● 『水が干上がってきてるよ……アレーシャ姉様!』 『そうね、アムル。でもそろそろ水瓶が水を湛えてくれるはずよ』 とあるアザーバイドの世界。 会話を交わすアレーシャとアムルという2人のアザーバイドは、湖に棲む半人半魚――即ち人魚である。 彼等の棲家は水の中。 うお座のアザーバイドらしく、水中での活動を最も得意とする2人。 ――しかし。 『……すさまじい暑さだよ、アレーシャ姉様。湖が干上がりそうだ!』 『異常気象もいいところね……スードは何をしてるのかしら? そういえば試練がどうとか聞いた覚えはあるけれど……』 『あぁ、継承の試練がって話がこないだあったね、姉様』 2人の言葉からも読み取れるだろう、異常と言うしかない気象が湖を干上がらせはじめているらしい。 それに対する対処は、先月リベリスタと交流を持ったみずがめ座のアザーバイド、メリクが持つ水瓶に水を湛えてもらうことのみ。 のはずなのだが、肝心のみずがめ座のアザーバイドは未だやってくる気配がない。 『やっぱり遅いわね。様子を見に行くべきかしら?』 よくよく考えれば1ヶ月丸々かかっている現状、心配するのも当然の話だった。 所謂『はじめてのおつかい』をこなすメリクは1人なのだから、迷っているかもしれない。トラブルに巻き込まれたかもしれない(実際巻き込まれたが)。 『いやいや、僕達は水から離れると雑魚だよ!?』 かといってアムルが突っ込むように、うお座のアザーバイド2人は水の中では無類の強さを誇るものの、陸上ではその能力に相当な制限もかかってしまう。 湖の中から出てまで、みずがめ座のアザーバイドを探しにいくかどうか。 彼等にとって、その選択は下手をすると最悪の結末を呼び込みかねない可能性も孕んでいる。 『いいえ、行きましょう。何かあったのかもしれないし、手をこまねいているよりは、ね?』 それでもアレーシャは行く選択を下した。 座して待つ事をせず、心配する気持ちを抑えきれなかったらしい。 そして捜索の道中、彼等を飲み込んだのは次元の穴。 当然か、偶然か。 その穴は他の星座のアザーバイドの時と同じく、リベリスタのいる世界へと繋がっていた。 『み、水がないよ、姉様!』 アムルが泣きそうな声を出したのも仕方のない話。 彼等が現れたのは、水があっても地下深くであろう森の中。 『……あらぁ。じゃあ、早く帰りましょうかねぇ』 ならば帰ろう、それが手っ取り早い。アレーシャがそう言ったのも頷ける話ではあるが、世の中そう甘いものでもない。 『まぁまぁ。そう慌てて帰らずとも。少しここで遊んでいきませんか?』 『……メグレズ!』 現れた1つの影が、穴への道を塞ぐ。 手勢を連れ、人間が狐耳と尻尾を生やしたようなメグレズと呼ばれるアザーバイドは不遜な態度で恭しく頭を垂れた。 彼女はこの世界で言えばフィクサードのような存在。 星座のアザーバイドをリベリスタとするならば、敵対する勢力の幹部である。 『熱の魔法で湖を干上がらせてみましたが、見事に釣れました♪』 どうやらアレーシャとアムルの湖を干上がらせた原因も、彼女にあるようだ。 次元の穴に2人が落ちるところまで計算にいれていたかは定かではないものの、メグレズはボトムチャンネルであるこの世界を戦場に選んだ事だけは間違いない。 ここまでの話だけならアザーバイド同士の戦いで済む話ではあるが、 『中国……ではないですね。日ノ本でしょうか? まぁあなた方を倒した後で、少し暴れ……いえ、遊んで帰りましょうかね』 メグレズの言葉を素直に受け止める限りでは、それだけでは済まない事は想像がつく。 『まさか、みずがめ座の水瓶が届かないのもあなたの……』 『あぁ、あの可愛い少女ならちゃんと道を教えておきました。もし私に勝ったら、帰るころには水が溢れてるんじゃないですか?』 幸いだったのは、妙なところでこのメグレズが親切だった点か。 或いは、単に標的がうお座だけだったから手を出さなかっただけかもしれないが。 『シルバーウィザードを倒すためには、あなた方の存在は邪魔です。こちらに有利なこの戦場、利用しない手はないですね』 さっとメグルズが手を挙げると、控えていた兵が戦闘態勢を取った。 彼女が手を下ろせば、兵達は一斉にアレーシャとアムルに襲いかかるだろう。 ともあれ、水のない場所で戦いを余儀なくされた人魚。 目的がその人魚を倒すのみならず、この世界でも暴れる事を視野にいれる狐人。 それは1つの上位チャンネルでの戦いが、この世界に飛び火した瞬間でもあった――。 ● 「さすがにうお座ね。陸上ではダメな子みたいよ」 まぁ人魚だからしょうがないけど、と言う桜花 美咲 (nBNE000239)はゆっくりと集まったリベリスタ達を見渡していく。 今回のミッションは少々特殊であるからだ。 加勢するのはアレーシャとアムルのうお座姉弟でも、メグルズの方でも構わない。 本来ならばうお座の方への加勢を押したいところではあるが、それは即ちメグルズ側の勢力との敵対を意味してもいる。 どうするかは赴くリベリスタの判断次第となるのも、この状況を省みれば仕方のない点であろうか。 「……まぁ、メグレズ側の戦力だけ説明しておくわね」 基本的に不利な状況に加え、不得手とする陸での戦闘を強いられるアレーシャとアムルについては割愛するとして、問題となるのはメグレズ率いる一団だ。 邪魔をすれば敵対するだろう。 友好的な姿勢をとっても、その後でこの世界で暴れる可能性があるため、彼女達の情報こそが現時点では最も必要なデータである事には違いない。 「兵は20体。手勢としては結構多い感じね。強さはフェーズ1のエリューション程度みたいよ」 フェーズ1ならばそう大してと思うかもしれないが、彼等は個を捨て統率を重視する兵だ。 メグレズの指揮のもと統率の取れた動きは、敵対した場合はリベリスタ達でも苦戦は免れない。 さらにメグレズ自身も『水の中』のうお座と互角に戦うだけの実力を持った強さを持っている。 兵を壊滅させるか、メグルズを倒すか――相対する場合は、この2つが彼女達の一団を引かせる要因といえよう。 「重ねていうけど、どちらに加勢するかは皆に任せるわ。戦わずに済ませるのは無理だと思うけど、ね」 美咲がそういうように、アレーシャとアムルは戦わなければ帰れない。 そしてメグルズ側は、この世界を戦場と定めた。 双方に戦う意思がある中では、戦わずに場を収める事はやはり無理であるのだろう――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年04月06日(日)22:56 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●持ち込まれた戦い 「まあ争うのは勝手なんだけどね。わざわざ他所の世界でやる必要無いじゃないですか」 この世界の住人からすれば、まったくもってその通り。 ぼやいた『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)の言葉は、この世界の言葉を代弁しているようなものだ。 上のチャンネルでの争いが、ただ有利だからという理由だけでこの世界に飛び火する。 今までは迷い込んできたアザーバイドを援護・救出するだけのミッションだったが、今回は戦いそのものが持ち込まれた形。 故に美咲は、争いの火種を消す選択肢も赴くリベリスタに提示はしていた。 ――しかし彼等は火種を無くす事より、友邦を救う事を選んだ。 「さすがに、今まで積み上げてきたものがあるからね。俺だって、星座の人たちとはそこそこに知り合いだ」 そう言った『合縁奇縁』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)にはちょっと苦い記憶が多いものの(主に抱きつこうとして拒否されたりとか)、積み上げて来た信頼を彼は最も大切に考えている。 それは火種が持ち込まれた程度で崩れるものではなかった。ただ、それだけの話だろう。 「せっかくのメリクさんの頑張りを無駄にする訳にはいかないよ。魚座さん達には戻ってメリクさんが一杯にした湖の水を堪能してもらわないと」 「お使いが続いてるのはともかく……。メリクはこの世界からは無事に帰れたのね……よかった」 加えて胸を撫で下ろした『愛情のフェアリー・ローズ』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)や『ANZUD』来栖・小夜香(BNE000038)の言葉からも判るとおり、うお座のアザーバイドの救出は、先月助けたみずがめ座のアザーバイドの話とも繋がっているのだ。 持ち込まれた火種が、どういった展開を及ぼすかはわからない。 「単なる偶然とは到底思えませんし、彼らも互いに何らかの繋がりがある様子。もう少し長いお付き合いになるかもしれませんね」 わからないが、重なる偶然はもはや必然。『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)は新たな戦いの幕開けを感じずにはいられず、 「さて、次に動くものを見る為にも今なすべき事をなそうか」 故に今、出来ることをやろうと言うヒルデガルド・クレセント・アークセント(BNE003356)。 唯一判明しているのは、3つの勢力を繋ぐキーワードである『シルバーウィザード』というコードネームのような単語のみ。 「そのシルバーウィザードも、やっぱりこっちの世界にも首突っ込んでくるんでしょうかね」 呟く『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)の予言めいた言葉は、近い将来に恐らく現実となるだろう。 多くの神秘がひしめくこの世界は、他世界からの来訪者も多く訪れる場となっているのだから。 「縁とは不思議なものですねぇ……。人でない方々とも繋がりを持てるのですから」 それはまさしく奇縁というのが相応しい。『白月抱き微睡む白猫』二階堂 杏子(BNE000447)は自分達を人と呼べるのかという疑念を持ちながらも口にせず、その視線を遠く眺められる戦場へと向けた。 『おとなしく倒されてくれません? この状況では、あなた方が勝つ事は不可能ですし』 鉄扇を広げ口元を隠し、不敵に微笑むメグルズ。 『いえいえ、こんな見知らぬ場で果てるなど本意ではありませんし?』 『そうだそうだ! この世界は俺達の戦場じゃあないんだぞ!』 対するうお座の姉弟は、それでも元の世界に帰ろうとする意思を崩さない。 『あなた方がシルバーウィザードを素直に差し出せば、戦う必要もないのですけど。それは嫌なんですよねぇ?』 ふと、メグルズの目が殺気の篭ったものに変わる。 言葉から察するに、メグルズ側の勢力の目的は星座のアザーバイドの撃破ではなく、シルバーウィザードの撃破ということなのだろう。 『――あんな年端もいかない子を、我が身可愛さに売ったとなれば戦士の恥ですよ』 『それにあの子は、お前達にとっては実験動物なんだろう! その非道は見逃せない!』 トライデントを構え戦意を高めるうお座のアザーバイド達は、メグルズの殺気をものともせず。 2つの勢力の争いが始まる直前、リベリスタ達はその戦いを分断する――。 ●くすぶる火種は燃え上がる 戦場を引き裂いたのは、自然に囲まれた場には相応しくない機械の姿。 「ボク達が加勢するよ。絶対貴方達を傷つけさせたりしないから!」 トラックの荷台に水漏れを防ぐようシートを被せ、簡易的ながら作り上げたプールを持ち込んだアンジェリカの言葉が響く。 水量は少ないが、それでも不得手な陸地で戦うよりは遥かにマシだとリベリスタ達は考えたのだろう。 『水だよ、姉様!』 『この世界の人かしら……でも待って、罠かもしれないわ』 しかしそれに対する、うお座のアザーバイド2人の反応も当然ではあるか。 本来ならば追い込まれた戦場であり、メグルズ率いる敵の集団もそれを利用しての戦いを行おうとしている。 そこへいきなり現れたこの世界の住人が自分達のために水を用意してくるなど、未来を予知しない限りは無理だと考えたからだ。 自分達にとって水が重要だとわかっているのならば、それを利用した策を打っている事も考えられるのだから。 『敵ってことで良いんですかね?』 一方で加勢と聞いたメグルズは既に『リベリスタも敵だ』という思考を張り巡らせている。 20人いる兵を横に10名ずつ配置し、およそ波状攻撃でも仕掛けそうな進軍は、彼女の神算術がもたらす戦略だろう。 (援護するわ。星座のアザーバイドは私達にとっても友人だから。動きが取れるほど広くは無いけど、水の中ならあなた達も力を振るえるのよね) メグルズの一団が迫る中、直接脳裏に送り込まれた小夜香のテレパスを信じるべきか? 信じないべきか? 向き合うアレーシャとアムルは頷きあい、小さなジェスチャーで『了解』と返す。 「それで、狐さん。なんでこういう事をする? 意図があって、しているように思えるが。話によっては、俺たちと折り合いがつけられるんじゃないのかな?」 『……折り合いですか?』 その様子を視界に収めた竜一は視線を移し、メグルズに問うた。 「もっとも、この二人に関しては、妥協する気はないので、今に関して言えば互いに折り合いはつけられないだろうけどね」 『さっきの私の発言を聞いていたなら、それが全てじゃないですか?』 今この場においては、攻める思考のメグルズとの戦いを避けられるとは思っていない。 だが今後の戦いならば避けられる可能性はある――、その思いが折り合いという言葉として告げられたのだろう。 折り合いをつける条件があるとするなら、それは先ほどから何度か出ている『シルバーウィザード』の引渡しとなるか。 『ま、そういう話はそっちで纏めておいてくださいな。今回の戦闘で折り合いもへったくれもないとは思いますけどねー』 ともあれ、既にメグルズ側は振り上げた腕で敵を倒す状況は整っている中、先手を打ったのはモニカだ。 「放っておけばそちら側の勝利は明白ですからね。それが気に食わないからこの場にいるんですよ」 悪い足場を絶妙なバランス感覚で踏みしめたモニカの迅速な動きは、メグルズも驚くレベルのもの。 しかもその速度を持って構えたガトリングが、火を吹くまでのタイムラグも殆どない。 本来ならばこの一撃で20もの兵は甚大な被害を受けるはず――だった。 『怖い怖い、構えてなかったら危なかったですねぇ……!』 被害が最小限に抑えられたのは、小夜香や竜一がアクションを起こしている間に取った陣形による。 前の兵が後ろの兵を庇い盾となり、後ろの兵が敵陣に突入する陣形。 『参考にしたのはクミウチってやつですよ! あれは攻撃を間髪いれずにやる戦法だったよーですけど!』 戦国時代の雑賀衆が用いた組打ちとは違った形ではあるが、攻撃準備→攻撃を防御→攻撃と展開させる点では似通っているかもしれない。 「前の兵さえ倒してしまえば、ということか。シルバーウィザードとやらを討つ為に随分と周到な仕込をするものだ」 降り注ぐ矢のいくつかをその身に受けながら、ヒルデガルドはメグルズ側の戦い方に執念めいたものを感じずにはいられなかった。 下手なE能力者であれば、確かに甚大な被害を受ける戦法ではあっただろう。 ――が、この場にいるのは並の戦士ではない。 「しかしながら、少しばかりこちらの世界の情報を軽視していたのではないかな?」 「癒しよ、あれ」 彼女が甘く見るなと注意を促すのと、小夜香の傷を癒す息吹が放たれたのはほぼ同時。 『なるほど、確かに軽視していたかもしれませんね』 傷を癒し経ち続けるリベリスタ達に思った以上の被害が出ない事に、神算術を駆使するメグルズの笑みが少しだけ引きつった。 本来の目標であるアレーシャとアムルですら、 「言葉が通じなくても態度で通じるよな、2人は俺が守るぜ!」 竜一に庇われてアレーシャの方はまったくの無傷で済んでいるのだから当然か。 『ふむ。次はどうしましょ……』 半ばその実力を持って戦術を覆された格好のメグルズが次の戦術を思案する中、 「少し動揺してるのかな……? 兵は殲滅させてもらうよ!」 トラックの前に立ちはだかりながら、命を持たない式神兵を不吉を届ける月で照らしたのはアンジェリカだ。 兵達とて少々の事では倒せないだけの耐久力を持ってはいるが、いかんせん最初に放たれたモニカのガトリング弾はその耐久力をほぼ均等に減らしている点がメグルズにとっては悩みの種となっている。 「兵が多ければ指揮官を守る加護もより強化になる、だったな」 気糸での攻撃をばら撒いたヒルデガルドが言うように、兵が多く存在すれば存在するほどメグルズの防御力は増す。 「暫し黒鎖と優雅な戯れを……」 『む。あなた達は面妖な戦い方をしますね。これは要チェックです!』 それに対するリベリスタの布陣は、対多数に特化したものであり、メグルズ側の数の多さは決して優位にはならない。 加えて杏子の放つ黒き魔力を見たメグルズがリベリスタ達の戦い方を面妖と形容したように、その攻撃は多種多彩。 『さぁ、いきますよ!』 『水浴び……じゃない、攻撃だね、姉様!』 そこへアレーシャとアムルがトラックの荷台の上から援護射撃を行うのだから、総崩れになる可能性だってある。 兵の攻守を入れ替えるように動かしたメグルズではあったものの、 「そう簡単にやれると思うのも自由だけどね」 崩れかけた防壁の一角が、残影を展開した義衛郎の凄まじい速度をもった斬撃によって崩れ去れば、兵を当てにしすぎるわけにもいかないと考えたようだ。 「この程度の兵力で抜けるとお思いですか? 私達の前ではただの的ですよ」 当のメグルズには彩花の挑発は通用しなかったようだが、彼女の挑発に兵の一部の視線は彼女に集中し、陣形も乱れていた。 『これは仕方ないですねぇ。肉体労働するしかないじゃないですか』 結論、前に出る。 兵がいなくなれば自身の戦いにも悪影響しか及ぼさないのだから、この判断は当然といえば当然。 狙うはアレーシャとアムルの乗るトラック。よしんば、2人も倒す。 「やらせるわけにはいかないな!」 だがその行軍は竜一がアレーシャを庇い続ける事により阻まれ、 「そうですね。ではアムルさんは私が守ります」 『そんないけず、しなくてもいいじゃないですかー』 もう片方のアムルは彩花が庇う態勢を取った事でメグルズの好きにさせはしない。 「どうぞ広域殲滅してくださいと言わんばかりのシチュエーションですね。少なくとも私と戦うには最悪の場所と状況です」 『ゲンダイカキってやつですか! 鉄砲と弓じゃあ弓が負けちゃいますね!』 火を噴くモニカのガトリングは、時間が経てば経つほど脅威となる威力を持っている点も、メグルズにとっては予想外で頭が痛い。 「まさか、今更場所を変えたいなんて言い出しませんよね?」 『言っても断られますしー?』 必要を感じても、無駄だとわかればやらない。モニカの言葉に、ぷいっと頬を膨らませたメグルズには現実がわかっているようだった。 「余裕を持ちすぎではないか? 隙が見えるぞ」 「兵の数も気にしないとだね」 その現実も、『自分が直面している現実の一部』にしか過ぎない。 うお座の2人にメグルズが急接近した事によりヒルデガルドはメグルズを抑えるように動き、義衛郎は小夜香をいつでも庇える位置に陣取りながら兵を切り刻んでいく。 『こう、なんていうんでしょーか。誰だよ戦いは数だよって言った人。単体の戦闘力の違いが、戦力の決定的差ではないとか言った人!』 数で勝っていても、精鋭揃いのリベリスタ相手では決して優位ではない。 それをメグルズが理解したのは、兵の半数以上が崩れた時だった。 「退いてくれれば、それ以上は望まないんで」 『撤退したらお仕置きされちゃうんですよ!』 激しい戦闘が収束に向かう中、見渡せばメグルズ兵の姿はほとんど見えなくなっている。 動いている分だけで3体か。 ここぞとばかりに撤退を勧告する義衛郎ではあったが、その勧告を鼻で笑い飛ばしたメグルズは笑顔のまま、口にする言葉はそれに対する拒否。 『では私の今回最後の神算術をお見せしましょう!』 果たして、最後といった神算術とはいかようなものなのだろうか? 「どうか大人しく退いて欲しいよ……」 それでもアンジェリカは、まだ今ならば引けるのだからとメグルズに対し、引けと言う。 ここで彼女が引かなければ、討つしかもう道はないのだ。 『ではご覧あれ! 神算術『後ろに向かって全力疾走、疾きこと風の如く!』です!』 「……は?」 思わずその場にいたリベリスタ全員が目を丸くした事は、言うまでもない。 後ろに向かって進むだけといえば聞こえは良いが、 「それが撤退というのではないでしょうか」 『なに、誤魔化しちゃえば良いんですよ。今後の戦いの資料を持ち帰る必要もありますしね』 突っ込んだ彩花にはっきりと誤魔化すというあたり、メグルズはわかっててやっているのだろう。 ともあれ、さっさと穴へと引いていくメグルズは瞬動術を駆使した追いつきにくい速度を持って、穴へと姿を消していく。 ●運命の歯車は戦を呼ぶ メグルズ側の勢力の目的。 それは星座側が擁するシルバーウィザードの撃破である事は間違いない。 「聞くまでもなく、それが目的だとはわかったな」 2人のアザーバイドの無事を確認した竜一は、その目的のために周囲を取り巻く外堀である彼女達を倒す必要が、メグルズにはあったのだと確信していた。 今回はその狙いを阻止したリベリスタ達ではあるものの、結果としてメグルズ側の勢力と敵対関係となった事実は今後どのような影響を及ぼすのか? 「今はとりあえず、2人が無事でよかったよ」 ひとまず喜ぶべきは、不確定の未来よりもアレーシャとアムルを守った事だとアンジェリカが言った。 彼女達の通ってきた次元の穴はメグルズが塞がなかったらしく、未だ消える気配はない。 「いつ消えるかわからないですね。早めに戻った方が良いと思いますよ」 だが彩花の言うとおり、のんびりして良い状況ではないことも事実。メグルズが『負けたから』と潔くやっているままとも、『必要だから』とやはり消してしまう可能性もあるのだ。 「シルバーウィザードとやらに縁があるのなら、レグルスやアルタルフとも縁があろう。彼らに宜しく伝えてもらいたい」 「ええ、わかったわ」 穴の先の世界で今も戦っているであろう盟友への挨拶を頼むヒルデガルドに頷き、小夜香のテレパスが飛ぶ。 既に水気は大地にほとんど吸収されてしまっているが、そのテレパスを受けた2人のアザーバイドはずるりと身を動かし、その視線は次元の穴へと向いた。 『ありがとう、この恩は忘れないわ』 『水の中だったら、こっちももっと頑張れたんだからな!』 言葉はわからないが、アレーシャとアムルは恐らくこんな言葉を口にしているのだろう。 次に会う時は再び戦場か、それとも平穏な場でか。 リベリスタもアザーバイドも、願わくば後者である事を願い、うお座の2人は元の世界への帰路へとつく。 「……そういえば、今日は何もしないのね?」 「また同じ事になりそうだしね! 今回は我慢!」 うお座のアザーバイドの片割れ、アレーシャが性別としては女性ということもあって竜一が何かをやらないかと警戒していた小夜香だったが、当の竜一は今回は動かない。 動いて拒否されてもね、という感覚ではあったが、のんびりした性格のアレーシャならお姉さんらしく応対していたかもしれない点は内緒。 「本当に縁とは不思議なもの、これも運命の導く結果なのかしら……?」 アレーシャとアムルが穴の先に姿を消した事を確認した杏子は、作り上げられていく奇妙な縁に運命を感じずにはいられなかったらしい。 「その縁と運命が、近いうちに穴の先の世界とこの世界を繋ぎそうだね」 穴を閉じた義衛郎もそれは感じていたようで、計12回繋がった穴が記録を更新していく事は恐らく確実だ。 再び12の星座は1番目から回り始める。 13回目からは、厄介な来客が訪れる可能性も秘めて――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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