● 電話口から聞こえた声にリベリスタ達は耳を傾ける。 緊急で向かって欲しいとの連絡を受け、用意されていた資料を手にしながら何処か要領の得ない説明に首を傾げる事しか出来なかった。 リベリスタ達が向かう事となったのは『梁山泊』が治める中国である。 『――で、梁山泊側からの追加情報なのだけど……。 灰白色のぬるぬるとした体をしている。ヒキガエルの頭に乳白色の触手が生えたような姿をしてるの』 「どこかでそんなのが居た様な……」 一人のリベリスタの言葉に『知ってるの?』と先を促す様にフォーチュナは問う。 恐怖小説の中に出てきた怪物。それはあくまで虚構(ファンタジー)の存在だと言う風にリベリスタは笑う。 『――確かに一般的な人間からすれば小説は虚構だわ。でも、私達神秘界隈の人間からすれば……』 時に、フィクションは、ファンタジーは現実となる。架空の存在(フィクション)であるとは限らず、その存在が脅威になる可能性がある。それがこの世界の拗れた数式なのだ。 「じゃあ、クトゥルフ神話に出てくる、月の怪物っていうのが居るんだ。そいつに似ている様な……」 『識別名はソレで行きましょう。アザーバイド月の怪物による誘拐事件が発生して居るわ。 中国南部の森林で、現在は派遣された梁山泊のリベリスタが応戦中。至急応援に向かって欲しいの。 それから、悪い噂が一つあるわ。夢の住人は、何も一人で来ている訳ではないかもしれない、ってね?』 ● 震える足に力を入れて走り続ける。『私』は柄にもなく怯えていたのだ。 膝が嗤っているだなんて情けない。『梁山泊』のリベリスタとして皆の期待を背負い、この場所に来たと言うのに。 中国は広い、だからこそ我々の力だけでは足りぬ可能性がある。隣国の、小さな島国のルーキーに頼らねばならない等、情けない。 「鈴麗……3つ数えたら逃げなさい」 そう言われて逃げ出した『私』の後ろを付いてくる影がある。 あれは何だろうか。そう言えば、さっきから動物達の鳴き声も聞こえない。 此処で転んでしまえば、止まってしまえばどうなってしまうのか! はっ、はっ、はっ―― 息が、ひゅうと咽喉から漏れる。浅く続ける様に吐き出される息が自分のものかどうかすら分からなくなってきた。 息苦しさに、追いかけられる恐ろしさに目尻に涙が堪っていく。 木の蔓が足に絡みつく。其れさえも一種の罠の様に思えて首を振る。 何が追ってきているのか、『誰』なのか。『私』は其れさえもわからない。 絡みついた蔦に足をとられて転んだ時、目の前にぽたりと何かの粘液が落ちてくる。 「え、」 それ以上の声を発する前に、 『私』が最後に見たのは――― |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年04月30日(水)22:40 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 何処からともなく聞こえる獣の声に小さく身震いをした『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)は漂う不吉な雰囲気を感じとる様に己の細腕をぎゅ、と握りしめた。 「梁山泊の人は、どうして一部を逃がしたのかしら……」 シュスタイナの言葉に案内人として同行した『梁山泊』のリベリスタは何処か気まずそうに小さく息を吐く。古来よりこの広い領土を護り続けてきた彼等にとって、不覚をとられた事件でもあったのか。 『誰か一人でも、逃げ切れる様にと……』 中国語で告げた案内役に『質実傲拳』翔 小雷(BNE004728)は返り血で染まるバンテージを嵌めた手に強く力を入れる。 誰か一人でも――そう『梁山泊』が考えたのは敵対した相手が彼等にとっての異形であったからだろう。無論、『ソレ』に襲われた後、情報を少しでも得た梁山泊側ではアザーバイドによる襲撃だと言う事は解る。判るが、其れだけであった。 「そなたらがこうも動揺するとは些か妙だな……ただのアザーバイドではないようだが……」 梁山泊の案内役の表情から何かを察したのか考え込む様な表情を見せた『無銘』熾竜 伊吹(BNE004197)に案内役は小さく頷く。 『あれは……』 「現実は小説より奇なり――という事かえ?」 言葉を裂きまわりする様に告げる『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)に案内役は小さく頷いた。瑠琵の言葉に小さく頷く『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)の理知的な瞳は現場となった森を見据えている。深く生い茂る木々が月の光さえも遮る其処は。 「『ドリームランド』……なんて言葉とは程遠い様ですが」 「ああ、そこの住民のカエルだろうが、夢の国からは程遠いほどに悪辣な存在だ」 『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)が吐き出す様に呟いた言葉に瑠琵は小さく笑う。彼女のほっそりとした白い指先が術式を組みこんだ愛用の拳銃を緊張した様にきつく握りこむ。 柄にもなく不吉を一心に感じていると瑠琵は知って居た。幼き身形で永きを生きていた自分が恐怖を感じる等、何と珍しいか。 「恐怖心を与える能力か何かだとしか思えんのぅ」 瑠琵の言葉に彩花は感じる不吉を振り払う様に光りを纏う。茫と彼女は光り輝き仲間達の不安を和らげるように優しい光を放ちだす。発光の能力を身に付けた彩花の長い黒髪は、まだ、草木に隠れない月の下、生温い風に吹かれて揺れていた。 「……不吉な気配など振り払い、真っ直ぐに進む事こそが大御堂の娘。そろそろ行きましょう」 風が獣の鳴き声の様に不吉を叫ぶ。不吉に体が重くなる感覚を感じながら紅涙・真珠郎(BNE004921)は恐怖すら感じないと言った様に明るい表情で牙を見せた。高いヒールが土を踏みしめる。彼女の所有する呪具は赤黒い色をして不吉な森を照らして居た。 「なんぞ『ドイツ』を思い出すが。このガマ野郎は『アレ』の奉仕種族じゃったか……」 アレと告げた言葉に身構えたのは報告を耳にしたリベリスタ達だ。真珠郎が相対した敵、笑い声をあげて鎌を振り翳した小さな少女。 怯える事も、何もない様に紅涙の女は無銘の太刀を握りしめ、森深くへと足を踏み入れた。 ● 耳を澄ませながらシュスタイナは彩花の感情探査と合わせて真っ直ぐに進んでいく。部隊の後方を行く『Killer Rabbit』クリス・キャンベル(BNE004747)は咥え煙草の火を消して暗がりの中を仲間達を頼りにゆっくりと歩んでいた。 「――コッチから何か聞こえるわ……人の声と……それから」 耳を澄ませるシュスタイナの背にぞわりと気色悪い感覚が走る。暑くは無い筈なのに、額から垂れた汗は成程、不吉を感じとったからであろうか。 殿と務めていた杏樹は感じとった気配から、錆び付いた白をきつく握りしめる。悪辣な敵は夢の世界の住民なのだと言う。それは、作家が残したとあるストーリーの登場する生物と外見が一致して居るからだ。 「著者が何者であったかはさておき……表の世に広めた理由は警告じゃろう。 備えあれば憂いなし、ってのぅ。モリアーティとは逆のパターンかぇ?」 何処か呆れを抱きながらも暗がりを見据える瑠琵の長い髪が生温かな風に靡く。何処か肌寒さを感じるのにどうしてか肌を撫でる風だけは暖かい。まるで悪しきモノの吐息が首筋にあたったかのような気色悪さを振り払う様に、彩花は一歩一歩踏み出していく。 「暗がりの森というのは、宝探しには面倒なものですね」 「ああ。情報の不足は危険に繋がるが、止まる訳には行かぬのもまた現状だな……」 サングラス越しに何処か悩ましげに呟く伊吹の手にはしっかりと武器が握られていた。何時、何処から敵が現れるか分からない。 不安げに視線を揺らす小雷の越しで羽飾りがふわふわと揺れていた。光源として役に立つそれは、茫と周囲を照らしだす。大きな光源である彩花のお陰が在る程度周囲は明るく、不安もなく進む事はできるが、鬱蒼と茂った草木が行く手を覆い隠して居ては恐怖が胸に湧き上がるのも致し方がない。 「まさか、こんな形で中国に戻る事になるとは……同じ国の同士として俺は彼等を救いだしたい……」 「ああ。救いを求める者がいるならば応えよう。それは俺のやることだ」 小さく頷く伊吹の手がぴくり、と揺れる。周辺の植物に『何らかの異変』が紛れて居ないかも注意しての事だろう。 ふと、杏樹が飛び退く。背後からの追跡者に警戒して居る伊吹が咄嗟に体を逸らした。がさり、と茂みから顔を出した黒き獣に杏樹の魔銃バーニーが火を打ちだす。 前線に進みながら声のする方へとシュスタイナが誘導するのに従いじりじりと距離を放そうとするが、飛びかかる獣は杏樹を狙い口を開いている。 「拙いッ!」 アンノウンと呼んだそれが飛びかからんとするのを手にした輪を投げた伊吹が推し留める。聞こえる声に、感じる心に、向かう足を止める事がない侭に進むリベリスタ達の目前に固まったリベリスタ達の姿が見える。 「ふむ、ガマ野郎ではないのか。斯様な不条理が襲い来ようと所詮は生物じゃろうて。 生物に対しての振る舞い方は良く理解して居るからの。只、潰す。事はシンプルにの」 くつくつと笑った真珠郎の声を感じとったのか、梁山泊側のリベリスタが仰ぎみる。後衛で銃を構えていたクリスの体が黒き獣に薙ぎ払われて倒れる。 咄嗟に庇う様に間に入った小雷はクリスを抱えリベリスタ達の元へと走り寄って行った。 ● 銃を構えた杏樹が背後に存在する梁山泊のリベリスタ達へと目線を向ける。怯える彼等にとって、アークのリベリスタ達は素知らぬ人間――つまり、敵のステージと化したこの場所では『些か都合のよすぎる味方』の様にも見えたのだろう。 「致し方あるまいか」 くつくつと笑った瑠琵が装填した弾丸から打ちだす神秘の火焔が黒き獣の体を吹き飛ばす。続く様に彩花は味方全員に十字の加護を与えていく。ガサガサと暗闇から顔を出した獣が襲い来るのを避けながら彩花は背後の梁山泊の方に行かぬ様にしっかりと両足に力を入れる。 「アークのリベリスタ。シュスタイナというわ。貴女の名前は何?」 「アーク……」 怯えた目をし、武器を向けるフィクサードへと少女は気丈な瞳を向け続ける。ワンドを握りしめる指に力を込め、彼女は周囲から飛び出してくる黒い獣へと羽を広げて魔力の渦を作り出す。 「蓉華。ア、アタシは蓉華、梁山泊のリベリスタ」 「すまない、そちらが『そう』であるように、此方だってそうだ。何か証明するものはあるだろうか」 伊吹の言葉に蓉華と名乗った少女は震える声で符牒として梁山泊リベリスタ内で用意された言葉を口にする。事前に伊吹が案内役から聞いていた言葉と合致したそれに頷き、彼等を保護する様に動く。 しかし、彼の眼は一人の青年に止まっていた。浅黒い肌をしたリベリスタは怯えを帯びた瞳でアークを見詰めている。彩花は小さく瞬きをし、リベリスタ達は全員が全員何か共通の認識を持つに至ったのだろう。 「仲間を逃がしたと聞いた。それはどの方向だ」 「鈴麗は、外に行ってないの!?」 逃がした方向は外に向けた場所だ、と蓉華は伊吹に縋る。最短ルートを通ってきたであろうリベリスタ達とは決して出逢っていない梁山泊のリベリスタの姿。何処か不安げに目を揺らした小雷は首を振り、梁山泊のリベリスタへと歩みよる。 「戦えるなら協力して欲しい、それに、鈴麗も救いたいんだ」 尻尾を揺らし、少年は母国の言葉で語りかける。武器を構えた蓉華は「謝謝」と小さく告げ、目を見開いた。 背を向けていた小雷が咄嗟に反応する。欲する様に伸ばされた触手が前線で敵と相対して居た真珠郎に絡みつく。引っ張る様にその触手を掴み、一気に近付く彼女のドレスが舞い上がる。 「一見生物にゃ見えんもんだからって我が侮るとでも思うたか?」 切り裂くナイフと共に舞い上がる光の粒子に合わせて、杏樹が地面を蹴る。シスター服を揺らし、盾の下から構えた銃は火焔の雨を降り注がせる。彼女の目に止まった黒き獣は一匹足りていない。どこだ、と視線を揺れ動かせ、探し求める様に杏樹は鼻を揺れ動かせる。 「一匹……足りないか?」 「蓉華!」 ふと、聞こえた声に、シュスタイナが目を向ける。暗がりを見通す彼女の瞳が見開かれると同時に、5人固まって居た梁山泊のリベリスタのうち、一人が咄嗟に走り出す。 「駄目、もしかしたら――!」 鈴麗と呼ぶ声に、シュスタイナが手を伸ばす。蓉華の肩を掴み踏み出す伊吹の腕へと絡みついたのは魔の腕。 鈴麗の体がぐらりと伊吹へと倒れこむ。目を見開き、服に隠された腹に開いた大穴からは臓腑がぞろりと覗いていた。 「鈴麗ッ」 カエルが如き生物の頭頂部から伸びる乳白色の触手は異形のものであることを象徴する様に蠢いている。咄嗟に体を逸らす伊吹に圧し掛かる重圧は彼の生物が放ったものか。 至近距離で投げたソレに肢体を揺らすムーンビーストは何処か楽しげな様にも見える。嗜虐的な生物は三体揃って伊吹の許へと飛び付いた。 「夢の住民? 馬鹿を言え、夢は夢でも悪夢の方か――世恋が予知しなかったのは良かったな」 杏樹の吐き出す言葉の通り、咄嗟に打ちだす其れは単純な不吉を物ともしない様にムーンビーストの触手を撃ち抜いた。しかし、くぐもった声で嗤うソレらは一向に攻撃の方法を変える気がないのか伊吹を全力で狙い続けるのみだ。 黒き存在は時折、己の主人たるムーンビーストを庇うかの様な仕草を見せる。それは、彼等を優先して攻撃するのに対し、かなり邪魔になる事は違いなかった。 襲い来る黒き存在が背後から飛びかからんとするのを察し、瑠琵は滑り込む。指揮官としてこの場に立った以上は回復を、と要請を掛けるが怯えた様子のリベリスタ達は震える様に微力の回復を行うしか出来ない。かなり消耗はして居るのだろう。 「郷土の人間を、護らずして――」 地面を蹴りながら真っ直ぐに殴りつける小雷は攻撃を避ける事に優れず、名も知れず黒き存在の攻撃を受け続けることとなる。 背後で地に伏せたクリスを護る様に梁山泊のリベリスタは懸命にアークとの共闘を行っているのだろう。嗜虐性に優れたムーンビースト達は小雷が名も知れぬ『何か』に襲われる事を喜ばしく思っているのか伊吹を甚振りながら楽しげに触手を揺らし続けていた。 ● 紅を纏った女は『異端』。恐怖を退ける様に楽しげに笑った彼女の華奢な腕を狙う様に飛びかかる存在をひらりと交わす。紅涙の姫君を支える様に布陣の要となっていた大御堂の令嬢は前線で知恵を有するのか、一体一体丁寧に狙う敵の姿を目で追っていた。 「成程、馬鹿では無いと?」 感じる感情は肌を差す様に鋭く、悪意や殺意を伝えてくる。時折、攻撃をする事が出来ず、空ぶる事となった小雷は不吉な気配を振り払う様に首を振るが、その体力も底を付き掛ける。 不屈の精神の許、運命を燃やす事無く再度立ち上がった彼にムーンビーストは幸せそうに触手を揺らした。一方で、絡みつく触手を受けとめながら至近距離での攻撃を行う伊吹の目は黒き存在の確かなモノを見極めんとす。 このガマガエルの従属する存在――レンの住民でないか、と言ったのは博識であった杏樹か。5人の中に入れ替わった存在がいないか、肌の色を確かめる事に叶っていてよかったと安堵するが、伊吹の眼ばかりは騙せない。 今迄、大人しくしていたリベリスタの銃口が伊吹に向けられるが、それと同時に真珠郎の太刀が深くリベリスタの胸を付いた。 「『ビンゴ』だ」 貫かれた胸にせせら笑う様にリベリスタであった存在は銃を真珠郎へと向ける。癒し手として立つシュスタイナは懸命に癒しを行うが、癒すたびに、彼女の努力を踏み躙らんと一人を狙い続けるムーンビーストの行いはある意味でシュスタイナの心をも甚振らんとする行いだったのだろうか。 だが、それで折れるほど彼女は『ヤワ』な少女ではない。勿論、アークのリベリスタは誰だってそうだ。膝を震わせた伊吹は攻撃を避けながらも的確にムーンビースト達に攻撃を加え続けている。 楽しげに笑うムーンビーストの触手が放つ液体に体の痺れを感じた杏樹は振り払う様に銃を握りしめ一体のムーンビーストの腹を弾丸で貫いた。 「大丈夫じゃ、わらわらはアーク。そう簡単に負けてやる訳がなかろ」 励ましか、それとも――瑠琵は陣営の中央に存在する敵への攻撃も怠らず、周囲を励ます様に癒しを与えんと懸命に立ち回る。 運命を燃やしながらも立ち上がった小雷は首を振りながら真っ直ぐに攻撃を振るった。雷撃を纏った攻撃は迷うことなく月の怪物の体へと攻撃を当てるが、同時に邪魔だと言う様に触手が少年の体を薙ぎ払う。 多勢に無勢。多くを相手にした状態の伊吹がふらつき、膝を震わせる。運命に抗い、彼を奮い立てていたドラマはエンドロールに入ったか小雷が膝をつく。 じわじわと攻撃を暗い、狙いを定める様に伸ばされた触手を防ぐように真珠郎は月の怪物を推し留める。倒れたムーンビーストの体を踏みながら進みよる存在へと深く突き刺した太刀を抜き、再度繰り出したアル・シャンパーニュ。光の粒子は月の入らぬ鬱蒼と茂った森を明るく照らすかのように彼女の洗練された動きを演出する。 続き、要となった彩花は苛む物のない自由な身で支援を行いながら周囲の様子を確認して居た。人数が減るにつれ、タフなアンノウン……否、レンの住人の存在が邪魔になって仕方がない。 ムーンビーストを庇う様に指示されてか、彼等にぴったりと張り付いた存在はそのタフネスさを生かし、ムーンビーストの触手を伸ばさせる事を安易にさせていた。 じわじわと削りながらも、状況は切迫し続ける。回復役たる少女達が立っている事は戦場を保つ事に十分にん長けている事だ。彩花が支援を行えばフリーである瑠琵とシュスタイナが攻撃役と転じる。 杏樹の攻撃は全方位を網羅しているが、それでも庇い手を剥がす為に瑠琵の一手を待たねばムーンビーストへ攻撃を与える事が叶わず思わず歯噛みすることとなる。 運命の加護を得る事無く膝をつく事になった杏樹の最期の攻撃は見事に月の怪物の腹を貫き通した。 しかして、多勢に対して勇猛に戦うリベリスタ達はじりじりと後退することとなる。闇に紛れた存在を倒しながら、後少しかと粘る彼女等とて消耗が激しい。 このままでは――と瑠琵が再度指先に力を入れ、火焔の弾丸を放てば悲鳴をあげながら黒き獣は仰け反る。 倒れた仲間達を護る様に円陣を組んでいた中心ではぎょろりと目を回して絶命するリベリスタに化けた浅黒い肌をした存在が異形の者の恐怖を思い知らせるように佇んでいる。 「此処は食い止める――貴女ならこの森を抜け出せる、だから!」 「何言ってんのよ!? 助けに来たのよ、私達は!」 抗う様に、シュスタイナの声を聞き、梁山泊のリベリスタは小さく笑う。 膝を震わせたシュスタイナが後退しながらワンドを構えれば深く傷を負った瑠琵は肩で息をしながらレンの住人へ向けて轟天・七星公主の銃口を向けた。 酷く、頼りなく見える少女は攻撃を浴びながらも懸命に回復を行い、自身を鼓舞し続けていたのだろう。 無論、一心に攻撃を受けながらも避けた伊吹とてそうだ。この戦場の敵の数がリベリスタらの倍数に近く存在したのだ。知恵ある相手に対し、健闘したリベリスタ達は確かに敵を見極めるべく多くの技能を使った。それは彼女等を不運から救うきっかけになったのは確かだ。 「根競べをしたら確かに貴方達は勝てるかもしれない。可能性がない訳じゃない。 大丈夫、此処は任せて、早く! 蓉華、アークを外へ案内して。大丈夫だから」 確かに敵を倒す事は叶っていた。共闘した彼等とて立ち直るまで十分だった。しかし、それも限界が近い。このまま、全員が倒れてしまう前に、そう、恐怖に震える手先はしっかりと刃を握りしめている。 「再見」 ひら、と手を振った彼女は前を向く。獣に庇われる様に存在したムーンビーストの触手が伸びあがり梁山泊のリベリスタを打ち狙う。 握りしめた刃は真っ直ぐにその触手を切り裂いた。仲間を抱え、走るリベリスタ達が振り仰ぐ。 「――逃げ、」 途切れた声に、シュスタイナの紫苑は見開かれる。 大きく開いた腹の向こう、気色の悪い触手の生物が確かに、『嗤った』気がした―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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