●ゴーストスイーパー24時 横っ飛びに跳躍し、道端に山と積まれたゴミ袋へ半ば身体をめり込ませながら、トリガーを引き絞る。吐き出された最後の弾丸は、真っ直ぐに奇怪な怪物の眉間をとらえ。ぽっかりと開いた風穴からごぼりとぬるついた血液を溢れさせながら、E・ビーストは地へと沈む。 がりがりとコンクリートを掻く爪、粘土か何かのように抉れていく地面を忌々しげに睨みつつ、すぐさまブランドンはシリンダーを開放して空薬莢を叩き落し、慣れた手さばきでリボルバーへ弾を装填すると、手首をひねってぱしりとシリンダーを閉じ、六本足の獣のような怪物へ銃口をピタリと合わせる。 やがて……再び立ち上がることなく、怪物がその動きを止めたのを、確認すると。彼は、ふう……と、大きく息を吐いた。 不快な匂いが鼻につくゴミ捨て場から腕を引っこ抜き、重たげに身体を起こすと、トレンチコートに引っ付いた糸くずを手で払い、ひとつ、ごきり、と首を回す。 長年この稼業をやってきて、いい加減に見慣れた怪異ではあったが。とうに肉体のピークは過ぎ去り、往年に比べれば、いくらか衰えが見え始めているのもまた事実。ブランドンは、毎度のごとくに辟易としながらも、リボルバーをアクセス・ファンタズムへしまい込むと、代わりに懐からライターとタバコを一本取り出し、火をつけ……ようと、したところで。 コートのポケットに無造作に放り込まれている携帯電話が、にわかに、ぶるぶると震え出した。 彼は、よぎる嫌な予感を振り払えないままに、夜空にたなびく薄い雲を仰ぎながら、その電話に出る。 「…………ああ。ああ、ちょうど終わったところだ。うん……ああ? これからか?」 思わず口調が荒くなるが。彼ははたと気づき。 「ああいや、うん……分かった、分かったよ、粉雪ちゃん。そりゃ、俺だってかなわんさ、お前さんに過労で倒れられたりした日にゃあね」 なだめるように通話口へ言い、 「ああ、うん……いや、そいつは、ちょいとばかり厳しいな。ああ。ここはひとつ……そう、アーク。あそこに要請をな……」 いくつか電話の向こうとやりとりした後、彼は通話を切り。 肩を落としながら、大きくため息をつく。 「やれやれ……今夜は完徹かい。忙しくて結構なことだ、ありがたくて涙が出るね……」 ブランドンは、濃緑色の鱗に覆われたトカゲ頭を左右に軽く振ると、牙の並んだ大口をくあっと開け、大きなあくびを漏らし。 もう一度ため息をついてから、コートのポケットに両手を突っ込み、背を丸めて歩き出した。 ●増援要請 「とあるリベリスタ組織から、増援要請が届いています。アークはこれに応じ、現場へ戦力を派遣することになりました」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は、急遽集められたリベリスタたちへ、さっそくそう切り出す。 「先方の『神橋心霊探偵事務所』は、表向きは、主に心霊現象や超常現象に悩むクライアントから寄せられた依頼の解決を請け負う私立探偵事務所、となっていますが。つまりは、神秘的な現象への対応を目的とした、小規模リベリスタ組織ですね」 和泉が説明を続けつつも手元を操作すると、モニタには、5階建ての飾り気の無い建物が映し出される。 「ただ、なにぶん少人数の組織ですので、時に彼らの手に余るケースもあって。今回は、このビジネスホテルに大量発生したE・フォースの殲滅を手伝って欲しいそうです」 このホテルでは、以前からたびたび、廊下を焼け焦げた女が歩いていたとか、夜中にふと気づくと天井にぶら下がった影がこちらを覗いていたとか、その手の噂が絶えない場所ではあったらしい。 そこで、和泉が気を利かせ、少しばかり調べてみたところによれば。過去、このホテルが建つ以前にここへ建っていた建物が、大火によって焼け落ち倒壊する、という事件があったのだという。今回の件は、事件の際にこの場へ留まっていた思念体が、何らかのきっかけで時を経て実体化したものではないか……推測ですが、と付け加えながら、和泉はそう言った。 「まぁ、原因その他の究明は、向こうにお任せするとして。皆さんは、これから現場へ向かい、先方のお手伝いをしてきてください」 現場には既に、先方の担当者二名が待機しているとのこと。 短い説明を経て、和泉はモニタをぷつりと落とす。 「所長の神橋さんは、トカゲのビーストハーフの方だそうなので、行けば恐らくすぐに分かるでしょう。よろしくお願いしますね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:墨谷幽 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2014年03月30日(日)22:38 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●心霊関係のお仕事 安っぽい沈静音楽のような気の抜けたBGMがゆったりと流れる、飾り気の無い内装のホテルの廊下を、ブランドン・神橋は大股でずかずかと歩きつつ、 「それじゃ、ひとつ、ご披露いただくとしようか。話に聞くアークの精鋭の腕前、ってやつをね。よろしく頼むぜ?」 リベリスタたちを振り返り、馴れ馴れしく言う。 『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)は、そんなブランドンのトカゲ顔を何とはなしに眺める。共に同じ爬虫類の因子を持つご同輩、何かしら通ずるものがあるのだろうか。 「ああ、分かってるさ。ところで、神橋。聞いてなかったな、アンタは、どんなウデがあるんだ?」 厄介なゴーストの溢れるホテル、そこへ共に踏み込む依頼人は、今回の仕事においてどんな有効な手立てを持ち合わせているのか、という問いだったが、 「俺かい? 若い連中のご期待に添えてやりたいのも、山々なんだがね……ご覧の通りにくたびれた年寄りってのが、悲しくも現実なのさ。ま、あえて、取り柄と言ってみせるなら……」 唐突に、するりと懐へ忍び込んだブランドンの手元が閃くと。次の瞬間には、大型のリボルバーから破裂音が発せられ、たなびく紫煙の向こうで、件のE・フォースが一体、低く苦悶の声を漏らしていた。 ニヤリと笑みを浮かべ、ブランドンは支配人から借り受けたマスターキーを、鷲祐へと投げ渡す。鷲祐はそれをキャッチ、ふっと笑みを返すと、 「なるほど、頼りにさせてもらおうか。さて……どうやらお出ましだな。シュスカ、逐次情報を頼む!」 さっそく目の前に姿を現し始めた怪異に、地下の駐車場へ向かった別働班へ連絡を入れながら、彼らは戦闘行動を開始する。 『六芒星の魔術師』六城 雛乃(BNE004267)は、アクセス・ファンタズムから取り出した杖を振りかざすと、 「こーゆーところって、不思議と怪奇現象に縁があるんだよね。大勢の思念の集まる場所だからかな? あ、次の魔法魔術研究室は、ホテルの一室を借りて作ろうかなぁ……?」 少しばかり思考を横道にそらしつつも、事前に収束していた莫大な魔力を、瞬時にして解放し。流星のごとき光弾を放って、浮かび上がるゴーストを貫いて弾き、派手に爆散させる。 頼みのリベリスタの実力、その片鱗を垣間見て、ひゅう、と一つ口笛を鳴らすブランドンをよそに。現れるゴーストたちの、燃え盛る炎に包まれた頭部、その顔はみな苦悶に歪み、現世に生きる全ての者へ危害を及ぼそうとしているかのようだ。 前方から、慌てふためき駆けて来るサラリーマン風の男と、両手をかざして追いすがるゴーストへ。『花染』霧島 俊介(BNE000082)は、かざした手から発せられる強烈な閃光を浴びせ、焼き尽くす。彼は、パニック状態の男の襟首を強引に掴むと、ぽい、と安全なほうへ放りつつ。 「……ったく。これだから、神秘ってやつは、大嫌いなんだ……! 傷つけるなら、俺を傷つければいい! 一人だって殺させやしない。絶対、みんな、俺が救ってやる……!!」 彼を突き動かすのは、強固な決意。絶対に、誰一人として犠牲を出すまいという、その決意だ。 ブランドンは、そんな俊介の若く激しく、そして真っ直ぐな感情の発露を、眩しそうに見つめつつ。 リベリスタたちを促し、先へと進む。 ●Aの進撃 1階から2階の捜索を終えると、リベリスタたちは打ち合わせ通りに二手に別れ、それぞれの進路を行く。各階にひしめくE・フォースたちを、上下から挟む込む作戦だ。 まず先行して3階へと上がった、A班の面々。 「あそこか……!」 神速の踏み込みで接敵すると、鷲祐は刹那の邂逅の間に、目で追えぬ程の連撃を瞬間に叩き込み、ゴーストを引き裂く。続けざま、階下より連絡のあった部屋のドアをマスターキーで開錠し、扉を開く。 「失礼するぞ、安眠中すまんが……死ぬよりはマシだろう?」 中では、目を覚まして仰天する中年の男と、彼へ襲い掛かろうとしていたゴースト。E・フォースは踏み込んできた乱入者へあっさりと標的を移すと、鷲祐の首筋へ、細い指を絡ませる。 呻く鷲祐を捕らえる、良く見れば美しい女性のゴーストへ、 「やれやれ、早いとこ済ませて、仕事終わりの一服と洒落込みたいもんだねぇ」 すっかりちびた煙草を口寂しくくわえ、三角の覆面をかぶった『足らずの』晦 烏(BNE002858)は、精緻な狙いによる射撃でゴーストの胸を貫き、浄化する。 礼を言う鷲祐に軽く頷き、烏はあらかじめ用意していたホテル内の案内図を取り出す。図面は彼が、仲間内の連携を密に活用するため、念を押して全員へ配布していたものだ。 「さて……おっと、次はあちらか。やれやれ、忙しいことだな」 「全くだ」 近くで聞こえた悲鳴に、図面を参照して方向を確認すると、彼らは部屋を飛び出していく。 廊下では、俊介の白光が、まとめて2体のゴーストを焼き払ったところだ。 俊介は周囲の警戒に加えて音響効果にも配慮し、必要以上に戦闘音が拡散しないように心を砕いている。あくまで一般客たちに対する心配りを忘れないのは、ひとえにそれも、彼らしさであると言えた。 「ふうっ……なあ、今ので、なんたーい?」 「5、6体といったところかな。どうやら、今日は、長い夜になりそうだね」 俊介の投げた問いに答えながら、黄金の甲冑を身に着けた騎士、『イエローナイト』百舌鳥 付喪(BNE002443)は、烏に渡された見取り図を確認する。先ほど、少し先の部屋から、新たにつんざくような悲鳴が聞こえた。透視を用いて部屋内を見透かすと、泡を食った一般客の女性と、悲しみに満ちた表情を炎に包む老人の姿が目に飛び込んでくる。 程なくして、先の部屋のドアが勢い良く開き、女がつまづきながらも飛び出してきた。 付喪は、一般人を巻き込まないよう留意しつつも、帯電しながら自然にページを繰るグリモアを前方へと掲げ、追いすがるゴーストを見据え。 「……何て顔だ。そんなに無念だったのかねえ……まぁ、いいさ。私の雷で、派手に成仏しなッ!」 迸る雷光が、透き通る胸を貫き。ゴーストは、一瞬で霧散し消滅した。 「……おっと、おじさんちょっと遅かったな。次はどっちだ?」 「ああ、少し待っておくれ……よし、見えた、あちらだな」 後から追いついた烏たちを伴い、付喪の透視で索敵を行いつつ、彼らは先を急ぐ。 ●見習いリベリスタ 地下駐車場へと向かった別働班の前にも、怪異は早速姿を見せていた。 「なあに。この手の仕事は、厄介なのは数だけで、戦力的には大したモノじゃないってのが相場だ。そんなに構えなくていいさ、気楽にいけばいいんだぜ、粉雪」 「はっ、はひ!」 『双刃飛閃』喜連川 秋火(BNE003597)は、ブランドン・神橋の助手だという女性、瀬奈粉雪のがちがちに強張った表情にひとつ苦笑いをもらすと。両手に携えた二本の小太刀を手に駆け、閃光のような連撃で、ゴーストを散り散りに引き裂く。 続けて、『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)もまた鋭利な風の刃を巻き起こすと、浮かび上がるゴーストの胴を真横に寸断し、霧消させる。 彼女は目の前の戦いに対応しながらも、ESPによる透視で上階を見通し、アクセス・ファンタズムを通じてホテル内の仲間たちへと情報を提供し続けている。真下から見上げる構図であり、その精度は今ひとつではあったものの。何かしらの指針が得られるのは、上階の面々にとってはありがたいことではあった。 「……ふわぁ。これは、長丁場になりそうね……夜明けまでかかってしまいそう。終わったら、ゆっくり寝たいわね……」 「ふふっ、そうですね。……っと、させません!」 あくび混じりの言葉に同意しつつ、『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)は、後衛へ近づこうとするゴーストたちの前へと割り込みをかけながら、猛火を纏う拳を叩き込んで消し飛ばす。彼女はなるべく多くの敵を相手取るような位置へと陣取り、果敢に前衛として気を張っている。 と、その横をどこか頼りなげな足取りで走り抜ける、件の見習いリベリスタ、瀬奈粉雪。なぜか彼女の武器であるというアーティファクトのモップを振り上げ、殴りかかる……が。 「て、てえ~いっ!」 ぽっけ~ん、という気の抜けそうな音と共に打ち込まれたモップは、しかし、ゴーストを消滅させるほどの破壊力は到底持ち合わせず。 元探偵として、かつては神橋探偵事務所所長とは似た道を歩んだこともある、『チープクォート』ジェイド・I・キタムラ(BNE000838)。彼は、親近感を感じてやまないブランドンの助手であるところの、粉雪の面倒を見ることにはやぶさかでなかったが。 「……とは言え、だ。俺は博打好きでね。当たるも八卦、当たらぬも八卦……と」 ぴいん、とコインを親指で弾き、寸分違わず真上へ跳ねて落ちてきたそれをキャッチ。結果はいかばかりか、ニヤリ、と不敵に笑むと、ジェイドは稲妻のごとき抜き撃ちで、粉雪へ反撃の手を伸ばしたゴーストの頭部を一撃で破壊する。 「や……やっぱり、アークの皆さん、すごいです……聞いてたとおり、です」 ぜいはあと、既に息が上がりがちな彼女は、普段は主に、事務職や雑用をこなしているという。 「私もいつか、皆さんみたいに強くなりたいです。いえ、なって見せます……!」 ぐっ、と拳を握り意気込むが、 「そこ、柱の影だ!」 唐突に目の前へ現れた1体に、腰を抜かす粉雪。秋火の叫びに応じ、シュスタイナの風刃と慧架の鋭い蹴りが切り裂き、事なきを得たものの。 「ううっ、一人前のリベリスタへの道は、遠いです……」 「……ま、気長に頑張るこった」 へたり込む新米リベリスタの頭に、ジェイドはため息ひとつ、ぽむっと優しく手を置いた。 ●Bの競演 エレベータで5階へと登ったB班。 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は、ブランドンにいつもの笑顔で気さくに笑いかけると、 「さて、そんじゃ、お掃除始めますか。困ったときにはお互い様ーってね!」 「ああ、悪いな、アークのエースさんよ。頼りにしてるぜ?」 「まーかせてっ」 廊下をたゆたっていたゴーストへ、両手に携えたトンファーの黒と紅、二色の軌跡を描きながら彼は飛び出し。開幕から渾身の一打を叩き込み、霧散させる。 5階は、少々数が多いようだ。雛乃は、前方に見える数体へめがけ、 「うははははー! この場違いなまでの過剰な火力で、成す術もなく殲滅されるがいい、ゴーストどもめー!」 と、天井を抜けて降り注ぐ神秘の光弾を二連続でぶちかまし、言葉通りのオーバーキルで進路を切り開く。 ESPにより聴力を研ぎ澄まし、聞こえてくる一般客の悲鳴に耳を傾けていた『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773)は、 「そちらの部屋から、声が! でも、鍵がかかってるみたいで……」 なに、こうすればいいさ。と、ブランドンが躊躇なく銃撃しドアの鍵を撃ち抜くと、壱和は部屋の中へとなだれこみ、刃を備える団旗を大きく翻して薙ぎ払い、ゴーストの頭部を斬り飛ばす。 「エリューション、と分かっていても……やっぱり、お化けや幽霊は怖いです。けど、気合を入れて、頑張りましょう……!」 「うん、その意気だよ。それにしても……」 『祈鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)は、壱和を激励してから、しばし、事前に頭の中へと叩き込んでおいた見取り図を思い浮かべながら思案する。 「過去に起きたという火事と、今回のE・フォースの出現。もし、そこに因果関係があるというのなら……」 「あ、それはボクも考えてたんです。見てください」 壱和が広げる地図は、現在のホテルのそれとは違う構造を示している。彼が事前にフォーチュナへと要請し用意してもらった、大火で焼失したという建造物の、設計図面だった。 「照らし合わせてみると、ほら……」 「……なるほどね。焼け落ちた建物も、今回と同じ5階建てか」 遥紀は、さらさらとホテルの地図へ線を書き加える。各班からもたらされる情報に、過去の図面を加えれば、大まかなゴーストたちの分布図を予測し、組み立てることができた。 「となると……次は、あっちのほうが危ないね」 「ええ、急ぎましょう!」 頷きあい、遥紀と壱和は駆け出す。 廊下では、ブランドンと雛乃が、共に1体ずつのゴーストを仕留めたところだ。 が、湧いて出るように現れた1体の頭部が、目に見えて激しく燃え盛り出したかと思うと。 「っ、まずいっ。そこの人、早く逃げて……!」 逃げ遅れた一般客との間に身体をねじ込ませ、庇いに入った夏栖斗とリベリスタたちを、ゴーストから円周上に広がった極低温が包み込み、氷結させていく。 「っつぁ……全く、たまらんな、こいつは……!」 凍りついた自分の腕を見てぼやく、ブランドンの脇を駆け抜け、 「そこです、ッ!」 追いついた壱和の団旗がはためき。怜悧に輝く矛先が、冷気を放ったゴーストの頭部を貫いて、消し飛ばす。 「今、治療するよ。……しかし、結構な数の扉を壊してしまったね」 奇跡にも匹敵する回復の秘術で皆を癒しながらも、遥紀は背後を振り返り、思わずつぶやく。緊急時とはいえ、確かに施設の破壊に伴う賠償の額は、決して少なくは無いだろうと思われた。 「なあに。いつでも火の車、貧乏探偵家業の我が事務所ならいざ知らず、だよ。お宅のボスは……時村氏と言ったかね。非常時の出費をケチケチ渋るような、小さい男じゃあ無いんだろう?」 「……まぁ、そうだね。人の命がかかってることだし……請求書は、時村財閥あてにツケさせてもらうことにしようか」 ニヤリと悪い微笑みを浮かべるトカゲ頭に、遥紀もつられ、苦笑いをもらした。 ●夜明け前 二手に別れ、上下から挟み込むという作戦は、どうやら功を奏したようで。リベリスタたちは4階にて合流し、残り数体となったゴーストを、順次掃討していく。 「ところで、探偵と幽霊って、ある意味最悪の組み合わせだよね、神橋さん……探偵モノのトリックのオチが心霊現象でしたー、なんて、もう袋叩き不可避だよ~」 「俺も、常々そう思っちゃあいるんだがね、お嬢さん……この年になっちまうと、往々にして、のっぴきならないコトってのが多くてな」 大魔術の連発で、さすがに息切れを起こした雛乃が、集中力の回復を図りながらそんなことをブランドンへつぶやく傍ら。 「悪いが、夜明けも近いんでね。一気に行かせてもらおう……!」 「関係ない奴らを、巻き込むんじゃねーっ!」 鷲祐の目にも止まらぬ連撃が切り刻み、俊介のまばゆい光条が焼き尽くし。 「ごめんなさい、でも……どうか、安らかに眠ってくださいね……!」 「そろそろ時間だね、でも、逃がしはしないよ!」 壱和の降らせる呪力の雨が凍りつかせ、付喪の魔力弾が、それを打ち砕く。 やがて、残るは、悲しげな瞳を湛えた、少年のE・フォースただ1体。 「晦、最後をお願いするよ」 遥紀の癒しの秘術に後押しされ。 「了解だ。さて、じきに夜も明ける。無念もあるだろうが……おじさんが、君を送ってやろう」 すまないな、と最後に一つ言い置き。烏の散弾が、最後のE・フォースを貫くと。 概念の炎の残り火を、しばし燃え上がらせてから。ゴーストは、霧のように消えていった。 「ふー、終わった終わった! お疲れさまー粉雪ちゃん、大丈夫だった?」 「は、はひ。もうへろへろですけども……」 もう間もなく日が昇るだろうという時刻。仕事を終えたリベリスタたちは、ホテルのロビーへと顔を揃えていた。 夏栖斗がにっこりと粉雪に微笑むと、彼女はモップにもたれて力なく笑う。地下を担当した4人と共に帰還した彼女は、新米らしくげっそりと憔悴した様子だ。 ブランドンは、頼りない助手の疲れ切った表情に肩をすくめると、 「ま、粉雪ちゃんも、良い経験になったろうよ。これで少しは、そのへっぴり腰が据わってくれればありがたいんだがね」 「もう、人事だと思って軽く言ってくれちゃって、神橋所長は……。でも、そうですね」 改めて、歴戦のリベリスタたちを羨望の眼差しで見回すと、粉雪はふんっと鼻息荒く、頑張りますよ! と気合を入れなおす。どうやら、先輩たちに良い刺激をもらい受けたようだった。 「さて。今回の仕事は、これにて万事、終了だ。突然の要請への手厚い対応に感謝するよ、アークのリベリスタ諸君。今後とも、ぜひ、末永いお付き合いってやつを願いたいもんだ」 ブランドン・神橋はそう締めくくり、リベリスタたちを見送った。 「……アーク、か」 くぁ……と大口を開けてあくびをもらし。ブランドンはぽつり、つぶやく。 「いやあ、さすがのツワモノ揃いーって感じでしたねえ、所長」 「ああ。世話になったのは、これで二回目……か」 「……はい」 少しばかり、顔をうつむかせた粉雪の頭を。ブランドンは、くしゃっと一つ撫で回す。 「ま。連中とは、長い付き合いといきたいもんだな、粉雪ちゃん?」 「……そうですね、はいっ。またご一緒して、勉強させてもらいたいです!」 今や主流派の一つにも数えられる、革醒者たちの大組織との間に生まれたコネは、弱小たる彼ら心霊探偵事務所にとっては、大いに利用価値があるだろう。 ともあれ。 二人はひとまず、事務所に帰って熱いシャワーを浴び、何憚ることなく惰眠を貪るべく、歩み去っていった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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