●発端 時は世紀末、199X年。 某県高速道路、真夜中の静けさを群れなす騒音がかき乱す。 その十数代の二輪単車からなる集団暴走行為は、一種の競走であった。彼らにとって公道はサーキットであり、今はレースという真剣勝負の真っ最中に他ならない。 爆音をあげて先頭を走る二車両、赤と黒、他の自動車をあたかもコース上の障害物でしかないといわんばかりに追い抜き、我先にと疾走する。 過熱するバイクチェイス。 しかしその結末は凄惨なものであった。 糸。 暗闇に張り巡らされた目に見えぬ糸によってフルフェイスメットが二つ、宙を舞った。 赤と黒、二台の二輪車は激しく転倒、車体を破砕し火花を散らしてアスファルトを滑り、クラッシュした。 一般の後続車や他の暴走車両がこの異常事態にブレーキング、停車しようとした。 この時のことを、一般人である目撃者は克明に証言している。 「確かに、彼らは止まったんだ。人相も分からないほど暗かったけれど、女の子の悲鳴も聴こえたよ。転倒した車両の元に集まって、大騒ぎだった。 けどね、すぐに静かになったんだ。 私は携帯電話で社内から通報していたが、急に静かになったことを不思議に思い、事故現場に近づいていった。 そうしたらね、全員、死んでいたんだよ。ひとり残らず、首を落とされてね……」 ●依頼 「首なしライダーと危険運転、しましょうか」 作戦司令部第三会議室。 フォーチュナー『悪狐』九品寺 佐幽(nBNE000247)は眠たげに「ふぁう」欠伸を噛んだ。 のどやかな春の陽気に佐幽は今にも蕩けそうだ。 「すみません、まだ冬眠明けで……」 「来月には五月病ですね、わかります」 「――なるほど、妙案ですね」 ポンと手槌を打ったところで佐幽は各自に次の資料を配布した。 「今ご説明した事件は、フィクサードによる一般人の殺害事件です。一般人、といっても彼らは十代後半のいわゆる暴走族ですね。フィクサードの犯行動機は『人々に迷惑をかける悪人に天罰を下した。自分は正しいことをした』とのこと。善悪や是非はさておき、エリューション能力によって一般人に私刑を下す行為はフィクサード認定に足るものです。 暴走族を処刑した気糸使いは既に処断・死亡済み、事件は一件落着――」 「してりゃ、俺達が呼ばれる訳もねーよな?」 「はい」 掲示される写真。 赤と黒、二台のバイクが競い合うように真夜中の高速道路を疾走している。 ただし、人も車両も異形と成り果てていた。 「怨念の果てにさながら地縛霊として蘇った首なしライダー、というわけです」 Eフォース:フェーズ2『レッドドラグーン』&『ブラックサンダー』。 赤い自動二輪車には元々、翼竜の意匠が施されていた。その影響か、禍々しく歪んだ車体はあたかも翼竜のように細身で鋭く、獰猛なフォルムだ。その上、車輪は火の輪だ。 黒い自動二輪車も同じく、黒い稲妻の意匠が施されていた。その影響か、鋭角的で刺々しく無骨な鎧めいた車体は黒雲をマフラーより吐き出して、青白い電光を纏っている。 搭乗するライダー達もまた、片や悪魔めいた火を噴くレッドスーツ、片や紫電を散らすブラックスーツと到底、生前の面影はない。 「しかし、なぜまた今頃になって……」 「彼らはEフォースです。首なしライダーの都市伝説、その実例として事件が人々に語り継がれるうちに――というわけでございます。 強い怨念によって、というのは表向きのことで、そういう“物語”を事件に求めた人々の好奇心が招いてしまった怪物です。不条理には浪漫がございます。 Eフォースの行動原理は『競走に勝つ』『復讐を果たす』『仲間を増やす』そうです。 『競走に勝つ』という欲求は、お互いにレースを繰り返すことで満たしているようで。 『復讐を果たす』この欲求は、E能力者、特に“気糸使いに対して異常に執着する”という形で発露します。じつは過去に一度、他の民間リベリスタ組織が討伐を試みたのですが、その際に優先してナイトクリークを狙ってきたそうです。幸い、彼らは“車道の外に出られない”性質があるらしく、撤退には成功したそうです。 『仲間を増やす』という欲求は、一般人の首を斬りEアンデッド化したり、車両を操りEゴーレム化したりする行為です。現在、フェーズ1の数は十数台以上に及びます。 さながら亡霊暴走族ですね」 立体映像が表示される。 高速道路の再現図だ。県境の山中を走り、10以上も短いトンネルが配置されている。 作戦中、作戦エリアはアークの手配によって封鎖される。 作戦エリアとなる高速道はおよそ全長20kmに及ぶ。無策に徒歩では戦いようがない。 「三高平危険運転教習所『Danger Driving School』略してDDSで研修を受けた方もいらっしゃるでしょうが、今回は、あくまで皆さんの作戦次第ですが運転技術はあるに越したことはないでしょう。 逆に、何かしら罠を仕掛ける等して競走せずに戦う術も考えられますね。 みなさんの創意工夫に期待しませう」 ●赤と黒 翼竜と稲妻。 赤と黒は連続してダイヤのスートを描くように障害物たる車両を追い抜かす。 並走する二台。 火炎は猛り、電流は迸る。 『鬱陶しいンだよ義理チョコ野郎がッ! 消し炭にするぞ!』 翼竜の頭を象ったフロントカウルが首を掲げ、口腔に光輝を集束、真横に放射した。 急減速、黒き稲妻がかわす。 縦一閃、翼竜のレーザーによってアスファルトの道が、路側帯の電話ボックスが真っ二つに焼き切られる。 直線ではレッドドラグーンがやや優勢か、グングン距離を離す。 『……うるさいよ、お前』 カーブを曲がる。 ブラックサンダーの車体が瞬く。スローイン・ファストアウト。まさに稲妻の如く、V字を描いてカーブを抜け、紫電を纏ってレッドドラグーンの横っ腹に激突せんとする。 『チッ! 燃やす! ゼッテェ燃やすぅっ!』 翼竜は間一髪で急減速でかわして後退、黒雷にリードを許す。 一進一退の攻防。 その後を、十数台の幽霊暴走族が爆音をあげて追走する――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:カモメのジョナサン | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月01日(木)22:18 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「Attention, please!」 排気に濁る夜闇の中、群れなす鉄馬は我が物顔で爆音轟かせる。 藤代 レイカ(BNE004942)は大業物の切っ先をかざした。 「皆様、前方に見えますは珍走団エリューションでございます」 ポニーテールは夜風と踊る。狼の耳は高速道に生じる強い風圧に負けじと立っていた。 レイカは今、トラック運転席の屋根上に佇んでいた。面接着。滑り止めシューズのみでは到底なしえない安定感で微動だにせず。 現在、アークの一行は後方より鉄馬の群体を追いかけるべく、SAから上り車線へ侵入を行い、最後尾との接触まで車間にして約200mを切っていた。 作戦の要、足場としてオフロードトラックのハンドルを握るのは銀髪碧眼の少女だ。 「珍走団、ね。確かに死後まで暴走行為はやめてほしいよね、色々あったにしたって」 『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)の硝子玉じみた瞳に電光が走る。 彩歌の視神経上では、拡張現実――ARとカーナビ、さらに熱感知センサーが並列展開されている。論理演算機甲χ式「オルガノン Ver2.0」、その端末のひとつ「i-Ris」のGPS機能を最大限に活用、地形情報や熱反応を可視化している。 『六芒星の魔術師』六城 雛乃(BNE004267)はもうひとりの同乗者だ。 「うっかり道路に落っこちたりしませんよーに」 六芒星の杖をぎゅっと握って、雛乃は落っこちたりしないよう荷台の中央で構える。 靴は滑り止めつき、視界は光学HMD型暗視グラスで確保、砲撃戦用意は万全だ。 「……メカヒナノ」 「ふえ?」 レイカのつぶやきに、栗鼠みたく小首を傾げるHMD6-Jヒナノ(殲滅型)であった。 ● 「相対距離70、60、50……大胆無敵、フルスロットル!」 『Nameless Raven』害獣谷 羽海(BNE004957)は愛車「HerausfordererⅡ」のアクセルを一気に踏み込み、加速した。 羽海は自らの漆黒の翼によって飛行の応用で空力制御を行い、鉄馬を乗りこなす。 「無茶すんなよ羽海! お前エンジンの掛け方も知らなかったんだからな!」 『野良リスタ』シャルン・S・ホルスト(BNE004798)も同じく、白き翼(とツインテ)を制動に用いる。突出はせず、速度は周囲に合わせて控えめだ。 シャルンは若干11歳、ともすれば脚が届くのか不安になる槍術使いの少年だ。しかし羽海がそうであるように、外見や年齢でリベリスタの実力は計れない。 『空色の飢獣』スォウ・メモロスト(BNE004952)は黒の外套を棚引かせ、並走する。 空色のみつ編みに隠れる尖った耳はフェリエの証。しかし奇抜なるかな、素肌にぴったりと密着する衣装は踊り子の衣と学生水着を兼ね合わせたいでたちは貞淑な模範的フェリエ像とは異なっている。それでいて、浮き出た脇骨とポッコリとしたイカ腹といった幼児体型というアンバランスさ。 胴体よりも刃渡りの長い豪快なアックスを左腕のみで握り支えて、片手でバイクを操るスォウの姿は異様だ。 「みんな、大丈夫。蒼乃教官と、特訓、頑張った。初心者、卒業済み」 「ああ、そうだな! 忘れないぜ! あの地獄の特訓を!」 スォウの双眸に映るのは遠く夜空に映写された、思い出。 「教官の死、無駄に、しない」 「ああ、そうだな! って死んでねえよ!」 「少し、残念」 「……ああ、そうだな」 DDS講習での特訓なくして、経験皆無の若年組の実戦レベルでの運転技術習得はなしえなかったことだろう。ましてや、ごく短期間でだ。――お察しください。 ● 「先手必勝の全力魔砲撃! マレウス・ステルラ!」 先陣を切ったのは雛乃であった。 六芒星の杖を掲げる。術杖の魔力循環高速化と圧縮詠唱展開法、魔術師として六城 雛乃の追求した魔道の道の結実は、本来は不可能といえる最大級の魔術を瞬時に発現させる。雛乃は守備を捨て、電光石火の速攻と極大の殲滅力に賭けているといって過言でない。 彩歌はアクセルを全開、遂に亡霊暴走族の最後尾、デュラハンレーサー達に迫る。 遂に射程圏内に捉えた刹那、魔光が瞬く。 夜天に描かれた六芒星の魔方陣へ目掛けて、一条の極大魔光が熾烈に迸った。 銀月、昇る。 首なし騎兵はありもしない頭を夜空に向け、あるとすれば驚愕の表情を見せたはずだ。 銀月の涙。 六芒星の一滴に絆されたが最期、断末魔のひとつもなく、鉄馬の騎手は夜闇に還る。 「よしっ!」 雛乃は直撃した見事四騎を葬る。 アーク一行が心躍らせた次の瞬間、彼らの目の前は“文字通り”真っ暗になった。 合図と共に一斉に『黒幕』がコース上に拡散されたのだ。 雷電轟く黒雲に視界が奪われることは想定済み。が。 「きゃあっ!」 「逃げ場がないっ!」 彩歌のトラックが為す術なく黒雲に呑まれた。雛乃とレイカが苦悶に耐える。車上の狭く不安定な足場では、黒雲を回避することはまず不可能だ では、バイクならば――。 『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)が選んだのは正面突破だ。 「このまま突っ切るぜ! 下手にスピードを緩めたり回避するのは逆に危険なはずだ!」 「黒幕が出ても、焦らない。追い越すつもりで、突っ切る」 スォウもまた油断せず、直前までの車間配列を記憶して一気に加速した。 しかし不意にフツとスォウを、“痺れ”が襲った。 「こ、こいつは……」 「身体、言うこと、利か、ない」 黒幕の雷電だ。 殺傷性こそ乏しく痛みすら乏しかったが、気づいた時には全身の自由が失われている。かろうじて運転などはできようが、自ら攻勢に打って出るのは困難な状態に陥った。 黒幕の効力が視界潰しのみならば正面突破は有効であった。しかし接触した時点で時間の長さはどうあれリスクを伴う。そして黒雲はブラックサンダーとカミナリオコシ、計三騎によっての巧妙な波状攻撃となっていた。 が、黒雲にはひとつ大きな欠点がある。殺傷性が皆無で妨害に特化している点だ。 『レーサー気取りも程々にしなさい、そこの珍走団!』 『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)が一躍、黒雲を貫き敵陣へ。 聖骸闘衣を纏い、英霊の加護を得た彩花は燦然と光輝いていた。 発光だ。 強烈な光によって夜闇を払い、黒雲の視界不良を排除こそできないものの光源の確保によって間接的に黒雲と暗闇を分離させ、回避しやすくした。 そして彩花の第一声、言霊――アッパーユアハートは亡霊暴走族団を大いに揺るがす。 怒声代わりに排気を唸らせ、一騎のデュラハンレーサーが彩花と並走、大剣を振り下ろす。元は以前に撃退したリベリスタの所持する破界器、ただの鉄塊ではない。 屍人の異常な膂力に裏打ちされた一撃は、重い。 「軽いですね」 されど、大御堂 彩花の“重さ”には及ばない。 ガントレット「雷牙」を盾に一撃を捌く。バリアと聖骸闘衣の二重守護がある限り、生半可な攻撃では彩花の柔肌ひとつ傷つけられない。 しかしこの戦いはバイク上での攻防、普段通りとはいかない。愛車レンダーバッフェの車体が衝撃にぐらつく。が、彩花は即座にハイバランサーの異才で立て直した。 自陣の大半が黒雲の麻痺が癒えぬ最中、もうひとりの“彩”が動く。 絶対者に小細工など通用しない。 「エンネアデス、Mode-Assault!」 不鮮明な視界を熱感知AR連動によって補い、彩歌は制服に組み込まれた九つの補助演算機構を介して幾重にも気糸を展開、黒き稲妻を中心に解き放った。 正確無比な数多の敵を貫き、浅からぬ傷を与えた。が、黒き稲妻のヘルメットとボディを繋ぐ“首”を弱点とみなしての一撃は不完全に終わる。 気糸を晒せば、彩歌に狙いが集まる可能性があった。ソレは車体の頑丈さでカバーできる。そう踏んで、あえて攻撃に打って出たのだ。 『消す』 火竜、猛る。 『消す、消す、消す、消し炭にしてやる! 殺したンだよテメェが俺を! そのビードロ目ン玉をバーナーで炙って目玉焼きを奢ってやんぞアマッ!』 激高したレッドドラグーンは吠え狂い――、一気に減速した。 急激な減速は、即ち、一瞬にして最前列から最後列へ移動することを意味する。 ドラグーンカウルの顎戸が開く。 集光、咆哮、縦一閃。 一条の紅糸が瞬く。糸楊枝で羊羹を切るかの如く、トラックは一刀両断されたのだ。 運転席と助手席、車両の左右が泣き別れになる。 「!」 「わわわっ!」 「嘘でしょ!」 紙一重だ。直前に回避運動を入れていなければ、今頃は運転席の彩歌、また当たりどころが悪ければ雛乃とレイカが直撃を受けた可能性もある。切断面は赤々と焼き切られ、蒸発している。この威力の絶大さは想定の範囲外。――逆鱗に触れてしまったようだ。 雛乃が左半分に取り残されたまま、ゆっくりと右半分は離れてゆく。 「え、え、ちょっと待って!?」 左半分が横転、盛大にクラッシュ。コロコロ、パタンとタイヤが倒れた時にはもう雛乃ひとり置き去り、皆トンネルの暗闇に消えていた。 ぽつーん。 「……あれ?」 ● 戦況は一進一退。 されどやや劣勢で推移した。 予備車両を持参していた彩歌とレイカはトラックを放棄、乗り換えて戦線に復帰する。 作戦の柱は、彩花への攻撃誘導と彩歌のトラック運転にあった。 しかしトラックは真っ二つ、彩花の挑発もまた彩歌への激高によって有効性が薄れる。 勝機を得るには第三の柱を要した。 藤代 レイカのラリーカー、その五臓六腑といえるエンジンルームに無慈悲にもデュラハンレーサーの豪腕がねじ込まれた。心臓部に風穴を開けられてクラッシュ寸前。この時、レイカは思い出していた。DDSでの、過酷な訓練を。そこで得た、秘策を。 「――やれる? 失敗したら台無し、でも」 無残に失速する愛車の無念を胸に、レイカは決意する。 「いえ、やるしかない!」 跳躍。 ボンネットが衝撃に凹む。 烈蹴。 レイカ渾身の飛び膝蹴りはデュラハンレーサーの胸倉に叩きつけられた。 屍人は強烈な衝撃にバイクの車上から弾き飛ばされかける。が、持ちこたえた。通常のノックバックでは車体ごと敵が動くだけだ。 が、もしバイクを足場にして運転手のみと戦えるとしたら――? 「自動車保険――」 藤代レイカは太刀を携え凛と佇む。ほんのわずかな面積の、バイクの荷台の上に。 「下りなかったらどうしてくれるの」 横一文字に叩き斬る。片腕を切り捨てたところで刃は止まるが、それを支点に今度こそ屍人を蹴落とした。 コレだ。即座に敵のバイクを奪い、レイカは戦線に復帰する。面接着あっての芸当だ。 「そうか! 敵の技はどれもバイク頼み! 車上の敵には対処できない! 考えたな!」 フツは唸る。コドラグーンのレーザーを鮮やかにかわすと、新たな作戦を皆に伝えた。 反撃開始だ。 囮役は彩歌と彩花、フツはフォロー役、スォウは撹乱役だ。残り3名は攻撃役だ。 「私の首はこっちよ!」 『……落とし前は、つけさせてやる』 前方に躍り出た彩歌のバイクに追い縋るべく、黒き稲妻はカーブを狙って必殺走法ブラックカッターを仕掛ける。彩歌もまたルーラータイムで応戦するが直撃は狙えず。 しかし、これでいい。黒き稲妻の前方に標的があれば、必然、黒幕は使えないからだ。 赤き翼竜が追い打ちレーザーを狙った刹那、フツの魔槍深緋が見事に騎手を貫いた。 「今日の為に練習してきた槍捌きだ、それでも足りなきゃ念仏もつけるぜ」 『があああああっ!』 凍てつき氷結する赤き翼竜を力強く蹴飛ばしてやる。接触を避けようと小翼竜の隊列が大きく乱れた。 囮役として彩花が対処するのは赤4黒4のフェーズ1だ。 言霊は玲瓏の音色だ。 『自動車産業にも多少は関わっている身の上として暴走行為は正直褒められたものではないのですが……彼らの勝負に真摯な気持ちは確かに本物だったのでしょうね、そこは私にも理解出来なくもないです。 けれど八つ当たり同然の復讐は、その勝負への想いを自ら汚すことですよ』 核心を突くことは時に底浅い罵倒より、強く相手の心をかき乱す。 『ショウブ』 フェーズ1が言葉した。激しい攻勢の中、確かに嘆き言葉していた。 『アオノ、ミテタ』 「蒼、乃……?」 『アオノ、ナカセタ、ユルセナイ、アイツ』 彩花には察しがついてしまった。アオノがもし、蒼乃教官だとすれば――。 ● 漆黒解放。 闇を纏い、黒に染まり、シャルンのバイクは再び異形と化す。悪魔的フォルム、流動する表面装甲は星空の光を散りばめたようだ。 彩花に群がる小翼竜を狙い、シャルンは強襲した。 「俺に出会った不運を呪え!」 二台が並走するや否や、シャルンの漆黒二輪駆は影の鎖を伸ばして二台を繋ぎ止める。 呪刻剣。 車上にシャルンはスピアを携えて飛び移る。ふわり、天使の翼は白々しいほどに軽やかで、死を告げにきたと思わえぬほどに無垢である。そして胴と頭の繋ぎ目、喉元を抉り裂いた。重槍に纏う漆黒の闇は螺旋に逆巻き、魂魄を貪る。 「カーチェイスって恰好いいよな、何か」 復讐心に染まった黒き稲妻の幻想を睨めつけ、少年は語る。 「俺、もっと大きくなったら、バイクでいろんなところ行ってみたいんだ。でも――」 重槍の矛先を、向ける。 「ルールは守んないとダメだぜ」 スォウの鉄馬が嘶いた。 「力、比べを、しよう!」 真横からの強烈な激突を食らい、カミナリオコシがバランスを崩す。 「さあ、不運と踊ろうか」 その隙を突き、闘志の炎を纏った羽海は車上に座す首なしライダーに更に衝撃波を伴う突進で逆サイドから追撃、そのままトンネル壁面に押さえつけ、火花を散らしながら車体ごと高速で削り下ろした。 ● 紅、走る。 幾度目かのレッドレーザーが遂に彩歌を貫いた。 車両はコースアウト、路側帯のガードレールに激突する。 致命傷はかろうじて避けた、そう分かっていたとしても地獄の苦しみだった。焦熱溶断された骨肉や臓腑の端くれが訴える痛みは処理しきれぬエラーとなって彩歌を襲った。 「っ! ああああああああああっ!!」 既に彩歌は限界寸前だ。今にも意識が途切れかねない。運命を燃やして再起したとて焼け石に水であろう。 「彩歌さん!」 聖骸凱歌。彩花の呼びかけに応じた英霊の御霊が光をもたらす。急速に傷は癒えてゆき、彩歌を蝕む業炎も去った。それでもまだ危険域を脱しきってはいない。 『……騒ぐな』 トドメを刺すべく黒き稲妻が疾駆する。サンダーカッター。絶体絶命の窮地だ。 「させ、ない」 スォウの鉄馬が側方より衝突、教官秘伝の両手離し運転法を試み、重厚強靭なアックスを黒き稲妻めがけて真横に薙ぎ払った。 『……ふんっ』 空振り。しかし。 「前や、横だけ、見てるよ、危ないよ!」 アックスを手放して遠心力で勢いをつけ、前輪を支点にぐるんと回る。後輪ホイールが地を滑り、黒き稲妻のタイヤを真下から救い上げ、跳ね飛ばした。 『ぐっ』 即座に態勢を立て直そうとした一瞬の隙を、羽海は見逃さない。 猛然と迫撃、アクセルクラッシュが炸裂、より大きな隙をこじ開けた。 「ごめんね、うみはレースの素人だけど殺し合い(こっち)は少し経験あるから」 流れるように連鎖はシャルンへ。 「ここから先は――」 黒馬に跨る暗黒の騎士が如く、愛槍を突撃槍としてシャルンは鉄馬と駆け抜ける。 「行き止まりだ!」 黒と黒。 交差する影、一瞬の永き沈黙。 「ぐっ」 片膝を着き、シェルンは血を吐いた。反動だ。 『なぜ』 黒き稲妻は月夜を呪う。 『なぜ、なぜ勝負の……邪魔を……!』 呪刻槍の刻印が告げる、黒き稲妻の消滅を。 『殺シテヤル…!』 安堵の間もなく、激高した赤き翼竜は炎翼を羽ばたかせた。 翼竜天翔。 灼熱の翼はあらゆるすべてを焼き捨てんと煌々と燃え滾る。その熱量は尋常でない。これはもはや、本来のレッドドラグーンのキャパシティを度外視した自滅必至の自爆技だ。 『アオノヲ、クロイヲ、オレヲ、返セ』 「くっ、完全に暴走してやがるな!」 呪印封縛。フツは即座に動く。 一寸一秒でも早く、早く、早く。正確に。 「残念! この逆境は燃えてやれねえな」 四重、四神結界によって翼竜天翔が封じられる。刻一刻、印が焦げ落ちゆく。 「長くは持たん! トドメを頼むぜ!」 「私が――!」 彩花により聖骸凱歌の英霊の力を借り受けた今、彩歌は一撃は終止符たりえる。 が、灼熱に歪む空間の中、暴れ狂い、熱反応も役立たぬ標的に必殺必中を狙えるのか。 彩歌は朦朧とする意識を奮い立たせ、演算処理能力を限界まで酷使して最適解を――。 「早く!」 レイカは叫ぶ。全速力で鉄馬を走らせ、火達磨と化した赤き翼竜の車上に自ら飛び乗り、本体を羽交い締めにしたのだ。絶え間なく業炎が身を焦がすことも省みずに。 「ッ!」 貫く。 極細の気糸に射抜かれたのは赤き翼竜の急所、ヘルメットとスーツを繋ぐ霊体の首だ。 この皮肉といえる結果こそが都市伝説、首なしライダーの顛末である。 後日、本E事件の被害者遺族の証言によれば事件現場には差出人不明の、一束の彩り豊かな献花が捧げられていたそうだ。 ● 「ああ、皆さんご苦労様でした」 「はい? 蒼乃というDDSの教官にお礼が言いたい、と」 「……はて、在籍記録はありませんよ、さういう女性は」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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