●孤独の理由 夏休みに入ってすぐのある日。 某私立高校1年の山根まどか(やまね・-)はその日、初めて家に連絡なしに、門限の19時を大きく超えた22時過ぎに帰りついた。 「何やってたのよ! こんな時間まで」 「だって友達と練習……」 「だってじゃないでしょ。何のために携帯を持たせてるの、電源まで切ってるなんて!」 「えっ? そんな訳ないよ。メール……」 「メールなんて知らないわよ!」 「嘘っ! だってお店から19時に……」 怒り心頭の母親に反論しつつ、カバンから携帯を取り出し履歴を確かめる、まどか。 (……あっ!!) 画面には『送信できませんでした』の文字。帰り道に1回でも確かめていれば……。終バスに乗るために必死で、すっかり忘れていた。 「…………」 「ほら! ルールを破った以上、オーディションは諦めなさい。約束よね!?」 「……でも、皆まだ練習してたのを私だけ先に……」 「当たり前でしょ。でもじゃないわ! 勉強を疎かにしない、家のルールを守る――その約束で許可したんだから。それが守れなかった以上、今後はお友達との練習も、オーディション参加もすべて禁止! いいわね!!」 「何よ! 私の話も聞いてくれたって良いじゃない。お母さんのバカ!!」 取りつく島もない母の態度に、思わず逆ギレ。結局、玄関から1歩も上がることなく、まどかは家を出て行った。 ●パーソナルスペース 「もう嫌っ! みんな、みんな……私に近付かないで! あなたの為とか言って何でも押し付けて……もう誰も私の傍に寄らないで! 干渉しないでよ!!」 バンッ! 呼びかけに応じて集まったリベリスタの1人を、両手で突き飛ばす『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)。 「いきなり何をっ?」 「あっ、失礼しました。今回の件をどうやって説明しようかと考えていたらつい……」 「はぁ?」 なんとも微妙な視線とともに疑問符を返す面々。 が、和泉はそんな視線をものともせず、本来の調子を取り戻した。 「AKC49――明石市に新たに生まれようとしているアイドルグループのことですが、その一次審査を通過した高校生グループの1人、山根まどかさんが、あるアーティファクトを手にしたことが判明。皆さんに速やかな回収を要請します」 「アーティファクト?」 「はい。彼女の持つソレは通称『絶界』。効果はパーソナルスペースの強化」 「パーソナルスペース?」 「他人に近付かれると不快に感じる空間(距離)のことです。が、このアーティファクトの場合、一定の範囲内に居る者すべてを拒絶し、衝撃波で排除を図ります」 「見境なしか、そいつは凶悪だな……」 「彼女は途中、幾人かに負傷を負わせつつ、明石公園のベンチに到達。夜のせいか、あるいは結界のような力が働いているのか、周辺には誰もいない模様。ただ、絶界の効果範囲は彼女の精神状態に影響されながら、徐々に広がっているものと考えられます」 つまりこのまま放置すれば、たとえ彼女が動かなくても被害が拡大するということ。 「だが、彼女とていつまでも独りでは居られないはず……」 「それが、どうやら絶界の影響を受けない何かが彼女を支えていると思われます。人を超越した何かが……。あるいはアーティファクト『絶界』を彼女に提供したのもソレかも知れません」 今は付近にいないようだが、現れないとは限らない。無論、謎の相手ゆえ交戦する必要性はないが、場合によっては臨機応変な対応が求められます、と付け加えた。 「彼女自らがアーティファクトを放棄するよう仕向けるのが望ましいですが、難しい場合、更なる被害を食い止める事が優先になります。説明は不要かと思いますが、決断の覚悟だけはお願いします」 和泉は、苦い表情を出さないように、そして初めに考えていた説明の仕方など忘れ去ったかのように、努めて事務的に告げたのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:斉藤七海 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月13日(土)23:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●絶界 明石公園――明石城跡に作られた大きな公園。敷地内には各種スポーツ施設や公立の図書館があり、駅からも近く、様々な意味で環境に恵まれていると言えよう。 そんな公園を訪れたのは8人のリベリスタ。彼らが救うのは、1人の少女の可能性か、それとも多くの人々の生命か? 「ふんっ」 この話を聞いた途端、冷めた表情のままそっぽを向いたのは、『機鋼剣士』神嗚・九狼(BNE002667)。 「現在は過去の積み重ねであり、未来は過去が作りだす。その意味において、その娘の行動が幸福な未来を引き寄せる確率は低い。言うならば、今回は諦めて機会を待てって所だが」 機会を待つ――確かにそれが一番賢い選択と言えよう。 しかし『イージスの盾』ラインハルト・フォン・クリストフ(BNE001635)には、それを素直に受け入れることなど出来なかった。 「皆がそんなに冷静でいられるのなら、誰も夢なんか見ないのであります!」 九狼を見上げながら面と向かって言葉を返す。そして、 「家族との喧嘩なんて誰にでもある事。いずれ真剣に話し合えば、気持ちは伝わると思うのであります。けれど、其処に付け込んだ人が居る。家族の対話を妨げた人が居る……それが私は許せないのであります」 と語った。 そんな彼女の昂ぶりを見て、『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)が2人の間に割って入ると、おもむろにぐるっと周囲を一通り見回しながら言葉を紡いだ。 「明石、いい街だよね。風光明媚な子午線の町、ピチピチ跳ねる新鮮な魚が店先に並んで、玉子焼きも美味しくて……」 何を言ってるのか分からない、と2人が快を見やる。 「つまりさ……そんな明石発のAKCには、真摯な人が選ばれて欲しいなってこと。一生懸命なまどかさんみたいにね。その気持ちに嘘はないさ。身分は今から偽るけど、ね」 「どうでも……」 「そうだよね、わたしも同じ。だから彼女が進んで一人になろうとするなんて、ほっとけないよ」 九狼の投げやりな声音に、『いつも元気な』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)が明るい声を被せた。 失った記憶の彼方で囁きかける、内なる声を胸に抱きながら。 (一人は凄く寂しいよね、本当に……) 「そうだな。放っちゃおけない……」 ウェスティアの台詞を聞いて、『ナイトビジョン』秋月・瞳(BNE001876)が思わず呟いた。 (今、高校一年生ということは、震災があった頃に出来た子か……それは親も過保護になるなぁ) 「心配してくれる親がいるというのは有り難い事なんだが、この年頃の子には解らないか……まぁ私もそうだったしな」 それはもう、一昔前の事だったけれど。 「よしっ! それじゃ、将来有望な少女の命運は任せるぜ」 『仁狼』武蔵・吾郎(BNE002461)が、変わらず豪快な調子で告げる。俺たちは余計なもんが介入しないよう警戒しとくぜ、と。 「よろしくお願いします。まどかさんを救ってあげてください」 『シトラス・ヴァンピール』日野宮 ななせ(BNE001084)も、ぺこりと頭を下げた。 「それにしても……いったい、どんな輩がこんな真似をしたのでしょうね」 『朧蛇』アンリエッタ・アン・アナン(BNE001934)が、疑問を呈した。 (何の得が? それとも別の狙い?) そんな思いは、皆も大概似たような気持ちで。敵になるかも知れない者の狙いだ。気になるのも当然だろう。 そんな訳で結局、4人は周辺の警戒へと向かう。 ……吾郎は皆との別れ際、不意に真剣な表情を見せる。 「家族と仲直りして、夢に向かって進めるようになると良いな」 「それじゃ、行こうか」 快が足下の空き缶を絶妙な感触で蹴り出すと、 「ごめんね、お邪魔するね……」 と、ウェスティアが目に見えぬ境界線を踏み越える。 続く快と瞳、そしてラインハルト。 が、彼女らが一歩を踏み出したその瞬間、激しい衝撃が襲いかかる。それは……例えるなら、全身にくまなく叩きつけられる槌のよう。 「痛っ……」 (想像以上かも知れないな) 図らずも微かに表情を歪めたウェスティア。そして快も、想像以上の拒絶に対し、苦痛を見せない努力を強いられる。 一方、ラインハルトは盾を構えて対抗しようと試みるが、不可視の衝撃は防ぎ切れるものじゃない。 (やはり大して役に立たないでありますか……) 結局、すぐそこと思っていたまどかの元に近付くまでに、4人はそれぞれ相応の代償を支払う羽目に。 癒すは瞳の唇から紡がれし天使の歌。その旋律に、ウェスティアも途中から歌声を重ねる。 まどかは顔を上げてもくれないけれど、痛みを紛らわす為には、それ位しか手がなかったから。 「ごめん、ちょっと自棄になってたからつい……怪我はない?」 彼女の近くで、缶を拾いながら気さくに声を掛ける快。 そこで初めて顔を上げたまどかが、どうして……と言いたげな表情を浮かべるも、それには気付かぬ素振りで話を続ける。 「あれ? ところで君、よく友達とダンスの練習とかしてない?」 「えっ!?」 今度は明らかに驚いた様子のまどか。 「もしかして……オーディション?」 「実は……」 僅かに表情が和らぎ、AKC49のことを話す。 「えっ! それじゃ山根まどかさんと言うのは貴女なのですか!」 ラインハルトが大仰に驚く。が、それ以上に驚いたのはまどか。 「なんで名前……」 「もちろんAKCの事で知ったであります。山根さんは一次審査、通られたんで有りますね?」 「まさか、あなたも?」 「いえ、駄目でありました。一次審査ではねられてしまって……」 「そう……」 少しだけ気まずい沈黙。そこで、見兼ねたように、瞳が口を挟んだ。 「知り合いか? なら丁度良い。少し話を聞かせて貰えるかな?」 山陽明石駅の鯛焼き屋で仕入れた各種鯛焼きを差し出す。 今も全身を襲う衝撃に耐え、震える腕を無理やり抑え込みながら。 「私はカスタードが好きだが、君は何がいい?」 そう言ってまどかにも強引に取らせ、話ができるシチュエーションを作り出す。 「それは良い考えであります。私も少しお話をさせて頂きたいのでありますー!」 「でも、いいの? 明日も友達と練習があるんじゃない? AKCは競争率高いって話だし……。早く帰らないと」 !! 同調したラインハルトに続き、ウェスティアが帰るという言葉を切り出した途端、まどかの感情の針が激しく揺れた。その瞬間、一同の全身に今までの倍近い衝撃が叩きつけられる。 「いいんです!!」 消え入りそうな声で俯くまどか。 「……帰って!! もう……私に構わないで……」 彼女の心には想像以上に強固な鍵がかけられていた。 ●心の扉 「諦めてしまって、良いのでありますか」 寂しげに、それでいて訴えかけるように尋ねるラインハルト。 「本当に?」 「……いいの。私なんて、どうせ……」 ネガティブの極地にあるまどか。その態度に、ウェスティアも思わず声を荒げる。 「もう、皆に会えなくなっちゃうんだよ!」 友達と一緒に、これまでずっと頑張って来たんだよね……と。 「私は1人だったから、そういう仲間が居るのは羨ましいよ。それなのに、こんな所で殻に閉じこもってていいの? そんな調子だと友達も絶対心配すると思うし、まどかさんが歩みを止めちゃった事を心配して、皆も一緒にそこで足を止めちゃうよ」 もし私に仲間が居たら、きっとそうしているから。 「そんなこと……」 ある筈ない、とでも言いたかったのだろうか。しかし、まどかから明確な否定の言葉は出てこない。 「先ほど、一次審査で落ちた話はしましたよね? 正直、私は悔しかったでありますよ。山根さんは、どうでありますか? 嬉しかったんじゃないんですか!?」 それは勿論……と頷くまどか。 「その喜びは、山根さんが友達と一緒に努力を積み上げて、掴んだチャンスであります。それなのに、逃げていて良いのでありますか」 「そうだよ。今は一人になれたと思ってるのかもしれないけど……全然そんな事はないんだよ。一緒に頑張ってきた仲間は皆、まどかさんを心配する事で繋がってるんだから」 ウェスティアも更に畳み掛ける。 「もう一度……もう一度、話し合わないで良いのでありますか!?」 まどかの心が揺れているのだろう。襲う衝撃がその力を弱めた。 これまで様子を観察していた瞳が、まどかの持つアーティファクトを特定する。『絶界』、その正体は彼女の持つブレスレット。 ――自身の尾に喰らいつき、自分自身で完結する大きな蛇の姿が描かれていた。 その事実を確かめてから、瞳も話に加わる。 「自分もかつて、親とケンカしたよ。だが、その直後に災害で死別してしまったんだ。確かに夢を追うのは過酷だ。辛いこともあるだろう。だけど……それでも夢を追うならばそんな物に頼ってはいけない」 そこに快も加わる。 「俺も、そう思うよ。アイドルになる夢は大事だし、俺も、一生懸命それを目指す君を応援するよ。俺自身、売れないながらも役者を目指して過ごしてるからさ」 自身の境遇をさりげなく織り交ぜ、彼女の共感を呼ぶ。 「でも……もし、そんな中で夢が叶えば、その後のアイドルの忙しい毎日を支えるのは家族なんだ。つまり、これは家族と叶える夢なんだよ」 強く言い切る。そして再びウェスティア。 「だから、こんな無意味な事止めて、もう一度頑張ろうよ」 これまでの頑張りを、無かった事にしちゃ駄目だよ……と。 「逃げても諦められないから――夢なんじゃ、ないんですかっ!」 ラインハルトが全力の気持ちをぶつけて見せる。 「……でも、でも……今さらどんな顔で……」 「そうだね。家族と喧嘩した時、一度でも『ごめんなさい』って言った?」 大丈夫。家に帰ってちゃんと謝って、それからゆっくり話し合えば、きっと判ってくれるよと諭す快。 「俺と同じ失敗はしないでね。大丈夫、君は独りじゃない。家族も友達も、それに俺たちもいる!!」 ●幸福の配達人 そんなリベリスタたちの真摯な言葉を受け、まどかはようやく、手首に着けていたブレスレットに手をかける。 が、その時。 「……余計な真似は止めて貰いたいな」 突然、リベリスタたちの脳裡に『声』が響き渡った。 (何処から喋っていやがる?) あくまで身を潜めながら、吾郎が周囲をくまなく窺う。 ななせも自らの超直観を信じ、わずかな灯りに照らされた闇の奥を真剣な面持ちで見つめていた。 「……いいのかい、まどか? それを渡しちゃったら、また元通り。夢は潰され、友達だと思ってた娘たちにも嫌われるよ」 何処か彼方から、まどかに語りかける声が全員の脳裡に届く。が、漏れ聞こえているというよりは、わざと知らしめているような……。 その間も『声』の主を探す面々。これだけタイムリーに話しかけた 相手だ。どこか手の届く範囲にいるに違いないと信じて。 ・ ・ ・ 「あっ、あれは!?」 樹上から窺うアンリエッタの視界の端に、まどか達の方へ悠然と歩みを勧める者があった。 (結界を張ってあるのに……。ってことは明確な目的を持って歩いてる!?) それだけで十分、疑うに事足りていた。 すぐに皆に連絡を入れ、逡巡する間もなく飛び降りると、着地と同時に対象に向かって走り出した。 「そこのお方、少しお待ちください。私はアンリエッタと申します。失礼ですが、あなたのお名前は?」 駆け寄ると同時に声を掛ける。 その相手は、八月だというのに黒のカシミアっぽいコート。鍔広の帽子に真っ黒いレンズのサングラス、両手はポケットの中という風体の男。見える素肌はもはや、指先と口元だけ。 「ん、俺に声を掛けてるのかな? まさか逆ナンとか!?」 「悪ふざけは結構。あなたは、この先に何か御用ですか?」 「あ、これは失礼。君もあの娘の周りにいるのと同類? 俺は彼女を不幸な現実から守ってあげたくてね」 「あのアーティファクトは、あなたが渡した物なのですか? それに、なぜ彼女に? あなたの目的は?」 矢継ぎ早に問いを投げかけるアンリエッタ。 「言ったろ? 不幸な現実から守ってあげたい、って。現実に良いことがないなら、自分を理解してくれる夢想世界の方が何倍もマシじゃないかい」 「そんな事ありません。まどかさんの夢は、いつか私も辿る夢。逃げたら絶対に叶わない。けれど、諦めなければいつか、いつかきっと叶うんですから!」 ななせが、走り込んで来るや男の前へ。 「邪魔? そんなことしないよ。選ぶのはあくまで彼女自身だもの」 平然と語る男。その後方に、吾郎が姿を見せた。 「なら、何だ。お前のは純然たる好意ってか?」 いきなり話しかけられたにも関わらず、落ち着いて答える謎の男。 「勿論♪」 「なら、そいつは余計な世話だな。決して彼女のためにはならねぇ。だが逆に悪意だって言うんなら、それで他人の気持ちを利用するってんなら、もっと許し難いがな……」 「もし……もし万が一、俺が許し難い相手なら……どうする?」 「さぁな。だがもちろん、必要な時に躊躇うような阿呆じゃねぇが、な……」 そこはかとなく剣呑な雰囲気を醸し出す吾郎。仕掛けずとは言え、誰かを守るためなら命すら惜しむ気はなかった。 「やっぱり……渡せない」 けれど、まどかは男の台詞に惑わされ、再びブレスレットから手を離す。 そんな彼女の気持ちを再び呼び戻そうと、瞳やウエスティアらが声を掛けようとしたその時。 九狼が姿を見せた。 「人生は選択の連続だ。たとえ他者に刷り込まれた思想によって作られた選択肢でも、最後に決定するのは自分の意思で、結果を享受し、血肉とするのも自分自身だ。今が辛くて、今後手にする幸福や不幸を反故にしてでも逃げる選択に価値が有ると言うのなら……それが感情や状況に流されたモノでないと言い切れるのなら、迷うことはない。好きにしろ」 それだけを一方的に告げ、ピタッと口を噤む九狼。 「「えっ!?」」 それは、まどかのみならず他のリベリスタたちですら一瞬驚いた。その九狼の態度の裏に、アーク所属のリベリスタとしての当然の措置を取る覚悟が見えてしまったから。 「いいの? ここで閉じこもったら、もう皆に会えなくなっちゃうよ! そんな無意味な事は止めて、もう一度頑張ろうよ。これまでの頑張りを無かった事にしちゃ駄目だよ!!」 ウェスティアが再び訴えかける。 まどかは、そんな彼らの言葉をゆっくりと反芻するように考え込んでいたが、やがて静かに、左手首のブレスレットを外す。 「………」 「それがいい。こんなものに頼るな……」 瞳が『絶界』を取り上げる。その選択はアクセスファンタズムから、皆に伝わった。 「選ぶのは彼女自身……たしか、そう言いましたよね」 ななせは、どこか本能的な恐怖を感じつつも謎の男に詰め寄る。 「勿論さ。俺は正直なのが取り柄でね。ここは素直に退こうじゃないか。さよなら」 最後の一言に力を込めて。その一言が、強く胸の奥に刻み込まれるように。 「まだ、あなたの名を聞いていませんが……」 立ち去ろうとする男に、アンリエッタが再び問いかける。 「名前? 好きに呼ぶといい。どうせ、見えちゃいまい」 男は、意味不明なことを告げると、くっくっ……という忍び笑いと共に立ち去っていった。 ●エピローグ 「まどかさんっ」 絶界を手放したまどかの元に、リベリスタたちが集まった。 手放したせいかは分からないが、彼女は心なし表情に明るさが戻ったようで。その様子を確かめつつ、ななせが声を掛ける。 すぐ目の前にまで近付いてみても、過剰な反応は見せない。少なくとも同じくらいの同性に対する物としては『普通』と言って問題はないだろう。 「……大丈夫そうね。ところで……」 先ほどの男の事を尋ねるアンリエッタ。 「正直なところ、よく分からないんです。そのブレスレットをくれてからは、時々会いに……。名前? 『幸福の配達人』って。私は配達人さんと呼んでいました」 「なんて図々しい……いずれまた会うのでしょうけど」 ささやかな怒りが沸き上がる。が、それを晴らすのは次の機会に。 「わたし、日野宮ななせです。7月は書類選考で落ちちゃいましたけど、わたしもAKCのオーディション、受けるつもりなのです、次は会場でお会いしましょうですねっ!」 「そう。それじゃあ、仲間……じゃなかった、同じ道を目指す以上はライバル、かな? なんて私は行けるかどうか分からないけど……」 「大丈夫ですよ、きっと!」 それじゃ次に会った時にはよろしくね――なんて、まどかとななせは2人で同時に頭を下げたりして笑いあう。 そんな2人を微笑ましく見ていた快も、 「良かった。残念ながら俺はオーディションを受けられないけどさ……まどかさん、良ければ出会った記念に受け取って貰えないかな? さっきのブレスレットと交換、ってことで」 と、自らが付けていたペンダントを外す。 オーソドックスなシルバーのそれは、芸能界を目指すべくして決めた物。故にペンダントトップのデザインは勿論『☆(スター)』。 「いつか、銀幕の世界での再会を祈って」 あと数時間もすればすぐに空も白んでくる。 ――明けない夜がないように、夢も必ず叶うと信じて。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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