●高貴な自然の導き手 「今回は、危険なE・ビーストへの対応をお願いします」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)のオーダーは、シンプルだ。 モニタが映し出す光景は、どこか、のどかな山の中。しかし、カメラが徐々に引いていくと、山はあちこちで木々が切り倒されて裸になっており、貫く山道を大きなダンプカーなどが引っ切り無しに往来し、巨大な重機ががりがりと崖を崩し。人の手が容赦なく入り込んでいるのが見て取れる。 「このあたりは、長く自然豊かな森として知られていたところだったのですが。近年になっていくつもの計画が持ち上がり、現在、急ピッチで開発が進められているようです」 和泉の言う危険なE・ビーストとは、そうした開発の波によって住処を追いやられたことで、人の前へと姿を現すこととなったものらしい。あるいは、革醒を促したきっかけとて、そもそもはそのような人間の自然への介入にあったのかもしれない。 ともかく。 和泉は画面を切り替え、件の獣を映し出す。 それは、巨大な……ちょっとした象ほどもある、巨大な鹿のようなE・ビーストだった。白と茶の長い毛が、たてがみのように首周りを覆い。頭部から生えた枝のような二本の角には、白い可憐な花がいくつも咲き誇る。獣の周囲には、何やらきらきらと金色に輝く燐粉めいた細かい光が舞い散るように漂っており、それらはどうやら、獣の身体から噴霧されているものらしい。 どこか神々しく、気高い気品のようなものを感じさせる、堂々たる威風を誇る獣だった。 森の中へ開けた空間に静かに佇む獣の周囲には、無数の小動物や鳥などが、まるでかしずくように集っている。リベリスタたちの目には、さながらその姿は、森の中の領地を治める優美な貴族のようにも映った。 和泉は、映像を少しばかり神妙に眺めながらも、 「人の手による開発が、住む場所を奪ってしまったのだとしたら……少し、可愛そうな気もしますけれど。放っておけば、近いうちに人間と接触して、大きな被害が出ることになるでしょう。その前に、皆さんで、対処をお願いします」 最後にそう言って、ブリーフィングを締めくくった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:墨谷幽 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年04月05日(土)23:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●傲慢 『ロストワン』常盤・青(BNE004763)は思考する。 この世界が人間のものだなんて、一体、誰が決めたというのだろう。 生い茂る草木の陰に仲間たちと共に身を伏せながら、青は、眼前の開けた空間を見据える。一面の緑の中、かしずくように集う動物たちを従え、悠々と佇む……その、威容。 巨大な鹿、という表現が、一番近いものと思えた。雄雄しくそびえる角には、白い花弁がぽつぽつと花開き。たてがみのような優美な柔毛が、ふわりと風になびき。あたりには、きらきらと金色の燐粉めいた粒子が舞い。 森の中へと君臨する、その堂々たる姿はまるで……、 「……義憤の伯爵、ってところか」 『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)のつぶやいた言葉に、青は自然と頷く。まるで、緑深き領を預かる貴族のような、気品すら感じさせる荘厳な佇まいを持つ、美しい獣だった。 「草木を従え、動物達にかしずかれる……彼の方が、人より余程、この森には相応しくも見えるね」 「全くだ」 青の私見に、義衛郎は同意しながらも。 「とはいえ……まあ、人間は確かに、度し難いものだけど。被害が出るのも、崩界が加速するのも、オレは見過ごせないんでね」 アクセス・ファンタズムから取り出した愛刀を、すらりと抜き放つ。 確かに、森は、本来ならば彼らのものと言えるかもしれない。しかし、人間の持つ深い業をどれほどに痛感しようとも、リベリスタたちに課せられた任が、その形を変えることは無い。 「人は、何かしら物事をぶっ壊さなきゃ、少したりとも生きてはいけない……何とも、やり辛い話だ」 『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)もまた、巨銃をその手に携えながら。 「だが……これが、人の業の表れ、その一つの形だと言うなら。当然、人の手でカタを付けてやるべきなんだろうね」 考える時間は、ここまでだ。と、皆を促し、移動を開始する。 森の中、不自然に幹を傾けて連なる樹木に囲まれた、美麗なる獣の抱くテリトリー。その前後へ、リベリスタたちは二手に別れ、包囲するように布陣を敷く。 やがて準備が整い、合図を投げ合うと。『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)は茂みを抜け出し、獣の眼前へと躍り出る。 「まるで、森の王だな。いたずらに自然を傷つけたくはないが……」 掲げたスマートフォンから迸る、七色の光。 「だが、被害は防がねばならないな。行くぞ、変身ッ!!」 その身に纏う強化外骨格、右手に輝くブレード、左手の銃口は真っ直ぐに獣を狙い。鋼鉄のヒーローと化した疾風は、E・ビーストと対峙する。 突如現れた人の気配に、動物たちが、弾かれたようにさあっと森へ散っていく中。 獣は、静かな瞳で、リベリスタたちを見据えている。 ●狩り 「……思うところが無いわけじゃない、でも。俺様たちがやるべきことは、決まってる。たどり着くところが、変わらないのなら……」 自らのアイデンティティと、どこか近しいものを感じながらも。『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)は、真っ直ぐに銃口を、獣へと据える。 そう、どれほど理屈をこねくり回そうと。リベリスタとして成さねばならないことは、結局のところ、変わりはしないのだ。ならば。 「細かいことは、抜きだ! いっちょ、俺様たちと、力勝負と行こうぜっ!」 小さな葉と、螺旋に絡む蔦が揺れ。自らの双角を見せ付けるように吼えた木蓮へと、呼応するかのように。 獣は、彼女へと花咲く角を突き出し、猛然と突進を開始する。蹄が地を踏みしめ、緑の絨毯を剥いで土を巻き上げ。獣は、木蓮へと迫る。 (いくら変異していようと、あいつは、鹿だ。そして……俺様も、鹿だ! 鹿同士、ならこいつで受けて立たないと、なっ!) 巨体に見合わぬ、思いのほか鋭い突進に、回避は難しいと悟った木蓮は。角を振り上げ、真正面から受け止める構えと、心意気を見せる。 そして、まさに、接触の瞬間。その時に。 「ッ、何をしている……!」 咄嗟に、『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)の放った呪弾が、獣の角を弾き。わずかに衝突の勢いを殺しつつ、しかし跳ね飛ばされて地を転がった木蓮の元へ、龍治は駆け寄る。 「無事か!? 無茶な真似をするんじゃない……!」 「っつつ……」 龍治の腕の中で、彼女は痛みに顔をしかめながらも、大事は無いようだ。顔に出さないまでも、ほっと胸を撫で下ろす彼に、 「あいつには、俺様も……鹿として挑まなきゃ、って思ってさ」 それに……と言いかけ。木蓮は恋人の顔を見上げつつ、言葉を飲み込む。戦いの最中、仲間たちの目もあり。お前が護ってくれるだろ? などと、惚気ている暇も無いと思ったのだろうか。 龍治はしかし、その視線の訴えるところを感じ取り、 「……全く」 ぽん、と、彼女の頭、角の間にひとつ、手を置いてやると。二人は身を翻し、揃ってどこか古めかしい長銃を構え。再び、目の前の戦いへと意識を傾けていく。 二手に別れたうち、彼らを含む四人は、主に獣の前方へと陣取り、その注意を引きつけつつ立ち回る役を帯びている。 「どっちかが潰れるまで潰し合えばいい、って訳でしょ? 何も考えなくていいって、ラクだよねえ」 『デストロイヤー』双樹 沙羅(BNE004205)は、まさにその中核を担う立ち位置として動いていた。 年頃の割りに幼く見える沙羅だが、その性質には、ある種の偏りを備えていると言える。 即ち、彼は、マッドマーダー。 「ボク、殺し合いってダーイスキ! エリューションだろうが、アザバだろうが、人だろうがカクセイシャだろうが。殺せるのなら、なんでもイイ」 そして、キミも。小柄な身の丈を超えて余りある大鎌へ、彼は全身から迸る闘気を乗せ。獣へと、絶対の破壊力を乗せた一閃を叩き込む。 かっ、と硬い音が、やけに遠く鳴り響き。横様に振り抜かれた斬撃によって、獣の右の角が、花弁を散らしながら中ほどから断ち割られ、ぽとり、地に落ちる。 「……ほら。もっとボクに、殺意を覚えていいんだよ? そうすれば、君の攻撃の鋭さは増して……ボクに痛みを、教えてくれる。良く分からないんだ、痛みって……だから、ぜひともキミが、教えておくれよ?」 常に獣の視界へと身を割り込ませながら、挑発的に動く彼の行動は、ひとえに彼の衝動に基づくものではあったが。図らずもそれは、狙い通りに獣の目を自分へと引き寄せ、仲間から逸らすことにも繋がっていた。 沙羅と入れ替わりに、残像と共に斬り込み、深く身を抉った青の刃に。獣は初めて、苦悶の声らしき鳴き声を上げる。どこか悲しげにも聞こえたその声に、青はちくりと、胸に楔のような感情を感じながらも。 戦いが互いへと伝えるのは、刻み付ける痛み、ただそれだけだ。 ●感傷と共に 獣の後方へ陣取り、背後から攻撃を仕掛ける四人。 巨大なE・ビーストの尻で揺れる短い尾を眺めながら、『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(NE000438)の心境は、複雑だ。 「……うぅ、動物さんが相手だなんて。もふもふしたい衝動に駆られますぅ……」 しんみりとつぶやく彼女自身の尻尾は、落ち着かなげな様子で、ふりふり、そわそわと揺れている。どうやら、動物が大好きであるらしい櫻子に、今回のE・ビースト退治は、少々酷な任務であったようだ。 「確かに、見惚れてしまうほどの見事な獣だなあ。フェイトを得て、オレの乗騎になってくれないかなあ」 などと、半ば本気らしい義衛郎の言葉にも、櫻子は大きく、こくこくと頷く。 癒し手である櫻子は、痛打に弾き飛ばされた前方の木蓮たちへ、詠唱と共にあたたかな息吹をそよがせて、傷の治癒を行う。が、その間も彼女は、獣の揺れる尾やふわふわとしたたてがみから、目を離せない様子。 「あの姿は、卑怯ですぅ……うぅっ。で、でも、敵さんですし……心を鬼にして、頑張ります……っ!」 そう決意し、きり、と顔を引き締めると、ぶわっ、と勢い良く尻尾を広げる櫻子。そんな彼女の傍らで、いつでも庇えるような立ち位置を保ちながら、義衛郎もまた、跳躍しつつ愛刀を横一線に振り抜き、獣に真一文字の傷を刻み付ける。 鋭く走る痛みのためか、ふいに背後を振り返り、睨む獣のつぶらな瞳が、きらと輝きを放つと。 「……くッ……」 「つうっ……!」 喜平と疾風の足元、深緑のカーペットからするりと飛び出した蔓や細い枝が、二人の全身に絡みつき、突き刺さる。聞いていた通り、獣は、この界隈において自然そのものを統べ、操るようだ。 喜平は、蔓草に足を取られながらも、 「力でしか、解決できない事もある……か、やれやれ、世知辛いな。だが、それならば。復讐の獣よ、その怒り、憤り、憎悪……全て、俺たちが受けて立とう」 それが彼らと、相対する自然との、唯一の向き合い方。喜平は巨銃で、獣の喉元へと狙いを定めると。轟音に紛れて放たれた散弾が、食い込み、抉る。 飛び散り、緑を朱に染める鮮血を横目に、絡みついた蔓草を切り裂いて外しながら、疾風は苦々しげにもらす。 「豊かな自然を残しておきたいと思うのは、みな同じ……ただ、難しい部分もまた、少なくはない。それが、悲しいな」 上手く共存できれば良いのだが、と思いつつ、そう上手くはいかないのもまた、疾風は理解している。その上で、自分たち、人間に……リベリスタにとって、出来ることがあるとすれば。 「このE・ビーストとて、人の身勝手な行為、その犠牲には違いないのだろう。ならば、人として、やるべきことは……ひとつ!」 溶けぬ悲しみを、胸に。疾風はブレードを翻すと、自らの名に等しい、駆け抜ける風のような速度で踏み込み。紫電を纏う鋭利な刀身で、舞うような一閃を連ね、切り刻む。 金色の燐粉を巻き上げ、流れ出す血流にあえぐように。獣は首をもたげ、息を吸い込むと。 ひとつ、森中へと轟き渡るような、咆哮をあげた。 ●それでも、彼らは 「……来るぞ!」 「気をつけろっ、皆!」 龍治の研ぎ澄まされた聴力が、遠く響く吼え声の中、周囲の木々の中へと潜むざわめきを聞き分けて察知し、木蓮と共に、仲間たちへと叫ぶ。途端。 文字通りに地を揺らすほどの轟音が、あたりを満たし始め。 「ど、動物さんが、いっぱいなのです……っ!」 櫻子の、どこか悲鳴めいた声をかき消しながら。大きさも種別もばらばらな、無数の動物たちが、樹木を薙ぎ倒しながら現れ……我先にと、戦場へ飛び込んでくる。主である獣の危機に呼応したか、動物たちはリベリスタたちを一目散に目指し、突撃していく。 「ッ、させるか……っ!」 櫻子へと突っ込んでくる、大きな熊の進路へ割り込んだ義衛郎が、彼女を庇い、弾き飛ばされ。 「く……!」 咄嗟に全力で身を固めた疾風へ、怒れる猪たちの激流のような突撃が、次々と襲い。 人の業に対する、これが、自然の返礼か。様々な種を同時に内包する動物たちの群れは、自ら護るべき自然すらも踏み砕きながら、リベリスタたちを蹂躙していく。 「……痛みを癒し……私がその枷を、外しましょう。ごめんなさい、動物さんたち……皆さん、最後を、お願いしますぅ……っ!」 自身を庇い痛撃を受けた義衛郎を中心に、櫻子の巻き起こす、治癒の奇跡が広がり。リベリスタたちの足元に絡みつく蔓や枝を霧のように消し去り、傷を癒していく。 柔らかな息吹に背を押されるように。彼らは、最後の攻勢へと転じていく。 「小細工は止めだ、ここはひとつ、殴り合いと行こうじゃないか」 上空から飛翔する、猛禽の鳥たちの爪や嘴をかいくぐり。E・ビーストの懐へと潜り込んだ喜平の、巨銃の砲口へと収束する白光が、零距離で炸裂し。 水平に並んだ、二丁の銃。 「活路を開くぞ……ッ」 「ああ、俺様に任せろっ!」 龍治の古銃から放たれた弾丸が、猛火を纏う雨となって降り注ぎ、獣の巨体もろともに、周囲の動物たちをも屠り。開いた射線へ、木蓮が狙い済ました一撃を通し。ライフル弾は、一点、獣の眉間へと寸分違わずに撃ち込まれ、ぱあん、と紅の花を咲かせる。 ぐらり。巨体が、よろめき。 しかしなお、ぎらつく険を帯びて、リベリスタたちを射抜く視線を浴びながら。 「……ごめんなさい。それでも、ボクらは……世界の秩序を、護らなければいけないんだ」 諦めと、謝罪と。混ざり合って渦巻く複雑な感傷を、青は、胸に押し込め。残像すら伴うほどの体さばきで、致命の一撃を、幾重にも瞬時に叩き込み。 ……最後に、自らの命を刈り取るのが、己に向けられた、ただ単純な、純粋なる殺意による一撃だったことは。 獣にとっては、むしろ、ある種の救いだったのかもしれない。 「君の首、剥製にしたら面白いかな? それとも、食べたら美味しいかな? ……そんなこと、しないけどね。ボクにとっては、エリューションなんて。殺す対象……ただ、それだけだから」 仮に、言葉が通じたとて。誇り高き森の領主にとっては、人の投げかける哀れみという名の傲慢など、きっと、侮辱に他ならないだろう。 その凛とした気品を、最後まで失わないままに。 無慈悲に優しい一閃が、獣の首を刈り……やがて、ごとり、と地に落ちた。 蜘蛛の子を散らすように、おびただしい数の動物たちが、森の中へと姿を消してから。 リベリスタたちは、獣の亡骸を埋め、丁重に葬ることにした。 少し帰りが遅くなってもいいか……? と、どこかしんみりと問う木蓮へ、龍治はただ静かに頷き、その作業を手伝う。 ただの自己満足だけど……という義衛郎のつぶやきは、きっと、彼らのほとんどを代弁する言葉だったろう。それでも、彼らは、途中で作業を投げ出そうとはしなかった。 踏み荒らされ、抉られた森の主のテリトリーを、仲間たちと共に、可能な限りに整地しながら。疾風は密かに、帰還後、アークへと働きかけてみることを決めていた。この地に、小さくとも保護区のようなものを作れないかと、彼は進言するつもりだった。 「ど、動物さんと戦うのは……何よりも、疲れますですぅ……」 作業を終えると。へたりと座り込み、はふう、とついた櫻子のため息に、沈んだ心を、いくらか和ませてから。 彼らは、森を後にした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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