● 男は三高平公園に居た。風に舞う桜吹雪がなんとも美しいと、ほうと息を漏らした。 そのなかをひらりゆらり、ゆったりと白い蝶が飛んでいる。 ああ、春だなあ。そんな穏やかな気持ちに包まれて、思わず頬が緩む。 けれど。ふと見回すと、どうだろう。あちらにもこちらにも、多くの蝶が飛んでいる。 右を見ても左を見ても、同じような蝶がひらひら、ひらひら。 少し多すぎやしないか。ふと感じる違和感。それはただの蝶とは少し違うようだった。 その蝶は、ほんのりと光っているように見えるのだ。見間違いだろうか。よくよく見てみる。 その時、ふわりと男の頭上を蝶が通過した。蝶を見上げれば、やわらかな光が注いでいた。 先ほどよりも強く、穏やかな気持ちに包まれて。男はそのまま芝生に腰を下ろした。 ● 「………と、言うわけなの」 資料を纏めた『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)が、リベリスタたちの顔を見つめる。 背後のモニターには、見慣れた三高平公園が映し出されていた。 桜吹雪、白い雲に青い空。暖かそうな日差し。芝生にはタンポポがひとつ、ふたつ。春ですね。 「つまり、その蝶の鱗粉を浴びるとなんだか幸せな気持ちになって脱力してしまう、と」 こくり。イヴが真面目な顔して頷いた。モニターの画面に、ぱっと白い蝶が映し出される。 E・ビースト『パピヨンクイーン』。 見ての通り、蝶のE・ビーストである。凶暴性は無い。個々の能力も強くは無い。 けれど、数が多い上に、なんだか思わず花見にでも行きたくなってしまう鱗粉を振り撒く。 その鱗粉を浴びた者はそれが平日であってもどんなに急いでいても、思わず足を止めてしまう。 新学期も始まったというのに。新年度も始まったというのに。 ぴかぴかの新入生や新社会人。彼らがもし鱗粉を浴びて思わず花見を始めたら。 その後の人間関係などに亀裂が入るであろうことは確実だ。 ブリーフィングルームに集まったリベリスタたちの表情はどこか暗かった。 この話の流は、アレだ。アークにはよく持ち込まれるそういうお仕事だ。 体力をすごく使い、なんやかんやで大変な目にあって、ハイライトが奪われる、アレだ。 そんなリベリスタたちの考えを読み取ったのか、イヴが僅かに微笑んだ。 「全部捕まえるのも、作戦のひとつ。もうひとつ、作戦がある」 イヴの言葉に、リベリスタたちがぱっと顔を上げる。 ちゃり、と音がして、イヴが何かを摘まんでいる。蝶だ。蝶の飾りがついたストラップだ。 「仲間だと思うのかな。なんでもいいけれど、蝶モチーフの何かがあると、それに寄って来る」 多くの『パピヨンクイーン』が集まる場所には、惹かれるようにして集まる習性があるらしい。 何かを言おうとしたリベリスタの言葉を遮ってイヴが告げた。 「でもね、ひとつだけ問題がある。 ………集まると、合体して、強くなる。すっごく強くなる」 合体した『パピヨンクイーン』は、戦闘能力も鱗粉が振り撒く脱力具合もケタ違いに跳ね上がる。 「みんなにお願いしたいのは、エリューション・ビースト『パピヨンクイーン』の討伐。 取り逃がすと、影響力が小さいだけに万華鏡を使っても捉えることが難しい。 ………たくさん逃げたら、話は別だけど。みんななら大丈夫って、信じてるから」 骨は折れるかもしれないが、一頭ずつ倒すか。それとも大きくなった蝶を討伐するか。 「それは、みんなにお任せする。……あ。みんなも思わず脱力しないように気を付けてね」 よろしくね、とイヴは手を振ってから、ブリーフィングルームを後にした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:あまのいろは | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年04月25日(金)22:32 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● うららかな日差しが降り注ぐ三高平公園。思わず日向ぼっこしたくなる気持ちも分かる。 けれど今日は平日で。もう新学期も始まって暫く立つ訳で。そんな平日、しかも真昼間から公園でごろごろ怠惰に過ごすことが出来る人なんて、そうそういない筈なのだ。 では、どうして唯だらだらぼうっと過ごす人が、こんなに多く三高平公園に集まっているのだろう。 ひらり、ひらり、ゆらり。 その『原因』が『暁』富士宮 駿河(BNE004951)の目の前を横切っていく。駿河は深い溜息を吐いた。 「………あぁ、これが噂によく聞いてた類の依頼なのかね」 彼が革醒に至ったのは、つい先日のこと。アークが生み出した新しい力の形、アークリベリオンに目覚めた彼の経験はまだまだ浅い。だが、ちょっとアレな『そういう』依頼の話は彼の耳にも入ってきていた。 「油断したらいけません、簡単なお仕事じゃ無いですよ! 頑張りましょう!」 その言葉は、果たして駿河に掛けたものなのか。それとも自分に言い聞かせたものなのか。それは『ニケー(勝利の翼齎す者)』内薙・智夫(BNE001581)にしか分からない。 けれど、その言葉と反対に智夫の表情は、硬いというより無表情で、どこか遠くを見る瞳に光が無い。 そうなの、智夫は『そういう』依頼の常連さんなの。だからどうか、そっとしておいてあげて。 「春っていいわよね、ポカポカ陽気が本当に素敵! お家でゴロゴロお昼寝していたくなるわ」 「ソラ様、それは本当に春だからですか? 本当に陽気のせいですか?」 「え? ……き、気分よ、気分!!」 ぐっと背伸びをしていた『そらせん』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)は、『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)の言葉に思わずびくりと振り返った。 「普段から心に余裕を持ってるだけよ。ちょっと脱力するくらいならいつも通り、いつもどーり!」 ソラはえへんと胸を張ったが、それは果たして本当に、本当に本当に大丈夫ですか、ソラ先生。 人々が怠惰になる『原因』。それはE・ビースト『パピヨンクイーン』のせいだった。 ひらひら宙を舞うその姿は、決して強そうには見えない。寧ろその逆。春の陽気にひらひら飛ぶ蝶のE・ビーストなんて、話だけでは思わず気が抜けてしまうものである。 「群体のE・ビーストとは厄介だね。しかも春の陽気を具現化したような能力だ」 ぼうっと遠くを見る一般人を横目に、エイプリル・バリントン(BNE004611)が困ったように笑う。 情報によれば、数は群体で20頭と聞いている。エイプリルがぐるりと見回しただけでも、パピヨンクイーンの姿を確認することが出来た。ひらひらと光る鱗粉を振り撒きながら飛んでいる。 「ハッピーになれる粉って危ないヤツじゃないですかー! ……なーんてね」 小島 ヒロ子(BNE004871) が道端に座り込んでいた一般人をずるりずるりと物陰に運んでいく。 ヒロ子は長年の巨大ロボ燃えと妄想が高じて革醒した訳だが、彼女は元ブラック企業お勤めOL。アークに転職することが無ければ、この男性と同じように今頃リベリスタに引き摺られていたかもしれない。 「やっと春になって、楽しい事が沢山あると思いましたのに……」 ふたつに割れたふさふさ尻尾が垂れると同時に、元々垂れている耳も更にしょんぼりと垂れた。 「アークに所属した時点で忙しいのは諦めていますので、……頑張ってお仕事に勤しみましょう」 嗚呼、こんなに天気も良く、桜もこんなに綺麗。それに、誰よりも愛おしい貴方も傍にいるのに。 『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)は、隣に立つ『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)をじいと見上げる。 それに気付いた櫻霞は、櫻子を見つめ僅かに微笑んだ。そして彼女の頭をぽんぽんと優しく撫でる。 先ほどまで項垂れていた尻尾と耳が、嬉しそうにピンと持ち上がってはたりはたりと揺れ動いていた。 「所詮は他人の人生のことだ。成績だの人間関係だの、細かいことは正直どうでもいい。 しかし如何に凶暴性が無くともエリューションはエリューション。存在こそが害悪だ、それ故に殲滅する」 櫻子の頭からそっと手を離すと、櫻霞が千里をも見渡す瞳で周囲を見回す。冷静沈着で感情の起伏が乏しい彼だが、敵性エリューションに対する憎悪は人一倍に強かった。 真剣な眼差しで1頭、また1頭とパピヨンクイーンを探し出していく彼に、櫻子がそっと寄り添う。 「ええ、櫻霞様。櫻霞様の望みが私の望み。櫻霞様の為ならば、櫻子はなんでも致しますわ」 春の風が櫻子のやわらかい髪をふわりと浚って、すり抜けていった。 ● ちゃらり。ポッケから垂れ下がった蝶のストラップが、駿河の動きに合わせて舞っている。 それに引き寄せられるようにして1頭のパピヨンクイーンがふわふわと近づいてきた。 「同じ新人として連中の今後の人生に亀裂が入るって言うのも、他人事に思えねーんだよなっ!」 迎え撃つ。大振りの太刀がパピヨンクイーンに向かって振り下ろされた。けれどパピヨンクイーンはふわふわと力無くその太刀筋をかわした。駿河の太刀は羽を僅かに掠めるのみ。 「ちっくしょ! ……にしても、考えれば今回前に出て動き回ってるの俺だけか?」 はたと気付いた駿河が辺りを見回そうと、振り返ろうとしたその時。 「逃がさないよっ!」 先ほど取り逃がした1頭のパピヨンクイーンが急激にやせ細っていく。 にんまり得意げな笑顔を浮かべるソラが、パピヨンクイーンを差した指先をすっと下げる。精神力を絞り取られ萎みきったパピヨンクイーンは、地面に落ちる前に粉々に砕けてしまった。 続いて一筋、二筋、三筋、と。続け様に飛んできた弾丸が、鈍い光を放ち駿河の横を抜けていく。 パピヨンクイーンの片羽を貫いて、近くを飛んでいた数頭も巻き込む弾丸の雨。全ての弾丸が当たることは無く、全てを落とすことは叶わない。けれど確かに、パピヨンクイーンへの攻撃は届いていた。 弾丸が飛んできた方向へ駿河が振り向けば、重い鋼鉄の右腕をゆっくりと持ち上げるモニカの姿があった。銃口からは、白く細い煙がゆらゆらと昇っている。 「もし間違って当たったらどうするのー。人のいるところで銃ぶっ放しちゃダメだぞ!」 「大丈夫です。当てる気だったら絶対に外しませんよ」 殲滅式四十七粍速射砲に新たな弾帯を取り付けるモニカが僅かに、ほんの僅かに微笑だような気がした。駿河の背に、思わず悪寒が走ったのは言うまでもない。 モニカが人目も憚らずハニーコムガトリングを撃つことが出来るのには理由がある。櫻霞が陣地作成を行っていたのだ。パピヨンクイーンを全て探しだすのには、少し時間は掛かってしまったけれど。 「取り零しは無いと思いたいな」 基本的には一般人を排除し、陣地内を魔術師のみの空間とするのがこの魔術だが、幸いにもパピヨンクイーンの知能は決して高くない。いつか逃げ出す危険性はあるものの、陣地内に全てのパピヨンクイーンを納めることには無事成功した。 「逃げられると後が面倒だ、悪いが此処で殲滅されてもらおう。 殲滅戦なら専売特許だ、伊達に射手を名乗ってる訳じゃないんでね」 色違いの瞳が、パピヨンクイーンを見据える。気高き鷹の目は、獲物を決して逃さない。 「ひらひら飛ぶ蝶を追いかけるとか、傍から見ればほほえましいかもしれないれど」 追われているのはどちらのほうかな、と。彼女が放った式符・鴉と、髪に留まった蝶の飾りに集まってきたパピヨンクイーンを見てエイプリルは呟いた。 合体しない程度を引き付けるようにしていたが、多くのパピヨンクイーンが彼女の周りを飛んでいるのだから、降り注ぐ鱗粉の量も多かった。毒に苛まれた身体は痛み、ぐらぐら頭の中が揺れる。 ぐらぐら揺らぐ意識に、エイプリルが思わずすべてを委ねてしまおうかと思った、その時だった。 「痛みを癒し……その枷を外しましょう……」 静謐なうつくしい声が聞こえる。瞬間、清い辺りを包み込んでいった。エイプリルの混迷しそうになる意識を呼び戻し、傷を受けたリベリスタたちを櫻子が癒す。 「ありがとう、助かったよ」 「お礼を言われることではありませんわ。私のことはお気になさらず。私には櫻霞様がおりますから」 櫻霞の一歩後ろに立つ櫻子は、淡い笑みを浮かべている。 彼女にとっては彼こそがすべてなのだ。それは戦闘中でも揺らぐことはない。毒の鱗粉なんてそんなもの、櫻子にとっては恐れるに足りない。だって傍には彼がいるのだから。 「ヘイ!仲間だよ!大嘘だけどな!」 ばっとジャケットを開き、Tシャツに描かれた蝶を顕わにする。それに釣られて近づいてきたパピヨンクイーンを見たヒロ子の顔が思わず引き攣った。彼女は蝶や蛾が苦手だ。 いくら蝶は美しいだの言われても、蝶も蛾も同じに見える。苦手意識はそう簡単に拭えない。 「うおぉ。やっぱ気色悪いなキミ達……。……うわあああん、来るなってばー!」 思わず回れ右のUターンをして逃げ出したくなる気持ちをぐっと抑える。重火器を握りしめると、パピヨンクイーンに向かって、ヒロ子は躊躇い無くハニーコムガトリングを放った。 いやだって蝶とか蛾とか、すっげー苦手だし。もし近づいて肩に止まろうものなら卒倒ものだし。 弾丸がパピヨンクイーンの胴を貫き落ちる。なんとか避けたパピヨンクイーンは、ぼろぼろになった羽でヒロ子の前から飛び去っていく。 その様子を見て思わずふうと息を吐いたその時、じくじくとした痛みが身体に広がった。そう言えば身体が重い気がする。いつの間にか随分と毒の鱗粉を浴びてしまったようだ。 「ヒロ子さん、大丈夫ですかっ?」 そんなヒロ子のもとへ、ふわふわやわらかい空気を纏った智夫が、てててっと駆け寄ってきた。 けれど、今の彼は智夫であって智夫ではない。今の彼は『ミラクルナイチンゲール』。 常に智夫の中に居て、必要とあらば現れる。影ながら彼を支える存在、ミラクルナイチンゲール。 どうして彼女が呼び出されることになったのか。少し時は遡る。 これ以上被害者が増えぬようにと強結界を張った智雄は、そのまま芝生の上に倒れ込んでいた。 「簡単ナオ仕事ジャナケレバ、精神ヲスリ減ラス事モナイシ、ヤリ遂ゲルヨ。 大丈夫大丈夫大丈ブダイジョウブダイジョウブダイジョウブダイジョーブ……」 そう唱えるように呟く智夫の姿は、全く大丈夫に見えない。寧ろ誰が見ても分かるくらいに、駄目だ。 けれど突然、ぱっと起き上がった智夫の様子は先ほどまでとは打って変わっていて。 「まったくもう!智夫さんってばダメな人ですね! また私がフォローしなくちゃじゃないですか! 仕方がないので、私、ミラクルナイチンゲールが、智夫さんの代わりに任務を遂行いたします」 瞳は死んだ魚のような目ではなく、きらきらと輝いていた。名誉女子の名前は伊達じゃない。 そう、「簡単なお仕事」に対する根深いトラウマが、鱗粉を浴びた訳でもないのにミラクルナイチンゲールを呼び出したのだった。 「はいっ、もう大丈夫ですね」 ヒロ子の身体を苛む毒を打ち消すと、智夫ことミラクルナイチンゲールは愛らしい笑顔を振り撒く。 「ありがとう。 …………ああ、これが女子力ってやつなのかな」 ぽそり、とヒロ子が呟く。身体の傷は治りましたが、心の傷は抉られました。 ● 「えーっと。今までに10頭落としたのかしら。さっき駿河も1頭落としてたわよね。あってる?」 「あってるあってる。大丈夫だぜ。まったく何処の虫取り少年だよ、俺らは!」 ソラの言葉に応えた駿河が、くあと思わず大きなあくびをした。 櫻子や智夫が分担して回復を行っているため、ダメージやバッドステータスを受けても大きな被害が出ていない。けれど、 ソラは幾度とエナジースティールを繰り返し、パピヨンクイーンを狙っていた。くしゃりと萎れた羽で飛ぶパピヨンクイーンを智夫がナイチンゲールフラッシュで貫いた。残るパピヨンクイーンは8頭。 陣地作成が効いているのか、パピヨンクイーンたちは逃げたくとも逃げられず、ただ陣地のなかを飛ぶばかり。 パピヨンクイーンが殲滅されるのも、時間の問題かと思われた。 けれど、少しだけ。ほんの少しだけ、運が悪かったのだ。 陣地を維持するため詠唱を始めたようとした櫻霞を、パピヨンクイーンの鱗粉が襲った。ぐらんと意識が歪み、詠唱が途切れる。間に合わない。 空間が一瞬、ぐにゃりと歪んだような気がした。暫くすると公園の芝生に寝転がる人々があちらこちらに現れ始める。陣地が解かれてしまったのだ。 逃げるには最大のチャンスだと、パピヨンクイーンも本能で感じとっているのだろう。パピヨンクイーンたちが一目散に空へ昇ろうとする。 リベリスタたちが蝶モチーフのものを見せつけるが、パピヨンクイーンは見向きもしない。数が減りすぎたのだ。空へ、空へとパピヨンクイーンが昇っていく。 パピヨンクイーンは飛行のペナルティを受けない。これを逃したら、追いつくことは出来ないだろう。 「万華鏡でも捉えられないのと、追いかけっこはごめんだね!」 逃げた先は空だ。そこにはパピヨンクイーン以外には誰も居ない、巻き込まれることも無い。エイプリルは躊躇わず、パピヨンクイーンに向かって光の塊を投擲する。 一瞬にして強烈な光が弾けた。目を開けることすら難しい光に向かって手を翳し、それでも、と。何とか目を凝らしてその姿を探す。 ―――――いた! 3頭のパピヨンクイーンの動きは鈍くなり、その場に留まるようにして飛んでいるのが見える。 5頭のパピヨンクイーンはひらりひらりと、光のなかへ溶けるように昇っていくところだった。 もう、届かない。誰が全力で追いかけても、射程一杯に狙ったとしても、もう、誰も。 光のなかへ消えていく様子を、リベリスタたちは見つめることしか出来なかった。 残る3頭は、モニカとヒロ子の弾丸が撃ち抜いた。もうこれ以上の追撃が不可能だというのならば、他にもしなければいけないことをするだけだ。 リベリスタたちは、負傷した一般人がいなかったかとぐるりと辺りを見回す。パピヨンクイーンによってぼうっとしている人は未だ居るが、きっと明日には治ることだろう。 「大丈夫そうですね。アークお膝下の三高平市内なら神秘に対する言い訳も特に必要無いでしょう」 「そうねー。じゃあこのまま放っておいて。……さーて、帰ってお昼寝しましょう。 こういう天気の良い日に、あえて家で惰眠をむさぼるってのも悪くないものよね」 「怪しげな蝶に惑わされたのも物騒なメイドが暴れ回っていたのも、何もかもが春の日の中で見た白昼夢ですよ」 絶対に白昼夢ではなかった、と駿河は思ったが決して口にはしない。自分のことを『残念な坊ちゃま』と呼ぶメイドが頭に浮かび、どこの屋敷でもこうなの?とぼんやり感じたがそれは別の話。 ソラは、やれやれと大きなため息を溢してから小さなあくびをひとつ。ふらふらと公園を後にした。 パピヨンクイーンの残骸を忌々しげに見る櫻霞のもとへ、ぎゅ、と胸の前で握った手のひらを解いてそろそろと近づく。 「……帰るか、櫻子」 振り向くこともせず、簡単に告げられた言葉に頷く櫻子の尻尾は、しょんぼりと項垂れていた。 「絶好の花見日和なのになあ……」 「私たちだって鱗粉にやられたんだ。回復まで花見をするかい? 報告は回復した後で」 「私もちょっと休んでってイイかな? ヤケ酒ってことで!昼間から飲んでもいいでしょ!!」 風に舞う桜吹雪、あたたかな春の日差し。遠くでは鳥の声が聞こえる。けれど心は、どこか晴れない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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