●雪解けと共に現れる 「いやーもうすっかり春じゃのーばあさんや」 「そうですねーじいさんや」 とある田舎の山中、一息休憩と道ばたに座り込む老夫婦がほのぼのお茶を飲む。すごくまったり。慣れているのか、はたまた地元だからか、ほとんど身一つである。 「今年も桜は綺麗に咲くかのう」 「毎年ソレが楽しみですものねぇ」 穏やかな時間、二人の大事な楽しみ。そんな山の奥深くへと目を向ける二人、奇妙なモノが目に入る。 「おや、あれはなんじゃろ、何かこっちへ来るぞ」 「ありゃーずいぶん大きいですねー雪玉にしても…」 しろくてまーるいそいつらから、この時逃げ出していれば後の悲劇はなかったであろう。 翌日老夫婦は幸せそうに冷たくなっているのが発見されたという。 春、それは暖かな季節。雪解けと共に訪れるそれに便乗して、色々なモノが起きてくる、冬眠開けとも言う。 そんな中で、とある山奥に眠っていたものが動き出す。 それは本来冬眠しないはずのモノ。されどなぜかうっかり冬眠しちゃっていたモノ。 そしてそれはなんだかとってもふわふわしてもこもこしているのでした。 そう例えるならソレは――。 ●だけどお帰り下さいましてください 「というわけでE・ビーストぬくぬくほわほわうさぎさんの排除を御願い」 「どういうことかな、それ!」 ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達が、淡々としたいつもの依頼人『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)につっこんでいた。いつも通りです。 「……? 落ちついて、ただたんになんか進化して凄いふわっふわのもふっもふの毛玉になったばかでかいウサギなだけだから」 ああ、それでそう言う名前なんですね、と納得半分、脱力半分のリベリスタ達。まぁ今回はそう言うお仕事なので諦めるといいんじゃないかな。というわけでイヴは資料を見るように促す。 「納得したみたいなので続ける。対象はとある山奥に入ると敏感に察知して襲ってくる、誘導は容易。先の悲劇も未然に防げる」 だからちゃっちゃと倒してきて欲しいのだ、とイヴは言う。場所的に雪解けが始まったくらいで結構雪が残ったりして滑ると危ないから注意して、とも忠告付きである。 「討伐対象、ぬくぬくほわほわうさぎさんは全部で五匹、両親と子供三匹。見た目一回り小さい方が子供、ちょっと体力が低いみたい。全員フェーズは2」 冬眠してる間にそこそこ力を蓄えたっぽい、子供の方でもそこそこタフだから其処はあまくみないこと、とイヴさんの指さし確認。 「フェーズ2になると肉体や本質が変容し強力な特性を備える等の大きな変化があるのは知っていると思う。今回のE・ビーストの場合は、すごくもっふもふなその毛。みためからして3m級、全身を毛がおおっていて、手足とかもう見えないくらい、顔だけ出て跳ねて移動する」 すんごいメルヘンな生き物ですね、とほのぼのする一同。犠牲者が出るくらいなので一瞬後には気を引き締めていたが。 「メルヘンだけど甘くない、そのふわふわで物理的な衝撃に対して凄く強い。神秘的な攻撃はそこそこ通じるけど其れでも堅い。また、各種BSにも強いのでわりと厄介、特に体力を削るタイプのBSは効果がないどころか、相手の攻撃の威力が増えるくらい」 その分素の攻撃力はそこまで高くないから、適切に対処すれば何とか成るはず。だから頑張ってとイヴは発破を掛ける。 「攻撃手段はもふもふしたり、鳴き声をあげたり、耳が巨大化して首を狩りに来る」 最後がおかしいよ! と突っ込む声はスルーされる。曰く、ウサギが首を取りに来るのは常識、とのこと、なにかがおかしい。が誰もつっこめない、有無を言わせない迫力があった。 「あ、最後に、凄いもふもふだから……その、出来れば体験して感想文を提出すること」 出て行こうとしたリベリスタ一同ずっこけたが、イヴさんはしれっとしていたそうです。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:天夜 薄 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年04月27日(日)22:13 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●待ちぶせ 事前に出現場所として言い渡された山中から、比較的戦いやすそうな場所を選んで、リベリスタはエリューションを待った。毛玉のごとき姿をしているという彼らを。 その体はもっふもふだという。 その体はふっわふわだという。 そして何よりでかい。 「これは……う、兎……でいいのかな……? なんだか凄いもっふもふみたいだけど……」 と『儀国のタロット師』彩堂 魅雪(BNE004911)が入ったのも無理ではない。ブリーフィングルームで見た姿とそれらの情報を総合するに、もはやウサギとは別種の愛玩生命体である。 なるほど、これならイヴが感想文を提出せよと言うのも分かる。 その体の持つ気持ちよさ……もとい脅威は計り知れない。 「世界の綻びが生み出した、兎の親子か……かわいそうだけど殲滅しなきゃな……しかし何というほわほわ……隙あらば毛に塗れて……うへへ」 月杜・とら(BNE002285)もまた、その欲求に飲み込まれつつある一人であった。『力の門番』虎 牙緑(BNE002333)は気の抜けた様なとらの顔を見ながら、 「ま、暖かそうな毛玉ウサギだよな。冬山で遭難した時に出会ったら、カミサマに感謝しちゃいそうだ」 と合わせた。彼だってそれが気にならないわけではなかった。 「家族思いだし、殺しちまうのはかわいそうな気もするが、人を襲うなら仕方ないな。倒すしかない」 「そうだな。凶暴な性格ではないようだが、その存在はいずれ脅威となる……」 『完全懲悪』翔 小雷(BNE004728)は真面目な顔で言い、ウサギの潜むだろう山を見つめる。 子を守る親、親を敬う子供。睦まじい彼らを引き裂くのは、いささか残酷な気はしても、崩界を招く危険な存在だ。彼らの平穏を許すわけにはいかないのだ。 まったく、メルヘンならメルヘンらしくおとなしく過ごせばいいのに、と『落ち零れ』赤禰 諭(BNE004571)は呆れたように言う。 「ま、変に成長されても面倒ですしね」 (しかし、あれの何処が、どうかわいい?) 『Seraph』レディ ヘル(BNE004562)が怪訝に問うのを感じ、論は思わず失笑した。 「やれやれ、毛玉を見て表情を緩めるぐらいの可愛げはないのですか?」 (どのような見た目でも崩界因子に変わりない。排除する) 「その鉄仮面を緩めれば、爆笑できたのですがね」 意味がわからない、とでも言うようにレディが自分を見つめるのを流石に煩わしく思ったか、論は彼女から視線を逸らす。 そのとき、『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)は木々の影に隠れて、大きな『毛玉』が蠢いているのを見つけた。あんなに大きな動物は、『奴ら』をおいて他にない。 「来たみたいだぜ……びぇっくし!」 決まらない掛け声。しかしそれに突っ込むものももはやなかった。敵はすでにすぐそこまで迫っている。 「ようやくご登場ですか。では、残らず砕いて土に返しましょう」 論は睨むように赤い瞳を光らせて、言った。 ●お仕事です、お仕事なんです。(建前) 「ぬくほわウサたんもっふもふなのです!」 と叫ぶ『星雨』九・亜美(BNE004876)は目を輝かせて討伐対象の彼らを見た。 豊満に蓄えた毛のせいで、まるで西部劇で転がるタンブル・ウィードのようにも見える彼らは猛然とリベリスタに向かってきていた。でかいのが二つと、それより一回り小さいのが三つ。図体の割に動きが機敏で、ちょっとだけ茶目っ気のあるようにも見えるけれど、目は縄張りを荒らされた猛獣のごとく鋭く光っていた。 「ショーゴさん。ボク、ウサギさんと同じ位で飛んでれば良いです?」 亜美はプカプカと浮かびながら翔護に訊いた。翔護は目測で高さを測る。大体三メートル。不格好だが適切な高さだ。 「そうだな。撹乱するにはそのほうがいいだろ……ええっくし!」 翔護豪快にくしゃみするのを見、亜美は 「あれ、ショーゴさん、クシャミ止まらなくなったです? 花粉症です?」 と言いつつブンブンと周りを飛んだ。この季節、山麓とか実に苦手な方、それがSHOGO。スギ花粉とか他の粉とか大層元気なのはマジで勘弁して欲しい。そう弱気になりながら、それでも不甲斐なさをぶっ飛ばすように、翔護は叫ぶように言った。 「……てことだからティッシュなくなる前に早く帰びぇっくし」 せっかくの命令もこの有り様であったが、亜美は「了解です、撃ってくるです!」と言いながら飛んでいった。その最中も再びくしゃみ一つする翔護を見つつ、魅雪は花粉症じゃなくて本当に良かったと胸を撫で下ろす。 「ぅわぁ……すっごい……こんなもっふもふなの初めて見ました……」 毛とかで鼻がおかしくなっちゃいそうだ、と彼女は思う。 やたら機敏な動きでリベリスタの眼前にやってきた彼らは、思っていたよりもでかい。三メートルの毛玉とはこんなに威圧感があるものなのか、と魅雪は少し足のすくむ思いだった。そんな彼女を睨むように、親のウサギが顔をグンと彼女に向けた。 「おっと、まずは俺と遊ばない、ウサギさん」 今にも魅雪に突撃しそうだったそれの気を引くように、とらは気糸を伸ばして応戦する。伸びた気糸は親ウサギの体を締め付けるように巻き付いたが、それが怒ったように暴れると、あっけなく気糸は切れてしまった。 その様を、とらは微笑みながら見ていた。 「いやはや、ほわほわ君達とはもっと別の出会い方をしたかったね☆」 その言葉を挑発と受け取ったのか否か、親ウサギは凄まじい鳴き声を上げる。豚が呻くような鳴き声だったが、ウサギの外見から放たれると、妙な愛らしささえ感じられる。 (この場に不釣合いな喚き声だ) 顔をしかめながら、レディはもう一体の親ウサギと対峙する。翼を羽ばたかせる音が、ウサギの気をレディの方へ引きつける。 (聴力は良いということか) 向かってくるウサギの動きに気をつけながら、レディは祈りを込めて、癒しの微風を生み出す。たちまち、鳴き声に乱された空気が整えられていった。 「これなら問題ない」 前後不覚な頭の中が整理されるのを自覚し、牙緑は剣の柄を握り直す。そしてとらとレディが親を食い止める隙間から後衛に突撃してきた子どもたちの内一羽の前に躍り出て、その行く手を阻む。自分から離れていく他の二体を見ながら、 「小さくても3玉に囲まれればいい感想文が書けると思ったが、残念」 と言いつつ、目の前のウサギがその毛をブワッと膨張させながら突進するのを受け止める。 豊かな毛に包み込まれながら、牙緑は不思議な心地よさを覚えていた。攻撃されているのに、暖かい癒しのようなものを感じる。まるで人を駄目にするソファ、寒さに凍える人を抱きとめる毛布やこたつ、そんなものを想起させる。 その幸福感に、思わず頭が眩む。 「ずるいです! ボクもそれしたいです!」 つい本音を口にした亜美は光の球を作り出しながら、無意識にウサギの方に近づいていっていた。近づこうか、危ないから離れようか、でも高度維持しなきゃだし、集中しなきゃだし、といくつも浮かぶ考えが彼女の飛行をちょっとだけ迷いのあるものにする。 けれど、魅雪がその毛玉の中から目を回して排出されたのを見て、やっぱりとりあえず攻撃はやらなきゃですし! と思い直す。 「……なんだろ……この感覚……新しい……これは……惹かれます……」 と恍惚に言っているし、何だか危ない気がしたのだ。 だが、光球を射出した彼女がなおもフラフラと飛んでいると、背中に感じたのは柔らかな感触。それは彼女自身の放つマイナスイオンの効果も相まって、とても幸せに満ちたものに感じられた。 思わず顔がトロケてしまいそう……というか手遅れなトロ顔をさらけ出した彼女は我を忘れてそれを愉しんでいた。 「呆けてないで、さっさと離れな」 小雷は亜美が包み込まれているウサギに鋭く蹴撃を入れる。その衝撃で亜美はポンとウサギから離され、地面に転がる。再び浮かび上がりながら、亜美は小雷に言う。 「ちょっとくらいいいじゃないかです、ケチです」 「戦いの途中だ。あまり気は抜かないことだ。死んでも知らんぞ」 ぷくっと顔を膨らませつつも、亜美は承知しない訳にはいかない。 どれだけ可愛く、どれだけふっくらしていても、それはエリューション、まごうことなき敵で、今自分たちが戦っている相手なのだ。イヴの言いつけも守るべきだが、それ以上に、彼らを倒さなくては元も子もない。 「分かってますよ」 亜美は牙緑のそばに寄り、徐々に位置を下げていく。小雷は戦場の構造と敵の位置を頭に入れながら、とらの止めあぐねているウサギの動きを引きつけようと、動く。 鋭い蹴撃が、親ウサギの顎を切り裂く。その痛みに怒ったウサギの鳴き声が轟き、小雷耳を塞ぎながら距離をとった。ウサギが小雷の方を向く。突進する動きは小雷が意図した通り、近くの木々の隙間に阻まれ、軽減される。軽い衝撃を受け身で和らげた小雷は、ウサギをキッと睨みつけながら、跳んだ。 「いささか気分は悪いが、その存在は世界の驚異。許せ!」 ●ウサギ追い詰めしかの山 「まっふぅ~♪ ……いあ、作戦で仕方なく近接してるんだよ!?」 もふもふを全身に感じながらも、とらは歯がゆい思いに駆られている。 可愛い見た目ながらも、その巨体はたった一人では抑えきれないほどのエネルギーを秘めている。何とか動きを食い止められるときもあったが、完全にブロックし切るのは、少し厳しい。 「これで動きが止められた嬉しいんだけど……ね!」 伸ばされた気糸が親ウサギを絡めとる。苦痛と怒りに歪む親ウサギ。やがて気糸を引きちぎったそれは、とらの方に猛進する。心地よさともどかしさがない交ぜになり、些か苛立つ。 リベリスタの攻撃や論の影人が二羽の親ウサギに攻撃を集めていたが、二羽の攻撃もまた強烈になっていくばかりであった。いや、攻撃が強くなっているというよりは、ダメージが蓄積しているのだ。 レディもまた、親うさぎの動きを止めきれずにいた。ウサギの体当たりを上手く交わしつつ、魔力の矢で応戦する。ウサギの毛は、もう大半が傷ついていたが、怒り狂っているせいかその勢いは止まらない。 (跳ねた所で撃ち落としてやろう) 跳ねたところを撃ち、ウサギは無様に倒れ伏す。それでもなおすくっと立ち上がったウサギが、鳴き声をあげようと口を開いた、そのとき、魔弾がその口を急襲し、中で弾けた。不意打ちに親ウサギは若干の怯みを見せた。翔護はガッツポーズを見せ、高らかに言った。 「キャッシュからの──パnぶえっくし」 ……決め台詞が決まらない年頃、それが彼だった。 ともかくその一撃でウサギの動きが明らかに鈍った。牙緑はウサギの顔、特に目のあたりを狙い、駆けた。 「毛皮と一緒に、命も刈り取ってやるよ」 大きく振り上げた剣は、視認できそうなほどの気合と闘気をまとって振り下ろされた。爆発するような威力が親うさぎの頭に炸裂すると、何かに踏み潰されたみたいに醜く変形した。もはや可愛さの欠片も消え失せたそれは、僅かに痙攣するばかりで、動かなくなった。 「あとはこっちだね」 とらがもう一方の親ウサギの攻撃を受け止めつつ言う。配偶者を殺された怒りからか、若干攻撃が苛烈になった感が否めない。早く倒さないと自分が危ないな、ととらは冷や汗をかく。 だが徐々に集まってくる攻撃でウサギの動きが鈍くなってくると、その心配も杞憂かと思われた。味方の消耗は激しかったが、敵とてそれは一緒だった。 「あのウサギと同じように、真正面から鉄量に押しつぶされなさい」 論が数体の影人で親ウサギを取り囲む。一人、また一人と消えながらも、影人は確実に親ウサギに打撃を加えていった。その間から、勢い良く突撃した小雷が、気を込めてその掌打を打ち当てた。 「潮時だ。止めは刺してやる」 親ウサギの全身に回った破壊的な気が、その全身を無残に破壊していく。その外観を止めたままに、親ウサギは肉を持った人形のように、力なく倒れた。 子供は、親の死を敏感に察知していた。 動かなくなった両親を見、三羽はほぼ同時に、悲しげに泣いた。轟音と化した鳴き声に誰もが思わず耳を塞ぐ。 やがて顔を下げたウサギたちの目は、その内心を表すような、濃い赤色をしていた。 (その怒りは正統なものだ。存分に振るうがいい) レディはなおも冷淡に魔力の矢を射る。魅雪は吸血しつつ、ウサギからは距離をとっている。 「可愛いは正義。でも、エリューションじゃ仕方ないよね☆」 背後に『赤い月』を生み出し、とらは不敵に笑う。巻き起こる呪力のエネルギーが、ウサギたちを飲み込んでいった。 「これ以上は危ないな。下がった方がいい」 牙緑は亜美に後衛まで戻るように言いつつ、ウサギをその剣でなぎ払う。 か細い鳴き声を上げながら、一羽、二羽と子ウサギは倒れていく。 二羽目の子ウサギが倒れたとき、残った一匹の様子が、明らかにおかしくなる。その窮鼠のような振る舞いに、魅雪は少し怖気づいた。それは、もがくように近くにいた論に飛びかかる。途端、耳が片側を刃のようにしながら膨張した。激しく振り回される耳が、論の首を狙い、斬り下ろされる。 真っ二つになった、と思われたのは、論の前に飛び出した影人だった。 「必死の抵抗お疲れ様です。紙一重ですね。紙を切るのが精一杯、それではさようなら」 ●平穏 「コンニチハー♪ 山菜採りですかぁ~?」 「ええそうよ。あなたも?」 「そうなんですよ〜。でも、筍なら猪が食い荒らしてちゃってて残ってないみたいだよ~。あいつら鼻いいから」 「おやおや、そうかい。それは残念だ」 「でも少しは取れたから……ほい! これ上げる☆ ぬかるみで酷い目にあったよ~。山菜採り楽しいけど、今日はやめた方がいいよ。傾斜で足取られて骨折っちゃったら大変だし。じゃあね!」 そう言って名も知らぬ女性は去っていく。 「今日は止めときましょうか、おじいさん。あの娘の忠告に従いましょう」 「そうしようかの、ばあさん。しかし、いい天気じゃ」 ●依頼は感想文提出までが依頼 「さてと、皆のレポートを読みましょう」 そう言ってイヴは机の上に依頼に当たったリベリスタたちからの報告書を並べる。まさに報告書というように体裁の整ったものから原稿用紙、メモ帳に端書きしたようなものまで形式は様々だ。それらを一つ一つ手にとって丁寧に読んでいく。 「『素晴らしい体験に意識が飛びそうでした、マル。機会があれば、あのぴんくの唇に指とかツッコみたい』……大変だったみたいね、ん? 『でもぬこが一番でつ☆』……ウサギのが可愛いもん」 駄々をこねる子供みたいに言って、イヴはとらのレポートを置いた。 次は魅雪感想文だ。A4用紙にふんわりとした文字で小さく書かれている。 『 手首まで沈むほどの新しい感触でした。 毛羽立つだけのもふもふではなく、 暖かさもある柔らかなもふもふでしたよー。 』 「むぅ……ぜひ触ってみたい……」 さて次は、と移ろうしてから、小雷からは包を渡されたのを思い出す。あれ、なんなんだろうとワクワクして包を開けると、柔らかい毛皮がポンとイヴの手に乗っかった。 「……あのウサギの毛かしら?」 こんな感じだったんだ、と自分もそれを体験できたのが、イヴは少し嬉しくもあった。少しだけ、事務処理的に大丈夫だったかな、と浮かんだものの、それは別にどうでも良くなっていた。 気持ちよさを振り払いつつ、牙緑のレポートに移る。仕事の報告書のような整った体裁の書類に、その毛皮の質感や保温性が、一般的な物体に例えて事細かに記載されていた。あの動物のあんな感じなのね、という感じに、とても分かりやすい。 一方亜美も、対象についての観測結果を書いてくれていた。こちらはレポート用紙二枚分に、どんなにもふもふが素敵だったかが書き連ねられていた。亜美の筆跡で、亜美の口調のまま書かれた文章は、自分もそのもふもふ感を追体験している感じにさせる、真に迫るものがあった。 「中々興味深いレポートね……」 真面目くさってふんふんと頷く最中、亜美のレポートからポトリと、小さな紙が落ちる。なんだろう、とイヴが拾うと、それは──亜美と同じ筆跡だったが──翔護のレポートだった。彼のレポートは端的に言えば『花粉症死滅しろ』という恨めしい思いが書かれていた。 もふもふはどこ行った。 イヴは少し残念そうにそれを亜美のレポートに重ねて置いた。 「これで全部かしらね」 流石にリベリスタ全員から提出してもらえなかったけれど、これだけ集まればイヴには十分だった。背もたれに体を預けた彼女は、とても幸せそうな顔をしてた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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