●Sweets&Disaster 空港に降り立つ二人のフィクサードは、年の離れた親子のように見えた。初老の男と、学生のような女。疲れたように空港を見る男は、勝手気ままに歩き回る女を見てため息をついた。 「ライラ、はしゃぎすぎだ」 「あら、ヴォルは心躍らないのかしら。世界を飛びまわる革醒者組織よ。古きを守り閉じこもっている他の組織は箱舟を見守ったほうがいいと思うの」 「彼らには彼らの矜持がある」 「ふふん。こういった組織が世界を引っ掻き回してくれると嬉しいのにな」 ライラと呼ばれた女は懐から飴を取り出し、それを舐めながら嬉しそうに言う。とても日本に観光に来たとは思えない会話だ。 「バロックナイトを退けた箱舟のエースを倒せば、この国での仕事もやりやすくなるよね」 「俺たちは厄介者だということを忘れるな。平和な国を荒らすのは趣味に合わん」 「もぅ。私達が組めば魔人……は無理かもしれないけど、どんな革醒者が来ても一網打尽よ。ヴォルはもっと野望を持たないと」 女の言葉にため息と沈黙を持って返す男。いつものことなのか、それに構わず会話を続ける女。 誰知ろう。彼らが革醒者専門の殺し屋であることを。 この国に甘い災いをもたらす存在であるということを。 ●ARK 「この女が『Sweets Bullet』ライラ・バスカヴィル。男のほうが『Silent Disaster』ヴォルフラム・プライスラー。 共に革醒者を専門とする殺し屋だ」 『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)は集まった革醒者たちに写真を見せる。説明がなければ観光に来た外国人としか見えない。 「知り合いが入手したものだけど……穏やかじゃないわね」 写真を持ってきたのは『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)だ。警察機構につながりのある彼女に回ってきた不審者の写真。それを見た杏樹が、その経歴に思い至ったのだ。 「趣味は合いそうなんだけどね」 飴を食べる女の写真を見て、『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)が指を唇に当てる。要所に結んであるリボンも、乙女のたしなみと見れなくもない。街中ですれ違えば眼を引くだろう容姿だ。 「ライラのほうは二丁拳銃のスポッター(観測手)だ。身軽な動きで場を制圧し、陽動とブロッカーとして動いている。 ヴォルフラムはボルトアクション式ライフルを使う狙撃手だ」 「ふむ。鎖閂式(ささんしき)か」 顎に手を当てながら『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)が唸りを上げる。ボルトアクション形式の銃を古くは鎖閂式といっていた。明治初期の戦争では既に軍隊に取り入れられている。狙撃手としても龍治は興味がわいた。 「それで、この人たちはなにをしに来たんです? 会話を聞く限りではアークに喧嘩を売るつもりのようですけど」 『黒犬』鴻上 聖(BNE004512)が杏樹に問いかける。たった二人でアークに挑むなど命知らずとしか思えない。ネクロマンサーの死者軍団すら退けた箱舟だ。普通に考えれば、ありえない話だ。 「彼らの真価は地形を利用したゲリラ戦法だ。事前に戦う場所の情報を知り、それを最大限利用できる作戦を立てる。時に交互に、時に同時に。相手を攻め立てるコンビネーションは、時に一軍に匹敵するとまで言われたほどのものだ」 「妙に詳しいのね。もしかしてお知り合い?」 二人の闘い方を説明する杏樹に、今度は『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)が尋ねた。『万華鏡』の予知ほどではないが二人の事に精通しているということは、普通に考えれば既知の仲だということである。 「昔射撃を習ったことがある……それだけだ」 杏樹の一言とその表情に、それ以上の追求を止めるリベリスタたち。 重要なのは、危険度の高いフィクサードがアークを狙っているという事実だ。『親衛隊』の規模ではないが、ゲリラ活動に移られると厄介なことこの上ない。 「幸いなことに彼らの居場所は特定できる。こちらから出向いて帰ってもらおう」 反論はなかった。守勢に回っては彼等のようなフィクサードは滅ぼせない。攻めるときに一気に攻めるのだ。 それぞれの破界器を手に、リベリスタたちは部屋を出た。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年03月31日(月)22:23 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 「名が売れれば売れる程、この様な輩が現れるのが世の常か」 『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)が手にするのは『火縄銃 弍式』と呼ばれる破界器だ。約十五センチの口径の火縄銃に神秘回路を繋げ、破界器として運用している。製鉄技術の進化により銃身の強度はその時代のものと比べて高まり、また弾込め式銃の欠点である弾丸の装填速度も破界器ダウンロード技術の応用で解決されている。 「とは言え、アークも随分と舐められたものだな」 「ですが侮れません。革醒者専門の殺し屋とは、また物騒な存在が居るものですね」 『神罰』と呼ばれる二振りの刃を抜きながら『黒犬』鴻上 聖(BNE004512)がフィクサードの情報を思い出す。白刃に『Heaven』黒刃に『vengeance』と銘打たれた二本の刃。組み合わせることで十字架になる断罪の刃。神を奉じる神父が、如何なる思いで破界器にその名前をつけたのか。 「早々に国外退去をしていただくに越したことはありませんね」 「革醒者専用の殺し屋……ね」 ふわりととゴシックな浴衣を翻し、『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)が『彼岸ノ妖翅』を手にする。揚羽蝶の形状のスローイングダガー。戦場を飛来する白と黒の死神。生と死を舞う蝶を手に、糾華は相手のことを思う。革醒者のみを狙う殺し屋。職業に貴賎はない。そういう職業を否定するつもりはない。 「見くびってはいけないわ。この2人は凄腕の革醒者よ」 「話を聞く限り、性格は正反対だけど何故かかみ合わせは良くてうまくやっていってるタイプね」 コードを入力し、『論理演算機甲χ式「オルガノン Ver2.0」』を起動させる『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)。手甲型の破界器が彩歌の神経とリンクする。演算処理速度を増し、装着者の思考とリンクする破界器。コンマ一秒が勝敗を分ける戦場において、処理速度は重要なファクターだ。 「お互いの短所を補いあえる事を考えると、たった二人と思わない方がいいわね」 「侮るつもりは全くないわ」 親友からもらった『マグナムリボルバーマスケット』に弾丸を装填し、『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)が瞳を閉じる。深く集中する時間は、一秒にも満たなかっただろうか。瞳を開け、踏み出す足に迷いはない。靴音高らかに銃士は戦場を進む。その先に二人のフィクサードを確認した。 「勿論、負けるつもりも全くないわ」 「会ったら感傷に浸るかと思っていたけど」 『魔銃バーニー』を手に『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)がフィクサードたちを見る。銃の師匠。どのように出会い、そして別れたかに意味はない。大切なのは袂を別ち、そして今出会ったという事実。硝煙と銃弾で築かれた師弟関係は、やはり硝煙と銃弾によってのみ再会を祝うのだ。 「二人と戦える方が楽しみなのはどうしてだろうな」 「あらあら。私は誰が相手でも楽しみよ、アンジュ」 月光照るエントランスで翼を広げ、二丁の拳銃を両手にしたバスカヴィルが言葉を返す。人の見た目を引くふわふわした衣装は、銃を隠すカモフラージュにもなっている。それでも隠し切れないのは射手としての鋭さか。その鋭さを隠すことなく、しかし言葉だけは甘くリベリスタたちを迎え入れる。 「ようこそ、弾丸のパーティに。甘いお菓子と災厄をプレゼントするわ」 「侮るな、ライラ」 二階から聞こえるプライスラーの声。闇にまぎれるような黒の衣装。バスカヴィルの言葉が甘く鋭い殺気なら、プライスラーの言葉は静かに射抜く殺意なき弾丸。まるで作業をするように、引き金を引く暗殺者。 「『万華鏡』の予知精度が噂どおりなら、こちらの戦略は読まれているとみていい」 日本の神秘界隈情報も、ある程度は仕入れているようだ。二人のフィクサードに油断の文字はない。攻め入られたのは予想外だが、それでも慌てている様子はない。 沈黙がモールを支配する。自分の鼓動だけが、リズミカルに響く。 月に雲がかかり、わずかに沈黙が支配する。それが開戦の合図となった。 ● 「お久しぶり。ライラ姉」 「ダンスの相手になって差し上げるわ」 『Sweets Bullet』をはさみ込むように杏樹と糾華が囲む。バスカヴィルの視線は二人を交互に見て、そのまま拳銃を二人のほうに向ける。 「会って早速だけど、氷菓子はいかが?」 杏樹の『魔銃バーニー』がバスカヴィルを捕らえる。女神の加護を受けた杏樹の銃口は、派手に動き回るバスカヴィルの正中線を捕らえていた。彼女がどう動き、どう避けて、その後で何を言うか。そこまで予測し、引き金を引く。銃弾は命中と共に爆ぜ、低温の爆風が吹き荒れる。 「お生憎。アイスは夏に食べるから美味しいのよ」 体の一部を凍らせながらバスカヴィルが答える。狙って当てれない動きではない。逆に言えば気を抜けば避けられる可能性もある。射手としてかなりの腕前を持つ杏樹の腕をもってしても、その背中を超えることはまだできない。ガンナーとしての方向性が違うとはいえ、追いつけたようには思えない。 「歓迎するわ、ヒットマン。私達が貴方達の仕事を失敗まで導いてあげるわ」 「歓迎するわよ、リベリスタ。紅茶がないのは残念だけど」 キン、と糾華のナイフとバスカヴィルの銃が重なる。先に動いたのはバスカヴィル。回るようにステップをふみ、弾丸をばら撒く。その弾丸をふわりとスカートを浮かせて避ける糾華。そのままバスカヴィルの懐に入った。横なぎに振るった糾華のナイフが、甘い弾丸のリボンを裂く。 はらり、とリボンが宙に舞う。それを意に介さずバスカヴィルは銃口を糾華の額に押し付け、二度引き金を引く。そのタイミングを見透かしたかのようにしゃがみこんだ糾華が、そのまま自分の体ごと回転するようにバスカヴィルの足を払った。それを避ける為にわずかに身を引くバスカヴィル――の横に既に回り込んでいた糾華のナイフが、今度こそ皮膚を裂いた。リボンが地に落ちたのは、このとき。 「ふふ、渋いおじ様。今宵は私と思いを囁きあいましょう」 遮蔽物に身を隠しながらミュゼーヌが階上のプライスラーに語りかける。不十分な明りでも見通せる瞳で相手の居場所を補足しながら、少しずつフィクサードに近づいていく。中折れ式のリボルバーライフルを手にしながら、弾丸の中を進んでいく。近づくたびに強く感じる相手からのプレッシャー。それを跳ね除けるように銃を握り締める。 「そう、銃口という唇同士でね!」 「君には硝煙よりも香水のほうが似合う。日のある世界に帰りたまえ」 一瞬、ミュゼーヌとプライスラーの殺気が交錯する。互いが互いを狙いえる瞬間。躊躇いなく二人は引き金を引いた。時間が極限まで圧縮され、コンマ一秒にも満たない時間でミュゼーヌは相手を狙い済ます。体に染み付いた訓練が、自然と銃口を殺し屋に向けていた。放たれた弾丸が、プライスラーの肩を揺らす。 「甘い口説き文句ね」 発砲の熱を感知して彩歌が動く。バスカヴィルの放つ弾丸の雨を掻い潜りながら、自らの破界器を向ける。思考と共に破界器の機能が展開され、鋭い気糸が形成された。同時に様々な情報が破界器から伝達される。 「事実だ。血生臭い世界など見ずにすめばそれに越したことはない」 「確かにね。だけど私たちはかなりの死線を掻い潜っているのよ」 温度、湿度、わずかだが吹く風の速度、空気中に存在する微細な塵、重力……そういった環境要因から他の人間の位置まで。それら全てを総合し、最良の一手で彩歌は糸を放つ。計算は確かに破界器が行うが、引き金を引くのは自分だ。最良の結果ではじき出した『急所』をあえて外し、糸は殺し屋を傷つける。これが相手の矜持に敬意を評した彩歌の『最良の一手』だ。 「心配無用といいたいのか」 「とっとと帰れといいたいのだ」 火縄銃を構えて龍治が告げる。左目で相手を見て、引き金を引く。動作にすればたったそれだけの行為。しかしその動作の中に、様々な技術が篭められていた。会話や視線による誘導。相手のリズムを崩すタイミングの見切り。自然な狙い撃ち体勢への移行。砲撃による銃口のズレを押さえるための、筋肉と骨の鍛練。 「これは……!」 たった一発の弾丸。それを放つ為に研ぎ澄まされた龍治の努力と才能。幻想種の因子を発言させ、歴戦を潜り抜けてなお飽くことなく鍛練を求める。必中の狙撃を求める龍治の弾丸は、確かにたった一発だ。だがその一発が戦局を揺るがす鋭い一矢となる。殺し屋のプライスラーすら驚愕させる銃の腕。場の空気が一気に冷える。 「このまま流れに乗っていきますよ」 六枚の黒羽根を広げ聖が宙を舞う。牽制用に黒白二枚の刃を放つ。一本は真正面から。もう一本は弧を描いて横からプライスラーを襲う。神秘の力で研ぎ澄まされた二矢が殺し屋を襲う。回避を捨てて力を篭めた投擲は、プライスラーの黒のスーツを切り裂く。なるほどバスカヴィル程に回避力は高くはないようだ。 黒スーツを裂いた刃が、聖の手元に戻ってくる。そしても一本の刃がプラウスラーの横から迫るタイミングで、戻ってきた刃を投擲した。相手が避ける先を考え、そこにあわせるように。第一第二までが囮。本命はこの三つ目の刃。弓を引き絞り放つように、全身の筋肉を使って必殺の一矢を解き放つ。 「やってくれるな」 「上手く付与を外せたみたいですね。運がいい」 プライスラーにかかっていた不可侵の加護。それを砕けたのは確かに僥倖だった。 そして聖の眼前には殺し屋の姿。もうしばらくすれば仲間もエスカレーターを上ってくるだろう。そうなればこちらの優位は揺るがない。 だが眼前の初老の男と一階の少女の表情は崩れない。なんら問題はないとばかりに焦ることなく銃を構えている。 銃声は、まだ止まらない。 ● リベリスタの戦略は攻撃メインと思われるプライスラーの撃破優先である。杏樹、糾華、彩歌がバスカヴィルを押さえながら、可能な限りプライスラーに火線を集中させる。ミュゼーヌ、龍治、聖の三人は二階に移動し、プライスラーと相対しようと移動している。プライスラーがいかに熟練の射手でも、箱舟が誇る射手の猛攻に耐えうるものではない。 勿論、それを許すフィクサードではない。 「そこのお嬢さんとお兄さん。私の踊りを見てくださいな」 ミュゼーヌと龍治がエスカレーターから二階に向かおうとした時に聞こえたバスカヴィルの言葉。言葉と共に放たれる鋭い殺気。言葉こそ甘いが、背中を見せれば撃つといわんばかりの殺気が篭められていた。神秘を含んだ言葉による挑発。 「おあいにく様。先約があるので失礼するわ」 ミュゼーヌは言葉の誘導に耐え、龍治は獣の本能に従いその殺気に反応してしまう。二階にいた聖も、思わず刃を向けてしまった。 「まずいわね」 挑発によりプライスラーへの攻撃が減ったのを感じて、糾華が両手にダガーを構える。複数のスローイングダガーを一気に投擲した。戦場を舞う揚羽蝶が、フィクサードたちを襲う。この挑発が二人の戦術の基本なのだ。あっさり乗るわけには行かない。 「面倒な挑発ね。自分に怒りを向けて仲間をフリーにする。その上ダメージを受けて『甘い弾丸』を放つ。それが貴方の勝ちパターンね」 挑発を跳ね除けた彩歌がプライスラーに気糸を放ちながら、バスカヴィルに向かって言う。微笑で肯定したバスカヴィルは、派手に弾丸を放ち一階にいるリベリスタたちを追い詰める。 「アンジュ。左に避ける癖、治ってないわよ」 「ライラ姉も、攻めるとき右から踏み出すところは変わっていない」 杏樹は呼吸を整え、バスカヴィルを見据える。呼吸、足運び、攻め方、避け方。昔は理解できなかったが、いまならその挙動の意味が理解できる。それは成長した証なのか。弾幕の雨を掻い潜りながら、魔銃を撃ち放つ。 「遊びが過ぎるな」 「ライラには、射手としての在り方など共感を感じない事はないのだけどね」 階下の戦いを見ながら呟くプライスラーに、ミュゼーヌが言葉を返す。言葉と共に弾丸を返しながら、少しずつ距離をつめるミュゼーヌ。フランス銃士とドイツの狙撃手。スタイルの違う射手は、一発ごとに互いを理解する。 応酬される弾丸。交錯する殺意。苛烈な弾幕と狙撃がリベリスタの体力を奪う。 「やってくれるな」 プライスラーの狙撃で龍治が倒れる。運命を燃やし立ち上がり、銃口を狙撃手に向けた。 「射撃戦ではさすがにそちらに分があるわね、でも」 バスカヴィルの弾幕に彩歌が力尽きる。彼女も運命を削り、屈せずに戦場に残った。そのままバスカヴィルに意識を集中し、気糸を放つ。相手の放つ必殺の弾丸。その瞬間を見切り、手首に糸を絡ませ、角度を返る。 「え!?」 「……『PSB』のタイミングを見切られたか……!?」 バスカヴィルの奥の手である甘い弾丸は、プライスラーのほうに飛ぶ。痛恨の一矢が静かな災害の肩を貫いた。いままで受けたダメージもあり、旗色が悪くなる。 「できれば国外退去して欲しいんですがね。別にあんた等の生死はそこまで重要視してねーからな」 「考慮しよう。特に依頼を受けているわけでもないからな」 戦闘の激化と共に口調が荒くなった聖がプライスラーに語りかけ、刃を飛ばす。かなりの体力を奪われたが、あと少しはやれそうだ。帰ってきた答えは、プロ意識を感じさせる言葉だった。逆に言えば、誰かから依頼を受けていれば引かないという意味合いでもあるのだが。 「手向けだ。――受け取れ」 龍治がゆっくりと火縄銃をプライスラーに向ける。深く意識を沈め、的と自分以外の全ての情報を遮断する。殺意すらない静かな世界の中、ただ自然な心で引き金を引く。それは自然と一体化しておこなう狩りの心。 銃声が響き、プライスラーがよろめく。静かな災害が倒れる音を、龍治の耳は確かに捕らえた。 ● 「よくもヴォルを!」 「――降参だ」 激昂するバスカヴィルを押さえるように、両手を挙げたプライスラーの声が響く。運命を燃やしたのだろうか、復活は早かった。何か言いたげなバスカヴィルは諦めたようにため息をつき、肩の力を抜いて拳銃を落とした。 「以外と素直なのね。貴女はもう少し戦闘を続けると思ったけど」 「甘くも楽しくもない戦闘はノーサンキューよ。ヴォルの仇なんて、面白くもないわ」 落とした武器を拾う糾華に、バスカヴィルが答える。怒りに任せての戦闘は自分らしくない、ということだ。事実面白くなさげに、地面を蹴った。 「それだけの実力があれば、例えば時村やアークに売り込む事も可能じゃない?」 ミュゼーヌが両手を挙げるプライスラーの体を探りながら問いかける。予備の武器は持っていないようだ。 「時村財閥が殺し屋を雇ったいうのは、対外的に問題があるだろう。フィクサードが罪を償う為にアークに入ったのとは訳が違う」 「それもそうね。だったらとっとと日本から去ってもらえないかしら」 「私としても本格的に仕事を始める前にこの国の外に出て行ってくれないかな、程度なんだけど。命を奪うつもりは毛頭ないわ」 ミュゼーヌの言葉に重ねるように彩歌が告げる。プライスラーの弾丸は全て急所を外していた。殺害対象外の人間を殺す意図のないプロ意識に敬意を評しての発言だ。 「観光がすんだのなら、早急にお帰りください」 「ぶー。和菓子ぐらいは食べて帰りたかったのにー」 戦闘が終わって普段の口調に戻った聖が、二人の退去を促す。不満気にほほを膨らますバスカヴィル。しかし逆らうつもりはない。敗者のルールには従うようだ。 「子守も大変だな」 「ああ見えて、俺より年上だ」 「……なるほど。女とは分からんものだ」 子供のように振舞うバスカヴィルを見て、龍治がプライスラーに同情し……返ってきた答えに嘆息する。革醒者の年齢を見た目で判断してはいけない。最も行動や言動は子供だから、子守というのはあながち間違っていないのだろうが。 「強くなったな、不動峰。よき仲間と出会えたようだ」 「サマになっていたわ、アンジュ。いつか神様を殴れるといいね!」 「ヴォルフ、ライラ姉……」 二人の言葉に杏樹は自分の胸に手を当てる。フィクサードとリベリスタ。共に握手をする仲ではない。だがその言葉は確かに『仲間』に向けられた言葉だった。道を違えたかつての弟子に向けての言葉。これが今生の別れとなっても、銃で繋がる絆だけは忘れない。 視線を交わし、そして歩き出す。片方は箱舟に、片方は闇の中に。 こうして『Sweets Bullet』と『Silent Disaster』の脅威は日本から去った。フィクサード界隈は突如現れ、誰も殺さず去っていった殺し屋の噂で持ちきりだったが、その真相までは分からなかったという。 別れ際に二人からもらった弾丸のペンダントを手に、杏樹は流れてくるニュースに耳を傾ける。どこかの地方議員の新しい試みのニュース。なんでもない普通のニュース。 もしかしたらこのニュースが悲劇に変わったかもしれない。だが、そうはならなかった。 なんでもないニュースに耳を傾けながら、今日という平和を杏樹はかみ締めるのであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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