● 荒げた息さえ、今は押し殺したかった。肺が悲鳴を上げている。 古い板の間は足を乗せるたびにぎしぎし鳴るから、自分の居場所を知らせているようだ。 代わりに、相手の居場所も告げてくれるけれど。 「ほーのーかーちゃーん。かくれんぼはそろそろ終わりにしよーぜー?」 何かをなぎ倒すような音が聞こえてきた。 自分の名前を呼ばれて悲鳴を上げそうになるが、必死に堪えた。 おかしい。 絶対おかしい。 こんな人のいない場所で、チェーンソーと斧みたいな刃物を持った男と出くわすなんて。 しかも、ちらりと見たあの男には尻尾がついているようにも見えた。 ああ、そうでなくても不気味な笑みを浮かべながらゆっくり追いかけてくる様子はマトモには思えないというのに。人間なのか? こんな夜に、明かりもなしに自分を追いかけてこられる奴が? ぞわりと鳥肌が立った。 「安心して出て来いってば、すーぐに友達と同じ所に連れて行ってあげるからさー。ひひっ」 嬲るような笑い声に、涙が浮かびそうになる。 はぐれてしまった友達はどうしたのだろう? 悲鳴が聞こえたのに、戻る事もできなかった。 それに、さっきから、男とは違う音も何か――。 「――あ? ったくウザってェんだよ畜生! さっさと消えろってんだろうが、あァ!?」 豹変した男の怒号と、何かを壊す音。 その『何か』が立てた音を私の音と勘違いしたのか、罵声は止まない。 激しい音に紛れるようにして、私は更に奥へと駆け出した。 誰か、助けて。 ● モニターに映し出された光景は、そんな逃走劇。 刃物を持った男から逃げる少女。 ガラの悪い顔つきの男は、貼り付けたような笑みを浮かべて廊下を歩いている。 間違いない、少女の危機だ。これは――。 「あ、すいません。その方リベリスタです」 先手を打つかのように告げられた『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)の言葉にリベリスタはモニターを二度見する。 フィクサードを倒せとか、そういう感じの依頼じゃないのか。これは。 「ウチにもいるじゃないですか。外見怖かったり凄まじく不審だったりする人。その類です。さて、そんな訳で皆さんのお口の恋人断頭台ギロチンが詳細説明しますね」 さらっと失礼な発言を繰り出したフォーチュナは、自分の偽名を棚上げして改めて資料を配り始める。 「えー、まずここ、古い旅館なんですけど、単なる営業不振での廃業が自殺が出ただの殺人事件だの尾ひれがついて怪談スポットになったよくあるパターンです。で、そこで客室に置かれたままだった日本人形のE・ゴーレムと影みたいな弱いE・フォースが発生しましてね」 資料に載っているのは、確かにその二種類。 じゃあこのあからさまに悪役臭い顔で少女を追い回してる男は何だ。 「はい。その方は羽野イズミさんで繰り返しますがリベリスタです。エリューションの討伐に来たところでたまたま一般人と遭遇。保護を最優先で動いている、という事なんですが」 保護。 繰り返した一人に、ギロチンは頷く。 「肝試しには時期外れだし人も滅多に来ないし、という事で幻視使ってなかったのも災いしたみたいですね。本人的には可能な限り友好的に話しかけているつもり……の様子です」 どこが。 「ほら、『名前を呼んで親しみを感じさせ』、『フランクな調子で語りかけ』、『時々笑みも交える』……、……色々間違ってるよなとか突っ込みたい気持ちは本人にお願いしますね」 とりあえずコミュニケーション能力に些か難がありそうだというのは分かった。 「で、イズミさんはこの少女……穂香さんを追いかけながら彼女に接近しようとしてるE・フォースとかも相手にしてるんですが、流石に保護対象がいる状況だと分が悪い。彼女の友人は大方気絶してる所を保護したみたいですが、あと一人、更に追加で入っちゃうみたいで」 誤解されようがなんだろうが、とりあえず保護が済めば後で笑い話にもなろうが――このままでは危険も大きく、イズミ自身の目標である討伐も果たせない可能性が高い。 「素の口調はあの怒鳴ってた方なので口はちょっと悪いみたいですけど、特に他リベリスタに非協力的という訳でもなさそうなので……まあ、今少し時間のある人、行ってきて貰えませんかね」 皆さんなら、そう心配しなくていい案件ですから。 そう告げて、ギロチンは笑って手を振った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年04月26日(土)23:24 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 朽ち果てた旅館の入り口。格子状の引き戸の硝子は多くが叩き割られ、扉自体も歪み傾いている。 業績不振の廃業。後の手入れをしてくれるような引継ぎ手もいなかったのだろう。 申し訳のように敷地手前にはチェーンと『私有地につき立ち入り禁止』の看板があるが、そもそもこんな場所に肝試しをしにくるような連中には通用しなかったに違いない。 車が駐車場に進入する為に既にチェーンは外されていたし、朽ちた風景には似合わない飾り立てられた乗用車とバイクを見れば、侵入者の存在は明らかであった。 「いやあ、中々良い雰囲気ですのう」 からり笑った『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)の方が、ここではよほど異物感が少なかったかも知れない。朽ちた建築物に仮面の怪人。日常性はさて置いて、幽鬼の領域として示されたのならばぴかぴかのバイクよりも似合っている。 無造作に放り込まれたらしい男女数名は折り重なるようにして車のシートに倒れていた。多少埃などで汚れてはいるが、傷一つついてはいない。その事実に安堵しながらも、『骸』黄桜 魅零(BNE003845)は腰に手を当てて旅館を眺めた。 「もうちょっとやり方ってものがあるでしょうイズミくん!!」 羽野イズミ。彼らを放り込んだ主であり、今正に残った子供を追い掛け回しているリベリスタ。 人として常識的な何かがすっぽ抜けている気がするが、神秘界隈ではよくある事である。多分。 けれど――腰に当てていた手を胸に移す。その頬は少しばかり熱くはないだろうか。鼓動は普段より早くなっていないだろうか。強烈で強引な男性は、嫌いじゃない。単語だけ聞けばそれほど珍しくないが、なんだろう、この場合素直に言うなら、あまり趣味は良くない気がする。 「あっ、駄目、黄桜には愛するべき人が三高平にいるのにっ」 まあいい。殺人鬼を先輩と仰ぎ追いかける彼女に細かい事は無用である。頬に手を当てて悶える魅零に、『0』氏名 姓(BNE002967)は渡された書類の写真を見た。 入っている獣の因子のせいか、瞳はいわゆる黒目の部分が少なく見開いているような印象を受け、尚且つ下手に上背があるので視線が見下すようになっている。繁華街のクラブの裏辺りでたむろしている薬中のロクデナシと表現すれば多少イメージが伝わりそうであった。 「ああ、これは仕方ないわ……」 姓が遠い目をしても仕方ない。Jの付くホッケーマスクの怪人みたいな人はすぐ隣にもいる訳だが、その類の人だと思われても仕方ない。エリューションへの対応も同時にしないといけないのは分かるがせめて話し掛ける時は武器を隠す努力くらいすべきだろう。 というか白昼の街中だろうが刃物持ったガラの悪い兄ちゃんが話しかけてきたらビビるわ。 「善意が伝わりにくい……という状況は得てしてあるものですけれど、此処まで見事に善意が通じないというのも珍しい気がしますわ」 ほう、と溜息を吐いて『残念系没落貴族』綾小路 姫華(BNE004949) は考えを巡らせる。 善意、なのだろう。エリューションに傷付けられる事を良しとせず、討伐よりも保護優先で立ち回るその心は善意なのだろう。例えそれが、刃物持ってヤバい笑顔で未成年を追い掛け回すという通報ものの行動になっていたとしてもだ。いや冷静に考えたらこれで善意って言われても理解出来ないだろう、と些か浮世離れした姫華でも分かるのだが。 「姫華おねえさんもスプレーするのだ?」 ああ、本当に。十を少し過ぎた『きゅうけつおやさい』チコーリア・プンタレッラ(BNE004832)だってもうちょっと客観的に物事を見られるというものだ。かゆいのは嫌だと虫除けスプレーを持ってきている彼女は冷静で現実的である。 「これ以上来ちゃっても大変だからね☆」 一応。この時間、この時期にこれ以上の闖入者はないだろうけれど、月杜・とら(BNE002285)は結界を張り巡らせた。イズミだって存在しないだろう、と考えて予定外の侵入者が存在したのだ。二度ある事は三度ある、ではないが、念には念をというやつである。 「どれ、先達としてフォローに行くとしますかのう」 九十九がライトを手に首を回した。この場合の『先達』というのがリベリスタ暦なのか外見不審者判断暦なのかは敢えて問わない。 さて、彼らの『肝試し』を無事に終わらせてやろうじゃないか。 ● 友人を追って中に踏み込んだ兵馬ではあるが、その段階ではまだ恐怖の感情は少なかった。遠くで何かを壊すような音がたまに聞こえてきたから、それを彼らが立てた音だと思っていたのである。 初めて背筋に嫌な汗が伝ったのは、二階に上ってほんの僅か経過してから――泣き声が、聞こえてきた時だ。わーん、わーんと泣き叫ぶ小さな声。未だ幼さを残す声音が、やや離れた部屋から聞こえてくる。 「こど……なんでこんな時間に子供がこんなとこいんだよ……!?」 自分の事など棚上げである。流石にそこまで幼い子供が自力でここに来るという考えはないようだ。友人達と思しき音はその先から聞こえてくるけれど、その部屋の前を通るのがどうにも嫌な気持ちで後ろに引いた。と、何か柔らかいものにぶつかって……小さな悲鳴と共に振り返り、駆け出そうとした彼に、柔らかい声が掛かる。 「あ、待ってくださいまし! 貴方は……良かった、生身のヒトですのね」 「は?」 声を掛けたのは、背を見て尾行していた姫華であった。このままチコーリアを見付けてくれれば話は早かったのだが、金髪のいかにもヤンチャしていますという風体の割には度胸が足りないらしい。 「実は私達、肝試しに訪れたのですけれども、貴方も?」 眉を寄せて問う姫華に、兵馬は立ち止まる。見知らぬ相手ではあるが、同じ年頃の華奢な少女に警戒心はだいぶ解除されたらしい。分かりやすい。 「あ、ああ。ちょっと遅れてきたら、もう友達とか中入っちゃったみたいで」 「そう、ですか。実は私も、妹のチコとはぐれてしまって……どこかで見ませんでしたか?」 「妹――って、子供か?」 「ええ。まだ小学生で……可哀想に、心細くて泣いているかも知れませんわ……!」 『あ、あのさ。子供の泣き声なら、さっきそっちの部屋で……』 えーん。えーん。嘘泣きを続けながら、チコーリアはAFから漏れ伝わる状況に一人確保したのを理解する。このまま合流し、うまく連れ出せれば一先ずこちらは安心である。 と――その視界に何か過ぎった。もう、姫華が来たのだろうか? 「えーん。姫華おねえさんどこいったのだー。チコ、ひとりで怖いのだー!」 泣いてみる。が、反応がなかった。ガタガタと周囲に残された小さな調度品が鳴り始める。 ああ、これは。ふっ、と一瞬泣き真似を止める。過ぎった方向に懐中電灯を向けた。 「っ!」 飛んできた座椅子の残骸を転がって避け、チコーリアは周囲に魔法陣を展開する。淡く光るそれの中心を杖で叩き、打ち出すのは魔力の弾丸。影に当たって弾けた。もう一発か。 『本当ですの? ありがとうございます』 「うわ~ん。おばけ怖いのだ~。助けてくださいなのだー」 AFを介さずとも、段々近付いてくる声。嘘泣きを交えながら、体勢を立て直す。壊れかけの時計がチコーリアの額に当たった。大した痛みではないが、息を吐いて対象を見詰め直す。 足音が壊れかけた障子の前で止まった。魔力を収束させての一撃に、影が一つ散り果てる。 他にも存在していた気配が、同類の消失に慌てて遠くへ消えて行くのを感じながらチコーリアは杖を隠して目元に手を当てた。 「姫華おねえさーん!」 「チコ! 良かった……!」 「……あれ。ケガしてないか? 大丈夫か?」 安堵したように姫華に抱きついてみせるチコーリアの額を見て、やや心配そうに声を掛ける兵馬の様子は素なのか、“テンプらテーション”の効果なのかは分からないが――チコーリアはにっこり笑ってみせる。 「大丈夫、ちょっと転んでしまっただけなのだ」 ● 凡その位置は仲間同士で把握しあい、かち合わないように気を付けている。 故に、姓が穂香の行く手に先回りする事も然程難しくはなく……神秘の力(という名の極限ぼっち)を使えば存在感を薄めて傍らに立つのも容易い事であった。 ぐすぐす泣きながら逃げ場所を探している穂香は、やや派手な化粧と格好からしてあまり真面目な分類ではなさそうだったが、流石にこの状況で動画や写真という発想に到れる程に能天気ではなかった様子なのが幸いか。 とは言え余裕が出て来てその手の行動に移られたら厄介なので、今日の姓は髪を下ろして俯き加減。やったねこれで映ってても見事に幽霊だ。リベリスタだってビビらせた格好は伊達じゃない。 「……ひっ!?」 とりあえず手始めに、穂香の目の前で花瓶を動かしてみる。そこに人がいる、と神秘を持たない人間は意識できない。もしかしたら誰かがいた、くらいには認識しているのかも知れないが……この状況で意識に残らない相手など、どう思われるかは推して知るべし。 ばん、と窓が揺れた。ばん、ばん、ばん、ばん。手形が窓の『内側』に付いていく。つまり、穂香の存在する部屋から。 「や、やだ、何……」 可哀想なくらいに怯えている。ごめんねこれも君の為なんだ。ちょっと楽しいのは否定しないけど。まあ害がないのだから姓のこんな気持ちなど、肝試しのお化け役が抱くそれと一緒だと思えば何てことない。 ダメ押しに耳元で囁いてやる。この部屋は床が抜けかけて危ないのだ。 『……カエレ』 だん、だん、と足音を鳴らす。あ、ほら床踏み抜いた。穂香の悲鳴が残る中、その背を追いかける。もう少し入り口に寄ってくれないと、抱えて外に出るのは中々手間なのだ。うまく誘導しなければ。 「リアル幽霊ごっこも楽じゃないね」 そんな事を口にしながら楽しげに、姓はよろよろ走る少女との追いかけっこを再開した。 九十九はぎしぎしと床を鳴らして廊下を歩いていた。その隣を歩く……隣というか壁を歩くのは魅零である。 「ふふん、床がダメなら壁を歩けばいいじゃない。黄桜あったまいうばぁ!?」 「何処もかしこも老朽化してるみたいですのう。お気をつけて」 「だ、大丈夫、黄桜この程度じゃ転ばない!」 壁を踏み抜くという珍しい経験をしてばくばくしている魅零にのんびり声を掛けた彼の視界に、熱源が過ぎる。魅零もこくりと頷いた。 「ああクッソウゼェマジウゼェ、今はどっか行ってろよ後で遊んでやっからさあァ!」 罵声。だがそれは彼女らにかけられたものではない。絡み付く日本人形の髪の毛をハンドアックスで切り落とすイズミが敵にかけたものだ。もう片手で振り下ろしたチェーンソー剣がその頭を叩き割る。 横合いからふらふらと現れた別の人形が髪を伸ばそうとするのに、九十九がその光を映さない眼球を射た。針穴すらも狙える彼にとってみれば、この程度の相手に『当てる』事などもはや造作もない事である。揺らいだそこに叩き重ねられるのは、魅零の呪いを宿した刃。 突然の救援に振り返ったイズミに、魅零は笑ってみせる。 「こんばんは、良い夜だね。アークのリベリスタ、だよっ! 仲良くし、ししてくだしゃぁぁ」 噛んだ。そういや若干惚れっぽいというのに男性耐性なかった。 訝しげな顔をしたイズミの奥から現れたとらが、見え隠れしていた影も含めて翼をはためかせ風の刃で切り裂いた。 「チャオ、イズミくん! リベリスタのとらだよ☆ お勤めご苦労様~!」 「アークの怪人Qですが。お手伝いさせて頂いて良いですかのう?」 「……アーク? マジで? んじゃオレよりガキを」 「一般人は仲間が救出にあたってるから、心配しないでね」 自分の言葉より先にウインクしたとらに瞬いたイズミだったが――苛立ちや疑心を抱くよりも素直に受け入れるのが良いと判断したらしい。ガラが悪い割りには物分りは悪くないらしい。 「ではとりあえず――無粋な『本物』には去ってもらいましょうか」 「オッケー、あ、イズミくん危なかったら言ってね、黄桜に任せて!」 「ハァ!? 女に庇われる程弱くねェんですけど!?」 「あっ、男女差別はんたーい☆」 「違ェよプライドの問題だってんだろ!」 「……ま、心配はなさそうですな」 賑やかに騒いではいるが、彼らはアークでも精鋭の部類である。九十九の呟きを掻き消すように、魅零の体から立ち上った瘴気と、とらの翼から放たれた見えない刃が逃げる間もなく影を打ち払っていった。 ● 姫華とチコーリアによって連れ出された兵馬が、車の中で気絶する仲間を見て仰天し、叩き起こして逃げるように去っていくのを二階の壊れた窓から見送り――共に戦闘してやや慣れた魅零がイズミに向き直る。 「駄目でしょ! 子供にあんな何処からどう見ても不審者な言動したら逃げるんだから!」 「ハァ!? メッチャ優しいオニーサンやってたろ!?」 「うわこの人本気で自覚ないわ」 入り口付近まで穂香を誘導し、ラストはスタンガンで飾った姓が思わず呟いた。彼女は結局一番朦朧とした状況で目覚めた様子だったが、それでも追い掛け回された恐怖の迫る声で仲間に帰りを促してくれたので万々歳。今日また悪い夢を見るかも知れないが、それは迷惑料程度に思ってもらおう。良い悪夢を。 「ま、私なんぞも外見で誤解を受けやすいんですがね、ご覧の通り中身は気さくなものですよ。とは言え初対面で重視されるのは外見であるのは仕方ないことです。他人に自分がどう見えるか、という自覚は大事ですぞ」 その点で言えば、九十九の言葉は経験に則っている。自覚した上でこれなのだから問題ない。都市伝説怪人部門で名を上げようとして神秘界隈にばっかり名前が響いている怪人Qの言葉はきっと重い。あ、チコーリアが並んだ九十九とイズミの二人の写真をこっそり撮っている。確かになんかコレ怪人対サイコみたいな図だ。 「……ってもオレ、別に妙な事してねェし」 「今までどなたも指摘して下さらなかったのですね……」 一緒に帰ろうという兵馬に、他の友人がすぐ出てくるから、と丁寧に断った姫華は困った様子で息を吐く。一人で行動していたイズミは恐らくフリーランスなのであろう。だとしたならば。 もしかしたらわざとに見えるレベルの行動に、無自覚とは思わず敢えて誰も突っ込まなかったのかも知れないが……まあ、教えてやれよ誰か。 「でもイズミくん一般の人もちゃんと守りながら戦えてエライなぁ♪ いつもソロなの?」 「あ? 無差別にブッ殺してたらクレイジーサイコじゃねぇか、ガキの使い褒めてんじゃねェんだぞ、ナメてんのかテメェ。一人だよ悪ィか」 「はいはい女子にガン付けない!」 「この目付きは素だよ!」 「マジで!?」 「マジで!」 イズミの側も、とらと魅零相手にはだいぶ慣れたらしい。口は悪いが賑やかに応答し煙草に火を点ける彼に、とらはペリドットに似た色の瞳を瞬かせて問い掛けた。 「最近さー、崩界進んじゃってこういう事件、後を絶たないよねぇ。イズミくんも仲間がいた方が、安心じゃない? とら達と一緒に来ない? イズミくんなら強いし、頼もしいから大歓迎だよ☆」 ほんの僅かな沈黙。煙を吐き出したイズミは首を振る。 「オレ、好きに好きなところやってっだけだし。この世界が頭オカしいのは今更だろ」 或いはイズミにも何らか、一人で狩る理由があるのかも知れないが――それを語る気はない様子で彼は煙草を銜えてとらからそっぽを向いてしまった。 そんな彼に、魅零が改めて声を掛ける。 「もう! じゃあ良かったらメルアドください」 「あ? 何逆ナン?」 「ち、ちち違っ、いやある意味そうかもだけど違うくてー!」 「……構わねーけど、妙な事に使うんじゃねェぞ。おら、コード」 イズミが投げるスマートフォンをキャッチした魅零が登録方法だなんだでまた賑やかになったのに、姓がふっと笑い声を漏らした。 「肝試しの子らの事言えないくらい私たちも騒がしいかもね」 「いやー、本当に。――お騒がせしてしまいましたな。すいません」 姓に同意する九十九の謝罪は、誰に対してのものか。チコーリアは視線の先を追うが、続くのは寂れた廊下だけである。 「……? お面のおじさん、誰に話しかけてるのだ?」 「え? ああ、皆さんには『見えない』んでしたっけ」 「……え?」 声を漏らした姫華に、九十九は嘘か真か低い笑い声を返した。 誰かに聞かれていたら、それがまた新たな噂話になったかも知れないが……今宵はとりあえず、聞いていたのは旅館だけ――なのだろう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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