● 拝啓、風宮悠月様―― そんな文章から始まった手紙を受け取って、『現の月』 風宮 悠月(BNE001450)は小さく瞬いた。 本文に並んでいた小さな文字は何処か丸みを帯びていて女性的だ。 暫く見なかった文字でも誰のものか判るのは、それだけ『彼女』と共に過ごした時間が長かったからだろうか。 手紙の最後に書かれていた「イイ人が出来たんでしょ? 私も会ってみたいな」の文章に変わらないと小さく笑みが零れる。 招待状の添えられた便箋を畳んで、顔を上げたその先、「悠月さん! 丁度良い所に!」と声が掛けられた。 ●case:01 運命という言葉があるなら、きっとそれは私と彼女の出会いに会ったんだと思う。 窓の外を何時も見てる人がいる。私が友人と彼女のことを話題にしたのはきっと偶然だった。 「あの人……」 「どうしたの? 茜」 「ううん、何でもないよ」 何でもない訳がなかった。ただ、興味を持ったんだ。 周りと少し違った人に見えたから、と声をかけた時、彼女は困った様に笑っていた。 普通の人と何処か違った雰囲気の彼女は周りに人が居なかったから。 一人でぽつん、と窓の外を見ているのが何処か寂しそうに見えたから。 余計なおせっかいだったかな、って一寸思ったけど、もう細かい事は覚えてない。 私にとっての風宮悠月は確かに『一番の友達』だったのだから。 ● ブリーフィングルームに呼び出された悠月の前で資料を両手に抱えたまま『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は「呼び出してごめんね」と困った様に笑う。 「今日はお願いしたい事があったの。ある女性の結婚式にエリューションが現れるのが観測されたわ。 このままだと結婚式は台無しだし、新郎新婦は命を落としちゃう……だからこそ、」 「僕達の出番って訳か」 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)の言葉に世恋は小さく頷く。 先に事情を聴いていたであろう悠月の曇る表情に『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)はどうしたものか、と悠月を見詰めている。 「――……私の友人、なのですよ」 「ゆづちゃんの?」 夏栖斗の問いに頷く悠月に世恋は「偶然ってあるのねえ」と付け加える。 「んで、そのお友達を助けるだけ? BoZがお祝いに歌ってやってもいいけど」 「おっ、イイネェ。歌う?」 楽しげに笑う『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)に頷きながら『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)は壁際に立っていた『無銘』熾竜 伊吹(BNE004197)へと視線を送る。 結婚式。華やかな場所だからこそ、危険な事等早めに終わらせてお祝いをしてあげたいという気持ちが一杯なのだろう。 ふと、何かに気付いた様子で世恋はリベリスタ達へと向き直る。 「悠月さんは御招待されてるのよね? その、結婚式……」 「ええ。招待状を頂きましたから」 「お友達は神秘界隈を御存知の方?」 恐る恐る聞いた世恋に悠月は小さく首を傾げた後、ああ、と小さく声を漏らす。 『一般人の友人』の前で神秘を晒すと言う事は何らかの危険に晒す可能性もある。 もしくは、友人関係を壊しかねない『何らか』があり得る可能性もあるのだ。結婚式を祝ってくれる友人から、危険な存在へと昇格しかねない。 対処の方法は沢山あるだろう。どの様に対処するのか。 そんな意味合いを持った世恋の問い掛けに、悠月は目を伏せて息を小さく吐いた。 「……何にせよ、救うべきは、」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年04月17日(木)22:50 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 麗らかな春。柔らかな陽光を受けながら『現の月』風宮 悠月(BNE001450)は長い黒髪を揺らして居る。 今から友人の結婚式に向かう為、ドレスアップした姿は普段の悠月とは一風変わった雰囲気だが――何処か、その表情は硬かった。 「……結婚式か。何事もなければ、純粋に祝う事も出来たろうに……」 何処か溜め息交じりに吐き出した『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)の言葉に瞬いた悠月が憂いを吐きだす様に溜め息をつく。 「ええ……『何事』もなければ」 悠月の言葉に瞬いて、『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は困った様に肩を竦める。夏栖斗の視線に気づいてか、普段から人好きする笑みを浮かべていた『合縁奇縁』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)がやけに作った様な『大人びた笑み』を浮かべて手をひらひらと振った。 「先にオシゴトしてきますかね」 竜一の背中を見送り、パーティドレスに身を包む悠月は夏栖斗へと視線を配る。 彼女の手に握られた招待状の宛名は『風宮悠月様』。同伴として彼女の婚約者――拓真の出席を求める旨が書かれている。招待客である二人以外が予知された現場へ踏み込む事は難しいと思われたのだが。 「それでも、やらないとね。晴れの舞台を壊されちゃうなんてそんなの絶対にだめだ」 ゆづちゃんの友達だったら尚更、と付け加えた言葉に小さく頷いた『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)に視線を送って夏栖斗が口を咄嗟に抑える。 「~~ッ!? あれ!? 毛があるっ!」 「無難な感じに行こうと思った!」 ――そりゃあ、カツラを被って居れば誰だって吹き出してしまうものだ。 すっぽりとカツラを被り徳の高さを隠して居るフツに小さく息を漏らし、三年ぶりに出逢う『友達』との逢瀬へ向かう。 踏み出す悠月の背中に『無銘』熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)は小さく笑みを浮かべて、囁いた。 「『汝の隣人を愛せよ』、か。美しい言葉だな……」 ● 日ノ宮茜にとっての風宮悠月は最高の友人であった。 何処か一般人とは違った雰囲気を持っていた事に引かれ手を差し伸べたのは迷惑では無かったか、そんな事ばかり考えてしまうのは彼女が三高平に行って三年の月日が流れただからだろうか。 「将太、悠月は……来てくれるかな」 そんな言葉を口にして、茜の夫となった坂出将太は何処となく気弱な笑みを浮かべた。 彼女にとって『悠月』は特別な存在だったのだろう。女友達というものは解り難い。永遠の友達だと簡単に口にする事もあれば、直ぐに手を放してしまう事もある。度し難い関係性の中でも、彼女――悠月だけは、と茜は信じていた。 きっと、彼女は来てくれる。そう思って同封した手紙には「イイ人ができたんでしょう?」と茶化す様に言葉を綴った。きっと、彼女は素敵な人を連れて会いに来てくれる、それはある意味で確信だったのだ。 月が満ちて欠けるが如く、その関係が変わっていなければ……の話しだが。 風宮悠月にとって日ノ宮茜はどの様な存在だったのか。 それは唐突でもない当り前の疑問だったのだろう。式場に向かいながら悠月は隣の拓真に「そうですね」と囁いた。 「私が、人と話す『切欠』になった方でしょうか……」 今の自分が在る事が出来るのは茜のお陰だと悠月は確信していた。只、茫と見える風景を眺めているだけだった悠月の手を強引に掴み、走りだした破天荒な友人。誰もが目を引く美貌を持っているわけでもなければ、誰もが羨む頭脳を持っている訳でもない。それでも明るい笑顔がとても好ましく思える少女だった。 「良い友人でした。手を取り、私を引っ張り回す……私にとって一番親しかった友人、でしょうか」 「そうか……。会うのが楽しみだな」 「ええ、とても」 短く返した悠月が小さく瞬く。 ヴェールに隠された素顔。それでも、その服装から、その背格好から何時かの想い出が蘇る。 『初めまして、何してるの?』と丸い瞳を向けてくれていたあの時を。『こっちだよ』と無理やり手を引いたあの日を。人から少し距離を取り、遠ざけていた悠月の中に無理やり入り込んだ少女は今は彼女が成長したと同じ様に少し伸びた前髪を気にしている。 「……直接会うのは、三年ぶりでしょうか? ――茜、とても綺麗です」 「……悠月?」 きっと、彼女がいなければ人を遠ざけて居たままだったのかもしれない、と小さく笑みを浮かべる。 瞬きの間に見えたのは春の暖かな日に似合う優しげな笑み。 ――私にとっての最高の友人でした。傍に居てくれて有難う、悠月。悠月だからこそお祝いして欲しくて。 感謝するのは自分の方なのに、と手紙を読んで、つい笑ってしまったものだ。 幸せそうな茜が将太の手を引いて「あのね、悠月」と話しだすはその直ぐ後の話しであり、「結婚おめでとうございます」と優しく告げた悠月が茜の視線を追い掛けるのもまたその直ぐ後の事だ。 「あ……茜。此方が、その……例の」 婚約者です、と消え入るような声で告げれば、何処か大人しげな笑みを浮かべていた将太が興味深そうに悠月の後ろに立っていた拓真へと視線を送る。 「初めまして、新城拓真と言います。この度はご結婚おめでとうございます。お綺麗な花嫁で旦那さんが羨ましい限り」 何処か照れたような笑みを浮かべる将太の背を押して茜は「新城さんのお話しをしましょう? もう少し時間もあるじゃない」と悠月の手を、何時かの日の様に掴んだ。 ● きっちりとしたスーツに身を包み、あからさまに若手のサラリーマンを装った竜一は式場関係者の近くへと歩み寄っていた。 先に単独行動を行う彼は拓真と悠月以外は式場関係者だと言い聞かせるように式場関係の中でも、今回の式の担当になっているであろう人物へと接触していた。 「君、ここで何し――」 「――さあ?」 小さく浮かべた笑み。普段の人好きする笑みとは違う、悪戯心を感じさせるそれを向けられて、式場関係者である男は「ああ」と優しく笑みを浮かべる。 夏栖斗、フツ、伊吹の三人と合流し、式場関係者から新人だと言う風に紹介させればいい、と竜一は考えていたのだろう。 「ふっ……どんな業界も結局は縦社会さ……」 ――嫌な言葉である。 幻想纏い通じて呼ばれた三人は竜一の嫌な社会の縮図(ぜったいてきじょうげかんけい)によって、難なく式場内に入り込むことに成功していた。元からブライダル業界では派遣のアルバイトも多いのか――それを謀っての行動か。制服もちゃっかりゲットしていては疑う余地もないだろう。 少しざわつき始めた会場で出入口近くに立っていた伊吹は式場内で新郎新婦と会話する悠月へと視線を送る。 夏栖斗の告げた「ゆづちゃんの友達なら尚更」という言葉は今日の伊吹にも当てはまって居たのだろう。悠月は今の伊吹にとっては借りのある相手だった。愛娘を喪った故に妄執に囚われた男の起こすグラン・ギニョール。悠月の力添えがなければ今の自分は此処で愛想良くウェルカムドリンクの配布など出来て居なかった事だろう。 「おじさん、ありがと!」 小さな子供に手渡したのはほんのりと甘いオレンジジュース。式開始までの少しの時間をのんびりと過ごしてほしいと言う式場側の配慮だと感じたのだろう。小さな少女はその愛らしいかんばせに満面の笑みを浮かべている。 「……ああ、今日は楽しんで」 「うん、お嫁さんがね、とっても綺麗なのよ! お姫様見たいっ」 頭の中にチラついたのは離れて暮らしている娘の姿。自分が一人の少女の父親だからこそ、一つ考えてしまう事がある。 目の前の少女も――そして、悠月も、世界に神秘などがなければごく普通の娘として戦場に赴く事も無かっただろう。こうして親友の結婚式で彼女の命の危機を護らねばならぬと言う責任を負う事も無かったように思える。 「……とんだ感傷だな」 何時だって、彼女の傍らには彼が居るのだから。 「くっそー。りゅーにゃんの奴! 偉そうぶりやがって! あとで覚えとけよ!」 「え? 何て? ほら、そこのテーブルクロスちょっとずれてる!」 「いいえ! よろこんで!」 何処か騒がしい雰囲気の夏栖斗に小さく笑って竜一は手を振る。そっと、物影に溶け込むように潜み、目指すのは拓真の影だ。彼の影に潜めれば後は彼の動作に合わせて動けばいい。 (タクマ、こっちこっち――そう、もうちょっと!) ……だなんて、心の中で念じる竜一の耳に入ったのは何処からか深く囁く憾みの聲。 明るく笑う茜の表情が視界に入る。フツもそれに気付いたのか確認した式場の間取りや避難経路をしっかりと頭に叩き込み幻想纏いを握りしめる。 先に張り巡らせた強結界が功を為したか不必要な存在は訪れてはいない――だが、『招かれざる客』は何処からか入り込むものだった。 ● 咄嗟に体を誰よりも前へと滑り込ませた夏栖斗は隠す様に玄武岩を握りしめ唇を歪める。 新郎新婦らから離れた位置――ウエディングケーキへと視線を送って、被害が産まれぬ様にと彼が逆方向へと誘う様に手を揺れ動かした。 突如として吹いた突風が『人ならざる者』の出現を告げていると悟り、出入り口の扉を開けた伊吹は賓客らへと冷静な侭に声を掛ける。 「申し訳ありません。野兎が会場に紛れこみまして」 普段のサングラス姿とはまた違った理知的な雰囲気の伊吹の言葉に小さな子供が「おじちゃんがいってるから、お外にいこう」と母親の手を引いていく。伊吹よりやや前方に立っていたフツがエリューションと程近い位置に居た客の目を見ながら言い聞かせる様に背を押していく。 「野良うさぎが入り込んだようです。 毒はありませんが、噛み付かれるとケガをする可能性がありますので、こちらから避難してください」 「う、うさぎ……?」 首を傾げる茜に悠月は小さく頷いて、「うさぎらしいですね」と視線を送る。 喧噪に紛れて姿を現した竜一がJe te protegerai tjrsを握りしめて『兎』の体を押し返す。 避難に目を奪われている参列者達の数はそれほど多くない。しかし、ドレス姿の茜の避難は容易では無かったのだろう。 ある程度の参列者が外に出切った後に、夏栖斗が呼び寄せていたエリューション、嘯きの聲達から外れた位置に居た歎きの痣が腕を振り上げる。 瞬きに合わせて茜の視界全面に入り込んだのは絶望を感じ、恐怖をその顔面に露わした男の顔。 「――ッ?」 振るわれた腕にぎゅ、と目を閉じる茜の前へと咄嗟に彼女の夫は滑り込む。震える手を広げて男の腕を受けとめんとし―― 「……大丈夫です」 「悠月、此処は」 「ええ、お任せを」 言葉短く、拓真が頷きBroken Justiceを手に弾丸をばら撒いた。壊れた正義が作り出す『正義』の弾をあざ笑うかのように歎きの痣はその体をくねらせる。 「おっとリア充爆発とか言うのは、お互い口だけにしとこうぜ!」 「結城、こっちだ!」 竜一が押しこむように歎きの痣の体を吹き飛ばせば嗤い続ける少女(やり)を手にしたフツが真っ直ぐに突き立てる。 「招かれざる客人はお引き取り願おうか」 指先でくるりと回った乾坤圏。撃ち放たれるそれは嘯きの聲らの体へと真っ直ぐに突き刺さる。うろたえるエリューションを受けとめて焔を纏う腕をまっすぐに振り下ろした夏栖斗が体を逸らす。 「幸せな二人の門出を邪魔するなんて、なんか嫌なことでもあったのかな!」 唸り声を上げるエリューション全てを誘い寄せる夏栖斗の支援をするように伊吹と拓真の弾丸が降り注ぐ。 シールドを張った状態で背後の新郎新婦の庇う様に立っていた悠月は何処か困った様に肩を竦めてゆっくりと振り返った。 「……ゆ、悠月。ええっと……あの、新城さんも……」 「茜、私の家が神事の関係というのは前に話しましたね。御免なさい、半分は嘘です」 神事に携わる物だといっても『神秘』を知らぬ者達からすれば所詮は祈祷等の範囲に収まるであろう。悠月がその様な事を学び、そのような仕事に付く事になる――という風に言っていたのは茜だって知って居た。 だが、これは――これでは。 「まるで、命がけじゃない……」 「ええ。私はああいう魑魅魍魎の類を退治するのが仕事の、所謂『本物』なのです。 ……だからこそ、学生の時、巻き粉ない様に必要以上に距離を置いた――貴女が言った『人と違った』風に見えたのだと思います」 悠月の言葉に驚きを隠せない将太が恐れる様に茜の掌をぎゅ、と握る。 幾ら妻の親友だと言っても、目の前で起こった光景は余りにも恐ろしい物だ。エリューションへと突き刺さる槍を抜き、フツが一歩下がった所へと腕は振り下ろされる。拓真が咄嗟に反応し撃ちこんだ弾丸が振り下ろした腕を掻き消した。 「私達は貴方達を護りに来た。貴方達を護らせて下さい。……お願い、します」 その言葉に、何処か警戒した様な将太の腕をゆっくりと下ろさせながら茜は小さく笑う。 ウエディングドレスの裾をゆっくりと持ち上げて、彼女はにんまりと唇を歪めた。 「……怪我したら怒っちゃうんだからね」 「……ええ」 小さく頷いた悠月の様子を確認し、拓真がglorious painを握りしめる。前線で顔を歪める歎きの痣に対して振り下ろした力は全てを凌駕するが如き勢いで敵を両断する。 「加減も、油断も無い。行くぞ…すぐに終わらせる!」 ぴょんと跳ねる兎が竜一の腹を蹴れば、直ぐに体勢を立て直す様に彼は宝刀露草を振り下ろす。 真面目な時こそ不真面目に。だからこそ、竜一は黒い瞳に笑みを浮かべて、一気に踏み込んだ。 「感情ってのは伝染するものさ。だから、幸せをここで止めはしない!」 折角の舞台だと、フツの槍が突き刺さる。兎達を受け止めていた夏栖斗はやれやれと肩を竦めて炎を桜の花びらの様に散らした。 それはまるで春の柔らかな日を思わせる様に。伊吹が瞬き振り翳した環。花弁が如き焔の中を掻い潜るそれは兎達の体を打ち消した。 ● 「お騒がせしてすみませーん。うさぎは全部回収しましたー!」 声を掛ける夏栖斗に合わせ開かれた扉。さっと誘導しながら式の続きを促す伊吹も何処か疲れを感じさせる表情をしている。 それでも、BoZのメンバーが出来るのは祝福の歌を歌うだけだ。今日はドラムの“L”は居ないが、三人が揃っている。 それにスペシャルゲストの魔王……失礼、悠月が居るのだ。曲目は勿論、坂出将太と日ノ宮茜の結婚を祝った物に限る。 突然の乱入者に驚きを隠せない将太だが、肝が据わって居るのか歌いたいという部外者からの申し出に茜は「悠月の友達なんでしょ?」と早く早くとせがむように彼等を舞台の上へと誘った。 「それじゃあ、聞いて下さい。全ての人々に祝福を願って」 「『AKANE』――」 フツと伊吹、竜一が三人で頷き合って舞台の上に立つ。悠月にも教えられていた歌詞は茜の為だけのオリジナルソングだそうだ。 瞬きをした茜が緊張した様に身を揺らし、楽しみだと言う様に笑みを浮かべる。 ――茜色の街は懐かしさをずっと覚えている 新しい暮らしには少しは慣れてきたかしら AKANE 私達はそれぞれの運命を抱いて生まれた 巡り逢うために AKANE ふたりを見つめればひとつ 幸せな情愛をふわふわと祝うよ いつかぶつかるような そんな気がしてたけど 時間がたてば また仲直りするだろう AKANE 愛に満たされればひとり 光につつまれ この恋を焦がれよう you are sweet いつまでも 想い続ける愛は きっと届くだろう いつまでも 愛したい―― 拍手の後に涙ぐんだ茜が立ち上がる。幸せだと言う様にはにかんだ彼女はゆっくり、ゆっくりと悠月へと近寄っていく。 「有難う、悠月。私から、これ」 そっと、手渡されたのは花嫁のブーケ。顔を上げた悠月に幸せのおすそわけだと言う様に茜は学生時代と変わらぬ笑みを浮かべた。 「ゆづっきー! ブーケゲットってことは次はお前たちの番さ! その次はフッさんかなー?」 「もしかすると結城かもしれないな」 茶化す様に告げる竜一にフツが小さく笑みを浮かべる。渡された花束に瞬いた悠月の隣で何処か可笑しそうに拓真は小さく笑った。 「そうだな、次は俺達が式を上げる番か。その時は皆を呼ばねばならんな」 「……ええ。何時になるかは兎も角」 考えなければ、と小さく笑みを浮かべた様子に茜はほっとした様に悠月の手を取る。 「有難う、悠月。やっぱり、私にとっての最高の友達だよ。来てくれて、よかった」 「私にとっても一番の『友人』でした。――お幸せに、茜」 つい涙ぐんだ伊吹に視線を送り「あれー?」と突く夏栖斗へと伊吹は小さく首を振り目頭を押さえる。 「いや、なに……グラサンがないのが落ち着かないだけだ」 些か眩しすぎると普段の仕事では見られない様な幸せそうな光景に「お幸せに」と口から出た言葉を聞いて、茜は可笑しそうに小さく笑う。 「ゆづちゃんのウェディングドレス姿も茜ちゃんに負けず綺麗だろうね。 茜ちゃんもきっと、そんなゆづちゃんを見たいんじゃないかなって思うよ」 「勿論。その時は私も一緒に悠月にオリジナルの歌を歌ってあげる。楽しみにしててよね?」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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