●ノーフェイス 不死と呼ばれたノーフェイス『桜庭・葵』。 尽きぬことなき再生力を持つ彼女の不死の正体は、『巣』から供給される数多の蟲だった。 故にノーフェイスを滅ぼすには『巣』を先に攻め滅ぼさなければならない。 リベリスタはアークからの回復を受けて、『万華鏡』が示す場所に急ぎ移動する。 ●リベリスタ 「この奥があの女の塒か。……いいにおいがするじゃねェか」 『悪漢無頼』城山 銀次(BNE004850)が洞窟の入り口を前にして、笑みを浮かべる。危険をかぎ分ける感覚が、この奥にある『何か』を察していた。 「大事なモノがあるんだから、無用心に入っていけるとは思えないわね」 『そらせん』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)が洞窟の危険性を推測する。電子的なトラップはないだろうが、何もないということはないだろう。 「鬼が出ようが蛇が出ようが、ここで立ち止まるわけにはいかないだろうよ」 ランディ・益母(BNE001403)が洞窟の奥を見ながら、静かに告げる。確かに最大の悪手は時間を失い、『巣』を襲撃する機会を逸脱することだ。 「そうじゃな。時は金なり。もたもたしておると、あのノーフェイスが帰還するやもしれぬ」 『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)が、さっきまで戦っていた戦場のほうを見ながら呟く。全員で戦えば負けはないだろうが、長期戦になればいつかは疲弊する。そうなれば戦線崩壊を起こすだろう。 「『万華鏡』からの情報によると、危険なポイントは三つです」 アークから得た情報を『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)が纏め上げる。強敵との戦いはないが、無鉄砲に突破するには難解な箇所だ。 「まずは幻覚を見せる燐粉をばら撒く蝶……」 フィティ・フローリー(BNE004826)が第一のポイントを読み上げる。視界を奪い、目標認識を狂わせる幻覚作用を持つ粉。無理やり突破すれば、洞窟の岩場にぶつけて怪我をするだろう。 「次は岩場に擬態する甲殻虫、ですか」 ふむ、と声を出しながら『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)が第二のポイントを読み上げた。じっとしていれば全く岩と区別がつかない虫。不意打ちを受けることを覚悟で突破するか、あるいは何かしらの手段で見破るか。 「最後は巨大な芋虫が通路を塞いでいるみたいですね」 幻想纏いに写る道一杯の芋虫を見ながら『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)は思案する。物理的に排除するか、癒しを行使して眠らせるか。どちらにせよ、時間はかけてられない。 「虫さん沢山です!」 嬉しそうに『純情可憐フルメタルエンジェル』鋼・輪(BNE003899)が手をたたく。虫が大好きな輪は、蠢く虫たちに大喜びである。殺すのはもったいないけど、これも任務だ。放置すれば多くの人間が死んでしまう。 「ノーフェイス帰還までに『巣』に強襲をかけれればよし。その後、ノーフェイスの打破。最悪は『巣』まで強行突破をする必要があるな」 『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)が特殊な燃焼剤を含んだカプセルを手にする。『巣』にこれを投げ込めば、中にいる幼虫を一気に殲滅できるだろう。一匹ずつ潰すには時間が足りない。 体調は完全とは言いがたいが、それでも立ち止まる余裕はない。 リベリスタたちは洞窟の中に、足を踏み入れた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年04月06日(日)22:58 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●洞窟の前で 「殺す算段もついた、後は叩ッ斬るだけだなァ。それじゃあ派手に往こうぜェ」 先陣を切るのは『悪漢無頼』城山 銀次(BNE004850)だ。からんからんと下駄を鳴らし、洞窟の中を歩いていく。洞窟の中が危険なのは承知の上だ。それを理解したうえで、先陣を切る。それは恐れを笑い飛ばす義侠の心。 「虫さんが沢山です! わくわくが止まりません!」 先ほどから喜びの感情を隠そうともしない『純情可憐フルメタルエンジェル』鋼・輪(BNE003899)。虫さんだいすき。ずっとここで遊んでいたいぐらいである。そういうわけにもいかないことは分かっているが。 「とっても面倒くさい障害物競走……って事でいいのかしら?」 白衣を翻し、『そらせん』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)が洞窟の先を見る。ソラの表現は的を得ていた。障害は三つ。そして突破するまでに追いつかれれば、面倒なことになる。先に『巣』までたどり着き、その後にノーフェイスを打破する。これがベストだ。 「危険なポイントも『万華鏡』により把握済み。後は……そう、私達次第です」 『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)が『万華鏡』の情報を頭の中で再確認しながら歩を進める。幻覚と擬態、そして巨大な虫。それ以外にも虫の姿は見ることができる。それに滅入りながら先を急いだ。 「こういう耐久戦はどちらかと言うと得意ですので」 『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)は普段と変わらぬ口調で告げる。多くの障害の後にノーフェイスとの闘い。そういった耐久戦れはうさぎの得意とする分野だった。ノーフェイスが来るまでの時間を時計を見て確認する。まだ、大丈夫。 「多数の蟲が役割を以て連携している……ノーフェイスを女王とした蟲の一群ですね」 ノーフェイスの不死性と『巣』の関係性を『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)が口にする。自らに幼虫を宿らせ、無限の供給を得る。そうすることによって得た不死。まさにノーフェイスを頂点とした生態系だ。 「供給源を断たれたらそこまで、かぇ? 不死と呼ぶには余りにも脆弱じゃのぅ」 『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)はノーフェイスの不死性を、逆の観点から見ていた。生まれてくる幼虫に頼った偽りの不死。さながら電気製品と電気の関係のようだ。そしてその供給源も、いま断たれようとしている。 「財布を壊してしまえば、もうコンティニューできないよね」 ゲームセンターのことを思い出しながら、フィティ・フローリー(BNE004826)が頷く。無限にリトライできる存在。何度も戦えば、いずれ勝てる。そんな存在は認めない。二本の短剣を握り締め、洞窟内を進む。 「知られた神秘はすでに神秘には非ずだ」 『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)がコンバットナイフを手に静かに告げる。不死性のタネは割れたのだ。ノーフェイスを滅することも不可能ではない。そのための障害を排する為に、今は進むのみ。 「不死なのに子を増やすってのもおかしな話だ」 『墓堀』ランディ・益母(BNE001403)がため息と共に疑問を口にする。不死になったことはないから分からないが、死なないのなら無理に子を残す必要はないのではないかと思う。勿論、それが死なない為のカラクリなのは承知の上だ。 「そろそろ第一関門だぜェ」 銀次が他の仲間達に注意を促す。『万華鏡』が予知した危険なポイントの一つ目、その場所はもう目の前である。 ●ニジイロフタバチョウ 洞窟内に飛び交う黒の蝶。見た目麗しきその蝶には、恐ろしい特徴があった。 その燐粉を吸った者は、幻覚を見てしまうのだ。常時なら何とかなる程度だが、戦闘などの緊張状態では狙いが狂い、致命的になる。 呼吸のたびに体内に入り、洞窟内を見渡せば目から燐粉が入る。風吹かぬ洞窟内において避けようのない卑劣な罠。無策で立ち入れば、同士討ちも起こりかねない。 だが、それは燐粉のことを知らなければの話だ。当たり前といえば当たり前だが、ここを構築したノーフェイスは『万華鏡』のことなど知りやしない。つまり、この洞窟のことを予知されるなど想像の外である。 十人のリベリスタたちは、問題の場所に来ると幻想纏いからガスマスクを取り出す。頭部を完全に包み込み、覆い隠すタイプである。 「燐粉は粘膜から吸収されないかぎりは効果を発揮しない。これで十分対応できるはずだ」 ウラジミールがガスマスクの調子を確認する。呼吸を行う吸気缶と呼ばれる部分に薄いフィルターを入れて、封をする。また空気を吐き出す排気弁がきちんと動くことも確認し、問題ないことを確認し、マスクに装着した。 「手馴れてますね、さすが軍人」 ウラジミールの手際を見ながうさぎもガスマスクを確認する。何箇所かある止め具を確認し、視覚確保用のレンズを拭く。面倒な手間かもしれないが、これを怠ればマスクの意味がなくなる。 「しかし効果あるのかねェ、これ」 銀次がガスマスクを手にして怪訝な表情を浮かべる。理屈としては納得できるが、如何せん相手は神秘の類だ。破界器のガスマスクがどこまで効果があるのか怪しい……ということもあるが、根本の問題としてガスマスク自体への不信感がある。何せ日常生活で使ったことのないアイテムだ。 「過信は禁物だが、走って通り抜ける分には何とかなるだろうよ……しかし蒸すな、これは」 ランディはガスマスクを付け、銀次の問いに答える。呼吸器と瞳から燐粉が入ってくることはこれで防げるだろう。顔を完全に密封し、フィルターを通しての呼吸だ。熱が篭り、水分が溜まって行く。 窮屈な思いをするリベリスタたちだが、 「あの、髪の毛が絡まって……」 「とりあえず、リボンか何かでまとめましょう」 長い髪の毛のせいで、上手くマスクがつけれないユーディスとミリィ。常時なら見た目麗しい長髪なのだが、まさかこんな躓きがあろうとは。慌てて髪を結い始める二人。ガスマスクで突破することは分かっていたので、準備に時間はかからなかった。 「私たちも一旦解きますか」 「輪は直で虫を見てみたいかなー。冗談ですよ」 フィティと輪がツインテールを解く。さすがにガスマスクをつけることができそうにない髪形だから、仕方ない。ふさぁ、と止められた髪の毛が解けた。輪も冗談を言いながらガスマスクをつける。 「ガスマスク水とか、需要があるかも知れんぞ」 「さすがにニッチ過ぎるわね、それは」 ガスマスクに酸素ボンベ、そして着物の瑠琵。そしてガスマスクにスクール水着のソラ。安全性確保の為とはいえ、その姿は新世界を感じさせる姿である。変な格好なのは自覚があるが、背に腹は変えられない。 ともあれ、リベリスタたちはあらかじめ用意してあったガスマスクを付け、最短速度で幻覚の障害を突破したのであった、 「時間もかけていられないので強行突破です。残念」 輪の残念そうな声を最後に、リベリスタたちは駆け足で洞窟を進んでいく。 ●イワゾウムシ 擬態。 大雑把に説明すれば、風景などに似せることで外敵から身を守り、そして攻撃する為の行動である。一般的には視覚だが、中には音などで自らを危険な存在と思わせ、身を守るものもいる。 この区画にいる虫は、岩に擬態して息を殺している。注視した程度では判断がつかず、擬態看破によるタイムロスは背後からノーフェイスが追ってくる状況では避けたいことだ。 「輪、どうじゃ? 天井にいるかもしれんからしっかり見るんじゃぞ」 「ばっちりです! 無生物のみを透過するっていうから透けないのが虫さんですね!」 瑠琵の問いかけに輪が元気よく返す。輪が会得した透視の神秘で、岩とそうでない存在の区別はほぼ完全に看破していた。とはいえ、岩一つ一つを透視していかないといけないので、それなりに時間はかかる。 「透視の目を使えば、家具の陰に隠れてる虫さんも見れますよね。うわ、どうして今まで気づかなかったんだろう!」 「家の中で透視しないようにするわ」 輪の喜ぶ声を聞きながら、ソラがうんうんと頷く。透視の神秘の有無はともかく、見えないほうが幸せなこともある。 それはさておき、輪が透視してある程度の虫は発見する。この区画を通行する際に避けては通れない擬態虫の数は六匹。その場所も仲間に伝え、虫の位置はほぼ露見した。 「一気にいきます」 「あぶりだすわよ」 ミリィとソラの神秘の光が、擬態している虫に打撃を加える。その攻撃で擬態が看破されていることを知った虫は、擬態を解いて手近な侵入者に襲い掛かる。岩肌の甲殻虫。人の皮膚なら食い破りそうな顎を広げ、噛み付いてくる。 しかし不意をついて攻撃するのが彼らの戦略。純粋な戦闘能力は、リベリスタが圧倒していた。 「そこです」 天井を歩くフィティのナイフが一閃する。彼女の速度からすれば、虫が襲い掛かる速度などとまっているも同然。ナイフが虫の腹を裂いた。 「てめぇは黙ってなァ!」 銀次の刀が振り下ろされる。斬るというよりは叩いて落とす力強い一撃。虫は地面に叩きつけられて、そのまま転がり動かなくなる。 「そこです」 ユーディスの槍が横に払われた。長柄かつ重量のある槍は、飛んでくる虫を巻き込むように振るわれる。遠心力に弾かれるように虫が壁に叩きつけられる。 「位置がわかりゃ、怖くもなんともないぜ!」 ランディが斧を振りかぶり、襲い掛かる前に虫に振り下ろす。手の平に伝わる、岩でないものを断った感覚。真っ二つに割れた虫は、地面で痙攣してそして潰えた。 「避けれないのならキッチリ処分しましょう」 うさぎが半円型の破界器を手に虫を視界に捕らえる。この任務を受けた以上、目的はしっかり果たす。そのために必要なら、命を奪うことに躊躇いはない。 「これでルート確保だな」 ウラジミールがナイフで六匹目の虫を倒し、仲間を誘導する。仲間が全員通過するまで、擬態虫がいない場所を歩くようにナビゲートするつもりだ。後ろから追っ手が来れば即座に走り出せるよう、視覚を最大限まで望遠できるようにしてある。 無事全員渡りきり、先を急ぐ。 「へっ、ここからが本番だぜ」 銀次が刀を握り締め、洞窟内を進む。 答えはない。それが逆に、次の区画の厳しさを示していた。 ●ベニテングチョウ(幼虫) 洞窟の栓をするように立ち腑あ下がる巨大な芋虫。その大きさゆえに芋虫自身も身動きが取れないが、それでも道を塞ぐという役目は十分に果たしている。 壁と芋虫の肌に押されながら強引に突破することは可能だろう。本当に時間がないときはそうするしかない。 時計を手にしたうさぎが全員に残り時間を告げる。リミットラインを決め、全員が破界器を手に芋虫に攻撃を仕掛ける。 「本当にみっちり道を塞いでる……」 天井を足場として戦うフィティが、逆さから芋虫を見ながらうんざりした声を出す。ジャマダハルの二刀が交互に繰り出される。剣閃に光の軌跡が走り、緑色の体液がフィティの肌にかかり、肌を焦がす。 「腐食性の体液か」 ウラジミールが切りかかった際に降り注ぐ芋虫の体液を受けて、歯を食いしばる。あらゆる障害に耐えうるウラジミールだが、直接的に肉体を侵食する毒は塞ぎようがない。ダメージ具合を確認しながら、攻撃の手を止めずに突き進む。 「時間的な余裕はありますが、桜庭さんが追いついてこないとは言い切れません。一気にいきましょう」 タイマーを気にしながらうさぎが破界器を振るう。ノーフェイスの足音はまだ聞こえない。だが、油断はできない。『巣』を打破するまでは彼女は死なないからだ。疲弊したところを襲われれば、いつかは力尽きる。いざとなれば―― 「いざ追いつかれそうになったのなら、強行突破あるのみです」 ユーディスが槍に聖なる光を纏わせて、深く突き刺す。皮膚を貫き、肉を穿つ感覚が手の平から伝わってくる。ここで手心を加えるつもりはない。自分達が失敗すれば、多くの人間が犠牲になるのだ。持ちうる最大火力で攻め続ける。 「これだけ狭ぇと思い切り暴れることもできねェ。面倒だぜ」 銀次の振るう刀が芋虫に深く切り傷を刻む。十人のリベリスタが並ぶにはこの洞窟は狭すぎる。そいつが厄介だなぁ、と不満をこぼしながら刀を振るう。動きは鈍重だが、体力は高そうな巨大芋虫。しかしそれとていつかは尽きるだろう。 「問題ありません。この布陣で攻めれば勝機はあります」 仲間達に的確な指示を出すミリィ。仲間の特性と性格、武器の長さ、そして芋虫の性質……。戦場で観察しながら情報を得て、それを効果的に運用する為に頭を働かせる。一手が次の一手に繋がる、そんな勝利へのラインを組み立てる。 「ああ、とにかく最大火力で攻めるだけだ!」 戦斧を振りかぶり、ランディが吼える。気合と共に振り下ろした斧から衝撃波が地を走る。衝撃を受けた芋虫が、大きく揺れた。耳を澄ませば、自分達が歩いてきたほうから何かがかけてくる足音が聞こえてくる。だが、まだ遠い。 「次の戦いの準備をさせてもらうわ」 ソラは芋虫からエナジーを吸い取り、自らの活力に変換する。追いついてくるだろうノーフェイスとの戦いを意識してだ。回復を行う為のエネルギーをいまのうちに得て、戦いを有利にする為に。 「いもむしさん! ぷにぷにしたい!」 芋虫を前に虫好きの欲求が迸る輪。こういう状況でなければ、遠慮なく触っていただろう。地面を蹴り、生まれたスピードを殺すことなくナイフに載せて切り刻む。体内のギアを上げて、ナイフの動きが加速する。 「確かにこれだけの芋虫を触る機会というのはもうないかも知れんのぅ。それを思えば惜しいことじゃ」 瑠琵が惜しむように呟き、芋虫からえベルギーを吸い取る。瑠琵もソラと同じく、この後のノーフェイス戦を視野に入れての攻撃を行っていた。勿論芋虫の攻撃の手を緩めているわけではない。全体を視野に入れ、最大効率の攻撃を選択しているのだ。 リベリスタの攻撃は芋虫に深く突き刺さる。最大火力を叩き込まれた芋虫は、ユーディスの槍を受けて痙攣し力尽きる。絶命の悲鳴も言葉もない。発声させる機関すらないのだから当然といえば当然だが。 「では行ってきます」 うさぎが倒れた芋虫を乗り越えて、奥に進む。手には特殊な燃焼剤。これで奥の『巣』を焼却する。それでノーフェイスの不死性は消えてなくなる。 「ノーフェイスがくるまでに回復しておくわ」 「さして傷は入っておらんがの」 ソラと瑠琵がリベリスタの傷を癒す。地上での戦いの傷は完全にいえていない。その傷が致命的になる可能性がある。その懸念が消せるなら、それに越したことはないだろう。 『巣』のほうで何かが燃える音がする。特に障害なく『巣』の焼却が終わったようだ。 「貴様等……よくも!」 うさぎが戻ってくると同時、怒りの表情を浮かべたノーフェイスがやってきた。一度目の戦いで見せた余裕は、欠片も残っていない。自らの不死を壊され、怒り狂っているように見える。 「さて、今回こそここで終わりにしましょう」 ソラの言葉を合図にリベリスタたちが破界器を構えて、陣を組む。何度倒しても蘇るノーフェイス。その不死は潰えた。彼女を『殺す』為の障害は、もはやノーフェイス自身の強度以外は存在しない。 いまここに、不死を殺すという矛盾(ぶそう)が抜き放たれる。 ●『蟲使い』桜庭・葵 「さぁ、最後の刻を奏でましょう」 ミリィがクェーサー最奥の秘儀を展開する。自分、仲間、敵、戦場……全ての戦いの『要因』を音に変換し、頭の中で組み立てる。一元化された情報を無限に組み立てながら、最も効率よい流れに組み替える。その指示に弾けるように動くリベリスタ。 「行きますよー!」 洞窟内を走る輪。自らのギアを上げながら、手にしたナイフを回転させる。蟲使いの神秘には触れてみたいが、危険が伴うことを輪も承知している。虫は愛でるものだ。道具として使うものじゃない。手にしたナイフが、ノーフェイスの皮膚を裂く。 「傷の修復はさせないわ。私たちがキッチリ殺してあげる」 虫による再生を食い止めるべく、ソラが魔力の矢を放つ。吸血の呪いが篭められた矢はソラに活力を与え、同時に再生の為に集まった虫たちの力も奪う。拘束の魔術が、ノーフェイスを追い詰めていく。 「ボトムの人たちを守るために!」 天井を足場として戦うフィティ。その二刀がノーフェイスを襲う。光の帯が高速で走り、それがノーフェイスを幻惑する。高速展開の短期決戦がフィティの基本戦略。事実、芋虫への攻撃もあってエネルギーの疲弊は激しい。 「虫とはいえ、油断ならぬ相手だ。確実に攻めていくぞ」 ノーフェイスの虫による障害をウラジミールが取り払う。暖かい神秘の光がリベリスタを包み込み、纏わりつく虫や注入された毒を流し去っていく。任務達成の為に、そして何より仲間を守るために。言葉なく仲間を支えるロシヤーネ。 「ガス欠が心配なら、わらわが何とかしてやろう」 敵味方両方の疲弊を確認しながら、瑠琵がフィアキィを召喚する。異世界の三つの月。その淡い光がリベリスタを包み込み。一つの光りは体を癒し、、もう一つの光は気力を増し、最後の光は体内の不調を払う。リベリスタに新たな活力が満ちてくる。 「カッ! 手前ェ、本当に打つ手がねェようだなァ!」 刀を振るいながら銀次が吼える。何かの策があると思って五感を研ぎ澄ましているが、なんら怪しい音は聞こえてこない。相手の気迫も確かに感じる。本当に真正面から叩き潰す怒りのみで、ノーフェイスは迫っていた。 「今度こそ終わりにしましょうか」 長く続いた戦いもこれで終わり、とばかりにユーディスが槍を振るう。時間にすれば半日程度の付き合いだが、それでも長く感じてしまう。プロテクターの重量を槍に載せるように、振り下ろす。堅牢な騎士の全てを乗せた一撃。 「私も喪に服させて貰います。貴女と、貴女の子供達の」 うさぎがノーフェイスの目を見ながら言い放つ。彼女の『子』を殺したのはうさぎだ。それを任務だから仕方なかったと偽るつもりはない。自ら志願した道だ。その怒りも咎も全て受け入れる。その意志がうさぎの瞳にあった。 「不死なんぞロクな事ねーんだろうな」 ランディが斧を振りかぶり、ノーフェイスに語りかける。死なない体に興味はない。だがそうする必要があるなら、それも考えなくてはいけない。世界は不条理で不平等だ。それを正す為に必要なら、あるいは―― 怒りに燃えるノーフェイスの攻撃は苛烈だが、リベリスタたちはそれを凌いでいる。胸を食い破って襲い掛かる百足をいなし、指先の針を身をひねってかわす。勿論全てを避けきれるものではないが、ソラと瑠琵が傷を癒し、ウラジミールが虫が与える障害を取り払う。 「まだ負けませんよ!」 「ここで終わらせます」 燐とフィティがノーフェイスの攻撃で運命を燃やす。だがノーフェイスの猛攻もここまで。じわじわとリベリスタたちに追い込まれていく。 ノーフェイスの逃亡を心配していたランディとウラジミールだが、その気配は全くなかった。ただひたすらに『巣』に向かおうとするノーフェイス。自らの危険を顧みないその動き。その動きはまるで、 「子を心配する母のようじゃな」 「虫でも親子の情はあるみたいだな」 気づいたのは人生経験が深い瑠琵と銀次。ノーフェイスの動きは自分の子を殺され、鬼気せまる親そのものであった。絶望深い表情と、まだ生きている希望を含めた焦り。事実ノーフェイスの攻撃は、『巣』への進行方向を邪魔するもののみに向けられている。 『所で、そもそも貴女の目的ってなんなんです?』 『我が『子』を多く生むことじゃよ。人間を食らって、それを養分として』 うさぎは以前ノーフェイスと交わした会話を思い出す。本当に彼女が求めていたのは不死ではなく、言葉通りだとすれば。 「不死なのに子を増やす……おかしいと思っていたが、そういうことか。不死になるために子を宿したんじゃなく、子を生み結果として不死になった」 「蟲使いを頂点とした生態系。そういうコミューン。……なるほど、不死自体はコミューンを守るための『擬態』だったのですね」 「むしさんすごいです!」 ランディとユーディスと輪が合点が行ったとばかりに頷く。不死性自体は蟲という集団を守るための手段だったのだ。生命の神秘か、神秘の生み出した生命か。どちらにせよ、人知を超えた結論だった。 「得心した。不死自体が目的なら、この洞窟を放棄して別の場所に『巣』を作るほうが安全だからな」 「私たちが『巣』に襲撃をかけることは、分かっていたのにね。それでも戻ってきたということは、そういうことなんでしょう」 ウラジミールとソラが必死に『巣』に向かおうとするノーフェイスを見る。傷は多く、再生を行う蟲も封じされている。もはや彼女の生命は風前の灯火だ。それでもなお引くつもりはない。その必死さには、そういう理由があったのだ。 (蟲使いを頂点とした集団……) フィティはかつてのフュリエの集落を思い出していた。シェルンを長とした精神的な繋がり。フュリエのそれと蟲使いを比べるのは間違っているが、親が子をそして同胞を思う感情は理解できる。バイデンに仲間が殺されたときの痛みは今でも忘れない。 「だとしても、手を止めるわけにはいきません」 ノーフェイスは元は人間だ。誰かを想い、愛する感情がある。ミリィはそれを再確認する。そして世界の為にノーフェイスは許してはいけないという事実も。人よりも蟲を愛した桜場葵。そこにどんなドラマがあったかは、もはや知る由はない。 「さようなら、桜庭葵。貴方の命はここで終曲です」 ミリィの瞳が桜庭を捕らえる。相手全てを見据え、圧力をかける神秘の瞳。覚悟を載せた圧縮された一撃が、不死の生命を断った。 ●蟲使い 蟲を使うという革醒者は、現在のところ確認されていない。 だが蟲毒などの蟲を使う呪術は記録として残っている。その多くは蟲に『穢れ』を押し付け、その穢れを解き放つものだ。 例えば蟲を体内に入れる集団がいたとすれば、それは体内に『穢れ』を含む人間と同意だ。そういった集団が国を、ひいては世界を守ったとしても誰が英雄と認めてくれるだろうか? 故に蟲使いという革醒者がいたとしても、記録には残らずそして歴史からも消えて行ったのは必定といえよう。 これは仮の話だ。真実は誰にも分からない。 ただいえるのは、虫を使うという革醒者は現在のところ確認されていないという事実だけだ。 ●不死を殺すという矛盾 『巣』の焼却は程なく終わり、大量のたんぱく質が焼け焦げた匂いが充満していた。燃焼による高温、それによる呼吸阻害。この条件に耐えられる生命は、多くはない。 「だが完全にいないとは言い切れまい。徹底的に潰すまでだ」 「ええ、最後までキッチリこなさせてもらいます」 ウラジミールとうさぎは焼け跡を念入りにしらべ、生き残りがいないかを確認していた。 「それらしい音は何にも聞こえてこないぜ」 「全く真面目だねェ」 ランディと銀次は洞窟内で怪しい羽音がしないか、耳を済ませていた。言いながらも蟲の生き残りを探すことに反対はしない。 「蟲使いの技術の記録があれば欲しかったんじゃがなぁ」 「さすがになにもありませんね」 瑠琵と輪が蟲使いの技法を求めて『巣』の跡を捜索していたが、それらしいものは見当たらなかった。完全に失伝したか、あるいは異界のモノなのか。 「これでいいかしら」 「安らかな眠りを……」 ソラとユーディスが墓を掘り、蟲の養分となり骨だけになった遺体を埋める。ノーフェイスがいままで育ててきた幼虫の餌。人を食らう蟲の犠牲者達。 「行きましょう、皆さん」 「戻って報告です。あとは傷も癒さないと」 フィティとミリィの声に、リベリスタたちは『巣』から立ち去る。十分な捜査は行った。これ以上時間をかけると、心配をかけるだろう。 リベリスタが去り、生命の気配が完全に消える。日が差さぬ暗闇の中、動くものはなにもない。 その静けさは、人を食らって不死の循環を続ける蟲使いを砕いた証。 不死を殺すという矛盾は、いま鞘に収められた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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