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黄泉比良坂。或いは、恨みつらみの死霊祭

● 黄泉比良坂
 400メートルほど続く緩やかな坂道を抜けた先、その小さな博物館は建っている。展示品を観に来るのは、近隣の学生か、研究者、或いは旅行客くらいのものだ。
 そんな博物館に新たな展示品が追加されたのは、何年振りのことだろうか。
 近くの古戦場から出土したそれは、土で出来た人形だ。黒く変色した、土偶のような置物。誰が、いつ、なんのために作ったのかは分からない。大昔の陶芸家か何かが、戯れに作ったおもちゃであるかもしれない。
 とはいえ、捨て置くには偲びないということで、歴史的な価値も見いだせなかったそれを、この博物館は受け入れた。
 博物館には、古戦場から発掘された武器や骨などもいくらか納められている。
 同じ場所から出土したものだから、と引き取った。そこに大した意味はない。
 だから。
 これは、単なる偶然なのだ。
 その日の夕方、博物館の警備をしていた男性は、信じられないものを目撃することになる。
 それは、博物館を取り囲む無数の人影であった。
 骨と肉との中間みたいな、ぐちゃぐちゃの顔。
 皆一様に、虚ろな目をしているではないか。
 中には鎧を着た者や、着物を着ている女性など、果ては軍服を着た男に、歳若いワンピース姿の少女も見受けられる。
 生者でないことはみれば分かるが、だったら一体なんなのか。幽霊、というにはその存在感は、確かすぎる。
 男性は、考えるのを止めて、そのまま意識を手放した。
 そんな男性の身体に……。
 どこからか、黒い泥が這いより、その身を覆い尽くすのだった。

● 亡霊祭   
「今回発生しているのは、Eフォース(ヨモツイクサ)たち。恨みつらみがE化したものみたい」
 と、『リンクカレイド』真白・イヴ(nBNE000001)は言う。モニター一杯に蠢く、死体のようなEフォースたちを見て、僅かに顔をしかめた。
「発生の原因は、博物館内にある件の人形。どうやらアーティファクトになってしまっているみたい。自分の周りに恨みつらみの感情を引き寄せ、E化しやすくさせるという性能を持つみたいね」
 アーティファクトをそのまま放置するわけにはいかない。
 しかも、それを回収するためには無数に蔓延るヨモツイクサのまっただ中を突き抜けて行かねばならないときている。
 ヨモツイクサ達の目的は不明だが、坂を下って来ている所を見ると、このまま博物館周辺に留まり続ける、ということはないだろう。
 ヨモツイクサ達が、博物館から市街地へ、出ないようにする必要もある。
「更に加えて、博物館の警備をしていた男性がヨモツイクサに取り込まれているわ。幸い、博物館内に居た人間は彼だけね」
 そういってイヴは、モニターを切り替える。
 モニターに映った個体は、他のヨモツイクサよりも一回り大きく、そして鎧を着込んでいた。肩から下が存在しないようだが、代わりに4つの手首が身体の周辺を飛び回っている。
 その手には、刀と槍を持っていた。
「仮に、ヨモツショウグンと呼ぶことにするわね。あの鎧の中に、男性は閉じ込められているはず。一定ダメージを与えれば、男性は解放されるから」
 討伐するなら、その後ね。
 と、イヴは言う。
「アーティファクト(人形)は、E能力を持つ者が触れていればその能力を停止するから」
 アーティファクトを止めない限り、ヨモツイクサは増え続けるだろう。
「敵は多いわ。気をつけて」
 そう言ってイヴは、仲間たちを送り出したのだった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:病み月  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年05月10日(土)22:19
おつかれさまです。
暑くなってきましたね。いかがおすごしでしょうか?
今回は、アーティファクトの回収指令となります。
それでは以下詳細。


● 場所
400メートルほど続く長く緩やかな坂の上にある博物館。
その中に、アーティファクト(人形)が展示されている。
坂は、ほぼ直線。坂の左右には塀や川があって通行できない。
博物館は非常に小さい。
坂、及び博物館正面にヨモツイクサとヨモツショウグンは存在している。


● 敵
・ Eフォース(ヨモツショウグン)×1
フェーズ2 
鎧を着込んだEフォース。肩から先の腕はなく、代わりに4つ、手首から先だけが身体の周囲を飛び回っている。
刀や槍を武器として扱う。
一定ダメージを受けると、鎧の中に閉じ込められている男性を解放する。
【置いて行け】→物近単[必殺][ブレイク][弱点]
刀による渾身の一撃。
【腐り行け】→神近範[猛毒][石化]
腐敗性の不気味なオーラを周囲にまき散らす。
【死んで行け】→神遠複[流血][圧倒][連]
オーラと武器による猛攻。

・ Eフォース(ヨモツイクサ)×30〜
フェーズ1
姿形、格好は様々。
皆一様に、どこかへ向かってふらふらと歩いている。
生者を見ると襲って来るようだが、あまり強くない。
腐りかけの死体みたいな外見をしている。
【連れて行け】→神近単[呪い][不運][鈍化]
相手にしがみつくようにして襲いかかる。


・ アーティファクト(人形)
人を模して作られた土偶。
色は黒く、不気味なオーラを放っている。
恨みつらみの感情を集め、増幅させてEフォースが発生しやすい状況を作る、という性能を秘めている。
これを止めないと、毎ターン0〜6体のヨモツイクサが発生することになる。


以上になります。
皆さんのご参加、お待ちしています。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
アウトサイドホーリーメイガス
天城 櫻子(BNE000438)
ノワールオルールスターサジタリー
天城・櫻霞(BNE000469)
ギガントフレームスターサジタリー
モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)
ハイジーニアス覇界闘士
祭雅・疾風(BNE001656)
フライエンジェクリミナルスタア
イスタルテ・セイジ(BNE002937)
アークエンジェソードミラージュ
セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)
ハイジーニアスマグメイガス
六城 雛乃(BNE004267)
フライダークインヤンマスター
エイプリル・バリントン(BNE004611)

●黄泉比良坂
 ゆるやかな、そして長い坂だった。坂の上には博物館が建っている。小さな、訪れる客も数少ない、そんな博物館であった。
 その博物館の周囲を埋め尽くすのは、骨と肉とが混ざり合った死者の軍勢である。
 ぼんやりとした感情の色が窺えない腐った瞳。しかし、その口元や表情は恨みの念に醜く歪んでいる。ヨモツイクサという名のEフォースだ。それを指揮するのは、博物館の正面に立っている鎧を着込んだEフォース。肩から先の腕はなく、手首だけが4つ、その身の周りを飛んでいる。
 ヨモツショウグンに指揮された死者の軍勢は、ゆっくりとした足取りで坂を下ってくるではないか。
 そして、厄介な事に、その数は時間の経過と共に増えていくようだ。
 腐臭を撒き散らしながら進む軍勢へ向かって、8人の男女が歩いていく。
「様々な不の感情が集まり……そして溜まるのは仕方の無い事かもしれませんけれど、関係の無い人を巻き込むのはいただけませんね」
 胸の前で、拳を小さく握りしめ『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)は誰にともなくそう呟いた。

●黄泉の軍勢
 一瞬、ヨモツイクサ達の動きが止まる。どこを見ているのか分からなかったその瞳が、全て8人のリベリスタ達へと集中した。どろりとした気味の悪い視線が絡みつく。気色が悪い。背筋が粟立つのを感じるが、ここで引くわけにはいかない。
 動き始めたヨモツイクサ達は、そのままふらりと、一斉にリベリスタ達の元へと歩み寄って来たではないか……。
 恨み辛みが、その身を動かす原動力。
 意味を成さない呻き声を吐きだしながら、奴らはまっすぐ生者を襲う。

「エリューションは殲滅するだけだ。では始めようか」
 金属の擦れる音がする。拳銃を手に、先陣を切ったのは『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)だった。両手に銃を、視線はまっすぐ死者の軍勢を見据えている。
 彼の隣に並ぶのは『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)だ。
「こんな物騒な上に悪趣味な人形、有無を言わさず叩き壊せばいいと思うんですが……」
 そう呟きながら、彼女は自慢の速射砲を構える。人形を、回収するにせよ破壊するにせよ、まずは目の前のヨモツイクサの真ん中に、道を切り開かねばならない。
「死霊共は、街には入らせない!行くぞ、変身ッ!」
 仲間の用意が整ったと見るや『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)は装備を装着し、まっすぐに坂を駆け上がる。目の前を埋め尽くすヨモツイクサの中心へと、拳を振りあげ斬り込んで行った。
 モニカと櫻霞は、疾風をサポートするべく同時に弾丸を放つ。
「あうう、なんだか敵の数が多すぎですよう。数の暴力とか、出来れば遠慮したいです。やーん」
 情けない顔で、しかし『モ女メガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)は前進する。翼を広げ、ヨモツイクサを飛び越す勢いで宙へと舞い上がる。
 イスタルテに続き『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)も、腰の刀に手を添え飛んだ。2人の目標はヨモツイクサの軍勢ではない。用事があるのは、ヨモツショウグンと、今回の事件の原因たる人形の確保だ。
 宙へと舞ったセラフィーナの眼前に、不気味なオーラを纏う鋭い刃が迫る。
「そんな動きでは、私に当てる事なんてできませんよ」
 刀を一閃。ヨモツショウグンの放った刀とオーラを弾き、セラフィーナは一直線に博物館を目指すのだった。

「人形の類って人の思念とかを封じ込めるのによく使われるよね。魔法魔術学でもメジャーなアイテムの一つだよ」
 Eフォースを発生させるアーティファクトと化した人形に興味があるのだろうか。『六芒星の魔術師』六城 雛乃(BNE004267)は、杖を片手に目の前を埋め尽くすヨモツイクサを観察する。
 それから薄く目を閉じ、呪文の詠唱を開始した。杖の先端に魔方陣が展開される。
「男性救助とアーティファクト確保が任務だ。手がつけられない事態になる前に早急な解決を……ってね」
 ポン、と軽く雛乃の背を叩きエイプリル・バリントン(BNE004611)は宙へと舞い上がった。大きく広げた彼女の翼が、ぼんやりと光を放っている。
「フライダークの羽ばたき、そよ風程度に思わないでね!」
 エイプリルが翼をはためかせると同時、魔力を帯びた突風が、眼前に群れるヨモツイクサ達を襲う。解き放たれた冷気に、ヨモツイクサが凍りつく。
 直後、空に浮いた魔方陣から無数の星が降って来た。雛乃の魔法が発動したのだ。雨のように降り注ぐ鉄槌が、ヨモツイクサの群れに小さな、しかし決定的な隙を作る。
 その隙を、蒼い影が、一目散に駆け抜けた。

 ヨモツイクサの腕を掻い潜り、疾風は滑り込むようにしてヨモツショウグンの目の前にまで辿り着く。疾風を見降ろし、ヨモツショウグンは腕を振りあげた。叩きつけるように刀を振り下ろす。
 衝撃で、砂塵が舞い散る中、疾風は自身の眼前に迫る刃を見た。
 気付いた時には既に回避は間に合わない。斬撃が、疾風の肩から胴にかけてを切り裂いた。飛び散る鮮血が、疾風の頬を汚す。
「…………………………っ!!」
 短く呼気を吐きだし、拳を突き出す。ヨモツショウグンの拳を叩き落す。そのまま、流れるような連続攻撃を繰りだしていく。次々と襲い来る腕を弾き、腰から胸、頭部へと打撃を加えていく。
 ヨモツショウグンの鎧に罅が走った。ここぞとばかりに、疾風は一歩足を踏み込む。傷口から血が噴き出し、足元を濡らす。
 その時だ。
 初めに弾いた腕が、疾風の首を鷲掴んだのは。
 ギシ、と疾風の首の骨が軋む。口の端から血が零れた。振りあげられたショウグンの刀が、疾風の胸に迫る。
 刀の切っ先が疾風の胸に突き刺さる寸前、刀と、それを持つ腕とが流星の如き弾丸の嵐に射抜かれる。疾風の身体が地面に落ちるその寸前、飛び込んできたイスタルテが彼の身体を抱きかかえ、一気に上空へと退避した。後を追って腕が迫るが、追いつかない。
「メガネビームばかり使っているわけじゃないんですよう!」
 ふふん、と得意気に胸を逸らし、イスタルテは笑う。
 上空から、ヨモツショウグンを見降ろす疾風とイスタルテの視界の端、ショウグンの死角を潜り抜けるようにしてセラフィーナとエイプリルが、博物館の中へと飛び込んで行った。
「例の人形は坂の上の博物館の中か? Eフォースが市街地に溢れかえるのも防がねばならないな」
 人形はセラフィーナに、ヨモツイクサ共は他の仲間に任せれば良い。
 イスタルテに傷の治療を受け、疾風は再度、ヨモツイクサの元へと飛び降りた。

 生者が多く集まっているからだろうか。ヨモツイクサの軍勢は、博物館周囲に次々と現れ、そのまままっすぐ坂の下へと向かって歩いてくる。なだらかな坂が、今や醜い死者の群れに埋め尽くされていた。
 坂を下って、市街地へと出ていくつもりか、それともリベリスタ達を得物として襲うつもりか。
 いずれにせよ、そのまま放置することはできない。
「さて、どこまで使えるか……試し撃ちと行こう。数が多いなら丁度いい。的になって貰おうか」
 両手に構えた拳銃の他に、櫻霞の周囲には無数の魔弾が展開される。
 櫻霞が引き金を引いた、その瞬間、周囲に散っていた魔弾が一斉にヨモツイクサ達目がけて解き放たれた。途切れない弾丸の嵐。弾幕と呼ぶに相応しい、連続した着弾音が響く。
 魔弾に撃ち抜かれ、ヨモツイクサ達は消えていく。
 しかし、一向に数が減る気配はない。次々に、ヨモツイクサが増えるせいだ。
「攻撃はひたすら何が何でもハニーコムガトリングです」
 速射砲を手に、モニカは言う。
 櫻霞の攻撃が止んだ瞬間、今度はモニカの速射砲が火を噴いた。途切れない弾幕に、ヨモツイクサは近づけない。
 しかしそれでも、弾幕の隙を縫って、或いは他のヨモツイクサを盾にして、弾幕の嵐を抜ける個体も存在する。
「坂を下らせないことを最優先に動くよ~」
 弾幕を抜けた個体目がけ、雛乃は魔弾を撃ち込んだ。
 魔弾はまっすぐ、ヨモツイクサの頭部を射抜く。頭を失ったヨモツイクサは、大きくバランスを崩して、その場に倒れた。再び立ち上がる気配はない。砂と化して、風に吹かれて消えていく。元より彼らは思念体だ。吹き飛ばされた砂すらも、やがて消えうせ、無と化すだろう。
 しかし……。
 人形によるヨモツイクサの発生を止めない限り、安息は訪れない。
 数の暴力は、いかなる時でさえ猛威を振るう。櫻霞とモニカの張った分厚い弾幕がついに決壊したのである。ダムが崩壊するように、弾幕を突き破って、肉片を飛び散らせながら数体のヨモツイクサが飛び出して来た。
 意味を成さない呻き声を漏らしながら、ヨモツイクサ達が櫻霞とモニカ、そして雛乃に纏わり付いた。腐った肉と砕けかけた骨がリベリスタ達の身体を、生気を毟っていく。連れて行け、と言うように、未練が、恨みの念が腐臭と共に身体を突き抜ける。
 雛乃が地面に膝をつく。身体に力が入らなくなった所に、更に数体のヨモツイクサが押し寄せたのだ。その重さを支え切ることができなくなった。
 雛乃の意識が、途切れそうになる。 
 その時だ。
「痛みを癒し……その枷を外しましょう」
 囁くように、涼やかな声が彼女の耳朶を打つ。
 淡い燐光が飛び散った。失われていた体力を回復させ、生気が急速に身体を満たす。
 背後から、微風に乗って降り注ぐ燐光。櫻子の回復術による後方支援だ。
 体に纏わり付いてくるヨモツイクサを、杖で押しのけ、雛乃は大きく後ろへ下がった。雛乃目がけて飛び付いてくるヨモツイクサを、魔方陣から放つ4色の魔光で撃ち抜いた。
 櫻霞とモニカも、それぞれ自力でヨモツイクサの群れを薙ぎ払い後退してくる。櫻子の支援を中心に、残りのヨモツイクサを殲滅すべく櫻霞とモニカは、同時に銃の引き金を引いた。

 仲間たちがヨモツイクサを抑えている頃、セラフィーナとエイプリルは人形の展示室へと辿り着いていた。当然のように、展示室内にも数体のヨモツイクサが蠢いている。
 幾多のヨモツイクサを突破した先には、薄ぼんやりと赤いオーラを発する人形がある。
 だが……。
「ははっ、まるでゾンビ映画のワンシーンだ」
 生者を見つけ、活き活きと襲い掛かってくる死人達を見ながらエイプリルは言う。
 数は10に満たないが、それらが一斉にこちらへ向かってくる光景は圧巻である。
 生者が憎いのか。恨みの念から発生した彼らは、理由も分からず生者を恨む。
「貴方達のそれは復讐でもなんでもない。生者に対するただの逆恨み、やつあたりです」
 刀を下段に構え、セラフィーナがヨモツイクサの軍勢の中へと斬り込んでいく。セラフィーナの全身から発されたオーラに引き寄せられ、ヨモツイクサ達はセラフィーナへと攻撃対象を集中させた。
 その隙に、エイプリルは低空飛行で一気に人形の元へと迫る。E能力を持つ者が人形に触れれば、Eフォースの発生は止まるはずだ。まっすぐ、人形へとエイプリルは手を伸ばす。
 エイプリルの手が人形に触れる、その直前。
 人形とエイプリルの間に、新たに1体ヨモツイクサが発生し、進路を塞ぐ。
「ちっ……」
 小さな舌打ち。床を叩いて、進路を上へと変更する。エイプリルの足に、ヨモツイクサの手が触れた。鈍い、焼けるような痛みがエイプリルを襲う。
 痛みを堪え、エイプリルはその手の中に生み出した光弾を床へと投げつけた。光弾が弾け、閃光が走る。一瞬だが、展示室が真白く染まる。閃光に怯んだヨモツイクサ達の動きが止まる。
 一瞬だけでも、動きを止めることが出来ればそれで十分だった。
「自身の火力不足が悩ましい限りだよ、全く」
 エイプリルの手が、人形を掠め取る。放たれていたオーラが収束し、人形はその機能を停止した。
 人形を持ったまま、全速力で展示室から退避するエイプリルを見送って、セラフィーナは縦横無尽に刀を振るう。
 一閃、二閃。刀を振るう度にヨモツイクサが断ち切られて消滅した。
「ここには貴方が恨む相手なんていません。どうか、静まってください」
 これ以上、ヨモツイクサが増えることはない。
 となれば、外の敵は他の仲間に任せよう。
 人形はエイプリルが安全な場所まで運んでくれるだろう。
 それならば……。
 セラフィーナの役目は、展示室のヨモツイクサを一掃することだ。多勢に無勢。しかし、負けるわけにはいかない。ヨモツイクサから距離をとり、セラフィーナは再度刀を構え直した。

●声にならない怨嗟の叫び
 地の底から響くような呻き声。
 4つの腕に持った刀や槍を振りあげ、ヨモツショウグンが叫んでいるのだ。
 恨みや辛み、負の感情に満ち満ちた呻くような叫び声。その声に気押され、疾風とイスタルテは動きを止めた。
 刹那の停滞。動いているのはヨモツショウグンの腕だけだ。槍が、刀が、2人の胴を貫いた。溢れる鮮血。口の端から血が零れる。
 止まっていた時間が動き出す。げぼ、と血の塊を吐きだして、疾風は一歩後ろへ下がった。流れる血が足元を汚す。
「メガネビーム……じゃないですよぅ!」
 刀を腹から引き抜いて、イスタルテは光弾を放つ。素早い動きでその場を離れ、遠距離からの援護射撃。幾多もの弾丸がヨモツショウグンの身体を撃ち抜いた。腕が1つ、光弾に射抜かれ地面に落ちる。
 ヨモツショウグンの視線が、イスタルテへ向いた。
 それを確認し、イスタルテは笑う。
 援護射撃。その役割を、果たしきった。
「抗う力さえもない人々を護る為にこの力はあるんだ」
 いつの間に、そこへ駆け込んだのか。
 ヨモツショウグンの懐に、疾風が潜り込んでいた。身を低く沈め、拳を握る。
 地面を蹴って、飛び上がるようなアッパーをヨモツショウグンの胸に叩きこんだ。
 ばぎ、と鎧が砕ける。
 砕けた鎧の隙間に、疾風は腕を突っ込んだ。疾風が掴んだのは、ヨモツショウグンに囚われていた警備員の腕だ。警備員の身体を引っ張り出して、大きく自分の後ろへと投げた。
 意識を失っている警備員は、そのまま地面に倒れていくが、地に伏す直前でイスタルテがその身を抱きかかえ、上空へと退避。血の滴を撒きながら、戦場を離脱する。
 疾風とイスタルテの視線が交差したのは一瞬だけだ。
 その一瞬で、意思は伝わる。
 後は任せた、とその意思を受け取り疾風は小さく頷き返した。

 恨めしい、と泣いているようだ。
 襲い来る刀や槍を回避しながら、疾風は思う。
 避けきれず、刃が疾風の身体を切り裂くたびに血が飛んだ。頬を赤く濡らしながら、しかし疾風は後ろへ退かない。
「悪いが、終わりだ」
 す、っと疾風が手を伸ばす。
 ヨモツショウグンの身体が浮いた。ギシ、とヨモツショウグンの鎧が軋む。
 まっすぐ。
 疾風はヨモツショウグンの身体を、地面へと叩きつけた。
 地響き、衝撃、地面が揺れてヨモツショウグンの鎧が砕け散る。
 疾風の口から、血が溢れる。荒い呼吸を繰り返しながら、ヨモツショウグンに視線を向けた。砕けた鎧の中にあったのは、ミイラのような干からびた体。それももう、動く気配はない。風に吹かれて、塵と化して消えていく。
 大量発生していたヨモツイクサ達も直に殲滅されるだろう。
 人形は、エイプリルが回収したようだ。
 任務の達成を確信し、疾風はその場に膝をつく。

 ヨモツイクサの殲滅が完了した後、残ったものはなにもない。
 ただ1つ。
 人形が1つ、何処かへ消えた。
 そのことが小さな事件として、新聞の隅を飾るのは、もう少し後の話となるだろう。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。
ヨモツショウグン、ヨモツイクサは殲滅され、アーティファクト人形も無事回収されました。依頼は成功です。
恨みから生まれた死者の軍勢との戦い、いかがでしたでしょうか?
お楽しみいただけたなら幸いです。
それではそろそろ失礼します。
縁がありましたら、また別の依頼でお会いしましょう。
このたびはご参加、ありがとうございました。