●2013年度を見返す 「えー……今年も恙無くこの会合を迎えられることを喜ばしく思うと同時に、その……まあ……」 「前置きが長い。全体で見れば到底『恙無く』でもねーだろ。俺らは割と自由にやれたってだけだ。それにしたって……ああ、うん。二割? 二割五分か?」 「三割減っすね。ここ数年としては緩やかに減少傾向、だったのがここにきて随分偉い数字になりましたが、これ本部に知れたら大目玉じゃないです?」 恐山・北海道支部道東分局。過酷極まりない道北分局やら人口密集により異常に警戒が強い道央分局などに比べれば幾ばくか『やりやすい』この地域ですら、例年にない収益源に見舞われていた。理由は明白。アークの台頭が徐々に進みつつある状況下で、下位・中位のリベリスタ集団が徐々に調子に乗り始めているのだ。かの主流七派も、見方によってはなめられている、と捉えるべきだろう。 「まー……ほっとくのは不味いですねぇ……決算期ぃ……ですから? ここは何とか収めるところを収めてV字回復とぉ……行きたいところでして……」 「いちいち長えよ久墨(くずみ)。お前は算盤叩いてるだけでいいだろうがそれ、俺らにやれつってんのと同じだからな?」 「ですねぇ。荒浜課長がやってくださるのなら凄く……助かりますねぇ。こちらも人材不足なもので」 間が長い話し方をする長身の男性(久墨というらしい)は、荒浜と呼ばれた男の視線を受けてもたじろがない。間はあれど整然とことを進める様を見るにつけ、この男がくぐった鉄火場の数が背中に見えるようでもある。 「あ、荒浜課長行かれるんです? やった今週は俺フリーっすね。適当に新しいビジネスモデル見繕っとくんで頑張ってくださいよ課長」 「お前エはちょっと危機感持て敷沼。お前付いて来いって言ったら来んのか?」 「ヤですね。行かれませんから。絶対」 間をとりなすつもりだったのか、はたまた乱すつもりだったのか。敷沼はきっぱりと上司の誘いを断った。とんでもない男である。 「んではですねぇ……荒浜課長には何人か引っ張って……ええと、ここですね。『ナイトワンズ』ですか? メイガス系が多い組織だそうなんで腕っ節自慢で潰してきて欲しいんですけど……いいです?」 「規模は?」 「小さいですよぉ……でもけーっこう派手にやってるんで、まあ見せしめにはなるでしょう。色よい話のひとつくらい引っ張っておきたいじゃないですかぁ……」 久墨はこともなげに言い放つ。だが、彼の言葉に何ら冗談も楽観視もないのは明らかである。故に、やらなければどうしようもない、という結論に至るのだが。 ●年度末清算の件、凄惨を避けて。 「何この世知辛いシーンちょっと混ぜて同情誘えば俺ら弱って動きづらいだろみたいな流れ。なるわけねえだろ」 「あちらさんは見られてるとは露とも思ってないでしょうけどね。他所様の台所事情なんてこっちの知ったことじゃありませんし」 何より世知辛いのはその事実がこんなフォーチュナ……『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)の口から語られている事実なのだがそれはさておき。 「恐山の地方も地方、北の東あたりの支部……なんでまあ総合的な重要度は低いのでしょうけど、そちらの方でどうやらリベリスタ組織に対する攻撃を計画しているようです。規模としてはそこまで大きくはないですが粒揃いで、魔術師系統を主な構成員として動いているとのこと。アーク側でも動向は把握していましたが、確かに動きが派手に過ぎるのでそろそろ目をつけられるからこちらからも手を貸すべきかと……思ってた矢先にこれですからねえ」 「まあ実力ついてくるとよくあるよな。そこ超えると落ち着くんだけど」 「過渡期に潰されたら無意味ですけどね」 「そういうのやめろ」 この予見士、ことのほか毒舌である。まあ仕方ない話ではあるが。 「敵は先程申し上げた通り、恐山。支局の課長らしい『荒浜』という男を主軸にやや前傾の構成ですね。数もですが平均的に鍛えられている面々で、タフネスも高め。対魔術師としてはなかなかの天敵ぶりかもしれませんねえ。件の組織と連携を取れば決して御しきれない相手ではないですが、何しろ相手は『謀略の恐山』です。想定外を想定して動いて下さい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年04月06日(日)22:57 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 神秘組織は、良きにつけ悪しきにつけ、「それ」だけで食べていけるということはない。それを用いることでいかに収益を増やすか、と考えるのがフィクサード。 それに頼らず収益を上げた上で、運用により信用性を上げるのがリベリスタである。 つまり、神秘に翻弄される者達がリベリスタにより救済され、或いは阻止されることは彼らにとって不利であるし、ことの大小を問わず収支に直結するネガティブな要素なのである。 「課長、中の様子なんスけど……ちィと、可笑しいんですわ」 「ふうん? 手前エは大概愚図だがその目だけは信用できるからな。言ってみろや」 「熱源で確認できる限りで、数が多いんスわ。データ、本当に合ってます?」 リベリスタ組織『ナイトワンズ』。意味はよく知らぬが、調子付いている連中であることは間違いない。勢力的に考えれば制圧に十分な人数を揃えた筈だが、それで足らぬとこの男は言う。 「……知るかよ。フォーチュナ一人宛てがって貰えねえ俺らを恨めや。無理は承知だ、邪魔は極力無視しろ」 「うス」 どちらにせよ、やることは一つ。正面突破からかき回し、混乱の中適切に殺す。それ以外、やりようのない面子なのだから。 「ねんどまつけっさん、って何でしょう?」 「……そこの赤いニイさん、この子アンタんとこの部下だろ、ちゃんと教えてやりなよ」 「世知辛いってことだ。こういう僻地だと尚更な」 数分ほど前だろうか。小競り合いの処理に有力者数名を派遣した直後に現れた彼ら……言わずもがな『アーク』の有力者を交えた一個集団が、この『ナイトワンズ』拠点の襲撃を予見し、赴いたというのだ。 それを聞かされたリーダー、原峰 そら本人はその言葉を鵜呑みにするには情報が足らぬと感じては居た。だが、さしもの彼女も異世界の住人である『陽だまりの小さな花』アガーテ・イェルダール(BNE004397)がさも当然というように味方側として闊歩しているのを見れば言葉を飲み込まざるをえない。 だが、神秘世界で新鋭と呼べる彼女であっても、『墓堀』ランディ・益母(BNE001403)の存在を知らないということはありえない。彼に話を振ったのも、今揃っているメンバー間で一番筋道通った交渉事に長けていそうなのが彼だった、というのもある。広い世界を知らない異界の民は、決算の恐ろしさを知らない……まあ、この組織にとっても同じことだが。 「年度末の多忙はこっちだって一緒なんですがね……」 理性を強く持ったリベリスタといえば『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)も有力者の一人として名高くもあるが、彼女の物言いを聞いていてそちら方面で頼ろうとは思えない。天下の重工業の上役である。下手につつくのは得策ではないとすら、思うのだ。 「うー……何処の組織に所属していてもフィクサードさんは面倒なのです」 「分かったから大人しくしていろ」 抗議を口にする『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)をなだめすかすように『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)は言葉を紡ぐ。彼ら二人の、宛ら冗句のようにも思えるやり取りは決して無名のそれではない。故に、彼らの下地には確りとした実力があることも理解している。……甚だ不安になるのは、実際のそれを知らないが故なのだが。 「設備の配置とか教えてもらっていいかな? こっちの攻撃が通らなかったりするのは困るし」 「そう、それを失念していた……こちらの防衛機能で君達に不利益を被るのだけは避けたい。急ぎ説明させてもらおう」 「まあ実はこちらにも情報あるんですけどね、変更あったら困りますし」 そんな懸念はさておき、そらに説明を促したのは『六芒星の魔術師』六城 雛乃(BNE004267)である。モニカがすでに情報を得てはいたものの、多少の差も成否に関わる故の問いでもあった。アークでの評判を聞くことは少ないものの、同じ魔術師であること、その能力が自分たちを大きく上回るであろう、という予測は容易に出来た。彼女自身が湛える魔力量がそれを理解させるから、である。そして、彼女の問いは的を射ていた。彼女の仲間も注視すべきと告げていた、この『ナイトワンズ』拠点の正面区画についてである。常態訓練の体裁を取るこの組織は、正面のフィールドの起伏が極めて激しく、遮蔽物が多い構造になっている。そのため、無策での突撃が難しく、遠距離型のメンバーでも無策での魔術発動は危険になる可能性が高い。つまり、このフィールドは面倒という意味で『対等』であると。 「つまり、一方的に戦うことは出来ないから実力がモノを言うってことだな。君達にも相応の危険があるという意味で、早めに撤退してくれると助かる」 「それは……完全には同意しかねる。最初から尻尾を巻いて逃げるわけにはいかない」 「あちらにも言えることですけれど」 相手の名を知ればこそ、その言葉の重みが分かり。相手の名に負う覚悟があったればこそ、こちらが退くのに偲びない。『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)の言葉とはそういう類である。仮に、ランディやモニカがこの胸の言葉を吐いたとしても、そらは完全には承服しなかっただろう。能力や評価の上下ではなく、正義という身で対等にあらねばと考える分、その感情は頑なで率直である。同時に、襲い来る敵方のデータを僅かでも知る以上、それが我儘にすぎないことも理解の上だ。 よって、その言葉を『聖闇の堕天使』七海 紫月(BNE004712)が遮った時点で、彼女はその言葉が感情優先のものであることを気付かされてもいた。だから、と即座に言葉を退くことも無理だ。よって、紫月に視線を固定したまま、次の言葉を待つのみだ。 「雉も鳴かずば撃たれまい、と言いますし。助けられて無傷なうちに仲間を守れることが幸福だとは思いません?」 「……正論だ。であれば私は」 「といっても、その余裕が無さそうですぅ……殺意が、正面から殺到してきます」 覚悟を決めたようにそらが言葉を紡ぐよりも早く、櫻子の言葉が敵襲を告げる。感情の向きに疑いようはないし、ぶれも感じられない。『まっすぐな殺意』は、恋人をおいては信頼が薄い彼女にとって警戒を十全にするべき相手であり、覚悟を整えるためのスパイスでもある。 「相手にとって不幸だったとすれば、集団戦の基礎も叩き込んでない残念なおつむでしょうけどね」 「原峰」 モニカがやれやれ、といった風に、しかし余裕たっぷりに体勢を整える中、前に出ようとしたランディがそらに言葉をかける。重苦しい、ともすれば威圧感すら醸しだすトーンに固まった彼女に、しかし彼の言葉は。 「自分で始末を付けられない程無茶をするな。全て失くしたくないなら今学べ」 誰よりもストレートだが、冷静なそれだった。 ● 「あーあーもう滅茶苦茶じゃねえか、計画性は何処行ったてエ話よ!」 一切の仕掛けも起こさず、正面突破を是とした恐山の面々は、視野に入れたアークの面々に舌打ちすることはあれど、躊躇や抑制という感情は持ち得なかった。 計画性なんてものは、最初から彼らにはない。正面突破。数が多かろうが少なかろうが、友軍が少しいようが、対象を殺せば終わりの稼業である。被害は多少見越して居るのだ、立ち止まる理由など無い。 相対距離は五十もない。全力で踏み込めば十分射程圏に入れることができる……だが、陣形を固めた彼が先ず決断したのは、射手へ向けての指示ひとつ。 「先ず目ェ潰せ。その程度で惑わされたら五流以下もいいとこだけどな」 「この期に及んで光源から潰すとか頭悪いんですか。時間の無駄もいいとこじゃないですか」 早駆けの姿勢から動作を崩さずに上天を狙った一撃は、火線を引いて全ての光源を叩き壊す。モニカ達が予め聞き及んでいた予備光源すらも狙いに来るその周到さは、接敵前だとすれば「それなりには」優秀だったのだろう。だが、少なくとも、戦場に居並ぶ面子の行動を抑止するには余りに弱い手でもある。ただ、ひとつ成果があったとすれば、櫻霞に“アエトス”の使用を決断させたことにある。遠間の敵襲の対策は出来ないが、眼前の敵すら狙えないよりはマシ、というところか。 各々の準備行動を怠らず、数個の塊として突貫するフィクサード集団は見ようによっては酷く緩慢な集団でもある。距離を詰めなければ戦えぬなら一方的に倒されるだけだろう。 「中堅狙いとは、随分姑息な手を使うな」 「それでお前等釣れたんだ、一人ぐらい引っ掛けて帰れば査定の足しになんだよ俺らはよ。姑息だろうが勝てりゃいいのさ、それに」 愚鈍な魔術師(ヤツ)を連れて来てくれた、と。櫻霞の放った銃弾の雨を受け止めながら、力強く踏み込んだデュランダルが大ぶりな斬撃で空気を押しつぶす。狙いは後方で長大な術式を繰るからか、“六芒星の杖”を握り意識を統一させる雛乃の姿がある。物理主体の前衛にとって、魔術師、こと長尺の詠唱を必要とする高位術師はカバーリングが無い場合、格好の的だ。……このタイミングに於いて、彼女をカバーする面子は居ない。狙われれば、深手も当然。回復手が充実していなければ危険だったろう。 「近付かれ過ぎても困りますわね……!」 自陣に深く踏み込まんとしたフィクサード集団へ、アガーテの火炎弾が着弾、幾人かを吹き飛ばす。駆け出しの頃からみれば目覚ましい精度だが、彼らを相手取るには十分とは言い切れない。更に踏み込んだ集団に切り込んだのは、ランディ。正面から“ グレイヴディガー・ドライ”を振るい、数名を足止めした彼が僅かな違和感を覚えるのと同時に、彼の頭部を捉え、乱打に持ち込んだ男の姿があった。 「てめぇか、荒浜ってのは。『予定外』なんだろ? 俺たちは」 「どっかこっかで手前エらお人好しが手出しするのは分かってたっつーの。景気良く見えるとは思ってなかったがな」 派手な乱打だし、ダメージは少なくない。だが、それらを受け止める中でランディは確かに、その男の所作を見抜いていた。「味方への目配せ」を、確かに。 「全ての痛みを癒し……その枷を外しましょう……」 櫻子の詠唱から回復が満ち、雛乃とランディ、加えて後衛に放たれた遠距離攻撃の痛手が尽く癒やされる。だが、敵方とて条件は近い。十分な回復とまではいかないまでも、前進に足る体力を漲らせていく。 「中間管理職も大変ですこと、おほほ」 「オウそうだよ、だからちったぁ敬えよ」 「お断りですわ、わたくしだって仕事ですもの」 お淑やかというよりは慇懃無礼の域を魅せつつ、紫月は回復の術式を練り上げる。痛みすら糧に戦う暗黒騎士のスタイルからすれば余りにかけ離れた技能は、しかし彼女の能力を十全に活かすという結果を引き出した。 僅かな所作につられるように、彼女の纏うヒーリングボールが音を奏で、『ナイトワンズ』の面々に意思を与える。明確な、『倒されない戦い』への意思を。 「前衛だけで固めてきたとおもったらとんだ食わせ者だな。まだ何か隠してるんだろう?」 「はいそうですよ、とは言わねえだろうよ。テメェで考えな」 紫月に及んだ銃弾を“侠気の鋼”で弾き飛ばし、メイスを握り直す義弘の言葉に、射手の男は一切表情を崩さずに応じる。そうでなくても警戒心の塊のような相手、防衛力の要の男に手の内を見せるなど愚の骨頂。手を増やし、意識を向けてくれればいいとさえ思う。 前に出るというだけならば、恐山の面々は十分にリベリスタ達を射程圏に捉えていた。近接が得手な面々だから、と距離を取られた際に木偶になるような布陣ではない。デュランダルに、覇界闘士に、果てはダークナイトにだって間合いを取る戦い方くらい、ある。 十分過ぎる間合いに彼らの笑みが深くなったのを、リベリスタ全員が確かに知覚した。 望むところと、彼らは笑った。 「行動不能耐性だけ持たせて突っ込むとか、雁首揃えて誰も異論無かったんですか。集団戦理論も把握してませんね」 そんな、フィクサードならどれだけ噂に登るかもわからないモニカの辛辣な嘲弄は“殲滅式四十七粍速射砲”の咆哮を前に、掻き消えた。 ● 調子が良すぎる展開はどこかに落とし穴がある。 ランディとの乱打戦を見込み、構えを整えた荒浜が轟音に顔を上げれば、降り注ぐのは常識外の砲弾だった。拳で弾いてもミリ単位の軌道しか変化しない。重量は即ち、安定性でもある。精度さえ高ければ、位置を離れる以外回避の手段が無いのだ。 「魔術師狙いで来てるんだもんね。……あたしの魔法も別に怖く無いよね?」 「な、」 馬鹿馬鹿しい話だ、と荒浜は思った。今しがた弾いた以上のサイズと精度が、視界を覆った事実に笑うしか無かった。ならば、受けよう。怖くなど無い。長尺の魔術など、対応する隙を見い出せば、全く。 「――ッラァ! 奴さん息切れ起こすぞ、突っ込」 「めると思ったんですか? 集団戦どころか戦闘の基礎すらできないとか脳筋じゃないですか」 「あれー? あたし詠唱が必要だなんて言ってないよ?」 魔術を抜け、深く呼吸を交えて気勢を吐いた彼を、『先程と同じクラスの打撃』が襲う。彼一人をすれば、間髪入れず放たれたそれらを耐え切ることは不可能ではなかっただろう。少なくとも、部下とて『全てが、それだけで』倒れるような鍛え方はしていない。 だが、そんなものは数値上の結果でしかない。モニカの打撃力は想定外としても対応範囲内だ。だがあの魔術は何だ。高位詠唱でありながら圧縮したあれは、常に襲い来るということか。 「……チッ、とんだ食わせ者じゃねえか」 「契約不履行で更迭でもされてしまえば面白いですわね、ふふ」 「これに懲りたらフィクサードさんも大人しくして下さらないのかしら……」 無論、それだけで戦況が一変するのだったら恐山の層が如何に薄いのかという話になろう。それでも過半が倒れず突撃を仕掛けてくる脅威はまだ、続く。 火線を維持すること以上に、迫るダメージソースを減らし護衛を完遂させるか、がこの状況で最も重要となる。押し込まれれば、その分紫月と櫻子の負担は重くなるが……人出は、そこまで少なくはないのだ。 「こっちだって侠気の盾を名乗ってるんだ、気合いが違う!」 迫る刃を押し返し、背後の友軍に退くように義弘は告げる。このままなら、彼女たちが死ぬような攻撃量は見込めないだろう。場合によっては攻めに転じることも考え、再び周囲を見回す。 違和感。観察眼が冴えた状態だからこそ覚えた違和感を彼が理解するより早く、動き出したのは櫻子だった。 「櫻霞様っ!」 「こら、まだ……」 戦闘は終わっていない。抱きつくような局面でもない。不測の事態など視野を考えれば起こりえない。櫻霞がそう返す前に、直感が彼を叩いた。それは幸運か、不運か。 暗中での視界は開けている。だが、壁は? 地面は? ……視野を広げることが出来ない。その事実に気付くより早く体が動いた。 後方で回復の詠唱を始めた神聖術師に定めた銃を下ろし、延びる櫻子の腕をとって飛び退る際、彼の背を斬撃が襲った。 「……ッチ、殺ったと思ったのにな」 「貴様……!」 細剣を握った男が地中から身を乗り出し、連続して刺突を繰り出す。“ナイトホーク”が音を立てて細剣を弾くが、距離が近い。守るべきリベリスタが撤退に動いたのは僥倖だったが、彼一人でその場の全員を守り切るには危ういところだ。 櫻霞にとっての予想外が、此処に来て彼を救い、窮地にすら陥れた。多少の硬直があっても、文句は言えまい。 故に、このままなら櫻霞は味方が戻るまで、不利になるが―― 「遠慮無く受け取っとけ、ここでお前たちを通す気は無いからな!」 義弘のメイスが、男の柄を打って弾く。取り落とすような無様を晒すような相手ではなかったが、他のフィクサードと比べればダメージに対する反応が鋭い。目に見えて焦りが見える時点で、おそらくは彼は用途が、違う。 眼前の激戦に、『ナイトワンズ』以上に怯えを見せたのはアガーテだ。足の震えが激しくなるのを知覚しながら、彼女は大きく息を吸い。 「私だって、戦えますわ……!」 喉を締めるような引き声で、気丈に“朱”を男に、フィクサード全体に向け、引き絞る。 ● 「っク生が、手前エどんだけ殴りゃ倒れんだこの野郎!」 「諦めろよ。……目的は『見せしめ』だったな。後がねーにしろ、この戦力を失う様ならお偉方の印象はより悪いだろよ」 フェイトを削られ、しかし窮地と言うほどの痛手を受けぬままに荒浜と対峙したランディは、彼の周囲を顎でしゃくりながら拳を受け止めた。 戦況は恐山にとって一方的に不利、ナイトワンズは――なんてことだ。そこに、亡骸一つもない。 不意打ちも失敗した、つまりは…… 「退け、手前エ等! 死ぬ前に、退け!」 異常なまでに潔く、彼は撤退の号令を放つ。追おうとすれば更に減らすことはできたろうが、敢えて深追いする者はそこには居ない。 尋常ならざる神秘の生み出した破壊だけを、残し。友軍、誰も死なず。 死んだとすれば、荒浜のプライドぐらいのものだろうか? 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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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