● 緑の体液からずるりと落ちた肉塊を、一斉に狗が食い散らかしていく。 肉が骨も残さず消えていく中で、緑の其れは姿を変えて、今其処で食われた男の姿で立ったのだ。 「不便な……」 形が有ると言うのは不便だと言いたいのだろう。 二本の腕も、二本の足も、頭や胴体があるニンゲンとやらは不便だ。 此れでは狭い場所も通れないし、歪んだ形の箱にも入れない。自分より大きなものを飲み込めないし、千切れたら死ぬのは同情さえしてしまいそうだ。 早く、早く此の奇妙な形を持ったなまもの全てを如何にかしなくては、如何にかしなくては。 崇めれば許そう。 命乞いするなら許そう。 全て、許して喰らいましょう。 「時は来た。 星々が正しい位置に坐した。 太陽は恐れて姿を消した。 小さきもの達は皆恐れて穴を掘る。 鳥は翼を切り取り、魚は奥深くへと沈んでいく。 人は闇を恐れて夢へと入り、されど近寄る影には気づかない。 何時でも其処に、何時でも隣にあった。 始まりである。 終わりの始まりである。 何人も其れを受け入れ心の臓を差し出し、狂える晩餐は蟲達の鳴き声が地を揺らすだろう。 這いずる脅威は全てを許して喰らい、錆びた鉄の香りが次はどの仔と追いかけ廻すのだ。 選び、選ばれ、支配者の望む姿へと変えるのだ、今宵―――!!」 ● ――隔離する事は、安全を確保するという事では無いのだろう。 今、三ツ池公園は此の世とは違う世界の色を見せている。 『特異点』と呼べる此の場所、あのジャック・ザ・リッパーの最悪の置き土産は、今、最高潮の時期を迎えている。此の場の神秘的事変が異常な数値で発生するという事だ。 『星辰の正しく揃う時』と呼ばれた今、巨大なアメーバが大地の植物を枯らし、狗の様な個体が肉を探して其の瞳を光らす。落とし子は母らが為に再び其の地に足を降ろし、屍を食む者が死を求めて嗅ぎまわっている――言わば魔境へと姿を変えた三ツ池公園。 『塔の魔女』であるアシュレイ・ヘーゼル・ブラックモアが其の魔境を此方の世界の者達には触れさせまいと結界を施したのだが。 「あははー、なんだか穴が空いちゃいました?」 ……彼女の力も万全では無い。 狗と屍を食む者が数で押し寄せ、結界に捨身のタックルをかまし続けた結果、綻んだ一部にヒビが入り、アメーバや仔が其の穴をこじ開けていったのだ。 だがアシュレイと言えども名立たる魔女だ。 開けられた場所はまた閉めれば良いものを、魔術的な作用が其れを許さない。 其れが、恐らく『飛び出す絵本』と称されたアーティファクトの存在だ。 絵本はゲートを司る力を持っているようで、アシュレイの結界に空いた穴を己の力で上書きして『閉められないゲート』を二か所作っている。 其処から漏れ出した敵を止めるのもそうだが、絵本は人語を理解する『這いずる者』の能力によって守られている。つまりは、這いずる者を倒さなければ、絵本は壊せず。絵本を壊さないと細々とした敵の増加が止まらない。 絵本から召喚された敵影が、三ツ池公園の外に流れ出ていく。此れがラトニャの思惑の中の一端であるかは判らない。 されど、放置は不可能だ。 彼等の増殖革醒の影響は強いだろうし、其れを踏まえずとも彼等を逃がし、拡散させる訳にはいかない。 オルクス・パラストからの精鋭部隊も何時もは裂けない手を貸してくれているのは、緊急事態であるからであろう。 此処で食い止め、此処で終わらせるのだ。 あのラトニャは此の世界の侵略が目的だと言うのなら、其れを阻止するのがアークの役目であるのだから。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年07月15日(火)22:51 |
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● 「三高平に戻って早々の大事件とは、俺は相当にツイて無いらしい」 最強にツイてないかもしれない。 遥平はただ一人、三ツ池公園の外の更に外にて立ち入り禁止の看板を並べていた。 近くに仲間らしい仲間はいない。ただ、リーガルコネクションを使用して、三ツ池周囲の一般人を全員避難させていたのは、驚くべき気の使いようであった。 ナイトメアダウンか、全てを失った少年は今。己を犠牲にしてでも同じような人間を作らないがために躍起になったのだ。 ● 詰まる所、完璧なものというのは存在しないのであろう。 空には星々が戦の行方を見守っている、三ツ池の中では予想を遥かに上回る激戦とやらが行われている様だが。 此方の隊はアシュレイの結界が零した敵を一匹残らず殺す隊だ。 生ぬるい風がアルシェイラの頬を撫でた、気持ちが悪くて、嫌な臭いのする風だ。 胸元の服をぎゅっと握りしめたアルシェイラは遠くの景色を見た、通常の人が耐えられない世界と融合が果たされれば何が起きるというのか。 「取り返しが、つかない、よね」 胸の奥には恐怖がチラつく、けれど押し殺してアルシェイラは言った。 「頑張る、だから、頑張ろう」 強い声と共に走り出したリベリスタ達、向かうは死地、狙うは敵の全滅。 「さあ、決戦だ! 戦士たちよ、今こそがその力を振るう時!」 フィリスこそ高らかに、両の手を伸ばして敵の群を捕えるように空中を裂く。 「行くぞ、この世界の同胞よ。異世界なんのその、灰燼とし焼き尽くしてやろうぞ!」 敵の群に、最初に飛び込んだのはクラッドであった。 人語を理解しないグールに周囲を囲まれた彼、孤立していたからだろう狙われたのだ。だが彼は群を嫌う。だからこそか、群を成すグールどもに溜息を吐いた。 しかしその時には、檻に囚われていたのはグラッドでは無く犬たちであった。彼の指から伸びるコードが、星の光に反射して煌めいて、其処でやっとコードが何処に繋がっているのかグールたちに見えたのだ。 その時にはもう遅いのだが。 クン―――とコードを引っ張れば、一斉にグールの四肢や胴や頭が千切れて血が地面を伝う。僅か一瞬の出来事であった。 「さあ、お前はどれだけ俺を楽しませてくれる? 精々楽しく戦おうじゃないか、どちらかが壊れるまでな」 返り血を浴びて真っ赤に染まったグラッドは気味悪く笑った。敵が認識できないとは関係無い。例え此の眼が血で染まったとしても、コードを握る手は敵を切り裂くが為だけに動くのだ。 彼等の背後より、雪菜は祈り手を握り締めて仲間に回復を与えていく。 彼女の心は優しいのだ、此の死の這いずる三ツ池という中でも他者が傷つかない事を考え、そして動いていた。 癒す事に躊躇いも無く、その為に此処に居る事を己が意思として立つ。誰も死なせず誰も倒れさせず、勝つのだと。 回復というのは敵からしてみれば最悪だ。だからこそ、這いずる者は動いた。 「……あなたっ」 「初めまして、消えて頂く」 アメーバ状のものが敵や味方の間を抜けてきて、アメーバが形を変えて出て来たのは美少年とも取れる男。それが刃を振り落す。 両手で避けるように壁を作った雪菜だが、痛みは無い。其の目の前には、 「――チッ、また決戦だからって引っ張り出しやがって」 苦言と共に放つのは雷鳴。イリアスが片手に魔法陣を従えつつ、這いずる者を撃ち砕いていく。 「ったく、どいつもこいつも……見てろよ、こいつらぐらい俺の一撃でどうとでもしてやる!」 されど其の一撃で這いずる者を止める事はできない。攻撃は雪菜へと通ってしまう、はずではあったのだが。 「――させない」 シーザーが走り込んで来て、這いずる者の攻撃を代わりに受け止めたのである。 的確に首を狙われて血が噴き出すそれ。しかし瞳こそ然りと光を携えてシーザーは倒れまいと歯を食いしばったのであった。 負ける心算は無い。抗えるなら、何処までも抗おう。 「生憎と俺達はお前達に負けてやれない! 盾は此処にある、貫けるならば貫いて見せろ!」 吼えれば吼える程、首の血が噴き出した。されどそれさえ、その痛みさえ忘れてシーザーは言う。 「人間如きが、我等に楯突くか、面白い!!」 「五月蠅い! 負けてなんてやれない、こんな所で、こんな所で!!」 二度目の攻撃もシーザーを射抜いた。されどまだ倒れない、諦めないと自負し、勝利を信じてシーザーは断ち続けるのである。 しかし其れをまた護るもの同じく回復手である。 「やだやだ、あんまり化け物退治なんてめんどくさい事したくなかったんだけど……これもアークに入ったが最後って感じかな?」 「深鴇、くれぐれも無茶しないようにね」 「あー……ハイハイ、仕方ないなぁ、じゃあ無茶させないように君が僕を守るといいさ」 二種類の魔陣が展開された。同じ、聖神の光なのだが個性か、少しだけ色が違う。 遥紀と深鴇が白い翼と黒い翼をはためかせながら、雪菜の傷を一瞬にして埋めたのだ。彼等こそホーリーメイガス、仲間の、罪さえ無い命を奪われてはたまらないのだ。 「もしうっかり仲間死んじゃったらどう懺悔しようか、遥紀?」 「そういう物騒な事は言うもんじゃないよ、深鴇!」 グールの群はなかなか止まらない。数が多いか、邪神を信仰してしまったものたちの行く先なんて見たくなかったものであったが。 「狙っていかなきゃならないのに、見ても辛いとか難儀に過ぎるな……」 総一郎の瞳が真っ赤に染まり、目の端から血が流れていく。何度認識できなくなった事か。 口から溢れるのは愚痴、愚痴、愚痴なのだがそうは言えど手は止まらない。 「そう。構えて、狙って、射る。大袈裟に考える事はないさ」 一歩、一歩と前に出て来るグールの脳天を的確に射抜き、そして確実に数を減らす総一郎。どれだけ己が矢が通じるかは問題では無いというが、彼の力は確実に数減らしになくてはならないものだ。 ――文字通り一矢報いる、それでいい。一矢が十矢になり百矢になり……城壁をも穿つんだ。 其の言葉に突き動かされていくシェラザードは、総一郎に敵を近づけさせない為にフィアキィを動かす。 「いつも通り、お願いね?」 そうシェラザードが頼めば快くフィアキィはこくりと頷いた。 刹那。爆発音と共に戦場を這いずる敵達が一斉に後ろへと引き下がられたのである。こうして前に出るものと後ろへと下げ、彼等が息絶えるまで続けるのだ。 ボトムの住人では無いのですが、されどボトムはもう一つの故郷のようなもの。何が何でも、他世界が浸食されるのを見ているだけなのは許せないのである。 そして駆けるは雷鳴。 「はは、敵が一斉に後退するのは見てて面白いのう」 「ふふ、褒めて下さってるのですか?」 フィリスは笑いながら、されども手は止めない。鳴り響く雷鳴は、どれもこれもリベリスタが放つものばかりだ。天へと伸ばした雷を怒槌に変えて落とす、落とし続ける。 「うむ、私の実力も中々の物であろう。そなたらもしっかり数を減らせ、男はもっと背筋を伸ばして、堂々とするものなのだぞ?」 「これはまずい場所に来てしまったか?」 豊洋は頬から汗を流しながら、そう呟いた。 仲間が覇気と共に敵を倒していく姿はなんとも圧倒されるのだが負けてはいられない。 近くでオルクスから派遣されたリベリスタがグールに喰われかけており、いけないと思ったと同時には飛び込んでいた。 「させるか!!」 なぎ飛ばした敵、お礼を言うリベリスタではある。其の子を背中に隠しながら、豊洋は周囲を見回し次の獲物を探すのであった。 「はは、なかなかやるな。同じリベリオンとしては負けられない」 さて、露払いと行こうじゃないか。ユーンは両手の槍を構えた。 ボスだろうがなんだろうがそういうものには興味は無いが、連中がボスを倒しに行けるようになんとかするのだ。 スターサジタリーのスキルを放ってくるグールが厄介だ、其処まで行くに単純にノックバックを放ちながら飛び込んだユーン。 漫画のように数体のグールや這いずる仔が吹き飛びながらユーンは其の先の獲物を叩き潰していく。 ● 「アハハ、またまたえらーい連中と戦う事になったね!」 クィスは両手を叩きながら、目の前の有象無象の光景を見ていた。 そんなクィスを狙おうとグールや這いずる者が手を出してくるのだが、長い脚を使って敵を近づけさせないクィスは何処か無双しているようにも見えていた。 後衛にも敵が来てしまうほど、敵が多いというのは厄介なのだが。 「大丈夫大丈夫、死ぬまで手は止めないから」 そういうクィスは回復にて仲間の命を守るのである。というもの彼女、初手でクロスジハードを廻したせいか、そこら一帯のリベリスタが恐怖に脅える事こそ無い。 ジジイには骨が折れると肩をとんとんと自分の腕で叩いたのは敏伍だ。 こういう決戦は初めてなのか、されどもいたって冷静である彼は何処か老成しきった何かが見える。 本当は何もしたくは無いと言いながらも、突っ込んで来たグールを見ながら冷静にカウンターを施すあたり、敏伍もまだまだ現役が可能な事を現していた。 現場に出ろと五月蠅い子が居るのも納得はできよう。 何時の間にかに三人になっていた敏伍、けれど暗視ゴーグルを見ながら不便だと嘆く余裕こそあったのだ。 「また……戦う、んです、ね」 目の前で文月を庇ったオルクスのリベリスタから、フェイトの光が放たれたのを目の前で見ていた。 震える文月の両手、足こそ震えて前へは出れぬものの。しかし文月はツバを飲み込んでから顔を横に振って自身を奮い立たせたのだ。 他の仲間が頑張っているのだ、オルクスだって日本を守ろうと頑張っているじゃないか。だから、だから――。 「私も、皆と一緒に、みんなを、守ります」 両手を祈り手に、皆と一緒に帰りたいが一心で、彼女は回復を留めさせる事は無い。 「よくぞ言った。ならばわたくしたちも負けずに頑張らねばなりませんね――」 声がする。ま た お 前 等 か。 「そう、わたくしたち、素敵過ぎる俺らを動かすとは罪深いな、異世界のファンタジー共」 黒が何時もの如く全身タイツを見に纏いながら、迫りくる群へと飛び込んだ。ジョブこそデュランダル――暴君が如く、戦車のように戦場を駆けるのだ。 其の光景を見ながら、口元をおしとやかに隠して笑うリリス。 「あらあら、まあまあ。下々の者共が苦戦しているようですわ」 彼が――坊ちゃま(幻想?)と呼ばれた彼が、安寧の中で暮らせるようにと思えばリリスも動かない訳にはいかない。 悪魔の息と称したもので、嫌死てあげると囀る口は少しばかり悪戯に満ち満ちているのだが、彼女の回復が素敵過ぎる彼等の手を止めさせないのであった。 ニヒ、と笑った秋火こそ、黒の後に続いて敵の中に身を投じた。 アメーバにグール、ひとだったものからは腐臭が漂い、秋火の眉間にシワが寄っていく。 「まったく、気持ち悪い奴等だな」 小太刀を握り、悪意と殺意を以ってして敵の首を狩っていく秋火。彼女が進む道には、どんどんと屍が積み上がっていくのだ。其のスピードもまた、彼女ならではであるだろう。 だが数も多い、秋火の苛立ちも高まっていく。 「めんどくさいんだよ、気持ち悪いんだよお前等!!」 全部全部、全部全部!! 「消えてなくなりやがれ!!」 其の咆哮が戦場を駆けた。 漆黒解放に足下から闇が舞った。樹沙が瞳を開いた頃には、其の漆黒が彼女の長い髪を揺らす。 「たとえこの先が闇しかなくても、足掻いて見せましょう!!」 魔力の乗った剣を前に、そして駆けた樹沙。秋火の取り残した敵を順繰りに肉塊へと変えていくのは、息のあった作業でもある。 夜とはダークナイトの得手する時間か、夜闇が照らす其処には文字通りに闇が多い。足下の漆黒が味方をし、暗黒の冴え冴えと空中を駆けていく。 皆と、素敵過ぎる彼等と一緒に戦う事こそ樹沙が望んだ事。途中で戦闘不能しては、顔を向けられないだろう。だから負けられないと、彼女の暗黒は敵を切り裂くのだ。 「皆頑張っちゃってるねぇ、僕も頑張らないと……って感じかな?」 イシュフェーンは言う、此の素敵過ぎる俺らがいれば負ける戦場は無いと。確かに、此のチーム何故だかすごい強いよ。 「さあ、行こうよ行こう。戦場を素敵な色に染め上げようか」 黒が作った道を秋火が真っ赤に染め、取り残しを樹沙が砕く。そしてリリスが其れを支え、イシュフェーンは。 「はいはい、邪魔だよ」 爆発が発生した刹那、味方を攻撃しようとしていた敵が一斉に後退したのだ。敵に味方を触れさせる心算なんて無いのだ、範囲に入った全ての敵を押し倒して仲間が攻撃する隙こそ作る為に。 そうすれば仲間が適当に上手くやってくれると信じているから――。 「ね、そうだよね。何時もこの方法で勝って来たじゃないか」 「ふふ、そうなのですわね」 くす、と笑ったアガーテ。前へと伸ばした彼女の片手に舞うのは彼女のフィアキィだ。 後ろから味方を守るのが自身の仕事だと、相手を死へと追いやり痛めつける力を振るう。其れは護る為に、揺るがない意思を繰り出す様に。フィアキィは其の心に同調して光輝く。 「さ、お仕事ですわ。上手にやりましょう、そうすればきっと勝てるのですから―――!!」 イシュフェーンと同じ、爆発が周囲を彩った。ド派手な演出に目を奪われる暇こそないが、無双を始めていたのは言うまでもない。 しかしだ、イレギュラーも発生はする。精神に圧し掛かる、敵を視認してしまったからこその眼から鼻からの血。 「あらあら、そんな所で終わってしまうの?」 リリスの声が聞こえる、共に回復はきたものの、黒の瞳には敵が見えないのだ。されど黒は引き下がる事を知らない。此の儘負けて帰れば、きっとあの人が――。 手の内の、赤い糸を握り締めて。エフィカさんへの想いが私の正気を繋ぎ止めるのだ――此れぞ、愛の力である。そういうことである。だから。 「見えました」 敵と黒の瞳が捕えた、次第に敵の数も彼によって減らされていくであろう。 嗚呼。 と呟いたのは、柚利だ。 「あまり、多数相手は得意ではないのですけれど」 嘆きながらも後衛より暗黒を従える姿は麗しく映る。 確かに敵の数は着実に減ってはいるのだが、這いずる者―――其の本体がリベリスタ達を苦戦に追い込んでいたのは紛れも無い事実であろう。 前衛の数は少ないとは言わないが、敵が多い。ブロックさえ撥ね退けて後衛を脅かす這いずる者の存在が邪魔であったのだ。 「人間が、我等に刃向う? 笑わせる」 「……笑ってれば、いいじゃない」 柚利の暗黒が這いずる者の身体を突き抜けた、露払いをしようと来ていた彼女が大元を相手にしているのは他の敵がいなくなった事もあるが、後衛に対応できる者が少ない事もあるだろう。 ダークナイトたる彼女が這いずる者をブロックし、 「元気なり! こんな所で負けたらあかんねんやで! 全員で帰るって決めたやろ!!」 珠緒の、心底明るい声が響いた。其れに震わされたのはオルクスのリベリスタ以外にも、多々居たであろう。 集音装置に加えて、セルフマイクで指示を出す彼女はいわば此の戦場の要のようなものになっていただろう。無くてはならない、歯車の一角として。 「さあ! もう少しで終わるんや、手を止めずに戦うんや、もう少し、もう少しなんよ――!!」 そこにクィスの回復が被った。 「癒し続けると、言ったでしょう?」 諦めない瞳が、そこにはあったのだ。 「ああ、そうだな。負けられないんだ、気合いを入れ直せ――勝つぞ!!」 メリアの処刑人の剣が震えた。吼えている様にも見えるそれ。 「さあ、行くぞ。私の剣技、存分に受けるが良い!」 「小物如きがァ……!!」 這いずる者の腕がメリアの左肩を血で染めた、されど止められない、止まらないメリアの剣が這いずる者の頭部を分断したのである。されどアメーバ状の身体である彼に分断は効かないのか、微笑む声が聞こえた刹那元通りになっていたのだ。 だからといってメリアが諦める事も無い。何度も何度も剣をぶつけて、とめどなく攻撃を続けていくのだ。 めっちゃ全身が震えている翁が傍に居た。なんでこんな所に、寿命で死にそうな奴がいるのだと這いずる者は怪訝そうな目で見ていたのだが。 「こ、こんな場所にいられるか! 儂は帰るのじゃ!」 帰れ、貴様に手を出す心算は無いと這いずる者は思ったのだが。 「……とか言ったらフラグでも立つのかのう?」 ころっと口調が変わった翁である。刹那、容赦無さ過ぎるピンポイントが複数本這いずる者の身体に突き刺さった、驚いた這いずる者は目を見開きながら「死にそうなお爺さん」を見た。 「貴様ぁぁ……!!」 「若いもんが頑張っておるからの」 肩を揺らして笑う翁。負けられないと、まだまだ己だって現役なのだから。 リベリスタ数人に囲まれている這いずる者だが、未だ彼が討伐できていないのは彼そのものの戦闘力の高さが物語っていた。 されど、風斗が彼に追いついたところで形勢は一気にひっくり返るのだ。アークでも有数な風斗(デュランダル)である、本来ならラトニャの本陣を潰しにいっても問題ないほどの実力がありながら、されど彼は此処にたった。 「一人だけ美味しいことさせないわよ」 「なんだ、お前もこっちにいたのかシュスカ」 「な!? さっきから援護してたのは誰だと思ってたわけ!?」 「冗談だよ! さて、とっととここも終わりにして、帰るか」 だって、夏の間に風斗はシュスタイナを泳げるように指導せねばならないのだから、その約束を手前に終わることなんて彼の計画にはない。 「終わりだ、這いずる者!!」 全力の一刀、風斗の剣が戦気を交えて這いずる者の体を裂いた。 「この世界に、お前に食わせるものなど何一つない! 終わるのはこの世界ではなく、お前たちの命運だ!!」 シュスカ。 そう、風斗が叫んだときであった。 「うるさいわね、聞こえてるわよ!!」 彼をコピーした這いずる者がシュスタイナを斬ろうとした、されど。 「『楠神さんの姿をしているなんて…攻撃できない…!』とか。可愛げのある事言えたらよかったんだけどね。お生憎さま」 彼女にそういうものは効かないらしい。 容赦は無かった、慈悲も無い。夏のためならと本気でそう思っているのだろう、夏のために殺される敵も笑えるものはあるのだが。 シュスタイナの魔力は周囲の敵すべてを飲み込んでいく。 そして雪菜は祈った。 「頑張って、負けないで……!! 此処が、此の世界が、私達の居場所だから!!」 祈る雪菜の手前で、遥紀と深鴇がぼろぼろになっている身体でなお回復をまわす。 「大丈夫、大丈夫だよ、きっと―――!!」 そう遥紀は笑顔を向け、 「アハハハハ! でも此れは……そろそろ一寸キツいかもね」 深鴇は現実を見ながら汗を流した。 そして遂にシーザーが回復手を守り続けて、フェイトこそ飛ばして倒れたのだ。 また一人、仲間が倒れた。 「あ、あぁっ」 震えたのはアルシェイラの拳だ。しかし立ち向かうと決めたのだ。アルシェイラは血が流れる瞳を拭い、首を何回も横に振った。 まだだ、まだ諦められない。 こんな場所で終れる事なんか許せないのだ。 そして叫ぶ。 「負けない!!」 逃げ出したい、笑う膝が叫んでいた。 けれど彼女は仲間に与える――癒しという、部隊の要。 「だから、誰か、お願い……あれを倒して―――!!」 そこまで言われたら、俺でもプライドくらいは刺激されるさ。 「おい、いわれてるぞイーリアス」 トリストラムが横目にそういった。彼も彼で武器こそ構えて、攻撃を放つ手前のとき。 自身の矢が必要な戦場だ、そう判断して足を踏み入れれば確かにそうであった。彼が放つインドラの炎が何度この戦場に貢献を起こしたかはいうまでも無い。 何より、 「さあ、退け! 退かぬというならこの火矢にて滅っしてやろう!」 今はあと、這いずる者が一体。形さえなく、もとあった人型も風斗とシュスタイナに崩されて原型なんてない。そして放った彼の矢が、一斉にアメーバを燃やしていく。 イリアス――眠れる獅子は今こそ目覚める。長年の、此の場の誰より比較的歳を重ねた者は、矢張り少し経験が違うらしい。 「世界に満ちる魔力よ、我が前に立ちふさがりしあらゆる戒めを打ち破れ!」 彼を囲むが如く展開された魔法陣が咆哮をあげるように回転した。天へと放つ、雷鳴の子種は高らかに空へと舞う。 「……ふ、ふはは、人間、面白いな――!!」 「五月蠅い、倒せと言われたら倒さないといけねーだろ、俺みたいな骨董品だろうがよ」 怒槌が奏でる轟音と共に、撃たれた這いずる者が四方八方に引き千切れていく――これで、此処で、這いずる者の存在は完全に無へと消えたのであった。 珠緒はふう、と息を吐いてからセルフマイクに自信の声を通す。 「此処の戦場は終わったで!! そっちも頑張り!!」 ● 「あっちは勝ったそうで、だからこっちは負けられないってものです」 連絡を受け、リベリスタ全員のAFから朗報が届く。それをいち早く聞いたかるたはそうつぶやいた。 レイザータクトを中心に、集まっていたユーディスの瞳は色濃く仔の姿を捉えていた。嗚呼、倒せなかった仔がまさかこんな所まで狩り出されるとは。 前回、彼女らがこれを損傷させていたからこその、今度こそである。 されど敵はそればかりではない。 遠くを見たカインの瞳には、涎を撒き散らしながら迫ってくる猟犬たちがみえるのだ。やれやれ、と顔を振った刹那、カインの足元から漆黒が放たれたのだ。 故に我に恐れるものなどなし! 否。 我が恐怖するものは、我が我を貫けぬ事のみ! 如何に劣勢に陥りようと、成すべきことを成す。 それが我が義務! 何よりも我が高貴なる意思である! 声に出さずとも吼えた言葉に嘘偽りは無い。カインは魔力のある銃を構えて、先手を取った。 「くらいな、弾丸は好きか?」 一斉に放つ銃声と、闇色の螺旋が空を駆けていく。 「敵が認識できない? え、それ無茶ですよね」 テュルクは至って冷静に、だが武器を構えて猟犬の波に身を投じた。すぐ横をカインの漆黒が掠めていく中、見事にそれはテュルクには当たらない。 「キャハハハハハ!! 援護いるかしら?」 「マリアさんは、大量になぎ払っているのは爽快ですか?」 「楽しいわ!」 頭上であった、マリアが身ごと魔方陣に絡まれながら、一斉にテュルク付近のすべての敵を石へと変えていく。その石をテュルクは切り裂き、砂へと変えていくのだ。 見事な連携にマリアは高らかに笑い、テュルクは無表情の中にも口角がつりあがる。 猟犬の足止めこそなんとかなっているものの、数ばかり多いこの戦場ではマリアの石化から漏れる敵はもちろんいる。 そして漏れた敵は味方を襲い、仔を進行させるのだ。 そればかりはさせられない。リイフィアは祈る、フィアキィもそれに答えるように光り輝く。 この場所は、故郷に帰るための大事な道なのである。フュリエにとっては、無くてはならないものなのだ。その足元でこんな血なまぐさいことが起きているのを黙って見過ごすことは彼女にはできない。 リィフィアの放つ回復が周囲のリベリスタを完璧とよべるまでに治癒しきったのだ、一回ではない、十秒に二回の回復を発生させて。 「みなさま遠慮なく全力で立ち向かってくださいませ」 「じゃあまあやってみよっか!」 「アラアラ元気ねウフフフフフ」 寒気がおきる様な高い声とともに、真名はゆらりと得物を振るう。己が仲間という存在の一部になっているのは異議なのだが。 隣では真が、(見た目的に超かわいいけれど男なのに異議を唱えたいところだが)真名の後姿を元気に見送りながら、言った。 「それじゃあ守っちゃおうかな、男の子に任せておきなさい!」 こんなにかわいいおとこのこがいてたまるか。 「仲間とは! 気づいたら集まっているものなのだ!」 六花は彼女とは正反対の事を、まるで心を読んだかのように叫んだのであった。 「わるものはたおすのだ、ぜったいにな!」 愛らしい掛け声とともに、放たれた雷が重力に反して宙を駆ける。 その後方より、依子が少し震えた手で魔方陣を描いていく、丁寧に、丁寧に、間違えないように。どんな怪我だって治してみせるから、依子は誰にも聞こえないくらい小さい声でいうのだ、 「がんばって」 されど敵の数は容赦は無い。後衛までに達してしまいそうなほどに前衛が少なかったのは仇ではあった。されど、 「公園の外に溢れさせはしない。全てを蹴散らす、変身!(←AF起動)」 いつものとおりの掛け声が聞こえた瞬間、光とともに服装が変わった疾風が駆け巡るのだ。彼が行うのは頭ごなしのノックバックでは無く、無双駆けにより敵の能力を下げることだ。 それがどれだけ危険なことかは彼も承知の上であっただろう。厄介な敵こそ先に狙われる、それは今此処では疾風がそれだ。 だからこそ、今こそ此処で必要であったからこそ使うのだ。 狙われ、されどバイタルフォースや仲間の回復が疾風を守る。そう、今こそ疾風こそ、此処ではなくてはならない存在であったのだ。 「引き付ける!! だからその内にやれ!! なに、ヒーローはすぐに倒れたりしないんだ!!」 「えー」 「えーって!?」 真昼がクマだらけの瞳で疾風の起動を見ていた。彼の駆ける軌跡にこそ敵が蔓延る、それを好機を見ないでどうするのか。 蔓延る犬どもは全てが惨い姿ばかりだ、こんな虫のような、気持ち悪いやつらを最愛の妹に見せるわけにもいかない。だから、何が何でも此処でとめるのか兄としての彼の役目であるのだ。 「さっさと、消えるといいよ」 淀んだ瞳されど殲滅力は着実にあるのだ。 そこへ再びカインの闇が重なった、敵を、犬どもが黙る時間は近い。 暫く戦っていたものの、未だ此方の軍配は見えない。 「……生憎と、神は嫌いです」 ロマネが見上げた先には、巨大にも映ろう仔の姿。 この世界は我々のものであって、ほかの神のおもちゃではないと彼らに宣戦布告を放ちつつ、彼女は指先を仔へと向けた。 闇夜の空に引かれる、金色の曲線が仔の腕、足と胴を貫いていく。しかしロマネの目の端からドロっと流れたのは、紛れも無く血であった。 「認識するだけでこの有様とは、不便極まりない」 そして仔の攻撃である、地響きとともに放たれたそれをかるたは受け止め、そしてその拳にメガクラッシュをカウンターで返したのだ。 仔の指が千切れて血が噴出す、その血をまともに受けたかるたは真っ赤に染まった。例えもう一度拳が降り注いだとしても、かるたは立ち向かうのだろう。それが、前衛というものだと信じて疑わずに。 「久しぶり、元気にしてた? 会いたくはなかったけど、会いにきたよ」 理央の瞳が一段大きな敵を写す、嗚呼、以前撤退した記憶は苦い思い出ではあるものの、今日は崩せなかったこれを崩さなければ腹の虫が収まらないのだ。 だからこそ、言葉で吐いた直後理央の精神で作られた気糸たちは一斉に仔の足を、腕を穿っていた。まるで彼女の怒りに答えているかのように、その複数本の気糸はどれもが惨い殺傷能力を持っている。 「今日は、もう、逃がさない」 そのとき、ほぼ同時に仔の体勢が大きく倒れたのであった。 仔の足元、ユーディスがカルディアの刃を突き刺し、そして傷口を大きく抉る。いつかの前見たような戦闘の仕方ではあれど、それは着実に効いているのだ。 「足はもう動けない、あとは叩き潰すのみです!」 ユーディスの声がAF回線を駆け巡った。 瞬時に、ナターリャの回復が戦場にいきわたり、体勢を立て直しながら崩れた仔を狙うのだと躍起する。 「ああ、もうっ」 ナターリャ的には、この戦いで顔に傷でも入ったらどうするのだとそちらの心配のほうがでかかったのだが、されども後衛に位置する彼女は一応はまだ顔に傷が入ることは無い。 だが触手が出てきたら別だ、後衛まで届くそれはナターリャを傷つけることは簡易であろう。回復をまわす要的存在であるからこそ、その狙われる率も同時に高くなっている。 そして、オルクスの攻撃であったか、BSの麻痺を受けた仔が行動不能なったその途端であった。 飛び出したのは、触手である。以前よりも多く、以前よりも状況的にめんどくさい触手が。 「もっとかわいらしいアザーバイドなら歓迎したのになあ」 そう呟いたアルメリアはお気に入りの武器を手前に、矢を放つ。的確か、そして精密か、その矢がすべての触手を綺麗に射抜いてそれらの攻撃の精密さをかけさせたのだ。 触手が地に刺さり、かすめたリベリスタも多い。 されど見た目が超合金の剛毅の体力はあまり削れていなかったか、カウンターに跳ね返した触手が千切れて早くも一本無くなった。 「ん? なんか今ついていたか?」とでも言いたげな剛毅の目線は、彼の愛らしい女の子たちへと向く。 「ぱんぱかぱーん!」 何か超合金抱えている娘をドロップしたときのような声が響いた。 「りんはねー、ばびゅーん!っていってずしゃぁ!って斬るの。スピードに乗ってやってやってやりまくっちゃうんだよ!」 甲高い声とともに、無邪気にも走っていく輪。ここはぬめぬめしたもの好きということで触手に絡めるお約束を放ちたいところだが、今日は雰囲気的に自重しておこう。 「わが孫は元気じゃのう、触手につかまっておるがな」 お茶を飲んで、そのまま戦況の行く末を眺めだしそうな節。 味方の防御をフルにあげておきながらではあるのだが、なかなかこの一家、くせものが多いと見た。 されど鋼一家に撤退の文字は無い。ラスボス臭を漂わせて歩いてきた女帝皇が娘を取り巻く触手を一斉に黙らせれば、その凛とした瞳を戦場へとむける。 女帝皇がやることはただひとつ、家族が万全で戦うために仕切るのみ。 「やれやれ、面倒このうえないね」 烟夢の目の前、足こそ折られた仔の頭部は盛大に落ちてきていた。驚くのはもう止めであった、仔の真っ赤にたぎる瞳が烟夢を写している。 その、映っている己が己にリボルバーとオートマチックを構える姿はどことなく自殺を思わせるようだが違う。 「どれ、躾のなってない犬たちが邪魔だが、先にこっちからヤっちゃっていいものかな」 銃声銃声銃声。とめどなく響くその音声とともに、仔の瞳が穴空きになり断末魔の叫び声が三ツ池中を響かせた。砂は舞い上がり、植物は振るえ、池の水は振動する。 「そろそろいい加減、終わらせたいかも。かわいくない、かわいくないんだもん!!」 アルメリアの攻撃、再び仔を狙ったそれが仔の頭部にとくに目にささって、こだましていた叫び声が更に音量を増して奏でられる。 だが仔も黙って攻撃を受けるだけではないのだ。 怒り狂った仔の拳がオルクスのリベリスタを潰したかと思えば(されど回復は厚いためか死ぬことはなかった)。 「ん? こっちきた!!?」 ミストが頭にある耳を逆毛立たせながら、言った。だが叫びつつも内心そんなに怖くないと思っているのだろう。迫りくる拳、打ち返してやろうとバッドのように剣を振った、もののやはり仔の攻撃は通ってしまう。 全身の骨がきしむ音を間近で聞くものの、すぐに小夜香の神の愛が彼のフェイトを飛ばさせることなく救うのだ。 「リベンジ、今日はもう負けられないわ」 自らが発光している小夜香の姿は女神を思わせるほどに美しく可憐だ。一度の手は神の愛で消費したものの、まぐれかダブルアクションを発生させた彼女の回復がその場全てのリベリスタに治癒を与える。 此処までくるのに敵の回復封じを食らわなかったわけではない。だが自給自足なのか、自分でブレイクを発生させて何度も歌をはじいてきたのだ。 「もう、今日は、譲れないの」 小夜香は言う、子を殺すために仲間を生かすのだと。 「だから」 だから。 「お願い、勝って」 少女の祈りに、答えたのはかるただ。 たった一人ではあったが、犬は蹴散らされ、そして仔を引き付ける間に抜け出したかるたが絵本のもとへとたどり着いたのだ。煌々と光るそれ、月よりも星よりも眩しいそれではあったが。 「これさえ、無ければ」 かるたの剣か上から下に落とされた刹那、そこには何も無かったかのような、ただ、一瞬だけ断末魔の叫び声が聞こえながら絵本は引きちぎれていった。 絵本が無くなったことにより、一気に力をなくした敵を畳み込むのはたやすかったであろう。 「僕の夢見たような光景だ。でも、いざ目の当たりにすると……やっぱり、平和がいい」 赤い閃光が宙で浮いていた。浮いていた、というよりかは跳躍して落ちてきていたのだろうが。 サマエルだ。 「きみの署名を省く」 陽乃羽刃切をその手に、落ちてくる赤い星が仔の胴を真っ赤な血で染め上げていくのだ。直角になっているかのように仔の体勢がサマエル一人に押しつぶされる。 「不思議だね。ちょっと前まで力がなくて歯噛みしていた僕だけど、今なら戦える」 足はもう切り離した、だから次は胴を切り離すのだ。どこまで敵が耐えるかは知らないが、されども負ける心算なんてこれっぽっちもないのだ。だが仔も黙ってはいない、腕で跳ね除けたサマエルの体が弾丸のように返され 「おーおー元気だねえ」 ソウルの腕の中で止まる。一瞬にしてフェイトを飛ばしてしまった彼女ではあったが、まだフォローはある為か戦闘不能の4文字は未だ遠い。 ソウルの手の中、呪いこそ打ち消す光が垣間見える。そして、瞬間放たれた。 「こういう所できっちりと仕事して見せねえと、若い奴らにあきれられちまうってもんさ! ハッハッハ!」 高笑いしながらではあったが、仲間を奮い立たせるように気遣った彼の光で、全てを立て直したオルクス、そしてアークのリベリスタが、そう未だ誰一人倒れていないのだ。 「さて、そろそろ終わらす時間じゃねーの?」 「そうだね、ボクの光で皆を守るから。だから、もう少しだよ」 せいるの頭にあるふたつの愛らしいお耳がぴこぴこと揺れた。彼女の、両手の中にソウルとは違った光があふれ出した。 呼び出すのは聖なる神様。時には敵も使ってくる、なんと気まぐれたる癒しの神か。だが彼女は聖神と仲のよいように親しげにアイコンタクトしながら、周囲の仲間に癒しを与える。 「さー、盛り上がってまいりました!」 敵の、仔は最早歩けない、胴をうちのめされ、目を抉られ瀕死であろう。 「本日は私のショーを見に来てくださりありがとうございます、あなたのような大きな方にお見せするのは初めてですが、ご満足いただけるよう精一杯努めさせていただきますので、どうか最後までお付き合いください」 腰を折って、丁寧に挨拶した楽。 一呼吸置いた後ではあったが、せいるに続いて彼もホーリーメイガスたる仕事をする。 これが数の力か、それともアークが何枚も上手であったからか。此処までリベリスタの一方的な蹂躙になったのは先の戦闘で軍配が此方に傾きまくったこともあるのだろうが。 「さてさて、どうします? 大きな方。逝くも地獄で、此処も地獄で、されど帰ることは許されない。このショー、悲劇が喜劇か、あなたはどちらだと思います?」 楽の意地悪混じりの言動、それを仔が理解することはなかったのだが。 「ではでは、ショーも終焉といきましょう」 くるりと身を引いた楽の背後、リベリスタたちは武器を携えている。 「いやもうさ、ぐちゃぐちゃのグログロとか終わりにしてほしいわけですよ?」 寿々貴はもう、うんざりだ!と言いたげに、苛立った目線で仔を見ていた。魔術知識のおかげか、寿々貴には弱った仔の、認識できない能力は一切通用しない。最早目から血さえ流さない始末なのだから。 「アークにいる以上戦い続けってのはまぁ理解はするけどね。ちーとは相手選ばせてくれてもって思わない?」 言うだけ言うのだが、寿々貴の親指がしたを向いた。 「今日はもう終わるだろうから、大目にみてもいいけどさ」 寿々貴のしたを向いた親指が、上から下に落ちたときリベリスタの一斉攻撃は始まったのであった―――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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