● 死にたくない。 死にたくない死にたくない死にたくない。 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。 ここから出なければ。 ここから出て逃げなければ。 ここから出て逃げなければ死んでしまう。 ここから出て逃げなければ焼き殺されて死んでしまう。 ここから出て逃げなければ柚香に焼き殺されて死んでしまう。 「体が溶ける!」 「熱いよぉ、お母さん」 「誰か、誰か」 壊れた娘は、そうして逃げ惑いあがく人々を見てもただ笑いながら炎を振りまくのみである。 誰か助けてくれ。 ここから出してくれ。 やがて館の中に響くのは、娘の狂った哄笑だけとなり、それもやがて炎に消えた。 ● 「long long time ago……といっても、ざっと百年ほど前だ」 とんとん、と指先で机を叩く『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)の声は、普段と変わらない。 「望まない結婚を強いられたレディには、恋人がいた。――後はわかるな」 「いや、わからん」 冷静なツッコミに伸暁が少し拗ねた顔を見せる。 「身分違いのフォーリンラヴ。それを許さず娘を連れ戻したファミリー。 ――よくある悲劇さ。ただそこにアーティファクトが絡んだってだけでね」 「アーティファクト?」 聞き返したリベリスタに頷いて、伸暁は両手を広げた。 「見た目は、赤い石で作られたオーブ、勾玉だ。透明というわけでもないし宝石としての価値はない。 だが、そいつを持っていたら、業火を生み出すことができる――その命と引き替えにね」 持ち主の命じた対象を焼き尽くした炎は、最後に持ち主を焼く。 「最後の所有者がそのレディだった。 今回の任務はこのアーティファクトの回収だ」 「……だとして、その昔話は、なにか関係があるのか?」 首をかしげたリベリスタを指さして、伸暁はにやりと笑う。 「大有りさ。 ――この勾玉は、多くのE・エレメント、そしてE・フォースに守られる形になっている。 炎で焼き尽くされた彼女の家族、そして彼女自身。 100年もの間フェーズが変わらず、事件性もなかったからカレイド・システムにかからなかったようなんだが――2日後、幽霊屋敷の解体をしようとした業者が焼き殺される事件が起きることがわかった」 そう言って伸暁が投げた資料には山の中の洋館が写っている。 「その洋館の1階、社交用のダンスホールを抜けて階段を上り、2階にある彼女の部屋に向かえばいい。 被害者が出ずに済むのなら、それがベストだろ? ――100年モノの想い、そろそろゴールさせてやってくれ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月12日(金)00:18 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 山間には無数の蝉の声が響き、木々の影から刺す強い日差しは肌を焼く。 ざくざくと、歩みを進める足元を覆う伸び放題の草が、夏の蒸し暑さを否が応にも強調していた。 獣道を行くのはその暑さにも負けぬ元気娘だが、彼女には今日の任務は些か不得手と見えた。 「わたしっ、ゆーしゃゆえ色恋沙汰はわからぬのです」 そう言って『あほの子』イーリス・イシュター(BNE002051)は金の睫毛を僅かに伏せた。 「しかし!100年もの長きにわたり抱き続けてきた想いには敬意を! そして憂愁のゴールを決めさせてあげるです!」 すぐに気合を入れなおした彼女の手の中にはさっき見つけたせみの抜け殻が握られている。 「百年も前の話なのにそれまで事件が無かったって事は、ずっと憎しみを抱いたままそこにいたんだよな……」 ホットパンツから覗く硬質化した脚で草を踏み固めながら、『灼焉の紅嵐』神狩 煌(BNE001300)が、ポツリと呟く。ところで彼女とイーリスが同学年と判った時、なぜかびっくりした人がいるとか居ないとか。 「長い間悲しい想いをしてきたなんてとっても辛いだろうけど、でも、俺達がそれを終わらせて、彼女を救ってやんねえとな」 「100年物の怨嗟、一体どれだけの感情が詰まっているのじゃろうな」 煌の言葉に頷いた『有翼の暗殺者』アルカナ・ネーティア(BNE001393)を、固められたばかりの草の上を歩くオコジョがてってっと走っては時折振り返り、見上げている。それを抱き上げ、あやしてやりながらアルカナは言葉を続けた。 「何の楽しみもなく100年を過ごすなど、それだけでもぞっとしないのじゃ。 悪いのはどやつでも無くアーティファクトじゃ。早く開放してやらねばの」 その後ろを歩く『駆け出し冒険者』桜小路・静(BNE000915)には、恋人がいる。だからこそ、閉じ込められ、仲を引き裂かれた恋人たちを思うと、哀しくてやり切れない思いで胸が詰まりそうになる。 「辛さや悲しさや憎しみがゴチャゴチャだったんだろうな……」 もし、死後の世界というものがあるのなら、せめてあっちの世界で幸せになってほしい。 「――想い人の所へ、送り届けてやるぜ」 決意を新たに、足を早める。 館はもうすぐである。 ● 黒い翼をばさりと音を立てて広げ、『ネフィリムの祝福を』ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)は館の周囲を確認する。 事前に聞いていた通り、館の二階中央付近の部屋、おそらく窓のあったであろう場所が漆喰で塗り固められ、他部屋を飾る鎧戸とは一線を画していた。 (ここが、柚香さんの部屋でしょうね) 一階に移り、他の部屋の窓から覗き込む。ダンスホールと思しき場所は見えない。 どうやら、洋館一階の中央に、ホールはあるようだった。 じっと目を凝らしていた『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)も、同じ結論に達する。 彼女は様々なものを見通すことができた。その視界は暗闇でさえ物ともしない。 窓のないホールは、複雑な装飾があり、豪華なシャンデリアが吊るされている。 ――炎は、見事に柚香の望むものだけを焼いたようだった。 時の流れの中で朽ちることの無いよう重厚に作られた扉へと大小様々な15の炎が殺到し、そしてばたばたと倒れる。やがてのっそりと立ち上がるとまた扉へと殺到する。まるで無様な踊りのようにも見えるそれはおそらく、100年の間繰り返されてきた、模倣された末期。 悠月は視線を上げる。 二階の、塗り込められた部屋。その部屋で椅子に腰掛ける一人の女の姿があった。 女――彼女が柚香なのだろう、間違いなく――は、微笑んでいた。炎の服を纏いながら。 ふ、と。 柚香は悠月の視線を、まっすぐに見返した。 「――!」 悠月は戦慄する。気づかれた、と思った。しかし、柚香は微笑を絶やさず、何か一言呟いただけだ。 そのまま、柚香は元の方を向く。彼女は自分を探る視線への興味を失ったようだった。 悠月の首を一筋の汗が流れた。その理由が暑さなのか、それとも他の何かなのか――それは今気にすることではない。 「悲恋の末の、歪んだ悲劇。異界に侵食され、100年の間そこに囚われ続けた16の思念。 私達の手で、終わらせて差し上げましょう。 ――繰り返す末期の刻も、在り続ける壊れた魂の残滓も」 静かに呟く、悠月。 「己が命を破界器に捧げ、自分の一族皆殺しか。恋愛の熱量は凄まじいな」 ぎい、という油の足りていない音、そして男の声。すぐ近くに目を向ければ、『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)が扉をすり抜けて内側から解錠し、開け放ったところだった。 ダンスホールと柚香の部屋以外には、経年劣化の他の異常はない。 「柚香にも一族の方にも同情の余地はあるが――消してやるのが供養か」 彼らがいくら調べども彼女の恋人のことはわからなかった。 たった100年。されど100年。 当時のことを知るものはほぼ居らず、伝聞で知る者も詳細を知らず。 ただわかったことは――恋人を奪われ、その生命まで絶たれた青年には家族はなかったようだ。 「あとの連中が到着したら、突入だ。全員入ったら、ここの鍵を閉めるぜ」 万が一にも、撃ち漏らすことの無いように。 頷いた『ディレイポイズン』倶利伽羅 おろち(BNE000382)が念のためと結界を張りめぐらせる。 ちょうどその時、遠くからイーリスの元気な声が聞こえてきた。 ● 悠月から聞いていても、懐中電灯やランプの灯りに照らしだされた光景にリベリスタたちは絶句した。 それが、犠牲者たちが鍵を開けられずにいた理由。 扉を封じていたのは、幾重にも巻かれた分厚い鎖と、南京錠だった。 ぎっちりとかかっているわけではなく、わずかに緩みがある。 そのたるみ方は、ドアチェーンを想像すれば近いだろう。 ――つまり、細身の女性であれば扉の内側から南京錠をかけることができそうな程度の。 「この扉そのものの鍵も掛けられています。 おそらくは――この部屋の中で全員が絶命した後に、鍵をかけ直した人物がいるということでしょう」 誰がそれをしたのか、聞くまでもなかった。 「……やることは変わらない。俺が中から鍵を開けたら、突入だ」 自己強化を終えた影継がそう言って、壁を透過しようと意識を集中する。 予想外の鍵にリベリスタたちは顔を見合わせたが、もし突入が遅れてしまえば影継の身が危ない。 確実に壊せる人間が壊したほうが良いだろうと考え、闘気を漲らせたイーリスが鎖を握り締める。 部屋の中に入り込んでも、繰り返しを続ける炎たちは影継に興味を示さなかった。 室内を見渡せば、奥にもうひとつ、似た扉があるのだが―― (こいつら、あっちの扉には近寄ろうともしないな) この炎たちは、15人の被害者たちの思考をトレースしているという。 それが近寄ろうとしないということは。 (あそこに柚香が立っていた、か) 影継は殺到している炎が少ないタイミングを見計らって鍵に手を伸ばし――そして。 カチリ。 鍵の開いた音に室内のエリューション・エレメントたちは、一斉に顔を上げ、影継の存在に気づく。 100年の繰り返しが今、終わりを告げたのだ。 ● 「えいやー!」 イーリスが掛け声と共に鍵を壊し、まずホールに突入したのは静、おろち、煌の3人である。 「出たいならかかって来い。正面から仕合いしようぜ!」 炎に喉がやられぬようマスクをした静の声に、数体のE・エレメントがそちらに向かって行く。 影継の近くに駆け寄ったのはおろちだ。もし15体の攻撃が一人に集中してしまえば、いかなリベリスタといえど間違いなく無事では済まない。 「攻撃がアタシにも分散したほーが効率的っしょ」 そう言ってウインクするおろち。男に興味はなくとも、情の深い女である。 「まずは確実に数を減らしていくぜ!」 煌は炎を纏った脚でエレメントを蹴りつける。 炎相手に炎は効かなくとも、蹴りの威力は構えた分だけ強くなっている。彼女は数で勝る相手にスタミナ切れを起こさないために、体内の無限機関を活用するのが一番良いと判断したのだ。 前衛が突入したその後から、アルカナが千刃:神楽を投げつけ、悠月が朔望の書を抱えホール全てを覆う雷を召還する。 苦しげに後ずさった数体の炎に、光弾が次々と射ち込まれていく。 「炎から逃れようとする相手を撃つのは気が引けますが……仕方ないですね 愛銃はあまり使いたくない気分なので幸いでした」 そう言ってヴィンセントが、光弾を打ち出したライフルを構え直す。 やがてイーリスも部屋の中に突撃し、一瞬眉をしかめた。 「炎、悲惨な姿。……わたしっ! 救うです!」 気合を入れ直して、トルトニス・クライドを翻し鉄槌を振りかざすイーリス。 全員が突入したのを確認して、影継は鍵をかけ、弓を構えた。 『死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。 助けて助けて助けて、ここから出して、ここは熱いよ、誰か、誰か!』 悲壮な声は時間と共に数を減じていき――やがて、全て消えた。 ● 柚香の部屋にも、鍵はかかっていた。 炎を受ける覚悟で壁を透過し解錠をする影継に、しかし柚香はその顔を見つめるだけだ。 影継は一瞬怪訝そうな顔をするが、今は疑問を追及している場合ではない。 扉を大きく開け放つと、仲間たちが突入してきた。 「――!」 真っ先に部屋に入った静の目に映ったのは、ただひたすらに鮮烈な、赤。 悠月から聞いた通り、椅子にかけたまま微動だにしない彼女がその身に纏うのは、炎のドレス。 ――室内は彼女のまとう炎で照らされ、照明は不要だった。 その虚ろな目は闖入者達の顔をゆっくりと見渡すと、ただ薄っすらと笑って何事かを呟いた。 それはかつて望月柚香だった存在の、末路と言うにはあまりに美しい、そして痛ましい姿だった。 「この部屋からも、その憎しみからも、解放してやる!」 静が飲まれたのはほんの一瞬だけ。直ぐに気合を入れなおし、決意を持って疾風の居合いを放つ。 「まともに会話が……出来る、状態では無さそうじゃな」 静に続き部屋に入ったアルカナの投擲刃、神楽と雅楽が柚香に迫る。 『……』 真空の刃と投擲刃、3枚の刃に切り裂かれたE・フォースの表情は、相変わらず微笑を湛えたままだ。 「恋人と思い出の場所ってある?」 こちらに意識が向いた事を幸いとし、一気に間合いを詰めたのはおろちである。 柚香の思考を読み解こうとし――その思考に、無意味を悟って首を振った。 「……?」 その背後、己の中の魔力を循環させていた悠月が気遣うように仲間を伺い見る。 「どうした!? ……くそっ、憎むべき相手も既にいないのに、これ以上何を燃やすつもりだよ!」 その様子からおろちが攻撃を受けたのかと思った煌が、搾り出すように吐き捨て斬風脚を放つ。 「……うぇ!?」 しかしおろちの絶句がダメージゆえでは無い事を、鉄槌を振り下ろそうとしたイーリスが気付いた。 聞こえたのだ。燃え続ける女の呟き声が。それは恐らく、おろちが読み取った思考と同じもの。 『僕には、貴女の家のような権力も、お金もない。貴女を想う心の他に、何ひとつ持っていないんだ。 だから、せめてこれを。僕の家に伝わっていたお守り――どうか、貴女に持っていて欲しい。 華やかな赤はきっと、君の笑顔に似合うよ。 いつかきっと、僕が迎えに行くから。だからそれまで、これを僕だと思って。 今度はずっと一緒にいよう。 そう、言ってくれたの。 あの人はまだかしら。 まだかしら。 まだかしら。まだかしら。まだしから。まかだしら。らしかまだ。まらかしだ。らしかだま。 ずっと一緒にいるって、約束したの』 それは憎しみではない。 憎かったからじゃない。 ただ、待っているために。 待つ事を邪魔させないためだけに、燃やした。 ――壊れた心は、ただ待ち続けていた。 『ねえ、貴方達は、あの人じゃ無いわね?』 柚香はそれを確かめていたのだ。あの人かもしれないから、ハッキリするまで炎を放たなかったのだ。 確認が終わったとほぼ同時、彼女の手の勾玉から赤い焔が放たれた。 そこそこの広さはあったが所詮は室内。前に立つ人間を一度に巻き込むには充分な炎だった。 「くそっ……元凶を……取り除いて……」 煌が呻きながら、手を伸ばし――届かず、体が膝から崩れて地に伏せる。 彼女自身も炎に焼かれることのない体だが、衝撃まで減じることはできない。E・エレメント達との戦いで傷ついた身体はその一撃に耐え切れなかったのだ。 その隣でおろちが辛うじて立ち上がる。耐久力に欠ける彼女でも、運命を焼けば未だやれる。 気遣うように一瞥を向けるイーリスも、立っていられるのは勇者を目指す彼女の、日々の鍛錬の賜だ。 「痛みは一瞬だ! すぐに彼氏に逢わせてやるぜ!」 瓦解寸前の前衛の様子に焦燥を感じつつも、あえて勇ましい声を上げた影継の矢が風切音を上げる。 畳み掛けられる様に向けられるヴィンセントの銃口。そして銃声。 燃え盛る女性の胸元に不気味なほど呆気なく矢が生え、裏側を覗けるほどの穴が開く。 『うふふ、まだかしら。もうかしらまだかしら。すぐかしら……』 しかしその身を貫く痛みも、炎の乙女の妄執を止めるには未だ、至らない。 傷の浅くないイーリスを見て取った静が前に出、メガクラッシュで柚香の身を押し込む。 「神秘の探求者、魔術師としては勾玉の力が気になる処ですが……」 「そうも言ってはおられんじゃろうな、これは」 勾玉からの攻撃の激しさを確認した悠月に相づちを打つと、アルカナは大きく踏み込み気糸で女の裸身を縛り上げようとする。 自分の体を確認し、傷は深くとも防御に徹するほどではないと、おろちが仕込み杖を一閃する。 そうして集まったリベリスタ達を、勾玉の業火が再度一様に焼き炙った。 「ううっ……」 「痛みより、快楽のほうがいーのに……」 イーリスとおろちが今度こそその身から力を失う。 『邪魔しないで』 私は待っていたいの。 悠月の魔力弾に肩口を爆ぜ割られながら、しかし柚香は微笑んだまま。 だって、笑顔に似合うと言ってくれたのだもの。 何時かきっと来る彼の為に。笑顔でずっと。 「フェイトよ! ゆーしゃは倒れぬ!」 妄執の炎を、陽性の熱血が粉々に叩き割った。 倒れる寸前。ギリギリのギリギリで、イーリスが踏み止まっていた。 反り返った身を無理矢理起こし、鉄槌を振り上げる。 「報われぬ魂に南無阿弥雀尊ぽうッ! です!」 決して報われぬ事の無い待ちぼうけ。 その終わりを告げたのは、未来の勇者のギガクラッシュと、そして破天荒で身も蓋も無い……しかしある意味だからこそ、無為と不毛の100年の終わりに相応しい。そんな言葉だった。 ● 真っ暗になった部屋に、ランプが置かれた。 意識を取り戻した煌が、柚香を倒したことを聞いて目を伏せる。 「……これで、百年の想いも終わったか。とにかく、あの世では恋人さんと結ばれると良いかな。 しかし大人の事情ってのはよく分かんねえな、まあ俺には縁のない話だろうけどさ」 その言葉にヴィンセントは静かに頷く。 「……遂げられなかった想いとともに、どうか安らかに」 「安らかな眠りを」 アルカナもまた、目を閉じて続いた。 「この屋敷は取り壊されてしまうのですよね? それでしたら、少しでも遺品を持ちだして弔いたいのですが……」 「望月家の御墓なら調べた時見っけたけど」 悠月の言葉に、こちらも意識を取り戻したおろちが少し考えこむ。 「100年も離れ離れとかありえねーし。 いーかげん、一緒に眠らせてあげたってさ、いいんじゃねー? ……や、その恋人の墓も見っけてあんのよ」 その会話を聞きながら、静が地に落ちた勾玉をハンカチに包んで拾い上げる。 「悲しい事件がもう起こらないように。……あっちの世界で想い人に無事に会えるよう祈ってる」 額に押し当て、そっと呟く静の髪に、突然陽の光が刺した。 イーリスがその光を見上げる。 「ま、こん位は良いだろ?」 窓を塗り込めた漆喰を砕いた影継が、そう言って肩をすくめた。 ● 後日。 解体作業が始まる直前、業者の男は漆喰が壊れた部屋を覗き込んだ。 ちちち。 ぴぴ。 彼は赤い羽毛の鳥が二羽、その漆喰の隙間から仲良く飛び立っていったのを見た。 何故だか、彼にはそのつがいが、とてもうれしそうに見えたと言う。 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|