●真っ黒な頁に白インキで記された文字 前書き。 東洋の言葉で『言霊』というものがある。 言葉には霊が宿るというものである。 この呪本は、世界中で唱和されているであろう、ある性質を帯びた歌の力を集め、一種の魔力媒体として完成させる事を目的としている。 ただし、本書を使う為には一定の試練を越えて、権利者とならねばならない事を記す。 ・頁に手を触れて、定められたMagic Wordを唱えれば、本へと侵入できる。 ・本書の中枢を滅ぼした時点で、権利者の決定が行われる。 ・中枢への道は番人に守られている。この番人は、これまで培われた魔力そのものである。 ・番人をより多く屈服させ、中枢を滅ぼした側が、権利者決定に大きく有利となる。 ・本書は二冊ある。権利者が決定された時点で、権利者以外の本は燃えて消える。 ・内部では、神秘の力を拒絶する力が働く。治療といった力には、より強力に働く。 ●1352 -Ring-a-Ring-o' Roses- 黒く塗り潰された頁を、粛々とめくっていく。 やがて、1352頁において、白い服の少女3人の画が現れる。 一見にして、背景は中世ヨーロッパの農村とみられ、いずれも西洋人である。少女たちが手をつないで輪になって踊っている場面である。 牛が呑気に横たわり、豚も仰向けに膨らんでいる。 その周囲を子ねずみ二匹と親ねずみが元気よく走り回っている。 暖色を用いた射しこむ光の演出と相まって、何とも長閑な景である。 しかし、よく見れば少女達の手には、赤い疱疹が見られる。 横たわる牛と、仰向けの豚の上には、ゴミと見誤る程に細かな黒い点が飛び交っている。 先ほどまであっただろうか。 気がつけば、向こう側で羽根付き帽子を被った男が、微笑みながら少女達みつめている。 先ほどまでいただろうか。 ここに赤い文字で、歌詞が浮かび上がった。 Ring-a-Ring o'Roses, A pocket full of posies, Atishoo! Atishoo! (バラの花輪だ 手をつなごうよ ポケットに 花束さして ハックション! ハックション!) We all fall down. 少女達の顔が、たちまち骸骨へと変わり、疱疹は醜い黒色に変貌する。 暖色の光の演出は灰色に変わり、酷く退廃的な印象を覚える。 また、牛や豚がとろけた屍に変じている。鼠の数は、大いに増えている。 向こう側にいる、羽根付き帽子を被った男は、やはり微笑みながら少女達をみつめているばかりである。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月08日(木)23:16 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●呪本の世界 -Curse Spike- ドクリ、と自身の心臓の音がした。 定められた言葉を唱えた途端に、全身に浮遊感が生じて視界が閉ざされる。 心臓を握られる様な感覚の次に、何かに叩きつけられた様な痛みを覚える。 どこまでも落ちていく。いつまでも落ちていく。 ドクリと、心臓を締め付けられる感覚の、その間隔が短くなっていく。間隔はやがて10秒置きになり、5秒置きになり、1秒置きになる。 呼吸も怪しまれる程に息苦しさが極まり、心臓の鼓動が耳に突き刺さるまでになる。 ドンと叩きつけられる衝撃と共に――ここで止まった。 「痛ったー」 『黒き風車と断頭台の天使』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)が、首を横に振って立ち上がる。 一緒に落ちてきた面々も、態勢を起こして周囲を見回していた。 「本の内容悪趣味かつこわすぎぃぃぃぃ!! ……って、おや?」 『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)が向こう側を見るに、開けた視界は西洋の農村であった。 向こう側で少女達が呑気に輪になって踊っている。歌を口ずさむ。 「これは……何とも嫌な予感しかしませんね」 狼狽気味なる喜平の横で、『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)が拳を握って斜に構える。 「マザーグースが伝承として存在している以上、それは神秘的な言霊として事象として、存在してしまうのかな」 夏栖斗は、この本をペリーシュの為に作られ、ペリーシュに収穫させる為の本と推測する。 「ring-around-the-rosy堂々巡りに、この本は世界をわたって『黒死病』という災厄を蓄えて魔力としたのかもしれない」 ならばしかし、もう一冊が存在する事が解しかねる。筆者の戯れなのか何なのか。 『凡夫』赤司・侠治(BNE004282)が、片膝をついて足元の草を引きちぎる。 「よく出来ている」 指についた草の汁から、青臭い匂いがして嘆息めいた音を漏らす。 また『二つで一人』伏見・H・カシス(BNE001678)も、農村の光景に嘆息した。 「本の中は夢と希望に満ちていて。ちょっとした皮肉も転がっていて。素敵な世界だと思うんです」 上を見れば青空である。向こう側から吹いてくる風に混じって、木々や飼葉の素朴な香りがする。 素敵でいてほしい。なのに。 「全方位で、敵意むき出しみたいだ」 緋塚・陽子(BNE003359)の超感覚が捉えたるは、この呪本世界が侵入者を排除せんとする敵意であった。 「本の形態で魔力たんまりとかどえらいもんが来たもんだな。バロックナイツには渡せないか」 第一位ウィルモフ・ペリーシュ、その配下。1分余の後に来る事が確定された未来である。 活動時間は約3分。陽子は愛用の得物を握る。 「まだ慣れたとは言い難いかしら」 『空虚な器』片科・狭霧(BNE004646)が髪をかきあげる。 狭霧が、久しく赴いた此度の仕事は本の中。普通に生きていれば経験する事なんてありえない光景が眼前に。 「……やるだけの事はやりましょう」 狭霧は、ある人物を瞼の裏に浮かべながらに呟き――銃を握る。 『一般的な少年』テュルク・プロメース(BNE004356)が向こう側の異変を察知する。 「本の中で所有権を奪い合う……正直さっぱり理解できませんが」 舞踊刀をすらりと抜くや、周囲の風景が、まるであの本の様に、灰色へと変じていく。 「要求されるのは殴り合いらしいのでなんとかなるでしょう」 素朴な匂いに混じって、腥い風が、鼻をくすぐった。 ●黒死病 -Nursery Rhyme- 小生のパレードが猿の願いで止まるかよ! ――――羽根付き帽子の男 少女達の眼球が、灰色に濁り、どろりと落ちる。 肉は黒き斑と化し、これもどろどろと腐っていく。 瑞々しい青色だった草木も、飼葉のそれと変わらぬほどに枯れ果てて、その中から小さいものが、かさかさきいきいと声を出す。 少女達への道を塞ぐように。或いは横からも声がする。声は次第に近づいてくる。 「賢者の石に匹敵する魔力媒体……か」 フランシスカが、きいきい鳴く声に向かって、右足を踏み出す。一歩の次に飛翔して背中に担いだ黒き剣を薙ぐ。 「あんまり難しい事はよく分からないけど、これ狙ってるペリーシュの奴に渡さなきゃ良いんでしょ?」 その黒き剣から融けだしたかの様なオーラが、向こう側で踊る少女の胴を次々と貫く。 少女達の首が関節の可動域を無視してグルりとこちらへと向く。 「おうふ」 喜平が、その胸裏で嫌な予感が当たったと反芻する。 フランシスカに貫かれたのにも、少女達がケタケタと笑ってにじり寄ってくる。 意を決して、黒死も異臭もあらゆるものを無力化する覚悟を伴って前へ出た次に再動。その長大な得物から無数の弾丸をばらまく。 凄い渋い顔を浮かべた喜平を尻目に、侠治が式を放つ。 無数の鴉が啄む様に降り立つと、先の喜平の弾丸とフランシスカの黒きオーラも伴って、鳴いていた声は、ぎいぎい悲鳴を上げる。 「ペリーシュが面白半分で誰かを不幸にするための魔力になんかさせない。あいつの研究を完成なんてさせない!」 夏栖斗が、その右腕を大きく左肩付近に持っていく。次に右へと薙げば、炎が扇状に広がっていく。 飼葉の如き草に燃え移り、間に隠れていた鳴き声が形を現す。 やはり、無数の鼠である。 炎に焼かれた口を、突破口の様に、テュルクが鼠の死骸を踏みつけて駆ける。 「骸骨になってしまうのは残念なところもありますが、疱疹の酷い肌を晒したままになってしまうよりは良いのですかね」 蕩ける接吻と称される暗夜の刃が、一人の少女の肩口から胸半ばまでを切り下ろす。少女の身体が左右に割れる。割れた箇所に腐汁が糸を引く。 ケタケタケタと笑う少女が、別れた側の手でテュルクに胸中央に触れる。冷いと思った次に見下ろすと、凍りついている。 「成程、骸骨相手とはまた死の舞踏染みていますが……そういう絵も、ありですか」 歌を口ずさむ躯の少女が三人。たちまちテュルクを中心に踊りだす。一斉に病魔の毒が場にばら撒かれる。 「今回は時間制限付だが、そんなのカンケーねー。何時も通りに博打を打つだけだ」 陽子が、ばら撒かれた毒の中を走り、全力で大鎌をスイングする。 死神の鎌の如くに、逝かんとして逝けぬ少女一人の首を落とす。 ケタケタケタ。 落ちた頭はまだ笑い、どこまでも笑う。首を失った身体は、しかし舞踏を続けている。 「……さーて、今日の攻撃はどこまで回るか、運試しだ……と?」 口中に苦味を覚える。身体が思うように動かなく。およそ1/4の博徒の第一撃は『負け』を引くに留まった。 ここで、ドクりと全員の胸裏が締め付けられる。『来るときの心臓の苦しみ』と同じものである。 その瞬間、多少に色は存在していた灰色の世界が、色を完全に失って、白黒写真の様に眼に映る。世界が静止する。次には動いている。 カシスが、試しに自身へとかけた回復。その瞬間に生じたものである。 「分かりました」 回復は回復として扱われる。ダメージにもならないが、今のように一瞬の苦しみが襲ってくる。その間、世界が止まる。 留まれる時間が10秒縮まった知らせであるのだと。 「あたしは撤退しないからね。最後まで見届けて、この物語を変えてみせる」 カシスの中で、カチりとスイッチが入る。 出るか凶と出るかは、一種の賭けであったが、カシスが活動可能時間を削りながらも、安定した回復を供給する。 面で攻撃できる者が積極的に鼠を散らし、単体を得手とするものが少女狙う。腐臭や病魔の風に晒されながらも、順調に敵の数を減らしてく。 虚ろな狭霧の目に、揺らぐ炎が映る。 鼠がばらまく毒に意識を奪われかけながら、銃口から放つものは炎である。延焼させるように放たれた火の矢は、農村の家屋すらにも燃え広がっていく。 かつての日ごとに何百人も倒れた、黒の病。 死体は火葬される。灰になる。それをなぞるかの様に、炎が燃え広がっていった。 戦闘は刻一刻と進む。 「いま何秒?」 フランシスカの声が大きく響く。黒き剣が、少女の一体を血味噌にした時点である。 「えーと! いっぷんと八秒!」 夏栖斗が応答しながら、飛翔する武技でもう一体の少女を切り裂く。少女の首から上がぶらりと溢れ落ちる。まだ笑っている。 夏栖斗の知らせでもって、各々最大火力を少女と鼠へと叩きこみ別の一体の少女を解体する。 狭霧の火の雨の如き弾丸が降り注ぎ、二人目の少女を消炭に変えて。 「……」 狭霧が、次弾を装填した次に、ふと炎の向こう側で羽根付き帽子の男が居たように見えた。 気のせいかと怪しまれた所で、延焼する木々達の間の向こう側。 「ジュヌビエーブのお出ましね」 後衛を突く形で、女騎士の様な甲冑がいた。侠治と狭霧、カシスが女騎士に対して前衛となる形になる。 彼女は、全身に炎の光を反射させながら、ざり、ざり、と砂を踏み砕いて歩いてくる。 ●聖ジュヌビエーブ -W.P- 黒煙。 奇妙なことに、煙があっても視界が遮られない呪本の空間。 足元で、ぱちぱちと、枯れ草は燃えている。 女騎士に対して、最速で反応した者は、これまで飄然と振舞っていた喜平であった。 少女や鼠に背を向けるや、その長大な得物の先端で光が球を成す。 次には轟音と共に銀線が走り出す。銀線が女騎士に突き刺さる。木々を砕きながら向こう側へと押しこむ。 「なんともまあ」 超直観で見るに、今の攻撃でも女騎士に傷ひとつ無い。 「コイツ(アルティメットキャノン)で時間を稼げるみたいなんで、無茶しないようお願いしますよ」 長大な得物から、握りこぶし大の薬莢を排出する。排出した薬莢が地に落ちる落ちないの刹那に、追撃に侠治の式が鴉となって飛ぶ。 「効果無しか」 侠治の視線の先で、悠然と女騎士は立ち上がり歩いて来る。それでも鴉が齎した異常は蓄積されているものと見られた。 「さて」 テュルクが各々の撃破数を可能な限りに計算する。 一番撃破を稼いでいる者は喜平と考えられた。また、鼠に対して少女は大物であるから、フランシスカや狭霧も権利者としての優先権は高い筈である。 「ジュヌビエーブ……華を期待するならば、こういう相手でこそ、ですよね」 足に纏わりついていた氷を柄で砕き、踵を返す。ならば狭霧をやられる訳にはいかない。身を呈する様に、剣を構える。 「いいのよ。他の皆は恐らく私より動けるし、この場での戦闘だった役立つ筈でしょうし」 「権利者の優先権が高いと思うので、やられては困るだけです」 「そう」 ペリーシュ・ナイトの乱入により、行動を変化させた面々を尻目に据えながら、陽子が改めて得物を握り直す。 「こいつらを潰せば、ペリージュの野郎がどんなの送ってきてもカンケーねーよな?」 ならば、眼前でケタケタケタと笑う少女と、足元できいきい鳴く鼠を最優先で叩く事が、自身の最優先の仕事である。 「お、今度は調子が良いな!」 博徒が振るう鎌が、嵐の如くに鼠を裂く。 少女の四肢を落とす。落とした次に再動。宙返りをする様に下から上へ、正中線を得物がなぞる。 陽子の着地と同時に、ケタケタケタと笑う少女は、中から大量の蝿をまき散らして左右に割れた。 「良し」 カシスが、回復に専念をしていた手を止めて、後方の女騎士を正面に据える。 「力がほしいんじゃない。バッドエンドにだけしていたくない。今の世界に悪い気バラ撒くなんて、ゴメンよ」 再びスイッチが切り替わる。真っ直ぐ女騎士へと走りだす。 「絶対痛くて死にそうになると思う。でもシルベスターさん。貴方の振りまく終わりはこのバッドエンドに留まらないと思う」 女騎士が真正面。 「そういうのは、あの、私……絶対に嫌です!」 意を決した言葉への応答は。 『そう――では、横に居るので、伝えておきますよ。無駄でしょうけれど』 女騎士からした声は明瞭な女の声である。 「へ?」 言いかけたカシスは、自身の腹部から鈍い音を聞いた。 次に骨が砕ける様な音が口の奥から木霊する。せり上がってくる内臓を必死で飲み込むも、大きく血を吐き出し、縋るように崩れ落ちた。 「そう」 崩れ落ちていくカシスを淡々と見つめながら、狭霧がしっとり口を開く。 「一人ずつ、順番に壊されるのかしら」 集中を重ね、火の矢を次ぐ。 女騎士の戦鎚が、伏せたカシスに振り下ろされんとした次、轟音と共に銀線が走り抜ける。 「手前は隠れて高みの見物かな、随分と根暗な事で」 喜平の砲撃でもって、女騎士を再び向こう側へ弾き飛ばす。 深淵を覗く目でもって得られる情報としては。 「この無敵は、人形遣いの力な訳かい? ジュヌビエーブ」 『よく分かりましたね。横にいる怪人を始末すれば、無くなりますがね』 喜平が唸る。 真偽はともかく。手繰り寄せて推理を重ねても、この場で名案は少々浮かばない。ただ、今『横にいる』と言った。 中の人がいるのか。 夏栖斗も転身して、ジュヌビエーブと相対する様に拳を構える。転身する際に、鼠を何匹か潰している。 「ごきげんうるわしゅう。自立型破界器だなんて、ぞっとしないね。人と破界器の融合とか、そんなふざけた研究に魔力が必要だとか、そんな話?」 『そんなの、六道で達成されている事、知ってるでしょ』 「僕らが本の権利者になったら、ペリーシュの目的とか、ご褒美に教えてよ! おねーさん」 『権利を譲ってくれたなら、横にいる男の居所を教えても良いです。あと私は18歳です』 譲る事など、今決する事などできない話である。 見れば、ペリーシュナイトの得物が強く握られる。戦鎚の鉄と、甲冑の鉄が擦れる様な音がする。仕掛けてくる気である。 フランシスカの黒きオーラが残りの鼠をなぎ払う。任務を果たした上で残り時間一杯闘う心算であるが。 「ごきげんよう。シルベスターという名前にしては女声だね」 『ごきげんよう。確かフランシスカさんでしたか』 「……っ!? だれだ!」 瞬息の間よりもの短き間。刹那の後に、鈍い音が鳴る。 女騎士の戦鎚が振るわれた先は、侠治であった。 二人の返り血を浴びた甲冑は、周囲の炎を伴って赤々と輝いている。 『確かに。人形への指示も結界も悉く、人形使いのものでしょう。けれど、単調な動きを期待したのなら、アテが外れましたね』 周辺に立ち込めた病魔の毒とは少し異なる。 得体の知れない鬼魅の悪い空気が、場に充満している。 ●千の呪詛 -in Genoveva- 灰色の空に鐘の音色が鳴り響く。何の鐘の音か。 鐘が鳴る度に、世界が白黒の写真の様に色を失う。熱気もその瞬間だけは、空白となる。 『貴方がたの終わりが近いみたいですね』 「聖ジュヌビエーブなら、むしろ触れたら癒されて欲しいですよ?」 テュルクに向かって戦鎚が振り下ろされる。しかし天運か実力か。戦鎚は、細身の剣の腹を滑るように、地面を抉る。 『凄いですね。一振りで一殺。一日で死体の山を作るというのに』 陽子が上空から、大鎌でもって一刀を下す。 「分の悪い賭けは嫌いじゃねーし、てか、進んでやるけどな。だが、分がない掛けをやるほどバカじゃねーさ」 『そうですか。何ができるというのです?』 「それは見てのお楽しみってやつさ」 戦鎚を陽子目掛けて振るわんとした所へ、狭霧の銃口が女騎士へと向く。 「これ以降は正直なところできる事もないわね」 次に、膨大な炎が女騎士を包み込む。 「皆さん仕掛けちゃいますか。では俺は――」 喜平が銃口を向ける先は、残る鼠の群れである。女騎士を吹き飛ばしても意味が無いと、無数の弾丸を放つ。きいきい鳴いていた小さな獣達の耳障りな声が、これにて途絶える。 番人全滅が『強制帰還にはならない』事はリベリスタ達の予想の通りであった。 「まだ……やれま、やれる」 カシスが、交互にスイッチを切り替えるように言う中を、夏栖斗が半ば無理矢理に担ぐ。 夏栖斗は、時間切れの際に戦闘不能者を担いで離脱する心算であった。 「もう時間一杯一杯らしいからね」 もしカシスが回復を使えば、即座に戻される頃合。最後に一撃を叩き込まんとする皆の意図を察し、カシスは担がれた姿勢のままで魔法の矢を放つ。 「……くやしい、な。あたしが権利者になってみせ……」 次に意識を手放した。 「誰だか知らないけど、ペリーシュに雇われたって? それじゃ失敗したら大変よね。まあ、失敗する、いやさせるんだけどね。わたし達が」 フランシスカの得物――数多の血を啜ってきた歴戦の巨剣から、その数多の呪い解放したかの如き一撃が甲冑に縦位置一文字を刻む。 『流石。損傷だなんて』 ゴーン。ゴーン。と鐘の音色が大きく響いた。 『譲る云々は考えておいて下さい。なので中枢は砕かないでおきます』 たちまち、リベリスタ達の全身を、凄まじい浮遊感が襲う。 Ring-a-Ring-o' Rosesの結末は成就されて。今まで眼下にあった地は、豆粒のように下に消えていった。 ●本は消えず 気がついた時には、ブリーフィングルームに雑魚寝の形でいた。 本は消えていないが、開いていた頁は黒く塗り潰されている。ふと、捲ると。別の頁に、別の絵が浮かび上がっていた。 Who killed Cock Robin. Who killed Cock Robin. I, said the Sparrow... |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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