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あつまれしんまいりべりおん


「にゃ、にゃー」
「にゃーお、にゃーお」
「にゃにゃーん」
 割と見晴らしの良い丘の上、日差しも春のうららかさ。そんな人気のない場所で、おっさんどもが三人、コンビニ前で深夜とかに見かける男子高校生のような座り方で円陣を作っている。見苦しいとか言ってはいけない。彼らは彼らなりに一所懸命なのだ。
 真剣な様相で取り囲んで、にゃーにゃー言っているのだ。ごめんやっぱり見苦しいわこれ。
 ともかく彼らが見苦しく取り囲むのは、一匹の猫。いや、幼稚園児サイズの猫を猫と呼ぶなら猫、まで言ってみてたまにそこそこの犬と同じサイズまで育ってみた猫っているような気がするので猫なのだろうこれはおそらく。猫のはずだ、フロックコートにパイプと鹿撃ち帽を身につけて二足歩行をしているだけで。
「……みー」
 怯え震える体を奮い立たせてしっかりと周囲を睨みつけながらも、か細く零すは幼い音色。涙に潤む茶色い目。毛色は三毛、その儚い美貌は恐らく幼女猫。
「うおおおおお!」
「かわええええ!!」
「なにこれ天使なの!? 」
 おっさんどもが盛り上がる。ところでこのおっさんどもの外見も少々異様だった。
 有り体に言ってしまえばヒャッハーども。しかし、ひとりは気合の入った赤モヒカンをしつつもその服装は安っぽいビジネススーツと銀縁眼鏡。もうひとりはちょっとひよったソフトモヒカン、腰の羽を無視すれば鋲のごてごてと付いた黒い皮ジャケットに同素材のパンツでちょっと尖った趣味のお兄ちゃんにしか見えないし、最後のひとりはスパイクのついた金属肩パッドにところどころ破れ薄汚れたタンクトップはれっきとしたヒャッハーながら、髪だけきっちり七三分けである。
「骨抜きにされるってのは、こういうことか……」
 ごくり、と隠せぬ動揺をつばとともに飲み込みながら、モヒカンが唸る。
「せやけど、いつまでもこうしとるわけにもいかんで」
 ソフトモヒカンが、ぎこちない関西弁で七三の背中を叩く。
「天使ちゃんはぁはぁ……ごめんにゃー?」
 促された七三は大きな網を取り出す。
 彼らはそれを三人がかりで広げると、無理矢理怯える猫を捕まえようとしはじめた。


 ブリーフィングルームのモニターに流れるその映像を見て、黒羽を畳んだ『深謀浅慮』梅子・エインズワース(nBNE000013)が顔をしかめた。
「どこからつっこめばいいのか、悩ましいのだわ」
「そう言ってやるなよ。こういうヤツもいるってことだ」
「でーもさー……ってひょあー!?」
 怪しい服装の『まやかし占い』揚羽 菫(nBNE000243)が、椅子の背を抱いてくるくる回る梅子を無理矢理ぐるぐるさらに回転させてから、事務机に並んだ面々を見回した。
「さて、ともかくだ。――映像から見当がついた者もいるかもしれないな。
 あの猫は見ての通り、アザーバイド。異世界からの来訪者……今回の場合まさしく迷い猫だ。本来は、ボトムチャンネル――この世界のことだ、その見学を終えたらすぐに帰る予定だったんだが」
「そこに彼らが現れた、ということですのね。
 つまり、この仕事はか弱い子猫の護衛……弱きを助け強きを挫く……!
 まさに姫華の為にあるような依頼ですのね!」
 銀の縦ロールを揺らし、自信たっぷりに『残念系没落貴族』綾小路 姫華(BNE004949)がモニターを見据える。「そういうことだ」と菫がそれを受けて頷いた。
「この場所に現れる愛らしい猫の情報を得た好事家が、ペットにしたいと言い出したらしい。
 言っておくが、どこから情報を得たかとかは今回、意味が無いからな。フィクサードにもフォーチュナはいるさ。こいつらのような、普段はまっとうに社会生活を営んでいる日曜フィクサードだっているんだから」
「オレたちは、この不届き者達を成敗すればよいのだな?」
 ぐだぐだと脱線しかけた菫の話を、アズマ・C・ウィンドリスタ(BNE004944)が本題に引き戻す。
「そういうことだな。もっとも今回は、懲らしめるか捕縛の方が良いだろうね。
 殺してしまってもまあフォローはするが、一旦こっちの優位を示せば大人しく引き下がる相手に、わざわざどうして死んだのか社会的に偽装するほうが面倒だ」
「それで、俺たちアークリベリオンが呼ばれたってことになるわけだよな?」
「まあ……その。なんだ」
 どうしてこの場にアークリベリオンだけが集められたのかを理解し、いくらか不満気に口を尖らせた『暁』富士宮 駿河(BNE004951)に、菫は居心地悪そうに前髪をいじる。
「アークに来てから日が浅い分、オーバーキルの可能性が低かろうって理由があるのは、否定しない。どうせなら新人研修を兼ねた方が良いだろうって意味でもある。
 華々しい任務ではないが、堅実なステップアップも重要だと考えてくれると嬉しい」
「ステップアップ、ねぇ」
 傷跡を親指でなぞり、『無銘の刀』小城白 銀夜(BNE004956)が苦く呟く。鍛えるということの、なんと地道なことか。その横で、話を聞きながらメモを取っていた『期待の新人(自称)』綴野 明華(BNE004940)の服の裾を、『Nameless Raven』害獣谷 羽海(BNE004957)が小さく引っ張る。
「ん、どうしたの」
「けんじつ、って何なの?」
「しっかりとか、真面目に、とかの意味だね」
「まじめ……。うみ、おしごとはまじめなの」
 だいたい理解したらしい羽海がしっかりと頷く。
「このフィクサードたちの情報は渡した書類を診てもらうとして――できれば8人で頑張って欲しい」
「8人?」
 疑問の声を上げたのは、三半規管をようやく落ち着かせた梅子だった。
「8人だ。梅子、お前は極力手を出すなよ」
「なんで!? じゃああたしなんでここに呼ばれたの!」
「お前が手を出したら新人研修にならんだろうが。それに、だ。接触一時間後にはこの猫の来たディメンションホールが閉まる。それまでに確実に返しておきたい。
 万が一フィクサードたちが逃げたり、猫が逃げたりしたらこの猫は討伐対象になるんだぞ。
 あー……ほら梅子、お前はこのメンツの中で一番先輩だろ? つまり奥の手、最終兵器だ」
「おくの……。そ、そうね! このあたしがわざわざ手を出すまでもないわね!
 でもあたしは先輩だから、後輩の任務を手伝ってあげるのも、やぶさかじゃないのだわ!
 先輩であるあたしが、このあたしが!
 あなたたちの後方で支援してあげるから、安心して任務に励むと良いのだわ!!」
 突然テンション高く胸を張りドヤ顔をする梅子を示して、菫が8人のリベリスタにこっそりと告げる。
「あれはああいう生き物だ。適当におだてて、うまく使ってやってくれ」
「なるほど……これが噂の梅子さんっすね」
 そりゃ噂にもなるわけだ、と『ジルファウスト』逢川・アイカ(BNE004941)が納得する。アイカが聞いたのがどのような噂なのかは、梅子の耳には入れないほうが良いかもしれない、とも。
「オイ、話は終わったんだよな? ならとっとと行こうぜ」
 タバコを取り出し、火をつけずにそれを咥えたまま『咢』二十六木 華(BNE004943)が立ち上がる。
(あんなに怯えちまって……すぐ助けに行くからなッ!)


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ももんが  
■難易度:NORMAL ■ リクエストシナリオ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年04月23日(水)22:11
リクエストありがとうございます、ももんがです。
ねこ! ねこ! 三毛猫って言われたらあの子しか浮かばない!

●成功条件
・アザーバイドを生きたまま送還する
・梅子に敵を倒させない(攻撃だけなら可)

 なお、菫はああ言ってましたがフィクサードの生死は不問です。

●戦場・時刻
広く、見晴らしの良い丘、昼間。人の気配はありません。天気が良いです。
近くにディメンションホールがありますが、一時間後に閉じてしまいます。

●アザーバイド
・ねこにゃんこ
戦闘に怯えていますが、逃げる機会を必死で伺っています。
知能が高く、身振り手振りでの意思疎通は可能。動物会話・タワーオブバベルでも可。
ただし人間の言語を発話することはできませんし、テレパシーも「にゃー」です。

●フィクサード
平日には社会人、日曜日は世紀末系ヒャッハーな人々。
革醒してからの日は浅めですが「しんまいりべりおん」たちよりは長いです。
好事家から猫をつれてくるように指示を受けています。
※今回は殺さないよう留意した場合、死にません。ただし梅子は手加減を行えないものとします。

・浩史
ビーストハーフのソードミラージュ。スーツの下は獣。
ランク1のソードミラージュスキルとダブルアクションLV2を使用します。
平日は商事会社のサラリーマンだそうです。

・耕筰
フライエンジェのホーリーメイガス。腰の羽は堕天使なブルー。
ランク1のホーリーメイガススキルと戦闘指揮LV1を使用します。
平日は大手電機メーカーのサラリーマンだそうです。

・金次郎
メタルフレームのデュランダル。肩パッドは変質した皮膚。
ランク1のデュランダルスキルと針鼠を使用します。
平日は建設会社のサラリーマンだそうです。

●梅子
何かをさせたい場合は相談内で指示して下さい。最初に【梅子確定】と書かれたものを参照します。
ただし、不機嫌だったり無茶な頼みだったりすると、その指示に従わないことがあります。
機嫌が良すぎても、いいとこ見せようとして張り切り過ぎます。
開始時点では、ちょっと機嫌が良いくらい。
なお、何も指示しなかった場合は3ターンに一度フレアバーストを使用します。
参加NPC
梅子・エインズワース (nBNE000013)
 


■メイン参加者 8人■
ビーストハーフアークリベリオン
綴野 明華(BNE004940)
ジーニアスアークリベリオン
逢川・アイカ(BNE004941)
ジーニアスアークリベリオン
二十六木 華(BNE004943)
ジーニアスアークリベリオン
アズマ・C・ウィンドリスタ(BNE004944)
ヴァンパイアアークリベリオン
綾小路 姫華(BNE004949)
ジーニアスアークリベリオン
富士宮 駿河(BNE004951)
ヴァンパイアアークリベリオン
小城白 銀夜(BNE004956)
フライエンジェアークリベリオン
害獣谷 羽海(BNE004957)


「――諸君、可愛いものは好きか?」
 唐突にそう切り出した『咢』二十六木 華(BNE004943)に、リベリスタたちの視線が集まる。
「俺は好きだ。可愛いものはそれそのもので価値がある」
 イカツいにーちゃんながらそれを堂々と公表できるのは、ある種の心の強さの現れではなかろうか。
「眺めていられれば心が落ち着くし、撫でてやれるんであればマイナスイオンが溢れだす。
 可愛いは正義だ。可愛いは国宝だ」
 ポメラニアン3匹と暮らす男の言葉は重みが違う、ような気がする。
「つーか俺はフィクサードが嫌いだ。一匹たりとも奴等に渡さん。殺すぞ」
 さあ、可愛いを護りに行こう。
「アーク、アベリオン部隊+αが到着だぜ!!」
 華が高らかに(何かがずれた)名乗りを上げる。
 アークリベリオン。その呼称すら最近に決まったばかりの。まだ新しい力の担い手たちは梅子(道中、幾度か「プラムと呼ぶと良いのだわ」と主張していたが)に連れられて現場に向かう。
「何れにせよ、今回の仕事が俺達にとっての今後に繋がるのは間違いない。
 って事で先輩、此処は俺達に任せてくれると助かる。
 先輩は其処でドッシリ構えてくれると安心感がマジ凄いから、なっ! なっ!?」
 フォーチュナがこっそり伝えた梅子の暴走。それをを制止するためにも。『暁』富士宮 駿河(BNE004951)が梅子に念を押す。
「えっ? でもほら、あたしがいないと。こう、イクサバに火力はつきものじゃない?」
 梅子の妄言に、数名のリベリスタたちが顔を見合わせる。
『あ、こいつ本気で言ってる』、互いの目がそう囁いている。
「いやいや、梅子先輩! どうかどうかココは私達にお任せください!
 先輩はドンと構えてくれていればいい!! その存在が心強いんです!
 どーしても、どーしても身を挺して脆弱な私達を庇ってくださるというのであれば止めません……そんなカッコイい先輩にシビレて憧れちゃいますし!」
 こうなれば、盾になって貰おうと。『期待の新人(自称)』綴野 明華(BNE004940)のおだてる言葉に、そんな意志が見え隠れする。尤も、梅子本人にはこれがまたまるで見えないものなのだ。なんといってもそう、「先輩」。良い響きじゃないか。「先輩」。アークのリベリスタたちがどう思っているかは別の問題ながら、梅子は確かにアークのほとんどのリベリスタにとって「先輩」であるはずなのだ。だがそう呼ばれたことなどほぼないに等しい。せんぱい。センパイ。嗚呼、魅惑の響き。
「梅子殿の活躍は聞いているが、ここはオレらの成長のため見守ってくれないか?
 あなたがお強いのはよく知っているぜ?」
「先輩ねぇ……ま、よろしく頼むわ。あんたの事はよく知らねえが、実力は確かなんだろ?
 信じさせてもらうぜ、オレの期待を裏切んじゃねぇぞ先輩」
 追い打ちに続くアズマ・C・ウィンドリスタ(BNE004944)、『無銘の刀』小城白 銀夜(BNE004956)。


「オイこら、こっち無視してるんじゃない!」
 うっとりと頬を紅潮させる梅子に、存在を無視されてはかなわないと日曜フィクサードが声を荒らげた。
「あら、そういえばそこにいたのだわ」
「いたの、じゃないだろ!? 何か突然ゴソゴソと話し始めたと思ったら……。
 見たところ、お前らも俺達みたいな超能力かなんかが使えるやつだろ、わかるんだからな!」
 足が臭かったり息子が幼稚園で嵐を呼んでそうなフィクサード、浩史がリベリスタ達を指さして喚く。
 やれやれと。優雅に肩をすくめようとし、優雅な肩のすくめ方ってどういう形だろうと一瞬迷ってから『残念系没落貴族』綾小路 姫華(BNE004949)が肩を優雅にすくめる。
「わかりやすい勧善懲悪ですこと。
 か弱き子猫を大の大人三人が取り囲んで連れ去ろうとするだなんて……見るに耐えられませんわ!」
 言うが早いか、姫華は一気に走り寄る。狙うは元は暴走族だったかと思われる肩パッド、金次郎だ。姫華の魔術兵装が、衝撃波を生みながら金次郎に叩きつけられ、金次郎は二、三度ごろごろと後転した。起き上がりながらリベリスタ達を睨みつけ、苦々しげに吐き捨てる。
「猫――てめえらもこいつが目当てか。そうはいかねぇ、俺達が先に見つけたんだ!」
 日曜フィクサードたちも、何かの誤解はあるようだが目の前の一団が敵だと理解したらしい。
「のんきな漫才グループかと思ってたで……!」
 そのうち課長から社長とか出世し続けそうな気がする耕筰に、『ジルファウスト』逢川・アイカ(BNE004941)はそう思うのもむべなるかなと頷いた。
「あーあっちの人はともかくとしてあたし達はちゃんとやりますんで……。
 最初に強く当たって後は流れでよろしくっす」
「いや八百長する意味も理由もあらへんで!?」
 悲鳴に近いツッコミを入れる耕筰。回復役たる相手に近づきたかったアイカだが、それをするにはまだ立ちふさがる浩史が邪魔だ。モヒカンスーツの前に立ちふさがったアイカは、拳を掌に打ち付けて腕を包む鉄甲を打ち鳴らし――首を傾げる。
「あ……まだ使い方に慣れてなかったっす」
 どうにもうまくいかないと、慌てて幻想纏を確認するアイカ。準備がうまくいかなかったようだが、だからといってできることがないわけではない。そもそもアイカは覇界闘士ではないのだから。その矜持は熱になり、彼女の身を覆う。
「ヘッ、敵が強ければ強いほどいい……その方が俺が勝った時に輝きが増す!」
 そこまで計算しつつねこにゃんこにかっこいいだろアピール! とばかり炎を身にまといながら、フィクサードたちの方へと吶喊する華。吹き上がる炎と衝撃、それはフィクサード達をまとめてなぎ払い、
「きゃああ!」
「何事っすか!?」
「にゃうにゃにゃにゃ!?」
 ついでに彼らのブロックについていた姫華とアイカ、中心にいた猫も吹き飛ばした。
「あ!?」
 どれだけ気を使っても指向性の弱い攻撃。それが巻き起こした事態に目を見開いた華の、その視線の先で。地面にたたきつけられそうになったねこにゃんこを『Nameless Raven』害獣谷 羽海(BNE004957)が滑りこむように飛び込んで、抱きとめた。
「ねこさんいじめたら、めっ、なんだよ?」
 羽海は二足歩行猫を抱えたまま、フィクサード達を見回してフーッっと威嚇する。
「いじめ……いや、えんじぇる猫ちゃんに何しやがんでい!」
 金次郎が、体当たりをしてきた華に向かって啖呵を切ると、ぱりぱりと雷気を漂わせながら捨て身で殴りかかる。どうやらそこそこ怒りを買ったらしい。だが、怒ったのはフィクサードだけではなかった。
「ちょっと華! あんたねえ……ねこにゃんこが怪我するところだったのだわ!」
 自分が何をしでかすと予測されていたかも知らず、梅子が目を三角にして怒る。羽海が、はい、と猫を梅子の後ろにおろした。
「うみ、猫語ちょっと話せるよ。にゃー。ねこさんは梅子さんの傍の後ろにいてね」
「話せたの?」
 猫手で踊るような仕草をする羽海に、梅子が驚嘆の声をあげる。
「にゃーはこんにちは。にゃーは遊ぼうよ。にゃーはおなかすいた」
 発音がちょっと違う――らしい。

 目を硝子玉のように丸くした猫に、明華が身振り手振りでコミュニケーションを試みる。
 自分を指さし、猫を指さし。
「ワタシ……アナタ……タスケニキタニャン、オオカミダケドネコハタベナイワオーン」
 親指立てて、ニカッ。
 ねこにゃんこ、何がなんだかわからなくなってきて、ふるふる震えて涙目。そのやりとりをみて、アズマは軽く明華の背中を叩いた。
「オレたちアークリベリオンの本当の力、見せてやろうぜ。
 まだまだ経験不足だが、全力で相手させてもらおう!
 んで、かわいいにゃんこには無事にお帰り願おう! …………別に、猫好きではないのだぞ?」
 ポニーテールを揺らし、凛とした仕草で睨みをきかせながら何か言い訳めいたことを付け足したアズマの、譲れぬプライドが力に変わる。
「悪ぃが、そのにゃんこをあんた達に連れて行かせる訳にはいかないんだ。
 ――嫌って言っても相手してもらうぜ?」
 駿河はそう口にするなりタックルするかのように突進し、華が皆を吹き飛ばした結果がら空きとなっていた耕筰に向けて大業物を振りぬく。
「って事で、にゃんこ。其処で大人しくしててくれ。会ったばっかで信じられないのは分かる。
 だけど、絶対俺が……俺達が元の世界に帰してやるから!」
「にゃんこにゃんこて……にゃんこに言葉が通じるわけないやろ!」
 万華鏡で見られていたことなど知る由もなく。自分たちの語尾を棚に上げて耕筰が唸り、詠唱を始める。響く福音が、フィクサードたちの傷を癒して行く。
 さり気なく統率のとれていたフィクサードたちの、司令塔的な役割にいるのがこのホーリーメイガスだと、万華鏡が既に知らせてくれていた。だからこそ、リベリスタたちも耕筰を真っ先に降したい狙いがある。
(オレも馬鹿じゃねぇ、作戦には従うさ、勝ためには必要なんだろ)
 作戦を脳裏で反芻し、銀夜が鞘から引き抜いた打刀を構えると耕筰へ突撃し、衝撃波を叩きつける。
 状況把握に努めながら立ち上がった浩史が、ポケットからナイフを取り出すとにやりと笑った。
「焼け野原にしてやるぜ!」
 高速の生み出した残像たちが、攻撃や足止めのために前に出ていたリベリスタに斬りかかる。猫を守ろうとした羽海、それを預かった梅子もエジキだ。
「そおら、もう一丁!」
 アークリベリオンたちの中で最も早く動ける姫華が、次の手を取るよりも早く。浩史が再び繰り出した斬影剣が、リベリスタたちに襲いかかった。


「綾小路姫華の名に賭けて、ねこにゃんこは必ず元の世界に返してみせますわ」
 例え日曜フィクサードと言っても、こちらも新人リベリスタ。甘く見てはいけないということか――そう思い、姫華は掌を胸に当て深呼吸をひとつ。誇りを胸に、闘志を燃やす。
「ええっと……とりあえず殴るっす!」
 衝撃波を生じさせながら、拳を振りぬくアイカ。
「華! さっきの、もういっぺんやったら怒るのだわ!」
「梅子。あんまり嫉妬するなよ? 大丈夫だ、お前も十分可愛い」
「……へ?」
 猫をかばいながら釘を刺す梅子に当の華が返した言葉は、梅子をちょい赤くさせるのには十分だった。
「俺の可愛い物好きは何も目の前のネコだけじゃねえ、梅子もそうだ。
 マイフェイボリット梅子(笑)が嫉妬する顔も見てみたいが――だが、それはそれ、これはこれ」
「ちょっとそれ何かカッコワライとかついてそうな響きがした気がするのだわ!?」
「今は、今だけは釣られニャイ!」
 喚く梅子をマイペースにスルーし、ハイテンションで金次郎に向かって突っ走る華。そのまま足元をすくうように振りぬかれた魔力剣の一撃を受けて、金次郎はこめかみに血管を浮かべる。自分の身に食い込んだ剣を掴むと、金次郎はそれをたぐって雷気を交えた頭突きを見舞った。
 羽海は、浩史の前で腕を広げる。このまま一気に手の中の超弦を巻きつけてしまったら、楽な気がした。
(うみ、フィクサードは殺したほうがいいと思うんだけどな。
 でも今回は殺すと困るって言われたから我慢する。よくわからないけど大人の世界って難しいんだね)
 胸の誇りが燃える炎は、羽海の闘争心を刺激する。それでも、「けんじつ、だいじ」と呟きこくりと頷くと、浩史の目をまっすぐに見上げた。
「オレの性格ではないが……うっし。ここは任せな!
 オレらも新米とは言えリベリスタだぜ。やれることをやるぜ!」
 アズマは敵味方皆を見回す。怪我人は既に少なくない――その中でも、華の被害が最も大きかった。手を向け、己の生命力を分け与える。傷が、快癒とまではいかないもののふさがっていく。
「先輩や上司を上手く使って現代社会の荒波を生き抜く、とっても重要なことだよねー」
 羽にじゃれつかせて猫ををなだめ、庇う梅子をちらりと見ると、アイカはアックスで耕筰の膝の裏を狙う。体勢を崩したタイミングを狙って、駿河も同じアクセルクラッシュを耕筰にぶちかました。
「おっさん連中が寄って集って何やってんだよ、ホントに」
「小金稼ぎして、悪いんか!」
 少し呆れた声をかけた駿河に、ふらつくのか、頭を強く振った耕筰が怒鳴り返しながらもまたも詠唱で福音を呼び寄せる。だが、それは続けざまに受けた傷が全て塞がるほどではなく。
「――もう負けたくねぇんだよ」
 打刀で斬り上げ衝撃波を叩きつけた銀夜の前で、耕筰が膝をつき、倒れ伏す。
「にしても、フィクサードってのはこんなんっばっかなのかね?
 オレが知ってるのはもうちょっとまともだった気がするが……」
 そのあたり、ノーコメントで。

「チクショウ、サラリーマンだってやるときゃやるぞ!」
 耕筰が倒れたのを見た浩史が、リベリスタ達を切りつける。浩史の素早さに警戒し、アイカはじっと意識を集中させて敵の動きを見た。
 次の狙いであるソードミラージュを早く倒すため――つまり分断のためにも、姫華が向き合うのは最初から変わらず、金次郎だ。気合を、力を瞬時に滾らせ、力任せにカルディアを叩きつける。続いて華が、その体勢を崩すべく金次郎を打ち据えて。
「そうそういい気に、させるかよ……!」
 金次郎が、吠えた。華に掴みかかり、襟首を掴んだまま激しく放電する。華の敗北を確信し、金次郎はそのぶすぶす、と焦げた臭いをさせた体を投げ捨て――それが立ち上がるのを見て、鼻を鳴らす。運命を燃やすことを躊躇しないのは、無謀の強さなのか、余裕の捨て身なのかと。
 幼い体躯だからといって滾らせた力が劣るものでもない。羽海のストリングがその気合に応えて唸り、突進混じりの一撃を、明華、駿河がそれぞれくらわせて。浩史が堪えられたのはここまでだ。
 リベリスタで怪我のない者は比較的後方にいたアズマだけ。だが、そのアズマが強靭な生命力を皆に分け与えることで治癒を行っている。
「ねこにゃんこはよぉ、玩具でも物でもねーんだ。
 連れてこいって言われてはいそうですかってそうさせる訳にはいかんざき。
 何より、此の子達は俺の可愛い子猫ちゃんたちだからよ!!」
「これが、俺達の力だ! ――何てな」
 華が、駿河が己の健在を誇示する。
 何より――銀夜の打刀が、金次郎の胸先を狙っていた。
 まだやるか? と。言外に聞かれたその問いに、金次郎は両手を上げることで返事としたのだった。


 ねこにゃんこにもう安全だと伝えるために身振り手振り大会が開かれている横で、日曜フィクサードたちは3人揃って正座させられていた。
「いい大人が集まって何してんすか!
 そんなんでもサラリーマンならちゃんと会社の看板背負ってるんでしょう!
 今回はルーキーの集まりで良かったっすけど、悪い事からは足洗わないと今度は目から光の消えたえげつない強さの修羅めいたリベリスタが団体で来て指先一つで永遠にダウンさせられますよ!」
「「「はぁい……」」」
 アイカの説教に、困惑半分、反省半分、その時は逃げようという気持ちプライスレスの声が上がる。
「貴方達、大人として恥ずかしいとは思わないんですの?
 また悪さをするようでしたら……その姿、写真に撮ってあなた方の会社に送りつけますわよ?」
「「「やめてくださいお願いします」」」
 社会的なフェイトの残量に拠らない死亡判定を示唆する姫華に、声を揃えて土下座する3人組。
「先輩はありがとな、助かったぜ」
「ふふん、なんだったらどんぺり? とかでも奢ってくれていいのよ」
「……ちょっとまて、おい! 酒って……成人? マジかよ!?」
 機嫌よくさせておこうと思った銀夜の一言に、最近覚えたばかりの言葉でドヤ顔をする梅子。に、狼狽する銀夜――年下だと思っていたらしい。

「はあ、もふもふしたっす」
「にゃー」
「でも、猫ちゃんが無事で良かったです。……お別れに握手しましょう、握手!! 肉球!!」
 ひとしきりいじくり回されたりしたねこにゃんこと、なんとかコミュニケーションがとれた頃。
 しかしリミットは刻々と近づいている。名残を惜しんだ明華が、猫の手を掴んだ。敵ではないと理解した猫も特に抵抗なく肉球を触らせてくれる。
「オレは、猫好き、というわけでは……」
 そういいつつアズマも、肉球をぽふ、と触らせてもらったりする。
「もうお別れか? そっか、悲しいな……こんな可愛い子とお別れなんて。元気でな、しっかり生きろよ」
「ヤベェよな、猫ってやつは。気を抜くと膝の上に載せて撫でたくなってきやがる。
 ……ほら、さっさと帰れよ。ここはお前の世界じゃねぇんだ」
 華の別れの挨拶に続いて、その際は縁側推奨なことを銀夜が呟く。
 そんならしくない姿は晒すわけに行かないと、そっけない言葉をことさら強調しながら。
「はい、これ。いいものあげる。今度来るときは悪い人に気をつけてね」
 持参した煮干しを猫に渡して、羽海が猫の鹿撃ち帽をぽふぽふする。
「今度は変な奴に捕まったりするなよ。じゃーな、美人ちゃん!」
 手を振った駿河にパイプを持った片手を上げて返し、ねこにゃんこはゲートの先へと消えていく。

 ゲートを壊し、明華は丘から街を見下ろす。
 この世界は今日も、ひっそりと守られたことなど知ることもなく、いつもどおりに佇んでいるのだ。
 これから先の自分たちが戦うものを、護るものを、少しだけ実感したような、そんな気がした。

<了>

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした、成功です。
アークリベリオン、恐るべし、です……。