと独楽のように回転していく。
 強烈な旋風がうなりを上げ、切り裂かれたゾンビ達が地面に沈んでいった。
 
 そして北側、こちらもアラストールの表情を見れば芳しくないのが分かるだろう。
「これ以上は持ちませんね」
 ワイヤーが弾ける音がところどころで聞こえる。
 網に掛かった亡者どもの執念は凄まじく、眼前の獲物に腐った瞳を見開いて欲にたぎっていた。
 バツンッ!!
 そしてトラップは崩壊した。
 一斉に駆け始めるゾンビ達に、アラストールは声を張り上げる。
「こちらに来てくださいっ!」
 神秘の力が篭った声ならば、言葉を理解できぬ死人達にも効力はある。
 こっちにいい獲物がいると、無数のゾンビ達がアラストール目掛けて走ってくるのだ。
「ぐっ……!?」
 防御の構えをとったとはいえ、数の暴力は想像以上だろう。
 突き倒す拳に揺られ、肩に噛み付かれ、顔を殴打されと、瞬く間に体力を奪い去る。
「アラストール、そこから離れろ!」
 西側から戻ったブレスが、機関銃を構えながらゾンビの群れへと近づいていく。
 少しだけ視野に移った九十九も、此方に銃口を向けていた。
「退いてもらいますよっ」
 背後に組み付いたゾンビを肘鉄で払うと、回り込みながら神気を宿した刃で切り払い、後ろへ飛びのきながら下から斬り上げ、距離を離す。
「では遠慮なく行きますぞ」
「しっかり受け取りやがれ!」
 鉛の暴風雨が吹き荒れる。
 纏まりきったゾンビ達を殲滅し、北側の危機も払うのとほぼ同時の事だ。
「終わったぜぇ、さっさとオサラバするぞぉっ」
「皆、離脱するわよ」
 OwlEが操縦席へ向かうのと確かめ、恵理香が撤退合図を叫ぶ。
「どうにか耐え切れたな」
 かなりボロボロになってしまったが、一人で東を支えたベオウルフは健在である。
 噛み付きを鞘で抑えたまま抜刀し、斬り捨てると支えを失って落下する鞘を受け止め、納刀。
 じりじりと下がりながら、抜けてくるゾンビが居ないのを確かめると搭乗口へ急ぐ。
 他のリベリスタたちもゾンビ達が追いつけないのを確かめ、次々に機体内へ戻っていく。
 ブレスは機体の上に身を伏せて乗り、狙撃手がいた場合に備えるようだ。
 浮かび上がるS・ラーク、しかし上空に上っていく間狙撃手の気配も姿もない。
「ハッハー、ざまーみろー。詰めが甘くて助かったぜ」
 どうせ死ぬと舐められていたのかと思うと、してやったりとクロトは満足げである。
「任務完了、伝えてくれる?」
 恵理香の言葉に紳護は機体内の通信機を差し出す。
「HQ、任務完了。RTBよ」
 後は快適とはいえぬ空の旅を暫く楽しむ事だろう。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 大変お待たせしました、如何でしたでしょうか。
 南側はある程度いくなーと思っていたのですが、ダイスがかなりの天邪鬼だった為、 一時期15体ぐらいいたという恐ろしい場面もありました。
 バリケードは今回の設置方法だとクロトさんの設置方法が一番有効なものだったかと思います。
 色々と細かい部分はともかくとして、全体は凄く良かったので安心して執筆ができました。
 私も某黒鳥堕ちの映画大好きです、多分10回は見たと思います。
 紳護のライフルも、そこで死んでしまったあのシーンの銃に惹かれたというのもあったりと。
 ではでは、ご参加いただきありがとうございました!