● 場所は埠頭のコンテナ・ターミナル。被害者達は、ここでスケートボードに興じていた。 まず、もっとも六人の輪から離れた、他の五人の視界に入っていなかった者が音もなく消えたことからそれは始まった。 少しの時間の後、他の五人は一人がいなくなったことに気づいた。 ――おい、どこ行ったんだ。便所か? この時点では、せいぜいそんなところだろうと皆思っていた。 しかし、彼は5分経っても10分経っても戻らない。入り組んだコンテナの中で迷子になっているのだろうか。 さすがに心配になった五人は、スケボーを行っていた開けた場所を集合場所に決め、バラバラに探しに出た。 更に5分後。再び集合した時、彼らは二人になっていた。 ただごとではなかった。 恐怖を覚え、逃げ出そうとした彼らだったが、振り向いて走り出そうとした直後に、身動きがとれなくなった。 二人はもがいたが、もがくほどに何かが身体に絡みついてくる。やがて、足が地面を離れはじめた。 必死に体全体で暴れようとする二人だったが、無情にも絡みついた細く頑丈な「糸」は、その身体を完全に拘束した。 いつの間にか高く宙吊りにされていた二人は、他の四人の姿を発見できた。 悲鳴をあげた。 最初にいなくなった一人目は、首に巻き付いた糸でクレーンから吊るされていた。 他の一人は、3段に積み上がったコンテナの上で、両手足を拘束された状態のまま腹を開かれていた。その腹の中で、もぞもぞと小さな何かが蠢いているのが見えた。 他の一人は、上顎と下顎を完全に引きちぎられ、上顎より上の頭部がスケボーの上に転がされていた。下顎と身体は、逃げ出そうとするかのようにコンテナにすがりついた姿勢のまま崩れ落ちていた。 他の一人は、額を貫かれ倒れていた。細い槍のような鋭いもので、一瞬のうちに殺されていた。 やがて宙吊りにされた一人が、自分の身体がただの糸ではなく「網」のようなものに貼り付けられていることに気づいた。 これではまるで、蜘蛛の巣だ。知ったところで意味がないとはわかっていたが、自分の意見をもう一人に知らせようと視線を移した彼が見たものは。 四肢をバラバラに引きちぎられて息絶えた友人の姿と、それを恍惚と実行していた言いようのない奇妙な容姿の怪物。 そして同時に、その怪物の腹部から、八本足の小さな……その怪物からすれば、という意味になるが……生物が産み落とされ、網を這うようにこちらへ向かってくる光景だった。 ● 痛ましい事件が今夜起きる。ルナ・ウィテカー(nBNE000274)は集まったリベリスタ達に説明を始めていた。 「被害者は六名……いわゆるヤンキー達だけれど、こんなことをされる理由は絶対に無いわ」 ルナの口から語られた『こんなこと』の内容は、以上の通りである。 敵のエリューションは、下半身が蜘蛛、上半身が人間の女性という奇っ怪な姿をしている。 音もなく立体的に素早く動きまわり、対象を不意討ち、殺害する。能力自体、警戒しなければならないが……。 「やり方が必要以上に残忍ね。わざわざ恐怖を味わわせた上に、何人かはわざと時間をかけて殺しているわ」 理由は分からないが、何らかの『憎悪』を感じさせる。ルナは予知した光景を思い返し、静かに視線を落とした。 今から出発すれば、一人目がいなくなるぎりぎりのタイミングで到着できると考えられる。 「敵を倒して。それに、できれば全員助けてあげて。……良い?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:クロミツ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月01日(木)22:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●幕開けは唐突に 夜。月明かりに照らされる六つの人影があった。 常に六人で行動し、ある時はコンビニ前にたむろしてみたり、ある時は単車を爆音で乗り回してみたり……近隣からは怖がられていたが、暴力沙汰を巻き起こしたことはなかった。集まって気が大きくなっていただけの、ただの若者の集団であった。 規則正しく並んだコンテナ群の中程、何も置かれていない列が連続し、ちょっとした広場になっていた。この場所で、彼らはスケートボードに興じていた。 「乗り」きれない者が一人いた。一同の輪から少し離れたところで、仲間達の技を見ているだけだった。理由は彼のみスケボーが苦手だからという単純明快なもの。 仲間のそれを見ているだけというのがなんとも面白くない。仲間達はそんな気分などつゆ知らず、ただ熱中している。男性はうんざりと空を見上げた。その行為に、何の気はなかった。 ただ、その時。自分の首に何かが『絡みついている』ような感覚に襲われた。 「そこの人達! 大変だ!」 不意の女性の声に、彼は驚いて飛び上がりそうになった。と言うより、実際に飛び上がっていた。 この表現すら正しくない。正確には、飛び上がりたかったまさにそのタイミングで、物凄い力で引っ張り上げられた。首にいつの間にか絡みついていた、糸状の物体によって。 そしてもう一つ付け加えると、彼が飛び上がりそうになり、実際には引っ張り上げられるほんの一瞬前に、背後から突然何者かに首根っこを掴まれていた。 驚愕、苦痛、恐怖。彼の心を支配した感情は、一言では表現できない。 なんであれ、これが彼を襲う悲劇の始まりだったことは紛れもない。 ●一連の事は一瞬で あまりにもギリギリの到着。 最初に狙われる男性を真っ先に避難させようと、全速力で駆けつけたアークのリベリスタ達の一人、藤代 レイカ(BNE004942)がその首根っこを掴まえた直後、物凄い力で引っ張り上げられた。とっさに身体に腕を回したレイカだったが、男性と一緒に吊り上げられてしまう。 まずい。思ったレイカはとっさに愛用の太刀を抜き、彼の頭上に一閃。手応えこそ無かったものの、彼の首に絡みついた糸を切断した。 この時すでに二人の身体は二段重ねのコンテナよりも高くまで引き上げられていた。糸が切れても引き上げられた勢いはそのままに、コンテナを飛び越え墜落した。 一瞬の出来事だったが、一般人達の誘導を受け持った他のメンバーと離れ索敵にあたっていた『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)の眼光鋭い金の隻眼は、その一幕をはっきりと見届けた。 あれほどの力を発揮できるものは、子蜘蛛ではあり得ない。一部始終を目撃したとはいえ、現時点ではレイカ達との距離は遠い。集音装置で拾ったところでは、レイカには特に行動への支障は生じていないようだし、男性の方は怪我をしたようだが命に別状は無さそうだった。助けに向かうよりも敵の撃破を優先すべきだと判断し、AFで他の仲間へと情報を伝達する。 「一人ガキが攫われかけた……何とか引き下ろしたようだが。場所は分かるか?」 「クレーンの上から伸びてきたようですが、もうあそこには居ません……すばしこい奴」 龍治の声にすぐ応答したのは『Le Penseur』椎名 真昼(BNE004591)だった。真昼の千里眼は、コンテナ群を素通りしてあらゆる物体を捉えるが、巨大なシルエットが現時点では彼の視界に入っていない。 真昼の言葉通り、一人目の男性を絡めとった糸はクレーンの上から伸びているのがうっすらと確認できたが、糸の主は、邪魔者がいると感じて離脱したものとみられる。やすやすと見つかってはくれないようだ。 「子蜘蛛は確認できる範囲では八匹。一匹はレイカさんの近く、もう一匹は龍治さんの近くに居ます。他の奴はヤンキーさん達の方に集まり始めてる」 言っている最中も、真昼の索敵は絶えず続けられる。リベリスタの存在はすでに察知された。視界に入らないのは、相手も絶えず移動しているからに他なるまい。 索敵を行うのが真昼一人だけであれば、より敵を見つけるまでに要する時間が長くなっていたことだろう。しかし、敵を追うのは彼の眼だけではない。 「蜘蛛の足音は聞き取りづらいなぁ。でも子蜘蛛の場所が分かったから助かるわ。違う足音を探れば良いわけや」 残ったヤンキーたちを避難させようとする三人の仲間から少し離れ、『ビートキャスター』桜咲・珠緒(BNE002928)も集音装置と絶対音感を駆使して敵の特定を急いでいた。 「特定は任せた……ちとガキ共の声が喧しくて俺には聞き分けづらい。親が見つかればすぐに向かう」 龍治が珠緒へ連絡しながら、愛銃『火縄銃 弍式』の引き金を引く。放たれた弾丸が、素早くコンテナを這い上がろうとしていた子蜘蛛を捉えた。人の頭部を完全に覆いつくせそうな大きさの蜘蛛の身体が、コンテナへ打ち付けられた。オレンジ色の毛に覆われた毛むくじゃらの身体は、ぴくぴくと痙攣しながら氷結した。 一人が攫われた直後の広場では、あまりにも一瞬のことに、残った五人は状況が飲み込めない様子だった。 「さっき友達も襲われたんだ。警察も呼んだけど、今の見たでしょ?! 逃げて!」 幻視を用いて一般人に扮した『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)の言葉は、冷水をぶっかけるように彼らを現実に引き戻した。最初にヤンキーたちへ声をかけたのも彼女である。ありのままを話すわけにはいかない。猟奇殺人犯が辺りをうろついている……と口早に説明した。 不安と恐怖にかられて五人が口々に叫び……始める前に、視線が同時に一人の女性に集中した。ワールドイズマインを使用した『骸』黄桜 魅零(BNE003845)であった。 「大丈夫。落ち着いて、安全なトコで待ってて」 極限の状況下では、たとえ知らない何者かから発されたものであれ、こうした言葉は心に安心感を与えるものである。地獄の底に垂らされた、蜘蛛の糸のように。 「それじゃあ、一緒にあっちまで行こう。私達に着いてきてね」 魅零の声に少しだが落ち着きを取り戻した彼らを、エイプリル・バリントン(BNE004611)が手招きする。 「もう一人も後から連れてくる。今は走って。助かることだけ考えて」 『Spiranthes』一條 律(BNE004968)から発された「助かる」という言葉に五人は再び不安そうな面持ちになったが、せっせと木蓮が背中を押してくる上に、前で誘導してくれるのは二人とも自分たちより年下なうえに華奢な少女達だ。男としての妙な意地が顔を出し、一様に平静を装って速やかに移動を始めた。聞き分けが良いのであれば何よりだ。 場の空気に呑まれながらも、木蓮、エイプリル、律に連れられ退散してゆくヤンキーたち。彼らを見送る傍らで面接着を使用しコンテナの上へと登った魅零は、ついでに見かけた子蜘蛛一匹に大業物を突き立てた。 「ええ、ちょっと怪我しちゃったみたいだけど、大丈夫……っと」 AFで報告しつつ、レイカが最初に攫われた男性に肩を貸して立ち上がらせる。最初にマークされている以上、必然的に他の人間よりも危険度は大きいだろう。一刻も早い離脱が必要だった。糸を切って墜落した際、全身を打ったようだ。レイカにも相応のダメージがあったが、それ以上に一般人である男性は辛そうだった。 彼を支えながら歩き始めたその時、珠緒からレイカに連絡が入った。 「子蜘蛛の動きが速なった。レイカさんの方に一匹向かってる!」 その言葉を受け、素早く周囲に巡らせたレイカの視線が、コンテナの上から勢い良く飛びかかってくる蜘蛛のシルエットと重なった。野生の本能か、親からの指令か、余力を十分に残したレイカよりも、弱った男性に狙いを定めていた。 研ぎ澄まされた反射神経の前では、子蜘蛛の奇襲は意味を成さない。レイカはとっさに男性の首根っこを掴んで後方へ引っ張る。男性はもんどり打ってよろめきながら大股に後退、蜘蛛の着地予測地点から離れた。 行き場を失った蜘蛛に対し、再び抜き放たれた大業物の一撃はその真芯を捉え、完全に両断した。 「分かった、この音や。こっちや龍治さん!」 「見つけました……いつの間に上がったのやら。あそこです、骸ちゃん」 珠緒と真昼が親の位置を特定し、攻撃を担当するメンバーへ伝達したのは、レイカが子蜘蛛を始末したのとほぼ同時。この状況下では最短の時間であった。 「分かった。狩りを始めよう」 龍治が銃口を上げる。 「恐怖がお好き? 絶望がお好き?」 魅零が、黒い瘴気を纏う。 彼らの狙いは、クレーンの上に姿を現した巨大な影だ。 ●幕切れは壮絶に キ。キヒヒ。キヒヒヒヒ。 クレーンの上で嗤っていた。 鋭く尖った細長い脚が八本あった。本来ならば蜘蛛の頭があるはずの場所には、人間の女性の……しかし甲殻類独特の硬質な皮膚で覆われた、異様な質感の……上半身を思わせる形状の部位が生えていた。八本の脚に加え、二本の腕があることになる。頭髪はなく、頭蓋骨のシルエットがそのまま表れていた。目鼻立ちは整っているようだが、口は耳まで裂けており、その口から奇怪な嗤い声を発しているのだ。 そして同時に、その口からは、一本の糸が伸びていた。長く、長く、その糸はクレーンから下へと垂らされ……あるものに、巻き付いていた。 最初に親蜘蛛へ攻撃を仕掛けたのは龍治だ。狙い定めて放たれた弾丸は、男性を引っ張り上げる右腕に命中した。 親蜘蛛は龍治へと視線を向ける。その硬い表皮を銃弾は貫通できず、跳弾してしまった。しかし氷結付与の効果はあったようで、右腕は氷結を始めていた。 あの姿をみても、恐怖も絶望もしない。魅零の視界に入るのは、先程葬った子蜘蛛の死体と親蜘蛛だけ。それでも十分と、生命力から変換した暗黒を放った。クレーンの上に立ち尽くす親蜘蛛に、どす黒い瘴気が襲いかかる。その瘴気に隠れるように、珠緒のギター演奏にのせた詠唱により放たれた魔法の矢も、一直線に飛び抜けてゆく。こちらの狙いは、左腕。 親蜘蛛は飛来する攻撃に目を向けることなく、クレーンから跳び下りた。右腕を氷結させたまま、糸を吐いたまま。 ここまでの一連の攻撃は、レイカが子蜘蛛を始末した瞬間の出来事。 「いきなり転ばせてごめん、大丈夫だった……」 振り向いて男性に声をかけたその刹那、男性の身体が勢い良く上昇した。 いつの間にか、再び親蜘蛛の吐き出した糸が首に絡み付いていた。クレーンに糸を引っ掛けて手繰り寄せながら飛び降りることで、自分の体重よりも遥かに軽いであろう男性を一気に引き上げたのだ。 振り向きざまにとっさに伸ばした手は、今度は届かなかった。男性はあっという間にレイカの遥か頭上、クレーンへと吊り上げられてしまった 吊り上げられた様子を一瞬見上げた親蜘蛛は、口から糸を切り離しながら着地した。八本の脚で完全に衝撃を吸収し、音もなく。そのまま歩き始めようとした直後、彼女は自分の脚が思うように動かないことに気づいた。 「一度見つけたら、もう闇夜には潜ませません。糸使いだって負けません。オレとアナタは相性が良いですよ」 声の飛んできた方向に向けた視線の先。クマの目立つ灰色の瞳が、親蜘蛛を真っ直ぐに見据えていた。 三人が攻撃を加える間、最も近い位置におり、着地点を予想していた真昼がクレーンの足元にトラップネストを張り巡らせていた。果たして今度は、親蜘蛛が糸に絡め取られる形となっていた。 真昼の気糸が彼女を拘束できた時間はほんの短い間であったが、龍治、珠緒、魅零、そしてレイカが集まるまでには十分すぎる時間だった。 「では、蜘蛛殺しと行きましょう」 「私達も急ごう!」 ヤンキー達をコンテナ群から連れだし、当初彼らが集まっていた広場へと再び戻ってきた三名。ここまで来れば、コンテナを回り込み他のメンバーに加われる。 「と……ストップだ。通さないってか?」 言いつつ急停止する木蓮達の正面に二匹の子蜘蛛が。見るからに戦闘態勢だ。 「聞いてた大きさより成長してない? 育ったら親みたいになるのかな……」 右のコンテナを見上げたエイプリルの視界にも、張り付く二匹の子蜘蛛。今にも高所から飛び降りて襲いかかろうとする二匹から視線を外すことなく、双鉄扇を、じゃき、と開いた。 「子供たちに、親を庇うだけの感情があるなら」 いち早く左手のコンテナから飛びかかった子蜘蛛に斧を叩きつけながら、律も言う。 「親にもあるのかな? 産んだ子が端から屠られることへの感傷とか」 子蜘蛛は小さく吹き飛んだが、小さいながらも頑丈な表皮を貫くには律だけの力では不十分だった。転がって体勢を立てなおそうとする子蜘蛛に、更に一撃を加えようとするが。子蜘蛛はこれを飛び上がって回避。律に再び飛び掛かった。 狙いは首。とっさにガードした腕に、牙が深々と突き刺さる。激痛に見舞われながらも律は斧の柄で勢い良く突き、強引に自分の身体から子蜘蛛を引き剥がした。地面へ墜落しながらも、最初の一撃を加えられた時よりも簡単に体勢を立て直した。 身構えた律に再び飛びかかった蜘蛛は、突然炸裂した閃光弾に怯む間もなく、その牙を律へと再び刺す前に身体を撃ちぬかれ、息絶えることとなった。 「あんまり急だったから、気をつけてって言う暇が無かったよ」 エイプリルが使用したフラッシュバンは、攻勢に出た蜘蛛たちの勢いを弱めた。次いで木蓮の愛銃『Muemosyune Break02』から放たれたハニーコムガトリングは、五匹の蜘蛛をそれぞれ撃ち抜いていた。 「腕、大丈夫か?」 「ん、大丈夫……ありがとう」 律に軽く頷いて、木蓮達は再び大蜘蛛のもとへと駆けだした。 そしてこの際、地に伏しながらもまだぴくぴくと動いていた子蜘蛛二匹を、去り際のエイプリルの双鉄扇がばっさり斬り裂きとどめをさした。 親蜘蛛は、移動に使う八本の脚のうち頭部側の二本を腕として使い始めた。完全に伸ばせば2mにも達するようなリーチに、人間のそれよりも遥かに細いが、釘のように尖った五本指。奇襲をするにも、直接戦闘を行うにも、獲物を解体するにも、適した構造だった。 しかしそれは飽くまでも「敵に対して有利な状況」もしくは「戦力的に対等な状況」で威力を発揮するものであって、既に「多勢に無勢」となっていた彼女にとり、もはや気休めにしかならない武器であった。 珠緒はギターの演奏にのせ、今度は天使の歌を紡ぐ。落下の際に全身を強打したレイカの身体から痛みが消え、全身に火炎を纏う力が一層湧き上がる。反撃に繰り出される鋭い腕での突き刺しを物ともしないレイカのヴォルケーノイラプションは、親蜘蛛の胸部へとぶち当たった。 氷結していた腕が自由になったと思うと、今度は火炎に包まれ悶絶する親蜘蛛。既に最初に見せた嗤いの余裕は残っていない。 代わりに今笑っているのは、大業物に呪いを集結させつつある魅零である。そのテンションも最高潮にキャハハと笑い声をあげながら、周囲の空気が歪むほどの呪いで満ちた太刀を振り上げる。 蜘蛛特有の第六感に頼るまでもなく、魅零の攻撃に危機感を抱いた親蜘蛛は、苦し紛れに糸を吐き出す。彼女に巻きつけて動きを封じようとする算段だったようだが、それも無駄に終わった。 「はいよ、間に合った! 構わずぶった斬っちまえ」 飛来する糸を、遠方、コンテナの角から放たれた木蓮の銃弾が妨害。中空で四散させた。息を合わせ、すかさず龍治もそれに続く。彼の銃弾から放たれた弾丸は、レイカがダメージを与えた胸部を狙って放たれた。先程は弾かれた弾丸も、攻撃を受けて強度が弱った箇所に当たれば無事では済まない。銃口の向きから狙いを察した親蜘蛛が必死に胸部を庇うが、弾丸は生き物のようにそのガードをするりと上にくぐり抜け、親蜘蛛の口へと飛び込んだ。 口の中で炸裂したカースブリットに、伸び上がり大きく仰け反る親蜘蛛は、完全に隙だらけ。地を力強く蹴り、全身のバネを使い、魅零は奈落剣・終を叩き込んだ。 胸を縦にばっくりと切り裂かれ、緑色の体液を吹き出しながら崩れ落ちる親蜘蛛は、月夜の空を見上げながら、一点に視線を集中させつつ、最後にニヤリと嗤い……そのまま動かなくなった。 視線の先にあったのは、クレーン。吊るされた男性。 エイプリルが宙に舞い上がり、彼の遺体を確認しようとした時、腹から勢い良く小さな影が飛び出した。 予め真昼が張っておいたトラップネストに巻き取られたそれは、子蜘蛛の生き残り。クレーンに親蜘蛛が陣取った際に産み落とされた個体だったとみられる。動きを止められたところを、エイプリルが両断。これによって、この場に現れた蜘蛛達はすべて始末された。 エイプリルは、男性の身体を抱きかかえながらゆっくりと降下する。戦闘の間、彼の身体は無残に食い荒らされてしまっていた。他の五人は助かったが、彼に限っては予知された姿よりも悲惨な姿となった。 リベリスタ達は最善を尽くしたが、この蜘蛛女も彼女にとっての最善を尽くしたことになろう。今際の際の嗤いは、たった一人でも自分の思い描いたように命を奪えたことへの歓びか、リベリスタに一矢報いた「ざまあみろ」という思念か。今となっては分からない。 未だこの場に残留する正体不明の憎悪を背に、リベリスタ達は夜の闇へと姿を消した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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