●虫の部屋 羽音が、廃屋の中に響いていた。 数え切れないほどの虫。 ……その光景だけでも十分に異様だが、さらに異様なことがあった。拳大ほどの虫たちにはすべて、人の顔がはりついているのだ。 「ふふふ……うふふふふ……」 笑い声。 部屋の中央に、1人の少女が座り込んでいた。 目の大きな少女だった。ありえないほどに。 顔の半分以上が目であり、さらにその瞳は虹色に輝いている。 少女の掌から、女性の顔をした1匹の虫が飛び立つ。 「ふふふ……これで、あなたも綺麗になったわね」 愛おしさのこもった声。「ここの生き物はかわいそうよね……誰もかれも、私みたいな醜い姿をしてる」 近くを飛ぶ虫を掌に載せ、彼女は優しく撫でる。 「私は自分の姿は変えられないけど、あなたたちは変えられる。みんな、私が綺麗にしてあげるからね……ふふふ……」 廃屋の入り口に、1人の男が現れる。誘蛾灯に誘われる我のように、フラフラと歩いていた。 少女は彼のほうを見た。大きなその目に、哀れみを浮かべながら。 ●ブリーフィング 「夏の到来にともない、衛生状態の悪化が確認されています」 アークのブリーフィングルームに集まったリベリスタたちに『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が最初に告げたのはそんな言葉だった。 「また、その影響でエリューションやアザーバイド事件の増加が予想されており、三高平市では独自に衛生強化を行うことになっています」 ディスプレイに大きく、『三防強』――三高平防疫強化施策の略らしい――の文字が現れる。 「皆さんには人間を虫に変化させる能力を持ったアザーバイドを撃破してきていただきます」 虫姫と名づけられたアザーバイドは、どうやら虫を美しいと感じる感性を有しており、この世界を虫で満たそうとしているらしい。 そのための材料が人間なのだという。 「彼女からすると、『醜い』この世界の生物を善意で『美しく』してくれているということになるようですね。迷惑なだけですが」 アザーバイドの持つ能力について、和泉は説明を始める。 「まず、彼女には人間を虫に変える能力を持ちます。もちろん、皆さんも含めてのことです。変化させられてしまえば、たぶん攻撃どころではなくなると思われます」 もっとも、有効性は一般人よりもリベリスタのほうが低い。一種の状態異常と考えればいいだろう。 「それから彼女は生物の注意を引く香りを周囲に振りまいているようです。この香りを吸うと、他の敵に注意を向けることが難しくなってしまうでしょう」 主な能力はこの2つ。また、直接的な攻撃として、大きな瞳から魔光を放ってくることあるそうだ。 また、虫姫の周囲には、無数の虫がまとわりついている。 その大半は、拳大の小さな虫だ。これが人間が彼女に変化させられた姿だ。 これらの虫は彼女がいる廃屋一杯に飛び回っている。1匹1匹は非常に弱く、簡単に倒すことができるだろうが、とにかく数が多い。虫姫に接近するのには邪魔になるだろう。 虫たちの羽音には、ダメージこそないものの聞いたものを呪う効果があるようだ。 他に彼女と同じ世界から来た虫が4体。2体は蜘蛛、2体はカブト虫とよく似た姿をしている。 それぞれ糸を用いた攻撃と、突進による攻撃をしてくるようだ。 「放置しておけば廃屋の周囲は遠からず虫の国のようになってしまいます。そうなる前に、彼女を排除してきてください」 ちなみに、虫に変えられた人間たちについては、元に戻せるにせよ戻せないにせよアークのほうでフォローしてくれるらしい。 リベリスタたちが行うのは、あくまでアザーバイドの排除だけだ。 「それでは出撃の準備をお願いします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:青葉桂都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月13日(土)23:04 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●廃屋の姫君 リベリスタたちは、虫姫が潜んでいるという廃屋に足音を殺して近づいていっていた。 「奇怪な輩もおるものじゃ……虫は流石に蝶でも群がられるのは好かぬ。蟲に変えられた者達もできるだけ無傷に助けたいものじゃ」 緋き瞳を持つ少女、『緋月の幻影』瀬伊庭玲(BNE000094)が時代がかった口調で言った。 「玉虫さんや蝶々さんの羽は綺麗ですが、わたし自身が変身してしまうのはちょっと困りますわ。あ、でも空を飛べるのはちょっと羨ましい気もしますわね……」 『特異点』アイシア・レヴィナス(BNE002307)が小首をかしげる。 廃屋に近づいていくと、だんだん甘い匂いが漂ってくるように感じられた。いや、実際、かすかに漂っていたのだろう。虫姫が獲物を呼び寄せるための香りが。 もっとも、フォーチュナからの情報によれば、虫姫自身にとっては彼らは犠牲者ではない。 むしろ、彼女は善意で行動しているらしかった。 迷惑なことに。 「どうにも異世界の親切というやつは迷惑千万だな。悪気のない者を討伐するのは少々申し訳ないが、運が悪かったと思って諦めてもらおう」 「ええ、虫好きとは、少々親近感がわきますが、趣味を押し付けるのは良くないですのう。ここはキチンと成敗して、自分の世界にお帰り頂けると良いのですが」 筋肉質の男と、怪しい仮面の男が、言葉を交わした。『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)と『怪人Q』百舌鳥九十九(BNE001407)だ。 「そうそう、カタギの人間に手を出しちゃいけないわねぇ……」 安西篠(BNE002807)が口の端をあげた。 サイの角を生やした彼女は、アクセス・ファンタズムから取り出したライフルに目を落とす。 銃を手にするのは久しぶりだった。 (あんな親父に教えてもらった数少ないことがこんなところで役に立つなんて……) 組の若頭をしていた父親のことが頭に浮かぶ。 「……人生はわからないわ」 リベリスタたちは廃屋に近づく。 虫の羽音が、外にいても聞こえてくる。 「コノアイダモ虫今日モ虫コレガ夏カ。ウワ、グロイナ……ムシキモイ」 先日も虫に関わる仕事をしてきたらしい『音狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)が顔をしかめる。 九十九がみかんの皮で作った虫除けを、仲間たちに吹きかける。アザーバイドに効果があるかどうかはともかく、魔除けのようなものだ。 扉を開ける。 人面の虫たちが立てる羽音がうるさい。 一見すると幼い少女に見えるアザーバイドが、顔を上げた。 「はいこんにちは。害虫駆除に参りましたデスヨ。害虫も害獣も害悪も等しく刻んで刻みつくすデスヨ」 ゴシック調の服を身につけた『飛常識』歪崎行方(BNE001422)が進み出る。 ローティーンの少女は、虫姫の虹色に輝く瞳とは対照的に、光のない虚ろな目をしていた。 「……大勢で来たのね。あなたたちも、綺麗にしてあげる」 いっそ美しいといえるような虫姫の声に招かれるように、リベリスタたちが武器を構えて廃屋に入り込んでいった。 九十九が手にした水鉄砲で虫除けをアザーバイドにかける。 「はっはっは、愛する虫達に微妙な距離を取られるが良い!」 虫姫は自分の身体にかけられた液体を嗅いで、嫌そうな顔をした。アザーバイドに虫除けは効かないようだったが、嫌がらせにはなっているようだ。 廃屋の床がきしむ。 隆々たる筋肉を持つライオンのビーストハーフが、足を乗せたせいだ。 「美的感覚というものは異なる世界の中で多少の違いがあるものだ……」 『百獣百魔の王』降魔刃紅郎(BNE002093)が重々しく響く。 「だがこの世界は我等の領域。此度の戦にて決着をつけてやるぞ、異界の姫君よ」 彼が立っているだけで、空気が重さを増したかのようだった。 「行くぞ、刃紅郎。俺たちの力を奴に見せる」 ゲルトが彼の横に並ぶと、廃屋がずいぶんと狭いように思えた。 虫姫の身体が震える。 大きなカブト虫と蜘蛛が姿を現した。その様はまるで、姫君を守る騎士のようだった。 ●虫たちとの闘い リュミエールは真っ先に飛び出した。 「誰ニモ私ハ追イツケナイ……多分コノ中ジャ」 ビーストハーフであり、ソードミラージュである彼女よりも早い者はこの場に1人もいない。敵である虫姫たちも含めて。 加速した少女の足が壁にはりつく。 瞬く間に彼女は壁を駆け上がり、蜘蛛へと接近していた。 遅れて、行方もまた壁伝いに蜘蛛へと近づいてくる。爆発的な気が廃屋に吹き荒れていた。 まずリベリスタたちは蜘蛛型のアザーバイドを狙った。 「今回は回復役がいない。短期決戦で決めるぞ」 刃紅郎が虫の群れとカブト虫を避けて、大剣で蜘蛛を薙ぐ。 その後ろから九十九の放つ銃が、正確に敵を撃ちぬいた。 玲が気糸で蜘蛛を縛ると、篠のライフルが火を吹く。 カブト虫たちが浮き上がった。射撃手である九十九や篠のところへ向かおうとする。 その前にゲルトが立ちはだかる。 「お前の相手は俺だ。よそ見をするなよ?」 角の一撃を、彼は盾を操って威力を減じていた。 アイシアの繊手の先で、チェーンソーが駆動音を立てる。 「ふと思ったのですが、蜘蛛さんって「虫」とは呼ばれていますが「昆虫」ではないですわよね? ……仲間外れなのでしょうか?」 手にした凶悪な武器とは裏腹に、彼女の抱いた疑問は天然系の少女らしい、どこかのんびりとした代物だった。 「別に、仲間外れというわけではなかろうが……」 「そうなんですの。不思議ですわね」 「どうでもいいデスヨ。どうせ死に様は同じようなものデスカラ」 少女たちの会話の前で、蜘蛛が硬質化した糸をリュミエールに飛ばしてくる。 リュミエールは天井を蹴った。 足が天井を離れると重力が働き、そのまま落下する。 黒毛の尻尾が廃屋に揺れる。一回転して着地した少女に、糸はかすりもしない。 「危ナイジャナイカヨー」 防御用の短剣を突き出す。 けれど、それは幻惑するための攻撃だ。 本命のナイフが蜘蛛を貫くと、薄い色の体液が刃を汚す。 蜘蛛はもはや動くことはなかった。 「酷いことするのね。あなたたち、悪い人なのかしら」 虫姫の虹色の瞳が輝く。 禍々しい光に、リュミエールは貫かれた。 廃屋の中にはなおも虫たちの羽音がうるさく響いている。 凶運を呼ぶ羽音……だが、玲は彼らがあくまで犠牲者であるとわかっていた。 緋の瞳を痛ましげに閉じる。 「元は人じゃ。あまり嫌な顔は……」 呟いた少女の開いた目に、仲間の顔をした虫が映った。 普段からぼうっとしていたリュミエールは、変化させられてもなにを考えているかわからない。 「ナニミテンダヨー」 玲は、キレた。 「ひぃっ! お、お主ら! 寄るな! 寄るにゃぁぁぁぁあ!」 パニックに陥りながらも、気糸を放った相手が蜘蛛であったことは賞賛していいだろう。 仲間たちも、たぶん、同じ蜘蛛に攻撃しているらしい。 やがて、漆黒のオーラが少女の手から放たれ、蜘蛛の頭部を完全に打ち砕いた。 「もしかして、この子たちに嫉妬してるのかしら。だったら……」 虫姫の不吉な声に彼女が視線をアザーバイドに向ける。 再び、妖しげな光が虹色の大きな瞳に、宿っていた。 篠は廃屋の外に伏せていた。2体の蜘蛛がもう動かないのを確認し、銃口を虫姫に向ける。 ライフルのスコープの中でリュミエールに続いて玲も、虫に姿が変わっていった。 同じくリベリスタである義弟は早い段階でアザーバイドに遭えてよかったと言っていたが、篠はそうは思えない。あれは、明らかに敵だ。 「虫にされた人達を傷付けない! 針の穴を通す狙撃、やってみせる!」 飛び回る拳大の虫たちに当たらないよう、慎重に狙いを定める。 引き金を引くと、虫たちの隙間を縫って飛んだ銃弾が、虫姫の身体に命中した。 仲間たちが蜘蛛や虫姫との戦いを繰り広げている間にゲルトはカブト虫と対峙していた。 ゲルトの鋼鉄のような肉体を角が貫く。 身体中に電撃が走ったような痺れを感じた。 だが、城砦のごとき彼の筋肉は、力強い角を押し返す。九十九や篠が狙われたならば深手となったかもしれないが、ゲルトにとってはさしたる傷ではない。 全身に力を込めると、彼の肉体が輝きを放った。 虫に変えられていたリュミエールと玲の姿が元に戻っていった。 いくらかの期待を込めて、青年は周囲を飛び回る虫を見やる。 リベリスタたちだけでなく、彼らも元に戻せないかと期待したのだ。 果たして、いくらかの効果はあった。完全に治せたとは言えないものの、何割かが虫から人へ戻りかけといった状態で廃屋の床へ落ちる。 「さっさと逃げろ! また虫にされたくはないだろう!」 声をかけてみたが、動くことはできないようだ。 「どうして、そんな余計なことをするの? やっぱり、悪い人たちなのね」 虫姫から甘い香りが漂ってくる。 少女の姿をしたアザーバイドへ向かって駆け出したくなる衝動に、ゲルトは襲われた。 ●打撃戦 群れをなす虫の一部は無力化されたようだが、まだ虫姫に近づくのは容易ではない。 アイシアはチェーンソーを振りかざす。 「できれば殺したくはありませんわ。退いていて下さいまし」 激しい威力をともなって、彼女はチェーンソーを振るう。 衝撃は風を巻き起こし、虫の群れを吹き飛ばす。 群れの隙間から、リュミエールが突っ込んでいった。 行方も2振りの肉斬り包丁を手に、虫姫へと向かおうとする。 だが、その前にカブト虫が回りこんできた。 「お姫様を守るんデスカ? 殊勝な心がけデス。無駄デスケドネ」 エネルギー球が包丁の切っ先に宿る。 無造作に振り下ろした刃で、行方は邪魔をしたカブト虫を吹き飛ばす。 「虫の姫様、ご機嫌麗しく。虫は脚をもがれても悲鳴を上げることはなし。お姫様はどのような鳴き声を上げるのデショウネ? アハハハハハハ!」 狂笑を響かせる行方に、虫姫の身体が震えていた。 怯えながらも彼女は魔光を瞳から放ってくるが、直撃してもそれは行方を倒すには至らない。 刃紅郎は邪魔な虫たちを剣の腹で払いのけて虫姫の前に立つ。 変えられた犠牲者たちを元に戻してやりたい気持ちはあっても、それによって刃紅郎が行動を変えることはない。邪魔ならば斬ってでも進むだけだ。 もっともゲルトのおかげで、手荒な対応をしなくとも虫姫に近づけるようになっていたが。 「どうした、我の姿も羽虫に変えてみたくはないのか?」 座り込む少女を傲然と見下ろし、激しいエネルギーをともなわせて刃を振り下ろす。 切り裂かれた虫姫が人を虫へと変える禍々しい光を放つ。 速度に優れたリュミエールでさえも捕らえた攻撃を、刃紅郎が回避できるはずもない。 ただ、いずれ王となる彼は自らの姿を変えられた程度のことで動揺はしなかった。 対照的に、含み笑いを上げて虫姫に近づいていくのは玲だ。 「ふっ……ふふふ……良くもやってくれたのう……。焼く! 焼いてやるわ! 我がドレッドノートを受けるがいいわ! にゃははははははは!」 「どうして怒っているの? 綺麗になりたくないの?」 先ほど虫に変えられたのがよほど精神にこたえたのだろう。少女は長大な漆黒のオーラを、首をかしげる虫姫へ思い切り振り下ろす。 玲が主張していた吸血鬼一族の出というのが事実ならば、祖先が嘆きそうな振る舞いだ。 ただ、その威力は間違いなくアザーバイドに痛打を与えている。 先ほど行方に吹き飛ばされたカブト虫が戻ってきたところを、九十九が撃ったショットガンの散弾が、一直線に虫姫もろとも貫く。 そして、篠のライフルも虫姫の急所を狙っていた。 刃紅郎の背後から、光が差した。ゲルトが放った光だ。 「すまぬな、ゲルト」 「これが俺の役目さ」 虫に変えられた姿が元に戻っていく。 カブト虫が突撃してきた。それを無視して、刃紅郎は虫姫を攻撃する。仲間たちも同じだ。 もう1体のカブト虫は回復役であるゲルトを狙っているようだった。 アザーバイドが今度は虫に変えるのではなく、刃紅郎を殺すつもりで光を放ってきた。 出血を強いられ、毒に冒され、凶運に見舞われ、そして麻痺させられ……けれども、刃紅郎は膝をつかなかった。 先刻の虫への変化は思った以上に彼の体力を奪っていたようだ。 そこに見舞われた魔光は彼の限界を超えていたが、運命は刃紅郎を倒れさせはしなかった。 「美しさも醜さも……人が己の中で磨き上げるもの。それを己の価値観で『美しくしてやろう』等とは無粋の極みよ」 自らの身で味わった虫姫の力を、彼は無粋と断ずる。 リュミエールと行方の刃に切り裂かれ、虫姫にも限界が近づいている。 王が振るった剣が少女の姿を弾き飛ばす。 「それら全てを併せ持ち、内包するからこそ……我は価値を見出したのだ。この世界を護り、王として君臨するだけの価値をな」 壁を薄い色の血に染めて、虫姫は磔となっていた。 残ったカブト虫たちは、退こうとはしない。まるで主の仇を打とうとするかのように、なおも突進をしかけてくる。 九十九は仮面の下で嘆息した。 虫好きで、虫にも慕われる少女に彼は親近感を抱いていたからだ。 しかし、攻撃してくるなら倒さないわけにはいかない。 突進を受けたゲルトの身体が一瞬揺らぐが、すぐに立ち直る。 「盾たる俺がこんなところで倒れる訳にはいかんだろう!」 また、回復役なしの消耗戦をいつまでも続けているのは賢明とは言えなかった。 前衛の側にいたカブト虫を、行方が包丁で細切れにする。 「さてさて虫と人の違いは何デショウネ? どちらも儚い命デスノニ」 楽しげに虫を切り刻む少女は、虫姫よりもむしろ凶悪に見える。 最後に残ったカブト虫が集中攻撃を受けている。 集中しなおして感覚を研ぎ澄ますと、九十九はショットガンの引き金を絞る。 甲殻に無数の穴が空き、絶命した敵が失速する。勢いあまって壁に叩きつけられたカブト虫が、音を立ててつぶれた。 ●虫姫の終焉 戦いが終わって、そこには打ちひしがれた少女が残されていた。 「虫になったなんて言えないのじゃ……」 玲は廃屋の外に真っ先に出て、両手を地面につく。きっと、今夜は枕に顔をうずめて、足をバタバタさせることになるだろう。 仲間たちは、そんな彼女をそっとしておいてやった。 「これで、初仕事は無事解決だね。やっぱ、楽とは言えないねえ」 「すぐに慣れますわ。兄を追いかけてきただけのわたしも、戦えていますもの」 息をつく篠に、今回のメンバーの中では比較的気づかいのできるアイシアがねぎらう。 ゲルトは半ば人間に戻った犠牲者たちの様子を見ていた。 この場で完全に戻すことはできないが、中途とはいえ彼の能力に効果があったなら、戻せる目はありそうだ。 「アークに連絡して、保護してもらうとしよう」 武器と盾をアクセス・ファンタズムに戻し、彼は本部へと連絡を取る。 九十九は虫姫の死体を見ていた。 「一応、善意でやってたことですしのう、元に戻して国に帰れと言いたい所でしたが……」 仮面についた赤いガラスの下から、青年はもはや動かないアザーバイドを見つめる。 「まあ、死んでますよな」 虫を愛する彼女とは、ゆっくり話し合うことができればきっと意気投合できたことだろう。 「違う出会い方なら友となれたやもしれぬのに、惜しい」 フードの下で黙祷した彼の姿ははた目には非常に怪しかったが、九十九が虫姫をいたむ気持ちは間違いなく本物だった。 輝きの消えた虫姫の大きな瞳を、彼は静かに閉じてやった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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