● ぽたた、と落とされた雫は廊下の端まで続いている。 アンティークの置物は何時かの時代を思い起こせる様だった。 雫を追い掛けて、茫と灯りの灯された小さな部屋に行き詰る。 部屋の中を覗きこめば、小さな子供がいた。少年であるか、少女であるか分からない。 長い水色の髪を濡らした小さな子供は手にしたパペットの口をぱくぱくと動かして一人で遊んでいる。 ――くすくす。 小さな笑い声だけが部屋の中に木霊して居る。 子供のパペットが「『ドウしタの?』」と嗄れた声が部屋の中に響いて、子供の首がぐるん、と此方を向いた。 「『何シてルの?』」 くすくすくす、と子供の笑い声に重なる様にパペットは喋り続ける。 「『遊ンでヨ? 寂シいジャない』」 ゆっくりと立ち上がった子供の瞳には何も映らない。不思議な瞳だった。 丸い丸い瞳は木の実を思い起こさせる。可愛らしい、子供だなと感じる以外子供には特徴は無い。 ――いや、異常なほどに長い髪と、濡れそぼった姿は室内では異常か。 まるで、強い雨に打たれたかの様な子供の姿は異常その物だ。 「『何シてルの?』」 早く、と手を伸ばす様にパペットを子供が向けた途端、――…… ● 「アザーバイドの仕業かしら」 唇を尖らせた『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)の言葉にリベリスタは小さく頷く。 彼女の予知によれば小さな子供が洋館で一般人を襲っているのだそうだ。 単純な事件ではあるのだが、その子供が厄介な特徴を持っているのだと言う。 「アザーバイドの子供は同年代位の外見……そうね、18歳以下を見ると遊んで欲しいとせがむの。まあ、遊ぶと言っても、力の限り攻撃を加えてくるのだけど。 アザーバイドは綺麗な物が好きよ。どんなものだって宝物。そうね、丁度貴方の『瞳』みたいな――」 世恋がそっと指差したのは一人のリベリスタの瞳だった。 鮮やかな色をしたソレは確かに宝石を想わせる……が、『瞳』は瞳だ。 「子供の後ろに人間の瞳がごろごろ転がって居るわ。欲しかったんでしょうね、綺麗だったから。 アザーバイドと私達は違う。頭の中身が一体どうなってるのかも分からないけれど」 異常性癖の類では無く単純に『綺麗だった』という無垢な考えなのだろう。 濡れそぼった子供の姿は奇妙な生き物ではあるが、普通の子供の様に可愛らしくもある。 一目見ただけではアザーバイドであるのか識別できない程に、ボトムの人間と酷似した外見はある意味で『遣り難さ』も出てくるのかもしれない。 「このアザーバイド、両手にパペットを嵌めているわ。 ライオンさんとゾウさん。この二つを通して子供は意志疎通を行ってくる。タワー・オブ・バベルがなくっても子供とは意志の疎通が出来るわ。そこは心配しなくて大丈夫。 ただ、これは意志疎通用のどうぶつさんじゃなくて――ええと、攻撃にも用いられるわ」 ライオンとゾウのパペットで攻撃を行うのは子供にとって『只の遊び』であるのかもしれない。 それでも誰かが犠牲になるのは許せないから、と世恋はリベリスタを見回して、「少し、オシオキしてきてくれるかしら?」と首を傾げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年04月02日(水)23:30 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 軋む廊下はこの洋館が人に使われなくなってから永い年月を過ごして来た事を感じさせた。 人気のなさに魅力を感じて忍び込んだ少年の気持ちも分からなくはない――が、そんな知的好奇心で命を喪う等ギャグ漫画であったとしても願い下げだ。 ぼんやりとした灯りの灯った部屋は廊下のずっと奥にある。胸を高鳴らせた少年が緊張に震えた手で扉に手をかける少し前、『違った』意味で胸を高鳴らせている『致死性シンデレラ』更科・鎖々女(BNE004865)は紅潮した頬を抑え、少ししか関わりがなかった『未知』なる存在を今か今かと楽しみにしている様だった。 「アザーバイドにちょろっと関わった事はありますけれど……メインで会いに行くのは初めてです。 私達とは在り方が違うのだとすんなりと理解できる所業――流石は上位階層(べつのせかい)のヒト」 小さく細められた瞳、普段のエリューションに対する愛情は彼女の瞳には映って居ない。 軋む廊下に滴り落ちた雫を追い掛けて。まるで童話の登場人物の様な気持ちに小さく首を傾げる。 ヘンゼルとグレーテルは帰り道にと、パンを置いた。自分の家(あんぜんなばしょ)に還る為に。 嗚呼、でもこの場合は逆であろうか。 お菓子のお家(ろうごく)へとお菓子(すいてき)を追い掛けてシェラザード・ミストール(BNE004427)達は脚を勧めているのだから。 ● たっちゃん、たっちゃんと友達の名前を呼ぶ少年はぼんやりと灯りの滲みでる部屋を見つけていた。 薄く開いた扉の向こう、気になったのは何故か。単純明快だ。この暗い洋館で、一人きりになった少年が唯一縋る事が出来たのは見知らぬ『灯り』だったのだろうから。 「失礼、ここで何をしてるのですか?」 後ろから掛けられた声に少年は手をかけ掛けた扉からぱっと離れる。猫が如く靱やかさを持って、身体を滑り込ませた『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)の柘榴の瞳が少年を責める様に見つめている。 肝試しを洋館に入り込んでいた少年にとってレイチェルの問い掛けに応える事は相当の難しさを要求されている。 驚きに竦んだ少年の後ろからぬっと突き出した腕は鎖々女のものだ。至近距離で笑みを浮かべた彼女は少年の目尻に涙が浮かぶのを見詰め、小さく笑みを浮かべる。 「うふふ、不法侵入してる悪い子はだぁ~れだ? 取って食われたくなければ肝試しはここまで」 おばけ、と少年が叫ぶように声を上げる。小さく笑って離れた鎖々女にゆっくりと扉の前から後ずさった少年の後ろからブタのパペットが両手を動かしながら「オイ」と声をかけた。 それだけでも十分な肝試しだ。驚いた少年が座り込んでしまえば、ブタの怒りを制止する様に兎のパペットがずい、と前へと押し出された。 「悪いが此処は人の住居だ。勝手に入って来られては困る」 ぴこぴこと手を動かした『いや名前は「と」じゃない』錦衛門 と ロブスター(BNE003801)――便宜上、兎を錦、ブタをロブ、そして真ん中に居る少女の事を真ん中と呼ぼう――の錦は「ここで何してンだ!」と今にも掴み掛かりそうなロブを抑えている。 「だ、誰かのお家……?」 「そうなのよ。中に居る人は人見知りだから。……ああ、もう、また髪乾かさないで部屋に戻ったのね」 懐中電灯で少年を照らしながら肩を竦めた『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)の口ぶりはこの屋敷の主人を知っているかのようなものだ。 人の家に勝手に入り込んだとなれば、大目玉。少年が慌てた様に彩歌の顔を見詰めれば、くん、と鼻を鳴らした『六芒星の魔術師』六城 雛乃(BNE004267)が人好きする笑みを浮かべて少年に歩み寄る。彼女の鼻先が掴んだのは何らかの気配か。 雛乃の様子に気付いた『ラビリンス・ウォーカー』セレア・アレイン(BNE003170)が後列でその様子を見守っている。扉の方から、カリカリと引っ掻く音が微かにだが聞こえ出して居たのだ。 「お友達はもう帰られたんじゃないでしょうか? 貴方もお早く……」 セレアの視線に頷いて『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)が手招く。同じ位の年齢であるミリィからの声掛けにほっとした様に少年が少しずつ歩きだした。 暗がりの廊下は彼にとっては怖かった。女性ばかりのこの奇妙な空間であれど、年の近そうな真ん中やミリィの存在は彼にとって安心する材料の一つだったのだろう。 「でも、たっちゃんは勝手に帰ったりしないし……あ、あの扉の中に居たり」 「うーん、お友達はあたし達が探すよ~。人見知りの子が怖がっちゃうしね~」 帰ろうね、とODS type.D越しに少年を捉えていた雛乃が彼と扉の間に体を挟みこむ。段々と扉から話されて行く少年に帰ろうと声を掛け続けるリベリスタ達に、渋々頷いて少年はゆっくりと歩き出す。 かりかり、と扉を掻きむしる様な音にブーツの踵をとんとんと鳴らした雛乃が六芒星の杖を握りしめる。 「さて、瞳コレクターさんだっけ? 中々クレイジーな子だね~」 彼女の声と共に、扉を抑えていたレイチェルの手が離れていく。ゆっくりと開いた戸の向こう、丸い水色の瞳を持った子供の顔がこっそりと覗く。 「こんにちは。人間の瞳なんかより、ずっと綺麗なものをあたしが見せてあげる。 あなたの世界の空にはお星様はあるかな? それをすぐ間近で……ちょ~っと痛いかもだけどね?」 身の丈ほどの杖を指先で弄び、首を傾げた雛乃がにこりと笑う。鉄槌の星屑は煌めく子供の瞳目掛けて落とされた。 ● 室内の子供の考える事がレイチェルにとっては理解できない。元より、ボトム・チャンネルに住まう人間の感覚はアザーバイドに通じないのだろう。 雛乃のマレウス・ステルラ――否、彼女なりの言い方をするならばステルラ・ファクス・カエレスティスによってかなりのダメージを得ることになった硬化した瞳は浮かび上がってレイチェルの事を文字通り『ぎょろり』と見据えている。 「……綺麗だからほしかった、ですか」 異質な光景に、飛びださんとする目玉や奥で茫と見つめている子供へとChat noirを指先から投擲する。靱やかなそれは術者の事を思わせる。一気に広がる閃光に瞼(ふた)のない瞳たちは驚き惑いを浮かべている。 「人をオモチャとしか見ていないのか、根本的な所から異質なのか……。 まあ、どちらにしても非常に迷惑であることに変わりはありませんね」 「綺麗だから――確かに綺麗な物に対して心惹かれる気持ちは解りますが、」 指先でスターサファイアを宛がっていたタクトを弄び、仲間達へと援護を与えるミリィは戦場を奏でる様に一気に振り下ろす。 指揮者の意向に沿う様に仲間達を強化する支援を受けて、後衛位置で弓を爪弾いたシェラザードは自身の隣で浮かびあがった瞳に興味津々な様子の自身のフィアキィ、シャルマに小さく笑みを浮かべる。 「判りますけれど、本人は遊びのつもりでもやり方が過激ですね。これはお帰り願わなければなりません」 一気に降り注ぐ火焔の中で、瞳達が押し退けられる。アンティークの小物で飾られた小部屋の照明がぐらつき、いくつかの家具が衝撃で鈍い音を立てて壊れていく。子供が前進しようと動きだすのを視線で捉え、小さく肩をすくめた彩歌は論理演算機甲χ式「オルガノン Ver2.0」を嵌めた指先に力を込める。 バラついて広まっていく気糸は目玉を貫き、引き付ける。サングラス越しに捉えた子供の水色の瞳が興味深そうに彩歌を見詰めていた。 確かに、だ。この子供の行いは人間社会では『理解できない』『極悪非道』に過ぎるであろう。だが、彩歌にとっての子供の行いは『仕方がない』の一言で纏めておけるものだった。 「『お姉さン達だァれ?』」 くいくいと子供のパペットが喋り出す。 「さあ? 誰かしらねぇ」 小さく唇を歪めたセレアは子供を小さく笑みを浮かべて見つめている。碧の本の頁は彼女の指先でパラパラと捲れ出した。 「『遊んデくれルの?』」 「遊ぶ以外の選択肢が? 来なさい、『遊んで』あげるわ」 彩歌の言葉に面白がるように笑ったセレアは赤黒い鎖の濁流を作り出す。鉄の臭いがつん、と雛乃の鼻に付く。鈍色の鎖が子供の腕に巻きついて、両腕のパペットが「やめてよ!」と叫ぶ様に声を上げる。 「やめろ? 貴方にとっては当たり前の遊びでも、こっちには見てるとぶん殴りたくなる内容だったりするの」 確かに、異質な行いは仕方がないことなのだろう。異邦人にはボトムの常識は通じない――それを理解して居るリベリスタ達にとって無垢な子供を責め立てる事は出来ないのだろう。 それでも、それでもだ。手を下す側が幾ら無知で無垢な子供でも、悪意を持たずとも、手を下される側からは悪意にしか見えない『性質』の悪さはそこに存在して居る。セレアが今迄見てきたボトムの人間でもそんな性質の人間は数多くいたがそれでも悪趣味な事には違いない。 「『遊ボうよ!』」 ぽたぽたと水が滴り落ちる。鼻を揺らしたゾウが弾丸をばら撒けば、前線に存在したロブが苛立ったように目玉へと頭突きを一つ。 「くっそ堅ェ目ん玉だなぁオイ! 一つ聞いといてやんよ、この屋敷のもともとの主は如何した? まさか自分で建てたわけじゃねェだろ」 「『それ、なァに?』」 ぴこぴことブタのパペットとライオンのパペットが話している。異質な光景にも全く動じない真ん中の表情は変わらない。子供の弾丸を受けながらも、脚に力を入れた真ん中の肩をぽんと叩き満面の笑みを浮かべた鎖々女はスローイングダガーを一気に放つ。 「お邪魔しまぁす。あはぁ、お気に入りの宝物でもてなしてくれるんですね、良いですよ、良いですよ。 遊びましょう! とっても楽しい時間にしましょうねぇ」 早打ちで目玉の中心を抉りこむ鎖々女に子供はキラキラと輝く瞳で彼女の紫苑色を見詰めている。 リベリスタの中で誰よりもハイテンションに思える彼女にとって、アザーバイドは未だ未知数の存在だ。だからこそ、『欲望』に忠実な鎖々女からすると素敵で仕方がない存在なのだろう。 「遊ぶなら楽しくなくちゃいけないけどね……まあ、価値観の相違なんて言っても仕方がないことだし。 お互いに接点を持たないのが最善だったんでしょうけど――子供の外見してる子を直接殴るなんて、苦手ね」 気糸が瞳を狙い続ける。子供が「『痛イ!』」と騒ぎ立てる声に肩を竦める彩歌は頭突きをせんと近寄った人間の瞳を避けた。 入れ替わり、立ち変わる様にレイチェルが広めた閃光が瞳の動きを鈍らせる。 「……今です、狙って下さい」 「了解よ! ガンガン削って行きましょ。アンティークなものを壊すのは気が引けるけども」 やはり、一番大事なのは仲間と自分の安全だ。誰のものかも知らぬアンティーク小物だが、仕方がない。 屋敷の様子を見る限り、もう長く人は住んでいない打ち捨てられた屋敷なのだろう。 「小細工しても仕方がないわよね?」 子供が動かさない様にと周囲のものを含めて黒き濁流が押し流す。子供が首を振りながら弾丸を真っ直ぐに瞳を狙い、打ち込んでくる動作にレイチェルは体を反転し避ける。 「全く……。悪い事をした子供には、相応の罰を。反省しなければ排除するしかない。 今のは悪い子でしたね? さて、本当のあなたは良い子でしょうか、悪い子でしょうか」 ● 重ねられる閃光の中で、手を動かし続ける子供に視線を遣り、ミリィは肩を竦める。 子供にとって遊び相手は何時だって自分より弱かったのだろう。無抵抗な遊び相手と痛めつけ、綺麗だとその眸を抉り取る。 「『綺麗! すゴく綺麗!』」 ミリィの目を目掛けて弾丸を撃ちだす子供に、咄嗟に顔を庇いながらタクトを振り下ろす。 無邪気な様子はまだ子供であるミリィにも良く分かる。自身のメイドが渡してくれたカメオの美しさだって目を輝かして素敵と感じてしまうものだ。 「――だからこそ、あの子は子供なんでしょうけれど」 一人ごちる。なんだって欲しいからと取って良い訳じゃない。他人のものを盗むのは犯罪ですという啓発ポスターが頭に浮かぶほどだ。 「『欲しイ!』」 「駄目です。コレは――あなたの集めてるそれは人にとってとても大切なものだから。 だから、抜き取ったりしては駄目なんです。それでも止めないなら――お仕置きです」 ミリィの言葉に子供が嫌だいやだと首を振る。後衛で闘うシェラザードの体を貫く弾丸が、彼女の膝を振るわせれば、入れ替わる様に錦が弾丸を撃ち込んだ。 周囲に飛び交う目玉は雛乃や彩歌にとって全て消し飛んでいる。残るは目の前の子ども只、それだけだ。 「お前らに名前はあンのか?」 弾丸を撃ち出した錦に変わりロブが口を開けば子供はふるふると首を振る。髪についていた水滴がぽたぽたと零れ、周囲を濡らしていく。 親近感を抱くパペット達に対して、セレアは子供は殺しても良いと宣言していた。誰かを殺した事がある以上。その相手を死に物狂いで生かす道理もない。 「まだ奥の手は残ってるのよ? ……最終手段だけど、ね?」 魔女の秘術というカードを残したセレアの笑みに雛乃は小さく笑って魔力の矢を放つ。 「『痛いノはヤだ!』」 「あたしが見せた綺麗なお空は嫌いかな? オシオキはそろそろおしまいだよ~!」 とん、と地面を蹴った雛乃の背後、小さく笑みを浮かべた鎖々女は瞼をめくり自分の瞳を見せて笑う。 「私の瞳なんて如何です? お気に理い何ですよ、このアメジスト」 「『頂戴!』」 「あげませんけどね。貴女は眼球の愛で方を分かっていません。 感情を映し歪み潤み己の鏡となる様が最高に美しいのです」 くすくすと笑う彼女に拗ねる様に子供の弾丸が飛び出した。周囲にばら撒かれレル其れを避けて、肩をすくめた彩歌は「私も、」と目尻を指先でなぞる。 「私は自分の瞳はそれこそ人間味が無くて苦手、だけど……それはそれとしてあげる訳にもいかないのよね」 「『何デ?』」 「大事だからですよ」 ミリィの繋げた言葉に子供は首を傾げる。 欲しいからと何でも手に入る訳でもない。愛し方を知らない子供にはあげられない。 「目は口ほどに物を言うと此方の世界では言いましてね、いくら長持ちするように加工しようと台座から切り離されてしまえばビー玉と同じなんですよ?」 指先で弄んだ紛い物。鎖々女が体を逸らせれば、懸命に戦い続けていたシェラザードが弓を爪弾く。 癒しの力はこのパーティの中では彼女のシャルマが与えるものしかなかった。それでも、膝が震えてしまうのは仕方がないことなのか。 傷を深く負い続ける中でも、我儘な子供は遊んでいる心算なのか、リベリスタ達へと攻撃を続けていく。 痛いのは嫌だと泣き喚く子供だってそろそろ遊び疲れてきた。 「言ったでしょう? だから、あなたは子供なのだ、と」 嫌だと駄々を捏ねる。そんな様子に肩をすくめたミリィの閃光が一気に周囲を焼き払う。 重ねた黒き鎖が子供の腕を縛りあげ、周辺の小物全てを濁流にのみ込んだ。赤黒い色に子供が怯えた様にゾウで弾丸をばら撒き続ける。 弾丸を避ける様に体を滑り込ませた彩花の拳が最高級の精度を誇る魔力を伴って一撃が子供の頭へと叩きつけられた。 彩歌に続け、重ねたレイチェルのソレが意識を絡め取る様に、行動さえも支配する赤い瞳は、目の前の我儘盛りの異邦人を至近距離で見つめていた。 「暴力を振るわれた苦しみは、理解したと思います。 大人しく還りますか? それとも、あなたも目玉だけになってみますか?」 至近距離で向けられたChat noir。子供の膝がぺたん、と汚れた床についた。 ● 遊び疲れた子供がうつらうつらと頭を揺らす。そっと近寄って、お弾きやビー玉といったガラス製品の入った袋を子供の手に握らせてミリィは小さくため息をついた。 「まだこういったものを気に行ってくれた方が平和的なんですけど……。 それに、取り上げるだけ……も、考え物ですしね」 ディメンションホールの目の前で、ミリィの言葉に小さく頷いた鎖々女はアイの花束をパペットに咥えさせる。 「他人を不幸にして出来るのは敵だ、友が欲しければ嫌がる事はするな」 真ん中のリボンを解き、アザーバイドの頭に付けた錦は優しく子供の頭を撫でる。 錦もロブも真ん中の寂しさから生み出された。一人の寂しさは良く分かる。親近感とは違う感情を子供の両腕――ライオンとゾウに感じていたのだろう。 「ここでは失敗したが、次がある。頑張れよ」 濡れた髪に結ばれた青色のリボン。錦とロブの言葉に、微妙に真ん中の表情が動いた――気がした。心なしか傷ついたような表情をする真ん中の視線は濡れた髪の子供へと向けられる。 眠りに落ちていく子供の体を抱え上げ、無理やりだけど、と彩歌は帰り道となっている穴の中へと放り込んだ。 お菓子出てきた花束を手にした子供は穴の中へと放り込まれる。雛乃の杖が穴の表面をなぞれば、割れる音と共に霧散した。 紛い物でしかないお菓子で出来た花束も綺麗な瞳変わりガラス細工に鎖々女は小さく笑って囁いた。 「――愛で方を知らないお子様には贋物がお似合いですから」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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