● 坂口飾にとって、朝は憂鬱なものだった。 一日の始め、何時も通りの日常を始めなければいけないという憂鬱。 勿論、誰ぞに言えば「なんて、羨ましい」と言われる程に坂口飾は平凡な女であった。 髪をしっかりと結い上げ、鞄を背負って何時も通りに学校に向かうだけ。 単純なルーチンワークに坂口飾は飽きてしまっていたのだろうが、誰ぞからすれば「素晴らしい毎日」だと言われてしまう事だろう。 それでも坂口飾にとっては朝は来なくて良い物だった。 毎日毎日、少しずつ変わったとしても余り変わりない日常を送っていく。 風化していく毎日に坂口飾は耐えきれなくなったのだろう。 でも、そんなある日。 「――ふふ」 でも、否、だからこそ、そんなある日。 坂口飾は『天使』になってしまったのだと、そう彼女は話していた。 ● 「どうも、こんにちは。あなたの天使です」 ドヤ顔で告げる『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)にリベリスタ達は小さな溜め息一つ。 「……いや、これは別に深い意味があるわけじゃ、あるんだけど、私が天使って言うか……」 しどろもどろになる世恋は背中の翼に意識を向けて「天使です」ともう一度言った。 「ノーフェイスになってしまった女の子がいるわ。しかも、とてもポジティブな女の子なの。 今迄の経験上、ノーフェイスになった子は化け物だと言われたり悲観的になるものだけど……生憎彼女は違うみたいね」 ポジティブなの、とはっきり言う世恋はモニターに一枚の写真を映す。 大きな白い翼を持った少女が一人、何処に行くでも無く歩きまわっている。 「彼女は坂口さん。坂口飾さん。高校生の女の子よ。 皆にお願いしたいのは単純明快、坂口さんを殺す事――なのだけど」 ノーフェイスである以上は仕方がない。正義の大義名分の下手をくだせと言う訳だろう。 しかし、性格上明るいと言っても殺すとなると普通の少女である以上は騒ぎ立てることとなるだろう。 坂口飾は現在、市街地に向かって裸足で向かっているのだそうだ。 彼女の現在地だって一般的な住宅街だ。 「飾の外見は翼以外は何ら変化して居ないわ。少なくとも、まだ」 「『まだ』」 「ええ、これから段々変化する可能性だってある。 彼女のフェーズ進行は早いわ。危険性だって段々と上がっていく。なにより――」 「……増殖革醒化現象?」 イエス、と世恋は一つ頷く。 増殖革醒化現象を持った飾が街に出る事は犠牲者を増やす事に繋がってしまうだろう。 如何してもソレは塞がなければならない。過給速やかに彼女を殺す事が必要となってくるのだろう。 「彼女の進行方向の真逆に小さな山があるわ。地元では祷り山と呼ばれてるそうだけど、そこなら周囲に人はいない。 上手く飾を誘い出す事が出来れば――きっと、何とかなると思うわ」 無益な殺しにならないように、と世恋は資料を手渡しながらどうぞよろしくねとリベリスタ達を見回した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年04月10日(木)22:15 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● その日は、坂口飾にとって特別な日だったのだのだろう。 閑静な住宅街に、翼を背負った女子高生はイヤホンを耳に付けたまま繁華街に向けて足を進めている。 制服の背中部分を突き破る翼になんて飾は気に留めなかった。ただ、『特別な日』を迎えられると思っていたからだろう。 彼女の居る住宅街を見下ろせる山――地元の人間には『祷り山』と呼ばれる小高い山から住宅地を見下ろしながら『聖闇の堕天使』七海 紫月(BNE004712)は双界の杖を握りしめて小さく笑みを浮かべていた。 「『特別』――……わたくしは産まれた時からこちらの世界にいましたから、いまひとつピンと来ないですわね」 彼女の言葉に共にいたリベリスタ達は微妙な表情を浮かべている。山で待機する彼女らは一人の少女を待っているからだ。 坂口飾は平凡な人間だった。神秘に携わった事もなければ、世界は人間のものだと思っている。 紫月の言う『こちらの世界』は飾にとっては『知らない世界』なのだろう。 単純な毎日が嫌だ。平凡な世界が嫌だ。足を突っ込んでは戻る事が出来ない世界だと飾は知らない。 「ああ、でもあたしもわかりますよ。ちょっと前までは飽き飽きしてたっすよー。 世界には漫画みたいな魔法も奇跡も何もなくって、特別な力とかそう言うのも無いと思ってたっすから」 へらりと笑った『ジルファウスト』逢川・アイカ(BNE004941)乃言葉に感じる影に紫月は生温い笑みを浮かべる。 明るく告げるアイカが言う『漫画みたいな魔法』は彼女が手にした奇跡であり、同時に得たくなかった物なのかもしれない。 漫画の様な世界、アニメの様な、まるでライトノベルの世界は現実には起こり得ない。それが一般的な人間の考えだ。幻想纏いを指で転がしながら『戦技巧霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)は息を吐く。 「――……ええ、了解です」 慧架の言葉に幻想纏いを手にしていた『三等兵』閂 ドミノ(BNE004945)は緊張した様に周囲を見回して居る。 ドミノが周囲の地形把握に気を配っている中、慧架はこれから起こりえるであろう状況を想像し息を吐く。 「これからは『日常』では無くて、『非日常』ですからね」 「ええ。つい最近まで――私達と出会う前までは普通の女の子だったのに、」 『そらせん』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)の言葉は一度切られる。 彼女にとって自分の生徒と同じ年頃の少女が非日常に引き摺られる瞬間は耐え難い物だ。 引き摺られるだけならばまだ良い。引き摺られて――そこから。 幻想纏いを通してそらの言葉の意味を感じとったのか、少女は可愛らしい声音で囁く。 『ちょっと、可哀想だね。でも、うみはああならなくて良かったな』 住宅街の温かな様子とは掛け離れた声音。冷たく、淡々と言ってのけた『Nameless Raven』害獣谷 羽海(BNE004957)の言葉にソラは曖昧に笑って、目を伏せた。 ● 人生は何時だって、行き止まりだらけだった。坂口飾にとって、世界は単純な色ばかりで構成されていた。 少しずつ、少しずつ単調に変わっていく世界が風化していく気がして飾には耐えきれなかったのだ。 「――ふふ」 背中に生えた翼が自分をそんな日常から救ってくれる気がして飾は幸せそうに嬉しそうに翼を揺らす。 「あの……ちょっと、いいですか?」 そっと掛けられた声に『非日常』の気配がして飾は肩を揺らす。胸を高鳴らせて振り向いた先には帽子を被り、緊張した面立ちの『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)が立っていた。 レイチェルの姿は一般的な人間から見れば普通の少女なのだろう。黒い肌に良く映える赤い瞳だって、一般の人間から見れば『普通の色合い』に見えているのかもしれない。 赤い瞳に見入られるようにじ、とレイチェルの顔を覗きこんだ飾の許へと、ちょこちょこと歩み寄った羽海は彼女の名前の通り海色の瞳を瞬かせ、飾の背に生えている翼を見つめている。 「ね、ねえ、その羽、とっても綺麗だね。さわってもいい?」 輝く瞳で告げる羽海に驚いた様に瞬いた飾へと『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)は小さく笑んで「御機嫌よう」と囁く。 モニカの外見も一般的な人間とはまた違って見える。一見普通の人間であるかのような彼女はモノクル越しに飾を見詰め、羽海の背を押した。 「ほら。あなたもうみ達と仲間だね。名前は何て言うの?」 本当は知ってるけど、と飲みこんだ言葉。何処か戸惑った様な視線を向けている飾は猫の耳と尻尾を持つレイチェル、モノクルを付けた機械の少女・モニカ、そして自分と同じような翼を持った羽海へと視線を向けてから、恐る恐る口を開く。 「さ、さかぐち、かざ、り……」 「うん、いい名前。うみは羽海っていうんだよ」 にこり、と微笑んだ羽海にほっと胸を撫で下ろす飾はレイチェルへと目を向ける。 ぴこ、と揺れる猫耳としっぽ。飾が周囲の住民から「コスプレイヤー」だと思われた様に、羽海やレイチェルだってコスプレイヤーに見えるのかもしれない――尤も、彼女等は幻視を用いているから、飾以外にはそう見えないのだろうが。 「坂口飾さん……。その羽、もしかして本物でしょうか?」 「え、ええっと」 「私も、普通じゃないんです。……この耳、コスプレじゃないですよ。触ってみてください」 少し頭を下げて耳をアピールするレイチェルの頭にそっと触れる。飾の指先が触れて、びく、と揺れる耳は確かに『彼女』の耳だと判る。 驚きに瞬く飾へと「同類、じゃないでしょうか……」とレイチェルは飾の顔を眺める。羽海の言う『仲間』という言葉の意味がそこに行きつくのだと気付いた時、飾は瞬いてモニカへと視線を送った。 「――まあ、そう言う事です。我々は非日常の先輩みたいなものですから。 そうしたシチュエーションを貴女も味わいたいのであればご案内いたしますよ」 「えっ、本当に!?」 「うん。うみの羽もレイチェルさんのお耳もモニカさんの右腕と右目は普通の人に見えないんだよ。 見える様にも出来るんだけど。ああ、でも飾さんの羽は普通の人に見えるんだね?」 ぴくり、と飾の肩が揺れる。まるで見えない事が当たり前の様に――『先輩』は見えない様にできると、魔法の様な力を持っているのだと、言う様に。 「この外見の事があるからあんまり人が多い場所は嫌いなんです。できれば人目のない場所に……」 例えば、とちらりと向けた視線の先。他のリベリスタ達の待つ『祷り山』を見詰めた目に、飾は奇妙な高揚感を覚えて微笑んだ。 ● 道中は今迄の話をしようとレイチェルは懸命に紡ぐ。化け物の話しやエリューションの話しはどれもこれも作り物の世界のようで、自分の踏み入れた世界なのだと坂口飾は幸せそうに聞いている事だろう。 幻想纏いを通じて聞いていたソラの全身を雷光が覆う。電気信号の完全制御で切り替わる体のギアを感じながら、魔術教本の背を撫でて小さな溜め息を漏らした。 「やっぱり、憂鬱ですか?」 「……そりゃね。彼女はノーフェイスで。世界の敵だもの……。 似たような事例は何度も経験したけど、慣れるものではないわね。 ま、手を下す側の人間の心情なんて、殺すと宣言された側に比べたら……」 ソラの言葉を聞きながらアイカは魔力鉄甲に包まれた拳をきゅ、と固める。何にも譲れぬ矜持を熱に変え、身に纏いながら彼女の零した言葉はある意味で絶望。 「魔法ってのは掛けられてる方がいいっすよね。魔法が解けた時――世界は理不尽だって思い知った。 『いつも通り』が奇跡ってことに気付かない様に目隠ししてくれてたのが魔法だった」 「ええ。だからこそ魔法が掛かって居なかったわたくしには解らない。 お手伝いやら何やらでそれほど得した記憶がないような……隣の芝生は青いという奴でしょうか?」 こてん、と首を傾げた紫月は何にせよ、と仲間達に翼の加護を授ける。 彼女が、飾がなったという『天使』の簡易版の様な翼を与えながら紫月は小さく笑みを漏らす。 「天使になるとはなかなか見所がありますわね」 「天使……翼を以って死んだら天使に就職できるんでしょうか?」 首を傾げて見せたドミノは何処か緊張した面立ちで木の上から歩いてくる少女達の様子を見下ろしている。 華奢な掌に握られた斧がかたかた、と小さく震えていた。 「さあ? でもなれるとしたなら――」 「――したなら、」 羨ましいと言う事もなく。辛いと言う訳でも無く。続く言葉を飲みこんだ慧架は白鵠桜花&黒耀紅葉を手にとって、幻想纏いを下ろす。 「天使なら天に召されると言う事でもあるんでしょうか。日常は確かに私達の様な者には危険が沢山あります。 でも、非日常も決して、安全ではない……」 「ええ。所で、問題よ? 絶望に打ちひしがれている子を相手にするのと訪れた変化を喜んでいる子、相手にするならどっちが楽なのかしらね」 クエスチョン。人を殺す時の意気込みについて。準備は出来上がったという雰囲気の待機組の様子に気付きながらも「もっとバケモノの話を聞かせて!」とレイチェルにせがむ飾は奇妙な様子を感じとる。 人の視線が、何処か厳しい視線が感じられる。不安を孕んだ瞳を背後で落ち着いた雰囲気のモニカへと向ければ彼女は小さく首を振る。 「――……ええっと、」 「ようこそ、非日常へ。雛鳥殿」 とん、と木々の上から現れたドミノは斧を手に優しく笑う。スムーズな合流を行えたとほっとしたような雰囲気を醸し出すドミノに飾は安堵した様に胸を撫で下ろすが―― 「ごめんね」 隣でささやかれた言葉に、背に伝った悪寒を振り払う様に振り返った飾の目の前に、錘が振り翳された。 ● 少女が目にしたのは、何だったのか。勿論、ソラの言葉の答えもでなければ、『変化を喜ぶ』飾が一気に絶望に叩き落とされるのもそう遅くはない。 「さぁ、始めましょうか。あなたにとっての終わりの始まりを」 告げられた言葉に後ずさる飾。背後に立っていたのはモニカやレイチェルといった『案内役』。丸い瞳を向ける羽海が地面を蹴る。ふわりと浮き上がった羽海に目を奪われた瞬間、横面を叩く様にレイチェルが投擲した閃光が目を眩ませる。 飛び出した羽にが周囲に散らばる様子に目を遣りながらコマ送りの視界の中でモニカの細腕には似合わない殲滅式四十七粍速射砲を抱え上げ、砲口を定める。 「数は多いけど、私達の処理能力ならいけるいける」 「な、なに? しょ、処理?」 開かれた魔術教本。光を帯びた本から生み出された雷撃が飾の周囲に生み出される羽を撃ち落とさんとする。生み出される雷に、己の周囲に飛び出す羽に驚き、膝を震わせる飾に視線を送りながら、慧架は地面を蹴る。 ふわ、と体を浮かび上がらせた彼女の両手で巨大な扇が一気に少女の視界に影を落とした。 「――!?」 「貴女は今、漫画やアニメの様な非日常に世界に足を踏み入れた。 そして、世界から排除しないといけない存在になってしまったのです」 まるで真実味を帯びない様な言葉に飾が受けとめ方を思案するその横面を覆い傘ぶる影。羅刹の如き闘気を纏い強引に詰められた間合いは飾へと連続の武闘を伴って叩きつけられる。 「ひっ!?」 「あら、貴女は天使なのでしょう? わたくしも天使ですわよ? ほら、この羽……見て下さい」 にこりと微笑む紫月に助けてと言わんばかりに手を伸ばす飾に微笑んで、紫月は杖でとん、と地面を叩く。 「……やらせてもらいますよ」 怯える飾に視線を送りながらアイカは集中を重ねていく。自分の拳が届くまで後少し。驚きに怯んだ少女の顔が脳裏にチラついている。 「な、何でッ」 「飾さん。『非日常』だと――夢かと思うかもしれませんが、これが本当の日常で現実なんすよ。 そして……これが現実だとしたら、『現実は優しくない』」 アイカの言葉に飾の伸ばされた手が地面を掻く。怯えるノーフェイスに向けてドミノが叩きつける斧、溢れる血が溢れて、ずるりと滑る飾へ視線を向けながら羽海はスーパーストリングを向ける。 ブリーフィングで飾の写真を見詰めた羽海は丸い瞳を向けながら告げていたのだ。 『あの子を殺せばいいの? ちょっと可哀想だね。でも、うみはああならなくて良かったな』 その言葉を想いだし、羽海は地面を蹴る。周囲に飛び交う羽は今は無い、チャンスだと言う様に浮かびあがったまま振り翳した錘。 特別になりたいという気持ちは解っていた。名前を貰う前に『うみ』は特別じゃなかった。 うみが『羽海』になった日、その時、自分が特別な人間になれた気がしたから。憧れる気持ちは今の羽海には嫌というほどに判った。 判っていたからこそ、心から出たのはただ一つの謝罪。 「騙して御免ね、うみのことも殴って良いよ」 逃がさないと真っ直ぐに向けられた言葉におびえる様に飾の鞄が羽海目掛けて振り下ろされる。周辺の羽を撃ちながらモニカはモノクルの向こう、彼女が見詰めたのは幼き日の自分か。 「私も昔は神秘界隈をそんな風に夢のある世界だと多少は思っていましたよ。 しかし、実際はそれは特別な世界でも何でも無くて、単に立っているステージが表から裏に変わったと言うだけなんです」 理不尽な現実は何処にだってある。叩きのめされるのは裏だって表だって変わりない。 変化に夢を見ていた少女の顔に浮かぶ絶望は、『神秘に夢を見られるまま』ではないのかもしれない。 恐怖に肩を震わせる少女に向けて、回復の必要がないと前線に飛び込んだ紫月はにこりと笑う。 「わたくしは人間では無いのです。ふふ、こちら側へいらしたばかりでご存じないかもしれませんが。この世は怖いところがいっぱいですのよ? 無垢な貴女はどんな血の味がするのでしょうね? 白い喉をつたって行く赤はとても綺麗なのでしょうね」 囁く言葉に、突如首にかみつかれた感触に声にならない声を吐く。ひ、と飲んだ息に目で嗤った紫月が飛び退く。 合間に飛び出す様に、慧架が飛びこむ。巨大な扇子が飾の体を地面に叩きつけ、息の付く間も与えない。 前線の仲間達の支援に徹しながらも尖った牙を見せて、獲物を狙う様に目を細めて笑う紫月の不気味さは坂口飾という少女が望んだ『神秘』であるのかもしれない。恐怖心に駆られながら彼女が周辺にばら撒いたのは矢張り『天使の羽』。 瞬間に周囲に広まった羽を撃ち落とすモニカが体を逸らせれば、ソラの雷撃が降り注ぐ。 対抗する様に立ち直らんとする飾にレイチェルからの支援を受けた慧架が踏み込んで彼女の体を地面に引き倒すと同時、アイカが真っ直ぐに羽を弾き飛ばした。 迷いを拭い捨て、気合を入れて、拳を真っ直ぐに突き立てる。魔法が解けたシンデレラ。きっと見えた現実は暗い物だったから。 「この世界から、消えて下さい」 もう一度魔法をかけ直す様に、囁かれたアイカの言葉に合わせてドミノが斧を振り下ろす。 如何に力を付けようと、ノーフェイスであろうと彼女には経験がない。世界の悪意なんて見てはいない。まだ何も知らない、飛び方も知らない雛鳥は翼を揺らして声にならない声を漏らしている。 「……本当に仲間になれたら良かったんだけど、運命は飾さんを愛してくれなかった」 「う、運命?」 「この世に神様も天使様もいない。あなたは特別になれなかった、ただそれだけのこと。 ……だから、うみが綺麗なまま殺してあげる」 増える羽を全て雷撃で打ち払いながらソラは教本を閉じる。 「ごめんなさい、なんていったところでどうにもならないけれど。 最期の最期まで私を怨んでくれたって構わないわ。ほら、これで終わりよ?」 嫌だと叫ぶ様に首を振った飾の目の前で優しく笑っていたレイチェルは居ない。 猫の赤い瞳が細められ、絶望を感じた様な少女の前で肩を竦める。 「本当に、運が悪かったですね」 囁かれた言葉に、ひ、と飲みこんだ声。絶対零度の瞳が凍らせる。至近距離に立っていた紫月は杖を放り投げ、優しく牙を見せた。 震える少女が反撃しようとした華奢な腕を受けとめて、彼女の視線の先、その直前でドミノは斧を振り下ろした。 「……おやすみ、雛鳥」 「非日常への代償は随分と高く付いてしまいましたね。 まあ、私としても本意ではないので……最低限弔う位はしますよ」 丸い瞳が茫と倒れた体を見詰める。翼を生やした肢体は投げ出され、空を羨む様に倒れていた。 周辺の片付けなどを行っているドミノは浅く息を吐く。倒れた飾の周辺を片づけながら、溜め息と共に「お疲れさまでした」と吐き出した言葉にレイチェルが曖昧に笑って見せた。 運命の女神が愛してくれないと言うならば、それはただの『不幸』でしかない。 神秘の、坂口飾が羨んで止まない世界ではよくある『不幸』であって、何ら特別なことではない。 「さて、私達の仕事はこれでおしまい……だけれど、彼女が居なくなった影響が出るのはこれから」 「これから?」 ちらりとアイカの向けた視線にソラは曖昧な笑みを浮かべて息を吐く。 親、親戚、友人。神秘を知らぬ『魔法に掛けられた』人々がこれから居なくなった彼女を探す事になるのかもしれない。 「全てをケアすることが出来ない無力さが、恨めしいわね……」 その言葉を聞きながら、倒れた少女を見下ろして羽海は一つ、瞬いた。 「……一つ、名前を覚えた。『坂口飾』。うみには特別な名前だよ」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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