●孤狼立つ 北海道、函館。 そこにとある雑居ビルの一室を拠点とする『LonelyWolves』なるリベリスタ集団がいる。 全部で10人の、組織とも呼べない小規模集団だ。 個々の実力も決して高いとは言えない。 それでも、彼らはある『特徴』と彼らなりの『理念』を持って、北の地で細々と活動していた。 「どうする? ついに本州最北端まで来てしまったぞ」 「海を越えてくるのも時間の問題か……」 「くそっ、今年も指を咥えて見ているしかないのか!?」 いつもは思い思いに過ごしている構成員10人が、その日は真剣な様子で一同に介していた。 「1つだけ、思いついた手がある」 ポツリと。 上座に黙って座っていたリーダーが声を上げた。 「だが、リスクも高い。この手を使ってしまったら、俺達を見る目は更に厳しくなってしまうかもしれない……それでもいいか?」 声を張り上げていたメンバーが、その様子に一斉に押し黙った。 彼らの理念と覚悟が試される時が、迫っているのだ。 「いいぜ、聞かせてくれ。やってやろうじゃねえか」 「そうだ、どうせ俺達にゃ失うものなんかねぇんだ!」 1人が賛同すればそれは一気に雷同した。 「いいのか? 半年前にリーダーになったばかりの、俺の作戦で」 「アンタの今までの苦労は知ってる。だからリーダーに推したんじゃねえか。着いてくぜ」 確かな結束がそこにあった。 「良し……ならば行こう。海を渡る。そこで、野外実戦演習を行うんだ!」 「実戦演習?」 「そうだ。俺達は代弁者であり、狼だ。力が必要だ。その為には演習が一番だ」 ぐぐっと拳を握り、熱弁するリーダー。 「そして、演習の余波で桜が散ってリア充共が花見する場所が減っても不可抗力!」 おいちょっと待て。 「そ、そうか……そんな手が」 「それなら確かに俺達にも出来る!」 「しかも誰も、リア充すら傷つけずに済む! お前天才だな!」 だが、メンバーは感心する奴らばかり。ダメだ、ツッコミいない。 そして――。 彼らが去った後の部屋には、青森のソメイヨシノの開花のニュースが記された新聞が落ちていた。 ●帰ってきちゃったあのバカ 「皆さんお揃いですね。では、ブリーフィングを始めます」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタ達を見回し、口を開いた。 「ところで皆さん、今年はお花見しました?」 リベリスタ達が首を傾げる。 ええと、お仕事の話ですよね? 「ええ、勿論です。この辺りや関東の桜はもう大分散っていますが、東北や北海道の桜はこれからです」 桜の開花は地域によって異なる。桜前線とか言われるそれだ。 「革醒者の集団が、青森で咲き始めたばかりの桜を散らせようとしている、と情報が入りました。 万華鏡で探査した所、近い未来に起こる事実だと判明――皆さんを呼んだ次第です」 ようやく仕事の話らしくなって来た。 が、和泉の顔がなんだか無表情になっていくのは気のせいだろうか。 「集団の名は『LonelyWolves』。北海道を拠点とする弱小リベリスタ集団です」 ……え? 「リベリスタです」 若干言いづらそうに、でも和泉は告げた。 「待て、何でリベリスタが桜を散らす。フィクサードじゃないのそいつら?」 「残念ながら一応リベリスタなんです」 溜息混じりに答える和泉さん。 「変な集団ですよ。構成員は10人。全員が『独身男性』。ついでに言うと、全員が年齢=彼女いない暦です」 うわぁ。 「もてない独身男女の味方であれ、と言う理念を掲げて活動してました」 だが活動の実態は、北海道に範囲を限定し、一般人の救助活動やら、冬眠から目覚めたクマを宥めたり。 あと、時たま発生するE・ビーストとかE・エレメントとかと戦ってたりもする。 なんだろう。以外と真面目にリベリスタしてるけど、掲げてる理念と合ってない辺りがなんともかんとも。 「ところがこの度、何かを拗らせてしまったようで、野外演習と称して人払いをして無人になった公園で、本当に実戦訓練を始めます」 ちゃんと人払いしてから、スキルばんばん撃ちまくっちゃうと。 「余波で桜を散らそうという腹積もりみたいです。『桜はリア充の為じゃない、皆の為に咲くんだ!』だそうで……」 クリスマス、お正月、バレンタイン、ホワイトデーと、イチャイチャを見せ付けられ続けた彼らのフラストレーションはもう限界。 「それと、もう1つお話しておく事があります。何故この案件でアークが動くのか、と言う事です」 確かに最近のアークは、活動範囲が海外になる事もあり、大変忙しい。 国内の事件なら、他の協力組織に回す手もある。 「情報提供者は、同じく北海道を拠点とする別の組織なのですが――規模も同じくらいで、LonelyWolvesが留守の穴を自分達が埋めるからアークで止めて欲しい、との事」 確かに10人をより少ない人数で止めるには、それなりの力量が必要だ。 「そして何より。LonelyWolvesのリーダーにして演習の発案者が、問題なのです」 そこで和泉は、モニターにデータを表示させた。 「庚・祐司。かつてアークが関わった元フィクサードです」 丁度、今から一年ほど前の事だ。 色々あって性格が脳筋(バカ)になってリベリスタになるぜ! と暴走していた所を止めたのがアークだ。 たっぷりお説教して判ってくれたっぽいし仲間の元に戻るって言うので、見送ったのもアークだ。 「アークと無関係、とは言えないので……申し訳ありませんが、また止めて来てください」 どうしてこうなった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:諏月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月07日(水)22:08 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●非リアVSリア充 まだ満開には遠い、咲き始めの桜並木。 「みてみて、桜だぜ! 今年の花見はもう終わったと思ったが、また楽しめるなっ」 三高平ではもう見なくなった景色の中に、『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)の声が響く。 その手の先には、『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)の姿があった。 勿論、恋人繋ぎである。 「ふふふ、通常運行だから苦労しないな!」 笑顔の木蓮。2人を良く知る者なら『ああ通常運行だな』と思うのだろうか。 「そうだ龍治、記念撮影しようぜ!」 「向こうも気付いた様だぞ。釣れそうだ」 すっかりデート気分と言った様子でカメラのレンズをこちらに向ける木蓮に、龍治が小声で呟く。 卓越した聴覚を持つ彼の耳は、桜並木の先で上がった「何だあいつらイチャイチャしやがってえぇぇ!」と言う声を捉えていた。 「じゃ、もっとイチャついて見せ付けてやろうぜ」 シャッター音の直前、木蓮の唇が龍治の頬に触れる。 (任務遂行の為には仕方ない、任務遂行の為には仕方ないのだ……!) 「嫌じゃないくせに何が仕方ないだこのやろおおおおおお!」 必死に羞恥心を耐えつつされるがままの龍治の耳には、地の底から響くような実際かなり低い位置で誰かの上げた魂の叫びが届いていた。 まあがんばれリア充。 別の桜並木の近くを、2人の男女が歩いている。 「あの、父や学校の先生に見つかったら叱られてしまうかもしれませんけど」 「大丈夫ですよ、今日はここは人が少ないらしいですから」 何処かの女子高生と言った制服姿の『氷の仮面』青島 沙希(BNE004419)が、ぎこちなく手を伸ばして来た手を、雪白 桐(BNE000185)が優しく取る。 「こういうの、やってみたかったんです……」 手が触れた瞬間、沙希の肩が震えた。が、意を決したように、指を絡ませる。 「そういう処も可愛いですよ?」 桐の手が、俯く沙希の顔を上げさせる。見詰め合う2人。 こちらはこちらで、『初心で清楚な女子高生と年上のお兄さんの初デート』と言った空気が漂いまくっている。 沙希など、演劇界で鍛えた演技力に加え神秘の変身能力すら駆使している。ムードは充分だ。 「こんな場所を提供してくれるなんて、良い方達ですね」 桐の耳には、こちらへ向かってくる4人分の足音と「お前達の為じゃねええええ!」と言うなんか怨念じみた叫びが聞こえていた。 「あちらの男女、凄くイチャイチャしてますね」 公園中央部の広場の端で、わざと少し大きめの声でシェラザード・ミストール(BNE004427)が呟いた。 「……どうだ?」 「ええ、桐さん達へ誘導出来ました。あ、あんな所の影に……木蓮さん達にも2組目が向かってますね」 ややあって、『質実傲拳』翔 小雷(BNE004728)の問いに、目にした遠い光景をシェラザードが伝える。 物陰になれば見えない部分も存在するとは言え、シェラザードの卓越した五感は、公園内のほぼ全域の出来事をある程度把握する事が可能だ。 「これで未交戦状態はなし、か……なら、俺は向こうを手伝って来る」 小雷が、向こうと言った先では。 「ごめん、ダーリン。今ちょっとアークの仕事で周りが五月蝿くて」 「何がダーリンだてめぇぇぇぇ!」 「わざわざここで電話してんじゃねぇええええ!」 さも恋人と話しているかのような『ラビリンス・ウォーカー』セレア・アレイン(BNE003170)のエア電話に、まんまと釣られたバカ2匹の姿があった。 「うん、何かモテないリベリスタだかフィクサードだかが馬鹿やってるから、叩きのめして、こいって。そそ。また後でね?」 エア電話を続けるセレアの頬を、敵の放った弾丸が霞める。 だが、セレアは敢えて反撃をしなかった。ちまちまと各個撃破をする気はない。 リアルカップルと演技カップルの2手に分かれたのも、その為だ。 「リア充が、頭冷やしやがれぇぇぇ!」 叫びと共に、相手の1人が足を振り上げる。 「やめろ、お前たち! どうしてこんなことができる。お前たちが守ってきたモノを壊す意味が俺にはわからん」 風の刃がセレアに届く直前、割って入った小雷が真っ直ぐに告げる。 とは言え、やめろと言って止まる連中なら最初からこんな暴走をする筈もないわけで。 「待ちやがれ電話リア充が!」 「なるべく誠実そうな人を……おっといけない。引っこ抜く前に先ず止めてから、ですね!」 下がるセレアを睨みつけるその姿を、『BBA』葉月・綾乃(BNE003850)が少し離れた所から見ていた。 「本当は優先順位を逆にしたいんですけど! 私、仕事も恋も両立できる女を目指してるので、任務優先です! 葉月綾乃21歳、今日も頑張ります!」 「三十路入ったのに、サバ読みすぎじゃない?」 その隣に下がってきたセレアが、ぽそりと突っ込んだ。 ●割とえげつない陣地作成の使い方だと思う 「おっと。大丈夫かい?」 「は、はい……」 「大丈夫。私が守りますから」 頬を染めたままの沙希をお姫様抱っこの要領で抱え、桐は公園を駆け抜ける。 「ラブコメは他所でやりやがれえぇえええ!」 背後からの呪詛と言うか怨念と言うかまあ嫉妬を通り越した何かも、なんのその。 桐が纏うは神の如き破壊の戦気。呪詛に混じって飛んでくる四色の光や束縛の呪印から沙希を庇っても、足が止まる事はない。 「リベリスタと戦うなんて変な感じがするなぁ……っと」 別の場所では、木蓮が桜へ向かいそうになった流れ弾を体を張って食い止めていた。 「無事だな。木蓮」 「ああ、この程度、かすり傷にも入らねえぜ」 頷いて龍治の隣に戻った木蓮が、再びその手を握る。 「なら良いが……まだ見せつける必要はあるのか?」 「誘導地点まで、もう少しあるんだろ? 見せつけとこうぜ」 確実に誘導する為、と言われてはノーとは言えない龍治であった。 「まだ?」 広場の側では、セレアが秘儀を使うその時を待っていた。 「まだです……もう少し」 シェラザードが全員の位置関係を確認し続ける。 「考え直せ! でなければ力を持ってしてでも止める」 「あんなのに負けたら恥ずかしいですよーっ」 2人の後方では、綾乃の支援を受けながら小雷が2人を食い止めている。 シェラザードの目には、桜が少なからず余波で散っているのも映っていたが、焦りを抑え、目を凝らし耳を澄ます。 タイミングは一度。 『LonelyWolves』を一人でも取りこぼしてしまえば、意味はない。 そして――。 「ここだ」 龍治の放った気糸の罠が、追ってくる4人の先頭を捕らえてその動きを止める。 殆ど一丸となっていた4人は、1人が急に動きを止めた事で他の3人もつんのめるように足を止めた。 「爆発しやがれぇぇぇぇ!」 放たれた思考の奔流が、桐を抱えた沙希ごと浮かせた。2人が纏めて吹き飛ばされる。 「セレアさん、今です!」 そのタイミングで、シェラザードの合図を受けてセレアを中心として作られた魔術師の陣地が、この場にいる18人の革醒者を取り込んだ。 特殊空間を作る魔女の秘儀、陣地作成。 本来ならば発動には長い詠唱を必要とするものだが、それを短縮する魔道の技術を持つ者に掛かれば、物の数秒で完成する。 とは言え、範囲の中に『LonelyWolves』の全員を集めるのにはそれなりの時間と手間を要しはしたが。 暴れまわる狼たちを捕らえる檻は、完成した。 この中ならば、いくら戦っても現実の桜が破壊される事はない。 「此処からが勝負ですよ! 私、頑張って引き抜きます。彼氏っていうか婚姻届も用意してありますから! 大丈夫問題ない!」 綾乃が忍ばせている最終兵器(購入日2013/06/03の婚姻届)が問題ないのかはさておくとして。 アークの8人が全力を出せると言う点では、まさにその通りであった。 ●お説教(物理)のお時間 「思ったより手間取りましたね」 沙希を降ろした桐の手に、マンボウを思わせるフォルムの巨大な刃が握られる。 「その妄念、執念を、女性に正常な形で向けて彼女を作るのに頑張った方が良いと思うのですが……拗らせてしまった方はどうしてこうなんでしょうね」 言っても仕方ないと思いつつ、誘導までの逃走劇を思うと溜息の1つも吐きたくなると言うものだ。 「割とそういう男性が多いのは知ってるつもりではいたけど、それでもガキっぽいって印象はあるわね。もうちょっと考えたら?」 桐の言葉に頷いて、沙希も冷たく告げる。 「ま、軽くコケにして遊びつつお灸を据えてやりましょ」 清楚な女子高生の仮面を捨てて構えるは、死神を連想させる大鎌。 「や、やろうってのか。桜ごと吹っ飛ばしてやんぜ!」 急に大きな武器を構えた2人の姿に一瞬たじろぎ、それでもマグメイガスが気勢を上げて。 放たれた四色の光が、沙希の髪を揺らして後ろの桜に突き刺さり――何も起きない。 「何やってんだ。俺が!」 続いて放たれた聖なる光も、桜を揺らす事無く終わった。 「さあ、此方の番ですよ」 全力の更に上。限界を超えた一撃を、桐が容赦なく叩き込む。 「手加減は不要ね。死なない程度にはしてあげるけど」 何とか立ち上がろうとしたそこに、沙希の全身から放たれた気糸が容赦なく締め上げた。 「あ、あれ? この2人、やけに強くね……?」 あっさりと叩き伏せられた1人が沈黙し、眼鏡をかけた男が間の抜けた声を上げる。 「お久し振りです、庚さん。無事にリベリスタになられたようですね」 そこに現れたのは、弓を携えたシェラザード。その姿を見た眼鏡の男――祐司の動きが固まった。 祐司の脳裏に甦る、腹パン&回復のエンドレスお説教の記憶。 「や、やべえ………」 「おい、どうした祐司? 急に真っ青になりやがって」 「…………この人達、アークだ」 「……マジで?」 「申し訳ありませんが、今回は制圧させて頂きます」 相手がアークだと気付いた祐司達が驚きから立ち直るより早く、シェラザードのフィアキィが集めた冷気が彼らを包み込んだ。 戸惑っているのは、木蓮と龍治を追っていた4人も同様だ。 「くそ! どうなってやがる。桜がびくともしねえ」 撃てども斬れども、桜は散らず。 「まだ桜を散らそうとするのか。そんな無粋な事をしているから、女に相手にされんのだ」 憮然とした様子の龍治が放つ業火を帯びた弾丸が、圧倒的な精度で4人を纏めて撃ち抜く。 「なんだあの2人。すげえ強いぞ」 実力の違いを見せ付けられ、4人の意気が次第に消沈し始める。 「すいません、アークのリベリスタしてるんですけど! 付き合ってください!」 そんなタイミングで、綾乃が登場。 するなり相手の1人へ駆け寄って、ド直球で告白。 相手に選んだのは、何故かこんな時なのにスーツ着てて、一見誠実そうに見えたマグメイガス。全てはフィーリング。 「はい? アーク? ええ、何かの冗談でしょう?」 言われた方は、目を白黒。 「冗談なものですか! 多少駄目なところがあっても全力で受け入れます! 婚姻届だって持ってるんです。でもちょっと自重して、とりあえずお付き合いからはじめませんか」 空気なんか読んだら負け、とばかりにまくし立てる綾乃。 男は考える。 色んな鬱憤を晴らす為に桜を散らしに来た先で、同業最大手な雲の上くらいの組織の所属を自称する初対面の女性から、いきなり告白されました。 ……。 「ドッキリだろ、これドッキリだろ! 引っかかってたまるかぁぁぁ!」 術者の動揺を反映したかのように、雷撃が荒れ狂う。 「隻眼の火縄銃使いに、鹿の女狙撃手………もしかして、本当にアークなのか?」 困惑する仲間を他所に、相手のサジタリーは眼前の2人が名実共にアークでも指折りのスターサジタリー気付いていた。 「おうっ、俺様達は泣く非リアも黙るスナイパーラヴァーズだぜ!」 ラヴァーズ、の言葉に『LonelyWolves』の3人(1人はまだ綾乃となんやかんや押し問答している)の顔に怒りの色が浮かぶが。 彼らが何か言うよりも早く、木蓮の30口径の半自動小銃が連続で火を噴いて、蜂のような連続射撃が4人に浴びせられた。 「後悔した? でも、もう遅いわよ?」 セレアが、膝を付く『LonelyWolves』の1人を悠然と見下ろし告げる。 もう1人いた覇界闘士の方は、彼女の最大魔術を喰らった直後にあっさりとその場から逃げ出していた。 そちらは小雷が後を追っている。 「あんたも逃げる? 逃げても追うけど。女の顔に傷つけてただで済むと思わないでね」 杖の先の黄色い結晶体が輝き出す。 「そうねぇ、あたしのこと……女王様じゃ面白くないし、魔王様って呼んで忠誠を示すなら止めてあげてもいいわよ?」 返事を待たずに降り注ぐ、鉄槌の星々。 最大魔術すら数秒で放ってみせるその様は、眼前の相手にしてみればまさに魔王であったろう。 「くそ! どうなってやがる!」 陣地の端、空間の壁に阻まれた男が1人。 炎を纏わせた拳をいくらぶつけても桜はびくともせず、この空間から出る事も叶わず。 「追いついたぞ」 その背中にかかる、小雷の声。 「此処で勝負だ。一対一、素手の殴り合いをしよう」 先ほどまで巻いていたバンテージのない、素手の拳を掲げて小雷が告げる。 「お前たちが圧されているのは、俺たちとの武具の差か? 技の差か? そうじゃない事を教えてやる」 相手に合わせて加減をした対等な勝負であれば、負けても納得してくれるだろう。 そう考えた小雷の提案であったが―― 「素手か。俺には全力を出すまでもないってか?」 加減をすると言う事は、全力を出すまでもないとも取れる。 「まぁ確かに俺に勝ち目はないだろうが……そうまで言われて、ハイソウデスカ、と言えるかよ!」 今回の相手は、加減を含んだ提案をそう受け取った様だった。或いは、同じ覇界闘士である点も響いたのかもしれない。 「……お前、何歳だ」 「18だが?」 「そうかよ。こっちは来月30だ。30年独り身の気持ちなんざ、18の若造には判らんだろうよ!」 冷気を這わせたトンファーが振り下ろされる。 「お前に彼女ができないのは男しかいないこの組織で人知れず働いているからか? 違う。お前たちが自分への誇りを持っていないからだ」 小雷の手足が、雷気の輝きを放つ。 「人の幸せを妬む人間が、どうして平和を守れるか! 目を覚ませぇー!!」 迅雷。 風を越える圧倒的な速力の武舞が、雷撃を纏って叩き込まれた。 ●鎮圧完了 「気が付きましたか?」 「……。……あぶ○×△せくをふ!?」 目を覚ましたそこがシェラザードの膝の上だと気付いた祐司が、謎の奇声を発して跳び上がって転げまわって横に倒れていた『LonelyWolves』の仲間に頭をぶつけて悶絶する。 「成程、膝枕と言う手がありましたか! さっきうっかり血塗れにしちゃった分は、それでフォローします!」 その様子を見た綾乃が、血塗れで魘されているスーツの男に膝枕しに向かった。 「あれ? 俺、生きてる……?」 「加減はしたもの。万が一死んでも知ったこっちゃないけど、寝覚めはあんまり良く無さそうだし。べ、別に死なせたくないなんて思ってないんだから!」 目を覚ました別の男に、何故かツンデレっぽく振舞うセレア。 「なんだ、まだ目を覚ましたのは2人だけか?」 両手に荷物を抱えた小雷が、そこに戻ってくる。 「強結界でこれだけ空いているのだ、皆で花見というのも悪くなかろう?」 抱えた荷物の中身は、事前に頼んでいた花見弁当だった。経費で落としたらしい。 これには誰も異を唱えず、1人また1人と『LonelyWolves』達も目を覚まし、そのままなし崩しで始まる花見。 「桜は愛でて楽しむものですよね?」 「あの……桐さん?」 何故かまた沙希を抱き寄せている桐。 そんな2人に数人の視線が集中するが、散々ボコボコにした後だ。誰も何も言わない。 「ちなみに龍治は今年で45歳、恋人は俺様が初だ。その、なんだ、だから希望持てよ。な?」 「よ、余計な事は言わなくて良い……!」 フォローなのか自慢なのか良く判らない木蓮の話に、取り乱す龍治。 「そ、それは尊敬せざるをえねえ……男としてもスターサジタリーとしても!」 なんか1人妙な感銘を受けてたり。 「貴方はリベリスタになる選択をされたんですね」 「どうにもフィクサードにはなりきれなかったんっす……」 微笑むシェラザードに応える祐司は目を逸らしているが、それは恐怖からと言った様子ではなく――ええと、膝枕の効果すげえ。 「さっきはすまなかった。他の勢力もいるとは言え、10人で広い大地を守り抜こうとする姿勢には感心してるんだ」 「……こっちも悪かったよ」 小雷も殴りあった相手とお茶で杯を交わす。 「もう! こんないい女を振るなんてバチが当たっても知りませんよ?」 「えー、いや、もうバチ当たってますが……と言うか何で俺?」 綾乃は血塗れにした相手に孤軍奮闘中。 逃げられず会話は出来てる辺り、誠実そう、と言うフィーリングは当たっているのかもしれない。 とは言え、花見弁当がなくなる頃には『LonelyWolves』達の毒気も抜けて。 「今度こんな事したら、もっと酷い目にあわせるわよ?」 『判りました、魔王様!』 最終的にセレアに10人ともひれ伏し、狼達は北海道へと戻って行った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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