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<逆凪>偶像群衆

●ライト・アット・ライト
 その少女の名は、逆凪という組織を知っている人間なら十……否、百人に一人、知っていれば良い程度の知名度だった。
 逆凪という組織に拠らない知識であれば、その率はやや上がる。少なくとも、「地下アイドル」というカテゴリに於いては彼女は有名だった。
 だから、というわけではないだろうが。

 字白 翼(あざしろ つばさ)という少女を知覚したリベリスタ組織の面々は、彼女が単独で挑んできたことに驚きと、少なくはない嘲弄を滲ませていた。
 たかだか地下アイドル。たかだか女。マグメイガスであることは知られていたが、その魔力もさしたるレベルではないというのが定説と化していた。
 成長レベルは低くはないだろうに、その能力はひどく淡い。
「ンだよ、こいつ噂通りだぜ! この程度の電流じゃこの――が、っぇ」
 然るに、その男が少女を侮ったことは「しかたのないこと」だと断じるに値する。同情するに値しないが。
 げに不幸たるはその男でもありその少女でもあり。足元に転がっていたネジ一本が質量と運動、両エネルギーを度外視した破壊力で男の胴を削ったことも仕方ない。
 驚く間も与えられず、踏み込んだ少女の「拳」に男は弾き飛ばされ、吹き飛ばされる。
「電磁力って知ってる? 知らなくてもいいわよ、答え合わせの時間なんてやらないから」
 慣れない拳打に痛む拳をいたわるように抱えながら、少女は踵を返す。背後から正気を取り戻し襲いかかってきた男の仲間は、彼らにとって豆鉄砲にも満たない電流と、その『余波』に押しつぶされたので、見ることもしなかったが。

●アイドル・ザット・ライト
「皆さん、彼女のことは――」
「あ、私知ってます。フィクサードだったんですね。現役時代に会ったことはありませんけど、いえ実在してたっていうのも初耳でしたけど」
「知っていたんですかクミ君」
「本当、噂程度ですけど」
『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)の持ってきた資料に真っ先に反応したのは、彼女と対峙したことのあるリベリスタではなく、『Rainy Dawn』兵藤 宮実(nBNE000255)だった。
 一応はアイドルの端くれだった彼女にとっては、多少奥まった方面で話題になっていようと知っていないというのは嘘になろう。
 現役時代に会っていたら、どうなったか……正味、不明ではある。翼の経歴が今ひとつ不明であるため、『いつ革醒したか』『いつ逆凪にスカウトされたか』が分かっていない。
 時期さえ異なれば、何事も無かった可能性だってある。
 だが、それ以上に。彼女と相対したことがあるリベリスタなら、調子は良いが今ひとつ詰めが甘いフィクサードであることを覚えているかもしれない。
 最初に野外ライブと称しビジネス街でのフィクサード集団を集めての暴挙、続いて屋外球場をゲリラライブと称し破壊工作に移った経緯がある。
 予測される情報から、今回は逆凪が買い取ったとされる廃墟街……『貧民街』と呼び替えても差し支えないそこを破壊に動くという。今までの行いに比べれば、幾分か『逆凪らしいリターンを重視した任務』だ。ここも、違和感がある。
「確かアレだろ? フレミングがどうとか言ってチェインライトニングがオマケみたいに鉄骨振り回す系のアーティファクトに『使われてる』フィクサードだったやつ。ファン層が部下っていう、扱いに困ってそうな」
「地味によくご存知ですね。アークに現存する資料としては概ねそれで間違いありません。ただ、彼女との接触は長らく無かった為はっきりとは言えませんが……彼女、どうやら効率的にアーティファクトを利用し、自己の戦い方も大きく変えているようです。魔力自体は最後に交戦したデータと変わっていないので大きな脅威ではないですが……より実戦的に、肉体面を強化したらしく」
「いや、それでも俺たち(アーク)みたいに鞍替えなんて出来ないんだから、半端になったら」
「……其のはず、なんですけどね。あの頃の彼女よりも平均的に高い実力を持った組織が、彼女とその配下数名に壊滅させられているのは、それだと説明がつかないんですよね……ですので、彼女の出現位置などの特定はこちらでやります。行ってもらえますか」
 お願いします、と頭を下げた夜倉の声のトーンは、未知を知るそれ。……単純に脅威であると、暗に告げていた。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:風見鶏  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年04月21日(月)22:48
 おっかしいなあ、こいつギャグキャラだったと思うんだけど……。

●達成条件
『ライトニングフール』字白 翼を含む敵集団の撃退
『筑波原廃墟街』の破壊を最小限に留める

●エネミーデータ
『ライトニングフール』字白 翼:『逆凪』のアイドル的フィクサード。実力もビジュアルもそれ相応。メタルフレーム×マグメイガス、機械化部分は喉。
アーティファクト『ハンドリングコイラ』(電撃系スキルに付随し磁場を発生・操作する)に依存したEXスキル『フレミング・タイブレイク』(味方側が電撃系スキルを使用した次ターン開始時自動発動。物遠複・[連]・ノックB・凶運)を使用。
その他、チェインライトニングと他職(物理前衛ジョブスキル)の幾つかを習得。精神無効所持。
実力は『それなり』です。
(拙作『<逆凪>ドヤ顔ダブルフレミング』『<逆凪>新年ライブ『便衣兵』』に登場しますが、見ていなくても問題ありません)

逆凪フィクサード×6:そこそこの実力を持つ翼の配下フィクサード。バランスはよく、突出する翼をサポートするに値する程度に考えて動く。

『筑波原廃墟街』:戦場。近日中に解体が決まっていたものの、ホームレスなどの存在が確認されていた為地所加工が躊躇われていたが、逆凪が地権を買い取ったためフィクサードを利用した排除が計画されていた。
翼の『フレミング~』は周囲の金属を利用した遠隔攻撃のため、廃墟街に与える影響も高い。
その他、非常に壊れやすい地形であるため不測の事態も起きやすく、スキル使用に注意する必要がある。
(住民は戸籍上存在しないが、『居るとしたら先ず逃げようとはしないだろう』)

●同行NPC
『Rainy Dawn』兵藤 宮実(nBNE000255)
 相談卓で【宮実】と表記のある最新の指示に従います。本人は一応立ち位置上意識する点はありましょうが飽くまで添え物です。

 では頑張ってまいりましょう。
 ご参加、お待ちしております。

参加NPC
兵藤 宮実 (nBNE000255)
 


■メイン参加者 8人■
ハイジーニアスクロスイージス
アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)
アウトサイドホーリーメイガス
天城 櫻子(BNE000438)
ノワールオルールスターサジタリー
天城・櫻霞(BNE000469)
ハイジーニアスデュランダル
ランディ・益母(BNE001403)
ハイジーニアススターサジタリー
カルラ・シュトロゼック(BNE003655)
ハイジーニアスマグメイガス
羽柴 双葉(BNE003837)
メタルフレームクリミナルスタア
緒形 腥(BNE004852)
アウトサイドソードミラージュ
紅涙・真珠郎(BNE004921)

●夢にうつつに
 アイドルという言葉の意味がなんであるか。そんなものは、きっと最初からわかっていた。わかっていてそうなった。
 偶然、たまたま。新聞にも載りようがない事件を契機に命を拾っても、その意味通りに生きていくことを最初から決めていた。
 最初から、『そういうふうにしか』生きられないと知っていたから。暗い顔だけはしたくなかったと、私は最初からずっと。
「……なんで?」
『魔法少女マジカル☆ふたば』羽柴 双葉(BNE003837)の問いは、心から『ライトニングフール』字白 翼を慮る表情を伴って投げかけられた。半ば倒壊した一部の家屋に人気はない。
 或いは、隔絶された時点で彼女らの任務は半ば失敗したも同然の推移に至っているわけだが……だからと、何もせず彼らアークに倒されるを待つ羊となる理由もない。
「なんでかしらね。貴女には分からないわ、だってとても澄んだ目をしているもの」
 彼女の問いはとても純粋で、だからこそ真っ向から否定したいと翼は思った。ああいう手合いと言葉を交わすのは酷く疲れるから。否定だけで生きていられるならそれはとても楽なので。
「技は見事、だが技だけでは我が信念を折る事叶わず」
「信念とか心とか、感情だけで立ち続けられるのは一握りだって聞いたことは無いかしら?」
 拳を大きく――ともすればテレフォンパンチにすら思える動作で振るった翼の拳は、『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)が受けに突き出した“祈りの鞘”を弾き、その胴へ深々と突き刺さった。
 魔術を受け止めることも、彼女の護衛から引き剥がされそうになっても耐えることが可能だったろう相手であっても、立て続けに正面から受け止め続けて倒れぬ道理など何処にもない。
 だが、アラストールには未だ立つ気力がある。そして、これだけの攻撃を受けた結果として、それが神秘に偏った攻撃ではないことも理解できた――正面から戦うための、覇界闘士に由来する能力である。
(魔氷拳で超伝導状態でも作ってんのかね……?)
 状況を完全に把握するのは、遠間からでは容易ではない。神秘の研鑽から生まれた技能が、現実の科学理論に則って行われているならばそれは憂慮すべきレベルだと、『赤き雷光』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)はどこか冷静に分析する。
 眼前に立つデュランダルの刃は、雷光を纏って振り下ろされる。この相手の全力ならそれの数倍に比する一撃が飛んできても可笑しくはないだろうに、敢えてそれに固執する理由があるとすれば、策の殆どのリソースを翼に振っているということだろう。
 信頼からか、別の感情からなのかは分からないが、兎に角。目の前の相手が厄介であることに、変わりはないのだ。
「電撃系スキルが絶えないし、おっさんが言うまでもないくらい色々飛んできて危ないからね、無理しちゃダメだよ」
 飄々とした口調ながら、その挙動はいつもの緩さとは隔絶され、高い意識を以て状況に当たっていることが伺える。緒形 腥(BNE004852)の内心には、余裕が一切無い。
 面々の実力を考えれば間違いなく敗北は無いだろう、と思ってしまいかねない状況、それでも執拗に食らいつき、一歩も引かない逆凪のエージェント達の実力は如何ばかりか。タイマン張れなんて言われたら、どうなっていたことか。
 昔の己を思い出そうとする。フルフェイスに覆われる前の顔。名を得たばかりの頃の顔を。
 だがそれすらもどうでもいい。大したことではないのだ、と首をふる。銃口は一切、ぶれてはいない。大丈夫だ。
「邪魔な有象無象は焼き尽くす、前に立つなら吹き飛ばす」
「有象無象かは全員ヤっちまってから確認すりゃぁいいんだぜ優男。お喋りしてないと一歩も動けないクチかい? 若いねェ」
『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)の口からこぼれた言葉を拾うように、神聖術師の回復術が戦場に満ちる。この男に対向する形になるであろう櫻霞の恋人――『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)は、既に立っているのがやっとの体だ。回復術を放つを待たずして適当な神秘を受ければ立っていることもままならない。庇いに回れば手が止まる。助けられるものも助けられない状況は、相手を弱敵と侮ったが故の隙があったか。
 否。其の程度の要因で倒れる彼らでもあるまい。原因はもっと別の、根本的な部分にある。

 状況を遡る。
 廃墟にまだ人の気配があった(空間が隔絶されていない)状況下。アークのリベリスタの出現に、眉一つ動かさず布陣を展開した面々から僅かに前に踏み出し、翼が小さく笑う。
「節操無く出てくるなんて、やっぱりアンタ達は虫か鼠かその類なのかしらね。迷惑で仕方ないわよ」
 僅かに漏れでた電流をそのままに、足元の鉄筋コンクリートの破片を弾き飛ばし翼は威圧的に笑う。以前見せたような、どこか頭の悪さを感じる表情の変化ではないことは、相対したことのある双葉ならよく分かる。
 そのような行動に移ることを意識している。どこか、強いている。そんな印象すら受ける。
「……面白いの、この娘子」
 獰猛な笑みを深め、紅涙・真珠郎(BNE004921)は翼から視線を切らぬよう構える。たった一年。彼女がアークの前に身を晒さなかったその期間は、アークにとって実に濃密な時間であった。
 何を思って何をして、何を犠牲に強くなったか。神秘全てのリソースを鍛えあげるのに悠久をして上り詰めた彼女からすれば、否、世界に強く選ばれた精鋭たちからすれば、才も運もこれといって強力なものではない少女が、自分たちに追い付き、高みから見下ろすほどに鍛え上げた根本原理(イカサマ)の正体を知りたがることは当然だ。
 だから面白い。濁った瞳に、重々しい存在感。手首に吊ったその腕輪は、成程神秘を呑んで剣呑にその有り様を示している。
「あんたらの言い分も、分からないわけじゃないんだけどな」
 カルラが、どこか達観した様子で逆凪の面々に語りかける。理屈からすれば、逆凪がアークに阻まれる理由などないのではないか、と気付いたのは概ね彼のみである。実際の所はうすうす、全員が理解していたのかも知れないが。
 結局のところ、彼らの所有物を彼らなりに処理するだけの話だった。それだけだ。
「こんな地上げ屋じみた真似すんならアイドルらしく歌ってりゃ良かったんだ、馬鹿め」
「頼まれてもない反対運動の旗振りだなんて、天下のアークの精鋭も酷い扱いを受けるものね」
「知るか。頼まれたコトだけやるような餓鬼の使いに堕ちた覚えはねえよ」
 権利があるなら力を尽くすことも無かったろうに、それを行うなら既にごろつきでしかない。『墓堀』ランディ・益母(BNE001403)から見ても、翼は既にフィクサードとして越えるべきでない場を踏み越えたのだろうと感じた。
 自らを研鑽し、力を手に入れたならそれを謗ることもすまい。偶像であることに満足し、その方向で研鑽を積めばよかったろうに。
 彼女を想う人々ほど賢くは、彼女自身は生きることが出来なかったのである。……恐らくは、その居場所が故に。
(……やっぱり馬鹿なんじゃねえか?)
「そう言うのはイジられ系バラドルの仕事じゃね?」
「言ってやるなよ。バラドルだろうが馬鹿ドルだろうが字白の嬢ちゃんがやるっつったヨゴレよ。今更退く場所でもなけりゃ進む狂気でもねえんだから」
 老獪を姿見に写したような男が、腥の言葉を遮るように前に出る。やると口にした以上はそうする。そうせざるを得ない。言葉の意味を正しく理解しているかはこの際別問題。彼は、少女が多少無謀に過ぎても支えるだけの覚悟があった。
「アイドルなのか、フィクサードなのか……はっきりしませんね……」
「……アンタんとこの恋人なんでしょ、これ。頭が足りないのは仕方ないにしたってもう少し教養つけてやりなさいよ。……ねェ、『リベリスタのアイドルさん』?」
「私の事を言っているなら筋違いとしか言えませんよ。櫻子さんが誤解するのは当然でしょう」
 翼の話を聞いて向こう、未だ理解が追いつかない櫻子を顎でしゃくり、櫻霞、そして宮実を暗に嘲弄する翼の有り様は既に滑稽という域を超え、どこか滑稽ですらある。
 彼女が何を思ってそうしているか、なんて頭の足りない子供のような発想、櫻霞には出来なかったが。相手の思考を読んで相手と同じ域にまで堕ちるなど、したくなかった故に。
「木漏れ日浴びて育つ清らかな新緑――魔法少女マジカル☆ふたば参上!」
「いいわね、アンタは。あの時から変わっちゃいないわ」
 双葉の、何の衒いもない仕草はとてもまぶしいものだ。アイドルらしい、というのはこういうものだろうか、と。翼の諦観にも似た声音に宮実は想う。
 人の心に突き刺さり、人の心をさらけ出す。ああそうだ。彼女はそういう意味では、実にアイドル『らしく』なったものであると。
 ゆっくりと歩み寄る。ざりざりと音を立て、ごりごりとコンクリートを踏みしだき。なんで両者はこうも緩やかに接近していたのだろうと想うくらい、多くのやりとりがあったのは。

 櫻霞の空間隔絶を許す隙を与えずして、翼がコンクリート片をホームレス達の居る位置、その屋根に向け弾こうとした。
 その戦力的拮抗からだったなどと、語るべくもなし。

●偶像に魂は無く
 アラストールの胴を、鉄骨の切れ端が強襲する。深々と腹部にめり込んだそれはその横隔膜を押しやり、肺を潰さんとばかりに酸素を弾き、吐き出させる。その胃液ごと。その運命すら。
 それにやや遅れて真珠郎が翼に斬りかかるが、回転の勢いから盾を振り下ろした男が、その連撃を弾いていく。弾く、といっても。その男だって精鋭とは言え彼女と対等にはとてもならない。本来なら勝負にすら、ならない。
 それでも立っている。あと一歩を退かない。
「娘子も面白いが、介添えも大概面白いの。良い。メインディッシュの前につまみ食いするぐらいはしてやろう」
「そりゃ、どうも。殺害予告だなんてゾっとしねぇが!」
 彼女にとって、どうあって耐えたかなど、どうでもよく、どうやって横合いから翼が拳を振り下ろし、自らに掠めたかなど、どうでもよく。
 彼ら彼女らが、自らが『喰らう』に値するかどうかだけが、その満足の判断基準。
(楽しむのはいいが、随分梃子摺ってんな。らしくもねえ)
 それを娯楽と嘯く真珠郎ならいざしらず、戦闘状況を冷静に見据えたランディからすれば確かにそれは異常、だったのかもしれない。
 力量からすれば上回っていると言える精鋭、状況を掌握するに足る策、逃げを許さぬ隔絶空間。此方側が打てる手札はあらゆる形で打ったし、油断は無かったはずである。『少なくとも彼には』。
 自らの介在しえない位置から生まれた綻びがそうさせるなら、なんて苛立たしい話であろうか。だが、此方側の迂闊を無視して尚、やはりフィクサードの気合は違う。
「この為だけに持って来たんだ。そう急ぐなよ、精々楽しんでいけ」
「アンタだけ倒せば逃げられるって、言っちまって良かったのかい? 本気で狙っちゃうぜ?」
 二丁拳銃のアウトロー。櫻霞とはまるで違う、知性の欠片も感じられない小男は、彼の行いとその派手にすぎる動きから標的を見定めていた。相手はそれだと、理解していた。
 当たるを幸いに、陣を維持しながら銃口を向ける櫻霞に僅かな焦りが生まれたのは、恥じるものではない。派手だから狙う。鍵だから狙う。その対象が強かったなら、という理屈を度外視した標的設定は、ところ構わず飛来する翼のアーティファクトの余波を、陣を打ち崩す自らの負傷を、状況をひっくり返す数的不利の発生をじわじわ狙いにきているとしか思えない。野生の強み、というやつか。
 甘く見ていたのは果たして誰だった、というのか。

「狙いは定まってんだろ、シュトロゼックちゃん。フォローするよ」
「ええ、間違いなく」
 様式は異なれど、根本的なコンセプトの点において似通った装備――“ドモワゼル・ディー”と“テスタロッサ”が同じ相手を標的とする。呵々と笑う老術師へと叩き込まれる連撃は、見た目に反し頑丈なその男をして膝を衝かせるに値する密度で迫る。
 実力差、物量差、作戦行動の密度の差。どれかを失って尚、彼ら二人の、経験もなかっただろう連携は衰えず確実に、一人ひとりを屠っていく。
 その根底にあるのはただただ、信頼。同じ方を向いているから、冷静であるから、彼らは彼らとして作戦を遂行するに値する。
「紅き血の織り成す黒鎖の響き、其が奏でし葬送曲、我が血よ、黒き流れとなり疾く走れ……いけっ、戒めの鎖!」
 血で編んだ鎖を振るい、戦場へ叩きつける。少しずつ、じわじわと練り上げられた祝詞は既に高位術師と変わらぬほどに自らを高揚させ、次なる動作へと繋ぐ伏線と化したことを双葉は理解している。
 余分に動くことが出来るのであれば、一人分の働きを余分にこなすことだって簡単に出来る。アイドルとは、偶像とは、そこにあるだけで効果を為す存在であっても。そこから動くことで存在意義を見せなければならないものだと。
 指先にゆっくりと集まる高位の魔力の前兆が、彼女の表情に色を与え、余裕を与え、状況に更なる上乗せを与える。
「やっぱり分からないよ。わかりたく無いのかもしれないけど。……アイドルの方が、楽しかったでしょう」
「能天気にやりすぎて、逆凪に居場所が無くなったか?」
 余裕があるからこそ問いかけたくもあった。双葉には本当に、わからないから。アイドルであることを半ば捨てたような生き方で戦うのは、愚かしく思えたから。
 輝くことを捨てるなど、愚かしいとしか言えなかったので。彼女は問う。
 だが、其の答えとして飛来したコンクリート片(当然、鉄筋が入っている)をこともなげに吹き飛ばしたランディの“グレイヴディガー・ドライ”が淡い光を纏う。
「妄想は自由じゃないかしら。アンタみたいなのが冷静に私のことを気にかけるだなんて、可笑しい話ね」
「アイドルだけやってりゃ、そういう事も考える必要、無かったんじゃねえのか」
「もしもの話で惑わす男、嫌われるわよ」
 自らを狙って吹きすさぶ力の暴風に、身を晒した盾の男は笑いながら吹き飛ばされた。そして動かなくなった。笑いながら、笑いながら、笑いながら。
 彼女を守るべくついてきた逆凪の中堅勢力は、誰も彼女に文句など垂れなかった。
「まぁ、好みに合う者に手加減とかできん性質なんじゃがの。愛は惜しみなく奪うモノじゃ。尊厳さえも踏みにじり」
「踏みにじられてくれない愛情なんて私、嫌いよ」
 切り刻む刃すらもあたたかみを感じるのは何故だったか。前のめりに倒れていく自らの、血の気の薄れた寒さに染みこむのはただの、敗北感と。

「やっぱり、アイドルやってる貴女の方が好きだったよ」
 ゆっくりと歩いていき、抱きかかえる様にして支えに入った双葉がそんなことをのたまう。
「アイドル活動もそうやりゃ良かったろうに、勿体無ぇな」
「勿体無くなんて、ありませんよ」
「あ?」
 全て終わり、結界が解けていくのを遠巻きに眺めながら宮実は歩み寄る。
 翼の傷だらけの体に、擦過傷の浮いた頬に触れ、小さく頷く。
「拳を交わして命を交わして、それでもみなさんは、彼女を生かそうとしたんでしょう? なら、伝わってますよ」

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 割となんていうか、こう、厳しさの中にあたたかみを感じるプレイングだったかと思います。
 死ぬと思ったら生きてた。なんつータフネスと運なんだろうかこれ。
 しかしながら、寝返った系チョロインの末路って大体アレですよね。アレ。


 あとほんと、こういうことになりますから気を抜かないで頑張ってくださいね。