下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






<恐怖神話>ざっくりがっくりきのねっこ


「ざっくりがっくり木の根っこ♪
 ざっくりがっくり木の根っこ♪」
 陽気な拍子の歌が聞こえる。雰囲気からすると童謡だろうか? どことなく暢気な歌声だ。しかし同時に、ざらつくような不快感を感じさせた。
「どこにいるんだい? 遊ぼうよぅ♪」
 ざしゅっ
 歌に紛れて何かを切る音が聞こえてくる。そして、誰かの泣き叫ぶ声が。
 歌声は村の中心にある広場から聞こえていた。歌っているのは服装から若い男に思える。彼は全身を返り血に染め、明るい声で斧を振るっていた。彼の足元には肩まで埋められた人々がいる。男はその頭に向かって斧を振り下ろしているのだ。もはや悪鬼羅刹の所業である。
 いや、その姿はすでに人間のものではない。人の形状こそ保っているものの、全身は体毛に覆われ、もはや姿は怪物のそれだ。なにより、口は大きく縦に裂けて醜い牙を覗かせている。
 それでも男は、いや、怪物自身は自分を人間だと認識していた。男の精神は既に深淵の底へと消え去っている。数日前まで林業を営む青年だった彼は、突然見えない何かと話をし出した。皆が疲れているのだと思い、彼を休ませた。
 そしてこの日の夜。家から出てきた男は既に人間の形をしていなかった。
「おーい! 此処に隠れているのかな?」
 ざしゅっ
 ざしゅっ
 ざしゅっ
 かくれんぼで友達を探すような調子で怪物は、人々の頭を叩き割っていく。
 いや、怪物にとってはその通りなのだろう。これは殺戮ではない。狂気に支配された怪物は、ただ遊んでいるだけなのだ。見えない何者かと。
「ざっくりがっくり木の根っこ♪
 ざっくりがっくり木の根っこ♪
 ざっくりがっくり木の根っこ♪」
 その狂気を孕んだ声は、あくまでも明るく、暗い闇に響いているのだった。


 まだまだ夜は冷え込む4月のある日。リベリスタ達はアークのブリーフィングルームに集められる。そして、リベリスタ達に対して、『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は事件の説明を始めた。彼の表情は久しぶりに重苦しいものだった。
「これで全員だな。それじゃ、説明を始めるか。あんたらにお願いしたいのは、ノーフェイスとアザーバイドの討伐だ。ただ、かなり嫌な予感がする事件だ」
 守生が端末を操作すると、人のフォルムをした不気味な怪物が表示される。全身が体毛に覆われ、その姿は如何にも人間ではない。特徴的なのは顔の中心を縦に割いている口だ。そして何よりおぞましいのは、人間としての個々のパーツは形状を保ったままであることか。
「識別名は『スレイブ=ガグ』。フェイズ2、戦士級のノーフェイスだ。アザーバイドの引き起こした増殖性革醒現象の影響でエリューション化しちまった……典型的っちゃ典型的なタイプだ。精神的にはひどいレベルでぶっ壊れているがな」
 何かを堪えながら守生は説明を続ける。
 彼の説明によると、このノーフェイスは「自分には小人のトモダチがいて、小人は人間の頭の中に隠れている」と考えているらしい。そして、その狂気に導かれるまま、同じ村に住んでいる村人を殺戮しているのだという。狂気に支配されたノーフェイスの行動は、常人からすると破綻したようにしか見えないが、彼にとっては一貫しているのだろう。
「こいつには識別名『ガグ』っていうアザーバイドが憑依している。こいつが狂気をもたらしたのか、単にエリューション化の結果なのかは分からない。ただ、相手は尋常な状態じゃない。十分に気を付けてくれ」
 『ガグ』はこのノーフェイスに似た姿をしているのだという。もっとも、ノーフェイスに憑依しているため、こちらから攻撃を行うことは出来ない。深い魔術の知識があれば、何かしらの対処が出来るのかも知れないが。
 と、その時1人のリベリスタが声を上げる。『ガグ』という名前に心当たりがあるというのだ。
「あぁ、この名前はクトゥルフ神話ってホラー小説に出て来るものと同じだ。もっとも、能力とかはまったく別物だけどな」
 架空(フィクション)の脅威は実在した、ということなのだろうか。もっとも、小説で描かれたそれと実像は一致している訳でも無い。
「偶然なのか同一の存在なのかも分からねぇ。はっきり分かっているのは、こいつが異なるリンクチャンネルからやって来て、この世界に悪意を持っているアザーバイドってことだけだ」
 吐き捨てるような口調の守生。
 この事件、既に被害者は出ている。一部のものはEアンデッドと化して、敵の尖兵と化しているのだ。それを抜きにしてもおぞましい事件と言わざるを得まい。守生の反応も無理なからぬ所だ。
「説明はこんな所だ」
 説明を終えた少年は、その鋭い瞳で睨むように、リベリスタ達に送り出しの声をかける。
「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:KSK  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年05月03日(土)22:26
皆さん、こんばんは。
SAN値0から始まる恋もある、KSK(けー・えす・けー)です。
今回はアザーバイドと戦っていただきます。

●目的
 ・アザーバイド『ガグ』の討伐
 ・ノーフェイス『スレイブ=ガグ』の討伐

●戦場
 某山中にある林業を営む村の作業場。
 守生の指示に従って、ノーフェイスが殺戮を繰り広げる所を襲撃します
 足場に不自由はありませんが、明かりはそんなにありません。

●アザーバイド
 ・ガグ
  人の精神に寄生することが可能なアザーバイド。
  『スレイブ=ガグ』に憑依しているため、『スレイブ=ガグ』を倒さない限り攻撃の対象に選ぶことが出来ない。ガグがリベリスタ達を攻撃することは可能。
  『魔術知識』を持つ者はダメージは半減した状態で、『魔術知識Ⅱ』を持つ者は通常のダメージで、憑依状態にあるガグを攻撃することが可能です。
  能力は下記。
  1.精神波 神遠単 魅了、Mアタック
  2.物無

●ノーフェイス
 ・スレイブ=ガグ
  毛むくじゃらな人の形をしたノーフェイス。フェイズは2。ドラマ値が高め。
  精神的には狂気に満ちております。
  『ガグ』をその身に宿しており、同一の場所に存在するユニットとして扱います。
  能力は下記。
  1.斧を振り回す 物近複 ノックB、流血
  2.狂気の伝播 神近複 混乱
  3.猟銃 物遠単 出血

●Eアンデッド
 ・元村民
  ノーフェイスに殺された人がエリューション化したもの。フェイズは1。5体います。
  能力は下記。
  1.殴る蹴る 物近複 出血

●一般人
 ノーフェイスに捕えられた人々の生き残りで、5人ほどいます。現在、地面に埋められて首だけ顔を出している状態です。
 此処に捕えられているのは作業場にいた人間のみです。ノーフェイスを取り逃がすと、近くにある村で殺戮を繰り広げることでしょう。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ハイジーニアスソードミラージュ
須賀 義衛郎(BNE000465)
メタルイヴクロスイージス
大御堂 彩花(BNE000609)
ギガントフレームスターサジタリー
モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)
ハイジーニアスダークナイト
山田・珍粘(BNE002078)
ハイジーニアスソードミラージュ
中山 真咲(BNE004687)
ノワールオルールダークナイト
七海 紫月(BNE004712)
フライエンジェマグメイガス
ティオ・アンス(BNE004725)
ジーニアスアークリベリオン
二十六木 華(BNE004943)


 陰鬱な景色が広がっていた。ホラー小説にしか存在しないような、冗談めいた景色。
 しかし、それはリベリスタ達の前に現実の形を取って現れていた。
 首から下を埋められて泣き叫ぶ人々。彼らの命を刈り取るのは、異形の肉体と精神を持つ怪物だ。常人であれば吐き気を催し、ともすれば正気を失いかねない景色である。
 余人であればその通りであろう。
 しかし、数多くの戦いを生き抜いてきたリベリスタである『グラファイトの黒』山田・珍粘(BNE002078)にとってはその限りではない。
「この敵、動物だと猿やゴリラに似てるんでしょうか? それに縦に裂けた口……んー、不思議な造形だ」
 どこかのんびりした口調で目の前の怪物を分析している。
 一方、『咢』二十六木・華(BNE004943)は怒りと嫌悪感を隠そうともしない。
「なんだァ? 最近やたらとこう、名伏しがたき生物を交戦する依頼が多くねえか? これもその一端だっていうのか」
 華がリベリスタとして活動を始めてから、それ程の時間は経っていない。経験もまだ不十分である。しかし、ここ最近発生している不気味な怪物による事件は、そんな彼にも嫌な予感を感じさせるのに十分なものだった。
 はっきりとした恐怖を感じる訳ではない。感じるのは漠然とした不安。
 とある男は「もっとも強烈な恐怖とは未知のものに対する恐怖である」と述べている。華はその身を以って、彼の言葉の正しさを痛感していた。
 そんな2人は作業場の奥から回り込んで、狂気の宴を眺めていた。ノーフェイスへの挟撃を行うためだ。敵は少数だが決して油断できる相手ではない。だからこそ、リベリスタ達は慎重を期した。そして、じっと闇の中で待つ2人は、作業場にやって来た影を目にして、戦いの時が来たのを知る。
「クトゥルフ神話……ちょっと私は存じ上げませんね。モニカ、あんたなら詳しいんじゃない? ホラー小説だそうだしこの手のサブカルチャーは私よりも詳しいでしょう?」
 作業場に入った『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂・彩花(BNE000609)は凄惨な有様に美しい眉根を顰めると、フォーチュナから聞いた説明を思い出そうとしてみる。何かのヒントになればと思うが、そもそも作品への知識が無いので役には立ちそうもない。
 そこでメイドである『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)に聞いてみる訳だが……。
「クトゥルフ神話とかいうのは名前だけは偶に聞きますね。内容も知らなければ特に興味もありませんが」
 モニカの返事はそっけないものだった。
 サブカルチャーにそれなりの造詣もあるが、かの神話についてはそれ程詳しい訳でも無い。ましてやその神話生物の名を借りたフィクションは多岐にわたるのだ。広範なジャンルに広がっているそれら総てを押さえているほど、暇でも無かった。
「まあ要は猟奇的な怪物というだけであって、普段のエリューション退治とそう大差無いでしょう」
「形はどうあれ、あのモリアーティ教授も実在したんだ。フィクションの筈だった邪神の類が実在したって、変では無いな」
 肩を竦めながら『ファントムアップリカート』須賀・義衛郎(BNE000465)もその言葉に同意する。
 アークが先日打ち破ったジェームズ・モリアーティーはフェイトを有するエリューションだったと言われている。であれば、同様の怪異が存在していてもおかしくはない。
 そして、小説の悪役だろうが邪神の眷属だろうが、エリューションであることに違いはあるまい。だったら、エリューションの退治はリベリスタ達にとってそう難しい話ではないのだ。
 義衛郎がすらりと打刀を抜き放つと、その刀身は焼ける空にも似た気を放った。
 すると、その気配に気付いたのだろう。ノーフェイスは入り口から入って来たリベリスタ達にその狂った瞳を向けてくる。
「そっかぁ。そっちにいたんだね! あそぼうよう!」
「こういう輩に身体を乗っ取られるのは御免被りますわね、まったく」
 リベリスタの側に向かって来るノーフェイスの姿に、『聖闇の堕天使』七海・紫月(BNE004712)は軽く嘆息をつくと、優雅な仕草で軽く手に持った杖を振って見せる。バトルドレスに身を包む彼女には、妙に似合っている。
 男の身に起きた不幸を気の毒と思わないではない。しかし、それで可哀想だから放っておこうというわけにはいかないのだ。
「お仕事はお仕事、せめて辛い思いをしないようにして差し上げられればいいですが」
「ボクもそれなりに変な化物を見てきたけど。ここまでいやーな感じのする相手は始めてかも」
 『アクスミラージュ』中山・真咲(BNE004687)の顔はあくまでも笑顔だ。普段は快活明朗な少女、その反面戦いの場にあっても笑顔でいる狂気を秘めている少女でもある。そんな彼女の声色に、珍しく嫌悪の色が浮かぶ。
 そんな彼女が出す答えは至ってシンプル。
 赦せないものがあるなら、倒さなくてはいけないものがいるのなら。
「全力で、殺しに行こう。
 イタダキマス」
 月に向かって真咲が振り上げるのは漆黒に染め上げられた巨大な三日月斧。洗練された外見とは裏腹に、凶悪な破壊力を併せ持つ、彼女そのものとも言える存在だ。
「興味があるわね。とても」
 その唇が言葉を紡ぐ。
 この事件に携わったリベリスタ達の反応は嫌悪、無関心と様々だ。
 その中にあって、『大樹の枝葉』ティオ・アンス(BNE004725)はそのいずれでもなく「興味」という反応を示した。
 最近起きている謎のアザーバイド達による一連の事件。その謎は未だに明らかになっていない。神秘に触れた者が体験を小説として残したものなのか? はたまた、何者かが似たようなものを呼び寄せているのか?
 だからこそ知らねばならないのだ。
 これはそのための千載一遇の機械。故に彼女は知識の扉を開く。
「それじゃ、神秘研究を始めましょう」
 扉の先にある答えに辿り着くために。1人の探索者として。


「妖精探しがしたいなら、オレ達が付き合おうか」
「きこりさん、私達と遊びませんか? 勝てたら、妖精さんの居場所を教えて上げますよ」
 二方向からリベリスタ達はノーフェイスへの攻撃を開始した。義衛郎と珍粘はそれぞれの方向からノーフェイスに向かっていく。ノーフェイスはわずかに逡巡した末に、人数の多い義衛郎の側へ攻撃を返してくる。
 ノーフェイスの後ろからついてくるのはエリューション・アンデッド。手にかけた犠牲者を戦力とする、極めておぞましい所業だ。戦力を集中させようとする辺り、最低限の知性は働いているのだろうか? しかし、その程度のことで臆するモニカでは無かった。
「私も神秘界隈に居付いてそれなりのキャリアですからね。今更この程度でビビるほど純真じゃないんですよ」
 モニカが顔色一つ変えずに引き金を引くと、彼女が構える巨大な重火器が火を噴く。
 吐き出された弾丸は嵐のような勢いで戦場を制圧していく。
 この場で優先するべきは、敵の殲滅だ。普段からもそれは同じことだが、取り逃がした場合の危険度は高いと予測されている。だからこそ、一切の躊躇もなく。
「ごめんね、あとから助けるからちょっと待っててねー」
 愛らしい笑顔から軽い口調で、真咲は残酷な言葉を口にする。
 笑顔と殺戮。この2つは彼女の中では、一切矛盾しない。足元には既に恐怖すら麻痺してしまった人々がいる。それに対する憐憫の気持ちを持ちながら、躊躇もなく暗黒の力を解き放つ。
「よーし、いっけぇぇぇ!」
 暗黒の瘴気がアンデッド達を包み込む。悶え苦しむかのように暴れるアンデッド。
「まぁ、相手が何者だろうと大した問題ではありませんね。世界に仇なす神秘は撃滅すべし、我々の役割はここにおいても変わる事は一切ないのですから」
 彩花の身体が激しく光を放つ。まるでこの世界を覆わんとする暗雲を晴らすかのように。
 英霊たちの声が激しく彼女を鼓舞する。
 もっとも、彼女に激励などはそうそう必要なものではない。可能なことなら実行するし、不可能と言われようと断行するだけだからだ。
 ノーフェイスはそこへ攻撃を仕掛けようとする。しかし、その後背を突くように1つの影が飛び込んでくる。
「ごめんな……すぐに、楽にしてやるから!!」
 風のようにな軽やかさをもって、ではない。炎の如き熱さと共に、華は戦場へ飛び込む。発生した衝撃に耐えきれず、アンデッドが1人、漫画のように吹き飛んだ。
 華の戦歴は他のメンバーに比べればはるかに浅い。
 被害者たちの恐怖や辛さ、そして今吹き飛ばしたアンデッドと化してしまった人々のそれについても、ついつい想像してしまう。それだけで膝を屈してしまいそうになる位だ。だけど、必死で戦っている仲間達がいる。それを思えば、まだ戦える。足元の人達を巻き込まないよう、勢いに任せて広域スキルを放たないだけの余裕もあった。
「俺がしっかりしなければ誰がするっていうんだ! きっと助ける。そこで待っててくれ!」
 雄叫びと共に、華は己の命を削りながら「鬼」の名にふさわしい力で剣を振るう。
 しかし、そんな彼を嘲笑うかのように、ノーフェイスは陽気な動きでリベリスタ達と切り結ぶのだった。


 1人、また1人とアンデッドは倒れて行く。十分なタフネスを持ってはいたが、さすがに重火器を惜しみなく撃ち込まれ、雷に焼かれながら戦うというのには無理があるというものだ。
 しかし、リベリスタ達にとっての敵は目に見えるものだけではない。
「……ッ」
 ノーフェイスが突然跳ね上がるような動きをしたタイミングで、彩花が軽く自分の頭を押さえる。その身を覆う英霊の加護のお陰で意識を刈り取られることこそないが、脳に錐でも突っ込まれたかのような激痛が襲ってきたのだ。
 そう、この場にはもう1体の敵がいる。ノーフェイスを狂気に駆り立て、この小さな村に悪意と破滅をもたらしたアザーバイドだ。しかも、ノーフェイスと一体化し、狡猾にリベリスタ達を責め立てる。もっとも、彩花も相応の返礼をしている訳だが。
 さらに、アザーバイドに取っても敵は見えるものだけでは無かった。
 清らかな微風が戦場の空気を変えていく。紫月の呼び込んだ大いなる存在の力だ。
「憑依されたら毛が生えるアザーバイトなんて、女の敵ですわね。考えただけでぞぞぞぞぞ、ですわ!」
 紫月はオーバーアクション気味に身を震わせている。うっかり憑依されてノーフェイスのような姿になってしまう自分を想像してしまったのだろう。そういう問題でも無い気はするが、女性にとっては一大事である。
 だから、アザーバイドが妙な動きをしないように警戒はしている。もちろん、それは個人の好みの問題だけではない。
「貴方は強制的に悪い夢を見させられ、望まぬ行為をやらせられているだけ。今解き放って差し上げますからもう少し我慢してくださいな」
 その時、ノーフェイスに向かって四色の魔光が吸い込まれていく。ティオの紡ぐ魔曲だ。しかし、狙った相手はノーフェイスではない。
 狙う相手はアザーバイドだ。このアザーバイドは物理的に干渉することが極めて困難な存在だった。しかし、魔術に極めて造詣の深いティオであれば、神秘の力を通じて干渉を行うことが可能である。
(貴方は誰? 何をするため何処から来たの? 貴方には私達が小人に見えるのかしら? 貴方の事もっと教えてよ)
 そのまま、アザーバイドに向かって精神をリンクする。
 返ってきたのは強烈な悪意だった。アザーバイドは人間達を対等とみなしていない。
 幼児が蟻を弄ぶかのように。
 ノーフェイスの狂気もアザーバイドの意図によるものではないのだろう。アザーバイドが寄生した結果、たまたま、狂ってしまった。ただ、それだけの話。
 しかし、その返ってきた反応を悪意と共に楽しんでいる。アザーバイドはそんな存在だった。
 しかも、あろうことか今度はティオをその爪牙にかけようとする。それでも、ティオは諦めない。
「魅了や混乱なんてされていられないわ。今私が見る相手は、あっちだけ。ねえ、もっと教えて。私の知らない世界のことを」
 そうやって、アザーバイドの気が取られていたのが失策だった。いつの間にやら、アンデッドは全て粉々にされている。そして、アンデッドのブロックに回っていた華や真咲も、ノーフェイスへの攻撃に参加する。
「何なんだかよく知らねえが、人の頭割って楽しそうにする奴ァ万死!!」
「貴方の頭の中に住んでいる友人とやらを、引きずり出させてもらうよ。ざっくりがっくり木の根っこ、ってね」
「ざっくりしても、そこに小人はいねぇだろ。何回ざっくりしても、がっくりだっつーの!」
 リベリスタ達の攻撃に対してノーフェイスは力任せの攻撃で反撃を仕掛けてくる。しかし、義衛郎にしてみればそのような動きはカモと言ってよい。
 斧が義衛郎を切り裂いたように見えた。
 しかし、それは幻影だ。刹那に掻き消え、代わりに宙からノーフェイスを斬り付ける。
「フィクションはフィクションのままでいてくれた方が、こっちは助かるんだけど」
 幻惑の武技でノーフェイスを翻弄し、淡々とそして確実に傷を与えて行く義衛郎。
 ノーフェイスに対して特別な感慨は無い。ただ、機械的に最高速度を以って崩界加速要因を抹消するだけの話だ。
 前かと思えば後ろ。後ろと思えば右。
 義衛郎とノーフェイスの速度はどんどん差を空けて行く。
 いつまでも続くかに思われたその不毛な追いかけっこは唐突に終わりを迎えた。義衛郎の刃がノーフェイスの心臓を捉えると、ノーフェイスは今までの動きが嘘のよう動かなくなったからだ。
「ピギー!」
 すると、ノーフェイスの頭部から何かが飛び出してくる。ノーフェイスの首にその姿は似ている。ただ、一回りほど小さいし、そのパーツだけで完成した生き物のようだ。
「あなたのお友達の小人は、貴方の頭の中に居たんですね。ああ、その状態になったらもう聞こえませんかあ? 残念残念、ふふ、ふふふふ」
 剣呑な雰囲気で珍粘が嗤う。
 彼女が宙に手を差し伸べると、そこには漆黒の霧が浮かんでいた。
「本体の姿もどんなものなのか、興味はあったんですが……見たらもう用無しですし」
 霧の中から口を大きく開けた黒い箱が出てくる。無数の苦痛を湛えた拷問具だ。
 それはいともあっさりと、アザーバイドを中へと仕舞う。
「仕事の邪魔なのでさっさと死んでください、ね?」
 黒い箱の蓋が閉じた。


「ゴチソウサマ」
 真咲が丁寧に手を合わせて礼をする。戦いが終わった後に彼女がいつも行う習慣のようなものだ。
 アザーバイドが姿を見せてからの決着はあっさりついた。元々、ティオの手で傷付いていたのもあるだろうが、耐久力はサイズに見合った程度だったのである。
 戦いを終えたリベリスタ達は、すぐさま被害者の救出を行った。彩花が人数を確認しているが、どうやら過不足は無いようだ。幸いにして肉体的に問題は無い。もっとも、今回の件で心に負った傷はそう小さくあるまい。義衛郎は後処理をアークへと依頼するのに忙しくしている。珍粘は予想していたとは言え、彼女の期待にそうようなかわいい子がいなかったので残念そうだ。
 そんな中で、華は事件の現場を睨んでいる。救えた喜びと救えなかった悔しさを噛み締めながら。
 そして、絞り出すように呟いた。
「……あんま人間舐めんなよ」
 それは先ほど戦ったアザーバイドに対して言ったのか、はたまた一連の事件に対しての言葉なのか。
 いずれにせよ、今日も世界は不安定に揺らいでいた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
『<恐怖神話>ざっくりがっくりきのねっこ』にご参加いただき、ありがとうございました。
アザーバイドの生み出す狂気の物語、如何だったでしょうか?

それでは、今後もご縁がありましたら、よろしくお願いします。
お疲れ様でした!