● 平野勝生(40)。 地元の山麓で林業を営んで早幾年。そろそろ別嬪な嫁子を貰いたい年頃だが、山に引き籠ってる為、出会いはなし。 インターネットには疎く、全て手紙でのやり取りをして、村の者たちにも呆れられている。 そんな何て事無い普通のおっさんAの様な勝生の許に最近は良く『アヤシイ勧誘』が来るのだと言う。 「いやぁ、勝生ちゃんもねぇ……あんな外見だけど人が良いからねえ……」 ……と語るのは勝生の家から少し離れた場所で商店をしている数田さん(55)。 林業で培った力か、筋骨隆々。顔も何処か厳しいおっさんである勝生だが、本当は森の動物と戯れてお花畑でランデブー位は出来る心の優しさを持ち合わせている。 「そういや、勝生ちゃん、最近おっきいテレビ貰ったって言ってたねえ。 ああ、あと、冷蔵庫も……誰か引っ越してきたんかと思ったけどみぃんな、勧誘の貢物らしくてねえ」 噂を楽しげにペラペラと言ってくれる数田さん(55)。因みに彼女の趣味は音楽番組でイケメンを見る事である。 「そうだ、そうだ、あんたら、フィ……なんとか? とか言う言葉知ってるん? 勝生ちゃんがねえ、ふぃく……福神漬け? じゃなくて、ふぃくさー? ……ど、とりべ、りべ……」 兎に角そんな事を言っていたと数田さん(55)は語って居た。話を聞いているだけで洗剤と菓子を頂けた事を此処に後記しておこう。 「平野さん、こんにちは」 背後から掛けられた声に、またかと勝生は肩を竦める。 昼夜時間も問わず現れる勧誘は『2グループ』からのものだった。 夢物語の様に「世界を救いましょう」と言われても、「我々は自分の欲望を解き放とう」と言われても下手な宗教勧誘に程近い。ましてや、良く分からない言葉を並び立てられては勝生だって気軽に茶を出す事も出来ない。 「帰ってくれんかね」 「いやいや、貴方が革醒者として訓練すれば我々、神秘界隈にも確り溶け込める。 大丈夫、中途採用を怖がらないで! フィクサードになんてならず是非リベリスタに!」 「何言ってんだ! 正義だなんだ言いやがって、そんなことして自分が幸せになるのかよ! これだから気楽だな、リベリスタってのは! 是非、フィクサードになって自分の幸せを掴みましょう!」 「はあ? お前、なんだよ!」 「アァッ!? 黙ってろよ!」 ――また、始まった。 大騒ぎして居る『リベリスタ』とやらと『フィクサード』とやら。いや、実体が分からない組織に努めるほど平野勝生(40)も馬鹿ではない。しかも感勇者の言葉が要領を得ないのだから、その業界に入るのも……。 嗚呼、いったいどういう事なんだか……。 ● 「仕事に行って来て貰います!」 「分かった。お前ら、30秒で準備を完了して出発するぞ」 「早っ!?」 急な仕事なんです、と頼まれた『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)の言葉に思わず『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)はツッコミを入れる。 今回の『おねがい』は少し特殊だ。資料を受け取った『欠けた剣』楠神 風斗(BNE001434)は首を傾げながらブリーフィングルームを後にした。 広場集合と声を掛けられていた『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)はイヤフォンから漏れる超カッコイイロックを聞きながら顔を上げる。 「SHOGOのーー、目線の先にーーー」 「知ってるから!」 ――ザキオカがいた。 岡崎 時生(BNE004545)の言葉を遮った翔護は鷲祐らと同じ仕事に付く事になっている。 渡された書類の内容を見るに何だか腑に落ちないのだが……。 「なーんで、『抗争から保護する為に近隣住民ごと三高平へ転居させる』んだろうね? あ、それと『交渉が決裂した場合、他組織の到着前に平野さんを殺害する』んだろう。世恋たん、何も言わなかったし」 『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)の言葉に考え込む様な仕草を見せた翔護。 3秒後、彼はへらりと笑った。 「何か理由があるんだろうが……こちらもアークに勧誘か。 神秘に対する説明を両方の組織共に怠っているから、此方からの勧誘も難しくなるわけだが」 「両方の組織?」 「リベリスタとフィクサード。敵対してる組織からのオファーがあるらしい。 だが、両者共に何処か知った口で喋るし、近隣住民への被害も出始めてるから神秘に対する心象も悪くなってて……」 「あの、」 「どうした、亜美たん」 「フィクサードとリベリスタの違いって……?」 『星雨』九・亜美(BNE004876)の言葉に、場の『せんぱいリベリスタ』達は少しばかり固まって、悩みこむ様な仕草を見せた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:EASY | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月01日(木)22:14 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● そわそわとしていた『星雨』九・亜美(BNE004876)はあひる隊長を前に緊張した様に息を吐く。 これからは重要な仕事があるのだから。普段は幼く見える雰囲気の漂う亜美もスーツを着て年相応に。 「お仕事です、お仕事なんです!」 頑張るです、あひる隊長! と掛けた声にあひる隊長こと幻想纏いは何も答えなかった。 此処は関西のとある山麓。麓の長閑な雰囲気を壊す様に今日もファッションヤクザ(亜美命名)が跋扈して居るのでした。 スタイリッシュな雰囲気を纏った『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)は樹の上でぼんやりと空を見上げる。 青空は俺を祝福している……なんて思ったかもしれないが、思っていないかもしれない。そんなスタイリッシュ鷲祐がしているのは聞き耳と言う何とも『不思議』な行動なのだった。 朝の冷たい空気の中、鷲祐が潜む樹と隣接した家に住んでいた平野勝生(40)は欠伸を噛み殺し呼び鈴の音に応じ、扉を開け――かけて、閉める。 「帰れ」 リベリスタ組織『開国倶楽部』は肩を竦める。本日の貢ぎ物は山菜。そこからくどくどと始まった専門用語だらけの勧誘台詞。 リベリスタだとか神秘だとかエリューションだとか、そんなもの勝生にはさっぱりだ。たとえ彼が強い革醒者だろうと。野良おっさんにはそんな専門用語は伝わらない。 (あれが開国倶楽部か……歓楽街っぽいな……) 鷲祐の感想は兎も角しても『開国倶楽部』のエージェントは必死に勧誘を続けるが、本日も合えなく断念。美少女なら兎も角40歳の野良おっさんを一生懸命に勧誘し続けるこの様子はギャグの様に思えてならない。 哀しげに平野宅から離れていくリベリスタの前にサッと滑りこんだ神速こと鷲祐に開国倶楽部はビクッと肩を揺らす。それは勿論、神秘界隈で名も轟く司馬鷲祐が突然目の前にこんにちはしたからだ。 「えっ、もしかして、アークの……」 「ああ。そうだ。所でさっきの勧誘見せて貰っていた」 どこから――!? そう思うのも仕方がない。だって鷲祐は聞き耳を立てていた。しかも熱感知で人数の把握までしていた。 突然、アークのリベリスタ。突然、勧誘を採点するかのような口調。 身を固くしたリベリスタに鷲祐は口を開き――説教が始まった。 「まず相手を理解して説明を始めなければならない。判るか? 相手は神秘について詳しくない。専門用語を使わない事が大事だ。あとは上から話さない。確かに神秘界隈でのお前らは先輩かもしれないが、勧誘だとワケが違う。判るか、勧誘ってのは口説き文句だ。相手は魅力的なレディと思え」 くどくどと続く説教に開国倶楽部のリベリスタはたじたじになるのだった。 ● パリッとしたビジネススーツ。男は仕事着までもクールに決めるとでも言った雰囲気の『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)は黒塗りの車に乗り、佇んでいる。その風貌やヤの付く自由業の人に近い気がするが、ソレは兎も角、彼は事前の準備を欠かしていない。 野良おっさんこと平野勝生の家とフィクサード組織『ナントカ商社』の間に止めた黒塗りの車。 勿論、ナントカ商社の通り道である。ビジネスマンを気取るからには名刺だって準備済み。台詞も考え済み。結城竜一、準備を怠らない良い男である。 「野良おっさんのいる、農村に!」 少し遅れて平野勝生宅のある農村に足を踏み入れたのは、 「きました。きちゃったんです!」 ……岡崎 時生(BNE004545)の姿があった。丁寧に言葉を繋げた亜美に頷く時生。 時生の鞄に確りと入れられたのは不動産の資料。三高平市編とでも書かれたソレはワンルームマンションから分譲住宅まで様々な物を取り揃えられている。 ――アークってなあに―― と書かれた神秘や特務機関『アーク』に関する資料もわかり易く纏められている手製のパンフレット。丁寧にまとめられているそれは派手な色合いでごまかす事もせず確りと写真や説明を交えている。 電子の妖精と言ってしまうと後半部分の『妖精』がやけに引っ掛かるが、大丈夫、きっとザキオカなら何とかしてくれる筈! 本日は新米リベリスタ、亜美ちゃんの教育兼任務に赴いている先輩リベリスタである『砕けた剣』楠神 風斗(BNE001434)はくんくんと鼻を揺らす。 ……と、村祭りでもしているのかと言う雰囲気の一角がある。村の広場に沢山の住民が集まり、あれやこれやと話している中心に『Ark』と書かれたジャンパーを着た『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)が皿を手に微笑んでいた。 プラスして何故か一緒に居る『開国倶楽部』の面々。鷲祐の説得と共に住民たちに謝りに来たそうだ。 こそこそと「積極的に抗争おこしてりゃお前らフィクサード判定だぞ」「いやあ……」「あ、あとでアークNO.1と会うか?」「マジっすか!」なんて話してる彼等。鷲祐の説得は完璧だったのか。打ち解けている……。 「ヤクザのいない今のうちにSHOGOカレーをどうぞ☆」 「ショーゴ君、料理上手いねぇ」 おばさんに囲まれているSHOGOが微笑みながら立っていた。 異様な光景が其処にはある。奥様方に大人気になっている翔護にとって、もしかすると此処はハーレムなのかもしれない。 うす塩味の牛すじ煮込みを携えていた鷲祐は「美味しい!」と言った風にプレゼント。味見したおばちゃんたちは楽しそうにカレーと牛すじを煮込んでいる。 「村の人が全員此処にいるのか?」 「皆カレー食べてるんよ」 驚きに瞬きをした風斗に向かっておばちゃんは気軽に語りかける。流石は小さな農村か。流石は関西か。余所者でも被害を与えぬ相手ならばかなり気軽に話しかけて可愛がってくれる。 「あ、これ、知人のイタリアンシェフから生ハムとオリーブオイル貰ったんで、良ければどうぞ」 上流階級にも顔の利く時生は友人のイタリアンシェフに頼み込んで住民分調達した生ハムとオリーブオイルを取り出す。 おばちゃん歓喜! カレー祭りに本格派イタリアンシェフの扱うハムとオリーブオイル! 貰えるなら貰うしかないとはしゃぐおばちゃんたちに時生は「ザキオカに抜かりなし!」と一人頷くのだった。 「皆、何でこの村に来たん?」 「実は地盤活性による災害の可能性が出てて、時村財閥からの調査に乗り出してたり」 「じゃあ、よく来る兄ちゃん達は?」 「ああ、それは……この界隈は前々から異常現象の兆候があってな。 最終的には平野さんの住居周辺を中心に災害発生の懸念がある。スーツのお兄さんたちは対策に積極的でね……血気盛んで、俺も困ってる」 肘でツンとされた開国倶楽部の面々は体を固くしてへこへこと謝って居る。翔護の言葉に合わせた鷲祐の言葉におばちゃんたちは悩ましげに唸り始める。 開国倶楽部の面々も「我々も調査したんですが、難しい問題で」と翔護に合わせて相槌を打っている所から、リベリスタ達の任務にも積極的に手伝いを行っている様に思える。 「長期間の避難が必要になる訳っすよ。費用は時村財閥持ちで、半年程度で帰れますし」 おばちゃんを説得する翔護に最近の抗争からか、妙に現実味溢れる話しだわとおばちゃん達はこそこそと相談し合っている。 「うんうん、ショーゴ君達のいう事おばちゃん信じるわあ」 ● 所変わって農村と都市部を繋ぐ通路。止められた黒塗りの車から降りてきた竜一は決めポーズをしながら通り掛かった白いワゴン車へとひらひらと手を振る。 ブレーキ音の後、なんだなんだと顔を出したフィクサード組織『ナントカ商社』のメンバーに怖気ずく事無く竜一はにっこりと微笑んだ。 「どーもどーも、『ナントカ商社』の皆さん。わたくし、こういうものです」 さっと渡された名刺。車から降りたナントカ商社のフィクサードは微笑みながら竜一へ名刺を差し出す。これはこれは、ご丁寧に……なんていいながらビジネスマンのマナーの名刺交換は和やかに行われた。 ナントカ商社 代表取締役 山田尤一。 アーク 特別アドバイザー 結城竜一。 「山田さんですね? 宜しくお願いします。いや、いやいやー、ナントカ商社さん! あなた方のお噂はかねがねっ! 昨今のお元気な同行は私どもの耳に入るほどです!」 「はあ、アークさんが何か御用で?」 山田の表情が曇る。こう書けば少しカッコイイ感じになるかと思ったが、山田だから格好がつかないかもしれない。しかし、兎に角、山田の表情が曇ったのだった。 「ああっ、勿論、我々はあなた方と事を構える気は御座いません! ぶつかった所で、お互いの利益にならないでしょう。ですから、無駄な争いは避けたいと思っておりますよ。ええ……『現時点』では、ね」 不穏な空気が漂う道路の一角。山田と竜一の視線が克ち合った。山田と、竜一の、視線がだ。 山田は振り返り『ナントカ商社』のメンバーへと意見を求める様に視線を送るが入社3年目、趣味は美少女フィギュア集めである経理兼運転手の稲田は困った様に首を振るだけだ。 「……さて、あなた方が此処にいる目的をお聞きしたいのですが」 「目的? 我々の目的がアークさんにとって有益な情報にならないかと思いますが?」 「ああ、いや、ははは……勿論、我々なりの推察は出来てはいますが、真意を問うまでは真実ではない。 我々としても、無駄な争いは避けたいと思っております。 ので、あなた方がただの散歩に来ただけだ、というのであれば争う必要もなく、引き返して頂くだけで結構」 竜一の言葉に山田が緊張の一瞬を迎えている。勿論、帰って録画した深夜アニメを見たい稲田の緊張がピークだ。 ここでアークを相手に取ることで竜一だけでなく他のリベリスタが来る可能性だってある。 そう、『ナントカ商社』は敵対する『開国倶楽部』がいる――! 三つ巴、いや、2:1の戦いが勃発しかねない。 「散歩でないとしたら」 「……ああ、それなら俺と刃を交えるかい?」 不敵に笑った竜一を見詰めて稲田が「ふええ」と美少女の様な鳴き声を漏らしていた。 おばちゃん情報によると平野勝生はこの場所を気に行っているらしい。しかも、抗争によって自然が破壊されている気がするらしい。 つまり、今更、『自然の為だった!』なんて言っても難しいかもしれない……そうだ。 「面子が新人とザキオカとハーレムってなんだよ! 下半身で物考える奴が下半身じゃん!?」 「誰がだよ!?」 取り敢えず、ツッコミ。先に平野宅へ向かう事になった風斗、時生、翔護と亜美。開国倶楽部の面々にカレー祭りの後片づけをお願いして居る鷲祐は後での合流となった様だ。 「ぴーんぽーん!」 「口で言うのか」 時生の声と共にコンコンとノックをした亜美は「おおー!」と言いながらあひる隊長を鞄の中へとそっとしまう。 何だ何だと顔を出した勝生の表情は不信感全開だ。カレーの臭いがする面々とカレーの臭いがする村に表情をわかり易いほどに顰めた勝生に風斗はしっかり向き合って頭を下げる。 「こんにちは、はじめまして平野さん。我々は静岡にあるアーク、という組織の者です」 「アーク所属の九亜美です。宜しくお願いしますです」 ぺこっと頭を下げた風斗に合わせて頭を下げる亜美。続けて挨拶をした時生と翔護もしっかりとした挨拶を心がける様だった。 特に社会人経験の豊富な時生は礼儀をわきまえると普段の明るさよりも理知的な印象を押し出して居る、気がするのだが実際はどうなのだろう。 「今日は、貴方の身に起きたことなど、疑問に思っていらっしゃることなどの説明と、お願いに参りました。 ……少しの間、お時間をいただけないでしょうか?」 「それは最近来る宗教勧誘の事かい」 風斗の言葉に警戒を全身からアピールする勝生はそろそろと返す。頷いた彼等は説得に向かうのだった。 ● 時生が手渡したパンフレットを受け取った勝生の雰囲気はと言えば、訪問販売を受けているかのようなものである。 「あいつらが神秘だなんだ言うんだが」 「神秘っていうのは掻い摘んで説明すると不思議な力によるこの世界への影響。 ……『不気味な事』も神秘の影響で『熊』もその影響で生まれた怪物だった」 「あの『熊』!」 「はい。神秘は異世界からの影響で起こる不思議パワーのことです。アイツらが言ってた崩界は神秘の影響がこの世界に悪影響与え過ぎて世界が壊れること。 ……それに覚醒者ってのは神秘の影響を受けて不思議パワーを身に付けた人です」 端的に告げていく風斗に神妙な面立ちの勝生はリベリスタを睨みつける様に見つめている。 「あ、神秘の説明、ボクが出来るです。見てみて触ってみてバッチリです!」 「コスプレってのか?」 「こんな風に一般的じゃないものが『神秘』、それを知覚出来る人が革醒者なので……ボクの翼が見える平野さんも革醒者、というわけです」 動きます、とぱたぱたと動く羽に『神秘』の存在を改めて知った勝生が驚いた様にリベリスタ達の顔を見詰める。 フライエンジェである亜美が一番わかり易いのだろう。息を吐いた勝生は漸くリベリスタを信用したのか先を促す様に進める。 「勧誘に来た彼等がリベリスタやフィクサードと言う言葉を使ったかと思います。 リベリスタは俺や、この子みたいに崩界から世界を護ることを第一とする覚醒者で、フィクサードって言うのは世界より自分のやりたいことを優先する覚醒者」 風斗の言葉に亜美の羽を見詰め、時生や風斗の顔をじっと見つめる勝生。離れた位置でじ、と見つめている翔護はそっと口を開き、不敵に微笑む。 「神秘って結局突然の厄介事でしかなくて、アークは責任も取らないのにこうして個人に選択を強いる職場。 ただ、その選択は周りのみんなの命や幸せに直結してて、この業界にいないと選ぶこともできない」 「選ぶ?」 その言葉に何処か興味を持ったのか、勝生は翔護の顔を見詰める。頷いた風斗は「選ぶんです」と勝生に改めて告げた。 「貴方は何の前知識も無く、人を襲いそうな怪物などを退治してこられました。これは、リベリスタ的行動だと思います。 もし貴方が、隣人が傷つくのを嫌だと思う方であるのなら、アークを『利用』するつもりで所属なさってみてはいかがでしょう? アークは危険予知に優れていますので、大きな被害が出る前に行動を起こせます。また、貴方一人では対処できないことでも、人員を派遣されます。勿論、神秘関係の被害に限定されますが」 リベリスタ組織への誘いはこれで何度目か。うんざりとしてきた勝生の表情が変わる。だが、さっと転居用のパンフレットを差し出した時生は低い位置から頼みこむように頭を下げる。 「三高平での快適な生活を約束する。住み慣れた地元からいきなり引っ越せと言われても、はいそうですか……とは行かないのは解ってます。 ですが、このままでは開国倶楽部とナントカ商社の抗争にここの住民が巻き込まれてしまう……!」 勝生の表情がみるみる変わっていく。防がねばならない事に気付いたのか怒った雰囲気を醸す彼に時生は懸命に続けていく。 「そして貴方の大切な人、大切な場所、それを護る為に協力して頂きたい。 貴方がやらなくても誰かがやってくれるかもしれない。でも、貴方にはそれが出来る力がある。 ……どうか、我等がアークに名を連ねて頂きたい」 力が在ると言われても勝生にはよく分からない。戸惑いを覚えた勝生に対してイケメンポーズを決めた鷲祐はそっと歩み寄った。 「チェーンソーはどこに置いてある? 万が一にも持ち出されるのを防ぐため、鍵をかけて管理するだろう。つまり使い方次第。……アンタの力も同じだ」 ピー。 (\(・ω・)/)が勝生へと手渡される。 ピーーー。 強く押し過ぎて苛められて……あ、ちょっと……顔、歪んでます。聡明で凛々しい……アッ。 幻想纏いを手にした翔護は離れた位置からこっそりと幻想纏いに向かって語りかけた。 (あ、あひる隊長からショーゴさんの声がするです……!) 『リベリスタとフィクサードの違いがわからないなら、九ちゃんが今リベリスタになって、やりたいことを自分の口で素直に言ってみよう。 それをおじさんにも手伝って欲しいなら、リベリスタになってもらおうよ。 こんなとこかな。あ、あとお土産、忘れずにね!』 風斗と時生とは対照的な新米リベリスタに先輩リベリスタ翔護はうんうんと頷く。 「んっと、ボク、頭悪いから難しい事言えないですけど…… ボクは家族や友達が大好きで、皆が住む世界が大切で……だから世界が壊れるのも嫌です、壊されていくのも嫌なんです。それが、たぶんボクがフィクサードじゃなくてリベリスタって事で…だから、えっと、んと…平野さん、ボクとお友達になってください。 あ、お土産です! イチゴ味です、いっしょに食べるです!」 さっと差し出した可愛らしい土産物に瞬く勝生に鷲祐は小さく笑って勝生の手に握られた人形の腹を強く押した。 ピーーー。 「アンタが、他人を慮り大切に出来るのなら、きっと俺よりも立派なリベリスタだ。……そこの羽付き娘と一緒でな」 お菓子食べるです、です! と嬉しそうに笑った亜美を見詰めて勝生は小さく頷いてアーク入りを了承する。 「腹減ったなあ」 「あ、じゃあカレーとかどう?」 「カレーも食べたいです!」 和やかな雰囲気で村の方へ向かうリベリスタと勝生たち。 その頃、車道では竜一と稲田は美少女について語り合っていたとか、居ないとか……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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