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WARP ONE(ねじれたあなた)

●目の前にある者は
 もともとの任務はアザーバイドの掃討だったはずだ。
 だがそれはいつの間にか、禅問答のようなものに替わっていた。

●『リリ・シュヴァイヤー』
 銃を持つ理由はいつだって教えを守るため。
 そのために引き金を引く。エリューションを、悪を、人を。
 加減する理由はない。意味はない。何故なら異端者は敵だから。世界の敵だから。
 考えるな。ただ私は世界の為の銃であればいい。愛や正義は司教の言葉。それを行使する人が告げればいい。私は冷たき銃であれ。

●『遠野 結唯』
 己という器など必要ない。個など意味はない。
 私はただ殺すだけ。呼吸するように殺意を向け、欠伸をしながら命を奪う。
 殺す。意味などない。そこに命があるからだ。
 奪う。欲求などない。そこに物があるからだ。
 抵抗など打ち砕けばいい。無駄な足掻きだ。逆らう者は皆殺す。

●『真雁 光』
 勇者になりたかった。
 勇者にあこがれ、求め、そして目指した。魔王を倒すとか、マンガみたいな幻想にあこがれ、そしてそれを美しいと感じた。革醒し、力を得た。
 だが現実はどうだ。剣を振るって人を殺す。悪人だから仕方ないと割り切っても、その悪人にも守るべき家族がいることもある。本当に悪い『魔王』などいないと知った。
 勇者ってなんだろう。その答えを見出せぬまま、今日も剣を振るい、命を奪う。

●『司馬 鷲祐』
 誰よりも速く。時よりも速く。
 最速を目指す男は、速度を求めるが故にいろいろなものを切り捨てていた。
 例えば装備。軽量化に軽量化を重ねた装備。
 例えば仲間。自らを縛る存在などいらぬ。孤島に生きることで拓ける新たな道。
 例えば倫理。速さを得るために非合法な手段でアーティファクトを得て、自らを強化する。
 道を究めようとする者は、自然と常識から外れていく。

●『祭雅・疾風』
 世界には数多の考えがあり、同時にそれだけの正義がある。
 正義の敵は別の正義、とはよく言ったもので本当に悪い人間は存在しない。互いの信じるものの違いで、人は争う。
 そして争いは惨劇を生み、それがまた別の悲劇の火種となる。
 ならば全ての正義を壊そう。自分以外の全ての正義を滅ぼし、自らを絶対君主とするのだ。それが悪と呼ばれようが、争いがなくなるならそれでいい。
 闇に染まるヒーロー。彼は平和のために、正義を討つ。

●『宵咲 氷璃』
 生まれはWW2中の仏蘭西。天使を生み出す為の狂気染みた実験の産物。
 生み出された少女は天使となり、そして兵器となる。圧倒的な魔術により世界の勢力図を塗り替える『彼女達』。
 嗚呼、人よ見ろ。天より舞い降りる天使が終末を告げる。それは千年王国を作る為に生み出された人工革醒者。世界を生まれ変わらせるためのラッパを吹く聖女。世界を壊し、そして再生する神の子。
 六枚の羽根を広げ、いま魔力が低温を生む。

●『WARP ONE(ねじれたあなた)』
「アザーバイド『WARP ONE』……目の前にいる知的生命体に干渉して、その人の『ありえた現在』に変身する能力を持っているようです」
 出発前、フォーチュナが告げた説明はそんな理解に苦しむ言葉だった。ありえた現在?
「世界は選択の連続です。家を右足から出るか左足から出るか。朝ごはんはパンかご飯か。くだらないことを言う相手を殴るか叱るか……。人生の岐路というべき選択なら、その人間の人間性すら変わるかもしれません。そういった『今とは違う選択をした』自分と相対すると思ってください。
 能力などは現在のあなたたちと同じですが、思考はおそらく異なるでしょう。十分に注意して戦ってください」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:どくどく  
■難易度:NORMAL ■ リクエストシナリオ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年04月30日(水)22:37
 どくどくです。
 バトル重視になるか、心情重視になるかはプレイング次第。

◆成功条件
 アザーバイド『WARP ONE』の撃破

◆敵情報
『WARP ONE』(×6)
 目の前にいる知識生命体に変化します。つまり貴方達六人の姿に変化します。ただし思想は現在の貴方と異なり、フィクサード側になっています。
 便宜上、リプレイでは変化した個体は『(名前)』で描写させてもらいます。
 能力や装備などは各個人の出発時の状態をコピーします。また姿形は全く同じですが、印象やフェイトの有無等で互いの区別はつきます。
 知識は皆様と同じほどあり、言語は普通に通じます。フェイト復活はしません。

◆場所情報
 街の郊外にある広場。Dホールは近くに開いています。
 時刻は昼。足場は安定。明りも十分。人が来る可能性は皆無です。
 戦闘陣形はお好きに決めてください。こちらも同じ陣形を取ります。両前衛の距離は十メートルとします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

参加NPC
 


■メイン参加者 6人■
ハーフムーンソードミラージュ
司馬 鷲祐(BNE000288)
ハイジーニアススターサジタリー
リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)
ハイジーニアス覇界闘士
祭雅・疾風(BNE001656)
アークエンジェマグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)
ハイジーニアスデュランダル
真雁 光(BNE002532)
ノワールオルールクリミナルスタア
遠野 結唯(BNE003604)


「一つだけ聞こう。アンタは、何故速さを求める?」
「知れたこと。俺の前に誰も走らせないため」
『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)の問いかけに『鷲祐』はメガネのブリッジを押さえながら答える。最速を求める鷲祐の歪んだ存在。それは誰にも追いつけぬ速度を求めている。それゆえの孤独。
「貴女が信じ縋るのは神様ご自身ですか? 教えそれ自体ですか?」
「全てです。疑うことこそが罪。そのような不遜を抱くことこそが穢れなのです」
『Matka Boska』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)の問いかけに『リリ』が答える。疑うことなく信仰に生きる聖女。神のために、そしてその子達のために手を汚すことを厭わない銃がそこにあった。
「一度はそう考えた事はある。自分以外の正義を滅ぼせば平和になるのか? とね」
「無論、多くの命を奪うことが正しいとは思えない。だが、私はその道を選んだ」
『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)の問いかけに『疾風』が答える。目の前の『疾風』は決して狂乱しているわけではない。罪の意識がないわけでもない。だが、その道を選んだのだ。苦悩と葛藤に末に。
「あの時、救い出された赤ん坊と救い出されなかった赤ん坊」
「両者を分けたものは正しく『運命の悪戯』ね。嗚呼、何て忌々しい」
 救い出された『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)と救い出されなかった『氷璃』が共に忌々しくため息をつく。自分を作った組織がリベリスタに襲撃されたとき、ほんの少し運命が違えばこうなっていたのだ。
「勇者ってなんだろう? ボクも答えはまだ見つける事が出来ないでいます」
「それでも、その輝きにあこがれたのは確かだから」
『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)と『光』が同時に剣を構える。勇者。そのありようは様々だ。勇者が生み出す物語の美しさに惹かれてあこがれた。だけどその存在は霞のように形なく、つかめない。
「もう一人の私と会っても、特に感慨はないな」
「ああ、ただ壊すだけだ」
『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)と『結唯』が同時に黒い格闘銃器を填める。ただ殺すだけ。ただ奪うだけ。そんな在り方を気に入らないと吐き捨てる結唯。そしてそれを下らんと唾棄する『結唯』。
 歪んだ存在はそれぞれがどこか似通っている。我欲に溺れて暴れまわるフィクサードではなく、自分自身が少し間違えればこうなってしまうだろうありえた自分。
 動いたのは果たしてどちらからか。自分自身の持つ何かをかけて、戦いの火蓋はきって落とされる。


「……九年だ。九年、戦い続けてきた」
 一番最初の動いたのは、やはり最速を求める鷲祐と『鷲祐』だった。二人は邪魔されることなくほかの仲間達から距離をとり、全く同じ構えで速度を武器として交戦する。地面を蹴った足そのものが武器。
「際立つ程の力はない。炎を起こしたり、呪いを現せもしない」
「強靭な体があるわけでもない。一間先の針穴を通せるわけでもない」
 速度を求めて神秘の力で加速する『鷲祐』に蹴りが放たれる。鷲祐の回転するように横から払われた足を、何とかかわす『鷲祐』。着地の瞬間を狙おうとする『鷲祐』だが、鷲祐のベクトルはまだ止まっていない。体をひねり、二度目の蹴りを『鷲祐』に叩き込む。
「アンタがアザーバイドでよかった。本当の自分であれば、きっと折れてしまうだろう」
「分かっていないな司馬 鷲祐。俺もアンタも紙一重だ」
「魔陣――」
「――展開」
 氷璃と『氷璃』は同時に魔法陣を展開し、自らの魔力を上げる。こんなところまで似ている。そのことが氷璃にとって忌々しくもあり、同時に興味深くもあった。運命が違い、道をたがえ、それでも思考は変わらない。ああ、当然か。どこか納得する。
「私と『私』が目指している世界は同じもの。上位世界の影響を受けない安定した世界」
「違いがあるとすれば、その方法」
 六枚の羽根を広げ、氷璃と『氷璃』が氷の矢を生む。呪われた氷矢は互いの魔力(在り方)を示すように形成される。氷璃は鋭く真っ直ぐに。『氷璃』は全てを壊すように禍々しい突起を生やし。最低限の破壊と、全ての破壊。
「尊い教えにあります、射手の敵は射手」
 リリは『リリ』が戦場に弾幕を張ろうとするのを察し、その懐に飛び込む。二丁の拳銃を駆使して相手の動きを封じながら、リリは『リリ』の足を止める。互いの思考は似通っている。リリに全体攻撃をさせたくないのは『リリ』も同じなのだ。
「色々な心の形や正義があります。優しさ故に踏み外してしまった方、今と違う正義を選んだ方」
「理解はしましょう。人の弱さを許すのも、神です。されど神の敵ならば打ち滅ぼすのが私の『祈り』」
 銃を撃ちにくい間合。皮肉なことにリリはそれがよくわかっていた。自分がいやな間合に踏む込めばいいのだ。相手の銃を押さえるように動き、ゼロ距離で弾丸を放つ。動きに迷いはない。それはリリも『リリ』も同じ。
「全ての正義を葬り去る。そのやり方では平和にはならない! 行くぞ、もう一人の私!」
「ならば終わりなき争いを続けるというのか! そうなる前に誰かがやらねばならぬのだ!」
「「変身!」」
 疾風と『疾風』が同時に『強化外骨格参式[神威]』をまとう。アームブレードの刃をふるい、刃越しに互いをにらみ合う。自分自身。あるいは自分自身ではない何か。にらみ合う両者の違いは、わずかだが大きい。
「自分以外の正義を滅ぼした所で、その過程で憎しみは連鎖し罪無き人々も犠牲になる。ヒーローは正義そのものであってはいけない。この力は護る為にある。私は正義の味方だ!」
「何かを『護る』ために誰かを傷つけることもある。力そのものが争いの火種となり、そして悲劇を生むのだ!」
「それでも……人を支配する正義は認めない!」
 一撃一撃、力強く。疾風と『疾風』は切り結ぶ。
「強大な悪を倒せば勇者たり得るのか。多くの悪を倒せば勇者たり得るのか。多くの人を救えば勇者たり得るのか」
「誰よりも強ければ勇者と呼べるのか。慈愛に満ち溢れていれば勇者と呼べるのか。正義を貫くことが出来れば勇者と呼べるのか」
 光と『光』は稲妻を放ちながら、問いかけていた。勇者という存在を求めて思考する二人。光は苦悩して未だ道が見えず、『光』は苦悩して悪を討つ修羅となる。共に戦う理由は『誰かの為に』というものだったのに。
「全てが正しく、全てが間違っている」
「どこまで勇者を求めても、どこかで何かが間違っている」
 勇気を持ち、誰かの為に戦える者。だがそれはアークのリベリスタにも、七派のフィクサードにも当てはまる。強くあり、優しくあり、そして正しくある。それを為す手段として『光』はまず強さを求めて殺戮者となった。多くの『悪』を葬った、
「でもそれは、間違っているのです……!」
 強く、強く光は否定する。そんなものが勇者であってはならない、と。
「さあ、罪を数えろ。そしてすべてを奪おう」
「奪うなら奪え、私はそれ以上を奪う」
 結唯と『結唯』が言葉短く言葉を交わし、弾丸を放つ。無骨だが使いやすいように調整された破界器を手に、地を蹴る。弾丸を放つ。位置を変える。弾丸を放つ。位置を変える。同じ場所に留まるような真似はしない。留まれば的になり、骸を晒す。
(殺戮衝動……ではないな。殺すこと自体が既に『結唯』の日常になっているのか)
 結唯は最初は衝動のままに殺しているのだと思っていた。だが違う。この『結唯』にとって殺し、奪うことは物を買うような軽い感覚で行えることなのだ。結唯は必要とあらば人を殺すことに躊躇いはないが、『結唯』は躊躇いそのものがない。目の前に石があるから、蹴るのだ。
(……気に入らんな)
 そのあり方に唾棄し、結唯は弾丸を放つ。
 能力構成が全く同じである以上、自然と戦略は似通ったものになる。厄介な遠距離攻撃と全体攻撃を持つ『氷璃』と『リリ』を先に狙い、その後各個撃破を狙う。両陣営とも、同じように動いていた。
 歪んだものと、歪まなかったもの。妥協することなく戦いは続く。


「今にも崩れそうな積み木を前にして、如何すれば崩れないように出来るか。『私』なら如何する?」
 氷璃は傷つきながら『氷璃』に問いかける。ダメージの具合はほぼ同じ。だからこそ分かる。氷璃も『氷璃』も長く戦場に留まれないことを。故に問いかける。崩界の危険性のあるボトムチャンネルを如何にするか。
「生命を管理し、国家を管理し、そうして人類をコントロールして一丸となって抗うわ」
 ああ、予想通りだ。そして合理的だ。氷璃は『氷璃』の問いかけに納得する。それはかつての自分も思っていたこと。だけど実行できなかったこと。確かに正しい答えだけど、
「それでも私は崩したくなかった。積み木が崩れる大きな音が怖いんだもの」
「それは逃げよ。その逃げで、世界が完全に壊れる。それでもいいの?」
「ええ。私はその道を選んだのだから」
 氷璃は静かに『氷璃』を見やる。結局のところ、両者の違いはそれだけなのだ。運命でもなく、救いでもなく、たった一つのだけど大きな選択肢の違い。
「思い返せばあの時、確かに選択していたわ。『私』も間違いなく私だけれど、今を選んだ私は私」
 呪いの氷が『氷璃』を穿つ、歪んだ『氷璃』は氷像が砕けるように砕け散っていた。
「貴女は正しい。ただ世界の為、断罪の魔弾である在り様は、間違いなく神の魔弾」
「冷たき弾丸。血にぬれた銃口。それこそ側が教義。疑問を挟む余地もなければ、それを行う心すら不要」
 リリと『リリ』が至近距離で二丁拳銃を交差させる。距離を離せば弾幕の雨が仲間を襲う。それをさせるわけにはいかなかった。
 それに何より、ぶつけたい思いがある。
「正しいですが――それだけでは嫌だと、今の私は思います」
「それは貴女の感情です。世界の体技と個人の感情。どちらが優先されるカなど、論議する必要もありません。子供のノーフェイスを殺すことを、かわいそうだからと拒否できるのですか?」
『リリ』の言葉にリリが唇を噛む。世界のために、元は人間であったノーフェイスを殺す。リベリスタとして戦えば、そういう戦いも確かにある。
「拒否はしないでしょう。ですが心無く殺すことはけしてしません。悩み、苦しみ、引き金を引きます。それが正しいのかどうかは……分かりません。だからこそ――」
 リリは教義のためにと心を冷たくする『リリ』を見た。確かに世界の守護者として正しいのだろう。心折れず、作業のように命を奪う聖職者。わずかに歪めば自分も確かにああなっていた。それを素直に認めて、拒絶の弾丸を放つ。
「貴方には決して負けたくない。私は私の『お祈り』を」
「『私』は『私』のお祈りを」
 銃そのものが交差し、銃声が鳴り響く。
「現実を見ろ! たった一人の手で守れる範囲はわずかだ。戦いを無くす為には全ての正義を滅ぼすしかないのだ!」
「ああ、現実はそこまで甘くないことは理解している。だが『私』こそ現実を見ろ! 人はそこまで愚かじゃない!」
『疾風』と疾風が雷光を走らせながら拳を振るう。一撃一撃に激しい轟音が響き、それに負けぬほどの熱い言葉が応酬される。
「圧倒的な力の絶望しても、気が狂うほどの悪意に面しても!」
 疾風は確かに自分の守れる範囲の狭さを知っている。
「それを跳ね除けてきたのは神秘の力じゃない。それに抗しようとした人の心だ!」
 同時に、人がただ守られるだけの存在ではないことも知っている。力なくとも足掻くのが、人なのだ。
「それでも争いは止まらない。悲劇は止まらない!」
「それでも絶望はしない。苦しくとも、笑顔を見つけるのが人間なのだ!」
『疾風』と疾風の意志がぶつかり合う。互いの意見は理解できる。ほかならぬ自分の意見なのだから。何度葛藤しても答えが出ず、そして今でも苦悩すること。だからといって、妥協はできない。歪んだ自分の意見は、受け入れてはいけないことなのだ。
「私は人にも世界にも絶望していない。争いがあれば力の限り足掻くさ」
「それが後手に回ると知っていてもか」
「その通りだ。ヒーローとは、何かを護るためのものだから」
 原因を消す為に攻めるのではなく、誰かを守るために後手に。それが疾風のヒーロー論。
「この力は、手の届く全てへ駆けつけるための力だった」
 鷲祐は『鷲祐』の攻撃に耐えながら集中を続けていた。鋭い一撃を相手に叩き込むために防御に徹している。そしてそれは『鷲祐』も同じだった。
(俺自身の能力をコピーするのなら、『俺』が俺の速さに当てられないのも道理か)
 回避に趣を置く鷲祐が防御に徹すれば、当てることは難しい。それは鷲祐自身でもである。
「そうだ。現実は違う。速いだけ。力も、正確さもない。足りない。それでも、選んだ道を違えないのは、ここまで歩んだ己を信じているからだ」
「ああ。そのために俺は全てを捨てた。倫理を、仲間を」
『鷲祐』の言葉に鷲祐が奥歯をかみ締める。
「聞け、『司馬鷲祐』。お前は全てを捨てた。
 俺は違う。俺は何一つ切り捨てちゃあいない……全てを背負って進むんだ」
「では聞こう。貴様はなぜ今一人で戦っているのだ? 何故『俺』と単独の戦いを望んだ?」
『鷲祐』の言葉に鷲祐の言葉が止まる。
「全てを背負って進むと決めた俺と、全てを捨てて進むと決めた『俺』。何故二人同じように仲間の助けを拒絶して戦う? 
 司馬鷲祐。お前は結局、仲間など要らぬと心の中で切り捨てているんだ」
「違う。それは」
 否定する鷲祐。理由はいくつもあった。『鷲祐』の流儀にあわせた。自分の可能性の一部と争いたかった。だがそのどれも、『鷲祐』の言葉を否定するには至らない。踏み出すべき一歩が、止まってしまう。
 我が道のために。共闘を捨てた者。それは自分のために仲間を切り捨てているのと同じではないのか?
 そこを『鷲祐』が逃すことなく襲い掛かる。容赦のない一撃に、倒れ伏す鷲祐。
「……違う。俺は……!」
 運命を燃やし、意識を保つ鷲祐。歯を食いしばって立ち上がる。そんな鷲祐を包む柔らかい風。
「大丈夫ですか、鷲祐さん!」
 光の癒しの神秘。ホーリーメイガスの回復には劣るが、それでも傷は幾分か癒えた。その隙を縫うように『光』から衝撃波が飛ぶ。物理と神秘を重ねた一撃が光の運命を奪った。
「すみません。敵を倒すことで勇者に近づけるのなら、ボクは卑怯でもあなたを倒します」
 謝罪の言葉を告げる『光』だが、躊躇いは全くない。戦いの果てに勇者の道があると信じている。……否、そう信じたいのだ。
「いいえ。ただ『悪』を倒すだけでは勇者には届かない……!」
 立ち上がりながら光が剣を握る。強い意思を持って歪んだ自分を見た。強くあり、そして誰かを守れるのは、確かに勇者なのだろう。だけど、それだけでは勇者足り得ない。
「確かに許してはいけない悪人もいます。でも、敵対者とだって分かり合えることはあります」
 人には心がある。心こそが悪事を行う理由でもあるが、同様に善行を行う理由でもある。
「全てを割り切る必要はないとおもってます。倒す以外にも方法があるならそれを模索したい」
 善と悪。二つを割り切る必要はない。善人でもあり悪人でもある。それが人間なのだから。だからこそ許せないこともあり、だからこそ許せることもある。その両方を光は見ていた。
「全てを救う事は無理かもしれません」
 それは事実だ。この手は小さく、そして弱い。足掻いても届かず、もがいても進まないことだってある。
「それでもボクの手で救える人は救いたい」
 大切なのは最初の一歩。現実を知り、それでも色あせぬ最初の憧れ。絶望しても諦めない勇者の姿。
「ボクにだってやれることはあるし、ボクにしかできないこともあるはずなんです」
 光は『光』に視線を向けたまま、仲間の癒しを続ける。戦う事で救えることもあれば、癒す事で救えることもある。
「……」
 結唯と『結唯』の戦いは互いに言葉なく繰り広げられていた。
(もうひとつの未来か)
 サングラス越しに相手を見る。歪んだ自分と呼ばれるそれは、まるで機械のように命を奪っていく。
 見る。銃を撃つ。視界に移る。銃を撃つ。結唯もまた機械的に攻撃していた。
(『結唯』はこれから先の未来でもなりえる私の未来だ)
 結唯が心の中で静かにそれを認める。そして同時に否定する。
(私はこうはならんよ。私は今の自分を選択したのだからな。奪ったものすべて未来へ持っていく)
 だが同時に思う。奪ったものを未来に持っていく術を。
『結唯』は全てを奪っていく。躊躇いはない。そしてそれは結唯も同じだ。
 結唯と『結唯』の違いはどこにある? こうならないと言い切れる材料がどこにある?
 黒鉄の弾丸が結唯と『結唯』を穿つ。全く同時に、全く同じ箇所を。そして二人はそのまま倒れ伏した。


 結論からいえば、運命を持つリベリスタに負けはない。自らを強く持てば、勝てない戦いではない。リベリスタはアザーバイドを葬り去り、安堵する。
 だが本当に自分は勝ったのだろうか?
「私と貴女、捻じれたのはどちらなのでしょうか」
 リリの台詞が皆の心を代弁する。自分は歪んでないと、何故言い切れる?
 
 それでも人は歩くのだ。
 この道は歪んでいないと信じて。 


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 どくどくです。
 自分とは違う自分との戦いを送りしました。

 心情でがっつり書かせていただきました。一番こまったのが『このキャラがいいそうで言わないだろう台詞』をひねり出すことでした。
 この依頼が、皆様の心に残れば幸いです。あるいは『ああはならない』と切って捨てられるなら幸いです。

 ともあれお疲れ様でした。まずは体を癒してください。
 それではまた、三高平市で。