● 剣と剣がぶつかり合う音が響く。 森の中、何本かの木が斬られて薙ぎ倒される程の激動。 「待て!! 今日こそは、逃がさないからな!!」 「うるせェ!! ウゼェェエ!! 追ってくんじゃねェ、いい加減諦めろよ糞がァ!!」 火花散らして巻き上がるのは砂煙。 リベリスタが一人と、フィクサードが一人、命を賭けての殺し合いを行っていた。 戦闘が開始してから経過した時間はいざ知れず。 始めは戦闘も、もっと派手であった。時には氷が周囲を飲み込み、時には幻影が剣と成って踊る。だが、今はもうスキルらしいスキルを放つ力も残ってはいない。 最初に集中力が切れた方が負けであろう、互いが回避力に優れる為か致命的傷を与えるのは難しい。 「大勢の命を奪っておいて……、もう此れ以上はお前に殺させない!!」 「笑えるだろ?! 俺に殺される為に生まれて来た奴等をなァ!!」 互いに息切れ切れ、四肢は「疲れたもう動きたくない」と悲鳴を上げているが鞭を打つ。かすり傷からは血が漏れ出し、二人が歩む軌跡の森林が破壊されていく。 ――そして。 「これで、終わりだ!!」 「ハハハハハハ!!」 一瞬の隙であった、リベリスタが振り落した剣がフィクサードを捕えずに木の幹に食い込んだ。 見逃さない、一秒も無い時間だ。木から剣を抜く其の無駄動作を行ったリベリスタの身体がフィクサードに吹き飛ばされて、地面に倒れる。 そして馬乗りになったフィクサードの両手がリベリスタの喉を絞めて絞めて絞めていく。 「ぁ……がっ……ぅっ」 「さあさあ、俺の両手の中で眠れよなァ、おやすみ。俺に殺される為に生まれた命さん!」 ● ―――とある村があります。 其の村は、洞窟の奥深くに眠るアザーバイドを神として崇拝しているのです。 アザーバイドは子を生み、其の子等は村人が操り守り神とされています。 其の代わりに何年か一度、アザーバイドへ人間を生贄にしなければなりません。 勿論、村人という同族を生贄にするのは忍びない村人達は外界(村の外)から迷い込んだ、若しくは拉致をした人間を生贄として与えていました。 此の風習は何十年も行われているようです。 ● 命ひとつ美味しく頂いたものの、疲れた。 しつこいんだ、あのリベリスタ野郎。やっと殺せただけ今日は良い一日ではあるのだが。 今日は此の村で休もう。 服もボロボロだったし、全身の傷も何時癒えるか判らん。 運の悪い一家を皆殺しにして、服と飯と寝る場所を確保できただけ満点だろう。 さて、帰り道はどっちであろうか。 またリベリスタが追って来たら困るから、休む前に逃げ道くらいは知っておきたい。だから、村を探索だ、疲れてんのによォ。 ん? なんであいつら俺が確保した家の前に……なんで俺、本能的に隠れたんだ? 「……大変だ!! ××××××一家が殺されてる!! しかも結界が破られているんだ!!」 そういえば、此の村に来る途中に変な緑の薄い膜をビリビリに破いたっけか。 「なんだと!? じゃあ結界が働いてないということか、直ぐに神様に修復して貰わねば!!」 神様? にしても、此の村……人じゃねェのがいるな。 「外界から迷い人か」 そうそう、それって俺のコト。 「成程、…………外界人だ!! 生贄だ!! 今年は贄の年だ!!」 な、なにいってんだ……? 「生贄だ!! 外界人が迷い込んだぞ!! 生きて捕えろ!! 生きて、捕えるんだ!!」 は? はぁ!!? 「神の子を操れ! 外界人を捕えろ! 嬉しや、贄が向うから来てくれた!!」 お、おい、おいおい!? ふざけんじゃねえ!! 湧き上がる声援、奇怪な、嬉しがっている村人は何処か狂気染みた何かが見える。 全身から冷や汗を流すフィクサードの顔色こそ、彼等の声援が強くなるのに比例して青くなっていった。 そして、背後をつつく幼い腕一つ。 「みーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーつけた」 う、うわ。 うわあ、あ、ああ。 うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!! ● 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は話を始めた。 「皆様が今回、向かって頂きたいのは『村』ですね。 今まではアザーバイドの力で万華鏡の予知に引っかからなかったのですが、フィクサードが偶然起こす事件を万華鏡が察知して、『序に』此の村の奇怪な片鱗が見えた……という感じです」 必然に偶然が重なった。 フィクサードが、とある村の一家を皆殺しにする事件から、そこの村が異常であるというものが見えたという事だ。 「村はアザバ崇拝者と、アザバから生まれた子供と、更にアザバと村人が交わって生まれた子供の集まり、最早洗脳レベルですね。 ボトムの中の日本という中に紛れ込んだ小さな異世界だと思うと良いですよ、彼等村人は私達人間を同族と思ってはいない。贄だと、思っています。なので」 村人は、殺しても構わない――そう、杏理は言った。 「皆さんにお願いしたいのは、此の村の存在を消す事。 元々地図には無い村を消せというのも変な話ですが、此れ以上村を放っておく訳にはいかないのです。 それと、大元のアザーバイドについて情報を獲得して頂きたいのです。色々注文が多くて申し訳ないですね、そちらの情報が手に入れば別途で討伐部隊を手配しますので、ある意味皆さんは先遣隊かつ殲滅部隊という事です」 方法は任せる。 一刻も早く此の村を消すのだ。 「イレギュラーがあるとすれば、フィクサードが一人混じっています。 彼は殺しても逃がしても捕えても構いません。アークの方針は現時点では彼より優先が村という事ですが、皆さんが放っておけば彼は勝手に村人に捕まりますので、まあ……。 彼が村の一家を殺す前に皆さんも村に入れるとは思いますが……、村人に見つかると少し面倒かもしれませんね。 見つかると、盛大に目の色変えて「外界人だ捕えろ!!」って追って来ますので……正面から衝突したいのであればいいと思いますが、参考にしてみてくださいね」 それでは盛大な鬼ごっこを始めましょう。 鬼は村人か、それともリベリスタかフィクサードか。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年07月22日(火)23:14 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 闇に隠れて、あまり月が見えない夜の事であった。 「任務を開始する」 『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)が、そう区切りを点ければ、リベリスタ達八人は一斉に班ごとで行動を開始した。 「よろしく頼む」 丁寧なウラジミールの挨拶に、無表情を決め込みつつ軽く会釈をした『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)。其れに続いて、 「こちらこそ」 と礼儀正しく返した『剛刃断魔』蜂須賀 臣(BNE005030)。 『アクスミラージュ』中山 真咲(BNE004687)に関しては、片手を挙げながら満面の笑顔で、 「はーい!」 と返す。 此の班は村に侵入してから、暗がりに溶け込むようにして移動を開始する。 闇討ちだ。 見つかるまでの鬼ごっこ。 建築物……何処か昔の竪穴式の其れを思わせるような。何処か『現代』というものから置いて行かれている様な其れの影に隠れて。 視点を変えてみれば、此方に歩いてくる影がある。大きいのと、小さいのの二種類。 影は角を曲がろうとした刹那に、角に吸い込まれて其処から血飛沫が飛んだ。 もっと細かく言えば、暗がりにウラジミールが影を引きこんだのと同時に、真咲や結唯、臣が一斉に武器を振り落した訳である。 不意打ち同然の其れで命を落とした物体を、また影に隠しながら、早くも返り血に染まった真咲の口がニヤリと笑った。 大声で笑ってしまえは見つかるも同義。真咲は必至に堪えつつ、右手にぶら下がった頭部を丁寧に地面に置いた。 ……と思えば、再び新たな影がウラジミールによって引き込まれてきた。 結唯も臣も容赦は無い。愚かだと、暴走した宗教だと、潰さない理由が無い彼等の腕はジェノサイドを望んでいる。 結唯は思う。 最早自分達の村全てが異常だと気付けない、まるで、狂人の世界に狂人が居るのは異常では無いという其れに近く。 気づけないのなら、終わらすしかないのだ。 臣は思う。 『人』という領域を超えて、土足で神秘世界に踏み入る者達を許せないと。 思いは違えど『皆殺し』を、行う事。日本に紛れた異世界を潰し尽くすが為に――結唯が喉を手で掴んで、締め上げていく直後。臣が頭の先から秘部まで両断した。 叫び声も吐かせる暇も無く、一瞬のうちに作業は続いていく。 空を見上げたウラジミールは思った。小さな、いや、小さすぎる世界であると。 隔離されている此の村の、独自の宗教が有る事事態は罪では無いと思えるのだが。されど、外界に影響を及ぼすのであらば排除せねばならない。 ウラジミールに根付いた、リベリスタであることの心根が其れを許さない。 「秩序の為だ」 引き込んだ影を、ウラジミールは首を折って断罪した。 「生贄だ!! 外界人が迷い込んだぞ!! 生きて捕えろ!! 生きて、捕えるんだ!!」 声が響く。 場所は先程とは変わって、恐らく考えずとも村人だと直感した四人。 『どうやらフィクサードの悪戯が見つかったようね』 同時に『蒼碧』汐崎・沙希(BNE001579)の声が、他三名の頭の中に響いていった。隠密だもので、特に声で反応する事は無いけれども。三名ともほぼ同時に頭を縦に振ったのだった。 此方の班も前の班同様、物陰に隠れながらの移動と討伐を繰り返している。 最早、人や人外の臭いに紛れて、濃い血の香りを汲み取る鼻こそ痛くなってきたと『ツルギノウタヒメ』水守 せおり(BNE004984)は顔を抑えた。 血の香りも様々で、特にアザーバイドであったり、アザーバイドと混じっている人間の血は何故だか嫌気の帯びているものである。此れを無意識の内に発しているアザーバイドへの拒絶と言い換える事も是であろう。 せおりが指で示した方向、沙希はその思いを読み取り 『彼方の方にアザーバイドや人間が固まっている、濃い臭いがする。たぶんフィクサードが殺した一家の家があるのかも』 と言いたいせおりの声を脳内で代弁した。 其の頃、『グラファイトの黒』山田・珍粘(BNE002078)暗黒を引き出し、村人(大人)を引きずり込んだ彼女は、息もつかせずに奈落剣(槍)で器用にも頭を斜めにカットした。 流石、一般人相手だと切れ味が良すぎる。ずるりと落ちた頭部上部と、膝を着いてから崩れる身体の一部始終を見守りながら。 「これじゃあどっちがフィクサードか分からないですねぇ」 誰にも聞こえない程に、小さな小さな声で呟いたのであった。 此れで何人目か、途中五人目まで数えていた記憶はあるが何時の間にか数えるのも止めていた程だ。まだまだ村には人は居る、人では無いのも居る。 さてあと何人か―――――――と、考えて、珍粘は其処で気づいた。 「がぶりちゃんどちらに行かれましたー……?」 「えっ」 『えっ』 思わず声を出したせおりと、ハイテレパスを垂れ流してしまった沙希。 「さっき、子供のアザーバイドいるから倒してくるっていうのは聞こえたかなって思うんだけど」 『そうでしたね、それから……戻っていない? という事なのでしょうか、どうしましょう』 「あらあらまあまあ、困っちゃいますねぇ、大丈夫だとは思いますけれども」 「うーん……」 「うーん……」 『うーん……』 刹那。 「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」 びくっと同じタイミングで三人の身体が揺れた。叫び声、此れもまたフィクサードだろうと直感した三人。 取りあえずと、確かに仲間の行方は気になるものの……先に放火を行うべく、せおりは建築物無いにあった火つけ石っぽいものを鳴らした。 ● 其の、頃。 「手荒な真似をしなくても付いて行くでぜますよ」 『□肉□食』大神 がぶり(BNE004825)は竹やりの様なものを持った人外の子供に連れられて歩かされていた。 両手を上に、大して怖いとも思っていないのだろうマイペースな表情を浮かべながらがぶりは並行して歩く子供をチラり横目で見やる。 「どこに連れて行って貰えるのでござーましょう?」 「うるさいっ、しゃべるなっ」 「日本語上手でごぜーますね」 「うるさい!」 後頭部をぶっ叩かれて一瞬だけ脳震盪したものの、がぶりの意識はまだある。幸い、アクセスファンタズムの存在にも気づかれていないし、気づくことも無いだろう。 核心に踏み入る為に「あえて捕まる」という事を成してみたものの、最終的にどうなるであれ責任は取る。 「さァて、何が聞けるか楽しみでごぜーますね」 「うるさい!」 ガッ。 「いたいでごぜーます……」 ● そして再び村ではあるが―――。 せおりの行った放火により此の夏の湿気具合がどうであれ、木造の家々が燃えていくのに時間はかからなかった。 村人たちは確かに「外界から来た人探し」を優先していたものの、今はそれ所では無く。並行して火を消す事に躍起になっていた。 それもそうか。 彼等にとっては此の村が世界であり、全てだ。 燃えて、燃えて、燃え尽きてしまえは全てが無くなる、生き残れなくなる。 作物も、食物も、飲み物も全て、全てだ。勿論其れを外界に助けを求めるなどという事を考え出す事も出来ぬまま。 既にウラジミール班も、沙希班も隠れている事は止めた。見つかったのもあるのだが、燃えている村に正面から喧嘩を売った方が混乱に乗じてやりやすいと踏んだのだ。 熱いのは、暑いのは、リベリスタも同じだ。肌が乾燥しきったようにカサみ、喉が渇いたくらいに水分を欲している。 けれどもやらねばならない。 罵倒は受けている、お前らが村を燃やしたのかと怒号混じりに言われれば、そうだ、と素直に顔を振った。飛び込んで来た一般人を軽くかわして後ろ手に抑えた臣は、問う。 「お前等が神を慕うやつは何処にいますか?」 「いうわげがねぇ!!」 「なら別のやつに聞くとしよう」 後ろ手を解放しながら臣は一般人を押した、其の先、斧を待ってましたと構えているのは真咲だ。 「アハハ! 喋っても喋らなくてもこうしたよ!」 「ひ!? 許してくれ見逃してくれころさないでく―――」 「えー? なに? ごめん聞こえないよ!!」 振り落した斧は断頭だ!ととは甘く、寧ろ人が斜めに引き千切れてずれ落ちた。血の水たまりが真咲の下には転がる、次の、次の餌は何処だと幼い瞳が動くのを止めない。 其れを見た一般人や、怖気づいてしまったアザバ混じりの人間が叫び声を上げて逃げようとした。 が。 「『挨拶(プリヴィエート)』だ」 「何処に逃げ場があるというのだ」 一人の大人の行く道をウラジミールが老成された威風とオーラを以ってして止めれば、其の一瞬の隙で結唯が大人も子供もフィンガーバレッドから放たれる弾丸の餌食にしていく。 だがそれさえすり抜けて結唯を襲う、強力な村人が駆ける。骨があるやつが居る事に、少しだけだが結唯の口端が裂けて笑った。だが、それもそれまで。村人が強力なのが混じっていようが、結唯の鋼な心に傷をつけることさえ叶わない。攻撃を避け、カウンターに零距離から放つ弾丸が村人の胸の中心を破裂させたのだ。 ふと、そこでウラジミールが気づいた。AFにかける声と共に、真咲に指示を出す。 「後ろから増援だな、単体だが比較的強力な子に見える」 「はーい、でも殺せばいいんでしょう?」 ウラジミールは真咲のあまりの無邪気な声に苦笑いをした。どれではどちらが敵かわかったものではない――と。 されども、アザーバイドの子供が臣の後方からイった眼で臣に噛みつこうしたのだが、真咲が野球バッド如く振り回した斧によりホームラン。 嘔吐物と血の両方を吐きながら倒れた子供に、臣の影がかかる。 見上げれば闇に紛れて子供の瞳に臣の表情が見えず、されど金色の方の瞳が光っていたのは見えた。が、其の儘無言で、頭がひしゃげるまで叩き潰された。何度も何度も何度も叩かれて。 真咲が振り向けば、ウラジミールが気づけば、村の奥から操られているアザーバイドの子供が見える。姿こそ普通の子供なのだが、違う、ヒトでは無いと直感できる。 アザーバイドの誰しもが咆哮と涎と涙を流しながら襲って来るのだ。 「哀れな」 「そうですか? 僕にはそう思う事が難しい」 そう、ウラジミールが呟いた。そして臣の燃える炎に照らされた瞳がやけにくすんで見える。 「正義の為。其れ以外の感情は僕には必要ありません」 「まあいいからいいから! ところであれ全部潰してもいいんだよね!」 真咲の指の先。四人は、子供の群を殲滅せんと迎え撃つ。 「数が、わらわらと、大量ですねえ。いやいや、何処から湧くのか笑えちゃいます」 けらけらと笑う珍粘だが、手は止まらない。子を刻み、噛みつかれたとしても冷静に引き剥がして奈落剣を返す。今のは単体ではあったが、群を成す子供が向かって来る姿を見ながら珍粘はうっとり頬を抑えた。 こんなに可愛い子たちを殺して良いだなんて、本当は頬すりとか許されるのならばしたいものの……切刻み、断末魔の声に耳が潤う。 「はぁ、可愛らしい、全部殺しても構わないのですよね」 されど珍粘、敵に囲まれていた。 「ちょっとちょっと、珍粘君、廻り危ないからー!!」 せおりが珍粘の腕を掴んで後ろに引き、青色染みた炎を纏いながら子供の群に突っ込めば吹き飛んでいく彼等。 「火種一個追加だよ!」 「あーみんな飛んで行っちゃったバラバラに」 其れを見て珍粘はかなり残念そうな声色。 地面にブレーキをかけた跡を盛大に残しながら、敵の間を突っ切ってしまったせおりはそそくさと元の位置へと戻る。沙希のもとへはいかせまいと、せおりと珍粘は敵を抑え込んでいくのであった。 せおりとは入れ替わりの様にして、再び珍粘が暗黒を引き連れ槍とし、子の身体を穴だらけにしていった。その間にも、噛みつかれた彼女の傷あとが逆再生のように治っていく。 沙希だが、回復しながらも思考と言葉を頭に巡らせていた。ズキン、と痛む頭を抑えながら、されど止める事は無い。 以前上位のアザーバイドにリーディングを行い、痛い目を見たばかりだが。己が役目は此れであると踏んだ以上は、やり遂げるが為に。 「だ、大丈夫!?」 『平気です』 よろけた沙希に、せおりの腕が支えた。 「せおりが守ってあげるね」 『……ありがとうございます』 リーディングはした、だが、操られている子相手には反動があった。子の脳内には意思が無い、けれども術式に似た抗えぬ命令が沙希の頭に入り込んでいたのだ。 『けれど……分かりました、悪魔崇拝にも似た、此の大元――!!』 「おっと、其の先はCMのあとでですねえ!」 「CMってなに!? 珍粘君どこみて喋ってるの!?」 ● 「で」 「はい」 「で。だな」 「はい?」 「なんでリベリスタがこんな場所にいんだ? 俺追ってきたってのか?」 「ちげーます、ついでに見つけたので村破壊に来たでごぜーます。アナタこそどうやって結界を破ったのでごぜーますか」 「見えるだろ、あんなもん、知識があれば。それにあれは来るものは拒まない結界だ、入ろうと思えば入れる」 「去るものは出れないのでごぜーますな。外界人を贄とする村らしいでごぜえます」 「だが俺ら、今、滅茶苦茶ぴんちじゃね?」 「確かに、でごぜーますなあ。というか村の洞窟に繋がる隠し通路があるとは、そりゃ思わないでごぜーますなあ」 「そうだなあ、で、俺らその洞窟とやらに縄で縛られて放置状態なんだよな。何此れ、プレイ?」 「村人は慌てて村に戻っていきましたでごぜーますなあ」 「お前等の仲間がいるからな、皆殺しか、リベリスタもなかなか思い切った事するな」 「そうでごぜーますなあ、集まったリベリスタも個性強いのが多いでごぜーます」 「過激的だもんなあおまえら」 「ところで、まずいでごぜえますな」 「なんでよ」 「なんか……ヤバそうなのがいるでごぜえますよ此処」 「あ、ああ? まじかよ……」 「マジで、ごぜえますな……」 臭いで判る。 猟犬も無くとも充満した死臭。それに混じった動物にも似た、生臭いこれ。 一歩一歩近寄ってくるナニカの存在。 「……あれは、なんでごぜえましょう」 「……アラ、ハバギ?」 「……」 「……」 「……逃げるぞ!!!」 縄を力いっぱい引き千切れば解く事など可能だ。 此処で村人が居て、捧げられて、逃げ場も無くて死ぬ予定であったフィクサードではあるのだがリベリスタが村を荒し、村人が其方へ向かった為に死ぬ予定が大幅に変更される。 二人は背後から迫る気配に振り向く事も無く逃げた、恐らく二人であれどもまともに戦闘すれば死は逃れられない。 けれど、けれども。此れもがぶりの性なのか。 「一口くらい味わってもいいでごぜーますかね」 「死にたいならやってろ!!」 がぶりは、足を止め。 暁は、宵闇に紛れて姿を消した。 ● 合流した二班、だが。 「がぶりは、どうした?」 ウラジミールが聞いても、誰しもが首を横に振るばかり。けれど少し時間が経てば、元気そうに手を振ったがぶりがやってくる予定ではあるが、今はまだ神のみぞ知る事。 燃える村を背に、互いの情報を確認しあいながら。結唯はふと、せおりが抱えているものを見る。 「お前、それはなんだ」 「うーん、なんだか村人の子供なんだけど。まだ其処まで狂信的でもないように見えたから、助けようと思って」 控えめににこっと笑ったせおり。多くの命が消えた此の村での、未だ希望ある生命くらい助けても損では無いだろう。 「さぁて、情報纏めですねぇ」 『はい。恐らく此の村はアラハバキの支配下です。確信は取れませんが、一般人や子供の考えている事を繋げればその名前に辿り着きました』 「ウフフ、なんだか聞いたことのある神様の名前ですねえ」 再びにこにこと笑う珍粘の隣で沙希は言う。 『洞窟に居るとは思うのですが……』 「たぶん、逃げたでごぜーますよ、そいつ」 そう、合流したがぶりが何事も無かったかのような状態で、されど満身創痍の状態で手を振っていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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