●よく似た、違う景色 春になると咲く桜の姿に、何かを重ねるようになったのはいつからだろう? ごく最近のような気もするけれど…… ふと何かを思い出したような気分になって、ずっと前にもそんな事をしていたのではないかという既視感にとらわれたりもする。 曖昧ではっきりしない、ふわふわとした気持ち。 心地よくて、穏やかで……でも、なにか……求めているような…… 何とも言えない、不思議な気持ち。 以前は具体的でなかったその気持ちのひとつは、少なくとも今は……ハッキリと形になっている。 枝々で咲き誇る桜の花は、よく似ているけれど……去年とは違うものなのだ。 そういう事なのだ。 それを殊更に感じる自分が情けないとも思う。 それでも、それも私なのだとも思う。 大事なのは、心を乱して自分の為すべき事を果たせない事だ。 それだけは、絶対にしてはならない。 そうでなければ……少しは許されるのではないだろうか? 思い出して、泣いたり落ち込んだりすることも。 これからも……そんな事はたくさんあるのかも知れない。 悲しみと寂しさは蓄積されていくだけかもしれない。 それでも……思い出す事を、拒みたくはない。 そして……さよならを恐れて、親しくなることに怯えたくない。 だから…… ●幾度目かの、春 「静かで、落ち着いた雰囲気の公園があるんです」 この時期だと園内に桜が咲いていて綺麗なんですよ マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)は、そう説明した。 潮騒が微かに聞こえる海近くのその公園は、普段はもちろん桜の咲くこの季節であっても訪れる人は少ないらしい。 「何か特別なものがある訳じゃないですけど、落ち着けて……なんとなく考え事とかしながら散歩したりするんです」 公園内には幾つもの散策路が伸びている。 木々に囲まれた道もあれば、海を見下ろせる高台もあるのだそうだ。 広場にはたくさんの桜が咲き、散策路にも所々さくらが植えられているが……人気のないのも手伝って、静かな美しさを漂わせている。 「にぎやかに楽しくというのも好きですけと、静かに桜を見る……というのも良いかな、と思いまして」 宜しかったら、如何でしょうか? フォーチュナの少女はそう言って、リベリスタ達を見回した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年04月09日(水)23:16 |
||
|
||||
|
||||
|
■メイン参加者 18人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●流れた時 「賑やかにお花見するのが嫌いってわけじゃないんだけどね。静かに桜を眺めたかったの……付き合って下さってありがとう」 「まぁ、俺も騒がしさが得意ってわけでもないしな」 お嬢様のエスコートも吝かじゃあない。 シュスタイナの言葉にそう応えてから。 鷲祐は少女を見守るように、一歩隣を歩く。 (……こんな少女を戦場に駆り出して、情けないもんだ) 「せめて微笑みは、守らないとな」 桜の中を歩む彼女に別の面を見出すような想いを抱きながら、青年は小さな声で呟く。 「綺麗ね。咲き誇る花も、舞い散る花びらも。ずっと見ていたくなるわ」 (最近戦ってばかりだったから、こういう時間はほっとする) そんな事を考えてから…… 「……なんて言うと、不思議がられるかしら」 シュスタイナが問いかけると、鷲祐は軽くかぶりを振った。 「桜は、やっぱり綺麗だな」 次の桜の頃には、何がどうなっているだろう? (またあのビュッフェで、この子と食事も悪くない) 「桜が散れば夏が来て……季節はあっという間に巡るわね」 青年の想いに繋げるように、少女が言葉を紡ぐ。 (何となく司馬さんには淑女然とした所を見せたいのよね) 言いながら彼女も、以前一緒になったビュッフェでの事を思い出した。 随分と子供っぽい振舞いをしていた自分を思い出して……少し気恥ずかしいような気持ちになる。 「早く大人になりたいわ。絶対、素敵な女性になるわよ?」 そう微笑む少女に、微かに目を細めて。 (……きっと、この子は驚くほどの美人になるだろう) その時俺は、可愛らしい彼女の背を見ていないように。 「それじゃ、俺を誘惑できるくらいのレベルを、期待しているぞ」 そう言って青年も、微かに微笑み返す。 その笑顔に、やはり少しの気恥ずかしさを感じて。 (……こんなの口に出す時点でお子様なんでしょうね。きっと) 照れた様子の少女を見守りながら。 「……やれやれ。次の桜までに、もっと強くならなきゃあな」 鷲祐は誰にも聞こえぬように、呟いた。 ●幾度目かの春 「いつの間にやら春になってたんだね」 「そうね。もう春、か……一年は早いね」 アリステアの言葉にフランシスカが応える。 話をしながらアリステアは、傍らを歩くフランシスカの髪へと視線を向けた。 風に揺れる彼女の黒髪は綺麗だった。 周囲に咲く淡い桜色とも不思議と調和が取れている……そんな事を考えつつ暫し見惚れていると、視線に気付いたフランシスカが不思議そうに首を傾げてみせる。 「ん? 何か付いてる?」 笑顔で答えるアリステアに言い返しながら、フランシスカはこの一年を振り返った。 (そういえばこのお子ちゃまとも、この一年で随分深い付き合いになったわね……わたしも変わったものだわ) それが良いのか悪いのか? まだ彼女は結論を出してはいない。 「で、よ。最近怪我ばっかりしてるじゃないのー。お願いだから無茶はダメだよ?」 「そりゃあ戦ってるんだもの、怪我は当然よ。無茶だってやってなんぼよ。まあ、忠告は心に留めておくわ。ありがとう」 「何かあったら泣きながらフランちゃんの恥ずかしい写真をばら撒くんだからね?」 「泣くのは勝手だけど恥ずかしい写真って何よ?」 ちょっと拗ねたように口にしたアリステアに向かって言葉を返すと、フランシスカは彼女の頭に手を置いた。 「え? 恥ずかしい写真? えっと……今から収集して行くつもりだから、よろしくねっ☆」 「そんなもん集めるな」 置いた手をグーにして、少女の頭をぐりぐりし始める。 「……うわぁん! なんで怒るのー!」 涙目で大事なお友達が痛い思いするのは嫌なんだもん、と言うアリステアの頭をぐりぐりし続けながら…… (……ま、この子の言ってること、言いたい事は分かってるんだけどね) 「また来年もこうしてバカできるといいね」 手は緩めないものの、少しだけ微笑んで。 フランシスカは小さく呟いた。 ●過ごした時、重ねた信頼 高台のベンチで、海と桜を肴に飲もう。 「二つ、を同時に楽しめるなんて、あんまりないし、ね」 「静かだな……花見の方はあんなに騒がしかったってのに」 「ま、何時も通り並んで座って……のんびり、やろう」 天乃の言葉に頷いて、快は海の見えるベンチに腰掛ける。 「この間、みたいに変な真似したら、殴る、よ」 「悪かった悪かった。首筋そんなに弱いとは思わなかったんだよ。今日は何もしない」 「それじゃ、乾杯」 そんな言葉が交わされて、静かな花見酒が始まった。 気が向いたら、言葉を交わし、杯を傾ける……そんな、穏やかな時間。 話が弾むというのとは、少し違うけれど。 (ただ並んで静かに飲んでるだけってのも、悪くない) (こんなのも、悪くない……) 互いにそんな風に思える時間。 (会話が少ないと、春の陽気に釣られて少し眠くなっちまうけど) 微かに微睡んだようすの青年を見て。 (多分、こう思えるのは新田の、おかげで……) ま、わざわざ言うほどの事でもない。 (こうして付き合ってるぐらい、だし……でも、もう少しぐらい、は見せてあげる) だから……膝ぐらい、貸してあげよう。 「春だけに……少し眠くなる、ね」 そう口にして、天乃は自分の膝を軽く叩いた。 「ん? どうした? 眠いなら肩くらい貸す――うおっ!?」 次の瞬間、快の首を一気に極めて引きずり倒し……頭を自分の膝上に乗せる。 「って、ええ? 俺が膝枕される側かよ! 普通逆だろ!」 そう言って抗議したものの、酒がまわってきたせいか、反論や抵抗が面倒になって。 「――わーったよ。少し借りるわ」 それだけ言って目を閉じた快の口から零れた言葉をなぞるように、天乃も唇を動かした。 春眠、暁を覚えず、かな。 ●桜の下で 「ルヴィちゃんとお花見デート、嬉しいですにゃー」 散策路のベンチに並んで座った櫻子が、ルヴィアの腕に擦り付きながらしっぽを振る。 (ふふっ、ルヴィちゃんと一緒にお花見なのですぅ) 「のんびりゆっくり桜花を見れるといいですにゃ~♪」 そういって微笑む櫻子に応えてから、ルヴィアは周囲の枝々に咲く花を眺めた。 「一年に一回の花見かあ」 (こういうのは日本だと「風情がある」っていうんだっけ?) 「まーオレは自分の好きなように楽しむだけだけどね」 咲き誇る花々の中にはもう、一足先に花びらを散らし始めている木々もある。 「どうせなら万年桜ぐらい誰か作ればいいのになー」 (ん、それはそれでありがたみも薄れるのか?) そんな事を考えながら、ルヴィアは櫻子の頭をうりうりと只管撫でながら話しかけた。 「オレを誘うなんて珍しいこともあったもんだ」 その言葉に、櫻子は不思議そうな表情で首をかしげる。 「櫻子は桜の花が大好きですけれど、ルヴィちゃんは好きですにゃ?」 「外国じゃ桜は珍しいからな、でも綺麗だとは思うよ」 そう答えると、櫻子は嬉しそうに持ってきたバスケットの中からお手製桜餅を入れた御重を取り出した。 にっこり微笑んで桜餅を差し出す。 「綺麗な桜の花に美味しい甘味、女の子の特権ですね♪」 「どー見ても作りすぎじゃねえのソレ、まあ貰えんなら食う主義だけどさ」 「あ、でもルヴィちゃんは甘味よりお酒の方が良かったかしら?」 「花より団子、団子より酒、なんつってな。種類はともかく飲み食い出来りゃ十二分よ」 ちょっと考えこんだ櫻子に向かってそう言いながら、ルヴィアは差し出された桜餅をほお張った。 ●歩んできた道、振り返って 道すがら広場や散策路の桜を楽しみつつ、猛とリセリアは海の見える高台へと歩を進めた。 そして、自分たちの歩んできた道程を振りかえる。 「ほぉ、上から見る桜ってのも中々良いもんだなぁ……」 「広場に集中してるって本当ですね。桜で一杯……綺麗」 「大抵は下から見上げる様な形が多かったからな、少し新鮮な気がする」 「こうやって離れた所からそれも高い所からの眺めも格別ですね」 猛の言葉に頷きながらリセリアが言葉を返して……ふたりは暫しその風景を眺めてから、一緒に海の方へと視線を向けた。 「こっちも良い眺めですね」 リセリアのそんな言葉に、猛も頷きながら言葉を返す。 気軽な、他愛のない話をしばし続けてから……先日のことを思い出して。 「そういえば、故郷に何度か足を運ぶ様な機会も会ったみたいだが。親父さん達には会ったのか?」 猛はリセリアに問いかけた。 「――いえ。連絡も取ってませんでしたし、あくまで任務でしたから」 同じように先日のことなどを思い返しながら、リセリアが答える。 先日……ドイツ内の案件について傭兵として参加する機会も事もあったけれど。 (……養父さん達に会う時は、ゆっくりしたいしね) アークは海外にも活動を広げてはいるが、任務となれば基本的に任務外の時間は短い。 「……ふむ、ンじゃ近い内に挨拶に行くとすっか! その時は土産は何が良いかとかアドバイス頼むぜ、リセリア」 笑顔でそう口にする猛に対して。 「え? えっと……」 (それは、なんというか……) まあ……いいのかな? 動揺した後で、笑顔に苦笑を返しつつ。 「……そうですね、その内。お土産は……まあ、考えてみます」 リセリアは少し考えて、猛にそう言葉を返した。 ●紡いで、繋げる想い (……わたし、このひとに告白されたんだよ、ね) 「……」 ゆっくりと散策路を歩きながら、旭は青年をちらりと見上げる。 それだけで何故か、顔の周りが熱くなった。 (ふぁあ、はずかしくて目あわせらんな……っ……どうしよ) 話をしようと思っても、まっすぐに見る事すらできないのだ。 一方で。 (この間の事、旭も気にしてるか……我ながら強引だったしなぁ) 共に歩くランディの方も、話しかける機を掴めずに困っていた。 (……参ったな、兎に角一声かけねぇと) (……何か、何か話さなきゃ) そう思って。 「あー、旭……?」 「あ、あの、えっと……!」 ほとんど同時に2人は声を発する。 「こ、こないだ、の。こと……あれから、考えて。すごく、すごく考えて」 一瞬迷いはしたものの、旭はそのまま言葉を発した。 「そしたら、何からんでぃさんのことで頭、いっぱいで」 ここで止めてしまったら、恥ずかしくて口にできなくなってしまうかも知れない。 そんな風に思えたのだ。 「だから、あの……っ」 それでも、がんばっても……顔は上げられず、言葉は小さくなってゆく。 (ううう……わたしのこんじょなし><) それでも、何とか伝えたくて……旭は精一杯、彼の服の袖を……ぎゅっ、と握りしめた。 「よろしくおねがい、します……」 息が詰まりそうなほどの想いに胸を塞がれながらも、かろうじて一言を絞り出す。 その姿に、言葉と想いに、嬉しさと愛おしさがこみあげてきて来て…… 「……ありがとうな」 ランディは思わず旭を抱きしめた。 「宜しく頼む。これからも互いを知りあって一緒に居られれば、嬉しい」 自分よりずっと小さな、けれど勇敢な彼女を……改めて、抱きしめる。 掌が、腕が、やさしくて、あたたかくて…… 「どおしよ、わたし しんじゃうかも……」 旭も握っていた手に力をこめた。 「正直、俺もいっぱいいっぱいだ……けど、好きだぞ」 そっと髪にキスをすると、ランディは彼女が落ち着くように……やさしく頭を撫で続けた。 ずっと一緒に居たいと、願いを込めて。 ●面影、浮かぶもの 「この季節になると桜が恋しくなるな」 悠月と共に散策路を歩きながら、拓真は呟いた。 こうして、彼女と共に桜を眺めるのは幾度目になるか? 思えば数年しか経っていないというのに、もう随分と長い間共に居る様な錯覚を覚えるのも……何時もの事。 「この間昔の夢を見たよ。俺が小さくて、祖父が生きていた頃の夢」 「夢……ですか?」 拓真の言葉に小首を傾げながら、悠月は問い返した。 (拓真さんがまだ子供で、拓真さんの御祖父様が御存命の頃……) 「ナイトメアダウンよりも昔、14年以上前ですか」 「何時もの中庭で一人、女の子がいた」 (俺は祖父の身体に隠れながら、祖父の話を聞いていた) 何かを確認するように拓真が口にする。 彼の言葉を繰り返した悠月の内に、その光景が浮かび上がった。 何時もの中庭、義心館の中庭。 (私を連想する女の子と、御祖父様の身体に隠れてる拓真さん……) 「――?」 想像したというだけではなく……浮かび上がる何か、手繰る記憶。 (……昔、父に連れられて訪れた、知り合いの方の御屋敷) 男の子がその方の後ろに隠れて出てこなかったという事があった……ような? (あのお屋敷は、誰のだったか――) 「その女の子の事はよく覚えていない」 その言葉で、悠月は我に返った。 覚えてはいない。 拓真は心の内で繰り返す。 覚えていない。けれど、何故だか…… 「──ふと、君の事を思い出したよ、悠月」 呟いて。 「悪くない夢だった。君とこうして出会ったのは……」 案外、運命だったのかも知れない。 そんな事を考えながら……拓真は悠月を抱き寄せる。 「運命……ですか?」 微かに聞こえた彼の独白が、悠月の心の内に響いた。 好きな言葉ではない。けれど――でも。 「そうだったら、悪くない……ですね」 その言葉に笑みを返して、拓真は舞い散る桜へと視線を向けた。 ●想いと、願い 「昼もいいが夜もいいな」 「ああ……そうだな」 瞳は動かさぬまま、虎鐡は雷音の言葉に答えた。 夜桜が幽かな光に混じって落ちるさまは、見ていて飽きない。 「夜の黒と桜の薄桃が綺麗だ」 同じようにその光景を眺めながら、雷音は言葉を紡いだ。 虎鐡を呼び出したことに特に理由はない。 ただ……一緒に過ごす時間のひとつひとつが、たからものなのだ。 何もしなくても、桜道を歩くだけでも。 「そんなことが楽しくて、嬉しい……なんていうのは変かな?」 「……いや? お前がそう思うのであればそれは変な事じゃねぇよ」 壮年がそう答えれば、雷音は表情を和らげた。 少女の顔を見ながら、虎鐡は思う。 自分が傍に居る事で雷音が幸せになるのであれば……ずっと寄り添っていよう、と。 「虎鐵は夜の桜と昼の桜どちらが好きなんだろうか?」 「俺は……夜桜だな。昼もいいが夜は夜で違う味がある」 もっとも、と……虎鐡は心の内で付け加えた。 (俺はお前が行く景色景色ひとつひとつが新鮮に見えるんだがな) 思いながら、眩しそうに少女を見る。 「そうか、では来年も一緒に桜を見に行こう」 そう言って雷音は笑顔を向けた。 約束をすることでこの危なげな父は自らの命を大切にしてくれるはずだから。 (ボクを大切にするのと同じ位に) だから…… 「そう……だな……またこれるといいな一緒に」 少し口籠るようにしながらも確りと、虎鐡も言葉を紡ぐ。 こんな自分を……ここまで大切に思ってくれる。 (俺はきっと幸せなんだろう) 「この幸せを俺は必ず守ってみせる」 だから…… 「……雷音もこの桜みてぇに消えるんじゃねぇぞ?」 呟くように、囁くように……祈るようにして。 虎鐡は雷音へと、言葉を紡いだ。 ●変わるもの、変わらぬもの ――桜 (あいつが好きだった花なんだ) 「なんだかんだ言ってさ、忘れれないよ」 夏栖斗は誰かに呼びかけるように、口にした。 (好きだった、なんて過去形になんてなる日が来るのかな?) 「簡単に過去になんかなるわけないよな」 ずっと好きだよ。 「ずっと好きでいて良いと思う」 忘れる必要なんてないよ。 悠里は呟いた夏栖斗の、その背中に呼びかけた。 「過去に出来れば、楽になれると思うけど、それをしたくないならさ」 「なんだよ、無理してんのバレバレに見える? 気づかれないって思ったんだけどな」 言葉は少し冗談めかされてはいるものの……青年は、振り返りはしなかった。 だから、悠里もそれ以上は進まない。 それでも、言葉を紡ぐことはできる。 想いを踏み出すことはできる。 「ねぇ夏栖斗? こじりさんが死んでから、君は泣いた?」 悠里は彼に問いかけた。 「明るく振る舞ってるけど、ずっと痛そうな、泣きそうな顔をしてるように僕には見えるよ」 「泣ける暇なんてなかったよ」 (っていうより、作りたくなかったのかもしれない) かも知れないではなくて、そうなのだ。 言葉にしてみると、痛いほどそれを実感できる。 (忙しくして、逃げてるのかな?) 「なんだかんだでまだ目をそらしてるのかもしれない」 そう言って、夏栖斗は微かに目線を上げた。 ただ、桜を見上げたくなっただけだ。 何かが零れそうになった訳では……ない。 「もっとさ、一緒に桜を見たかった」 (もっとさ、いい彼氏でいたかった) 「でも、もう……叶わないんだ」 無茶して無理したら、あいつんところに行けるのかな? そんな風に思うこともある。 「結局僕は弱いんだ」 「いいじゃない、弱くても」 青年はその背に、言葉を、想いを、紡ぎ続けた。 「好きな人が死んだのに、悲しむ事も出来ない強さなんていらないよ。良いんだよ」 泣いたって良いのだ。 弱音を吐いたって良いんだ。 「我慢なんて、しなくていいんだ」 (僕に、僕達に夏栖斗を立ち直らせる事は出来ないんだ) 「僕に出来るのは立ち上がろうとするなら手を引くぐらいだよ」 それと……と、悠里は付け加えた。 「泣いてるところを見ないふりぐらいは出来るよ」 その言葉に微かに首を動かしてから。 「僕は、強くなりたいんだ」 夏栖斗は小さく……呟いた。 悠里に背を向けたまま。 なみだは、見せずに。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|