●さいごのたたかい 勇者。それは、暗澹たる闇を切り裂き、人々に希望の光をもたらす、選ばれし者。 突如、世界を包み込んだ暗雲。溢れ出た魔物たち。成す術なく屠られていく、人間たち。 魔王……闇の世界からやってきた侵略者は、瞬く間に世界中へ魔の手を広げ、今や人間たちがその支配から逃れられる場所は、世界地図の三分の一にも満たなかった。各国の勇壮なる軍隊はことごとくに敗北を喫し、民草を守るべき王族たちは、絶望の中で闇の勢力へと領土を明け渡していく。 この世のすべからくは、魔族の手に落ちようとしていた。 しかし。 そんな暗黒の時代に、なお、戦い続けている者たちも、確かに在ったのだ。 「くッ、強いぜ……! さすがに、魔王の側近というところか……!」 爆裂系呪文のもたらす衝撃を大盾で凌ぎながら、ともすれば汗に滑りそうになる大剣の柄を、固く握り締める。 堅牢なる鎧を纏い、身を持って魔族の苛烈なる一撃を受け止め、仲間たちを護り抜く女傑。 その者、戦士。 「も、もうMPが持ちません……! このままでは……!」 それでもなお両手を掲げ、高らかに詠唱するのは、祝福された治癒の呪文。 傷を癒し、時には死者へと生きる活力すら取り戻させる、聖なる奇跡をもたらす乙女。 その者、僧侶。 「こっちも、そろそろ打ち止めよ……! どうするの!?」 振るう杖、赤熱する爆炎が矮小な魔物どもを飲み込み、焼き尽くす。 炎をまとい、吹雪を巻き起こす、魔女。破壊の呪文を極めし、美しき探求者。 その者、魔法使い。 そして。 「……うろたえるなッ!!」 凛と響くその声に、迷いは無く。 「俺たちが敗北すれば、その後に待っているのは、暗黒の支配のみ……人々のため。希望のため! 俺たちは、負けられないんだッ!」 古き伝説に伝わる、聖なる剣、盾、鎧を纏いし者。託宣に従い、王よりその使命を託された、選ばれし者。 仲間を、人々を導き、闇を払い、希望の光をもたらすその時まで、彼は戦い続ける。何度、傷つき倒れようと。何度、死を迎えようとも。 その者……勇者。 彼は、仲間たちを鼓舞すると、 「俺が前へ出て、時間を稼ぐ。その間に、僧侶と魔法使いは、まりょくのせいすいを飲んでMPを回復。戦士は二人のカバーだ」 適確な指示を、瞬時に下す。さくせんを伝えるのもまた、勇者の重大な役目なのだ。 「へっ……貧乏くじだな、勇者」 「それが、俺の使命さ」 冗談めかした戦士の言葉に、勇者は逆境にあってこそ、明るい笑顔を浮かべてみせる。みな、彼のそんなところに惹かれ、集った仲間たちなのだ。 「分かりました、お願いします、勇者様! 少しだけ、持ちこたえてください……!」 「ええ、その後で、キツイ反撃をお見舞いしてやるわよ!」 どうぐぶくろから小瓶を取り出し、僧侶と魔法使いもまた、戦いの最中に笑みを返す。 敵は、魔王の直近であり、絶大な魔道を操る強敵だ。 「ふふふふ……勇者よ。死ぬ覚悟はできたか? 今こそ、魔王様の野望を阻むこしゃくな者どもを打ち倒し、再び蘇らぬよう、そのはらわたをくらいつくしてくれようぞ!!」 「やれるものなら、やってみるがいい!!」 どのみち、逃げられはしないのだ。これほどの強敵だ、すぐにまわりこまれてしまうだろう。 ならば、死力を尽くし、打ち倒すのみ。 勇者は、伝説の武具に込められた想い、人々の願い、仲間たちの信頼を胸に、剣を振るう。 戦いは、激闘を極めた。 態勢を立て直し、勢いを盛り返した勇者たちは、次第に魔物を圧倒し始め、追い詰めていく。 「あと少しだ……! みんながんばれ!」 「ぐ、ぬぬ……ちょこざいな、勇者どもめ!」 魔物の表情に、焦燥が色濃く現れ始め、あと一歩。そんな時だった。 「こうなれば……我が、とっておきの呪文を見せてやろう。異空間へと吸い込まれ、永遠にさまよい続けるがよい!!」 かざした魔物の手から放たれた波動が、まばゆい光と共に、勇者たちを飲み込んでいく。 「う……うわあああああ……!?」 目の前が真っ白に染まり、勇者たちは、ここではないどこか……別の世界へと、飛ばされていった。 「……なんだ、ここは!?」 まぶたをも透かして瞳を刺す、強い光が、徐々に収まっていき。勇者たち、四人が目を開いた時。 眼前に広がっていたのは……灰色の巨大な塔がいくつも立ち並ぶ、異形の世界だった。 ●エンディング 「「「「かんぱーい!!」」」」 数ヵ月後。 久しぶりに顔を合わせた勇者たちは、町の酒場で卓を囲み、杯を交わしておりました。 「……くーっ! 労働のあとの、この一杯が、染みるぜッ!」 生中を一息に飲み干し、枝豆をつまみながら、戦士は早くも赤ら顔で言います。 「おう、魔法使い! 見たぞー、例の、ざっしとかいう薄っぺらい書物。こっちに来てすぐ、もでる、だっけ? にスカウトされて。もうすっかり売れっ子みたいじゃねーか!」 「やだ、ほほほ。そんな大したことじゃないのよ? ちょっと服を着替えて、ポーズを取って、しゃしんってやつをとるだけなんだから」 鳥ナンコツを上品に口へ運び、コリコリとやりながら、満更でも無さそうな魔法使い。 彼女は続いて、僧侶を指差すと、 「僧侶は確か、かいごし、に転職しようとしてるんだっけ?」 「はい! もう少しで、資格が取れるんです。迷い悩める民たちを助けるお仕事……神に仕える私には、これ以上の天職はありません!」 鼻息荒く、きらきらと目を輝かせて、熱っぽく語る僧侶。 「戦士さんは、けんせつさぎょういん、でしたっけ? 長い職業名ですね」 「ああ、バリバリ働いてるぜ! いや参ったよ、この前なんか、親方に、女だてらに筋がいい! なんて褒められちまってさー。それに、部下も何人か出来たんだ。なよっとした男どもだけど、まぁ、可愛いやつらさ……」 二杯目の生中を飲み干し、戦士は目を細めて、新しいパーティメンバーについて語ります。 「……それで、勇者は? 今、何してるんだ?」 「俺か? 俺はな……」 もろキューをぽりぽりとかじりながら、勇者は、ちょっと遠い目をしてから言いました。 「…………大切な人が、出来たんだ」 「うそ!? ちょっと、やるじゃないの勇者!」 「どっ、どんな女性なんですか!? ねえねえ!」 この場所で、勇者の見つけた幸せについて。彼らは大いに語り、盛り上がります。 ひとしきり騒いだ後。 酔いも回り、気持ちよく火照った頬をメニュー表で仰ぎながら、 「……この、ミタカダイラ国に来てから。みんな、それぞれに馴染んで、溶け込んで。幸せにやってんだなあ……」 戦士は、穏やかな笑みを浮かべて、しみじみと言いました。 しばし、心地のよい沈黙が、彼らを包みます。 『勇者、辞めようか』。初めにそんな風に言ったのは、他ならない勇者、その人でした。 幾度も危機を乗り越え、幾度も強敵を打ち倒し。長く、険しく、先の見えない、魔物たちとの戦いの日々。荒んだ人々に投げかけられる、心無い言葉の数々。戦って、戦って、戦い続けても、報われることなく。 仮に、旅の末、魔王を討ち果たすことができたとしても。その時は、また新たな戦いが、目の前に立ちはだかるだけ。 勇者も、そして仲間たちも。疲れ切っていたのです。 そんな折に飛ばされてきた、この、戦いの無い平和な国。最初こそ戸惑いはしたものの、居ついてみれば、実に心地よく。 誰も彼らに戦いを求めはせず、そもそも、人々をおびやかす恐ろしい魔物など、ここには、一匹たりとも居やしないのです。 戦う理由など無いのです。闇を打ち払う勇者は、ここでは、必要とされないのです。 もちろん、課せられた重い使命を捨て去ることに、迷いはありました。けれど。 「剣も呪文も、勇者のパーティも、もう必要ないんだ。戦いを捨てて……ここで、平和に暮らしていかないか?」 あの時、伝説の剣をそうびから外し、どうぐぶくろへとしまい込みながら言った、勇者の言葉。それは、仲間たちにとっても、天啓の一言となったのでした。 四人は、黙したまま、満面の笑みを浮かべると、杯を掲げ、交わします。 彼らの長きに渡る戦いは、ここに幕を閉じたのでした。 「……ところで、勇者。好きな女が出来たのは分かったけどよ。仕事は何をしてるんだ?」 「ん? あけみは、何もしなくていいって言ってくれてるよ。俺に、側にいてくれるだけでいいんだって。俺は……俺は、真実の愛を見つけたよ」 ●リベリスタ=多分隠しダンジョンのボス的な立ち位置 「ヒモじゃねーか!!!!」 ブリーフィングルームに、『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)の声が響き渡ります。 「……勇者は現在、市内に住むお水の女性と交際していて、日がな一日彼女の家に入り浸ったり、近くの公園をうろついたり、最近はパチンコへ行くことも覚えたようで……」 「完璧ヒモじゃん勇者、何してんの!?」 「まあまあ。辛く厳しい戦いの日々を過ごしてきたんだ、ボクは、彼らの気持ちも分かるよ……ほんの少しだけど」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)の律儀な説明と、夏栖斗の再ツッコミに、『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)は、ちょっぴり同情的な意見を寄せたりもするのですが。 「だが、どう言おうと、連中がアザーバイドであることに変わりは無いだろう。放っておけば、崩界は加速する」 「うん。みんな、こっちで、それぞれ幸せに暮らしてて……ちょっと、可愛そうな気もするけど。仕方ないよね」 『赤猫』斎藤・なずな(BNE003076)と『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)の言葉も、実に、のっぴきならない事実ではあるわけでして。 「ま、要するに。いつまでたっても働かない厄介な居候のケツを蹴り上げて、職場へ送り出せばいいってわけだな!」 『合縁奇縁』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)のお言葉は、少なくとも約一名に関しては、実にその通り、的確なのでした。 「概ね、そのようなところです。ただ……彼らは、これまで数々の修羅場をくぐり抜けてきた、文字通りの歴戦の勇者ですから。パーティの結束も固いはず。皆さん、充分に、お気をつけてくださいね?」 和泉が説明を終えると。『三等兵』閂 ドミノ(BNE004945)は、仲間たちを振り返り、言いました。 「それじゃ、行きましょうか、皆さん。勇者殿に、再び、使命と誇りを取り戻してもらうために……!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:墨谷幽 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月08日(木)23:17 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●まわりこまれてしまった 三高平市内にある、とある居酒屋。がやがやと酔客たちの賑やかな笑い声が満ちる中、リベリスタたちは勇者一行と顔を突き合わせ、説得の真っ最中でありました。 「断る」 「……今、説明した通り。君たちがここにいるだけで、世界を蝕んでるんだ。このままだと、この世界は滅びに向かってしまう。それでも、聞けないっていうのか?」 「ああ、俺たちにも理由があって、ここにいるんだ」 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)の言葉にも、勇者は凛とした表情を浮かべ、ゆっくりと首を振ります。さすがと言うべきでしょうか、腕を組み、どんと構えたその様子には、過酷な戦いを続けてきた者の貫禄がにじんでいます。 「だって……なぁ? 明日も仕事あるし……」 「私も、資格を取るための勉強を……」 「撮影の予定が……」 戦士、僧侶、魔法使いの女性陣はと言いますと、困り顔を見合わせながら、そんな風にもらします。 私服姿の勇者一行は、何だかもうすっかり馴染んでしまっておりまして、ここが三高平市でなければ、酔っ払い同士のちょっとした小競り合いにでも見えたかもしれません。 『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)が、柔らかい口調で提案します。 「とにかく……ここじゃちょっと、話しづらいよね? 君たちだって、周りの人を巻き込みたくは無いだろう。場所を変えないかい?」 「いいや。俺たちには、ここを動くわけにはいかない理由がある」 爽やかイケメンな悠里に、女性陣はちょっぴり熱い視線を寄せたりもするのですが。それでも勇者は、頑として耳を貸さないのです。 「その、理由って? 良かったら、聞かせてくれないかな」 「ああ……実は」 目を伏せると、勇者は、実に神妙な顔で言いました。 「この後まだ、たこわさびとほっけ焼きとだし巻き卵を頼むつもりなんだ」 ……あ。良く見れば彼、凛としてというよりは、単に目が据わっているだけなのでした。ただの酔っ払いですこれ。 「仕方がありませんね……ここは、あの作戦しか無いようですよ?」 「うむ、美少女の私の出番だな! ふふふ、私の色仕掛けで、勇者を誘い出してやろう」 どうやら真っ当な説得は難しいと見て、出動するのは、『三等兵』閂 ドミノ(BNE004945)と『赤猫』斎藤・なずな(BNE003076)の二人。何やら、秘策があるようなのですが。 「あの、お兄さん。それならですね……ぱ、ぱふぱふとか、いかがですか?」 「なにっ!」 ドミノがこっそり耳打ちすると、ガタッ! 急に立ち上がる勇者。 ぱふぱふ担当のたわわなお姉さんでも探してるのでしょうか、きょろきょろと周囲を見回しますが。 「ふふふ」 胸を反らせて、どやっ! 美少女っぷりをアピールするなずなに、そんな勇者の視線が止まりますと。 じっ……勇者は、据わった目を細めて、美少女なずなをしばし観察しておりましたが。やがて、彼女の、とある一点を……その、ええと。何ですね。その、平坦な、お胸をですね、眺めました後にですね。 ふいっ、と視線を外すと、ドミノに、 「……俺、キミにしてもらいたいなぁ」 「私? 私はしませんけど……」 どうやら、勇者様はひんにう派では無かったようです。 えっと……どんまい、なずなちゃん! 「……なあ……あいつ、燃やしてもいいか……?」 「えっと、も、もうちょっと後でね?」 ぶるぶると肩を震わせながら、今にもゲヘナの火をぶちかましてしまいそうななずなを、『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)は、どうどう、と抑えつつ。 「……あのね。ここでの生活に、馴染んで……みんな、今、とても幸せなのかもしれない。でも。あなたたちが魔王を倒してくれるのを待っている人々は、まだ闇の中で……不安に震えてるわ。ねえ、今まで、辛くて厳しい戦いを乗り越えてきたのに。諦めてしまうの? こんな所で、勇者の旅は終わってしまうの?」 「む……いや、それは。なぁ?」 仲間たちと顔を見合わせ、むう、と唸る勇者。未だ赤ら顔ではありましたが、真摯なあひるの言葉に、帰りを待っているはずの人々を思い出したのでしょうか。どこか、心揺れているような様子を見せます。 攻め時と見てか、ドミノがひょこっと横から、 「あ、あの~……とりあえず、場所を変えませんか? 今なら、お米券やビール券もつけちゃいますけど」 「何っ、お米券……!?」 「よし、乗ったぜ!!」 一気に食いついたのは勇者と、どうやら酒豪らしい戦士さん。 いそいそと立ち上がる彼らを眺め、あひるはちょっぴり、ため息をつくのでした。 「こんな勇者たち、あひるは見たくなかったなぁ……」 ●がんがんいこうぜ! さて。そんなこんなで、彼らの移動した先は、夏栖斗と悠里が事前に調べておいた、居酒屋近くの空き地でありました。 勇者一行は、どうぐぶくろから取り出した、どくけしのくさ……何だかもう、そのへんでむしってきた雑草にしか見えないそれをもっしゃもっしゃと食み、リベリスタたちの見守る前で、戦闘準備の最中です。 アクセス・ファンタズムから愛刀を引き抜きつつ、『合縁奇縁』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)の興味はもっぱら、勇者パーティの女性陣のそうびだったりしました。 「やっぱり、戦士はビキニアーマー。僧侶は全身タイツ、魔法使いは肩出しのローブ! ってイメージだよな。いや、あるいは……キケンな水着や、水でできたはごろもとか……!」 なんて、想像たくましい竜一さん。彼女たちがそうびを身につけていくのを、固唾を飲んで見守っておりましたが、やがて彼らがしゃっきりとした顔で戦いの準備を整えると、 「……うむ!」 さすがに、水着やすけすけの羽衣だったりはしなかったものの。概ね、ご納得いただける格好だったようです。 最初に動き出したのは、悠里と戦士でした。どこか古き良き時代を思い起こさせるビキニアーマーも、彼女の世界では、未だ立派に現役な防具のようです。 「へっ、なよっとした男かと思ったら、なかなかやりそうじゃないか?」 「それはどうも。……君たちの気持ちも分かる。出来れば素直に帰ってもらいたかったけど、そうも行かないみたいだね」 やってみな! と勢い込んで突っ込んでくる戦士の行く手を身体で塞ぎながら、悠里は自身の脚部へと意識を集中し、機動力を高めていきます。 夏栖斗の手元が翻り、貫くような連撃が、勇者と、その後ろに位置している僧侶をまとめて打ち据えます。 「きゃあ!?」 「くっ、やるじゃないか」 「勝手な希望や責任を押し付けられて、世界を背負うのは、しんどいよな……けど!」 夏栖斗が、熱を帯びた口調で叫びます。 「その希望を背負いながら、戦い続けるって決めたのは、あんたら自身の意思や覚悟だろ? そこから逃げたまま、この世界で生きて……報われるって。本気で思ってんのか?」 世界の命運を、その双肩に背負いながら戦う。勇者たちも、リベリスタたちも、互いの立場にそう違いは無いのかもしれません。夏栖斗には、彼らが他人のようには思えず、どこか自分と、重ねて見えてしまうようでした。 すっかり調子を取り戻したようで、凛とした表情が戻った勇者は、きりり。仲間たちへ、「がんがんいこうぜ!」と号令をかけます。伝わるさくせんは、仲間たちを鼓舞していくのですが、 「……いつも思うんだけどさ。これって、作戦って言うのかしらね」 「まぁまぁ……いつものことですから」 ぽつり、つぶやく魔法使いの言葉は、こちらの世界の常識に、多少なりとも触れたからでしょうか。 僧侶が、十字型の杖の先端に帯びた光を掲げ、仲間たちのぼうぎょを高めていく傍ら。飛び出した戦士の大剣が、竜一めがけて振り下ろされますが、 「おおっと!」 竜一は身を捻り、かろうじてそれを避けると、お返しとばかりに、エネルギーを帯びた愛刀を戦士の鎧へ叩き付け、大きく弾き飛ばします。 「異世界じゃ、勇者だったかもしれない……だが! この世界の勇者と言えば、鉄腕・設楽悠里に、パンツァー・御厨夏栖斗だぜ!」 びしっ、二人を指差す竜一。自分が含まれて居ないのは、ご謙遜でしょうか? 竜一さんも、充分に勇者の資質をお持ちのように思えますけれど! 突進するドミノの勢いが、更に戦士へと追い討ちをかけ、後衛の僧侶や魔法使いとの距離を引き離しにかかるところへ、あひるが強烈な白光を放ち、勇者一行を熱線でじゅうと炙ります。 続けて、なずなの繰り出した稲光が、勇者たちを貫きながら伝わっていくと、 「ぐっ……真の勇者にしか扱えない、雷光の呪文を使うとは! この世界には、勇者が何人もいるというのか?」 「よしてくれ、テレビゲームのような俗な遊びには縁がない。それより」 再び、ぐっと胸を反らしてみせる、美少女なずなちゃん。 「異界から訪れた、勇者一行……どんな火柱を上げてくれるのか、実に楽しみだな。ふふふ、私の炎で、大人しく棺桶に納まるがいい……!」 色々とこう、私怨のようなものがにじみ出ているような気もしますけれど。ともかく、気合充分のようです。 ●勇気ある者たち さすがは、歴戦の勇者たち。リベリスタたちとの激しい攻防が続きますが、そう簡単には、元の世界に戻ってくれるつもりもないようで。 「すまないが。俺にも、負けられない理由がある……ッ!」 「うあ……!」 勇者の抜き放った剣は、いかにも豪奢な装飾が施され、伝説の逸品らしき威容が伝わってくるよう。その証明とばかりにか、閃いた刃が、ドミノの肩口を鋭く切り裂きます。 「大丈夫? 今、かいふくするからね……!」 すかさず、あひるの巻き起こす治癒の奇跡が、リベリスタたちを援護し、傷を癒し。 僧侶はその様を見ると、自分も負けじと回復呪文を唱えますが、なずなの手元から迸った豪炎は、強烈な熱気と共に勇者たちの身を焦がしていきます。 「元の世界に戻ったら、きっと辛いことがたくさんあるんだろう。いくら死線をくぐろうと、どんな強大な相手を打ち倒そうと、褒められもせず、評価もされない。そういう辛さも、ボクは痛いほど分かる!」 悠里のガントレット、強固な意志と同様に固く握り締めた拳は、纏う冷気と共に戦士へ突き込れられ、衝撃と共にぴしりと凍結させ。 「でも、本当は思ってるはずだ。分かっているはずだ……自分たちが歩んできた道の正しさを! 信じているはずだ、その理想を!」 「そうだ……ッ!」 夏栖斗の言葉が、勇者たちの胸を突くように抉ります。 「あんたらがいなかったら、あんたらの世界は、滅ぶ!」 びくり。彼らは、にわかに身を揺らします。その事実は、彼ら自身が、何より分かっていたはずなのです。 「本当に、それでいいのかよ? 何のために頑張ってきたんだ? あんたらが守るべきものは、本当にここにあるのか? 間違えるなよ……背負ってきた想いと希望、願い! こんなところで、今更、投げ出すなよ……!」 紛れもなく、アークの誇る勇者と言って過言ではない二人の言葉に、本家の勇者たちは、動揺を隠せず。 彼らは、誇り高き勇者なのです。逃げ出したところで、自らの心がそれを許すはずが無いと、分かっていたはずなのです。 「……どうにも、耳が痛いわね……勇者?」 苦虫を噛み潰したような顔で、魔法使いが、赤い宝石の付いたロッドを振りかざし、猛吹雪を巻き起こします。吹雪はリベリスタたちを余さず飲み込み、体温を奪い、氷刃は無数の裂傷を刻みます。 が。 「うぐ……さすがに強い、ですけど。私たちも、負けてはいられませんから」 傷の増えてきたドミノですが、冷気に耐えつつも、ぐっと力強く足元を踏みしめ、飛び出します。 「すみませんね。この世界では、あなたたちのほうが魔物なんです……!」 「きゃあっ!?」 衝撃波すら伴うほどの突進の勢いを殺さぬまま、僧侶へぶち当たり、強烈な一打を加えて吹き飛ばすと。 「しまった、僧侶!?」 慌てて駆けつけカバーに入ろうとする戦士でしたが、遠く、一歩間に合わず。 全身から蒸気をたなびかせる程に肉体をパンプアップさせ、膂力と共に叩き付けられた竜一の愛刀が、僧侶を戦闘不能へと追い込むと。 「か……神よ……!」 「国へ帰るんだな。お前にも家族がいるだろう」 びしっ、とキメた竜一さんの前で、どこからともなく現れた棺桶の中へ、がこん! 力尽きた僧侶の身体は、すっぽりと収まってしまいました。 ●勇者の帰還 「……面白いシステムだな」 突如出現した棺桶に、そういうものだと聞いてはいたものの、なずなは思わずつぶやきます。確かに、空き地のど真ん中に、いかにも唐突な棺桶が、でん! と置いてある様も、ちょっと異様なものがありましたものの。 なずなは、巻き起こした獄炎で勇者たちを包み込み、言います。 「戦いに明け暮れる日々。安らぎの無い旅の繰り返し……心身ともに、さぞ疲弊したことだろう。しかし、辛いことだけでは無かったのではないか? お前たちを信じ、思いやり、惜しみの無い声援を送る者も、きっといたはず……って! お前たちは、勇者なんだろう! こんなこと、私に言われずとも、自分たちで思い出さんかぁ!」 急にぷりぷりと怒り出したなずな。ちょっぴり頬を赤くしているあたり、どうやら照れ臭かったようです。 「べ、別にお前たちのこと、心配してやってる訳じゃないんだからなぁ!!」 夏栖斗の猛連打が、勇者もろともに、後方の魔法使いをも射抜き。 「ああっ、あたしの夢が、芸能界デビューが……!」 何だか壮大な夢をお持ちだったようですけれど、魔法使いもまた、がこん! と棺桶の中へイン。態勢は、一気にリベリスタのほうへと傾いていきますが。 「このまま、タダでは負けられねえ……! くらえッ!!」 「選ばれし勇者の、真の力……見せてやるッ!!」 戦士の必殺の剣技が、ドミノへと叩き込まれ。ごろごろと、にわかに上空へ渦巻き出した暗雲からは、雷がまばゆい光条となってなずなへ降り注ぎ。二人は傷ついた身体を抱えたまま、どうっ、と倒れ伏します。 けれど。 「……くっ、まだ……!」 「まだ、負けられませんから……!」 そこは、運命に愛されたリベリスタたち。二人は歯を食い縛りながらも、立ち上がるのです。 「な、何……!?」 「……例え、君たちの世界の誰もが、君たちを応援しないとしても。ボクは君たちを応援してる!」 悠里の氷鎖を纏う拳が、戦士の屈強な身体の真芯を捉え、打ち抜くと。 「君たちの成功と、幸せを祈ってる……! だから、戻るんだ、君たちの世界へ……!」 「……たかし、やすお、ひろき……すまねぇ、強くなれよ……!」 彼女がここで見つけた、新たな仲間たちの名前だったのでしょうか。つぶやくと、がっくりとくずおれた戦士もまた、棺桶の中へと収まりました。 「これが……この世界の勇者たちの、強さ……か」 残るは、勇者、ただ一人。彼もまた、既に満身創痍。けれどその眼光は、少しも衰えることなく。 彼を未だ立ち上がらせているのは、取り戻した勇者としての誇り、背負った使命によるものでしょうか。 夏栖斗は、静かに、そんな勇者へと語りかけます。 「……好きな人がいるんだってね。言っとくことがあるなら、何とか、伝えておくよ」 それが純粋な好意によることを、勇者も分かっていたでしょう。 しかし、彼はふっと微笑むと、ゆっくりと首を振り、 「言葉はいらない。あけみは分かってくれるだろう、俺がこういう男だということを。その代わりに……」 「代わりに?」 「……お米券とビール券は、彼女に届けてやってくれ」 何だか、あんまり、カッコイイ最後のセリフではありませんでしたけれど。 その後、竜一のキツイとどめの一発により、勇者もまた、棺桶の中へと納まると。 やがて、四つの棺桶は、光に包まれ……立ち昇った光柱の中、ふっ、と消えて行きました。 「この世界で、たくさん休憩したことだし……次こそ、パワー満タン! 魔王だって、倒せるよね」 「ええ。束の間の夢も、これでおしまい……魔王討伐、応援していますよ?」 あひるの言葉に、並んで見送るリベリスタたちの隣で、ドミノは思うのでした。 (たった四人で、世界を救おうだなんて……まったく。考えられませんよね) ●rァたたかう 「おお、勇者よ、死んでしまうとは情けない……ちゅうか、今までどこ行っとったんじゃ? ワシ、もう心配で心配で……」 随分と長いこと、夢を見ていた気がする。久しぶりに訪れる謁見の間で、王の安堵する顔を見るにつけ、勇者は、改めて悟った。 自分たちが、望まれてここにいるのだということを。 彼は、背を振り返る。 顔を揃えている、変わらない、頼りになる仲間たち。束の間の休息を経て、充実した気力を漲らせている、彼女らを。 「……世界は未だ、暗澹たる闇に包まれている。取り戻そう、希望の光を!」 「ああ、任せとけ! 魔王だろうが何だろうが、ブッた斬ってやるぜ!」 「やっぱり、私の神は、この世界にしかいませんから……!」 「そうね、それが私たちの役目だものね。行きましょう……魔王を、倒しに!」 再び、辛く厳しい戦いの旅が、彼らを待っている。 しかし、もう二度と、彼らが立ち止まることは無いだろう。 彼らは……勇者と、その仲間たちなのだから。 「俺たちの戦いは、これからだ!!」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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