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サチカの青い夢

●サチカとゆかいななかまたち
 柔らかく生い茂る草原の上を、サチカは満面の笑みを浮かべながら、元気いっぱいに駆けていきます。
「あはははは! 待ってよ~、うさぎさん、シマリスさん! きつねさんに、たぬきさんに、わんちゃん、こねこさんも! あはははは!」
 今日は、ちっちゃな動物たちと追いかけっこ。ふわふわ、もこもこ、みんなサチカの大好きな、おともだちです。
 青いペンキで塗ったみたいな広い広い空に、わたあめみたいな美味しそうな白い雲。太陽さんはいつでもきらきら、サチカたちをぽかぽかと照らしています。
 ぴこぴこ、かちかち。おともだちの鳥さんが、よたよたと飛びながらサチカを追いかけて、その黒くてまんまるい頭には、
『ほらほら、サチカちゃん そんなにはしったら、ころんじゃうよ~('□';)』
 ネオンサインのように、ぴかぴか、文字が瞬いては現れます。
 サチカはこれが大好きで、
「あはは、鳥さんは、しんぱいしょうだなぁ。サチカ、ころんだりしないもん!」
 と、にこにこ顔。
「ほらあ、鳥さんも、みんなといっしょにあそぼうよー!」
『うん、いいよー きょうは、なにしてあそぼっか(^▽^)』
「えへへ。みんなといっしょなら、なんでもいいよ! なんでもたのしいよ!」
 きれいな青空、気持ちのいいおひさま。おいしいお菓子。たくさんのおともだち。
 ここには、そんなサチカの大好きで大切なものが、何でも揃っているのです。
 サチカは思います。
 昨日はみんなで、楽しくお茶会をしたよ。今日は、みんなと追いかけっこ! 明日は、何をしようかな?
「えへへ。こんな日が、ずっと、ずーっと、続いたらいいな!」

●青か、黒か
「……でも。彼女に残された時間は、あまり、多くない」
 鮮やかな青空色に染められたモニタから、一転。『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が切り替えた映像の中には、暗く、陰鬱な空気が漂っている。
 ぴっ、ぴっ……と、無機質に一定のリズムを刻むペースメーカー。
 さび付いたパイプベッドは、しかし、きしりと軋むことも無く。そこに寝かされ、薄いシーツに包まっている人物の、顔は見えない。
「時田サチ花(ときた さちか)。87歳。彼女が今際の際に見ている幸福な夢は、彼女自身の尽きかけた命と引き換えに、アザーバイドが見せる……儚い幻に過ぎないの」
 狭い部屋。簡素なパイプベッド、ヘッドボードの止まり木に佇む、奇妙な、それ。
 鋼鉄製のボルトにナット、フレームにモーター。機械部品の組み合わせで出来た身体、針金のように細い足、畳まれた金属板の翼。半球状の液晶モニタのような頭部に、緑色に明滅するコードの羅列が次々と現れては、じりじりと流れていく。
「このアザーバイドは、宿主に選んだ人間の感情……特に、不幸に伴う絶望を好んで摂取して、活動しているみたい。そして、代わりに、宿主が最も望む幸福な夢を見せ続けるの。より長く、より濃密に、本体から好物の絶望を吸い続けるために」
 イヴの語る、時田サチ花の歩んできた人生は、かいつまんでいながらも、実に切なく悲劇的だ。
 幼き日の痛い悲恋。望まぬ結婚。粗暴な夫や不躾な姑との歪んだ関係。忙しく家事や子育てに追われる日々。病で夫を亡くした頃、気づけば彼女は老い、側には家族や友も無く。
 彼女はいつでも、折れそうになる心に抗いながら、懸命に生きてきた。なのに、彼女は報われず。良いことなど何一つ無かった。あるのは、空虚な自分は一人、このまま命尽きて死ぬのだという、黒く深い絶望。それのみだ。
 彼女のせめてもの救いは、夢想の中にあった。
 何も知らなかった頃の無垢な少女へと返り、青空に囲まれた幸せな庭で、楽しい仲間たちと賑やかに暮らす。いつまでも。いつまでも。
 そんな、青く、遠い夢。
「それを図らずも叶えたのが……このアザーバイドだった、ってわけだね」
 ブリーフィングルームの片隅に腰掛け、何やら天井をぼんやり眺めつつ佇んでいた、ビーストハーフの少年。『濡れた瞳で空を見る』鳴沢 ルリ (nBNE000277) は、ふいに口を開くと、立ち上がり、
「彼女の見ている夢、ってやつに、興味があってね。今回は、ボクも同行させてもらうよ。ヨロシクね?」
 そう言って微笑する少年に、イヴは一つ頷くと。改めて、リベリスタたちを見回す。
 絶望に浸った人生の末期に、望んでやまなかった幸福な夢を見る、ちっぽけな一人の老婆。彼女の人生に介入した神秘への対応は、そのまま、彼女自身の最期をも決め付けることになる。
「アザーバイドは、宿主に接しようとする外部の人間を、夢の中に取り込む性質を持ってる。少女に返った彼女の、『おともだち』とするために。皆はそれを利用して、彼女の夢の中へ入り、そして……」
 リベリスタたちに、望まれていること。それは、つまり。
「…………アザーバイドを、撃破して。それがアークの、揺るがない決定だから」

●風の吹くまま
「そういえばー……」
『どうしたの サチカちゃん?(゜O゜*)』
 青い青い空を見上げながら、サチカはふと、ぽつりとつぶやきます。
「ううん。このごろ、おともだちがふえないなぁーって……」
『おともだちなら、ぼくたちがいるじゃない(^ー°v)』
「うん、そうなんだけどぉ……」
 サチカは、もちろん、足元に集まって自分を見上げる小さなおともだちたちや、鳥さんだって、大好きです。
 でも、サチカはもじもじと、ちょっと言いにくそうに、
「あのね。サチカ、にんげんのおともだちも、ちょっぴり、ほしいなぁって……まえに来てくれたみんなは、すぐ、いなくなっちゃったし……」
 以前には、何人か、人間のおともだちがやってきたこともありました。でもその人たちは、なんだかみんな、ぷりぷりと怒っていて。あんまり、サチカと仲良くしてくれなくて。そのうち、いつの間にやら、姿が見えなくなってしまったのです。
「あっ、でもね、サチカ、みんなのこともだいすき! だから、だいじょうぶ、さみしくないよ!」
『サチカちゃんには ぼくたちがいるよ! だから、ここで いっぱいいっぱい、あそぼうよ(≧∇≦)』
 鳥さんに誘われて、サチカは再び、元気に走り出していきます。
 目が覚めるような鮮やかな青空から、ふんわり、気持ちのいい風が吹いてきます。そよそよと揺れる、エメラルドグリーンの絨毯。寝転がってお昼寝すれば、最高に気持ちがいい、その草原の片隅に、ぐずぐずに崩れかけ、腐乱し、半ば白骨化しかけた、かつては人の姿をしていたのだろう、朽ちかけた残骸たちが。物言わぬまま、佇んでいた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:墨谷幽  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年04月03日(木)21:58
 墨谷幽です、よろしくお願いいたします!



●作戦目的
・アザーバイド、ダクライフィリアスの撃破


●失敗条件
・アザーバイド、ダクライフィリアスの逃走


●ロケーション
・アザーバイドが宿主の絶望と希望を元に作り出した夢空間の中。
・『青い世界』:見渡す限りの青空の中に浮かぶ、瑞々しい芝生に覆われた、直径30メートル程度の小さな島。たくさんの可愛らしい動物たちが駆け回り、据えられたテーブルには多種多様なお菓子が並び、木々には甘い木の実がなっています。常に昼間で、島中がいつでも気持ちの良い陽光に満たされています。アザーバイドと宿主はこの島にいます。
・『黒い世界』:宿主の本当の記憶とあらゆる絶望が隔離され詰め込まれた部屋。アザーバイドの活動エネルギーの供給源。『青い世界』の片隅にある、黒い扉によって封じられています。
・シナリオはこの空間へ取り込まれ、『青い世界』にリベリスタたちが現れたからところから開始されます。


●中立キャラクター
○サチカ
・7~8歳くらいの無邪気な少女です。
・『青い世界』にいる限り、半永久的に死なず、年も取らず、また望めば食べ物や玩具などのあらゆる娯楽を目の前に出現させることができます。
・『おともだち』には懐いて心を許します。なお、アザーバイドのことも彼女は『おともだち』だと思っています。
・本体は、アザーバイドに精神を囚われている老婆、時田サチ花(ときた さちか)。高齢であり、その寿命は程なく尽きようとしています。
・サチカは『青い世界』の外の記憶を全く覚えていませんが、黒い扉を開くことには恐怖心を感じており、近づくことを避けています。


●敵性キャラクター
○ダクライフィリアス
・頭部が半球状のモニタのようなパーツで構成されている、機械の鳥のような姿をしたアザーバイドです。モニタに浮かび上がる文字で意思疎通を行います。人間の子供程度の知能があるようです。
・宿主に選んだ人間の精神へと入り込み、その絶望を吸い取ってエネルギーへと転化することで活動しています。フェイトは得ていません。
・宿主の精神を分割して隔離し、幸福な夢だけを見せ続けることで延命を図り、少しでも長く宿主を生き長らえさせながら、限界までエネルギーを搾り取ろうとする習性を持ちます。
・宿主の幸福度を高めて夢世界を安定させるため、現実世界において宿主に覚醒を促そうとしたり、何らかの接触を図ろうとした人間を夢世界へと強制的に取り込み、宿主の『おともだち』にしようとします。『おともだち』になることを拒否した者は、アザーバイドによって夢世界のルールのもと重い制裁を受けることになり、これはリベリスタであっても抵抗することは不可能です。(通常の人間ならば死亡、リベリスタならば戦闘不能)
・宿主の本体から供給される絶望のエネルギーが途切れない限り、倒すことはできません。


●同行NPC
○『濡れた瞳で空を見る』鳴沢ルリ(なるさわ るり)
・彼は同行しながらも独自に、自身の好奇心に従って行動しています。
・何か必要があれば、行動を指示することもできます。話しかけられれば何かしら返答もしますので、ご随意にどうぞ。


●その他備考など
・『青い世界』は宿主が絶対的に優先されるべき場所なので、宿主が心を許し『おともだち』となった相手には、アザーバイドであっても容易に干渉することはできません。
・サチカが何も知らないまま、その命が尽きるまで命を吸い取られ続けた場合、宿主は夢の中で幸福な死を迎えることができるでしょう。ただし、アザーバイドは次の宿主を探すため逃走してしまい、倒すことはできません。
・『黒い世界』への扉を開けば、サチカは現実を知ることになります。その場合、供給される絶望は本人へと還るため、アザーバイドを撃破することが可能になります。ただし、サチカは本来の姿である時田サチ花として、深い絶望の中で辛い死を迎えることになるでしょう。
・いずれにしろ、全てが終われば、リベリスタたちは現実世界へと戻ります。



 青か、黒か。皆さんなりの、『最もマシな答え』を導き出していただけましたら、幸いです。
 それでは、ご参加をお待ちしております!
参加NPC
鳴沢 ルリ (nBNE000277)
 


■メイン参加者 6人■
ジーニアスソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
ハイジーニアスホーリーメイガス
汐崎・沙希(BNE001579)
ハイジーニアスソードミラージュ
鴉魔・終(BNE002283)
フライダークナイトクリーク
月杜・とら(BNE002285)
★MVP
ハイジーニアスダークナイト
熾喜多 葬識(BNE003492)
ハイジーニアスソードミラージュ
中山 真咲(BNE004687)

●あたらしいおともだち!
 今日もサチカは、動物たちや、鳥さんと一緒。いつものように、楽しく追いかけっこをして遊んでいました。
 そうしましたら。
『あれあれ、サチカちゃん。あたらしいおともだちが、やってきたみたいだよ?(^∇^*)』
 その日、びゅう、と草原の上をいつもより少しだけ強く吹いた風は、思っても見ないお客さんを、サチカの元へ連れてきたみたいです。
「あ゛ーっ! 迷子になっちゃったよ~!」
 うえええん、と泣きながらやってきたのは、月杜・とら(BNE002285)でした。
 目をまんまるくしてびっくり、サチカはとらを見上げますが。でも、新しくやってきたおともだちに、にっこり!
「えへへ。サチカだよ! まいごになっちゃったの? だいじょうぶだよ、ここにはサチカもいるし、みんなもいるし、鳥さんもいるし! こわくないよ、だいじょうぶだよ」
 なんて、ちょっと背伸びをして、かがんだとらの頭を、優しく撫でてくれます。
「ほんとぉ? サチカちゃん、とらのお友達になってくれる?」
「うんっ、とらちゃん!」
 とらは、ぎゅうっとサチカを抱きしめます。暖かくて柔らかい感触に、サチカはほっこり。
 ふと気がつくと、芝生の上には、たくさんのおともだちの姿がありました。ひい、ふう、みい……すごい、とらも含めると、7人ものおともだちがやってきてくれたのです!
「こんにちは、サチカちゃん☆ オレ、終って言うんだよ。サチカちゃんの友達になりにきたんだ☆」
「ボクは、まさきっていいます。よろしくね、サチカちゃん!」
 『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)と『アクスミラージュ』中山 真咲(BNE004687)の笑顔に、サチカの胸はいっぱいになります。だって、前に来てくれた人間のおともだちは、ずっと怖い顔をして、サチカのことをにらんでいたのです。それに比べたら、二人の輝くような笑顔ときたら!
「うんっ、おわるちゃんに、まさきちゃん!」
 サチカは元気に駆けていって、ぽすっ、と二人に抱きつきます。
『……初めまして、さっちゃん。私の名前は、さき。お友達はみんな、さっちゃんって呼ぶのよ。あなたとお揃いね?』
「わ、わ。お声が、あたまのなかで、聞こえるよ? すごーい!」
 テレパスで呼びかけた『蒼碧』汐崎・沙希(BNE001579)の声に、サチカは大興奮。だって、今までに、そんなびっくりするようなことをしてくれたおともだちは、いませんでしたもの。
「でも、ふたりともさっちゃんじゃ、こまっちゃうね?」
『ふふ、そうね。それじゃ……私のことは、さきちゃん、って呼んでくれる?』
「うんっ、さきちゃん!」
 沙希の着ている綺麗なお着物にも、サチカは目をきらきらと輝かせて、興味津々です。
『サチカちゃん、良かったね。こんなにいっぱい、おともだちが増えたよ!(*^-^*)』
「うん、うんっ! うれしいな、うれしいな! えへへ、ねえ、何してあそぼっか♪」
 鳥さんが、ひかひか、ぐるぐるしながら言うと、サチカも嬉しくなって、にっこり笑顔。
 さあ、みんなで、何をして遊びましょうか?

●たくさん、あそぶよ!
 今日は、なんていい日なんでしょう。こんなにもたくさんのおともだちがやってくるなんて!
「サチカちゃん、おままごとしよっか☆ サチカちゃんは、何の役がいい?」
「えっとね、うーんとね、サチカはね……!」
 終の誘いで、みんなでおままごとをしたり。
「はぁぁ……この、脚の付け根のニオイ。たまらん~!」
「あしのつけね? とらちゃんは、まにあっくなんだね? ……うんでも、なんだか、クセになりそうかも」
「でしょでしょ♪」
 とらと一緒に、子猫をもふもふしたり。
「わああ……まいひめちゃん、それなあに? なあに?」
「お花の冠だよ。サチカちゃんも、一緒につくってみよっか? おねえちゃんが、作り方を教えてあげるからね」
「うん、サチカもつくるー!」
 『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)の繊細な手が編みこんでいく、綺麗な花冠。サチカも一生懸命に真似をして、冠の形を作っていきます。最初はとっても難しくて、うー、んー? なんて、首をちょこんと傾げてうなっていたサチカでしたが……。
「ほら、ここをこうしたら……」
「……できたー!」
 舞姫の教えで、なんとか、可愛らしい花冠のできあがり!
 さっそく、得意げにそれをかぶってみせるサチカに、
「うふふ、さっちゃん可愛いね、とっても似合ってる。お姫様みたいだよ?」
「ほんと!? えへへ、ありがとー、まいひめちゃん!」
 優しいお姉ちゃんのような舞姫に、サチカはきゅうっと抱きつきます。
「本当だ、お姫様だね、サチカちゃん」
 満面の笑みを浮かべるサチカに、『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)は、なんと、こんなことを言いました。
「ねえ、サチカちゃん。おトモダチ、なんてすっとばしてさ。俺様ちゃんと、恋人同士になってみない?」
「……こっ、こっこここ、こいびとどーし!!!?」
 あらら。サチカちゃん、頬っぺたを真っ赤にしちゃって、何だか満更でもない様子。おませさんですね!
「人は、恋をすると幸せになれるんだって。さあ、サチカちゃん。俺様ちゃんと、本当の恋をしよう!」
「う、うん……」
 リンゴみたいにまっかっかのサチカは、それでも、差し出された葬識の手をきゅっと握って、嬉しそう。
「はは……ステキな恋人ができて良かったね、サチカちゃん。さ、次は、さきちゃんがとっておきの遊びを教えてくれるみたいだよ?」
 『濡れた瞳で空を見る』鳴沢 ルリ (nBNE000277) の、指差す方を見てみれば。
 笑顔で手招きする沙希の周りで、背中に小さな翼を生やしたとら、終、真咲が、ふわふわと浮かびながらサチカを誘っています。
 ぱあっ、と顔を輝かせると、サチカは葬識と舞姫の手をぐいぐい引っ張りながら、勢い良く駆けていきます。

『はい、これでいいわ。さあ、いっしょに、お空を飛んでみましょう』
「うっうん……っ」
 こくん、と頷きながらも、ちょっぴり緊張気味なサチカ。でも、沙希の柔らかい手に引かれて……。
 小さな背中に、翼の加護を得たサチカは、沙希と一緒に、今、青い青い空の中へと、ふわり、飛び上がります。
「わ、わ……」
「サチカちゃん、ほら、こっちこっち!」
 両手を広げる真咲のほうへ、サチカはぱたぱたと一生懸命に翼をはためかせ、ぽすん、とその胸の中へ。
「あはは、上手い上手い」
「えへへ……こんどは、とらちゃんのほうにいくよー!」
 ぱたぱた、頑張って翼を動かして、ふわふわ、ふわり。
「はい、いらっしゃーい、サチカちゃん♪」
「えへへー!」
 宙を舞うとらに、きゅっと抱きとめられて、サチカは満足げ。
「さあ、今度はこっちにおいでー、サチカちゃん☆」
「ほーら、おねえちゃんのほうへ、いらっしゃい?」
「いやいや、次は、恋人の俺様ちゃんのところだよー!」
「ええー? まよっちゃうよお!」
 にこにこ、にっこり。しばし続く空中散歩の間、サチカの顔に、笑顔が絶えることはありませんでした。

●扉
「ねー! ルリちゃんも、いっしょにとぼうよー!」
 楽しそうに、自由自在に空を飛び回るサチカの声に、ルリは、小さく手を振り返します。
『きみは、いっしょにとばないの?(・_・o)』
「……うん? ああ……ボクは、うん。そうだね。何かあったときのために、ここにいるよ」
『ふーん、そう?(-ω- )』
 いつの間にか近くにいた鳥さんが、誘いますが。ルリは、何だか神妙な顔つきで、上空のみんなを眺めています。
 鳥さんが金属の翼を広げ、サチカたちのほうへと飛び上がるのを、見送ってから。 
「……やっぱり、作り物だね……」
 彼は、ペンキをぶちまけたような青い空を見上げながら、どこか残念そうな口ぶりで、ぽつりともらしました。

「さっちゃん、すごーい! どうやって出したのー?」
「えっへへー」
 ぱちぱちと手を叩くとらに、サチカは得意げに胸を反らします。
 飛び疲れたみんなは、長いテーブルセットに腰掛けて、お茶会の時間です。サチカが手をぱん、っと叩くと、テーブルの上には、美味しそうなお菓子が、ずらずら、ずらり! と現れます。そのたびにみんなが驚いてくれるので、サチカは面白くって、次々と色んなお菓子を出してみせます。
『お茶のおかわりも、たくさん、たくさんあるからね~(@O@;)』
 鳥さんが、重そうにティーポットを運び、カップへ注いでいき。みんなは、まったり、ほうっと一息をつきます。
 お菓子はどれも、頬っぺたが落ちそうなほどに甘くて、美味しくて。鳥さんの淹れたお茶だって、もう絶品。
 サチカを中心に、みんなは和やかに、たくさん、たくさんおしゃべりをします。
「そういえば、サチカちゃん。ここってなんだか、夢の中にいるみたいな、不思議な場所だね。どこなのかなぁ、ここ?」
「え、ううーん……? サチカ、気がついたら、ここにいたから……よくわかんない」
 ふいに真咲が、投げかけた疑問。サチカは、くりっと小首を傾げます。
 ……それは。サチカの心の中、疑問の芽をちくりと植えつけるための、ちょっとした楔。
 かつん。舞姫は、静かに、カップをソーサーの上へと置き。
「……そうね。いっぱい遊んで。いっぱい、おいしいものを食べて。ずっと、ずっと、こうしていたいね……こうしていられたら、良いのにね」
 サチカは。
 それまで、楽しく、明るく振舞っていたおともだちの雰囲気が、どこか……悲しげなものに変わっていくのを見て。じくじくと、胸のどこかが痛み出すのを感じるのです。

『サチカちゃん、ダメだよ~、それに近づいたら、ダメだよ~!(゜ロ゜;)』
「うん……」
 サチカの案内で、赴けば。真っ黒な、取っ手が付いているだけの簡素な扉が、緑に囲まれた島の端に、佇んでいました。
 扉の周囲には、半ば以上朽ちかけた、物言わぬ骸。
「……大丈夫。おねえちゃんが、ついてるからね」
 はっと息を呑み、目を見開くサチカを、舞姫は咄嗟に抱き締めます。
「サチカ……サチカ、それ、あけたくない。ずっとみんなで、ここで……あそんでいたい。ここにいたい」
「うん。そうだね、それが出来れば、一番。良かったのかもしれないけど」
 サチカの、いつも元気な彼女のものとは思えない、か細い声に、ルリは言い。
『あけちゃダメだよ~、サチカちゃん!(;ェ;`)』
「……あの鳥さんが、さっちゃんのお友達だっていうのは、知ってるよ。でもね、落ち着いて聞いてね? あの鳥は、さっちゃんを騙して、ここに閉じ込めてるんだよ。本当のさっちゃんの不幸を、餌にしてるんだよ」
 舞姫の胸の中、サチカの髪をさらりと梳きながら、とらは、優しく語り掛けます。
「さっちゃん。とら、さっちゃんと一緒に、おうちに帰りたいな……?」
「……とらちゃん……でも、サチカ……」
 いやいや、と、サチカは首を振ります。
 綺麗な風景。美味しい食べ物。大好きなお友達。サチカにとって想像できる、楽しいもの、その全てが詰まった……宝物のような、この青い世界。けれど、それらは、結局のところ。夢の中にたゆたう、泡沫のような幻に過ぎず。
 だからこそ。
「サチカちゃん。ここは本当に楽しくて、嫌な事なんて、何も無いよね。そう、何も……けど、だからこそ、何かが足りない。それはこの世界が、夢の世界だから。そしてあの扉は、サチカちゃんがいるべき、現実へと続いている」
 終は、それを告げるのです。
「この扉が怖い? そうだね……現実は、苦しいことばかりかも知れない。でもね、サチカちゃん。そこには、夢の中には無いような、輝くものだってあるかもしれない。それを今から、一緒に確かめに行かない? ねえ、サチカちゃん。どうしても怖いなら……」
 夢の中にはない、輝くもの。ぴくり、肩を震わせたサチカの耳元へ、終は跪き。こしょこしょと、何か耳打ち。
 サチカはしばし迷い……でも、やがて。小さく頷くと。
 手を叩き、ばらばらと草の上へ落ちて転がったのは、絵の具にクレヨン、色鉛筆にカラースプレー。色とりどりの、鮮やかなお絵かき道具たち。
『やめてよー、開けちゃったら、サチカちゃんは、ここにはいられなくなっちゃうんだよー(┳Д┳)』
「ほら。怖くなくなるように、サチカちゃんの好きなものを、いっぱい描いちゃおう! そうしたら、もう、怖いものなんて何も無いよ☆」
「うん……」
 サチカは。
 一緒に過ごした時間は、短いけれど。あたらしいおともだちのみんなが、大好きになっていました。みんなの言うことに、応えたい、と思いました。
 みんなの言葉は、サチカの小さな胸に響き渡り。
「……うんっ」
 自分の足で、すっと立ち。絵の具を手にして、サチカは……黒い扉へ、新しい色を塗りこめていきます。
 鳥さんが飛んできて、扉の上へと降り立つと、サチカへ、まんまるな半球状の頭の中に浮かび上がる文字で、
『……開けるな、って言ってるだろ! このクソガキ!凸(`Д´#)』

●黒い世界
「さあ……一緒に行こう。大丈夫、怖くないよ?」
『私たちが、ついてるからね。さっちゃん』
「うん……」
 真咲と沙希に、柔らかく、両手を握られて。
「さあ、お姫様。扉の向こうで、俺様ちゃんと、もう一度……本当の恋をしよう」
 葬識は、恭しくレディをエスコート。
 もう黒くない、色とりどりにデコレートされたカラフルな扉が、今。がりがりと音を立てながら……開いていきます。

「……………………あ」
 漆黒。ひたすらに黒い、光を微塵も返さない、漆黒の部屋。
 規則正しいリズムを刻む、ぴっ……ぴっ……という音。
「……あ あ あ……」
 中央に。
 簡素な作りの、パイプベッド。
 汚れたシーツに包まり、浅い呼吸を繰り返す……。
「あっ、あ あ、あ、ああ。ああああああああああああああああああ」
 空間を満たす慟哭。あの青い世界への扉は、今はもう、跡形も無く消え失せ。
 軋む翼をはためかせ、ベッドのパイプに針金めいた細い足を絡ませてとまっている、そいつが。
『あーあ。だから開けるなって、言ったのにさーε=(-ω-`)』
「なぜ……なぜ、起こしたの……!?」
 サチカは……いや。幼い少女の皮をかぶったサチ花は、がくがくと震える身を抱え、うずくまる。
「幻でもいい……夢でも、幻覚だろうと、何でも良かった! 私はあそこにいられたなら、それで良かったのに!! なぜ!?」
 未だ夢の世界。
 けれど、目の前で静かに眠っている老婆の姿が、現実を、刺すように突きつける。
「なぜ……どうして……」
「……言ったでしょ? 俺様ちゃんと、本当の恋をしようって」
 泣き濡れた顔をあげると。そこには、葬識の、変わらない笑顔。
「そんな、詭弁で……!」
「夢の中で目を逸らしていたら、本当の恋なんてできないよ。俺様ちゃんはね……本当の『サチ花ちゃん』と、恋をしたいんだよ」
「…………ッ!!」
 彼女の背負う現実は、あまりに重く。受け入れられない、耐えられない、だからこそ、夢の中へと逃げた。
 けれど。
『まったくう、余計なことしてくれちゃってー(-c_-;) また、新しいエサを探しに行かなきゃならないじゃないかあ(・ε・`。)』
「……鳥、さん……」
 夢を見せる、鳥。
 代償はあれど、今際の際に、それでも……願いを叶えてくれた、サチカの、『おともだち』。
 信じたかった。
 信じたくなかった。
 幻。泡沫の夢。
 しかし。それらは果たして、本当に……無かったことだったろうか?
 ここに立つ、7人の、おともだち。彼らに感じた感情は。
 彼らが自分へ寄せてくれた、暖かい感情は。それすら、偽物だったと言うのだろうか?
 やがて……サチカは。
「………………ありがとう、鳥さん。夢を叶えてくれて。サチカは、私は、還るわ……私のいた、本当の世界へ……」
 少女の顔へ、徐々に、皺が浮かび上がり。腰は曲がり。髪の毛は、ごわごわと波打っていき。
 小さな、ちっぽけな老婆のしわしわの手を、真咲は、終は、ぎゅっと握り締め。全てが終るまで、舞姫と沙希が、包み込むように胸の中へと抱き止め。
 ルリの剣が放つ暗黒の波動を、鳥が、ふわりと浮かび上がって避けたところへ。絶苦を刻み込む葬識の鋏が、半球状のモニタへ突き込まれ。
『な、何するんだよー、バカー!(`Д´#)』
 とらの全身から放たれた気糸が幾重にも絡みつき、ぎりと締め上げ。
「さっちゃん、とらと、家族になろうよ。さっちゃんは一人じゃない……とらと一緒に、幸せ探してみようよ、ねっ!」
『あっ? そんな、やめtキフ、ア、ュアウア??≫???ケΤ!!???!!!!』
 ぶつん、と、千切れ。
 やがて、砕けた世界に、眩しい光が差し込んでゆく。

●青い世界
「おはよう、サチ花ちゃん。約束通り、もう一度。俺様ちゃん、君に、恋しにきたよ」
 開け放たれたカーテン。白く輝く朝日。どこからか、小鳥の声が聞こえてきて。
 周囲を囲む、7人の、友人たち。
「…………バカ、ね。こんな、おばあちゃんに……」
「おばあちゃんのサチ花ちゃんのほうが、ずっとずっと、綺麗だよ」
 窓の向こうには、鮮やかな、青い空。
「……バカ……ね……」
 す、と、零れ落ちる雫。それを、そっと、すくい取り。
「サチ花ちゃんは、一人じゃないよ。ずっと、一緒にいてあげる。最期まで、ずっと……ね」
「………………」

 ……約束を果たした葬識は。胸の中、思う。
 こんな殺人も……たまには、いいもんだ。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れさまでした! 『サチカの青い夢』のリプレイをお届けします。

 最後を迎えるその瞬間、彼女が何を思ったのかは、結局のところ、誰にも分からないことでしょう。
 皆さんが導き出した答えは、彼女にとって、そして皆さんにとって、納得の行くものでありましたでしょうか?

 MVPは、熾喜多 葬識さんへ。
 グッときました。なかなか、言えるセリフじゃないと思います。

 それでは、今回は、ご参加ありがとうございました。
 またの機会にお目にかかれますことを、心よりお待ちしております!