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<究極望まば>【呪歌の書】10人のインディアン

●真っ黒な頁に白インキで記された文字
 前書き。
 東洋の言葉で『言霊』というものがある。
 言葉には霊が宿るというものである。
 この呪本は、世界中で唱和されているであろう、ある性質を帯びた歌の力を集め、一種の魔力媒体として完成させる事を目的としている。
 ただし、本書を使う為には一定の試練を越えて、権利者とならねばならない事を記す。

  ・頁に手を触れて、定められたMagic Wordを唱えれば、本へと侵入できる。

  ・本書の中枢を滅ぼした時点で、権利者の決定が行われる。

  ・中枢への道は番人に守られている。この番人は、これまで培われた魔力そのものである。

  ・番人をより多く屈服させ、中枢を滅ぼした側が、権利者決定に大きく有利となる。

  ・本書は二冊ある。権利者が決定された時点で、権利者以外の本は燃えて消える。

  ・内部では、神秘の力を拒絶する力が働く。治療といった力には、より強力に働く。


●第382頁 -And Then There Were None-
 表紙には、魔方陣が描かれている。
 本を開いて、頁をぺらぺらめくると、真っ黒な頁が続いている。しばらく捲っていると、382頁目で異様な画が目に飛び込んでくる。
 焦点の合ってない目を見開き、舌をでろりと吐き出している子供。
 頭を真っ二つにされている子供。
 多くの虫に刺されて、全身がぶよぶよに肥大化した子供。
 ここに赤い文字で、歌が浮かび上がる。

 One little, two little, three little Indians,
 Four little, five little, six little Indians,
 Seven little, eight little, nine little Indians,
 Ten little Indian boys.  

 (1人 2人 3人のインディアン
  4人 5人 6人のインディアン
 7人 8人 9人のインディアン
  10人のインディアンボーイ)

 Ten little, nine little, eight little Indians,
 Seven little, six little, five little Indians,
 Four little, three little, tow little Indians,
 One little Indian boy.

 (10人 9人 8人のインディアン
 7人 6人 5人のインディアン
 4人 3人 2人のインディア
 1人のインディアンボーイ)

 And Then There Were None...




■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:Celloskii  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年05月09日(金)22:44
 Celloskiiです。
 バロックナイツ第一位、『黒い太陽』ウィルモフ・ペリーシュ配下との呪本争奪戦。純戦です。

【概要】
 ブリーフィングルームに呼び出されたリベリスタ達の前に、一冊の本が差し出されました。
 フォーチュナによれば、賢者の石に相当、あるいは蓄積の度合いによっては上回る可能性がある魔力媒体との事です。
 このままでは使えず、権利者となって初めて使える様になる仕組みがある事を説明されます。
 また、万華鏡での予知により、ウィルモフ・ペリーシュも権利者となるべく手勢を送り込んで来るという話も添えられました。
 ペリーシュが何を研究しているかは不明ですが、アーク側が権利者となれば彼に渡る事は阻止できます。


●成功条件
歌の結末をなぞること(【呪歌の書の番人】の全滅)

●状況
 ・本の中に入った所から開始です。
 ・地形や視界でマイナスは一切発生しません。
 ・本の中での活動可能時間は20ターン。時間切れで強制退場させられます。
 ・複数対象のHP回復スキルを使うと、活動可能時間が-1ターンされます。
 ・8ターン目から、W.P側からの介入があります。
 ・望めばいつでも撤退できます。

●エネミーデータ
【呪歌の書の番人】
E・フォース『インディアンボーイ』×9 いずれもフェーズ1相当。
 A:
  ・疑心暗鬼の毒     ダメージ小、混乱、毒、猛毒、致命 また命中時に自EP回復
  ・クローズド・サークル   EPがMAX時にHP/EP全消費。【呪歌の本の番人】を全回復します。戦闘不能からもHP全快で復活させます。

E・フォース『最後の一人』
見た目はインディアンボーイと変わりません。
撃破すると、全員クローズド・サークルを使えなくなります。
 A:
  ・疑心暗鬼の毒     ダメージ小、毒、猛毒、致命 また命中時に自EP回復
  ・カモフラージュ・デス   ????


【W.P(第三勢力)】
ペリーシュ・ナイト・ゲオルギイ
 8ターン目から介入してきます。自立型アーティファクトです。
 ウィルモフ・ペリーシュが自らの目的を達成する為に作ったもので、外見はきらびやかな騎士甲冑です。
 リベリスタの排除に動いたり、番人を倒したり、それなりに臨機応変。
 速度と体力は低いですが、攻撃力が鬼のように高いです。頑張れば倒せます。
A:
 ・セントゲオルギイの剣       物近単     ダメージ極極極大  石化、呪い、必殺、ブレイク
  これしか使いません。
P:
 ・W.P
 [物攻無効][神攻無効][BS無効] DA0、WP0
 BS無効は、効果が無いだけでBS自体は蓄積します。


『第四の手』シルベスター・カストア
 ペリーシュが雇った、一流の人形遣いフィクサードです。ジョブ不明。
 もう一冊の本の向こう側から、ゲオルギイに指示を出しています。
 万華鏡で、存在こそ確認できましたが、所在地は特定できませんでした。
 隠蔽魔術を用いる様です。
 ゲオルギイを介して、何かしゃべるかもしれません。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ハイジーニアスデュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)

ランディ・益母(BNE001403)
ナイトバロン覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
ハイジーニアスダークナイト
熾喜多 葬識(BNE003492)
ハーフムーンホーリーメイガス
綿谷 光介(BNE003658)
メタルイヴダークナイト
黄桜 魅零(BNE003845)
アークエンジェダークナイト
宵咲 灯璃(BNE004317)
フライエンジェアークリベリオン
★MVP
害獣谷 羽海(BNE004957)

●呪本の世界 -Curse Crow-
 落ちていく。
 暗闇に落下している事だけは理解できた。
 心臓の音がドクりと聞こえる。締め付けられる様な苦痛が走り、鼓動が大きくなっていく。間隔も短くなっていく。
 やがて10秒置きにやってくるようになる。5秒置きと短くなる。3秒置き、2秒置き、1秒置き。常人では発狂してしまいかねない程の苦痛と苦悶に晒された果てに。
 ある瞬間。落下も苦痛も悉く止まった。

「ここが、本の中?」
 『Nameless Raven』害獣谷 羽海(BNE004957)が、顔と羽についた砂を落とす。
 断崖の一角にある小さな砂浜と見られた。青い空に、クレヨンで描いたかのような雲がたなびいている。
「ハッ! ペリーシュナイトは何処!」
 『断罪狂』宵咲 灯璃(BNE004317)も頭を起こす。奴を倒しに来た。ソレ以外の他には何もない。
 海がざざんざざんと声を出す。波がどどんどどんと絶壁を打って驚かせに来る。
「敵意しか感じねぇ」
 『墓堀』ランディ・益母の声で、覚醒を促された面々の足元に、斧が飛来して突き刺さる。一つ、二つではない。
 ザン、ザン、ザンと次々と。トマホークが白浜に刺さっていく。
「あは☆ アークで最も名立たる男の補佐なんて、土器がムネムネしちゃう☆」
 『骸』黄桜 魅零(BNE003845)が、飛来してきた斧を太刀で上に弾く。
 『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)が高く跳躍し、魅零が弾いた斧を中空から、飛んできた方向へと投げ返す。
「疑心暗鬼? 何も信じれないとか可哀想だね。世の中はこんなに不思議と愛で溢れてるのに!」
 着地するや、少年達は雄叫びを上げて飛び出してきた。
 その目は瞳孔が開ききって、一種の死体人形の様な印象を覚える。
「俺様ちゃん、死体じゃなくて生きてる人間がいいんだよねー。いのちってとおとい」
 『合縁奇縁』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)が、飛び出してきた少年達に対して打って出る。
「言霊か。気休め程度には信用できるよね」
 竜一の強靭な膂力から繰り出された一刀が、突出してきた少年の一人を切り伏せる。
「なぜなら、掛け声が上がれば気勢が上がる。それは事実だ。だから俺は、皆を奮い立たせ、敵を圧する為に、こう叫ぶのさ。
 アークが鉄拳・設楽悠里のおでましだァー!」
「へ?」
「え?」
 一緒に飛び出していた『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)が頓狂な顔を浮かべる。
 気を取り直して、敵を見据える。ペリーシュナイトの収集を防いでもそれだけじゃあ研究を遅らせる事しか出来ない。
「ウィルモフの居場所を突き止めて、何とかしないといけない。でも今はせめて研究を遅らせる為にここは抑える!」
 握る拳に冷気を宿して、瞬息の間に肉薄する。たちまちに3人の少年を氷漬けにする。
「U.N.Owenは6人目だけど、最後の一人は誰かな」
 氷漬けの3人を潰すように、灯璃が黒き波動をぶつけると、凍ったままに少年たちは抵抗を止めた。
 『ホリゾン・ブルーの光』綿谷 光介(BNE003658)が、自らが携える魔導書に視線をやって、次に敵を見る。
「『言葉』の魔術性は、ボク自身、何より認識しているところです」
 無邪気で残酷な世界中の言霊が収斂する。この場この図。確かに場だけを見れば呑気とも言える。
 しかし、魔術知識とエネミースキャンを総動員して見る目には、全てが敵とある事が分かる。場も。正面にある少年達も。
「『最後の一人』は疑心暗鬼の毒に【混乱】付与がない奴」
 羽海が、光介の横でそっと呟く。
「へ? それなら、竜一さんが今倒した少――」 
 光介が言い終わる間も無く、羽海が応じて前に出る。いやさ吶喊するが如くに、全身をぶつけるように少年の脳天へ、苦痛の棘を通す。
『キアアアアアアアアアアアアアア!!!』
 恐るべき悲鳴が耳に入った。
 青空が灰色へと変じる。時が止まったかの様に、波が飛沫を上げたまま動かなくなる。音もなくなる。ガラスが砕けていく様に、空がひび割れていく。
 羽海が棘を引き抜き、実物かどうかも怪しき脳漿を振り払う。
 おそらく、幻想殺しクラスの眼力で無ければ見抜けなかったであろう。おそらくエネミースキャンだけでは看破できなかったであろう。
 光介が高位の魔術知識と、羽海の“小さな気付き”を伴っていたが故に。
「みつけたよ」
 偽装死破りが成立する。
 羽海が切っ先を再び少年へと向ける。


●疑心暗鬼の毒 -Closed Circle-
 静寂の他には何もない。
 波の音も、風の音も、臭いも、悉く途絶えて、色も消え失せている。
 誰もいないような静けさばかりが、場にあった。静粛を破る様に少年たちが次々口を利く。
『順番を誤った』
『順番を誤った』
 少年達が次々と斧を投げてくる。
 余談ではあるが、元来、投斧――トマホークというものは、インディアンの得物である。
 ただ、この斧には毒がある。投射された斧を受けると、脳に異常を来すのか。疑心暗鬼の毒と言えた。
「やばい! みんなインディアンボーイに見える! ああ身体が勝手にー」
 竜一が、肩に刺さった斧を抜いて、フラフラと味方に斬りかからんとする。
 味方も敵も悉くインディアンボーイの形へと変わって見えると怪しまれる。
「らめぇ! 魅零の葬識先輩をかえして!」
 魅零がぶんぶんと太刀を振るう。各人、混乱を受けたものから距離をとる。
「ちょっとかっこつけただけなのに。うみはーうみはー」
 たちまち、光介の破邪の光が、幻覚を破る。
「ボクのワードは羊幻の世界。束の間、呪言の世界を塗り替えてみせます!」
 見れば、インディアンの少年の一人が、ぶよぶよに肥大化して、どろどろと内臓を吐き出して息絶えている。
 息絶えた途端に、悠里の氷の中で息絶えた少年が動き出す。先に竜一の気迫で動けなくなった少年も、傷が癒えていく。
「君たちもお互いが信じれないの? 一人ずつ減っていくのは生贄なのかもだね。次に生贄になるのはだれかな?」
 葬識が、鉄錆びたハサミの様な刀剣をくるりと回し、黒き波動をドロリと放つ。これを浴びた少年達の四肢が黒く蝕まれていく。
「黄桜後輩ちゃん」
「はーい☆」
 お返しとばかりに元気よく、魅零が同様の黒きものを放出し、更にもう一撃を加える。面での攻めで複数の少年達が大きく弱る。
「俺は正気に戻った! 俺が一番うまく烈風陣を使えるんだァー! じゃなかった! 120%!」
 竜一が咆哮を上げて、最後の一人へと全力を超えた一刀が下される。
『キアアアアアアアアアアアアアア!!!』
 回復を専念するかのように、少年が最後の1人を生かそうと努力するも、弱った所に突き刺さる竜一の剣の前には壁にもならない。
 もうバレているのだ。
「そして誰もいなくなる。うみ達以外はね」
 最後の一人がおよそ庇われない位置へと弾き飛ばし、弾き飛ばした先に構えるは悠里である。灯璃である。
「この後もっと大変になるんだ。悪いけれど」
 悠里が大きく右肘を引く。
「やったあ! ゲオルギイと戦えちゃうぞー!」
 灯璃が、その折れた黒い剣を大きく引く。
 悠里の氷の拳が叩きこまれた刹那に、灯璃が奈落の気を込めた一刺しで最後の一人を貫く。
 奈落の剣が、その奈落に引きずり込む様に、最後の一人は内側から引っ張られて消えてなくなった。
「残り5。条件は達成~」
 ぴらぴらと言う魅零の言葉に、条件の提案者が微笑みながら両手甲を改める。
「あー、でももう来るよ!」
 羽海の言葉に、復活がなくなった少年達を可能な限り処理せんとする。
「後は『中枢』でしょうか」
 光介が目と知識を総動員して周辺を調べる。
 魔力の流れ。戦闘後に10秒程丹念に調べれば、魔術的な知識が無くとも判別できる程度の仕掛けではあったが。
 静止した海の上にそびえ立つ、インディアンの様な顔をした岩が怪しまれた。
 一撃で壊せるだろう。静止した海の上はどうも歩ける様子である。
 ランディが振り下ろした斧が二回。真っ二つにした少年を更に三に割る。割った所で竜一が剣の腹で叩き潰す。
「残り四体!」
 呪本の番人は残り4まで数を減らし、後半戦への準備は上々過ぎる結果と言えた。

 ――――♪

 ふと耳を澄ます。
 静寂の中にピアノの音色が聞こえてくる。
 題目は、まさしく陽気なten lttle indian boyで。ピアノのソロ演奏と怪しまれた。
 葬識が、ふと上を見上げる。見上げて呟く。
「かの童謡は首吊りと結婚したの二つの終わりがあるけれど」
 この場に居た誰のものでもない影が、呪本の番人の上に生じた。次には重厚な甲冑がそこに降り立ち砂煙を上げる。呪本の番人の一人がぐちゃりと潰れて肉片を周囲に飛び散らかす。
「ねえ、第四の手、君はどちらの終わりが好み?」
『恋も失恋も、生も死も。古来から芸術の題目となるのも、そのやさしいところやら、同情の宿る所やら』
 ねっとりと酔ったような男の声色の次に、くつくつとくぐもった様な笑い声が、血塗れた甲冑から漏れた。
『全く等しいものだと思うがね』


●聖ゲオルギイ -W.P-
 およそ陽気な曲が響く中に、似つかわしく無い空気がチリチリと、首の後ろを焼く。
 たちまち、悠里が踵を返し、残る少年の全滅へと動く。拳を叩き込み、凍結させる。
『つれないものだ。私の恩人を制した一人だろう、君は』
「恩人だって?」
 悠里が首を傾げる。正して残る少年へ拳を向けた。
 くつくつくぐもった笑いが浮かぶ中を、黒い影が駆ける。
「遊んでよゲオルギィ、ううん。シルベスター・カストア!」
 魅零が騎士の頭部分に、顔を突き出す。しっとりした手つきで触れた即座に、騎士の周囲を黒き牢獄が閉ざす。
「私は貴方と話をしにきたんだから。感じさせてねエクスタシー☆」
『傷をつけるとは。素晴らしい! モーツァルトで良いかね?』
 滑走するように、ピアノソナタ第14番ハ短調へと転じる。
 同調する様に騎士が、剣を振り上げる。見えざる速度の刃が下される。下された一撃でもって、魅零の身体から鮮血が生じた。
 眼帯が砂に落ちる。意識を手放しかける。膝を着きかけるも、運命を鮮血にくべて立ち上がる。
「すごー……い☆」
「みれー!」
 竜一が、魅零とゲオルギイの間に入る。庇う様に身を固める。
『結城……竜一』
 この瞬間、先ほどのねっとりとした男の声とは別で――女の声がゲオルギイから生じた。
「だれだー!?」
『殺してやる。ジュヌビエーブで。いや、直接殺しに行ってやる! お前と一緒に居たプロアデプトもな!』
「だから誰だー!?」
『失礼した、セニョール。隣人がどうにも無粋で困る』
 狼狽する竜一は、しかし剣を強く握る。
「真面目に、誰なんだい?」
 甲冑からの返答は、くぐもった男の笑いのみである。
「賢者の石とか本の魔力とか如何でも良いよ。灯璃はペリーシュナイトぶっ壊しに来たんだし」
『諸君等なら出来るはずだ』
 奈落の気を帯びた剣が、真っ直ぐに貫かんとする。ゴォンと重厚な金属同士がぶつかる音で、騎士の甲冑には傷一つ無い。
「行っちゃえー!」
 奈落の気が騎士に纏わりつく。ギリギリと内側に引きこもうとする。
「ゲオルギィ、聖人とはよくいったものだね」
 葬識が飄然と甲冑の背後にカリリと傷をつける。つけた小さな傷からも牢獄が生じる。
「賢者の石じゃなくても、ペリーシュちゃんの研究とやらは進むんだねぇ」
『『神となる研究』と断片的には聞いているがね』
「えーやだなー。上から降ってくる人類の不幸を甘受なんかしたくないよ」
『幸せを追求する事は尊い事だ。再会の機会を得た私はとても幸福だ』
 魅零と葬識の牢獄が、甲冑を締めあげる。灯璃が作った地獄が甲冑を引きずり込まんとする。
「番人と中枢から遠ざけるよ!」
 羽海が騎士へと吶喊する。細き苦痛の棘によるチャージが、重厚なる騎士の身体を横へ運ぶ。
「あとから来てズルはなし。こいつらはうみ達の獲物」
『今では私も君達のファンだ。美しく足掻いてみなさい』
 光介は、癒しの力を使うか否かを葛藤する。癒し手のジレンマというべきか。
「……」
 魅零を――インディアンボーイとの戦いで多少負傷したとはいえ――初撃で重傷にしてしまうのだから、回復も焼け石に水と怪しまれた。
『諸君等ならばそれが出来ると信仰しているのだから』
 そして、シルベスター・カストアという者の言動が、いちいち光介の思索を遮る。
「ボクにもできることを……やるしかないです」
 ご都合主義の神の名を冠した癒しの息吹が、場を癒やす。
 その瞬間。全員がドクンと、ここへ来るときの様な心臓の締め付けを覚えた。色を失った世界に色が戻ってきて、その間全てが止まる。
 活動可能な時間が10秒縮まった事の知らせと怪しまれた。
「きついきついきつい! おかしい! この威力!」
 やがてのゲオルギイの第二撃。
 竜一に下されたそれは、十秒に一人、重傷者が出る。太刀筋を一寸見切って防ぎ『威力を半分に削いだ』事で、かろうじて運命の消耗を回避する。
 最高の状態で防いだのに、腕が悲鳴を上げている。折れたかもしれない。
「コレ、一人ずつ……順番に殴られて倒されるパターン」
 竜一が膝を着きかける。攻撃が通じる者を護る事。彼等彼女を信じて覚悟を決めるしか無く。膝を正す。
 悠里が残る番人へと拳を撃ちこみながらも、尻目にゲオルギイを捉えて言う。
「人形遣いを名乗ってる割には、自立型の借り物を派遣するなんて、随分お粗末じゃない?」
 言葉に対して返ってきたものは、ほう、と短い感嘆である。
『よろしい! 私の人形が見たいと? 嗚呼、今となっては“パフォーマー”様の気持ちもよく理解できる!』
 ここで光介の思索に、一本の筋が通った。
「悠里さん! インディアンボーイの肉片を氷漬けにしてください! このシルベスターという男は――」
 静寂空間に生じたピアノの音色。アークに対して異様な執着がある事。万華鏡を欺く隠蔽魔術。そして人形遣いである事。
「――『フレッシュゴーレム』を造ります!」
 悠里の眼前で散らばっていたインディアン少年の肉片が蠢きだす。一箇所に集まっていく。
 それは生存していた少年も取り込んで、取り込まれた少年は肉の中で潰れていく。粘土の様に、ぐちゃぐちゃと練られて、それは次第に人の形をした巨人へと変わっていく。
「ネクロマンサーか」
 真っ先にランディが得物を振りかぶる。形成途中の肉巨人を大斧の側面で叩き潰す。
「こいつはやっておく。そっちは好きにやりな」
 潰したかと思えば、肉の中から斧が飛び出してランディを貫く。口角に垂れた血を拭う。
 番人が悉く消えた今、悠里の目標はゲオルギイへと移る。


●不滅の人形劇 -Silvestro P Costa-
 10秒で一人が倒れる。
「あとは任せて。竜一クンは倒れないよ、私が代わりになるもの」
 魅零は空洞の片目を晒しながら、竜一を護るように立つ。
「一発攻撃を当てたら一つ質問に答えるとかどうかな?」
『私は熱烈なる諸君等には寛容の姿勢だ』
 魅零に飛来する剣に対して、しかし竜一が前に出る。
「痛ぅ~」
 これにて完全に意識が途絶えるも、竜一はその剣を握って離さない。
 魅零が牢獄を刻む。
「黄桜可愛いと思いますか?」
『今、私の隣に居る者に似ていると思う所だ。尤も隣人は両目とも空洞だが』
 ピアノソナタ第14番ハ短調が鳴り響く中を、殺るか殺られるかでもって走り抜ける様に戦いは進む。
 光介が、じりじりと中枢へ距離を詰めながら応答する。
「よく分かりましたよ。貴方が誰か。相変わらず安全な所から仕掛けるのが好きなんですね」
『再会の機会を得て久しく日本へ来てみれば、我々を結びつけた蜘蛛の糸は滅び――私と隣人の二人しかいなかった訳だ。悲しい話だ。悲しさという感情は芸術の題目にも多用される。実に尊いものだ』
 騎士は、光介が目指す地点へと顔をやる。
「だめだめ! 絶対にとおさない!」
 羽海が騎士を砂浜へと飛ばす。
『ふむ、中々興味深い力を使うものだ。私も記憶に思い当たらない』
 既に一回穿たれた悠里が、反撃とばかりに騎士の横面に拳を刺す。傷ひとつ無いものの、氷が甲冑に纏わりつく。
「先の話。敵討ちという訳かい?」
 対する男の声は、侮辱するかの様なくつくつくぐもった笑いのみであるが。氷――これでもって闇騎士達の攻撃力が底上げされる。
「キミ、シルベスター・カステラだっけ?」
 あはははははっ! と声を高らかに、灯璃が奈落の剣を刻む。ガリリと甲冑が砕け、砕けた破片は何処かへ消える。
「どっちでも良いからW.Pに伝えといてよ。“お前の研究なんざ、ぶっ潰してやる”ってさ!」
 歯車がキリキリと顔を出した。
「危ないとこ頑張ったね」
 葬識が飄然と魅零の横に来て頭を撫でる。撫でたかと思えば次には、羽海が吹き飛ばした向こう側で、すとんと短刀を重ねて鋏にする。
「幸せバンザイ!」
 鋏を突き刺し、歯車を砕き。内部に牢獄を出現させた刹那。甲冑はやけにあっけなく。その動きを止める。
 騎士の甲冑は消えて、ピアノの音はピタリと止み、静寂だけが場を支配した。
 フレッシュゴーレムも崩れ去り、インディアンボーイの屍は魔力となって消えていく。
『ほう、隣人からの報告が喜ばしい』
 Amore e morte――とねっとりとした男の声が、愛と死を口にする。
『諸君らの勝ちだ。また会おう』
 悉く消え去った後は、静寂世界はどこまでも静かだった。
 誰もいない。
 誰もいない。
 中枢が光介の手によって砕かれた瞬間。
 呪本の世界はひたぶるに静かに消滅した。


■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
 Celloskiiです。
 ゲオルギイの撃破は必須ではないので、呪本の番人を速攻で倒し離脱するまでがNormal難易度でした。
 小さな気付き。
 物理的に発見できる方法の選定が齎した、序盤の超優勢。
 乱入されても十分対応できる下地を作った上での交戦。
 そして、普通の攻撃が全く効かない相手へ唯一通る攻撃方法と、攻撃手を護る事。

 十分です。
 お疲れ様でした。