● 最近、夢を見る。 皆が寝静まった静かな夜に、私は上半身だけを起こすのだ。 ゆっくりと口を開いて『何か』が出てくる。 それが『何』なのか私は分からない。何故ならそれは『私』だからだ。 トンネルから抜けたジェットコースターのように、私の意識は私の口を抜けて外に出る。 私の体が、糸が切れたかのようにまた布団に倒れこむのをよそに、『私』は動き出す。 窓にぶつかる事もなく、外へ。一階の屋根を伝って、壁を下りる。 それこそジェットコースターのように、垂直の壁を落ちもせずに高速で降りていく。 がさがさと音が聞こえる。私は何なんだろう? 夢だからよく分からない。 けれど道には見覚えがあるのだ。 今夜の行く先は、家から数件離れた友達の家。よく遊びに行くから、部屋の場所も知っている。 二階の角。そこに向かって私は壁を登っていく。 窓を抜けた先には、友達が寝ていた。 私に気付いた様子はない。何だか幽霊になったみたいだ。 『私』は彼女に近付いて、覗き込む。手を伸ばす。 目が覚めた。 ● それは『彼女』の視点だった。 自らの体から意識が抜け出たような感覚に襲われ、動き出す。 自らの意思で動かしている訳ではなく、座ったままビデオを見ているような。 「……と、ここまでなら不思議な夢で済みますけど、ぼくが呼んだって事はそうじゃないって事です。皆さんのお口の恋人断頭台ギロチンが速やかに説明させて頂きますね。見て貰った方が早いと思うんですけど」 いつも通りの薄笑いを浮かべた『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)がモニターを切り替え、その光景に誰かが声を漏らした。 一言で例えるならば、『人面蟹』、或いは『人面蜘蛛』とでも言うべきものか。 しかし蟹というにはハサミがなく、蜘蛛というには胸部が足りない。 脚は全体的に長く、一つめの関節の間にもう一本の支えを持ち、まるで横になった『F』のようだ。 蟹でいう背の部分に浮き出た顔だけがリアルで、この異形を更なる異質に変えている。 「アザーバイド『寄生歩脚』……まあカニでもクモでも好きに呼んで構いませんが、ご覧の通り寄生タイプです。日中は体内に潜み、宿主が眠りに落ちる夜間に活動を開始します。活動内容は新たなる宿主の探索ですね」 人の顔を生やしたアザーバイドが、壁を降りていく。 見ようによっては生首が落ちていくようにも見えた。 「寄生歩脚自体の知性は非常に低いです、こちらの昆虫と余り変わりないかも知れません。ですが、このアザーバイド、活動時は宿主の知識とか意識とか……そういうものを自分の本体に移すみたいです」 その生首を見ながら、ギロチンは言葉を重ねていく。 本来ならばこのアザーバイドが知りえないはずの『友達』とその居場所。 余りにも思考体系が違うせいか人間の知識や知恵をフル活用するには程遠いが、それでも可能な限り他の生物の目に触れないように殖える術を、彼らは知ってしまった。 「で、ですね。体内に潜んでいる時はとても小さくて害も及ぼさないもので補足が遅れた結果、この『親』の周辺数百メートルで既に繁殖してまして」 笑顔が軽く引き攣った。 切り替える。 そこに映るのは夜の住宅街――そこかしこに蠢く、人の顔を背負った蟹とも蜘蛛ともつかない何か。 一匹一匹の大きさは脚を含めて70cm程。寝静まった空間に、異様が犇いていた。 「……宿主一人につき卵が一つ。一晩で孵って子は親と同じ様に体内に潜みます。寄生虫のように宿主の栄養を掠め取るだけで、宿主を食い荒らす事がないのはまだ幸いでしたけど……この子たちが繁殖能力をつけたら、ネズミ算式に増殖するのは目に見えています」 いくら害がないと言っても、それはあくまで神秘によらない肉体面の話だ。 もし寄生されていない人間に見られれば騒ぎにもなるだろうし、何より世界に受け入れられていないアザーバイドは世界の崩壊を加速させる。触発されて周囲の物品や動植物が革醒しないとも限らない。 故に、彼らが通ってきた穴も見付からぬ今となっては全て殺すしかない。 「幸い、このアザーバイドを攻撃しても宿主にそこまでの影響はない様子です。精神疲労による衰弱等が考えられますが、その辺は何か変なガスとか漏れた事にでもしてこちらで処理しますので皆さんはお気になさらず」 何匹いるのか、と問うたリベリスタに、ギロチンは小さく首を傾げた。 「……今夜直行したとして、八十匹とちょっと、ですかね……」 70cmの人の顔を張り付けた異形が、八十と少々。 実に嫌な夢を見そうな光景だ。 「正確な数は資料に書いてあります。繁殖に雌雄が必要という事もなさそうなので、どうか取り逃しのないようにお願いしますね。ぼくが視たこの光景を、一夜の夢にしてください」 ぼくを嘘吐きにしてください、笑ってフォーチュナは、手を振った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年04月23日(水)22:05 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 時計の針は午前二時。薄く霞がかった風景、今日は明けても曇りか雨だろう。 日中動く一般的生活サイクルからしたら、もう遅い時間だ。眠気にあくびを零した『咢』二十六木 華(BNE004943) が途中で止まった。一つ先の通りで、何かが過ぎった。犬や猫ではありえない。 蠢いているのは――立てるようになった幼子ほどもある異様な蟹、或いは蜘蛛。 夜の浜辺、岩を一つ引っ繰り返せばこんな光景にもなるかも知れなかった。 「幽体離脱がまだ可愛く見えるぜ……」 目を細めて呟く。夢とも現とも知れぬ、そんな現象ならばまだ良かった。 「気持ち悪いっすこれー!」 戦闘を重ねた経験は既に片手に余りそうではあるが、それと奇怪なものへの慣れはまた別問題。『ジルファウスト』逢川・アイカ(BNE004941)はスカートをぎゅっと掴んで眉を寄せる。 下手に小さいのが蠢いているよりはまだマシなのだろうか。小さな生首が砂浜に転がって、漣のように迫ってくるのを連想して思わず鳥肌が立った。 けど気持ち悪くても、先輩達には及ばないとしても、自分ができる事を精一杯やるのだ。 そう思って横を見る。恋人である小柄な少女と並び立ち、ふっ、と息を吐いた『合縁奇縁』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)は一言告げる。 「……きもい……」 感覚はエースだろうが何だろうがあんまり変わらないようだった。 戦闘ともなればそんな事は思考の外に追いやって行動できる竜一ではあるが、それはそれとしてキモイのはキモイ。生理的嫌悪というものは理性でどうにかなるものではなかった。 とはいえ、平時から全く均衡を崩さぬ彼の愛しの『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は、『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)と地図を広げ現場の状況と合わせ侵入位置を決めていく。 「寄生虫か。半端に知恵を付けているのは好都合。隠す手間が省けて丁度良い」 付けた知恵さえ問題にならぬ己らの利だと囁いて、あくまで普通の少女は肩を竦めた。 「しかし、生首が動き回る光景というのは不気味なものがありますのう。それを倒したら、もっと地獄絵図になりそうですなー」 言葉だけは忌避すれように、けれど声音は楽しむように頷いた『怪人鮫男』百舌鳥 九十九(BNE001407)が夜道に立っていれば通報か悲鳴の二択のような格好な事にはもう誰も突っ込まない。これも怪人の名が売れたが故か。多分違う。 篭った笑い声に軽く溜息を吐いて、調整を終えた龍治は再び目標のブロックへ眼を向けた。 「まるで映画の様な……とはこの様な状況に対して使うのだろうか」 「苦手なタイプだけど、殴って倒せるだけまだマシかしら……」 殴って倒せるならば、それはユーヌが嘯くように害虫と大差はない。それでも藤代 レイカ(BNE004942)は憂鬱げに肩を竦める。ホラー映画であるならば介入は叶わず、主人公がうまく逃げるか反撃に転ずるかをクッションを抱きしめながら見るしかない。幾度か過ぎってしまった自らに群がる『アレ』の姿を片手を振って追いやって、レイカは狼の耳を澄ますように前を見た。 そんな仲間の会話を他所に、『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)はどこかで見た姿を思い出そうとぼんやりと霧の向こうを眺めていた。 「……あ、平家蟹」 思い出す。かつて見えた歌姫が眠る海に住むという、怨念を宿した生物。寄生歩脚の蠢き這いずるその様も、誰かにとっては恨みを抱いた姿にも見えるのだろうか――少なくとも、義衛郎には見えなかったが。 「何にしても、映画の様に闇雲に逃げ回るつもりは毛頭ない」 龍治が馴染んだ己の獲物を肩へと乗せる。 ホラー映画ならば、追い立てられるのは主人公。けれど此度は神秘を抱いた狩人が駆ける。 さあ、狩りの始まりだ。 軽く顎で行き先を示した龍治に、義衛郎と華が頷いて走り出す。 気楽に手を振った九十九に、アイカとレイカがついていく。 残ったユーヌと竜一は、一度だけ視線を合わせて駆け出した。 フォーチュナは告げていた。繁殖に雌雄は必要ないようだと。つまり、『一匹でも残れば』『そこから殖える』のだから――例え一匹であれ、逃せば同じ事が繰り返される羽目になる。 予知に示されたのは八十三匹。全て殺し切らなければ、今宵のリベリスタの任務は成功とならない。 けれどもホラー映画の定石は、『別行動は死を招く』……今宵はそうで、ないと良いのだが。 ● 人の注意と言うものは、とかく自分の目線の高さ以下へと向きがちだ。 義衛郎は庭先に植えてある木々、大きな雨水溝を囲むフェンスの上へも油断なく視線を走らせながら駆けて行く。振るう太刀筋に躊躇いはなくも、突如として飛び掛ってくる異形に呟きを漏らさずにはいられない。 「想像してたより遥かに気味が悪いなあ、こいつ等」 凍らせた生首の上に、別の生首が這い上がってくる。 上げるのは叫び。金切り声だ。だが、人の顔は持てど人の発声器官は持たない偽りの『頭』は人の声を奏でない。 「……うむ、中々に気味の悪い情景だ」 跳躍し義衛郎の背後に飛び掛った寄生歩脚が自らをじっと見詰めるのに、龍治は首を振った。死体に集る蟹ならば掃除との見方も出来ようが、生きた仲間に集る異形を無関心に見遣れるならば恐らくそれと同じものであるのだろう。 多数の足音が耳に響いた。かさかさとかりかりとがさがさと引っ掻く音がする。 それの最も多い場所、義衛郎の周囲に向けて龍治は一発中空へと弾丸を放った。威嚇などという上等なものではない。これはそんな理屈を理解しないだろうから。瞬きの間に降り注ぐのは炎の雨。義衛郎によって極寒に追いやられた寄生歩脚が、燃え盛る炎の中へと放り込まれた。 変形した甲羅、或いは腹部がその複雑怪奇な内部で息を金管楽器の間を通るが如くにくねらせて無理やりに出した『音』――耳障りな騒音に過ぎなかった。 複雑怪奇な不協和音を抜け、華は叫び続ける顔に語り掛ける。 「これは悪夢だ。全部悪い夢。……起きたら全部忘れてる」 龍治が世界の終わりの如く降り注がせる焼き焦がす炎も、冷たく光照り返す義衛郎の三徳極皇帝騎が巻き起こす凍て付く吹雪の刃も、今駆ける華の剣を盾の如く翳した火炎の奔流も、全部寄生された彼らの身に起きる事ではない。 その言葉が正しく届くかは分からない。けれど、彼らの心に一欠けらでも残って傷を癒す手助けになればいい。血気盛んな若者の顔に僅かな気遣いを乗せ、華は寄生歩脚へと突っ込んだ。 叫びは他の寄生歩脚も少々ではあるが呼ぶ役に立ったらしい。 数の暴力、という言葉がある。注意を払うべきであったのは、数を減らした際の討ち漏らしであると同時に、多数が迫ってくる序盤だ。数の利は圧倒的に寄生歩脚に傾いていた。 龍治の炎に燃やされた寄生歩脚が、彼へと群がる。炎は彼自身を焼く事はないが、飛び付いた寄生歩脚は死に物狂いで喰らい付いた。宿主を喰らわなかった事からして、或いはそれは肉自体が目的なのではなくそこに秘められた何かなのかも知れないが……食われる側としてはどちらでも大差はない。 額から垂れる血で龍治の視界が赤く濁るが、その向こうに氷の煌きと――目前を吹き飛ぶ寄生歩脚が見えた。 「と、大丈夫か龍治!」 「……ああ。この程度支障はない」 「頼りにしてるぜ、先輩がた!」 吹き荒れる氷の霧の向こうで次に狙いを定める義衛郎と、軽く首を回す龍治に口の端を上げ、華は己に飛びかかって来た一体の爪をかわす。 背に張り付いた顔に浮かぶのは恐怖だから……早く、終わらせる為に拳を握った。 ● 熱と音を追う四つの目は、忙しくも余裕を持って周囲へと。 四つ先の角には龍治や義衛郎、華がいるはずだ。目を凝らさずとも、降り注ぐ炎が、氷のささめきが聞こえてくる。三つ向こうの通りでは九十九にアイカ、レイカの……美女と野獣ならぬ綺麗どころと怪人組が倒した数をカウントし始めていた。 「はいユーヌたん、ワン、ツー!」 「三。少々喚き声が騒々しいな」 「え、俺!?」 「いいや? 竜一は頼もしいぞ?」 かしゃかしゃと爪に似た先がアスファルトをこする音が辺りに響く。慣れ親しんだ相手が共ならば、一々不安を煽られる必要すらない。 小さな翼を使って地上から足を離したユーヌは、這いずり回る寄生歩脚を見下した。 「無駄に数だけ生えていて、煮ても焼いても食えない足など必要あるまい。その喧しい騒音を撒き散らす頭ごと砕けて消えろ」 絶叫すらも捩れ乱れて騒音にしかならない相手に、言葉が正しく伝わっているかは甚だ疑問。それでもユーヌの言葉は力を持ち、逃れ切れなかった数体を問答無用で引き付ける。 避ける事も不得手ではない彼女は、その攻撃をかわし切る気で構えるが――前に立つのは竜一だ。 「どんどん来い! 俺が、お前たちの敵だ! 逃がさねえぜ!」 宝刀露草とJe te protegerai tjrs……傍らの彼女から贈られた得物を凄まじい勢いで振り抜いて、寄生歩脚の足を切り飛ばす。ひゅう、と息を吐いた竜一は、逃れた異形に向けて笑う。 「後、飛行するユーヌたんのスカートの中も見せてやらねえ!」 特に関係があるようなないような感じだが、飛行するユーヌは竜一よりもやや高い位置にいた。強風の日でなくて幸か不幸か。最も少女は相手が竜一ならば然程気にもしないのだろうけれど。 「見せる気もないが、虫より竜一の視線が集まってる気がするな?」 「そりゃあユーヌたんにちゅっちゅがぶがぶぺろぺろしていいのは俺だけだからね!」 「そうか。AFの通信はずっとオンだぞ」 「こんな可愛いユーヌたん相手に恥じる事など何もない! あ、皆危なかったらちゃんと言えよ!」 生首が地を這っている。長い足を蟹の様に蜘蛛の様に動かして、日常を侵食している。 その中でも平静を崩さぬ彼女と彼の声は、住宅街に絶える事なく響いていた。 ● 砕かれた寄生歩脚の死骸がそこかしこに転がっている。 九十九の聴覚とアイカの嗅覚は、異形を余さず狩るべく全力で研ぎ澄まされていた。 「おや、ひょっとしてこれは両手に花ってやつですかのう」 いつもの飄々とした調子は崩さずに笑う九十九は、革醒まもない二人にとっては紛れもない先輩であり、頼れるベテランだ。掴み所はないけれど、銃口の先はいつも仲間を傷つけるものへと。 「実は虫も結構好きなんですよな」 そんな事を言いながら、彼は躊躇いなく放つのだ。蜂の巣の如く穿つ弾丸の雨を。 生首に穴が開く。寄生歩脚の体に穴が開く。足が一本、撃たれて飛んだ。 爪が壁を床を木々をこする音。生臭さとは違う、青臭さに似た微かな、けれど独特の臭いが霧の粒で拡散するも、アイカの鼻は発生源を誤ったりはしない。 「もう一回あの匂いしっかり覚えるのはゴメンっすからね」 ああ、それにしても匂いはまだしも、拾ってみた死骸のあの手触りは酷かった。一見して滑らかに見える表面には細かい毛が生えているのか、抓んだ指先をざらりと撫でた。もしアイカが目的を持たず何の気なしに抓んだだけならば放り投げていたかも知れない。市場にならぶ毛蟹を可愛いと称する剛の女子高生がいたとして、これを可愛いとは称せまい。 ごりゅ、と魔力鉄甲を挟んで伝わってくる感触に、アイカはちょっとだけ渋い顔をした。 アイカと共に前方に並び立ったレイカは、滑るように近づいてきた寄生歩脚を弾き返すように大業物を振るう。渦を巻いた衝撃波は、まるでボールの様に吹き飛んで着弾地点の敵を弾き飛ばした。ピンボールのような動きは、相手がこの寄生歩脚でなければ多少は楽しめたのかも知れないが。 今の所、ホラー映画の被害者になった仲間はいないようだ。幻想纏いから伝え聞こえてくる声にレイカは返す。 「こっちは今の所大丈夫。逃げるのは特に注意して見ておくわ」 とは言え、数の不利ばかりはいかんともしがたい。傍らに来た一体を追い払うのに注意が向いたレイカに、二体目が飛び掛る。三体、四体。弱ったものを狙う性質なのか、単に仲間のいる方へ飛び掛っているだけなのか。 「っ……レイカさん!」 「――大丈夫、今の内に早く、まとめてやって! 気持ち悪いし……!」 弾かれたように向いたアイカに、レイカは手招き。無言で頷いたアイカは、相貌に決意を込めて拳に体に火炎を纏う。どん、と突っ込んだ体は、レイカの体で止められた。 もつれるように倒れた二人が身を立て直す。周囲に弾けた寄生歩脚が再び飛びかかろうとするのに、穴を開けるのは無数の弾丸。 「虫に集られる美少女というのも、案外需要が有るかも知れませんが。まあ、私の趣味ではないですのう」 仮面の射手は、今日は後ろに控えていた。前に立った二人のお陰でうまい事範囲に捉えられた寄生歩脚を穿ち尽くし、手にした得物に魔力の弾丸を再装填。 さあ、残弾はまだ豊富。二人の女性も頷いて得物を握り直す。 「さくっと行っちゃいましょう!」 アイカの声が、次の獲物へ向かう合図となった。 ● 霧が濃くなってきた。積み重なっていく異形の死骸を覆い隠すように。 人々は帰っただろうか。悪い夢から、自分の体に。住宅街には音がなく、全てが死に絶えた街のよう。 転がる寄生歩脚の体もカラカラで、まるで長らく放置されていたようだ。 とは言えそれが年単位で前の闘いなどではないと、リベリスタの息が語っている。 「えー、っと、そっちの数が二十五で……俺らが?」 「十と二と九と八と二」 「待て待て今足す」 「ま、トータル八十三なのは間違いないよ」 「動いてる匂いはないっすね」 「音もしないですしのう。ねえ?」 「……ああ」 レイカが特に傷の深いものに応急処置を施す中、リベリスタは転がる死骸を背に再確認。 視界のみならず、熱や音、匂いまでも徹底して狩り尽くしたリベリスタから逃れる術までは、異形は持っていなかった。 集られた傷ばかりはこの場では癒しきらないけれど、それも本部に戻れば不都合はないだろう。 ……最大の傷は、飛び掛られた者が受けた怖気立つような感触と生温さ、青臭さに似た匂いと自らの皮膚を食まれる音だったのかも知れないが――それも、暫くすれば薄れるのだろう。恐らくは。 「しかしまあ」 皆が帰り支度をする中で、ユーヌは一人ふと立ち止まる。 「踏みつけたくなる造形だな」 声と同じく軽く落とされた靴裏が、死骸の一つを踏み潰した。 もはや誰の顔も映し出していないそれは、卵の殻のようにくしゃりと潰れて――それでおしまい。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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