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<アーク傭兵隊>サイレントロープの絞殺事件

●静かなる絞殺事件
 あなたに依頼する『あるフィクサードの殺害任務』を説明するにあたって、このエピソードを語っておく必要がある。
 だが、ことの端がどこであったのかを、明確に語ることは出来ない。
 強いて述べるなら、郊外に済むイギリス人男性、ランセル・ジョッソンが連続殺人の容疑で逮捕された所からだろうか。
 市街地で三年間にわたって起こった七件の殺人事件の、容疑者である。
 遺体は全て絞殺によるもので、みな一様にベッドの中で眠るように死んでいた。
 だがおかしなことに『殺人事件である』という状況証拠を除いては一切の証拠が現場に残っていなかったのだ。眠っている間に実態の無い縄が現われ絞め殺し、かすみのように消えてなくなるという都市伝説がまことしやかに語られるに至る始末である。
 操作は難航を極め、探偵業を営んでいたあるリベリスタが捜査に加わったが、分かったことは『犯人は恐るべき証拠隠滅手段をはかっている』という事実のみであった。リベリスタの神秘性調査でもしっぽを掴むことの出来ない殺人犯はしかし、あっけない形で見つかることとなる。
 それが、ある部品工場で働いていたイギリス人男性ランセルである。
 彼は過去に強制わいせつの現行犯で逮捕された経歴があり、『付近に住む元犯罪者を全てしめあげよ』という自棄に近い捜査の末こぼれ落ちてきた人物である。そうでなければまず容疑者にすら上がらなかったと言っていい。
 警察が任意同行の末聴取を行なったところ、まるで自宅で飼うネコの仕草を語るような柔和な表情で、彼は自らの犯行を認めたのだという。
 罪の意識などまるでない。それこそネコを撫でるように七名もの人間を殺害したのである。
 しかも彼は重大な精神障害を抱えており、それが原因で裁かれること無く精神病院へ収容されたのだ。
 だがつい先日、探偵の元に『ランセルが精神病院から退院した』という知らせが届いた。
 ネコを撫でるように人を絞め殺す人間が退院? まずあり得ないことである。
 急いで病院を調査したところ、元々そんな患者は居なかったということが分かった。
 記憶操作によるものか? ありえない。彼の入院期間はその時点で一年余りある。そんな長期的な操作は不可能だ。では賄賂や恐喝による情報操作か? それもない。調査は神秘能力者による決定的で超自然的なものである。
 事前の調査でも、ランセルに『特殊な』神秘能力は無かった。まるでイリュージョンショーである。そう、イリュージョンショー。必ずタネがある。人間が箱からかき消える手品のようにだ。
 だが探偵に迫ったのは、不思議な脱出マジックでも、そのタネを暴いて遊ぶことでもない。恐ろしいシリアルキラーが世に放たれてしまったことと、彼がほぼ確実に次の獲物を狙っているに違いないということである。
 よもや社会の手に任せておくことはできない。
 神秘のものは神秘の手で。
 断固とした破壊をもって、彼が起こすであろう企みを阻止せねばならない。
 ここで今一度述べておこう。
 あなたに依頼するのは、このフィクサードの殺害である。

●『サイレントロープ』ランセル・ジョッソン
 かつてアークと肩を並べた『ヤード』からの依頼である。
 ロンドンで起きた殺人事件とそれにまつわるフィクサード。彼の殺害が依頼内容であった。
「なにぶん急な話だから、情報はとても少ないの。でも、分かっている限りのことを話すわ」
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の小鳥めいた声色が室内に反響した。
「まず判明しているのはランセル・ジョッソンの所在と、種族。そして彼と共生関係にあるエリューションの種類と性質、だけよ」

 ランセル・ジョッソン。
 三十代、男性。
 ヴァンパイア。
 ロンドン郊外の屋敷で生活。親族含め同居人はなし。
 彼は何らかのアーティファクトを所有しているとみられ、その影響によって室内でエリューションと共生している。
 エリューションはロープや手袋に眼球が埋め込まれたような化け物で、彼の精神的な何かを喰うことで存在を維持しているものと見られる。数のほどは不明。

 調査に向かったリベリスタと一般人の混合調査隊六名のうち五名が翌日死体で発見され、残り一名は精神を病んだ状態で保護された。この情報はその一名によるものである。
 非常に高い戦闘力と狡猾さ、そしてヤードたちですら分かっていないトリックが存在しているものと思われる。
「当然、海外でのことだから万華鏡は使えないわ。送られてきた情報しか手がかりは無いの。更に言えば、追加情報を漁る暇も残されてないわ。これ以上の情報は一切得られないものと考えておいて」
 そこまで聞いて、あなたを含めた場のリベリスタたちは状況を理解した。
 何も考えずに『フィクサード一名とエリューションの討伐』程度に構えて行けば、まず間違いなく酷い痛手を負うことになるだろう。最悪何の成果も得られないまま返り討ちにあい、依頼そのものを失敗させかねない。
 当然『リベリスタが出来る限りの』調査は既に済んでおり、その上での情報量である。よもや調査の上塗りをすることはないだろうし、まして精神異常者に対して『どうやってこんなことを?』等と説明を求めるべきではない。愚かなことだ。
 つまり。
 要するに。
 今この場で、あなたと仲間たちが自らの頭脳でもって推理し、何らかの対策を講じる必要があるということである。
「とても危険な任務になると思うけど……無理はしないようにね。自分の身体ほど『唯一無二』なものはないはずだから」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:八重紅友禅  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年03月31日(月)22:22
 八重紅友禅でございます
 今回は海外組織からの依頼に応える派遣任務となっております。
 このため万華鏡が使えず、フォーチュナからの情報は得られません。

 また、このシナリオ内では以下の要素を設けております。
 よくお読みになった上で相談に当たってください。

●事件の推理と対策
 ランセル・ジョッソンがいかなる手段でもって『完全に』証拠のない考察殺人を七件も起こすことが出来たのか。そしてなぜ彼が『完全に』痕跡を残さず精神病院から消えたのか?
 その謎を解明することで、ランセルとの戦闘をある程度有利に進めることが出来ます。
 (※全く分からないままぶっつけで挑んでも、被害こそ受けますがなんとか勝って帰るくらいはできるでしょう。つまり、最悪推理を投げちゃってもいいということです)
 そして当シナリオでは謎を解明し、なんらかの対策をとっていた場合戦闘行動に相応のボーナスがつきます。とても具体的に述べると乱数の出目が良くなります。
 ただし『あれもあるかも、これもあり得る、あの可能性も?』と散漫な状態で挑んだ場合注意がブレてボーナスが激減します。ましてや見当違いの推測をぶつけた場合ペナルティ化することもありえるのでお気をつけください。

●推測される敵と戦闘フィールド
 ランセルの屋敷は郊外にあり、古くて汚れた建物です。
 外見は国では一般的な二階建ての一軒家ですが、内部がどうなっているか全く分かりません。
 ランセルの所在がここであることは分かっているので、屋外で戦闘になる可能性はないと思って置いてください。
 敵はランセルとエリューション。エリューションは恐らくですがエリューション・フォースだと思われます。
 また、現地でのリベリスタ組織の協力は受けられません。というのも、周辺警戒やその他雑務にかかりっきりになるので『現地リベリスタを肉盾に』や『現地人から情報を吸い上げ』といった行動はとれません。
 かなりメタな話をぶっちゃけると、そうでもしなきゃ解決できない状況ではありません。 
 現在提示している情報と、あなたたち八人の戦力で解決可能な事件です。

 以上。
 お楽しみください。

参加NPC
 


■メイン参加者 5人■
ハイジーニアスクロスイージス
アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)
ハイジーニアススターサジタリー
百舌鳥 九十九(BNE001407)
フライエンジェクリミナルスタア
イスタルテ・セイジ(BNE002937)
ジーニアスレイザータクト
葉月・綾乃(BNE003850)
ハイジーニアスマグメイガス
シェリー・D・モーガン(BNE003862)
   

●英国にて
 『大魔道』シェリー・D・モーガン(BNE003862)はゆっくりと壁沿いに歩いて行く。
 壁にかかった何枚かの絵画を見るためだ。
 白い毛並みのネコの画だが、札に書かれた番号が進むにつれてその輪郭をあやしくし、最終的には原型の無い化け物のように変容するというものだ。有り体に言って恐ろしい画である。
「不思議な画だろう。近くの病院に展示されているものだよ。そこに飾ってあるのはレプリカさ」
「病院に……展示じゃと? 飾ってあるわけではなくてか」
「正確には病院付属の博物館さ。英国においてかつてそれらは同じものだったそうだよ。そういった知識は?」
「妾は近代学問に疎くてな」
「ご冗談を」
 イングランドはケント州、ベカナムにその事務所はある。
 今回スコットランド・ヤードから依頼された精神異常者のフィクサード『ランセル・ジョッソン』の殺害のためイングランドまでやって来た彼女たちだったが、その道中(遠回りにはなったが)ヤードに連絡をつけ、顔見せを願った結果が今である。
 といっても、ヤードの面々と会って雑談を交わしている、というわけではない。
 ランセルの事件を担当していた人間は三人いたが、そのうち二人は死亡。一人は精神異常をきたしており話が出来る状態にないという。資料に関してもアークにわたしたものが全てらしく……つまるところ収穫はナシだ。
 だがせめて何か掴んでから行きたいということで、当初警察の捜査に協力したというリベリスタの探偵に会うことにしたのだった。
 これも一応、予定の範囲内である。
「うーん……」
 暫く画を見ていた『BBA』葉月・綾乃(BNE003850)が、小首を傾げて唸った。
「なんだか見たことあるんですよね、これ。有名すぎて名前が出てこないというか……うーん、なんでしたっけこの画家」
「ほう、画家。一般の方ではないんですな」
 全く別のほう(暖炉の上に設置された謎のドクロである)を凝視していた『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)が、くうるりと身体をひねって振り返った。
「確かに巧妙な筆遣いで。綾乃さんはこの方をご存じなので?」
「というか、有名な画ですよ。柔らかい作風の画家が精神を病むにつれて異常な作品を描くようになるっていう」
「精神異常の発露とな。探偵さんも随分とねじれた趣味をお持ちのようですなあ」
「お恥ずかしい限り……と言いたい所だが、異常者を理解せずに異常者の相手はできんよ。人は常識主義にとらわれがちだからね」
 妙な色の紅茶をすする探偵に、綾乃はいぶかしげな視線を向けた。
「『闇を覗く者は闇からも覗かれている』と?」
「犯罪者の心理をしってこそ犯罪者を追いかけられるという意味ですよ」
「まあその人のことはいいじゃないですか。そろそろ現地に行かないと、遅刻しちゃいますよう」
 『モ女メガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)が落ちかけた眼鏡を手のひらで直して言った。
 まあ、『万華鏡』で覗いたわけではない。ランセルが確実に自宅にいるという保証はないし、何時何分に襲撃すれば確実かなどという情報も無い。逮捕される前は部品工場で働いていたと言うだけあって、普通に外出している可能性もある。
「まあ、ある意味ではいつ行っても同じでしょう。少なくとも、今日中であるなら」
 きっちりとしたスーツに身を包んで、『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は席を立った。
 元々五人で押しかけるには狭い事務所だったようで、椅子は二人分しかなかったわけだが。
「もし留守だったとしても、中でうろついているエリューションを討伐すればコトがスムーズに進む。帰宅したランセルに不意打ちを仕掛けることも出来るはずだ。そうでしょう?」
「まあ、それは、そうですけど」
 イスタルテは暫くもじもじと考え事をしてから、ぺこりと探偵に頭を下げた。
「では、そろそろ失礼します。急にお邪魔して、すみませんでした」
「いやいや、若い女性が訪問してきて喜ばない英国男子はいないよ。たいして協力出来なかったことの方が申し訳ない」
「いえいえ」
 当然と言えば当然だが、探偵から直接聞いた話と資料で見た話に違いは無かった。
 これもまた収穫ナシである。
「それではお気をつけて」
「はい。ごきげんよう探偵の、えっと」
 名刺を見つめ、読み慣れない単語やフォントに苦労しつつ。イスタルテはこう呼んだ。
「……アドラーさん」

●ランセルの館
 郊外に建つ古い建造物。地図を手にたどり着いたアラストールは、ひとまず額の汗をぬぐった。
 時刻は夕暮れ前。
 建物には自動車が一台とまっており、塀や柵のようなものはない。
 周囲が木々に囲まれており、小高い丘のような立地になっているからだ。
 丘といっても清々しい要素は一切無い。手入れのされていない木々はうっそうとしげり、まだ西の空にわずかに太陽が残っているはずなのにもう周囲は暗くなっていた。
 建物の二階、その一室に明かりが付いている。
「イスタルテ殿」
「はいはい。ちょっと待ってくださいね。むーん……」
 眼鏡を外し、目を細めるイスタルテ。
 彼女の目には世界が暗視ゴーグル越しのように映り、木や石や壁といったあらゆるものが徐々に透過していった。
 暗視と千里眼の合わせ技である。たとえ室内を暗くしていようとも、地下倉庫の木箱の中身に至るまで全て視認することができた。
 が、全部をじっくりみている暇は無い。
 なぜならば、二階のカーテンが僅かに開き、すぐに閉じられたからだ。若干乱暴な手つきで、それも一瞬のことではあった。だがキラリと光るレンズは確かに見えていたのだ。何のレンズか? オペラグラスのレンズだ。
「襲撃がバレましたな。逃がしては大変ですぞ、急ぎましょう」
 コートの襟を掴んで駆け出す九十九。
 イスタルテは急いで視界を巡らせ、最低限の情報を頭に詰め込んでから九十九を追った。
「内部の人間はひとりだけですかな?」
「いえっ」
「ふむ、やはり共犯者か。人数は」
「えっとそれが……」
 ドアの前に張り付く。当然鍵は開いていない。シェリーは杖をドアノブに押し当てると、魔術の弾丸を放って鍵ごと破壊した。
 これでもう言い逃れは出来ない。相手は一目散に逃げ出すやもしれない。相手がいたのが二階だとすれば、窓から鳥のように飛び出もしないかぎりすぐには逃げられまい。
 が、扉が開き、暗い廊下が露わになったところで、イスタルテは不安げに言った。
「十五人、です」

 明かりのついた部屋とはまた別に、二階には暗い部屋があったそうだ。そこには縄につながれて地面に倒れた人間が実に十五人もいたという。
 明らかに監禁され、気を失っている状態だそうだ。
 十五人。英国もまた法治国家である。そんな人数が急に居なくなれば捜査の手が伸びないはずがない。
「あたしたちへの見せかけ、偽装という線は?」
「襲撃する日をわざわざ教えたわけじゃないんです。そんなの無理です!」
 そう言いながら廊下で足を止めるイスタルテ。
「前方、エリューションです!」
「ふむっ」
 首かけ式のLEDランプを点灯し、銃を構える九十九。
 彼の手に素早くロープが巻き付いた。
 攻撃を封じにかかったか。だが九十九とて負けては居ない。まるでそうされることが最初から分かっていたかのような機敏さでロープをかじると、腕との間にぴんと張らせ、零距離で銃を連射したのだ。
 ぶちんと千切れるロープ。
「イスタルテさん、他には」
「い……いえ、今のだけで――ぐう!?」
 頷こうとしたイスタルテが急に自分の首を押さえた。
「どうした!」
 アラストールが駆け寄るも、イスタルテはぱくぱくと口を開閉させるだけである。
 が、よく見れば彼女の首がまるで『見えない縄』に締め付けられているようにくっきりとへこんでいるのが分かった。
「透明な縄か!」
 首の肉をえぐる覚悟で強引に手を突っ込ませ、力技で引きちぎるアラストール。
 イスタルテは首を押さえ、げほげほとむせながらも自らの回復をはかった。
 その様子を見て、綾乃ははたと気がついた。
 資料を一字一句間違いなく画像記憶していたからだ。
 よく読んでいないと、そして覚えていないと気づかないが、資料には『眠っている間に実態の無い縄が現われ絞め殺し、かすみのように消えてなくなる』という文面があった。連続殺人事件当時に流れた都市伝説だが、よく考えればおかしい話だ。
 人間の痕跡が無い殺人事件というだけなのに、なぜ縄が『消える』必要があるのか。まるで消えることを知った誰かが意図的に噂を流したかのようでは無いか。
「ってことは、あの辺かな」
 フラッシュバンのピンを抜き、階段にさしかかる角のあたりに放り投げる綾乃。
 バチンと異常な音がして、大量の釘が地面に転がった。
「『エリューションのしわざ』は間違いなさそうじゃが、少々読みがぬるかったか」
 シェリーは魔方陣を展開。釘の群れに向けてフレアバーストを浴びせてやった。
「急ぎますぞ。あまりゆっくりしていては逃げられますからな!」
 階段を駆け上がる九十九。足下に透明な張られたロープが張られていたが、『なんとなく』の当て勘で飛び越える。不意打ちを逃したロープが実体化して巻き付いてきたが、これをアラストールが素早く切断。
 ペースを乱すこと無く二階へ到達した。
「右が明るかった部屋です。左が監禁部屋……どうします、分かれますか?」
「この人数で分散は危険じゃ。明るい部屋からいくぞ。恐らくそいつがランセルじゃ」
 扉に鍵はしてあったが、シェリーはそれを強制破壊。
 蹴り開けた扉の向こうにはベッドと棚しかない簡素な部屋があった。
 窓は大きく開け放たれ、風がカーテンを大きくはためかせている。
 男が窓から身を乗り出していたが、扉が開いたことを知って慌ててこちらへ振り返った。
「……ランセル・ジョッソンじゃろう?」
「だったらなんだ」
「アークじゃ、逃げも隠れもできぬぞ」
 杖をライフルのように構えるシェリー。
 男、ランセルは両手を挙げた。
「見逃してくれ。警察には行くから」
「残念ながら司法に神秘を取り扱った項目は無い」
 シェリーの脇を抜け、突撃をかけるアラストール。
 と、周囲にあった大量の釘や工具類が姿を現わし、アラストールへと襲いかかった。
「おっと、引きつけ役は私でしたな」
 急に前に出てきた九十九が、ぱちんと指を鳴らした。
 周囲のエリューションは一斉に彼へ標的を変えて襲いかかる。対抗して周囲へ銃を乱射する九十九。
「私が押さえているうちに早く」
「どうも!」
 フラッシュバンを放り投げる綾乃。
 一方でバウンティショットを連射するイスタルテ。
 ランセルは自らの前方にエネルギーの壁を生み出してそれらを打ち払うと、左手の薬指にはまった指輪を輝かせた。
「なんで、なんで俺が殺されるんだ。悪いことなんてしてないのに!」
「精神破綻者の倫理など知らんな」
 シャリーの放った弾丸がランセルの手首に命中。千切れて飛ぶ。
 次の瞬間、完全に間合いまで踏み込んだアラストールの剣がランセルの身体を腰部分で分断させた。そんな状態になって生きていられる彼ではなかった。彼の上半身は窓から転落し、玄関先のポストの上に引っかかる形で止まった。
「む……?」
 時を同じくして、九十九にまとわりついていたエリューションも消失した。
「ランセルの死亡と同時に消えましたな。さて……と、監禁された人たちを助けてやりますか」
「あ、はい…………んんっ?」
 振り向いて、イスタルテは奇妙な声を上げた。
「どうしました」
「いえ……その、監禁されてる人たち、みんな、消えたんですけど」
「……なんですって?」
 部屋に入ってみれば、そこには薄暗い部屋があるばかりである。
 人など誰もいなかった。
「なるほど、さてはエリューションが化けていたのですな。助けに行ったら不意打ちを食らっていたと」
「ですね。もしかしたら入退院の下りもこれが化けていたってことなのかも」
「かもしれませんなあ」
 彼らは一通り納得し、一応ながらの警戒をしつつ館を出て、ヤードに任務完了の連絡を入れ、その場を後にしたのだった。

●アドラー
 後日談というわけではない。
 事件当日。ランセル殺害任務を達成したイスタルテたちが空港に到着したときのことである。
「私はランセルに共犯者がいたんだと思いましたがのう……」
「百舌鳥もそれ思いましたか。私もです。もしかしたらエリューションに操られてってことじゃないかと」
「どうでしょうね。エリューションに人間の操作や洗脳能力があったのであれば、操作していた人間がそれに気づくはずです。それがエリューションやE能力者による超自然的なものであったとしても、いっそ金を握らせたり家族を人質にとったりといった一般的人為的なものであったとしても、どうしても行動に違和感は出ますし、神秘能力を使ってまで調査されれば足が付くでしょう」
 待合ロビーの椅子に腰掛け、コーラを手にじっと前を見つめるアラストール。
「むしろ私は、調査に向かったヤードに裏切り者が居た可能性を考えたいですね」
「ヤードの裏切りですかあ。かえって難しいでしょうなあ。うち(アーク)ほどでないにしろ世界的なリベリスタ組織ですから、裏切りなんてすれば一発でバレます」
 アークのリベリスタが裏切れない理由は何も万華鏡の目が広いからというだけではない。神秘の能力者とそれを熟知した集団というのは、非常に油断ならないものだ。
 と、そこへ。
「あっ! アークの皆さん、もうこちらにいらしてたんですか!」
 さえない顔の男が駆け寄ってきた。
 確かヤードに挨拶をしに行ったときに見た顔だな、と綾乃は気づいた。逆に言えば彼女の瞬間記憶がなければ気づかないほど影の薄い男である。
「ヤードの者です。今回は本当にありがとうございました。たった五人だというのにあの事件を一日で解決してしまうだなんて、僕しょうじき、感激してます!」
「まあまあ、そう興奮せずにー。たまたまうまくいっただけですよう」
 褒められたのが嬉しいのか、イスタルテがくねくねとしながら両頬に手を当てた。
「帰りの挨拶、していけばよかったですかね」
「とんでもない! こちらが出向くべきだったのに、僕先輩に怒られました。今回はそのへんを謝る意図もあって……」
「あ、そうなんですか」
 どこの世界も組織というのは大変なものだ。
 アークの自由さを少しはわけてあげたい、とか思ったイスタルテである。
「挨拶といえば、アドラーさんにも挨拶するべきだったかもですね。もしよかったらよろしく伝えてくださいね」
「え、はあ……」
 男はきょとんとして、こう言った。
「アドラーというのは、どなたです?」

 時間は飛んで、飛行機内。
 日本とイギリスの中間あたりを飛んでいる頃だろうか。
 隣通しの席になった綾乃とシェリーは、それぞれ雑誌を眺めながら呟いた。
「どう思った?」
「あの探偵偽モンだなって思いました。そちらは?」
「ダブルキャスト。そして怪盗スキル」
「イグザクトリィ! っていうか気づくべきでした。探偵の名前がアドラーって。冗談キツいですよね。偽名丸出しだったのに」
「ふむ、というと?」
「ほら世界一有名な探偵を唯一翻弄できた女性キャラクター、いたじゃないですか。知りません?」
 シェリーは雑誌から顔を上げ、片眉を上げて見せた。
「近代学問には疎くてな」

 リベリスタたちは恐ろしき精神異常者にして連続殺人犯ランセル・ジョッソンの討伐に成功した。
 だが彼に『存在していたかもしれない』協力者は、今もどこかにいるかもしれない。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 Strangulation of silent rope
 ――Mission Complete!