下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






【八面卿遊戯】誰そ彼の日々に罅を差せ

●『八面卿』
 彼は世界に降り立った時点で、自らが排除されるべき存在であることを認識した。
 仕立てのいいスーツも不釣り合いなほどに小奇麗なシルクハットも世界にとっては不要であると。悲しいほどに無駄が多い己に対し、悲しみを覚えては居た。
 であれば、僅か後に死を迎える前に。自らが存在した意味をこの世界に刻みつけよう。幸いにして(世界にとっては不幸にして)、彼にはその力がある。
 過去と未来を繋ぐこと、友の陰に怯えること、それ以外のあらゆる恐怖を刻みつける為に、やっつの側面を見せる悪意を。

●あなたではなくわたしではなく
「後悔とか、改善とか、願いとか。人の在り方を決定するのは何時だって自身の過去です。自らの過去と向き合うことは、在り方を確固たるものとするのと同義です」
「うん、勿体ぶった言い回しされなくても知ってるからな」
 ブリーフィングルームのモニタに大写しになった八面鏡を背に、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)は至極当たり前のことを勿体ぶって言ってみせた。
 自らの過去と向き合う。リベリスタであれば大なり小なり行うことだろうし、そういったことを強制するタイプの神秘存在は少なくない。今更、珍しいことでもない。
「アザーバイド『八面卿』。既に存命ではないですが、彼は命を落とすに際して自らの分身ともいえるアーティファクトを生成し、その生命を断ちました。その内の一つ、『旧惨八非』を捕捉したため、直ちに破壊していただきたい」
「過去が云々と関係あると見たが、壊すほどのものなのか? アーティファクトならフェイト云々とは切り離されてるし……」
「必須なんですよ。それ、八面鏡型なんですが、中心に人を捕らえていましてですね。アーティファクトが稼動するのに対象者の命を奪うようです。一人死ねば次、更に次……とね」
「うわ、厄介。……で、過去? もう俺、隠すような過去も向き合うような傷もないけど?」
 夜倉の説明に、いやいや過去の自分を思い出し、リベリスタが応じる。そう、彼らアークのリベリスタに過去を語ることも見せることも、既に手垢のついたような出来事にすぎない。
「では、自分以外の過去と向き合うというのはどうでしょう。本人にとってはありきたりな過去でしょうが、それを他者が体験する。それはとても……残酷ではないですかね?」
「幸せな記憶が多い奴も居るだろうが、それも」
「――悲しい過去を持つ人が眩い世界に放り込まれたらどうなります?」
 異論を唱えたリベリスタは、夜倉の視線が何ら感情の篭っていないそれであることに気付き、返答に困った。同時に、「幸せ」であった本人はそれを理解できないことも。
「まあ、誰がどうなるか、はランダムのようですけどね。あと、解除するのに力技は通用しません。過去を強引に捻じ曲げるのではなく、過去との折り合いを付けないといけない、ということだそうで。まあ、その辺りは君達が上手くやってくれるでしょう。最大を以て最善を。彼の異界者の置き土産は、熨斗付けて返しちまいましょう」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:風見鶏  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年03月29日(土)23:17
 手垢? 付け直せばいいんだよんなもん!

●達成条件
 アーティファクト『旧惨八非』破壊

●『旧惨八非』
 姿見が八枚、外側を向いて揃えられた(八面体として作られた)アーティファクト。
 アザーバイド『八面卿』(鬼籍)により具現されたもののひとつ。
 これと対面した者は、『同時に対面した者いずれかの過去の追体験』を強制される。
『追体験』は4名以上でなければ行えず、また、その半数~2/3程度が追体験から脱さない限り破壊は不可能。
 過去の追体験に際し、体験中に肉体を動かすことは出来ず(過去のビジョン内で思念体が行動する)、強引にすぎる手段での打開は行えず(幸せな家庭を皆殺し、到底一人で倒せなかったようなエリューションの撃破、など)、体験中はHP/EPロスト小~大を被る。
 余りに強引だったり常軌を逸した行動に走った場合、拒絶反応により強制重傷もありうる。フェイト使用は可。

●戦場
 上記の通り。
 戦闘というよりは、「他人の過去の追体験」が行動の殆ど。
・自らの過去(簡略的でよい)と他者のそれにどう向き合うかなどが重要な要素となるので注意。

 変則的にいってみましょう。
参加NPC
 


■メイン参加者 6人■
ハイジーニアススターサジタリー
カルラ・シュトロゼック(BNE003655)
フライダーククロスイージス
★MVP
丸田 富江(BNE004309)
フュリエデュランダル
エオストレ・アウローラ(BNE004421)
ビーストハーフ覇界闘士
翔 小雷(BNE004728)
フライエンジェクロスイージス
ユーグ・マクシム・グザヴィエ(BNE004796)
メタルフレームクリミナルスタア
緒形 腥(BNE004852)

●通過点の認識力
 それを異界のものと認識することは、一般人には不可能である。この鏡に身を委ね、その中心部にて衰弱していく人間が居るのなら、その無知を笑うのではなく、その不幸を嘆くべきだ。
「『八面卿』の置き土産、か」
 そのアーティファクトを残したことにどんな意味があったのか、どんな過去が相手にあったのか。鬼籍に入った異界の民を思うことは『鏡の中の魂』ユーグ・マクシム・グザヴィエ(BNE004796)には出来ない。
 出来る事は、ただ与えられた任務を全うすることだけ。世界に悪意があるのなら、喪われつつある生命があるのなら、救う為に生きるのが彼だ。その名を名乗るのは、何よりもその生き方を忘れぬ為に。自分のために。
「こんな危ないものは早く処分しないとね」
 ユーグとは別の姿身の前に陣取り、静かに呼吸を整える『遺志を継ぐ双子の姉』丸田 富江(BNE004309)の持つおおらかさをもってしても、目の前の悪意は顔を歪めるにふさわしいそれである。
 人の命を吸う時点で既に悪だが、過去を体験するのもされるのも、いいことではなく。自らの中にある妹の記憶が目の前の存在を意識しているというのは、わかる。彼女は双子の姉なのだから。
「まあ、過去なんてのは、な」
 過去がたりをすること自体、不幸の暴露と自慢に等しい事になることは知っている。運命を与えられ道を外れたことはそういうものだと『赤き雷光』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)は理解する。誇るものではないのだと。
 だが、今は、今だけは。その過去を誰かが背負ってくれるなら。立ち上がる事だって出来る、わかちあうことだってできる。自分が、そうする。握った拳は自ら打ち据えるために、あるのだ。
「過去は過去だろうに、別に見られて困る事は無いんだけど」
 その言葉に何一つ偽りは無いのだろう。表情の見えぬ兜の奥でどんな表情をしているのかは、緒形 腥(BNE004852)本人にしか分からない。
 見られて困るものがない。所詮それは過去であるが故に、自慢することもひた隠しにすることもない。今とはまるで違うもの。他人のそれも同じように、機械的に捉え処理するだけである。
 それに似た精神性を以て挑む『完全懲悪』翔 小雷(BNE004728)には、語ることもなければ思うこともない。今は、一秒でも早く依頼を完遂させることだけが、必要な意思の全てだった。
 そして、そんな彼らの意思を理解しきるには、『メリーウィドー』エオストレ・アウローラ(BNE004421)はボトムに来てから日が浅すぎた。ただ、皆と同じように踏み越えた過去があることは事実で。
 一歩踏み出したのは、ただただ理解するために、思いを受け止めるために。この場所にいるのだ。

各々が立った鏡面が輝きを増す。数秒の後、膝から崩れ落ちた彼らの魂はそこにはない。鏡の国は、彼らに向けて開かれて。


 手のひらに感じた温もりに、カルラは僅かな驚きを覚えた。彼に、そんな原風景は無かったのだから。
 手のひらを握り返すのが――一拍遅れて、『彼』の妹だと理解したとき、改めてその服装に視線をやることになった。
 血と臓物の匂い。死が間近にある匂い。自分ひとりが世界の不幸だったカルラにとって、大切なものとその喪失を共有することは殊更な痛みを伴う。
 自分だけならどれだけ痛みを味わっても良かったのに。一人きりの不幸を背負い込んだ器に、痛みの共有は溢れんばかりの重みがあり。
 振るった拳の軽さ、振るった拳の柔らかさ、果てしない無能と無力が生み出した不幸は共通するものだから、重い。辛い。
 カルラにも恨みはあり怨嗟が喉を衝くことはあった。だがカルラも、『彼』も、それを果たすことを許されないまま歩いてきた。長い道が、彼らを必要なしと囁きつつ伸びている。手を伸ばすのが憚られる。
 こんなにちっぽけな手だったか、こんなに長い、道だったろうか。

 ユーグは、『その体』のままに胸元に手をやった。穴が、開いたような喪失感。ああ、恐らく『この人にとって唯一無二』が失われた痛みなのだろう、と感覚で理解する。
 流れこんできた記憶はその、唯一無二だった人のもの。生まれてから一緒だった存在感を分かつその人の願いや祈りや決意が滑りこんでくる。流れ落ちていく。
(ありのまま、受け入れるんだ)
 ああ、でも、どうしてだろう。流れてくる祈りの総量は彼がリベリスタとして生きてきた時間、フィクサードと定義されるべき荒んだ時間を合算して尚、追体験の主と失われた相手との心が包み込んでくるのが分かる。
 痛みを知る為に、誰かの記憶を見ている筈なのに、『自分自身』が抉られる。この暖かさに、優しさに、感じるのはただただ、悔しさなのだ。
 だから、自分だけの想いは誰かに預けるべきだ。今はこの痛みを一分も零さず拾い上げなければならない。ぐずぐずと崩れ落ちるような、瓦礫に埋もれていくような喪失感の底から火が灯る感触を、音を、確かに彼は聞いていた。

 腥は、ドライな男だ。見ているだけで、正面から向き合うことを決意して、誰より真剣に出来ると自負して、しかしそれがどれほどの重みを伴うかまでは、分からなかった。
 だから、『自分』が手術台にしては酷く薄汚れたそれに磔にされていることも、彼らにとってのその行為が生業であり、『彼』にとっての弑虐(しいぎゃく)であることも受け入れる。
 彼らが好き好んで痛みを自らに与えていることも、受け入れよう。ああ、痛覚が屈辱が敵意ですら無い悪意が突き刺さり蹂躙して壊していく。
 痛みと恨みと痛みと怒りと、兎に角それらがないまぜになって己の中を跳ねまわる。成程、これはひどい感覚だと理解する。死に瀕する感触が身体中に満ち満ちて、その意志の原型を形作るのが理解できる。
 ――だが何故だ。「こんなものか」と至極冷めた感情が覆わんとした一瞬で、腥は『彼』ではなく腥として、唐突に。

 小雷の意識に飛び込んできたのは、胸を衝く重苦しさに満ちた『形無いものへの不満と怒り』だった。
 怒りの形質が確固としてある彼は戸惑いすら覚えるが、嗚呼、共に戦った仲間のそれであると気付いた時にはそれがどれほど尊いものかは語るまでもなく明らかで。
 暴力とあてのない憎悪を掬い取って包み込んだ善意が、彼に流れ込み、今を形作っていく。喪失すらもひとつのピース。その名の意味を、理解した。
 幸せが消えていく瞬間を見て、喪失感におびえて、しかし相手はそれを乗り越えたのだと理解する。力の無さに笑いそうになる自分なんて、なんてちっぽけなのだろうかと、鈍器を持つ手を開いてみて、それが音を立てて転がったのを、遅まきながら理解した。

 それはさながら、一人舞台に立ち尽くす初舞台のプリマだろうか。
 エオストレは、その人物が一人じゃなくなるまでの僅かな時間に恐怖した。彼女は、フュリエは一人であることなど無かったから。
 名前がなく、自らの汚れた姿にそれを由来されたのは、尚更理解できなかった。
 だが分かる。ボトムで個を確立させた彼女には、流れこんでくる過去が理解できる。変えることは許されないかもしれないそれを、追想することに怯えはない。
 戦いの記憶と記録に塗りつぶされたその先で、しかし。
(…………、っづ――)
 声にならない。声をあげられるほど肉体が残されていなかったから。
 思考がまとまらない。思考するより早くそれを許す脳が消えていったから。感覚が神経が焼き切れる痛み。戦いを知って尚理解するに遥か遠い痛み。
 分かる。けど、知らない。こんな、重みは知らない……!
(ルーくん、)
 だからそうだ。
 自らの心のなかから沸き上がる思いが、『エオストレの思いが』、そこでは緩慢な毒で。

 それは荒野。ひと目でボトムのそれではないと理解できる地で、この世界では決して見ることのない異質の変化を前にして、富江は言い知れない感情を覚えていた。
(大丈夫だよ、あんたも三高平の子なんだ)
 シェルン・ミスティルを主体としたラ・ル・カーナの『端末』が呆然と、漠然と、茫漠とした世界に押しつぶされそうになる足を動かし手を動かし、目の前の出来事を処理しようとしている。
 戦意というものの萌芽から日を待たずして迎えた世界の変転に、彼女はまだ抗いきれずにいた。飲み込まれそうになっていた。
 彼女たちより遥か『戦士』であったろう相手の胸に埋もれた刃の柄を握った彼女に去来した思いは個体のそれとして芽生えることは、きっと無く。
 繰り返し波打つ世界の一部としての共有された指向性を前に、立ち上がるしか無いのだ。
(分かるよ、辛かったって、痛かったって、悲しかったって、それは真実なんだ)
 違う空を見ていた彼女は、今は三高平で肩を並べる『子供達』なのだから。感情一つ絶望一つ、それはとても愛おしく。
 痛みを受けて、こころをえぐり。富江はそれでも、笑っていたかった。


 フォージング・ヘイトレッド(憎悪の鍛造)。
 喪失者として歩み、革醒者として目覚め、リベリスタとして踏み出した彼らに最初に与えられる方向性はその行為。
 弱者であることに、悪意ある者に、そして取り戻せない自分自身の過去すらも質に入れ、割にあわない力の発露に至って尚、手を伸ばす。
 この記憶は多くにおいて共通しているのかもしれないとカルラは思う。物理的な痛み、という意味でこの記憶を受け止めることは造作ないことだ。鍛錬の苛烈さには目を剥くが、それだけだ。
 だが、それ以上に。戻れない道においてきたのと、最初に奪われたのとでは心の痛みがまるで違う。
 目を逸らさない。幸せすら忘れた彼に、この記憶の持ち主の幸せだったあの日は余りに重い。
「だから俺は、フィクサード狩りを名乗り続けるんだ。……そうだったな」
 自分のそれも彼のそれも理不尽から生まれた怒りだった。鍛え上げた憎悪を帰る場所という水に浸し、また憎悪で焼いて。
(俺の過去を見て、笑う奴がいるのなら笑えばいい)
 笑えるものか。このシンパシーを笑うことができるものか。

 眩しい世界を見た。笑顔を見た。愛を見た。
 それが幸せだったという想いが覚悟と共に歩むユーグに突き刺さる。その想いは優しすぎて辛く、真っ直ぐすぎて重く。
 刻み込まれていく思いを、より深く受け止めようと意識して、その深みに溺れそうになって。
 もっと、受け止めなければ消えてしまうから。変えられない過去から生み出されようとしている感情を、見届けるためにも。
――Va ou tu peux, meurs ou tu dois.(行ける所まで行き、然るべき場所で死ね)
 踏み出した足をより重く、より強くする意思の刃。心に刻んだ恩人の言葉が、何より強く彼を鍛えあげる。
 しかるべき場所に踏み出すために負けられない。自らの『行ける所』は此処じゃない。立ち止まっている暇なんて無いんだ。
「ここで潰れたら、名前を借りてるあいつに顔向け出来ねえだろがッ!」
 言葉と力の使い方を教えてくれた相手に報いる。自分はここまで成長したと、胸を張って告げるために。

 突き出された右手に、ぼんやりと腥は意識を飛ばした。
 感覚など無かったとばかり思っていたけれど。『彼』はそれを持っているのだったか。
 恨みを以て意思を鍛え、決意を以て重ねた鉄火場は、しかし彼が理解するには重いのか。
 血腥い人生に身をおいた彼に恨むべきものはない。自分の過去以外に共感なんて出来はしない。
 だけど見届けなければと感じ、違和感に身を捩る。彼と自分とはずれている。別のものだ。乖離している。共有できない。
 胸をはることなんて出来ないし見せてもらって歪んで死にたくない、死にたくない。
 指先から崩れていく感触が重く辛く苦しく、行きつ戻りつまた大事なものを奪われて、ああ、ああ。
 加護が指先から離れていく。

 失ってから感情を以て築き上げてきた自分と、自ら捨てて尚拾い上げてきた彼と。果たしてどちらがよりまっすぐに歩けているだろうか、と小雷は夢想する。
 振り上げられた暴力が意味も理由も持たずに振り下ろされる様を見て、それを『自分』が行っていることを知覚して。
 これは自分が憎んだ存在とまるきり同じではないかと思い至る。それが全て悪ではないことは分かる。それを納得づくで彼の記憶に触れたのだろう。
 さざなみのように、形のなかった怒りが与えられた義務に染め上げられていくことも。
 その名前の意味も彼の得物に刻まれた意思も、成程再生していく人生に立ち会うという意味で、この上ない良識の下に手を伸ばしているのだ。
 怒りか義務感か、彼と自分との戦いの方向は違えど正義は同じもののハズで。
 歩いてきた道を振り返ることが酷く怖くて、その決意に踏み出すことが酷く場違いに思えて。
 小雷は、そこから、一歩も。

 行く宛なんてなかった。
 何かの一部であったころは、感じる事もなかった空虚な意識に困惑しかない。自分が組織そのものであり、それすら失ってから踏み出すことが酷く心許ない。
『みんな』と一緒だったから、きっと踏み出せたハズの一歩は、誰に従うでもなく誰に合わせるでもなく踏み出されたそれよりもずっと軽かったから。
 前に進むことを諦めなかった男の道を辿りながら、頭のなかで響く、共感と無償の愛を握りしめてずっと行ければいいと思った。
 アークに辿り着いた経緯も、ボトムの偶然性からたどり着くことが出来ただけの話で。導かれるように踏みしめた道がこんなにも広く果てしないものだとは思わなかった。
 ボトムの人間は強い。真っ向から立ち向かう戦い方ではなく、誰かを支える戦い方もあるんだと、この記憶が教えてくれた。
 拾い上げて、零すこと無く、手を伸ばして。……どちらの、手を伸ばせば届くだろうか。逡巡が泥のように時間を。

 辛い記憶だった。
 今そこにある少女は、過去得ることの出来なかった意思をフィードバックさせ、矛盾を己のものとして飲み込んでいる。
 音を立てて軋み、唸りを上げて突き出される思いの熱が富江を外から裡から焦がしていく。
 富江は笑っていた。涙を流しながら笑っていたのだ。
 嬉しかった。彼女は、他人にそれを託すことを一切の気の衒いもなく手渡してくれたのだ。信頼してくれたのだ。
 共有してあげることでより優しく、その子に合ったものを、帰ってから食べさせてあげることが出来るのだ。
 包み込んで支えよう、妹ができなかった分まで自分が成し遂げる。他人の過去も、自分の過去もないまぜにして前を向く彼女の思いに言葉は要らない。
 もっと、見せておくれ。
 可能性を過去で縛るなんて、許さないから。だから、絶対に――。

 慈母のように優しく、富江は倒れこんだエオストレを抱えた。背中を叩いて健闘を称えるのは、今はまだ早すぎた。
 小雷を背負ったユーグと、腥に肩を貸すカルラが、彼女と顔を見合わせる。
 向き合った過去の重みはそれぞれなれど。
 立ち向かう心の強さは一定では無く。
 ただ、もう少し。
 彼らの分まで強ければ、なんて傲慢に口元を歪めた。助けられなかった命とともに。

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
 お疲れ様でした。
 このような結果となりましたが、如何でしたでしょうか。
 自らの過去が誰かに見られる、というのも気になるでしょうが、やはり重要なのは『どう向き合うか』であり。
 誰に対して向き合うかよりはどんな意思で向き合うか。
 やはりどこまでも利己的に相対すことが重要だったんだと思います。
 結果としては、残念ながらもう一歩といったところ。
 また機会があれば、是非。