●サチカとゆかいななかまたち 柔らかく生い茂る草原の上を、サチカは満面の笑みを浮かべながら、元気いっぱいに駆けていきます。 「あはははは! 待ってよ~、うさぎさん、シマリスさん! きつねさんに、たぬきさんに、わんちゃん、こねこさんも! あはははは!」 今日は、ちっちゃな動物たちと追いかけっこ。ふわふわ、もこもこ、みんなサチカの大好きな、おともだちです。 青いペンキで塗ったみたいな広い広い空に、わたあめみたいな美味しそうな白い雲。太陽さんはいつでもきらきら、サチカたちをぽかぽかと照らしています。 ぴこぴこ、かちかち。おともだちの鳥さんが、よたよたと飛びながらサチカを追いかけて、その黒くてまんまるい頭には、 『ほらほら、サチカちゃん そんなにはしったら、ころんじゃうよ~('□';)』 ネオンサインのように、ぴかぴか、文字が瞬いては現れます。 サチカはこれが大好きで、 「あはは、鳥さんは、しんぱいしょうだなぁ。サチカ、ころんだりしないもん!」 と、にこにこ顔。 「ほらあ、鳥さんも、みんなといっしょにあそぼうよー!」 『うん、いいよー きょうは、なにしてあそぼっか(^▽^)』 「えへへ。みんなといっしょなら、なんでもいいよ! なんでもたのしいよ!」 きれいな青空、気持ちのいいおひさま。おいしいお菓子。たくさんのおともだち。 ここには、そんなサチカの大好きで大切なものが、何でも揃っているのです。 サチカは思います。 昨日はみんなで、楽しくお茶会をしたよ。今日は、みんなと追いかけっこ! 明日は、何をしようかな? 「えへへ。こんな日が、ずっと、ずーっと、続いたらいいな!」 ●青か、黒か 「……でも。彼女に残された時間は、あまり、多くない」 鮮やかな青空色に染められたモニタから、一転。『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が切り替えた映像の中には、暗く、陰鬱な空気が漂っている。 ぴっ、ぴっ……と、無機質に一定のリズムを刻むペースメーカー。 さび付いたパイプベッドは、しかし、きしりと軋むことも無く。そこに寝かされ、薄いシーツに包まっている人物の、顔は見えない。 「時田サチ花(ときた さちか)。87歳。彼女が今際の際に見ている幸福な夢は、彼女自身の尽きかけた命と引き換えに、アザーバイドが見せる……儚い幻に過ぎないの」 狭い部屋。簡素なパイプベッド、ヘッドボードの止まり木に佇む、奇妙な、それ。 鋼鉄製のボルトにナット、フレームにモーター。機械部品の組み合わせで出来た身体、針金のように細い足、畳まれた金属板の翼。半球状の液晶モニタのような頭部に、緑色に明滅するコードの羅列が次々と現れては、じりじりと流れていく。 「このアザーバイドは、宿主に選んだ人間の感情……特に、不幸に伴う絶望を好んで摂取して、活動しているみたい。そして、代わりに、宿主が最も望む幸福な夢を見せ続けるの。より長く、より濃密に、本体から好物の絶望を吸い続けるために」 イヴの語る、時田サチ花の歩んできた人生は、かいつまんでいながらも、実に切なく悲劇的だ。 幼き日の痛い悲恋。望まぬ結婚。粗暴な夫や不躾な姑との歪んだ関係。忙しく家事や子育てに追われる日々。病で夫を亡くした頃、気づけば彼女は老い、側には家族や友も無く。 彼女はいつでも、折れそうになる心に抗いながら、懸命に生きてきた。なのに、彼女は報われず。良いことなど何一つ無かった。あるのは、空虚な自分は一人、このまま命尽きて死ぬのだという、黒く深い絶望。それのみだ。 彼女のせめてもの救いは、夢想の中にあった。 何も知らなかった頃の無垢な少女へと返り、青空に囲まれた幸せな庭で、楽しい仲間たちと賑やかに暮らす。いつまでも。いつまでも。 そんな、青く、遠い夢。 「それを図らずも叶えたのが……このアザーバイドだった、ってわけだね」 ブリーフィングルームの片隅に腰掛け、何やら天井をぼんやり眺めつつ佇んでいた、ビーストハーフの少年。『濡れた瞳で空を見る』鳴沢 ルリ (nBNE000277) は、ふいに口を開くと、立ち上がり、 「彼女の見ている夢、ってやつに、興味があってね。今回は、ボクも同行させてもらうよ。ヨロシクね?」 そう言って微笑する少年に、イヴは一つ頷くと。改めて、リベリスタたちを見回す。 絶望に浸った人生の末期に、望んでやまなかった幸福な夢を見る、ちっぽけな一人の老婆。彼女の人生に介入した神秘への対応は、そのまま、彼女自身の最期をも決め付けることになる。 「アザーバイドは、宿主に接しようとする外部の人間を、夢の中に取り込む性質を持ってる。少女に返った彼女の、『おともだち』とするために。皆はそれを利用して、彼女の夢の中へ入り、そして……」 リベリスタたちに、望まれていること。それは、つまり。 「…………アザーバイドを、撃破して。それがアークの、揺るがない決定だから」 ●風の吹くまま 「そういえばー……」 『どうしたの サチカちゃん?(゜O゜*)』 青い青い空を見上げながら、サチカはふと、ぽつりとつぶやきます。 「ううん。このごろ、おともだちがふえないなぁーって……」 『おともだちなら、ぼくたちがいるじゃない(^ー°v)』 「うん、そうなんだけどぉ……」 サチカは、もちろん、足元に集まって自分を見上げる小さなおともだちたちや、鳥さんだって、大好きです。 でも、サチカはもじもじと、ちょっと言いにくそうに、 「あのね。サチカ、にんげんのおともだちも、ちょっぴり、ほしいなぁって……まえに来てくれたみんなは、すぐ、いなくなっちゃったし……」 以前には、何人か、人間のおともだちがやってきたこともありました。でもその人たちは、なんだかみんな、ぷりぷりと怒っていて。あんまり、サチカと仲良くしてくれなくて。そのうち、いつの間にやら、姿が見えなくなってしまったのです。 「あっ、でもね、サチカ、みんなのこともだいすき! だから、だいじょうぶ、さみしくないよ!」 『サチカちゃんには ぼくたちがいるよ! だから、ここで いっぱいいっぱい、あそぼうよ(≧∇≦)』 鳥さんに誘われて、サチカは再び、元気に走り出していきます。 目が覚めるような鮮やかな青空から、ふんわり、気持ちのいい風が吹いてきます。そよそよと揺れる、エメラルドグリーンの絨毯。寝転がってお昼寝すれば、最高に気持ちがいい、その草原の片隅に、ぐずぐずに崩れかけ、腐乱し、半ば白骨化しかけた、かつては人の姿をしていたのだろう、朽ちかけた残骸たちが。物言わぬまま、佇んでいた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:墨谷幽 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年04月03日(木)21:58 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●あたらしいおともだち! 今日もサチカは、動物たちや、鳥さんと一緒。いつものように、楽しく追いかけっこをして遊んでいました。 そうしましたら。 『あれあれ、サチカちゃん。あたらしいおともだちが、やってきたみたいだよ?(^∇^*)』 その日、びゅう、と草原の上をいつもより少しだけ強く吹いた風は、思っても見ないお客さんを、サチカの元へ連れてきたみたいです。 「あ゛ーっ! 迷子になっちゃったよ~!」 うえええん、と泣きながらやってきたのは、月杜・とら(BNE002285)でした。 目をまんまるくしてびっくり、サチカはとらを見上げますが。でも、新しくやってきたおともだちに、にっこり! 「えへへ。サチカだよ! まいごになっちゃったの? だいじょうぶだよ、ここにはサチカもいるし、みんなもいるし、鳥さんもいるし! こわくないよ、だいじょうぶだよ」 なんて、ちょっと背伸びをして、かがんだとらの頭を、優しく撫でてくれます。 「ほんとぉ? サチカちゃん、とらのお友達になってくれる?」 「うんっ、とらちゃん!」 とらは、ぎゅうっとサチカを抱きしめます。暖かくて柔らかい感触に、サチカはほっこり。 ふと気がつくと、芝生の上には、たくさんのおともだちの姿がありました。ひい、ふう、みい……すごい、とらも含めると、7人ものおともだちがやってきてくれたのです! 「こんにちは、サチカちゃん☆ オレ、終って言うんだよ。サチカちゃんの友達になりにきたんだ☆」 「ボクは、まさきっていいます。よろしくね、サチカちゃん!」 『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)と『アクスミラージュ』中山 真咲(BNE004687)の笑顔に、サチカの胸はいっぱいになります。だって、前に来てくれた人間のおともだちは、ずっと怖い顔をして、サチカのことをにらんでいたのです。それに比べたら、二人の輝くような笑顔ときたら! 「うんっ、おわるちゃんに、まさきちゃん!」 サチカは元気に駆けていって、ぽすっ、と二人に抱きつきます。 『……初めまして、さっちゃん。私の名前は、さき。お友達はみんな、さっちゃんって呼ぶのよ。あなたとお揃いね?』 「わ、わ。お声が、あたまのなかで、聞こえるよ? すごーい!」 テレパスで呼びかけた『蒼碧』汐崎・沙希(BNE001579)の声に、サチカは大興奮。だって、今までに、そんなびっくりするようなことをしてくれたおともだちは、いませんでしたもの。 「でも、ふたりともさっちゃんじゃ、こまっちゃうね?」 『ふふ、そうね。それじゃ……私のことは、さきちゃん、って呼んでくれる?』 「うんっ、さきちゃん!」 沙希の着ている綺麗なお着物にも、サチカは目をきらきらと輝かせて、興味津々です。 『サチカちゃん、良かったね。こんなにいっぱい、おともだちが増えたよ!(*^-^*)』 「うん、うんっ! うれしいな、うれしいな! えへへ、ねえ、何してあそぼっか♪」 鳥さんが、ひかひか、ぐるぐるしながら言うと、サチカも嬉しくなって、にっこり笑顔。 さあ、みんなで、何をして遊びましょうか? ●たくさん、あそぶよ! 今日は、なんていい日なんでしょう。こんなにもたくさんのおともだちがやってくるなんて! 「サチカちゃん、おままごとしよっか☆ サチカちゃんは、何の役がいい?」 「えっとね、うーんとね、サチカはね……!」 終の誘いで、みんなでおままごとをしたり。 「はぁぁ……この、脚の付け根のニオイ。たまらん~!」 「あしのつけね? とらちゃんは、まにあっくなんだね? ……うんでも、なんだか、クセになりそうかも」 「でしょでしょ♪」 とらと一緒に、子猫をもふもふしたり。 「わああ……まいひめちゃん、それなあに? なあに?」 「お花の冠だよ。サチカちゃんも、一緒につくってみよっか? おねえちゃんが、作り方を教えてあげるからね」 「うん、サチカもつくるー!」 『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)の繊細な手が編みこんでいく、綺麗な花冠。サチカも一生懸命に真似をして、冠の形を作っていきます。最初はとっても難しくて、うー、んー? なんて、首をちょこんと傾げてうなっていたサチカでしたが……。 「ほら、ここをこうしたら……」 「……できたー!」 舞姫の教えで、なんとか、可愛らしい花冠のできあがり! さっそく、得意げにそれをかぶってみせるサチカに、 「うふふ、さっちゃん可愛いね、とっても似合ってる。お姫様みたいだよ?」 「ほんと!? えへへ、ありがとー、まいひめちゃん!」 優しいお姉ちゃんのような舞姫に、サチカはきゅうっと抱きつきます。 「本当だ、お姫様だね、サチカちゃん」 満面の笑みを浮かべるサチカに、『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)は、なんと、こんなことを言いました。 「ねえ、サチカちゃん。おトモダチ、なんてすっとばしてさ。俺様ちゃんと、恋人同士になってみない?」 「……こっ、こっこここ、こいびとどーし!!!?」 あらら。サチカちゃん、頬っぺたを真っ赤にしちゃって、何だか満更でもない様子。おませさんですね! 「人は、恋をすると幸せになれるんだって。さあ、サチカちゃん。俺様ちゃんと、本当の恋をしよう!」 「う、うん……」 リンゴみたいにまっかっかのサチカは、それでも、差し出された葬識の手をきゅっと握って、嬉しそう。 「はは……ステキな恋人ができて良かったね、サチカちゃん。さ、次は、さきちゃんがとっておきの遊びを教えてくれるみたいだよ?」 『濡れた瞳で空を見る』鳴沢 ルリ (nBNE000277) の、指差す方を見てみれば。 笑顔で手招きする沙希の周りで、背中に小さな翼を生やしたとら、終、真咲が、ふわふわと浮かびながらサチカを誘っています。 ぱあっ、と顔を輝かせると、サチカは葬識と舞姫の手をぐいぐい引っ張りながら、勢い良く駆けていきます。 『はい、これでいいわ。さあ、いっしょに、お空を飛んでみましょう』 「うっうん……っ」 こくん、と頷きながらも、ちょっぴり緊張気味なサチカ。でも、沙希の柔らかい手に引かれて……。 小さな背中に、翼の加護を得たサチカは、沙希と一緒に、今、青い青い空の中へと、ふわり、飛び上がります。 「わ、わ……」 「サチカちゃん、ほら、こっちこっち!」 両手を広げる真咲のほうへ、サチカはぱたぱたと一生懸命に翼をはためかせ、ぽすん、とその胸の中へ。 「あはは、上手い上手い」 「えへへ……こんどは、とらちゃんのほうにいくよー!」 ぱたぱた、頑張って翼を動かして、ふわふわ、ふわり。 「はい、いらっしゃーい、サチカちゃん♪」 「えへへー!」 宙を舞うとらに、きゅっと抱きとめられて、サチカは満足げ。 「さあ、今度はこっちにおいでー、サチカちゃん☆」 「ほーら、おねえちゃんのほうへ、いらっしゃい?」 「いやいや、次は、恋人の俺様ちゃんのところだよー!」 「ええー? まよっちゃうよお!」 にこにこ、にっこり。しばし続く空中散歩の間、サチカの顔に、笑顔が絶えることはありませんでした。 ●扉 「ねー! ルリちゃんも、いっしょにとぼうよー!」 楽しそうに、自由自在に空を飛び回るサチカの声に、ルリは、小さく手を振り返します。 『きみは、いっしょにとばないの?(・_・o)』 「……うん? ああ……ボクは、うん。そうだね。何かあったときのために、ここにいるよ」 『ふーん、そう?(-ω- )』 いつの間にか近くにいた鳥さんが、誘いますが。ルリは、何だか神妙な顔つきで、上空のみんなを眺めています。 鳥さんが金属の翼を広げ、サチカたちのほうへと飛び上がるのを、見送ってから。 「……やっぱり、作り物だね……」 彼は、ペンキをぶちまけたような青い空を見上げながら、どこか残念そうな口ぶりで、ぽつりともらしました。 「さっちゃん、すごーい! どうやって出したのー?」 「えっへへー」 ぱちぱちと手を叩くとらに、サチカは得意げに胸を反らします。 飛び疲れたみんなは、長いテーブルセットに腰掛けて、お茶会の時間です。サチカが手をぱん、っと叩くと、テーブルの上には、美味しそうなお菓子が、ずらずら、ずらり! と現れます。そのたびにみんなが驚いてくれるので、サチカは面白くって、次々と色んなお菓子を出してみせます。 『お茶のおかわりも、たくさん、たくさんあるからね~(@O@;)』 鳥さんが、重そうにティーポットを運び、カップへ注いでいき。みんなは、まったり、ほうっと一息をつきます。 お菓子はどれも、頬っぺたが落ちそうなほどに甘くて、美味しくて。鳥さんの淹れたお茶だって、もう絶品。 サチカを中心に、みんなは和やかに、たくさん、たくさんおしゃべりをします。 「そういえば、サチカちゃん。ここってなんだか、夢の中にいるみたいな、不思議な場所だね。どこなのかなぁ、ここ?」 「え、ううーん……? サチカ、気がついたら、ここにいたから……よくわかんない」 ふいに真咲が、投げかけた疑問。サチカは、くりっと小首を傾げます。 ……それは。サチカの心の中、疑問の芽をちくりと植えつけるための、ちょっとした楔。 かつん。舞姫は、静かに、カップをソーサーの上へと置き。 「……そうね。いっぱい遊んで。いっぱい、おいしいものを食べて。ずっと、ずっと、こうしていたいね……こうしていられたら、良いのにね」 サチカは。 それまで、楽しく、明るく振舞っていたおともだちの雰囲気が、どこか……悲しげなものに変わっていくのを見て。じくじくと、胸のどこかが痛み出すのを感じるのです。 『サチカちゃん、ダメだよ~、それに近づいたら、ダメだよ~!(゜ロ゜;)』 「うん……」 サチカの案内で、赴けば。真っ黒な、取っ手が付いているだけの簡素な扉が、緑に囲まれた島の端に、佇んでいました。 扉の周囲には、半ば以上朽ちかけた、物言わぬ骸。 「……大丈夫。おねえちゃんが、ついてるからね」 はっと息を呑み、目を見開くサチカを、舞姫は咄嗟に抱き締めます。 「サチカ……サチカ、それ、あけたくない。ずっとみんなで、ここで……あそんでいたい。ここにいたい」 「うん。そうだね、それが出来れば、一番。良かったのかもしれないけど」 サチカの、いつも元気な彼女のものとは思えない、か細い声に、ルリは言い。 『あけちゃダメだよ~、サチカちゃん!(;ェ;`)』 「……あの鳥さんが、さっちゃんのお友達だっていうのは、知ってるよ。でもね、落ち着いて聞いてね? あの鳥は、さっちゃんを騙して、ここに閉じ込めてるんだよ。本当のさっちゃんの不幸を、餌にしてるんだよ」 舞姫の胸の中、サチカの髪をさらりと梳きながら、とらは、優しく語り掛けます。 「さっちゃん。とら、さっちゃんと一緒に、おうちに帰りたいな……?」 「……とらちゃん……でも、サチカ……」 いやいや、と、サチカは首を振ります。 綺麗な風景。美味しい食べ物。大好きなお友達。サチカにとって想像できる、楽しいもの、その全てが詰まった……宝物のような、この青い世界。けれど、それらは、結局のところ。夢の中にたゆたう、泡沫のような幻に過ぎず。 だからこそ。 「サチカちゃん。ここは本当に楽しくて、嫌な事なんて、何も無いよね。そう、何も……けど、だからこそ、何かが足りない。それはこの世界が、夢の世界だから。そしてあの扉は、サチカちゃんがいるべき、現実へと続いている」 終は、それを告げるのです。 「この扉が怖い? そうだね……現実は、苦しいことばかりかも知れない。でもね、サチカちゃん。そこには、夢の中には無いような、輝くものだってあるかもしれない。それを今から、一緒に確かめに行かない? ねえ、サチカちゃん。どうしても怖いなら……」 夢の中にはない、輝くもの。ぴくり、肩を震わせたサチカの耳元へ、終は跪き。こしょこしょと、何か耳打ち。 サチカはしばし迷い……でも、やがて。小さく頷くと。 手を叩き、ばらばらと草の上へ落ちて転がったのは、絵の具にクレヨン、色鉛筆にカラースプレー。色とりどりの、鮮やかなお絵かき道具たち。 『やめてよー、開けちゃったら、サチカちゃんは、ここにはいられなくなっちゃうんだよー(┳Д┳)』 「ほら。怖くなくなるように、サチカちゃんの好きなものを、いっぱい描いちゃおう! そうしたら、もう、怖いものなんて何も無いよ☆」 「うん……」 サチカは。 一緒に過ごした時間は、短いけれど。あたらしいおともだちのみんなが、大好きになっていました。みんなの言うことに、応えたい、と思いました。 みんなの言葉は、サチカの小さな胸に響き渡り。 「……うんっ」 自分の足で、すっと立ち。絵の具を手にして、サチカは……黒い扉へ、新しい色を塗りこめていきます。 鳥さんが飛んできて、扉の上へと降り立つと、サチカへ、まんまるな半球状の頭の中に浮かび上がる文字で、 『……開けるな、って言ってるだろ! このクソガキ!凸(`Д´#)』 ●黒い世界 「さあ……一緒に行こう。大丈夫、怖くないよ?」 『私たちが、ついてるからね。さっちゃん』 「うん……」 真咲と沙希に、柔らかく、両手を握られて。 「さあ、お姫様。扉の向こうで、俺様ちゃんと、もう一度……本当の恋をしよう」 葬識は、恭しくレディをエスコート。 もう黒くない、色とりどりにデコレートされたカラフルな扉が、今。がりがりと音を立てながら……開いていきます。 「……………………あ」 漆黒。ひたすらに黒い、光を微塵も返さない、漆黒の部屋。 規則正しいリズムを刻む、ぴっ……ぴっ……という音。 「……あ あ あ……」 中央に。 簡素な作りの、パイプベッド。 汚れたシーツに包まり、浅い呼吸を繰り返す……。 「あっ、あ あ、あ、ああ。ああああああああああああああああああ」 空間を満たす慟哭。あの青い世界への扉は、今はもう、跡形も無く消え失せ。 軋む翼をはためかせ、ベッドのパイプに針金めいた細い足を絡ませてとまっている、そいつが。 『あーあ。だから開けるなって、言ったのにさーε=(-ω-`)』 「なぜ……なぜ、起こしたの……!?」 サチカは……いや。幼い少女の皮をかぶったサチ花は、がくがくと震える身を抱え、うずくまる。 「幻でもいい……夢でも、幻覚だろうと、何でも良かった! 私はあそこにいられたなら、それで良かったのに!! なぜ!?」 未だ夢の世界。 けれど、目の前で静かに眠っている老婆の姿が、現実を、刺すように突きつける。 「なぜ……どうして……」 「……言ったでしょ? 俺様ちゃんと、本当の恋をしようって」 泣き濡れた顔をあげると。そこには、葬識の、変わらない笑顔。 「そんな、詭弁で……!」 「夢の中で目を逸らしていたら、本当の恋なんてできないよ。俺様ちゃんはね……本当の『サチ花ちゃん』と、恋をしたいんだよ」 「…………ッ!!」 彼女の背負う現実は、あまりに重く。受け入れられない、耐えられない、だからこそ、夢の中へと逃げた。 けれど。 『まったくう、余計なことしてくれちゃってー(-c_-;) また、新しいエサを探しに行かなきゃならないじゃないかあ(・ε・`。)』 「……鳥、さん……」 夢を見せる、鳥。 代償はあれど、今際の際に、それでも……願いを叶えてくれた、サチカの、『おともだち』。 信じたかった。 信じたくなかった。 幻。泡沫の夢。 しかし。それらは果たして、本当に……無かったことだったろうか? ここに立つ、7人の、おともだち。彼らに感じた感情は。 彼らが自分へ寄せてくれた、暖かい感情は。それすら、偽物だったと言うのだろうか? やがて……サチカは。 「………………ありがとう、鳥さん。夢を叶えてくれて。サチカは、私は、還るわ……私のいた、本当の世界へ……」 少女の顔へ、徐々に、皺が浮かび上がり。腰は曲がり。髪の毛は、ごわごわと波打っていき。 小さな、ちっぽけな老婆のしわしわの手を、真咲は、終は、ぎゅっと握り締め。全てが終るまで、舞姫と沙希が、包み込むように胸の中へと抱き止め。 ルリの剣が放つ暗黒の波動を、鳥が、ふわりと浮かび上がって避けたところへ。絶苦を刻み込む葬識の鋏が、半球状のモニタへ突き込まれ。 『な、何するんだよー、バカー!(`Д´#)』 とらの全身から放たれた気糸が幾重にも絡みつき、ぎりと締め上げ。 「さっちゃん、とらと、家族になろうよ。さっちゃんは一人じゃない……とらと一緒に、幸せ探してみようよ、ねっ!」 『あっ? そんな、やめtキフ、ア、ュアウア??≫???ケΤ!!???!!!!』 ぶつん、と、千切れ。 やがて、砕けた世界に、眩しい光が差し込んでゆく。 ●青い世界 「おはよう、サチ花ちゃん。約束通り、もう一度。俺様ちゃん、君に、恋しにきたよ」 開け放たれたカーテン。白く輝く朝日。どこからか、小鳥の声が聞こえてきて。 周囲を囲む、7人の、友人たち。 「…………バカ、ね。こんな、おばあちゃんに……」 「おばあちゃんのサチ花ちゃんのほうが、ずっとずっと、綺麗だよ」 窓の向こうには、鮮やかな、青い空。 「……バカ……ね……」 す、と、零れ落ちる雫。それを、そっと、すくい取り。 「サチ花ちゃんは、一人じゃないよ。ずっと、一緒にいてあげる。最期まで、ずっと……ね」 「………………」 ……約束を果たした葬識は。胸の中、思う。 こんな殺人も……たまには、いいもんだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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