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フィクサードをイメージして作ったラーメン選手権


 ここは三高平市の浜辺に建つある古民家カフェ『万華鏡』。白い壁に使い込まれて飴色になった木目の美しいテーブルとイス。高い天井の一部に大きなステンドグラスの窓が設えられており、天気のいい日はテーブルや床の上に万華鏡のようなカラフルな模様が落ちる。
 そんなオシャレなカフェのカウンターで、白目チックな眼球が熱いスープに浮かぶだの、生肉を熱したナイフで切りつけてどうの、と盛り上がる野郎が二人……。
「いや~、それダメだよ、佐田ちゃん。それ、そのまんまじゃない?」
「えー、イケてると思うけどなぁ」
 茶房・跳兎の店主『まだまだ修行中』佐田 健一(nBNE000270)と、カフェのマスターだった。店内に客の姿はない。とある昼下がり。ひだまりで閑古鳥が鳴いている。
 二人でなにを話題に盛り上がっているのかと言えば、『if フィクサードをイメージしたラーメン』と至極くだらないことであった。
「醤油ベースの黒スープラーメンにクレピネット(網脂)をかぶせただけじゃんよ。それで“倫敦の蜘蛛の巣”って……」
「トッピングに四角いゆで卵で作ったビック・ベンも入れようか? 霧の演出でドライアイスを添えてさ」
「食べられないよ」
「いやいや、ドライアイスは中に入れるんじゃなくて器を皿に乗せて回りにこう敷き詰めて……」
「あ~器に凝るのもいいかもね。食べ方とか?」
 よせばいいのに「たとえば?」と話を振る佐田。マスターの口からはどうせろくなものが出てこないはずだ。
「題して“剣林ラーメン”」
 うん、嫌な予感しかしない。
「竹筒の中に塩スープと棒麺、シナチクを入れます。針金でしっかり蓋を止めて、熱した石の中に入れて焼いて出来上がり」
「え? それ、どうやって食べるの?」
「閃光一閃、居合抜きで竹の上をぶった切って食べて欲しい。このラーメンはソードミラージュ専用で提供かな? いや、手刀でスパッと切り落として竹の中に指突っ込んで麺をかき込む……ていうのもロマンだなぁ」
「なんの修行だよ? ラーメン食う気軽さじゃなくなってるよ」
 やっぱりろくなものじゃなかった。
 まあ、イメージがフィーサードだけに食べられないものでもいいのかも。
「食べ物を粗末にするのはなぁ。敵を食うって意味でもやっぱり見た目はともかく食べられた方がいいと思うよ。味は二の次、三の次として」
 カウンターにほほ杖をついた佐田にマスターが突っ込んだ。「マジで作る気かい」、と。
「……公募してみようか? ポスター作って」
「誰も応募してこないと思うけどねぇ。まあ、公募ポスター作るならうちにも張るよ」


 かくして和菓子屋『茶房・跳兎』と古民家カフェ『万華鏡』の店先にこんなポスターが張られることになった。いま、あなたが眺めているそれだ。


『第一回・if☆フィクサードをイメージしたらこんなラーメンできちゃいました選手権』


 たぶん第二回は行われない。
 一回目も開催が怪しいレベル……


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:そうすけ  
■難易度:VERY EASY ■ イベントシナリオ
■参加人数制限: なし ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年04月28日(月)22:11

フィクサードをイメージしたラーメンを想像して遊ぼうっていう内容です。
味は二の次三の次。見た目にこだわらな~い。でも最低限食べられるものであること。
応募数が5人(5チーム)以下の場合は全部、作って食べてもらいます。
応募数が5人(5チーム)以上の場合は佐田の独断と偏見でベスト5を選出の上、調理シーンを描写。応募者全員で試食してもらいます。


以下、エントリー書式です。

1)部門・フィクサード名(個人、組織)
バロックナイツ、国内フィクサード組織。すでに消えてしまった組織でもOK
※STさん個人が作った敵組織の場合、登場シナリオ番号もご記入ください。
※広い意味でリベリスタ組織も含めます。
2)ラーメンの名前
3)どんなラーメンか。
※できるだけ具体的に。できるだけ……。
4)以下、自由。こだわり、アピールポイント、自分がエントリーしたラーメンの味の感想とか、その他いろいろお書きください。
 ※グルーブで参加する場合、ここに統一タグを入れてください。


【例】佐田健一。29才独身、嫁募集中のエントリー作品。

1)倫敦の蜘蛛の巣(組織)
2)倫敦の闇にかかる蜘蛛の巣ラーメン(ネーミングセンスないとかいうな!)
3)醤油ベースの黒スープラーメンに縮れ麺。ビック・ベンをイメージして四角くゆでた卵をトッピング(時計の針は海苔、数字は黒ゴマ)。0のイカリングと1のポテトフライを洒落で配置。上からクレピネット(網脂)をかぶせて完成です。
ネギは小皿で別提供。
ラーメン鉢を乗せた皿の上にドライアイスを置いて霧を演出。
4)流れる霧を楽しんだらラーメン鉢を皿から降ろしましょう。霧は単なる演出です。クレピネットをスープの熱で溶かしてお食べください。

●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間と参加者制限数はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・イベントシナリオでは全員のキャラクター描写が行なわれない可能性があります。
・獲得リソースは難易度Very Easy相当(Normalの獲得ベース経験値・GPの25%)です。


●STコメント
興味が沸いたらエントリー! 面白いものを思いついたらエントリー!
佐田健一の独断と偏見でラーメン審査いたします。
ご応募お待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 9人■
サイバーアダムクロスイージス
新田・快(BNE000439)
ハイジーニアスデュランダル
新城・拓真(BNE000644)
ハイジーニアスデュランダル
斜堂・影継(BNE000955)
フライダークナイトクリーク
月杜・とら(BNE002285)
ノワールオルールマグメイガス
セレア・アレイン(BNE003170)
ハーフムーンホーリーメイガス
綿谷 光介(BNE003658)
フライダーククロスイージス
丸田 富江(BNE004309)
ジーニアス覇界闘士
奥州 一悟(BNE004854)
★MVP
ビーストハーフアークリベリオン
藤代 レイカ(BNE004942)
   

●1時間前です。
「固いこといってるんじゃないよ!」
 佐田健一の肩というか背中というか、とにかく広い範囲に丸富食堂の女将、丸田 富江の平手が決まった。
 ……んんん、と残響が厨房中に響く。きりきりと健一が舞う。よけるカフェ『万華鏡』マスター。そして倒れた健一の上にはらりと落ちる『第一回 フィクサードをイメージして作ったラーメン選手権』の垂れ幕。
「だいたいさ、書類集めて管理しなきゃなんないほど人は集まっちゃいないんだろ?」
 主催者たちの心をダイレクトにえぐった一言だった。
 ここはアーク本部にある職員食堂の厨房。
 スズメが鳴く平和でさわやかな朝だ。
「いや、でもですね。一応、エントリー書……」
「はいはい。なんでも規定通りでアドリブがきかない男は出世しないよ」
 富江は差し出された用紙を無視して用意された寸胴のひとつへ向かった。
「アタシは忙しいんだよ。自分の店も開けなきゃなんないからね。先にスープの仕込みだけしていくよ」
 寸胴に水を入れながら腕まくりをする。
「フィクサード……そうさねぇ」
 しばし目を閉じて瞑想。
 その間に健一は辛くも生還、なんとか立ち上がった。
 富江の背の後ろでエントリー用紙をむなしく振り続けるマスターに、「もういいから」と小声で呼びかける。
 飛び入りした富江の言うことももっともで、この日の参加者は富江を含めてわずか9名だった。
 たった9名としょげるべきか、9名もいたと喜ぶべきか……。
 もちろん健一とマスターの反応はあとの方。
 だけど心のどこかで「もう少しくると思ったんだけどなぁ」、と残念がる気持ちもあったのだ。だから富江の一言がちょっぴり痛い。
 肩を並べてため息をつく主催者たちの前で、富江はぽむ、と拳を手のひらに落とした。
「フィクサードといえば悪いやつらだ、真っ黒だ。というわけでイカ墨を使った真っ黒なスープのラーメンに決定だよ!」
 笑顔で振り返る富江。
「こてこてのとんこつベースの鶏がら少々、少々アクセントを出すために猪骨も煮込んでみようかねぇ。野生独特の臭みもフィクサードらしい気がするしねっ」
 猪骨……。
 そんなのあったっけ?
「えっと、豚のじゃダメだめですかね。骨ですけど……」
「とんこつベース鶏がらスープのア・ク・セ・ン・トにするんだよ。また豚骨入れてどーするんだい?」
「ですよね~」
 笑顔一転、怖い顔。エビのように腰を折って尻から下がる健一。
 至急、イカスミと猪骨を入手しなくてはならなくなった。イカスミはともかく猪骨は……。
 と、その時、健一の脳裏にひらめくものが。
つい先日、自分が担当した依頼(【跳兎の事件簿】猪狩り)で大量の豚とともにあまった猪肉やなんやらをアークで保管していたはず!
 これぞまさしく天の啓示。
 丸鶏の下処理をしながら具に悩む富江を1人厨房に残し、健一とマスターは猪骨を入手すべく冷凍保存庫へ向かった。

●15分前です。
「おはよー☆ ラーメン作りに来たよ」
「おはようございます」
 月杜・とらと『誠の双剣』新城・拓真が厨房に入ってきた。
「おはよう。2人とも早いじゃないか。張りきってるねぇ」
 富江が脱いだ三角巾を畳みながらにこやかに出迎える。
「あれ、富江さん。もしかして帰るところ?」
「仕込みが終わったところだよ。アタシは一旦店に戻るよ。じゃあ、またあとで」
「あ、それいいですね。ボクもそうさせてもらおうかな?」
 『ホリゾン・ブルーの光』綿谷 光介が、入口で富江とすれ違うようにして厨房へ入ってきた。
 彼もまたブックカフェ「七色の霞」の店長代理である。
「お店、大丈夫なの?」
 あとから入ってきた『ラビリンス・ウォーカー』セレア・アレインが、光介に声をかける。
「はい。常連客のみなさんにお願いしてきました。でも……時々、抜けて様子を見に行こうと思います」
 とらと光介はAの張り紙がついた窓際の調理台を選んで荷物を置いた。
 セレアはその隣、中央Bの調理台。富江の三角巾を横へずらして、それぞれ調理スペースを取った。
 俺はどこでもいい、と拓真は入口に近いCの調理台に場所をとる。
「おはよう」
「おはよーございまーす!」
 『影の継承者』斜堂・影継と奥州 一悟がやって来たすぐ後に藤代 レイカがポニーテールを揺らしながら厨房に駆け込んできた。
「おはよう! あたしが最後かな?」
「いや、俺が最後だ。おはよう、みんな」
 『デイアフタートゥモロー』新田・快がさわやかに挨拶する。
 とらが手を上げてレイカを呼んだ。
「やっほー、レイカちゃん。よかったらこっち来ない?」
「それじゃあ、オレはセレアさんと一緒させてもらおうかな」と一悟。
 窓際、Aの調理台にとら、光介、レイカ。真ん中Bの調理台にセレア、一悟、富江(外出中)。そしてCの調理台には……。
同調理台に集まった面を見まわして影継が苦笑する。
「さて、どんなラーメンが出てくるのか……楽しみだ」

●さっぱりスパっとした塩ラーメン
「さあ、始まりました。第一回、フィクサードをイメージして作ったラーメン選手権。急遽、参加の丸田さんを加え、総勢9名かそれぞれがフィクサードをイメージしたラーメンを作り上げます。司会進行はわたくし佐田健一、解説は古民家カフェ『万華鏡』のマスターと謎の美食家・宝箱さんのお二人で参ります」
 厨房の一角でマイク片手にカメラに向かってMCする健一。照明さんやらカメラマンやら、音声さんやらを連れて何やら本格的な感じである。
「まずはエントリーナンバー1番。新城・拓真さんからお話を伺ってまいりましょう」

 拓真は婚約者と一緒に作った自作のメモを片手に寸胴鍋に水を張り、下処理した鶏ガラを入れて火をかけた。
 ラーメンはもっぱら食べる専門で、作るのは門外漢だった。それでも、きょうのためにラーメンを一生懸命考えてきたのだ。
「ふむ。沸騰直前までは強火、か」
 灰汁をすくうためのお玉を手に取ったところで回りを撮影スタッフに囲まれた。
「新城さん、ラーメン名をお願いします」
 マイクを差し出す健一。
「さっぱりスパっとした塩ラーメンだ」
「どんな誰をイメージしたどんなラーメンですか?」
「剣林の……『斬手』九朗をイメージして作る。タイトル通り、フィクサードながらまっすぐで熱い漢だった。これは幾度となく剣を交えた俺なりの手向けだ。スープは鶏がらベースの塩味にする」
 割と特に面白みのないラーメンだ、と前置きしながら火を小さくする。
 拓真の邪魔にならないよう、健一は少し後ろへ下がった。せっせと灰汁を取る拓真を背景に、小声でレポートを続ける。
「『斬手』九朗、アークの記録初出は<剣林>鞘無き刃(ID:2496)。剣林所属のフィクサードです。この依頼で新城さんは九朗と1対1の勝負を行っています。勝負の結果は……ですが、いや~報告書を読んで知りましたが、実に熱い戦いでしたね」
 アーク所属のリベリスタであればいつでも本部で検索、報告書を読むことができます。と、健一はカメラに向かって言った。
「彼の名は報告書にいくつか出てきますが……最後は四国で賊軍と戦って無念にもノーフェイスとなり、新城さんを含むアークのリベリスタたちに討たれました」
 敵でありながら憎み切れないまっすぐな、筋が一本通った男。報告書を読んで健一が受けた印象だ。大筋で間違ってはいないだろう。
「できあがりが楽しみです。新城さん、頑張ってください」
 丁寧に。ひたすら丁寧に。一点の曇りのないスープを。
 もくもくと灰汁とりをする拓真に軽く頭を下げて、健一はクルーとともに次へ向かった。

●汁少な目のピンクのラーメン
「名付けて “春☆爛漫”ラーメンだよ」
 とらは煮詰めた生クリームの入った鍋を火から降ろし、濡れふきんの上に置いたところだった。
 差し出されたマイクやカメラを気にする風でもなく、鼻歌を歌いながら明太子に包丁を入れ、皮から中身を出す。
「オルガニストのエンツォをイメージして作っているよ。あ、所属は“元”楽団ね☆」
 ほぐした明太子を生クリームが入った鍋に入れてかき混ぜる。
 楽団員、『オルガニスト』エンツォ。天使の様に可愛らしい容姿をした、フライエンジェの少年だ。仲間とともに死者を操って、幾度となく日本中を恐怖の底へ叩き落とした彼だが、とらの熱い説得(<混沌組曲・追>アンコールは独奏で)によりアークへ投降、現在は三高平市にある極秘施設で幽閉されている。
「とらが初めてエンツォにあったのはとある病院さ」
 ヘラで鍋の中をかき回しながら、とらはぽつりと漏らした。
 朝の淡い光がステンレスの台の上できらきらと光っている。健一はマイクを差し出したまま続きを待ったが、とらはそのまま黙り込んでしまった。
 閉じ込めるつもりはなかったのだ。ただ、独りぼっちになってしまったエンツォを三高平に引き取ることしか考えていなかった。ただ――
 気づまりな沈黙に困った健一が質問を出した。
「ええっと、どんな風にエンツォを表現しようと考えていますか?」
「えっ? あ、うん……ごめん。ちょっと思い出しちゃって」
 とらは人差し指の背で目じりに溜まった涙をすくった。とりなすように笑顔をつくり、明るい声をだす。
「うずら卵を頭、たこソーセージを胴体、髪と翼をチーズにしてエンツォを作る。もちろんオルガンもね☆」
 オルガンを何で作るのかは内緒。そのほか彼が立つステージにも凝るつもりだという。
「いつか一緒に食べたいな☆」
願い続けていれば、いつの日か笑いながら青空の下でエンツォのオルガン演奏を楽しむ日がくるかもしれない。
「出来上がりが楽しみですね。それでは頑張ってください」
  健一はとらへ励ましの気持ちを込めて小さく手をふると、隣へ移動した。

●豚骨+牛骨ベースの濃厚白スープのラーメン
「では、綿谷さん。ラーメン名をお願いします」
 光介は手を止めると、はい、と小気味よく答えてカメラを振り返った。
「変幻自在! 魔神召喚ラーメンです。イメージはバロックナイツ使徒第五位、キース・ソロモンです」
 試食席からほほう、という声が聞こえていた。カメラマンの1人が調理台後方に作られた試食席へ移動する。
 小さなモニターをのぞき込みながら、謎の美食家・宝箱さんが光介のキッチン台に並べられた食材について解説をする。
「オブラートで包まれた四角いあれ、中身は豆板醤で炒めた挽肉や刻んだパクチーやスライスレモン、粉チーズのようですがなかなか面白いですよ。食べるときにスープに溶かし込んで、味の変化を楽しんでもらうんでしょうね、きっと」
「そのとおりです。魔神の力を降ろして戦うキースさんの変幻自在さをイメージしました」
 光介はカバンの中から持参したどんぶりを取り出した。どんぶりは十字の仕切り板で区切られている。
「ここへ濃厚白スープとキースの金髪を模した黄金色のストレート麺を盛りつけます」
 光介の隣ではコトコトと小さな音を立てながらスープが煮たっていた。フタを取ると、もあっと白い湯気が立ちあがるとともに、白くてクリーミーなスープが見えた。長い木べらを入れてゆっくりと、ていねいにかき回す。
「濃厚なスープは鍋底が焦げつきやすいので、ああしてかき回しながら注意して煮込みます」、と試食席から宝箱がいい、マイクを持って鍋をのぞき込んでいた健一が腹を鳴らした。
「思ったより匂いに臭みがないですね。もっとえぐいかなって思ったんですが」
「下処理である程度の軽減は可能ですが、完全に臭いを消すことは難しい」
 光介はにっこり笑って宝箱さんの解説を引き継いだ。
「ええ。匂いがまったくないとそれはそれで魅力がありませんが……。玉ねぎとニンニク、生姜を入れて野性味を損なわない程度に臭みを取り除いています」
 薬味キューブという変化球を使いながらも、ラーメンそのものは王道。魔人キース・ソロモンにふさわしいラーメンができあがりそうだ。
「ありがとうございました。試食を楽しみにしています」
 鍋をかき混ぜる光介を残して、健一は次のチャレンジャーの元へ向かった。

●濃厚豚骨味。どどーん、と一本ラーメン
「おっと? なんですか、これは?」
「メンマよ。見て分からないかしら?」
 セレアの前、白い皿の上にぶっといメンマが1本どんと置かれていた。なんというか、マジでぶっとい。
「具はこれだけですか?」
「まさか」
 ふっと笑うセレン。
「まあ、見ていなさい。いまから『旧きゲルニカ』干興院キングパイルそのものの“イレギュラー”ラーメンを作るから」
「というと、報告書ID2723の<恐山>(´・ω・`)ピックの裏の裏でたやすく行われるえげつない行為のフィクサードですね」
 こちらのラーメンスープは先ほどの魔神召喚ラーメンと違って独特の匂いを放っていた。
 『旧きゲルニカ』干興院キングパイル。ざ・変態。
 報告書を読んだ健一の感想である。実際そうだったのだから仕方がない。ざ・変態。
 セレアが彼をラーメンのイメージに選んだ理由は謎である。ほかにも関わりあったフィクサードはたくさんいるだろうに。
「まさか尻――」
「残念だけど尻は関係ないわ」
 残念? 
 セレアはにたりと笑って木べらで鍋のスープをかき混ぜた。健一を見る腐女子の目が怖い。
 ちなみにラーメンのお店で使われる木べら、通称をエンマ棒といふ。柄の長いアレね。セレアさん、よくお似合いで……。
 健一は尻に手をあてて下がった。カメラマンもなんとなく尻に力が入った塩梅の足取りで後ろへ下がる。
 セレアは包丁を手に持つと、極太メンマの細工にかかった。すっ、すっ、とメンマの両端に刃を入れて細くする。だが長さはそのまま。ドンブリからはみださせるのだろうか?
次にセレアはゆでた卵の殻を嬉しそうに剥き始めた。白身だけにしてまな板に並べ、ナイフで細工していく。
「これはキングパイルの羽よ」
 黄身は超ミクロに刻んだ青ネギと一緒に、なんだかよくわからないキングパイルの筋肉に浮かんだ光の粒を現すのに使うという。
「それで、これが……」
 現れたるは鶏の脚、鶏の脚。むっちりお肉がついた鶏の脚、鶏の脚。
 大事なことじゃないけど2回いいました。
「たくましい太ももの筋肉をイメージした鶏脚よ。これをドンブリの左右に1本ずつ、豪快に飾るの」
 もしかしてもしかしたら、極太メンマは電柱型破界器を模しているのか?
 いや、だったら鶏脚の真ん中にぶっささないと。
 ああ、でも、それはやられるほうだよね、と健一は半笑いの顔でいった。
「メンマ、立たないのよね……」
 真顔で呟くセレン。
「あ、あ、あの……試食、楽しみにしています!」
 なんだかいまにもざ・変態、ビキニ紳士が現れそうな気がして、健一はそのまま尻を抑えながら隣の調理台へ移った。

●鮮血! 真っ赤なトマトスープのラーメン
「なぜ和菓子屋とカフェがコラボしてラーメン対決が始まった……?」
 どんな悪魔合体だ、と健一に毒づきながら、影継は鶏と豚で取ったダシの中にペースト状のトマトを投入した。ペーストトマトはこだわりのイタリア産である。
「はぁ。まあ、なんちゅーか……えっと、なんだっけ?」
 マイクを構えたままマスターを振り返る健一。
 いきなり話を振られたマスターもまた困った顔して手を横に振った。
「まあ、別にいいけどな。きょうは特別に斜堂流拉麺料理の技を見せてやろう」
 影継は真っ赤になったスープをゆっくりと焦げつかないようにかき混ぜた。おたまでスープを少しすくい、小皿にとって味見をする。
「ふむ。足すか」
 健一は横から寸胴の中を覗き込んだ。
 いまのところ普通のトマトラーメンのスープぽい。これと言って特別なことはしていないようだが。
 影継は塩の入ったガラスの器ごと持ち上げると調理台からすっと離れた。両腕を横に広げて目を閉じ、そのまま1回、2回、静かに呼吸を繰り返す。
 なんだかよくわからないが雰囲気にのまれて健一も調理台から離れた。
「あ、あの……」
 影継が目をかっと見開いた。
「斜堂流拉麺料理術がひとつ、瑞雪(ずいせつ)!!」
 はっ、と気合を発するとともに豪快に腕を振って塩をぶちまける。鍋の中というか辺り一面にぱらぱらと振り落ちる塩。
 すぐさま隣で調理中の野郎2人からブーイングが上がった。
「解説しよう。瑞雪とは中国語で『めでたい予兆の雪』という意味だ。適切なタイミングで塩を投じることにより味が引き締まり旨みが増す……そういう技だ」
 なぜに中国語?
 てか、塩の量は適当ですか?
「ふっ……。適当? 違う。塩の量はその時々、天の采配で決まるのだ」
 はい、適当なんですね。
 健一は、あはあははは、と乾いた笑いを発した。
「それではイメージ元とラーメンのタイトルをお願いします」
「うむ。タイトルはずばり、イタリアの戦慄・鮮血の楽団ラーメン。特定の個人をイメージするのではなく、『楽団』そのものを表現する」
 こだわりはイタリア産パスタ。ラーメン用の麺はあえて使わず、茹でる際に重曹を加える事でラーメンのような見た目とコシを出すという。
 カメラ目線をばっちりきめながら、影継は調理台の上にチーズの塊を置いた。それから凶器になりそうな大きなおろし金を手にする。四角いランタンみたいなやつだ。
「そしてアンデッド的なドロドロ感を――」
「はい! ありがとうございました。試食を楽しみにしております!」
 更なる大技が繰り出されないうちに。
 健一とクルーたちは真ん中の調理台へ避難した。

●イチゴのジュレソースで食べる初夏のつけ麺
「いいところに来てくれたぜ。コルクがうまく抜けねーんだ。取ってよ?」
 健一に向けて、ずいと差し出されたのは赤ワインのボトルだ。
 見るとコルクがボロボロになっていた。抉り取ろうとでもしたのか、口からすこしへこんでいる。
 こうなる前にどうして隣のセレアに助けを求めなかったのか? 真後ろには酒の専門家もいるというのに。
「なんかかっこ悪いじゃん? ワインが開けられない男って……」
 高校生の分際でスマートにワインを開ける技術なんて身につけておかなくてもいいのです。てか、あかんやろ。キミ、未成年。
「かたいこといいっこなしだぜ。煮込んでアルコール分飛ばせばOKだろ?」
 健一は菜箸の頭を使ってコルクを瓶の中へ押し込んだ。
「サンキュー♪」
「それじゃあ、ラーメンのタイトルをお願いします」
「苺香るつけ麺。苺をたっぷり使ってストロベリー・キューティ・ベリーズとかいうフィクサードをイメージしたラーメンをつくるぜ!」
「あれ? 奥州さんは怪盗ストロベリーに会ったことがありましたっけ?」
 そういう健一も実際に会ったことはない。噂で聞いたことがあるだけだ。
「気持ち悪いな。一悟でいいよ。ん、会ったことないぜ。名前で選んだんだ。一悟が作ったストロベリーの苺ラーメンってね」
 シャレかよ。
「ま、そうなんだけど。ラーメンは真面目に作るぜ」
 一悟は手にした苺をカッティングボードの上にのせるとフルーツナイフで切り刻み始めた。ちょっと手つきが危なっかしい。
 苺のカッティングが終わると鍋に入れ、その上から先ほどの赤ワインを網すくいでこしながらかけていく。火をつけてレモン汁と塩、ブラックペッパー、それにニンニクを少々投入。
「オシャレですね。それはコンポートではなくジュレにするのかな?」
 健一が宝箱さんの問いを一悟に伝える。
「ジュレ? あ、うん……そう。それにする」
 たぶんジュレが何かわかっていない。だが、一応、台の上にゼラチンがあるところをみるとジュレになるのだろう。
「麺はパスタかな?」と、やはり試食席からマスター。
「それじゃ、まんまスパゲッティーだろ。細めのたまご麺を少し硬めにゆでてオリーブオイルと絡めるぜ」
 具は生ハム、茹でたアスパラ、薄切りにした苺。飾り付けにバジル。台に積まれた盛りつけ皿は涼しげなガラス。
 健一はマイクを横へ倒すと、一悟の耳元でささやいた。
「これ、ほんとうに自分だけで考えた?」
 やたらオシャレである。一悟のキャラクターとちょっとイメージが合わないと言えば失礼だろうか。
「も、もちろんだぜ!」
 ふうん。健一はにやつきながら再びCの調理台へ戻った。

●理想的な栄養バランスになるよう作られたラーメン
 手つきも鮮やかに。快がチャッチャ、と小気味よい音をたてて麺から茹で汁をきる。
「おっ。早いですね。スープはもうできているんですか?」
「ああ。塩分控えめで薄味の醤油スープだ。味見してみるかい?」
 健一は渡された小皿に口をつけた。
 第一印象は昔ながらの中華そば。いや、ちょっと違うかな。シンプルだがどこか落ちついた味だ。
「全体のバランスが大事だからね。自己主張の強いスープだとダメなんだ。タイトルは、バランスラーメン」
 恐山フィクサード、『バランス感覚の男』千堂遼一をイメージしたラーメンらしい。
 台の上には茹でた野菜、キャベツやニンジン、ホウレンソウなどの緑黄色野菜がふんだんに用意されていた。
 具となる野菜とのバランスを考えてどんぶりに入れる麺は少なめにするという。
「具材とチャーシューは左右対称になるように盛り付けていく。見た目もバランスよくなるようにね」
 試食席から声がかかった。
「一見すると野菜マシの醤油ラーメンのようですが、何か隠し技が?」
 快は茹であがったばかりの麺を皿に移すとカメラに向けた。
 ストレートの細麺で、見目ですでにシコシコ感がある。が、いたって普通である。
 首を傾ける健一。
「具材だけで補い切れない栄養素は、各種サプリメントによって補っている。粉末にして麺に練り込んでいるので見た目にも味にも現れない!」
 まさかの自家製手打ち麺!
「とにかくラーメンというのは体に悪い食べ物という印象が強いからね。『バランス感覚の男』に擬えて、完全食としてバランスの取れたラーメンを目指してみたのだ」
 さすが守護神! いや、守護神のふたつ名はこの際関係ないけれど。麺が盛られた皿の横できらりと光った歯が好印象だよ!
「フィクサードを模していながらその実は直球ど真ん中の正統派ラーメンでした。試食が楽しみですね!」
 健一はくううっ、と小さく腹を鳴らした。


「どちらかっていうとあたしが食べたいラーメンだったりする」
 健一にマイクを向けられて、レイカは少しはにかみながら答えた。
「三尋木の首領、三尋木凜子をイメージした『大人の女のラーメン』よ」
 さすが、某大手航空会社のフライトアテンダントだ。美容に気を使っている。
 健一はフライトアテンダントをスッチーといって、レイカから「まだスッチーなんていう人がいるんだ」と冷ややかなまなざしを向けられた。
「まあ、見た目に気を遣う仕事……ではあるかな」
 所業柄、全国津々浦々、海の向こうへも跳ぶことはあればさぞ舌も肥えていることだろう。一風変わったラーメンを出してくれるに違いない。
 レイカは期待を裏切らなかった。
 柚子胡椒で少しアクセントをつけたシンプルな塩味のスープにストレートの細麺をいれると、あえて肉ではなく、コラーゲンが多いという鮭の西京焼きを乗せた。
「西京焼きは少し薄めに味付けしてあるわ。主にほうれん草で美白のためのビタミンEを、食物繊維も大切ってことで千切りニンジン・適当に切ったキャベツをごま油で炒めて添えて……」
 菜箸で茹でたアスパラガスを麺の上に飾る。どんぶりの縁に立て掛けるように海苔を5枚入れ、最後に切ったレモンを添えた。
 色合いも鮮やかなラーメンの出来上がりだ。
 立ち上る湯気の向こうに着物姿も粋な三尋木姉さんが、後れ毛に指をやって微笑んでいるような。そんな幻すら目に浮かぶ。
「こだわりっていうか、美容を気にしないといけない女子が食べたいラーメンってこんな感じになるかなーって」
「シャキシャキした歯ごたえも楽しめそうですね。ご本人も気に入ってくれるんじゃないでしょうか。いや、わかんないけど」
 最後の一言は余計よ、とレイカからMCに突っ込みを入れられた健一であった。

●さあ、試食だ!
 最後に富江が戻って来て手際よく自分のラーメンを仕上げた。
「さぁできた! これがアタシのフィクサー麺だよっ!! 食べておくれっ!」
 試食テーブルに並べられたラーメンは9品。
 選手たちには各2杯ずつ作ってもらい、試食は各人が小さな椀に小分けして食べる形をとった。1杯ずつ食べるとなると相当な量になるためである。
「さて……、残さずきっちり食べようか」
 拓真の一言で試食が始まった。
 以下、エントリー作品。

1番、新城・拓真の作品
 『斬手』九朗の「さっぱりスパっとした塩ラーメン」
2番、月杜・とらの作品
 楽団オルガニスト・エンツォの「春☆爛漫」ラーメン
3番、綿谷 光介の作品
 キース・ソロモンの「変幻自在! 魔神召喚ラーメン」
4番、セレア・アレインの作品
『旧きゲルニカ』干興院キングパイルの「イレギュラー麺」
5番、斜堂・影継の作品
 楽団の「イタリアの戦慄・鮮血の楽団ラーメン」
6番、奥州 一悟の作品
 ストロベリー・キューティ・ベリーズの「苺香るつけ麺」
7番、新田・快の作品
 『バランス感覚の男』千堂遼一の「バランスラーメン」
8番、丸田 富江の作品
 フィクサードそのものの「フィクサー麺」
9番、 藤代 レイカの作品
 三尋木凜子の「大人の女のラーメン」

 個人部門が7名、団体部門が2名。やはり個人のほうがイメージしやすいのか。ともかく試食は完了した。
 各ラーメンの味は報告書を見ながら想像してほしい。これは決して手抜きではない!
「……はい。ということで、結果発表です!」
 膨れた腹を手でさすりながら、健一がラジカセのボタンぽちっとな。
 厨房内に鳴り響くドラムロール。
「第一回、フィクサードをイメージして作ったラーメン選手権。最優秀賞は――」
 手を前で組み合わせ、俯く人物にぱっとスポットライトが当てられた。

「エントリーナンバー9番、藤代さんの三尋木凜子をイメージした「大人の女のラーメン」です! おめでとうございます!」

 沸き起こる拍手。
 だけどみんなの笑顔がちょっぴり苦しそう。だいたい1人3杯分のラーメンを食べたことになるのだから無理もない。試食する人を別に募集するんだった。
「実は最後まで悩みました。どれもみんな素晴らしいラーメン、美味しかった……。最終的にマスターと宝箱さんにご意見いただいて決めた結果です。あらためておめでとうございます!」

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
成功です。
MVPは優勝ラーメンを作った人に。

第一回、フィクサードをイメージして作ったラーメン選手権。いかがだったでしようか。
第二回が行われるかはこのビデオの視聴率の良さにかかっています(えー)。

それではみなさん、ごきげんよう!


さて、あとかたずけ……って、あれ? みんな、どこ行くの? ねえ……ちょっと……