●異世界の闘技場 ボトム・チャンネル。 それは階層上になっている世界において、一番下であるという世界のこと。 故にボトムチャンネルは上位世界からの脅威に晒されてきた。時折Dホールを渡ってくるアザーバイドにより、大きな被害を受けることもある。それに対抗するためにリベリスタは徒党を組み、組織だって警戒に当たっているのだ。 さて、上位世界にもいろいろな世界がある。ボトムチャンネルよりも広大な世界も在れば、ただ樹木が一本生えているだけの世界も。時間が止まった世界もあれば、今まさに消え去ろうとする世界も在る。 そんな世界の一つ、ルゴ・アムレス。 半径五キロ程度の大地に、天を衝くほどの黒い塔が存在する世界。そこは多種多様の戦士達が集う修羅の世界。 その塔の上にこの世界のミラーミスがいるといわれ、今なお塔は天に向かって伸びていた。何を目指しているのか、誰にも分からない。狭い世界ゆえに、塔はどこからでも見ることができる。 息を吸い、そして吐く。異世界の空気もボトムチャンネルの空気と変わった様子はなかった。 リベリスタは目の前の『相手』を見ながら、いまここにいる経緯を思い出していた。 ●異世界への道 「異世界へのDホールが開いた」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったリベリスタたちに向けて淡々と説明を開始する。 「このDホールからアザーバイドが出てくる危険性は皆無。ホール自体はこちらが閉じない限り、最低でも五十時間開いている状態なのは『万華鏡』で確認済み」 Dホールと聞いて身構えていたリベリスタは、肩透かしを受ける。強力なアザーバイドがやってくるのかと身構えていたからだ。 「ん? 危険性の無いDホールを閉じるくらいなら俺達じゃなくてもできるよよな。何で呼ばれたんだ?」 逆に疑問に思うリベリスタたち。 「異世界探索」 イヴは短く、しかし驚くべき言葉を告げる。 アークは過去ラ・ル・カーナと呼ばれる異世界と接触し、二種族間の戦いに巻き込まれた。異文化ならざる異世界だ。価値観の違いでどのようなトラブルに会うか―― 「その世界は半径五キロ程の大地。煉瓦を組み合わせたような石の建物と、ビーストハーフなどの動物を模した住人が住む世界。異世界から戦士が集うらしく、異世界の人間には友好的」 「問題なさそうな世界だな」 「そうでもない。流通は基本物々交換。あるいは何らかの勝負で決定する。なのでいきなり戦闘が始まることもおかしくない。 そしてそれを象徴するのがこの塔」 イヴの言葉と共に画面が入れ替わる。CG画像で作られた『異世界』の全容。お盆のような大地の真ん中に、黒い塔が高くそびえている。 「半径2キロ、高さは死人で着ないほどの巨大な塔。強さを求め、異世界からの来訪者はこの塔に挑んでいる。高さは雲の上のさらに上。一つの階層に一つの町が入るほどの大きさ。上の階にいけば行くほど、行く手を妨げる番人は強くなる。 最上階にはこの世界のミラーミスがいると言われている」 「……妙に詳しいな。『万華鏡』の予測って異世界まで届いたか?」 スラスラと説明するイヴに疑問を持ったリベリスタ。未探索の異世界なのに情報がこれだけ入っているのはどうしてなのだろうか? 「教えてくれる人がいたの。解放状態のDホールに案内人がいる。 こんなものもって来た」 モニターが一枚の紙を映し出す。材質的にはボトムチャンネルの素材と違うのだろうが、何かといわれれば紙であり、そして手紙であった。より正確な描写をするなら、 「『挑戦状』……?」 「『拝啓、ボトムチャンネルの諸君。我々はルゴ・アムレスの住人だ。君達の単語で言うところの上位世界のアザーバイドだ。先日はそちらの訪問の際、我等の同胞が色々ご迷惑をかけた。その謝礼を兼ねて、こちらの世界に貴方達を招待したいと思う。 だが我々の世界にも流儀がある。自らの研鑽に興味のないものに足を踏み入れさせるわけには行かない。そのため、我々の世界に来る異邦人にはある審査をしてもらうことになっている。例外は認められないので、お許しいただきたい』」 読み上げるイヴの声は平坦だ。招待なのに審査がいるとかどういうこと、と思っているリベリスタ。 「『審査は戦いで決められる。二種類の闘技場を用意した。その両方に勝利したのなら、我等の世界に立ち入ることを許可しよう。 戦いによって出迎えこそが我々の世界の礼儀ゆえ、このような形となった。そちらの世界の住人が、我等ほど戦いというものに好印象を持っていないことは理解している。押し付けがましいのは十分理解しているので、この文を破り捨てても構わない』」 「……文字通り、喧嘩をうってきたのか」 招待状ではなく挑戦状だった。あちらの世界の価値観では招待状なのだろうが。 「勿論無視しても構わない。行く義理はない」 イヴの言葉に、確かにと頷くリベリスタ。その場合はDホールは閉じるだろう。喧嘩っ早い異世界に挑み、余計なトラブルに巻き込まれずにすむという考えもできる。 どうしたものか、とリベリスタたちは頭をひねった。 ●『卯寅辰巳男性チーム』 「来るかね、連中?」 蛇骨剣を持った戦士が、空を見ながら誰とはなしに問いかける。 「来ない選択もあるワヨ。あの子タチ、そんなに戦いが好きじゃなかったものォ」 筋骨隆々の男性(金バニーガール)が、体をくねらせながら答えた。 「だからといってボトムチャンネルに出向いて、影響を与えるのも問題じゃしな……ヒック」 老人が酒を飲みながら、一度訪れた世界のことを思い出す。長居をすると影響を与えそうな雰囲気。 「来なければそれで構わん。だが、いささか興ざめではあるな」 龍の刺青をした男が拳を握る。ボトムチャンネルの戦士達との再戦に。その気持ちは、四人とも同じだった。 来たれ、強敵よ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年04月23日(水)22:15 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ルゴ・アムレス。その世界に来るものは聳え立つ黒い塔に見入ってしまう。まさに世界の中心。この世界を示す存在。 「塔の世界……遥か天を仰ぎ見ても、塔の頂点さえ見えないなんてね」 『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)は塔を見上げながら、感嘆の声を上げる。雲を抜け、さらにその上まで伸びる塔。異世界より来た者は様々な理由であの塔に挑むという。塔の中の戦いを求めて。塔の頂上には、はたして何があるのか。 「ふふふ、アークに喧嘩を売るとは愚かな奴等よ。その慢心の罪、己が命で贖うと良い」 口に手を当てて含み笑いをするのは那由他・エカテリーナ……こと『グラファイトの黒』山田・珍粘(BNE002078)。異世界の風に長髪をなびかせて、自信満々な態度で相手を見やる。だがこれは慢心ではなく、自らの努力に裏づけされた自信だ。 「『挑戦状』か。受けぬ訳にはいかないものだ」 ハンドグローブを手に填めながら、『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)が相手を見た。相手は四人。相応の手練であることは分かっている。戦闘経験も豊富な戦士達だ。一瞬の隙が勝負の分かれ目になるだろう。 「折角の機会を逃すわけにもいかん。その挑戦、受けてたとう!」 桜の意匠を施した羽織を着ながら、ベオウルフ・ハイウインド(BNE004938)が構えを取る。半身体をずらし、刀の鯉口を隠す居合いの構え。隙があるようでいて、全く隙が見えない。いつどこから襲われても対応できるだろう自然な立ち様。 「ご招待ありがとう。うみはここ気に入ったよ。さあ、はやくやろう」 ワタリガラスの羽根を広げ、『Nameless Raven』害獣谷 羽海(BNE004957)は戦いの前の喜びを表現する。年端のいかない子供だが、けして素人ではない。少なくとも戦う覚悟はある。破界器を手にアザーバイドたちに向き直る。 「ラ・ル・カーナとは随分と違う世界ですね」 縁深い異世界の名を口にしながら雪白 桐(BNE000185)が辺りを観察する。彼らの持っている武器などを見て、ふむと頷いていた。火薬が存在しないのか、重火器の類はない。ボトムチャンネルの中世期あたりの文明だろうか。そんなことを考えていた。 「よくこちらへ迷い込んでくる方たちはいらっしゃいますが、まさかお邪魔することになるとは」 『聖闇の堕天使』七海 紫月(BNE004712)はDホールを通ってやってくるアザーバイドのことを思い出しながら、顔にほほを当てる。今は私たちのほうがアザーバイドになるのかしら? 異世界からの召喚された戦士。紫月の厨二心がこっそり揺れていた。 「細マッチョの龍拳士やら蛇骨剣使いとかベタな酔拳老人とかはいいとして」 藤代 レイカ(BNE004942)が皆を代表して、アザーバイドの一人を指差す。その先には金のビキニパンツをはいたアドルファス。 「金ぴかの男性バニーって何!?」 指差され、ポーズを決める金色バニー。仕事じゃなかったら帰っているところだ。見たくない。 そんなひと悶着もあったが、闘技場の準備は滞りなく進む。試合形式を確認後、戦士たちは開始ライン移動する。 開始を告げる笛が鳴る。それに弾かれるように、リベリスタとアザーバイドは動き出した。 ● 「お相手、願いましょうか――!」 「粋がいいねぇ」 最初に動いたのはリセリアだった。青みがかった細身の刀身を持つ片手半剣を手に、蛇骨剣使いのカザマに迫る。地を蹴る速度をまベクトルに変える。勢いを殺すことなくアザーバイドに迫り、光の帯と共に振りかぶる。 反りの入った剣と、蛇骨剣が交差する。純粋なパワーではカザマが上。手数と速度ではリセリアが上。一合打ち合いそれを理解した二人はそのまま互いの武器を振るい続ける。刃金の交差する音が何度も繰り返され、そのたびに互いの傷が増えていく。 「自分はウラジミールという。一手お相手願おう」 「アドルファス。楽しませてもらうわヨ」 投げキッスを返す金色バニーに向かって、ナイフを構えるウラジミール。動作こそふざけているが、その構えと距離のとり方は明らかに戦いを意識しているものだとウラジミールは判断できた。正中線を守り、半身ずらした真っ直ぐな構え。 ウラジミールのナイフが走る。挨拶とばかりに振るったナイフを、必要最低限の動きでかわす金バニー。拳の間合に入ったウラジミールに振り下ろされる拳を、翻したナイフで迎撃する。経験によって構築された無駄のない攻防。互いの体に走った痛みが、戦闘を加速させる。 「私がメインでお相手させてもらいますね?」 「できれば酌をして欲しいがのぅ……ヒック」 桐が自らの体内に闘神を降臨させる。体内を駆け巡る闘気。その滾りを顔に出すことなく、無表情のままに破界器を握り締める。相手を見れば、瓢箪を口にしてふらふらとした動きをしていた。千鳥足のように見えるが、けして倒れることのない安定した足取り。 桐は油断なく相手を見据える。全身の力を振り絞り、一撃に全てをかける構え。限界を超えた一撃の、さらにその一歩先。大上段に振り上げた剣を、全身の筋肉を振り絞って叩き落す。剛、と唸る剣に、一瞬ローの酔いが冷めたかのような顔になる。 「他の人に邪魔されたくないから強引にいくよ」 龍の意匠を施した服を着たアザーバイドに、羽海が突撃をする。地面を蹴って全力で迫り、手の平に集めた力を一気に解放する。解放された力は衝撃波となり、アザーバイドは後ろに吹き飛ばされる。アークが生み出した突破の力。 そのまま羽海は相手を見やる。吹き飛ばし、距離が離されたユンロンは、勿論羽海ではなく仲間を助けるべく走って移動することもできる。だが羽海の心意気を悟ったのか、手招きをしながら羽海に迫る。その拳が、ゆっくりと握られていく。 「助太刀しよう」 ベオウルフがウラジミールに短く語りかけて、金バニーに迫る。腰に差した白鞘造の日本刀に手を伸ばす。体内のギアを加速させ、水かrなお反射速度を上げていく。鋭く集中する。自分と敵以外にはなにも映らないほど、強く。 時間にすれば一秒にも満たない間に、無数の攻め手を夢想する。その中からベストの手法を選択し、ベオウルフは鞘に手をかける。幾度となく繰り返した居合術。練習の動きそのままに刀を払い、何かを斬った確かな手ごたえが伝わって来た。 「さあ、皆さんやってしまいましょう。応援してますから! ……冗談ですよう。私も戦いますからお任せあれ」 那由他……こと珍粘が腰に手を当てて命令し、そのままアドルファスに迫る。異世界のを吸い込み、体内で循環させる。傷を再生する力を増し、槍を構えた。虚ろな瞳で相手を見つめる。 自らの負のオーラを槍に纏わせる。螺旋を描くように纏わりついた黒の波動は、敵を苦しめる呪いとなる。穂先が肉をえぐればそこから侵入し、相手を石と化して呪い殺す終の一撃。石になった金バニーを見ながら、那由他……こと珍粘は薄く笑った。 「害獣谷さん、いま癒すから!」 レイカはユンロンと一対一の戦いを行っている羽海に対しての回復に、ひっきりなしだった。自らの体力を燃やし、その熱を相手に移す。移された熱は体内を駆け巡り、細胞を活性化させ、その傷を塞いでいく。 思ったよりもアザーバイドの火力が高い。レイカはそれを感じていた。この回復はレイカ自身の体力を削る。ジリ貧になる前に前に出るか。腰に挿した大業物を手にする。アークで剣の訓練は受けて来た。柄を握り、敵に向かって突貫するタイミングをうかがう。 「構いませんわ。わたくしが回復に徹しますので」 レイカの背中を押すように紫月が微笑む。ゴシックなドレスが紫月自身の魔力によってふわりと揺れる。風は紫月を中心に吹き、リベリスタを優しく包んでいく。レイカの癒しが熱なら、紫月の癒しは抱擁。風が撫でるように触れ、痛みを吹き飛ばしていく。 (さすがに鍛えている方たちですわね、筋肉がとてもイイ感じです。若干一名見たくない方もおりますが……うぷっ) 紫月が闘いながらアザーバイドを見入る。脂肪を引きしぼった筋肉のユンロン。老化しながらも鍛練を続けるロー。実戦で鍛え上げられた戦士の体躯を持つカザマ。そして、アドルファスのところで目を逸らした。 数の優位性を生かし、各個撃破を試みるリベリスタ。安定した回復と手数で少しずつアザーバイドを押していく。 だが、アザーバイドも修羅の世界の住人。ただ押されるままではいない。 ● リベリスタは金バニーに集中砲火を敷き、先に倒そうとしていた。それは防御力が高く他のアザーバイドを庇われては困る、というダメージコントロール防止の意味が高い。 だがそれは意味を返せば、攻撃力が低く防御力が高い相手に三人のリベリスタがついているのだ。 「いいのかしらん、ボウヤ達。アタシに構っている間に、あの三人は貴方の仲間をボロボロにするわよん」 腰をくねらせアドルファスが指差す方向を見れば、押さえに入っている人たちが押されている姿だった。 「……っ! 蛇腹剣……蛇骨剣。文化は似るものですね」 「へぇ。そっちの世界じゃこいつをそう呼ぶのか」 幾重にも分割された蛇骨剣に刻まれ、リセリアは膝を突く。運命を燃やし立ち上がる。時折光の剣技でカザマの動きが惑うが、一撃の重さはカザマが重い。ましてや変則的な剣は、リセリアの死角から襲ってくるのだ。防御のタイミングが狂ってしまう。 「あいたたた……!」 「貴公等が目に見えぬ何かを削り、戦場に留まる特性があるのを知っている。まずはそれを削らせてもらった」 羽海に拳を叩き込み、ユンロンが一礼する。ボトムチャンネルでの戦いのことは覚えている。運命を燃やし立ち上がる強さ。羽海もまた、運命を燃やし立ち上がる。 「あら? あらあらあら……」 「お嬢さんにお酒はまだ早すぎたかの?」 酒を含んだ息を吹きかけられ、紫月が足をふらつかせる。唯一の遠距離攻撃かつ妨害要因のローは、メインで回復を行う紫月を狙っていた。ベオウルフは紫月の動きが封じられないようにに注意していたが、金バニーの動きに気をとられていたこともあり間に合わなかった。 「こちらを狙いませんか。当然と言えば当然の戦略ですね」 桐はローにダメージを与えながら、しかし目の前の脅威を無視してチーム勝利への貢献のために動くローに感嘆の声を上げていた。確かに自分達だって回復役から先に攻める。 「油断してる敵なんて良いカモだって思ってたら、これはなかなか危ないかしら?」 那由他……こと珍粘が戦場を見渡し、汗を流す。金バニーにダメージコントロールさせないだけなら、ブロックして動きを封じるかすればいい。人を割いてまで先に倒す必要はない。 「先にアドルファスじゃなく、息を吐いてくるローを倒すべきだったわね」 レイカが内心臍を噛む。確かにアドルファスが倒せるならそれに越したことはない。しかし金バニーは防御力も回避も高く、倒しやすい相手ではない。そしてそれに構っている間に、攻撃力の高い者たちが突破してくる。 図らずも、アドルファスはダメージを集中的に受けて他の仲間のダメージを軽減させる、というダメージコントロールの役割となっていたのだ。 「私が紫月の回復に専念する」 ベオウルフが後ろに下がり、回復に専念する。アドルファスに接近したために冷静さを失い、回復への移行が遅れたのだ。 「では自分がユンロンに向かおう」 「ふふん。私の相手は変わらず貴方という事ですね。私を倒すのは厄介ですよ」 ウラジミールが突破されそうな羽海の援護に回り、那由他……こと珍粘は挑発するようにアドルファスを手招きする。 「うみに見せてよ、完璧な『三歩必殺』を」 羽海はユンロンと交戦しながら、相手の技を誘発する。 「拳に『完璧』などない。常に進化し、研磨し、そして前に進むものだ」 ユンロンが拳をおろす。しかし戦意は変わらない。むしろ研ぎ澄まされていく。 「我が拳、未だ至らず。『完璧』には程遠いが、これが『今』の三歩必殺だ」 羽海はまるで握手するように自然に構えられるユンロンの拳を見ていた。忘我しているのではない。あまりにも殺気がなく自然な動き。その動きに体が対応できなかった。必殺の一撃を受けて羽海は倒れ伏す。 「次は自分が相手しよう」 ウラジミールがナイフを構え、ユンロンと相対する。拳を突き出すように構え、ウラジミールの言葉に答える。 「よくがんばったが、ここまでだな。これで終わりだ!」 「させないわよ!」 カザマの蛇骨剣がリセリアを襲う。とどめの一撃とばかりに放たれた剣を、リセリアを庇うようにレイカが受ける。刀である程度は逸らしたが、それでも傷は軽くない。 「私の戦力はあまり高くないけど、これぐらいのことはできるのよ」 「おいおい。無茶するなよ」 「そうですね。ですが助かりました」 心配するようなカザマの表情が、一瞬でこわばる。リセリアの一刀がカザマのわき腹を裂いたのだ。 こちらの攻撃をレイカが受け、リセリアが攻める。面倒なことになったぜ、とカザマは剣を構えなおす。 「避け続けるのも限界のようですね」 「ぬぅ……酒が尽きたか。無念無念」 桐の一撃にローが力尽きる。高火力の桐の攻撃は、掠っただけでもかなりの傷を受ける。くたっと酔いつぶれるように崩れ落ちるロー。ふぅ、と息をつく桐。 「危ないところでしたわ」 紫月もまた息をつく。ローの攻撃を集中的に受け、危ないところまで追い込まれていたのだ。味方の回復がもう少し遅ければ、倒れていただろう。そうなれば回復を失い、戦線を支えることが難しくなる。 「倒れるにはまだ早い」 胸部に穿たれる拳によろめきながら、ウラジミールが運命を削る。交差の瞬間に繰り出したナイフが、アザーバイドの皮膚を裂いていた。 「されどそう変わりはあるまい。決着には五拍も必要ない」 ユンロンが呼吸を整え、拳を構える。決着のときは近い。それはウラジミールも分かっていた。 「我か」 「自分か」 「どちらかが」 「倒すか」 「「倒されるか」」 円を描くような腕の動きでナイフを捌きながら機をうかがうユンロン。深い経験から数多の手法でナイフを振るうウラジミール。繰り出された拳は。 (……あの少女との戦いで、足に震えが――) 羽海との戦いで疲弊して震える軸足が、わずかな拳のズレを生む。そのズレを縫うように、ウラジミールのナイフはユンロンの胸部を裂いていた。 「試合ならここまでだ。これ以上を望むかね?」 勝ってなお気を抜かず相手を見る。残心と呼ばれる武の心構え。その心構えを受けてユンロンは降伏の意を示した。 「私を倒すのは面倒ですよ? ついでにこの世全ての呪いと痛みも味わって下さいねー」 那由他……こと珍粘がアドルファスを石にして、呪いの箱を展開する。如何に防御が高くとも、呪いの前には役に立たない。じわりじわりと追い込まれていく金バニー。 「まだ……よ!」 レイカがカザマの攻撃を受けて運命を燃やす。膝を突き、刀を杖にして立ち上がる。リセリアを庇っていた故に攻撃はできないが、それで十分だと刀を構える。 「行け、リセリア。決めてこい」 ベオウルフが納刀し、着物を直す。もはや刀を抜く必要はない。リセリアに一刀抜く力を与え、ベオウルフは背を向けた。 「これで終わりです!」 カザマの懐に踏み込んだリセリアは、深く沈みこんで起き上がるような動きをする。そのまま『セインディール』を抜き放った。反りのある剣は流れるように刃鳴りを響かせ、確かな手ごたえとともにカザマを逆袈裟に切り裂いていた。 ● 勝ち目がないことを悟り、金バニーが降伏する。防御系のアドルファス一人ではまず勝ち目はないだろう。 戦いが終わり、アザーバイドたちは痛むところをさすりながら立ち上がる。修羅の国の住人らしく、結構タフである。 「よい戦いだったな」 ベオウルフが互いの健闘を祝す意味で握手を求める。カザマがそれに応じて、がっしりと手を握り合った。 「ところで聞きたいんですけど、塔の上はどうなっているんでしょうか?」 「さてなぁ? 一番上まで昇った者はおらんからのぅ。この世界そのものが待っとるとも言うが、はてさて」 那由他……こと珍粘の質問に、ローが酒を飲みながら答える。リベリスタたちは世界の中央に聳え立つ黒の塔を見上げた。 「今までてっぺんまで飛んでいった人はいるの?」 「いたかもしれないが、基本入り口から入っていくぜ。皆戦いたいからな」 羽海がワタリガラスの羽根を広げて問いかける。返ってきた答えは、実に戦いに趣を置く世界らしい答えだった。飛行して頂上を目指すのではなく、自分の足で闘って登りたい。 「一体何階あるのでしょうね?」 「何なら登ってみればいい。最ももうすぐお前達の世界のホールが閉じそうだから、次の機会になりそうだが」 「次?」 リセリアの問いかけにユンロンが応じた。ラ・ル・カーナの時とは事情が違う。ホールを開け放しにすることはできない。 「エネルギーを溜めるのにそちらの周期で二十日ほど必要だと聞いている」 「とすると……五月十三日ごろかしら?」 多少のずれはあるかもしれないが、そのころにまたDホールを開けるつもりらしい。そのときに塔に挑むなら、歓迎するつもりのようだ。 強者が集まる世界『ルゴ・アムレス』―― 異世界への入り口が再び開くとき、新たな戦いが待っている。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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