● 何気ない、一日がまた始まった。 「四月は、新生活ですね」 「杏理! しんせいかつ?」 「はい、マリアさん。マリアさんも中学生になるのでしょうかね……? 新しい環境ができるという事ですよ」 新出単語に目をキラキラと輝かせつつ、『クレイジーマリア』マリア・ベルーシュ(nBNE000608)は『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)の言う事をよく聞いていた。『規格外』架枢 深鴇はそんな二人の可愛らしい声を聞きながら、読んでいた本をパタリと閉じた。 「四月はいいね、花粉症はクソ食らえだけど。 桜の下にちょっと公には言えないものを埋めるのもとても楽しいし、たまにうっかりアンデット化したごにょごにょの影響で、桜がエリューション化しちゃったりあるけど、四月はいいよ。あーそういえば、あの子は何処の桜の下に埋めたかなぁ……そろそろ、万華鏡に引っかかるかもしれないから宜しく」 「ぁぁぁ、どこも良いように聞こえませんでしたが……」 「キャハハハハハ!!」 冗談だよ。 と、首を傾げた深鴇の首すれすれの場所にマリアの葬送曲の鎖が突き刺さった。 「とんでもやんちゃなクレイジーマリアは……たまには三高平をお散歩してくるのも良いんじゃないかな。僕はまだ三高平に来て間もないから、案内してくれると嬉しいんだけどな」 「やだ。マリアは元剣林、おまえは元黄泉ヶ辻。敵だわ、相容れないわ」 「ぇぇぇ、昔の事掘り返すのはやめよーよ!! いいよじゃあ、一人で遊びに行っちゃうからさ!」 さて、誰に出会えるだろうか。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年04月14日(月)22:59 |
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■メイン参加者 27人■ | |||||
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● 本部のテーブルでごろごろ寝ていたマリアに氷璃は、 「今夜はマリアのお誕生日パーティーを開くわ」 と言った。聞いてないと、首をこてんと傾けたマリアに、妖しく笑った氷璃。 「ええ、言ってないもの」 そう、四月一日の記憶が曖昧なもので、全部嘘で飾られた時間が存在する気がして。 兎も角、そこは問題では無いのだ。 「お散歩ついでに招待状を配ってきて頂戴。私はそれまでにパーティーの準備をしておくわ」 「はぁい、おねえさまー」 少しだけ気怠そうに扉を開いて飛んで出て行った小さな背を見送った氷璃は、アクセスファンタズムを取り出す。 『なんでしょう、氷璃さん』 「貴女用のメイド服も用意してあるから早くきなさい」 『まだ何も命令されてないのですが、要件は分かりました(´・ω・`)』 此のフォーチュナ、そろそろ飼いならされてきている。 それから氷璃はケーキ作りを開始する。マリアの喜ぶ顔が楽しみで、其の一心で。 「氷璃さんは本当にマリアさんが好きなんですね」 傍からメイド服姿で見ている杏理も嬉しくなってきた。飾られた部屋とフルーツ盛りだくさんのケーキを見て、眼を輝かせて飛びつくマリアを見るまであと少し。 ――Bon anniversaire 「春眠暁を覚えず、つまり春は心地良いからついつい昼まで寝ちゃうって事だね」 外の頭の上のパンダが外の頭を叩く。 『寝すぎて叔父さんに外で遊んで来いって家を追い出されたけどなー』 「叔父さんは見た目通りに全く心が狭いよね。うーん、でもまだ眠いや。河原で昼寝しようかな……」 『春だもんなー、良い天気だ』 「春だからねー、カイゼル君あったかいや」 「式神ってあったかいの?」 外の顔に影が出来た。金髪幼女先輩が覗き込んでいたのだ。 此れは夢だ、金髪幼女先輩とは会わなかった、ボクは寝るんだから、と。2秒で妄想した外は其の侭目を瞑り、タオルケットを引き寄せては身体をしまった。 「無視するなわ逆貫に言いつけるわよ、パンダ」 「わあ、やっぱり夢じゃなかった」 「遊びにいくわよパンダ」 「拒否権は?」 「あると思う事が既におこがましいわ、パンダ」 「ボクの方が年上なんだけどな」 インペリアルカイゼルロイヤルキングスーパンダ君を盾にした外は、マリアの堕天落としを回避した。しかし容赦無く外の腕を掴んだマリアは、大きな翼を広げて上空へと飛ぶ。 「散歩よ!」 「空中散歩はいいけど、落とさないでね」 其の下を一悟が駆け抜けていく。 今日が平日だったか休日だったか、平日だった様な気がするが何時もより道路に人が多い気がするから休日かもしれない。 他愛も無い事を考えながら、一悟はふと見上げた。 瞳に飛び込んで来た夕陽は、綺麗なオレンジ色に輝いていた。少々厚い雲も多く、だが割れた雲の隙間から刺す夕陽がスポットライトの様に地を照らしていてそれもまた良し。 「お、一悟ー何処行くんだ?」 「適当! じゃあな!」 「ああ、ランニング中か。邪魔したなー」 「問題無い!」 すれ違う顔見知りが手を振った。 暫くしてであった。足を止め、途中で買ったドリンクを口に含み、まだ花の香り混じりの冷たい空気を吸い込み。 「……んんっ。やっぱ世の中、平和が一番だぜ」 守り続けよう。そう、決心するのであった。 正直な所、町に詳しくは無い訳だが。 アズマは三高平という不思議な町を、きちんと一度見ておきたいと足を進めていた。 思い返せばそう遠くない過去で、三高平も襲撃を受けた事がある。菊の花の目立つ花束を其の地へ置いたアズマは両手を合わせる。 多くの同胞へ。どうか、安らかに。多くの血が流れた事を思えば、そう祈らずにはいられない。 (……しっかし、この町も広いな) 黙祷を終えたアズマは花束に背を向け歩き出す。だが三高平を歩くというのは、なかなかの体力が必要だ。 如何しようかと考えつつ、アズマは見かけた喫茶に吸い込まれていった。一休みは必要だからね。 拓真は手の伸ばした。だが伸ばした先の湯呑の中身は飲み干してしまったらしい。 平和なのは良いが、暇過ぎるのも問題か。悠月は紫月の家に遊びに行ってしまっていては、話し相手もいない。 「蔵……整理でもするか」 という事で、今現在マスクに三角巾を被り戦闘態勢の拓真は埃やらと戦っている。 「流石にアーティファクトやらをこんな蔵の中に放り出してる様な事は……有り得ないか」 祖父の事を思い返してみれば、神秘的お宝が一個や二個転がっていても可笑しくはないが。 『クスクス……』 「誰だ!!」 拓真はAFより得物を取り出し構えた。 だが、其処には何もいなかった。何もいないよ。本当だよ。幻聴だよ、拓真、貴方疲れているんだよ。 「流石に期待のし過ぎか……さて、残りあと少し。最後まできっちり終わらせるとしようか」 偶にはこんな一日も良いものだと思いながら。あとで、風呂は絶対沸かそうと心に決めつつ。 「あ、えとえとなにかおてつだいすることありますかっ?」 後ろからぴょこっと出てきたテテロに拓真は驚いて、埃の山になっていた地面へダイブした。 「あわわ! ごめんなさい! 焼き肉の予定と聞いていたけれどどうなんでしょう?」 「多分……それは、デマかな」 立ち上がり、埃を払う拓真とそれを手伝うテテロ。恐らくこのテテロちゃんはあのテテロちゃんの姉妹のテテロちゃんなのだろうと拓真は一瞬で把握する。 「あの姉たちに、この妹有りなのです。所で何を手伝います?」 「成程な。じゃあ、とりあえず雑巾で物を拭いてもらおうかな」 「かしこまりましたです!」 ● 「義衛郎」 「……おや」 玄関を開き、名前を呼ばれて下を向いてみればマリアが顔を見上げていた。 「これはまた随分と珍しい。今からケーキ焼くんですけど良ければ食べます?」 「うん! マリアの食べ物センサーが義衛郎の家に反応したのよ!」 羽を広げたマリアは、義衛郎が奥へ招く前に飛んでいき、リビングのある場所を確実に当ててテーブルに座った。 義衛郎は思う。お菓子つくりをすれば此の子が毎回訪ねてくるような気がする……と。 かくかくしかじか、マリアが雪合戦のビデオを見ている間に義衛郎はお菓子を作る。 完成したものが此方。 「で、これなぁに! ケーキ!」 「シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ。うん、なかなか良い出来」 「しゅばるつりひと?」 「其れはダークナイトのスキルだ。シュヴァルツヴェルダー・ キルシュトルテ。フランス語だと、フォレノワール」 「ノワールオルール!」 「ちげえ。……いえ、違います」 マリアのお口にあえばいいと、彼女の動かす口を見ていた義衛郎。だがマリアは喋る事さえ忘れて、ケーキを味わう事に徹していた。 桜吹雪がロマネの頬を撫でる。春なのだろう、何処からか風が甘い香りを運んできた。 「しかし花見シーズンとはいえ、斯様な場所に来る人など……」 「やっほー、愛しのロマネちゃーん!」 居た。 笑顔で手を振って爽やかに深鴇が走って来た。 「……てっきりあの時死んだのかと思っていました」 「死んだ方がロマネちゃんが嬉しいなら、僕、いいよ!」 「何が、『いい』なのでしょう……?」 「所で掘り返していいものとかある?」 「……ここはわたくしめが管理する墓なので、掘り返されては困ります」 彼の性癖はロマネは理解していない訳では無いのだが。ただ、深鴇も聞き分けは良くなったのか、掘り返さない事を約束して彼女のテリトリーに足を踏み入れた。 ロマネは深鴇が嫌いという訳では無い。ロマネも折角の桜を一人で楽しむより、一緒に花を見てくれる人が居た方が飽きないだろうし。 「お茶を持ってきます。極力大人しくしていて下さい。いいですね?」 「うん。ロマネちゃん」 「はい?」 「やっと、顔がよく見える」 そう言って深鴇は、ロマネの髪に絡んだ花びらをすくい上げた。 ガシャァァン!と。鋭利なナイフが、まな板の上に垂直に刺さった。 「静かにしてろ。いいな?」 瀬恋の目線の中で、ティッシュ箱の中からティッシュを無駄に抜き取りまくっていたマリアがこくんと頷いた。 経緯はメシを作っていたらマリアが来たというシンプルなものである。 「お前がここ来てどれぐらいだ? もう結構なるよな」 「うん。二年かしら」 「慣れたか、なんて聞く必要もねぇわな」 其の日々の中で、沢山の人と手を取り合ったものだ。マリアの性格は依然子供のままではあるが。 「それなりに愛着もあるんじゃねぇか?」 「そうよ。それなりによ」 だが瀬恋は、年々強大に成っていく敵を思えば、此処らへんで離脱した方が潮時かもしれないと考えていた。 「あんまヤバくなったらさっさとトンズラさせて貰うよ」 愛着はあっても心中するほど溺れちゃいねえ、と。そんな瀬恋にマリアは悲しい目線を向けた。 「寂しいのか? そん時ゃついてくるか? ガキ一匹の面倒ぐれーなら見れるぜ」 「違うわ。マリアは……いつか、此処を」 悩んでいる様に見えるマリアから視線を外し、冗談だよと呟く。そんな事したら組長が怖いから、な。 「ほう」 華は顎下を指で触りながら、アーク本部から三高平の景色を一望した。胸に溢れるのは、これから何が起きるのだろうという期待と、不安も少し。 そして何より、一生の居場所にしたいと思う真っ直ぐな気持ち。 名立たるリベリスタ達が此処で仲間として活動している。その一人になれる事を嬉しく思い――。 「えっと、杏理? だったか?」 「はい。牧野、杏理です。初めまして、二十六木華さん」 「うお、名前知ってるのか」 「ほぼ、全員網羅してますよ」 「よろしくな!これからアベリオンとして街に住む一人だ!」 「こちらこそ、宜しくお願いします」 華と杏理は意気投合したのか、杏理は華と共に街へ出た。 ● 「進学祝い――おめでとうございます、三人とも」 悠月の言葉に、夏栖斗、紫月、マリアが声を揃えてありがとうと言った。 冒頭でも言ったが、本日は遊びという名の進学祝い。場所は、先日紫月が引っ越したばかりのマンションな訳だが。 築5年の高層マンション30階の部屋。オートロックでカードキーで2LDKで広々50畳でウォークインクローゼットでキッチンにはワイドグリルのついたIHクッキングヒー……タ影は考える事を止めた。 そんな凄い部屋といえども、四人が集まると小さく見えるだなんて紫月は小さく笑う中。 夏栖斗は美人姉妹に挟まれつつ、目の前には小さな天使がちょこんと座っているとは夢空間だ、僕はなんて幸せなんだと一瞬だけ鼻の下が伸びた。 マリアはマリアで悠月の豊満な胸を見て対抗心を燃やしていた。 「マリアはゲームはやったことある?」 「どっちが先にヒト沢山殺せるかとかならやったことあるわよ」 「あーうん。リアルな方じゃなくて、こっちこっち」 夏栖斗が苦笑いを決め込みながら、指さしたのはテレビゲームの方でレースゲーム。 「あの機械ってゲームなの?」 きょとんとしたマリアに対して、 「そこから説明しないといけませんか……」 悠月は優しく笑い、 「ゲームは少しだけ、やった事がありまして。まあ、ほんの数回程度でしたが。一緒にやって覚えましょうね」 紫月はコントローラーを引き寄せて、マリアの手に持たせた。 「じゃ! いっちょ、やるか!」 暫くお待ちください。 「マリア一番なるわ! 雑魚共蹴散らしてやるわ!」 「うふふ。マリア、頑張って下さい」 「あら、あらららら?」 「うわ! 紫月地味にうまくなってね?」 「紫月もこういうのやるのですね……」 「勝てました……一位」 「マリア負けた! マリア……負けた?」 「うわ!! マリア、葬送曲詠唱駄目!」 気を取り直して。再びお菓子とジュースを囲って雑談。 妹のカップにジュースを注いだ悠月に対し、照れ気味にお礼を言う紫月を見て。右に左にと夏栖斗の目線は動く。 「ゆづちゃんと紫月ってほんとにいい姉妹だよね、仲良しで」 「ありがとうございます」 「まあ、そうですね。仲は良い方だと思いますよ」 似た顔を見合わせた悠月と紫月の息の合った会話を見て、家にいるであろう妹に会いたくなった夏栖斗であった。 「マリアは一人っ子? でもさ、三高平のみんなを兄弟みたいなものっておもってもいいんじゃない?」 「そうね。でもマリア、姉妹いるわよ。ぶらっでぃまりー……だったかしら」 フィクサード臭い名前が聞こえた所で、そんな事いいのよ! と、マリアは悠月の膝へとお尻をぽすん。 「悠月! 少し寒いわ、ぎゅってして頂戴!」 「戦場では仲間として頼りにしていますが……こうしていると、確かに妹のような感じがしますね」 「でも、世の中には血の繋がりよりも濃い絆と言うのは沢山あるものです。きっと皆さんは覚えがあるでしょう? マリアも」 「マリアも?」 「はいっ」 紫月の言う言葉はまだマリアには早かったかもしれないが、マリアなりに理解したのか。 「3人とも大好きだわ! 戦場ではマリアが守ってあげるわ!」 なんて生意気な気持ちを述べたのであった。 ● 真咲が飛んでいた彼女の眼前に回り込み、 「あれ? やっぱりマリアおねえちゃんだ、こんにちは!」 「あら……真咲!」 話しかけた。真咲の姿勢が前のめりなのに対し、突然話しかけれて驚いたかのようにマリアの背は仰け反り気味。 「こんな所であうなんてキグウだね、なにやってるの? ボクはお友達にうちに遊びにいくとこ! 5年生になって、新しいお友達がたくさんできたんだ!」 「良かったわね。マリアはねえ今は、お散歩中なのよ」 友達の家に遊びに行くですって、マリアも行きたいわ! なんて恥ずかしくて言えなかったマリアは何処かもじもじしていた。 「あれ、マリアおねえちゃんは何年生?」 「そ、それどういう意味よ! 中学生だわ、中学生!」 「……中学生! なんだか大人な感じ!」 「子供だと思われていたのね!?」 悔しがり、地団駄を踏む代わりに葬送曲の詠唱を開始したマリアの手前、真咲は腕を飾った時計を見て焦った顔ひとつ。 「あっ、そろそろ行かなきゃ遅れちゃう。またね、マリアおねえちゃん!」 「ちょっと、ま、待ちなさいよぅ!?」 撃ち損ねた魔法陣が、真咲がダッシュして起こした風に消えて行った。 暇な一日であった。 糾華はパソコン画面を睨めっこしつつ、ネットゲームを開始する。 其の頃、全く別の場所でネカフェの受付を済ませたユーヌがリクライニングに腰を掛けた。 「「さ、今日もレベルあげするか」しましょう」 une:アイスうまー AtoZ:アイスうらやま! une:ネカフェは食べ放題なのが良いですね AtoZ:うねさんネカフェなんだ……私はネカフェ使った事ないなぁ。目の前には紅茶とクッキーが……クッキーは手作りですよ(ふふん 「「ふーん」」 ほぼ同じタイミングで糾華はクッキーを、ユーヌはアイスを口に運んだ。 une:うわー、いいなー手作り。 AtoZ:嫁はよくネカフェ使ってたっていうんだけれど、私はそういうところ疎いんですよねー une:作ってくれる嫁ふってこいー>< 此処でユーヌ、0.1秒程、彼氏を思い出した。 AtoZ:嫁って言っても同棲してる後輩の女の子ですけれどねー同性で同棲…あ、なんでもないでs une:ギャルゲ状態め、爆ぜろwwwアイス追加しまくってやるー une:運動してないとカロリーが天敵ですけど une:……太ったら富士山登ってダイエットするもん>< AtoZ:ダイエットに富士山ってw AtoZ:毎日見てるけれど結構ありますよw une:近場でもあまり行ったことはないですけど AtoZ:うねさんも富士山近いんだ、奇遇ですねー 「「ふむぅ」」 ほぼ同じタイミングで糾華とユーヌは声を出した。 如何やらチャットの相手は案外近くに住んでいるらしい。オフでもしてみたら、会えるかもしれない。 会った時に、面白い事があるかもしれないが。 天乃は成長した。今日は服の下、下着を履いている。 履いていないままに、肩車や膝枕を思い出してみれば、強固な天乃の無表情にもほんのり桃色に染まってしまう。 不審に思った快が彼女の顔を覗き込み。 「どうしたの?」 「なんでも、無い」 「そう? ま、狭い部屋だけど、どうぞ。適当に座って」 「お邪魔します」 「ちょっと色々取ってくるね」 店ばかりを見ていたからか、快にとって何時もの光景も天乃にとっては新鮮な酒店の居住スペースである。 少ししてお酒を取りに行った快が戻って来た訳だが、 「日本酒で漬けたヤツ。飲みやすいって好評なんだ……ぜ?」 快、一瞬だけ固まった。成程、確かに適当にとは言ったが、天乃が腰かけている場所はベッドの上。 そんな場所に座るんじゃないと言うべきか、でも指摘して意識していると思われたらそれはそれで……。 急激に回転する思考を如何にも出来ず、快はベッドという存在を頭から消去するに至った。 水の様に飲みやすく、それでいて市販のそれより遥かに甘くない梅酒を堪能し、浮くような気分で語り合うのは最近の出来事の話。 「もし、普通に生きてるあの自分、がこうしてたらどうなるだろう、だなんて」 可能性の話である。もし、何かが一つでも間違えば有り得た話の其の一片。 革醒していない自分を考えた事は幾重にもあっただろう。それも幸せな光景であったかもしれない、だがそうなってしまえば―― 「きっと皆とも出会えなかったんだよな。比べることはできないけれど、今の俺には後悔は無いよ」 快の言葉に、「そっか」と天乃は揺れる身体と共に一度だけ頷いた。 それは、それとし。やはり視界に入るベッドが記憶忘却を許さず。酔った勢いだ、言ってしまえ。 「一人暮らしの男の部屋にホイホイ上がり込んでベッド座ってるとか、ガード甘すぎ」 「誰のせい、だと……いや、いいか。もしかして、意識、してる?」 「……っ」 「………今日は履いてる」 「言わんでいい!」 ● フツとあひる。手で繋がれた二人は大学の校舎を歩き回っていた。 四月からあひるが大学生なのだ。校舎案内するのは当たり前だろうと、フツは笑顔で任せろ!と言った事からこうなっている。 教室、食堂、図書館、事務室……一つ一つ丁寧に案内し、メモを取るあひると気遣って待っていてくれるフツは今日も徳が高い。 ゆっくり説明していったからか、気づけば時計の短い針は12を超えている。 フツは、あひるの手を引いて取って置きの場所を案内した。 春風がよく通り、日差しの温かい中庭だ。 背筋を伸ばして、少しだけ冷たい空気を肺に送り込むあひる。其の後ろで彼女の揺れる髪を見ながら、フツはベンチに腰掛けた。 「さっきの屋上もいいけど、ここは広々してるし……いい場所だね」 元気に振り返った彼女の、なんと麗らかな事。 「今日は風邪が強いが、ここなら四方を壁に囲まれてるからな。ご飯食べるにゃ丁度いいぜ」 「じゃあ早速、今日はお昼の予行練習も兼ねて……おべんとたべよ! 今日は天気もいいし、お弁当日和ね」 差し出された、綺麗に包まれたお弁当二つを丁寧にあけていく。蓋を開けば、春らしい盛り付けが食欲を刺激する。 あひるはタコさんにカットされたウインナーを箸でつまみ、照れ臭そうにフツの口へと運んだ。 「ウン、ウマイ! これからはできるだけこうして一緒に食べようネ」 「その言葉、約束だよっ! フツとお昼一緒になる時は、必ずお弁当作ってくるからっ」 楽しい学校生活も、彼女、彼が居る事によってもっと楽しくなるのは、確定事項なのであろう。 リリィとエフェメラはほぼ同じ歩幅で歩きながら、三高平の街を歩く。 暖かくなってきたからこそ、新しい服が欲しい訳だ。フュリエであろうとも女の子らしい思考の二人は、お洒落が好きだ。 エフェメラはまだボトムの服を買った事が有るのだが、リリィはラルカーナから持ってきた服を使っていた為か、買い物に胸が高鳴る。 「ボトムは暑くなるから、過ごしやすい服を探そうと思うの。可愛いのもほしいね」 「ボトムの服はホントにいろいろ種類あるから楽しみだねっ♪」 「エフェメラは、どんな服が好き?」 「ボクは動きやすい服が良いかなっ♪ リリィちゃんは……サラッとした感じの薄手の、なんだっけ。ワンピース? ああいうの似合いそうっ♪」 リリィの腕を引き、指をさしたエフェメラ。其の指先には、春らしくプリント柄の花が綺麗に咲いているワンピース。 逆に無地だが、晴れやかなブルーが美しい。夏を思わせた様なボトムを腰に合わせてみたリリィ。 「これ、似合うかな?」 「そっちも似合うね! ボクはこんなのどうかな?」 これから暑くなるが、冷房対策に薄手の長袖で猫耳フードがついたものを着てみたエフェメラ。リリィはくすりと笑いながら、猫の耳と耳の間を撫でてみた。 こっちはどう? そっちはどう? と。試着室を占拠しつつ、二人は自分に似合う服を着比べ着回し探したのであった。 「お買い物したら、アイス食べに行こうか」 「あはっ、それ良いねっ♪ 甘いもの食べたいねっ♪」 如何やら公園のステージで演奏会をやっているらしい。其処から響く音楽が雰囲気を作ってくれる。 シートを広げ、春らしい色彩のお弁当を広げている旭と、少々不器用ながらも努力の跡が見えるお弁当を広げた鏡花は、同じ音楽と同じ景色を楽しんでいた。 「あ、この曲聴いた事ある。なんだっけ……鏡花さん知ってる?」 「曲名は……確か、……今、ググります」 「あ、うん! そこまで、ありがとう」 ちょっとして、携帯端末の画面に映し出された曲名を見て、旭は手を叩いた。 「わ、そっか。いわれてみればそだった」 にへらと笑った旭は幸せだと改めて思った。なんといっても綺麗な桜と、奏でられた調べ。美味しいお弁当(自画自賛)に、何より大好きな友達が隣に。 「……友達?」 鏡花の顔が、斜めに傾き気味に微笑。聞き返すように、そして確かめるように、其の二文字を聞き返した。 この町では、まだ出会った事が無い温かみに触れた気がして。それが本物なのか聞きたくて。 「ふふー、だってわたしたち、どーみてもお友達でしょ?」 「そう……かな」 「そうだよーお友達だよう、鏡花さんてばかわいい。着物もとってもきれー」 旭から放たれる言葉の数数が鏡花の心を少しずつ砕いていく。認めて貰えた気がして、胸が熱くなってきて。 旭は無邪気に、お弁当の中からおかずを取り出した。 「はい、これあげるー」 桜海老混ぜて菜の花巻き込んだ出汁巻き卵を、鏡花のお弁当の蓋に乗せ。 一番よくできたと思うものだから、大好きな貴女に食べて欲しくって。 「ありがとう、嬉しいし、本当に美味しい」 「ふふーしあわせー」 ● 紫刻館――書斎にて、結唯は本のページをぺらりと開いた。そんな所で、式神を放つ。 そう、間もなく。 「キャハハハ! マリア様が遊びに来てやったわ!」 「うるさい」 「(´・ω・`)」 金切声の様な笑い声を止めさせた結唯は其の侭、自身の頭を抑えた。 確か彼女は、紅椿に居たマリアという子であったか。其の隣では娘に屈している親の様にあわあわしている杏理が一人。 マリアは兎も角。 「牧野と言ったか? よく来たな……なんだ、何も知らずに来たのか?」 「何もって、何かあるのですか?」 「出るんだよ、ここ。正確には出るかも、だけどな」 結唯曰く、此の館を含めて『いわく』があり、何時神秘が出てきてもおかしくは無いのだという。 「えっ、それ大丈夫なんですか!?」 「キャハハハ! マリアが全部葬ってあげるわ!」 脅えた杏理は兎も角。 マリアはマリアで興味がある様だ。ならばと案内してやると、全力で顔を横に振る杏理を差し置いて、結唯は奥へと誘う。 「帰るのは時間がかかる。泊まっても構わん」 「フォーチュナ戦闘用じゃないのですよぉぉ」 「なんなら送っていくぞ。なあ、マリア」 「ベルがいいわ」 「生意気な。なら呼ばさせてみろ」 頭から煙が噴き出るんじゃないかという程に考えてみた椿。 テーマは、マリアに誕生日プレゼントをあげる場合何がいいか、である。 「マリアは中学に行くん?」 「いかなーい」 「なんでや」 「いっぱい人がいると殺したくなっちゃうもの」 「成程……」 椿から見て、親心としてはマリアにはきちんと義務教育を受けさせるべきと思うのだが、無理言って行かせて堕天落とされるのもそれはそれで困るというもの。 ともあれ、マリアが通学したとして真面目に授業を受けるのかが疑問でもある。 ともあれともあれ、教育の話はまた今度。今日くらいは誕生日を祝う為にマリアと一日を過ごそう。 「で、マリアさんはプレゼントは何が欲しいん?」 「椿が選んでくれるものならなんでもいいわ。でもね、マリア、我儘いってもいい?」 「ええよ」 マリアが少しだけ顔を俯き気味に、顔は耳まで真っ赤であった。彼女が指をさした先、椿の目に飛び込んだものは三高平中学の制服。 (行きたくない訳では無いんやなぁ……) 「こんにちは、架枢ちゃん」 「奇遇だね?」 前方から歩いて来た深鴇に、すれ違いざま話しかけた葬識。其の儘身体をUターンさせた彼は、深鴇の隣を同じ速度で歩く。 「ね、どうして四国で俺様ちゃんを助けたの?」 対した敵の力は強大であった。能力として防御にけして優れない深鴇が葬識の盾に成ったのはハイリスクが過ぎる。 其の事実が葬識にとっては不思議で仕方ないのだが。 「忘れてないかい? 僕は君が好きなんだよ」 深鴇は元より強すぎる友達思いが空回って来た子だ。特定を救う事で何かが滅びても構わない。一回、実際に滅びたし。 「だから賭けたのさ。君という個体が、諏訪司を愛せるように。僕に失恋したんだろう?」 さっき「愛する人がひとり、愛せなくなったね」と独り言言ってたじゃないかと。深鴇は意地悪い表情を向けながら、あははと笑った。 「……アークって変なところだよねぇ」 鬼としての己に人の心なんて不必要ではあるが、感情を向けられるのは悪くないとも思える。 だが。 「どうかな。葬識君が曲がっているから、平行な世界が見えてないんじゃないかなぁ」 今日も曲がった世界は時を進めるが、それは誰かの平行線。 桜は散り、夏を迎える準備の途中。また戦いの日々を過ごす戦士たちの休日。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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